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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科62巻8号

2008年07月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・11

Q考えられる疾患は何か?

著者: 芝木晃彦

ページ範囲:P.519 - P.520

症例

患 者:74歳,女性

主 訴:躯幹,四肢の痛がゆい皮疹

既往歴:胃十二指腸潰瘍

家族歴:特記すべきことはない.

現病歴:特に誘因なく右足首に痛がゆい皮疹が出現し,次第に四肢,躯幹へ拡大した.

近医にて抗ヒスタミン薬内服,ステロイド外用による治療を受けたが拡大傾向を認めたため,当科を受診した.

現 症:躯幹,四肢,特に下腿から足首にかけて,直径2~15mm大の淡紅色から橙色の緊満性水疱を認めた.水疱の周囲には淡紅色の浮腫性紅斑を伴っていた.

今月の症例

環状紅斑を呈したVater乳頭部癌の皮膚転移例

著者: 森澤有希 ,   藤本典宏 ,   小林孝志 ,   多島新吾 ,   杉浦芳章

ページ範囲:P.523 - P.525

要約 52歳,男性.2004年12月にVater乳頭部癌に対し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行された.2005年10月頃より腹部手術創の周囲に紅斑が出現したが,放置していた.2005年11月,全身の多発性骨転移のため,放射線化学療法施行目的で入院した.外科入院中に腹部の紅斑の色調が濃くなってきたことを主訴に,2005年12月当科を初診した.初診時,腹部手術創周囲に大小不同の浸潤のない環状紅斑が散在していた.病理組織では,真皮脈管内に腫瘍細胞浸潤がみられ,管状に増殖(moderately differentiated tubular adenocarcinoma:tub2)しており,Vater乳頭部癌の皮膚転移と診断した.皮疹は,放射線化学療法施行中に改善傾向を示し,2006年1月の当科再診時には消退していたが,同年6月に永眠した.環状紅斑を呈した皮膚転移は比較的稀である.

症例報告

基底細胞癌と有棘細胞癌を生じた色素性乾皮症バリアントの1例

著者: 中井大介 ,   中村直美 ,   井上和之 ,   益田浩司 ,   竹中秀也 ,   加藤則人 ,   岸本三郎 ,   森脇真一

ページ範囲:P.527 - P.529

要約 69歳,女性.20歳頃より,次第に顔面,体幹,四肢に褐色色素斑が増加してきた.初診の1年前より,下口唇および鼻背部にびらんを伴う結節を認め,次第に隆起してきたため当科を紹介された.生検の結果,それぞれ有棘細胞癌,基底細胞癌と診断し,切除術を施行した.MED(最少紅斑量),不定期DNA合成能の低下はなく,紫外線感受性テストにて軽度高感受性(カフェイン添加で増強)であり,色素性乾皮症バリアントと診断した.

G-CSF投与中のBasedow病患者に生じたSweet病の1例

著者: 高崎真理子 ,   福井利光 ,   渡辺大輔 ,   玉田康彦 ,   松本義也

ページ範囲:P.530 - P.532

要約 64歳,女性.30歳ごろBasedow病と診断されている.2005年1月20日より症状増悪のためプロピルチオウラシル(PTU)の内服を開始したところ,薬剤性の無顆粒球症を合併したため,2月15日当院内分泌内科に入院した.入院後G-CSFの投与を開始したところ,2月21日より顆粒球の増加に伴い,頭部,頸部,胸部に水疱が出現した.水疱は両下腿にまで拡大し,口腔内にもびらんが出現した.頸部の水疱の皮膚生検では,表皮の細胞間浮腫と真皮浅層から中層にかけて密な好中球の浸潤と核破砕像を認め,Sweet病と診断した.G-CSFの投与を中止し,ステロイドの内服にて皮疹は色素沈着を残し消失した.

Wegener肉芽腫症との鑑別を要したPR3-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎の1例

著者: 馬場ひろみ ,   永森克志 ,   佐々木一 ,   萩原正則 ,   本田まりこ ,   中川秀己

ページ範囲:P.533 - P.536

要約 68歳,男性. 2006年8月中旬より両側の耳痛および難聴が出現し,滲出性中耳炎と診断された.9月頃より四肢のしびれを自覚し,整形外科を受診したが軽快せず,10月中旬頃より発熱および左下腿の紫斑,左足第1趾の発赤,腫脹が出現した.病理組織検査で毛細血管から中動脈に肉芽腫を伴わない壊死性血管炎を認め,PR3-ANCA陽性,腎生検にて壊死性半月体形成性腎炎を認めた.ステロイドパルス療法を施行し,PR3-ANCAの低下と腎炎の改善を認めた.自験例ではWegener肉芽腫症および顕微鏡的多発血管炎との鑑別を要したが,最終的に顕微鏡的多発血管炎と診断した.

扁平苔癬様皮疹を生じたdrug-induced hypersensitivity syndrome (DIHS)の1例

著者: 北川敬之 ,   水野みどり ,   中村保夫 ,   西村啓介

ページ範囲:P.537 - P.540

要約 79歳,女性.高尿酸血症のためアロプリノールを内服約1か月後,発熱を伴う全身性紅斑が出現した.入院時,顔面の腫脹と口囲の小膿疱もみられ,検査では白血球増多,肝障害,腎障害を認めた.組織学的には,軽度の液状変性と真皮の血管周囲にリンパ球,好酸球の浸潤がみられた.全内服薬を中止し,プレドニゾロン(PSL)60mg/日を投与した.約3週間後,PSLを20mg/日に漸減時,皮疹の再燃を認めた.再燃した皮疹は,角化を伴う扁平苔癬様皮疹となり,免疫染色で真皮,表皮のCD8陽性細胞の増加がみられ,ベタメサゾン4mg/日の投与で徐々に軽快したが,治癒までに約6か月を要した.HHV-6IgG抗体価は,発症1か月後40倍,2か月後80倍と上昇し,発症3か月後のDLSTでは,アロプリノールのSI値が8.8となり,陽性と判定した.

乳幼児に生じた環状肉芽腫―汎発型および皮下型の各1例

著者: 三原清香 ,   渋沢弥生 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.541 - P.544

要約 症例1:1歳,女児.初診1か月前より両下肢,次いで上肢,臀部に皮疹が出現した.小指大までの扁平隆起する結節が多発し,一部は環状を呈していた.病理組織学的所見で真皮内に変性・断裂した膠原線維と周囲の炎症細胞浸潤がみられ,肉芽腫病変が散在しており,汎発型環状肉芽腫と診断した.症例2:5歳,男児.初診2年前より左足背に皮疹が出現した.くるみ大ほどの不整形,辺縁が隆起する紅斑があり,同部に米粒大ほどの皮下結節を数個触知した.病理組織学的所見では真皮中層~脂肪織にかけて肉芽腫病変がみられ,定型疹を伴う皮下型環状肉芽腫(GA)と診断した.いずれも生検後に皮疹は消退傾向を示した.本邦報告例を検討したところ,小児のGAでは,糖尿病などの合併症はなく,非定型疹を呈する例が多いため,確定診断には生検が必要である.また,94%の症例において生検後,無治療で消退,軽快しており,経過観察が有用と考える.

上下口唇に次々と有棘細胞癌が生じた円板状エリテマトーデスの1例

著者: 伊藤亜希子 ,   石川一志 ,   甲斐宜貴 ,   岡本修 ,   片桐一元 ,   藤原作平 ,   加藤愛子 ,   種子田紘子 ,   清水史明 ,   澁谷博美 ,   佐藤治明

ページ範囲:P.545 - P.548

要約 60歳,男性.1989年頃より顔面,耳介,両上肢に軽度の掻痒を伴う紅色皮疹が出現し,徐々に拡大し,円板状エリテマトーデス(DLE)と診断された.2002年に右下口唇に腫瘤が出現し,増大傾向を示した.生検の結果,有棘細胞癌(SCC)の診断で腫瘍切除術と皮弁再建術を受けた.リンパ節転移はなかった.2004年に左上下口唇に新たな腫瘤形成を認め,いずれもSCCと診断され,腫瘍切除術,リンパ節郭清と再建術を施行された.リンパ節転移はなかった.その後2006年2月,10月,12月の3回それぞれ左下口唇,上口唇正中,左上口唇の隆起性局面を外来で切除され,そのつどSCCと診断された.DLEから発生したSCCについて,本邦および外国からの報告例を集計した.

脂肪織炎で発症した皮膚筋炎の1例

著者: 安藤佐土美 ,   秋山真志 ,   大田光仁 ,   清水宏

ページ範囲:P.549 - P.551

要約 68歳,女性.初診の3か月前に右臀部に紅斑が生じ,次第に拡大した.初診時,右臀部に20×20cmの,圧痛を有し,強い浸潤を触れる紅色局面を認めた.病理組織学的には広範な皮下脂肪織炎と膜囊胞性変化であった.間質性肺炎の合併はなく,精査にて皮膚筋炎と診断し,プレドニゾロン1mg/kg/日内服による治療を開始し,脂肪織炎,筋炎ともに改善した.皮膚筋炎では,比較的稀ではあるが,脂肪織炎を初発症状として生じ,単発性病変例は,治療抵抗性であることが多いが,本症例は初期治療によく反応した.

Cytophagic histiocytic panniculitisの1例

著者: 楠瀬智子 ,   石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.552 - P.555

要約 23歳,女性.2000年頃より大腿に硬結を触れる紅斑が出現し,近医にてWeber-Christian病が疑われ,増悪時にプレドニゾロン(PSL)10~15mg/日,1週間程度の投与で軽快していた.2005年3月中旬頃より皮疹が再燃,増悪し,治療が再開されたが,PSL5mg/日以下への減量が困難であった.当科を紹介受診時,両下腿や右大腿に硬結,浸潤を伴う紅斑が多発し,38℃台の発熱,貧血を伴っていた.病理組織像では,脂肪織小葉間に異型性のないリンパ球と組織球の炎症性細胞浸潤を認め,bean-bag cellを多数混じていた.免疫組織化学染色では浸潤しているリンパ球はCD3,CD8,UCHL-1陽性,CD4,CD79a陰性であり,cytotoxic T-cell優位であったが,細胞異型は乏しかった.cytophagic histiocytic panniculitisと診断し,PSL30mg/日~の増量で皮疹はいったん消退したが,2.5mg/日に減量後,再燃を認めている.subcutaneous panniculitis-like T cell lymphomaの初期像の可能性も考慮すべき症例と考えた.

交通外傷後の瘢痕上に生じたdystrophic calcinosis cutisの1例

著者: 竹田公信 ,   藤井俊樹 ,   田邉洋 ,   望月隆 ,   柳原誠

ページ範囲:P.557 - P.560

要約 80歳,男性.20歳時,左足に交通外傷を受傷した.その後,約50年間は特別な症状は認めなかったが,当科受診の10年前(70歳時)より左足背の受傷部に発赤,腫脹の出現,潰瘍形成が繰り返しみられるようになった.瘢痕部の病理組織所見で,変性した膠原線維に沿って顆粒状にカルシウムが沈着していた.局所麻酔下に瘢痕組織をカルシウム沈着物を含めて筋膜直上で切除し,人工真皮に置換後,分層植皮術を施行した.術後4年を経て潰瘍の再発を認めない.

妊娠に伴った片側性母斑性毛細血管拡張症の1例

著者: 小野紀子 ,   布袋祐子

ページ範囲:P.561 - P.563

要約 30歳,女性.妊娠28週の初産婦.妊娠高血圧症のため産科に入院中,左側顔面の皮疹を主訴に当科を受診した.初診時,左三叉神経1,2枝領域に血管拡張が多発し,以前よりみられた左上肢の紅斑も増加していた.左上腕の病理組織像では真皮浅層の毛細血管が拡張し,中央に内皮細胞の増殖を伴う毛細血管の増生を認めた.特異な皮疹の分布より,片側性母斑性毛細血管拡張症と診断した.出産2日後に皮疹はほぼ消退した.自験例を含め本邦報告例36例をまとめると,自験例のように妊娠を契機に発症,増悪した例は8例と比較的多かった.従来のようにエストロゲンと本症との関与が推測されたが,エストロゲンとの関連のない例も散見される.

左乳暈部に生じたclear cell acanthomaの1例

著者: 宇佐美奈央 ,   福田英嗣 ,   猿谷佳奈子 ,   工藤新也 ,   斉藤隆三 ,   漆畑修 ,   大原関利章 ,   高橋啓 ,   神田嘉弘 ,   向井秀樹

ページ範囲:P.564 - P.566

要約 30歳,男性.2年半前より左乳暈にかゆみを伴う皮疹が出現したが,ステロイド外用薬に反応しなかった.2006年1月の当科初診時,左乳暈周囲を半周性に取り囲む20×12mm大,褐色調の弾性軟の結節を認め,かゆみを伴っていた.表皮は表皮肥厚や錯角化があり,明るい細胞質を有するやや大型の有棘細胞が増殖し,これらの細胞に異型性はなかった.腫瘍細胞はPAS染色陽性で,ジアスターゼで消化された.以上より,clear cell acanthomaと診断した.本症は下肢,特に下腿に好発する良性の皮膚疾患であるが,しばしば乳暈部に生じることがある.自験例は,乳暈部に生じた男性例としては2例目と稀であるため,ここに報告する.

手掌に生じた表在型基底細胞癌の1例

著者: 井汲菜摘 ,   加藤理子 ,   稲冨徹 ,   小松威彦

ページ範囲:P.567 - P.570

要約 67歳,女性.2年前から特に誘因なく左手掌に皮疹が出現し,5×4mmの淡褐色斑を形成した.病理組織学的に表皮と連続性に腫瘍細胞が柵状配列を伴い真皮内へ増生し胞巣を形成しており,表在型基底細胞癌と診断した.当院での過去11年間の基底細胞癌76例のうち,手掌発生例は自験例のみであった.一方,全国統計を検討すると,基底細胞癌の発生が増加するなかで,頭頸部以外に発生する症例の頻度が相対的に上昇していた.その原因として,患者の意識向上と高齢化,およびそれに伴う変異原への長期曝露を考えた.

Desmoplastic malignant melanomaの1例

著者: 中川雄仁 ,   藤井弘子 ,   西村陽一

ページ範囲:P.571 - P.574

要約 88歳,女性.数年前より右頰の色素斑が徐々に大きくなり,半年前より同色素斑が隆起してきた.当院受診時,右頰に直径1.5cm大の黒色腫瘤を認めた.臨床所見およびダーモスコピー検査より悪性黒色腫を疑った.病理組織学的所見では,表皮には異型メラノサイトが増生し,真皮内に紡錘形細胞が充満していた.免疫組織学的検査では,S-100蛋白陽性,HMB-45およびMelan Aは一部陽性で,desmoplastic malignant melanoma (DMM)と確定診断した.DMMにおけるダーモスコピーやカラードプラ検査の所見,センチネルリンパ節生検について考察した.

手背に生じた皮膚型平滑筋肉腫の1例

著者: 尾野大洋 ,   大橋則夫 ,   関東裕美 ,   土谷一晃 ,   森田あや子 ,   渋谷和俊 ,   伊藤正俊

ページ範囲:P.576 - P.578

要約 34歳,男性.初診の約1年前に左手背部に皮疹が出現し,半年ほどは徐々に増大したが,その後は変化していない.初診時,左手背部に直径12mm,ドーム状に隆起した境界明瞭で弾性硬,下床との可動性のある淡紫色結節を認めた.全摘した標本の病理組織学的所見および免疫組織化学的所見から,皮膚型平滑筋肉腫と診断した.拡大切除,動脈皮弁術ならびに植皮術を施行した.術後1年を経過した時点では,再発はない.本症の手背発生例は稀であり,報告した.

Stewart-Treves 症候群の1例

著者: 向久保寿恵 ,   石黒直子 ,   水嶋淳一 ,   川島眞 ,   下田勝巳

ページ範囲:P.579 - P.581

要約 74歳,女性.既往歴に右乳癌,左腎癌あり.20年前に右乳癌に対し右乳房切除術,右腋窩リンパ節郭清術を施行し,術後より右上肢のリンパ浮腫を認めていた.2004年6月より右上腕に結節が出現し,他院での皮膚生検にて血管肉腫と診断され,精査・加療目的にて同年10月に当科を紹介され入院した.精査にて右甲状腺乳頭癌の合併を確認したが,血管肉腫の転移像は認めず,11月16日よりドセタキセル(タキソテール ®)のweekly 療法を1クール施行した.しかし,その後も腫瘍は増大し,12月中旬に貧血が進行し,翌年1月にはDICを併発し,永眠した.Stewart-Treves症候群では高率に第3の悪性腫瘍を合併することが知られているが,自験例でも種々の悪性腫瘍の発生を認めており,遺伝的因子や免疫学的因子の関与が推察された.

ニューキノロン系抗菌薬が奏効したMycobacterium fortuitum皮膚感染症の1例

著者: 小平知子 ,   原弘之 ,   木下祐介 ,   照井正

ページ範囲:P.582 - P.584

要約 23歳,女性.初診の約4か月前に背部左側の圧痛を伴う硬結に気付き,徐々に増大した.皮疹出現前に3日間連続2時間程度,公園の地面に寝そべって日光浴をした.初診時,背部左側に8×7cmの波動を触れる弾性軟の皮下硬結を認めた.体表エコーで硬結部は低吸収域を呈した.ツ反弱陽性,血液検査で免疫異常はなかった.皮膚切開で黄色の膿を排出し,塗抹標本では菌体は認められなかった.小川培地培養で迅速発育の非結核性抗酸菌を検出した.菌はDNA-DNA hybridization法でMycobacterium fortuitumと同定された.レボフロキサシン内服が奏効した.

高齢者の顔面の巨大有棘細胞癌の病巣に生じたハエ幼虫症の1例

著者: 佐藤まどか

ページ範囲:P.585 - P.588

要約 95歳,女性.左頰部の腫瘍にヒロズキンバエによるハエ幼虫症を生じた.腫瘍は病理組織学的には有棘細胞癌であった.ハエ幼虫を取り除いた後,いったん関連の老人保健施設に移動したが,肺炎を併発し,すぐに再入院した.老人保健施設では腫瘍の処置が困難とのことで,肺炎が軽快後も当院で入院加療を継続した.顔面の腫瘍は本人の搔破行為もあり,易出血性のため,出血を姑息的にコントロールするためにMohs' pasteを使用したが,腫瘍自体は徐々に増大し,7か月後に死亡した.

急速に拡大した壊疽性膿皮症の1例

著者: 大東淳子 ,   井口愛 ,   臼井智彦 ,   浅井純 ,   益田浩司 ,   竹中秀也 ,   加藤則人 ,   岸本三郎

ページ範囲:P.589 - P.592

要約 71歳,女性.初診の2週間前より,左大腿後面に紅色丘疹が出現し,徐々に潰瘍を形成した.他医にて抗生物質を投与されたが,潰瘍は増悪してきた.初診時,左大腿後面に直径5cmの周囲に血疱,浮腫を伴う穿掘性潰瘍を認めた.その後,潰瘍は急速に拡大し,受診6日後には直径18cmの筋膜に及ぶ潰瘍となったため,緊急入院した.初診時の細菌,真菌,抗酸菌の培養はすべて陰性であった.潰瘍部の病理組織像では,真皮全層から脂肪織にかけて好中球優位の炎症細胞浸潤を認めた.以上より,壊疽性膿皮症と診断し,プレドニゾロン40mg/日の内服を開始した.潰瘍はプレドニゾロン開始直後より,著明に改善傾向を示した.入院後の検査で,非特異的な炎症性腸炎がみられた.自験例のように急速に病変が拡大する例では,迅速に壊死性筋膜炎と鑑別し,副腎皮質ステロイド薬を早期より投与することが重要であると考えた.

印象記

第107回日本皮膚科学会総会 印象記

著者: 師井洋一

ページ範囲:P.594 - P.596

 平成20年春,第107回日本皮膚科学会総会は再び,国立京都国際会館で開催された.昨年までのDermatology Weekは発展的に解消され,久々に総会単独での開催となった.新潟大学 伊藤雅章教授会頭の意向でさまざまな新企画が取り込まれ,また天候にも恵まれた総会になった.

 初日は,伊藤会頭のご挨拶の後,新潟大学 五十嵐道弘教授の特別講演で幕を開けた.細胞内輸送機関についての興味深いお話を堪能した.続いて,福島医大 金子史男名誉教授による「ここまでわかったベーチェット病」の講演を拝聴した.金子先生のライフワークであるベーチェット病について,最近のトピックスを交えながら,長年の研究の成果を発表された.われわれも臨床の場で治療に難渋するケースも多く,初期であれば抗生物質が有効であるなど,明日からの診療にも役立つお話であった.

書評

―著:茨木 保―まんが 医学の歴史

著者: 山田貴敏

ページ範囲:P.555 - P.555

 天は二物を与えずとはよく言いますが,この『まんが医学の歴史』の著者,茨木保という人,その範疇にはないようです.

 そもそも医者になる人間は,私が考えるにそれだけで選ばれた人間だと思うのですが,この人,漫画まで描いちゃう.

―編:酒井成身―美容外科基本手術─適応と術式

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.574 - P.574

 日本では何科のレジデントになるのも自由であるし,専門医とそうでない医師との区別は実質的にはない.そのため産科や小児科の医師は減少し続け,逆に皮膚科およびその標榜医は増加している.このような状況になると,従来の皮膚科診療では生き残れない皮膚科医が,美容皮膚科をめざすようになる可能性が高い.そして現実には,すでに非皮膚科医が美容皮膚科に参入し,非皮膚科専門医による美容皮膚科が急増している.美容皮膚科をめざす医師は,当然のことながら美容外科の手術手技やその適応を知らなければ,美容目的で受診する患者さんに適切な指導やアドバイスをすることができないし,その内容を理解していなければ,美容皮膚科の分野で生き残ることは難しい.

 このたび南江堂から出版された本書は,美容外科における基本手術が網羅されており,美容外科をめざす人はもちろん,美容皮膚科に関心がある人にも必見の本である.とにかく皮膚の解剖から,解剖所見に基づいた手術手技がきれいな写真とともに示されており,外科手術の経験が少ない医師にも非常にわかりやすく記載されている.そのため美容外科手術の種類や難易度,その結果を誰でも知ることができる.今後,美容目的で来院する患者や美容外科に関心がある患者を診察する機会は,増えることはあっても減ることはない.このような患者に適切なアドバイスや指導ができるようになることは,これからの皮膚科医の責務であると同時に,重要なセールスポイントにもなる.

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あとがき

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.600 - P.600

 近年の医学の進歩に貢献したベストテンの中にEvidence Based Medicine(EBM)がある.EBMは,単に動物実験より類推された論理や権威者の意見に左右されることを回避し,知りうるかぎりの疫学などの研究成果や実証的・実用的な根拠を用いて,効果的で質の高い患者中心の医療を実践するための手段である.そのためには質の高い情報収集がその鍵を握り,その結果として治験論文が注目をあびるようになった.しかし,ここに大きな落とし穴がある.つまり,確かにランダム化比較試験かもしれないが,二重盲検比較試験でない治験も多くある.特にわが国の治験はactive placeboとの比較試験であるため,外用薬の場合は二重盲検比較試験にならず,単盲検である.また,ダブルダミーが可能な内服薬でも二重盲検となっていないものもある.こうなるとデータを恣意的に操作することが可能になってしまう.そのため,その治験が良心に基づいて行われていない場合は,大きな問題を生ずることになる.そこで米国では,治験医師は利益相反(conflict of interest)を公表する義務があり,その論文がメーカー主導で行われているかどうかの判断材料を読者に提供している.さらに情報収集の網からもれることを防ぐために,メーカーに不利な治験結果が出た場合も,米国では公表しなければならない.ところがわが国ではこのような仕組みはまだ整っておらず,ようやく本誌でも利益相反を記載するようになったばかりである.そして最も問題なことは,多くの治験論文は,治験結果の根幹となる診断は正しく,評価も正確に行われていることを前提にしていることである.診断や評価の誤差が大きいと,どんな薬剤も比較試験で有意差がつかなくなる可能性が高くなる.有意差がない場合,両者が同じだとは限らず,診断や評価の誤差が大きかった可能性を排除できないからである.したがって米国では,placeboとの比較試験で有意差があった薬剤だけが認可される.

 確かにEBMはわれわれに多大な恩恵をもたらしているが,論文の質を評価する際には,その前提となる診断や評価法などを細かく吟味すべき時代になっているのかもしれない.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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