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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科62巻7号

2008年06月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・10

Q考えられる疾患は何か?

著者: 市川雅子

ページ範囲:P.435 - P.436

症例

【症例1】

患 者:52歳,女性

主 訴:両側下腿の掻痒のある多発性小結節と両手足の爪変形

家族歴:父親と叔父(4人兄弟のうち2名),叔父の長女,患者の長男と次男に,患者と同様の爪変形があるが,そのほかの皮疹はないという.血族結婚はなし.

現病歴:小児期から爪変形があり,10歳時に四肢に水疱が出現したことがある.初診の半年前より両下腿や肘頭に強い掻痒に続いて水疱やびらんが出現した後,小結節を形成するようになった.

現 症:左下腿に大豆大までの掻痒を伴う紅褐色の扁平小結節が多発し,数個の粟粒大の稗粒腫も混在している.肘頭にも同様の皮疹あり.両手足の爪変形あり.血液と尿検査では異常なし.

今月の症例

Netherton症候群の成人例

著者: 広瀬憲志 ,   大浦一 ,   武市浩美 ,   安齋眞一 ,   滝脇弘嗣 ,   荒瀬誠治 ,   佐川禎昭 ,   藤本篤夫

ページ範囲:P.438 - P.441

要約 28歳,男性.家族に血族結婚なし,Netherton症候群なし.身長153cm.生下時よりほぼ全身に紅斑があった.幼少期からステロイド軟膏外用により,皮疹は軽快・増悪を繰り返していた.初診時,顔面,特に口囲に強い紅斑があり,体幹・四肢では弧状および環状の紅斑がみられ,辺縁では典型的なdouble edgeの鱗屑を伴っていた.眉毛に竹節状裂毛・切断毛あり.末梢血では白血球数,IgEの上昇がみられた.病理組織学的には乾癬様皮膚炎,角質の剝離を認めた.免疫組織化学染色にて,健常人表皮では顆粒層にLEKTI蛋白の発現がみられたが,患者表皮では認められなかった.曲折線状魚鱗癬様紅斑,アトピー素因,竹節状裂毛,低身長などの特徴的な症状,免疫組織化学染色よりNetherton症候群と診断した.SPINK5遺伝子解析では,exon25にstop codonを導く変異を検出したが,もう一方のアレルでは不明であった.

症例報告

日本紅斑熱の1例

著者: 森志朋 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.443 - P.445

要約 58歳,男性.青森県下北郡での渓流釣りの後より,全身の発疹と発熱,倦怠感,関節痛が出現し,当科を受診した.初診時,左下腿に刺し口があり,血液検査で肝機能障害とCRPの上昇を認めた.ツツガムシ病と診断し,塩酸ミノサイクリン200mg/日の点滴と強力ネオミノファーゲンC(R)の静注を開始した.3日後には,いったん解熱し,発疹も消退傾向を示したが,その後,再度,発熱,倦怠感,発疹が出現した.患者血清を用いた間接蛍光抗体法では血清抗オリエンチアツツガムシ抗体価はすべて陰性であった.紅斑熱リケッチア抗体価は,IgM抗体,IgG抗体とも有意に上昇していた.以上より,千葉県以北では第1例目の日本紅斑熱と診断した.

新生児ヘルペスの1例

著者: 石田奈津子 ,   久原友江 ,   渡辺大輔 ,   玉田康彦 ,   松本義也 ,   北川好郎

ページ範囲:P.446 - P.448

要約 日齢11日,女児.生後2日目より頸部に水疱が出現し,顔,前胸部へ拡大した.水疱のTzanck試験にてウイルス性巨細胞を認め,新生児ヘルペスの疑いにて入院した.水疱ぬぐい液および髄液を用いてLAMP (loop-mediated isothermal amplification)法およびreal time PCRによるウイルスDNA検出を行った.その結果,HSV (herpes simplex virus)-1DNAは水疱内容より検出されたが,髄液からは検出されず,新生児ヘルペス表在型と迅速に診断し得た.アシクロビル点滴を開始したところ,痂皮化が進み,全身状態にも異常なく,12日間の点滴後退院した.

マダニ刺症の3例

著者: 川村哲也 ,   秦まき

ページ範囲:P.449 - P.452

要約 症例1:54歳,女性.天城湯ヶ島へ出かけ,翌日から紅色丘疹が多発した.皮疹の中心にはマダニの虫体が付着しており,周囲を含め摘出した.タカサゴキララマダニの幼虫と同定した.症例2:69歳,男性.自宅で草取り中,虫体を自覚した.左足関節に虫体1匹が付着し,周囲を含め摘出し,タカサゴキララマダニの若虫と同定した.症例3:69歳,男性.沼津市内で受傷した.右膝窩に虫体1匹が付着し,周囲を含め摘出し,タカサゴキララマダニの若虫と同定した.症例1,3では,組織学的に表皮内に口下片を認め,刺入部に一致して著明な浮腫と細胞浸潤がみられた.いずれの症例も塩酸ミノサイクリンの内服を行った.Borrelia burgdorferi抗体は症例1,3では陰性だった.マダニ刺症はリケッチアなどを媒介する可能性があるため,確実な虫体の摘出,および抗生剤の予防投与が重要と考えた.

Post-scabetic nodulesの2例―1例でリンパ腫との鑑別を要した

著者: 村山淳子 ,   谷口裕子 ,   滝野長平 ,   大滝倫子 ,   熊谷二朗

ページ範囲:P.453 - P.456

要約 症例1:46歳,男性.疥癬発症から8か月後の陰囊の結節で,真皮全層に稠密な細胞浸潤があり,浸潤細胞はリンパ球が主体で,一部に大型のもの,核分裂像を認めた.リンパ腫は免疫組織化学染色により否定された.症例2:58歳,男性.疥癬発症から3か月後の大腿の結節で,真皮浅層から皮下脂肪織にかけて,リンパ球,好酸球を主体とした楔形の細胞浸潤を認めた.結節の新旧による違いのため,病理組織像が異なるが,両者ともにpost-scabetic nodulesと診断した.また,症例1ではCD1a,S-100蛋白陽性細胞が真皮上層に多数浸潤していたが,疥癬治癒後の結節で認める特徴の1つである.疥癬治癒後の結節は,リンパ腫と鑑別しなければならない.

キクによるphotosensitive dermatosisの1例

著者: 樋口雅子 ,   徳田祥子 ,   安元慎一郎 ,   橋本隆

ページ範囲:P.457 - P.460

要約 79歳,男性.初診の3年前より展覧会出品用のキクを栽培していた.同時期頃より春から秋にかけて両手背や前額部,頸部の露出部に紅斑と丘疹が出現するようになり,当科を受診した.chronic actinic dermatitis (CAD)あるいはキクによる接触皮膚炎を疑い,パッチテストを行った.48時間クローズドパッチテストは陽性で,さらに光照射により反応が増強していたことから,キクによるphotosensitive dermatosisと診断した.経口トレランスの導入を目的としてキクの葉を生食したところ,4か月後頃より皮疹は軽快した.キクの葉の生食を始めてから8か月目に行ったパッチテスト,光パッチテストともに反応が減弱したことから,キクの葉による減感作療法が有効であったと考えた.以前より,CADではキク科植物に対するアレルギーをもっている例が多いとされている.

手術中の持続的圧迫により生じた外傷性横紋筋融解症の1例

著者: 西田睦美 ,   森安麻美 ,   井上和之 ,   花田圭司 ,   竹中秀也 ,   井上靖夫 ,   川邊拓也 ,   笹島浩泰 ,   岸本三郎

ページ範囲:P.462 - P.465

要約 45歳,男性.全身麻酔下に右下パークベンチ体位で約16時間の脳腫瘍摘出術を施行された.術後より,術中体位での圧迫部位に一致する右側胸部,右前腕,右踵外側に紅斑を認め,褥瘡と考えられた.臨床検査所見では,LDH,AST,CPKなど筋逸脱酵素の著明な上昇と,BUN,Cr,尿中ミオグロビンの高値を認めた.CT画像所見では,右体幹から臀部,大腿にかけてびまん性に筋肉の腫大と皮下脂肪織の浮腫性変化がみられ,広範な筋挫傷が疑われた.急性腎不全を伴う横紋筋融解症と診断し,透析と輸液療法を開始した.手術直後の皮膚症状は紅斑のみであり,発症時にはⅠ度の褥瘡と思われたが,表在性に損傷がみられないにもかかわらず,皮下で深在性の組織障害を伴っており,deep tissue injuryの概念に相当するものと考えた.

斑状強皮症を合併した全身性強皮症の1例

著者: 浅井大志 ,   小野寺英恵 ,   赤坂俊英 ,   二宮由香里

ページ範囲:P.466 - P.468

要約 47歳,女性.3年前より膝および肘より末梢の皮膚硬化と左大腿から下腿にかけての限局性斑状硬化局面がほぼ同時期に出現した.病理組織学的所見は,双方ともに膠原線維の増生とリンパ球の血管周囲性細胞浸潤を認め,自験例を全身性強皮症に斑状強皮症の合併と診断した.しかし,皮膚硬化の進行は比較的急速であること,爪上皮の内出血点を認めないこと,関節の屈曲拘縮を認めることなどより,自験例は全身性強皮症のdiffuse typeあるいはlimited typeのいずれに分類されるか苦慮した.自験例はdiffuse typeとlimited typeのいずれにも属さない,全身性強皮症に斑状強皮症を合併する全身性強皮症の一型の存在を支持する症例である.

紅皮症を呈した落葉状天疱瘡の1例

著者: 足立孝司 ,   吉田雄一 ,   山元修 ,   井奥郁雄

ページ範囲:P.469 - P.471

要約 63歳,女性.3か月前から背部に水疱,紅斑が出現し,次第に全身に拡大した.近医で治療を受けたが,自己判断で中断し,紅皮症状態となった.初診時,全身に鱗屑痂皮を伴う潮紅,両下肢にはびらんが散在し,Nikolsky現象陽性であった.病理組織学的に角層下に棘融解細胞を認め,蛍光抗体直接法で表皮細胞間にIgG,C3の沈着がみられた.血中抗デスモグレイン1抗体陽性,抗デスモグレイン3抗体陰性であり,落葉状天疱瘡と診断した.特徴的な所見として,血清亜鉛値の低下がみられた.プレドニゾロン40mg/日より治療を開始し,改善したため漸減したが,服薬コンプライアンス不良であり,症状は一進一退である.

腎症状の再燃とともに皮疹が出現したWegener肉芽腫症の1例

著者: 濱田和俊 ,   柴村有香 ,   杉山美紀子 ,   二宮淳也 ,   樋口道生 ,   末木博彦 ,   中山隆弘 ,   吉村吾志夫

ページ範囲:P.472 - P.475

要約 56歳,男性.2年前より上気道症状と肺症状が出現した.腎生検で壊死性半月体形成性腎炎が認められ,proteinase-3anti-neutrophil cytoplasmic antibody (PR-3ANCA)が高値であったことから,全身型Wegener肉芽腫と診断された.2回のステロイドミニパルス療法,免疫グロブリン大量療法,プレドニゾロンとシクロホスファミドの内服療法により寛解導入され,その後,維持療法が行われていた.2年間,皮膚症状はなかったが,PR-3ANCAの再上昇に引き続いて腎症状が再燃し,関節痛とともに両下肢に浸潤を伴う紫斑が多発した.組織は壊死性血管炎であった.プレドニゾロンとシクロホスファミドにより再度,寛解導入療法を施行し,紫斑は軽快したが,腎症状のコントロールに難渋した.

多数の稗粒腫を伴ったmyeloma-associated systemic amyloidosisの1例

著者: 新田悠紀子 ,   大野稔之 ,   森谷鈴子 ,   大橋春彦

ページ範囲:P.476 - P.479

要約 77歳,男性.内・外眼角に易出血性蝋様を呈した淡紅色丘疹,頸部には稗粒腫の多発した紫斑局面あり.頸部皮膚生検にてAL型アミロイドの沈着と稗粒腫を認め,電顕的検索でアミロイド線維を確認した.骨髄穿刺にて異型形質細胞の増加,Bence Jones蛋白λ型M蛋白を認めたが,骨病変は明らかではなかった.多発性骨髄腫を伴った全身性アミロイドーシスと診断した.プレドニゾロンとメルファランで治療したが,1年後に突然の下血をきたし,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)を併発し,死亡した.

Nanta骨母斑の6例

著者: 井上織部 ,   杉本恭子

ページ範囲:P.480 - P.483

要約 症例1:68歳,女性.右頰部の紅色丘疹を伴う褐色から正常皮膚色小結節.症例2:49歳,男性.左眉毛部の黒色有毛性小結節.症例3:36歳,女性.右耳前部の黒色小結節.症例4:66歳,女性.左頰部の正常皮膚色小結節.症例5:49歳,女性.左頰部の黒色小結節.症例6:57歳,女性.右頰部の褐色小結節.症例1,3~6は真皮内母斑,症例2は複合母斑で,それぞれ近傍に異所性骨組織がみられたため,Nanta骨母斑と診断した.本症の発症機序には炎症が関与すると考えられている.症例1,2,5では病理組織学的に毛囊や表皮囊腫様構造周囲の炎症細胞浸潤が確認され,症例3では病理組織学的には炎症所見はなかったが,時折出血を繰り返す既往があった.しかし,症例4,6では臨床的にも病理組織学的にも炎症の存在はなかった.

 筆者らが5年4か月で経験した母斑細胞母斑は108個で,Nanta骨母斑は上記6個(5.6%)であった.特に顔面では10%に骨形成を合併した.本症は標本作製時に組織が損傷することが多く,より詳細な観察により,さらに頻度は増加すると推定される.

中枢神経症状を欠き皮膚症状から診断した結節性硬化症の1例

著者: 蘇原しのぶ ,   籏持淳 ,   宮本由香里 ,   濱崎洋一郎 ,   山﨑雙次

ページ範囲:P.484 - P.486

要約 11歳,男児.家族歴に特記すべきことはない.出生時より前額部・前腕・腰部に葉状の脱色素斑がある.6歳時,頰部から額部の多発性丘疹を指摘された.初診時(11歳),両頰部から下顎部にかけて米粒大までの半球状隆起する淡紅色の丘疹を多数,腰部から臀部にかけて常色から淡紅色の貨幣大までのshagreen patchに相当する局面状皮疹が散在してみられた.また,前額,前腕,腰部,臍窩部には葉状の脱色素斑が認められた.顔面の発疹は,組織学的には真皮上層に膠原線維の増生と拡張した毛細血管を多数認めた.てんかん・精神遅滞は伴わないものの,大脳皮質および脳質上衣下の結節が認められた.現在外来で経過観察中である.

神経線維腫症1型に合併した悪性末梢神経鞘腫瘍の姉弟例

著者: 石川めぐみ ,   安藤典子 ,   岩本拓 ,   原田和俊 ,   古橋正男 ,   川村龍吉 ,   柴垣直孝 ,   佐藤栄一 ,   村田晋一 ,   島田眞路

ページ範囲:P.487 - P.489

要約 症例1:68歳,男性.神経線維腫症1型.症例2の弟.2001年と2003年,左上腕に皮下腫瘤が出現し,病理組織学的所見より神経線維腫と診断された.2005年,同部位に皮下腫瘍が出現し,病理組織学的所見より悪性像を伴う神経鞘腫が疑われた.2006年,受診の約1か月前より同部位に皮下腫瘤が出現,病理組織にて異型性のある紡錘形細胞の増殖を認め,悪性末梢神経鞘腫瘍と診断した.症例2:76歳,女性.神経線維腫症1型.症例1の姉.後頸部に皮下腫瘤が出現し徐々に増大したが,放置していた.初診時,約13cm大で弾性硬の皮下腫瘤を認め,切除術を施行した.病理組織学的に,症例1と同様に悪性末梢神経鞘腫瘍と診断した.神経線維腫症1型で悪性末梢神経鞘腫瘍が合併することはよく知られているが,本邦において姉弟例の報告はない.

線維硬化性毛包上皮腫(desmoplastic trichoepithelioma)の1例―単発性毛包上皮腫との比較検討

著者: 太田深雪 ,   政次朝子 ,   樋上敦 ,   酒井利恵 ,   堀口裕治

ページ範囲:P.490 - P.493

要約 65歳,男性.数年前から右下眼瞼に自覚症状のない小さな結節が生じ,徐々に増大してきた.単純切除術を行ったところ,病理組織学的には表皮囊腫構造と索状の配列を示す腫瘍の胞巣であった.一部の腫瘍巣では,腫瘍細胞は脂腺細胞のように明るい胞体をもち,また,管腔構造をもつ腫瘍巣もみられた.腫瘍巣間には成熟した膠原線維が充満し,一部ヒアリン化もみられた.線維硬化性毛包上皮腫と診断し,通常の毛包上皮腫と免疫組織化学的に比較したところ,CD34強陽性の線維芽細胞が腫瘍巣を直接取り囲むように配列していた.腫瘍巣直近の間質が陰性であった単発性毛包上皮腫とは明らかに異なっていた.この所見はエクリン汗腺に類似したものであった.

Liposomal doxorubicinが有効であったAIDS関連型皮膚Kaposi肉腫の3例

著者: 永井彩子 ,   齋藤万寿吉 ,   入澤亮吉 ,   泉美貴 ,   大滝学 ,   福武勝幸 ,   坪井良治

ページ範囲:P.494 - P.497

要約 2000~2005年までに東京医科大学病院においてliposomal doxorubicin(Doxil(R))を用いて治療したacquired immune deficiency syndrome(AIDS)関連型Kaposi肉腫(Kaposi's sarcoma:KS)3例について報告した.3症例はすべて男性で,1例はKS発症後にAIDSの診断に至り,2例はAIDS発症後にKSが出現した.発症時CD4陽性細胞数は3例とも150/μl以下であった.免疫組織化学的に腫瘍細胞はCD31,CD34,D2-40に陽性であり,human herpesvirus(HHV)-8の潜伏感染蛋白LANA(latency associated nuclear antigen)は腫瘍細胞の核で点状に染色された.AIDSに対する多剤併用抗レトロウイルス療法(highly active antiretroviral therapy:HAART)に追加して,KSに対しては3例ともliposomal doxorubicinを20mg/m2,3~4週間の間隔をあけて投与した.10~23か月後,KSは消失し,再燃を認めていない.近年,HAARTによりHIV感染者の予後は著しく改善し,liposomal doxorubicinの併用によりAIDS関連型KSの予後も著しく改善した.

足底に生じたchondroid syringomaの1例

著者: 林裕嘉 ,   星野洋良 ,   森布衣子 ,   木花いづみ ,   小林尚史

ページ範囲:P.498 - P.501

要約 73歳,男性.30年前より右足底中央に小結節が出現し,徐々に増大した.歩行時痛みを伴うようになり,当科を受診した.5.5×5.5×2.5cm,広茎性,常色,表面平滑で弾性やや硬の腫瘤で,病理組織学的に管腔構造,充実性増殖を示す腫瘍細胞と,ムチンの沈着や硝子化が顕著な豊富な間質部より構成されていた.充実性増殖を示し,上皮性腫瘍成分に富んでいたが,悪性像はみられず,chondroid syringomaと診断した.免疫組織学的所見より,エクリン汗腺分泌部から導管部由来が示唆された.本腫瘍の足底発生は稀であり,本邦では調べえた範囲で自験例を含め8例報告されており,そのほとんどが足底中央に生じ,組織学的に管腔構造が目立たない症例が多い傾向にあった.

von Recklinghausen病に合併した乳房Paget病の1例

著者: 武重陽子 ,   鈴木琢 ,   福田英嗣 ,   漆畑修 ,   向井秀樹 ,   大原関利章

ページ範囲:P.503 - P.505

要約 67歳,女性.初診の2か月前より右乳頭に掻痒を伴う紅斑が出現した.他院にて慢性湿疹としてステロイド外用薬で加療されたが改善せず,当科を受診した.数十年前にvon Recklinghausen病を指摘されている.初診時,全身に柔らかい紅褐色調の結節を多数認め,右乳頭・乳暈には掻痒を伴う境界明瞭な紅斑があった.病理組織学的に,表皮全層にわたりPaget細胞を認め,表皮の一部では棘融解像を呈し,乳房Paget病と診断し,胸筋温存乳房切除術後,右腋窩リンパ節の転移巣に対して化学療法を施行した.von Recklinghausen病は一般的に神経系腫瘍の合併頻度が高いが,上皮系悪性腫瘍の合併は比較的稀である.

左腋窩に限局した乳房外Paget病の1例

著者: 岡本崇 ,   椙山秀昭 ,   原田和俊 ,   川村龍吉 ,   柴垣直孝 ,   島田眞路

ページ範囲:P.506 - P.508

要約 80歳,女性.初診の10年前より左腋窩に鶏卵大の掻痒を伴わない紅斑局面を認めた.一部脱色素斑が混在し,ステロイド外用に反応がなかった.病理組織学的に表皮内に胞体の明るい大型のPaget細胞を認めた.腫瘍細胞はCEA染色,CAM5.2染色陽性を示し,乳房外Paget病と診断した.皮疹のない対側腋窩,外陰部の生検では腫瘍細胞は認めなかった.以上より,左腋窩に限局する乳房外Paget病と診断した.

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あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.512 - P.512

 会頭として第107回日本皮膚科学会総会(京都)を開催させていただきました.新しい総会になり5年目でしたが,今回から日本研究皮膚科学会が別開催となり,3日間の単独開催になりました.参加者がどれほどになるかと不安でしたが,結果は4,000名を超え,一般演題も381題と多数をいただき,とても盛会になりました.現総会が教育講演コースを主体とする皮膚科医の教育学会として十分に認識され,また,その意義が定着してきたと感じます.懇親会では,新潟コシヒカリのおにぎりと村上牛ステーキがとても好評で,約2,000人分が売切れになり,新潟の各種の銘酒を揃えましたところ約100本(一升瓶)を飲んでいただきました.舞妓さんの踊りも素晴らしく,学会にこんな楽しみも大切だと思います.ところで,「教育」については,40の教育講演コースを設けましたが,それぞれのコースでまとまった密度の高い講演を聴くことができたと,多くの参加者からコメントを頂戴しました.各座長の巧みなオーガナイズと演者の方々の力の入ったご講演の賜物と思っております.さて今回,教育講演コースでは,聴講者に“One Minute Card”をコース開始時に配り,終了時に記入,提出してもらうという試みをしました.内容は,コースのアンケート5問と,コースによっては講演に関連した設問をさらに5問出題していただき,マークするものです.これは私が考案したもので,他の学会では例を見ないものですが,「教育」という意味ではとても重要なものと考えます.つまり,設問を出すと,一見試験をしているようですが,もし聴衆の多くが不正解であれば,設問が難解か,または講演内容が問題かもしれません.つまり,アンケートとともに学会への強烈なフィードバックになります.聴講の証明にもなり,一石二鳥です.教育では,学習者は目標に到達するために教育者の支援を受けて学習し,到達したか否かの評価を受けますが,評価は学習者の到達度判定のみでなく,目標,学習方略,教育者の支援などの妥当性の判断にも大切です.評価のない「教育」はありえず,進歩もないでしょう.現在,集計しているところで,まとまり次第,総会のHPで公表する予定です.われわれの皮膚科専門医制度は最先端だと自負してもよいでしょう.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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