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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科63巻11号

2009年10月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・26

Q考えられる疾患は何か?

著者: 石河晃

ページ範囲:P.801 - P.802

症例

患 者:46歳,男性

主 訴:体幹部の皮疹

既往歴:糖尿病,高血圧

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診1年前の7月頃より体幹に皮疹が出現した.近医にて加療されるも軽快せず,1~2か月前よりそう痒が増強したため,当科を受診した.

現 症:胸部・背部の正中部を中心に,左右対称性に米粒大までの褐色の角化性丘疹が多発し,融合していた(図1a,b).口腔粘膜,爪甲,掌蹠には異常を認めなかった.

症例報告

皮膚Rosai-Dorfman病の1例

著者: 濱坂英里香 ,   佐藤英嗣 ,   伊藤幹 ,   中橋佳子 ,   菊池慶介 ,   木村鉄宣

ページ範囲:P.804 - P.806

要約 56歳,男性.右頸部の自覚症状を伴わない結節を主訴に受診した.ケラトアカントーマ,脂漏性角化症,皮膚付属器腫瘍などを考えて切除した.病理組織学的所見では,真皮に核小体の目立つ類円形核と豊富な淡好酸性から泡沫状胞体を有する組織球様細胞がびまん性に浸潤しており,高度のリンパ球,好酸球浸潤を伴っていた.また,随所に炎症細胞の組織球様細胞胞体内への取り込み(emperipolesis)があった.免疫組織化学染色では,腫瘍細胞はS100蛋白とCD68が陽性で,CD1aは陰性であった.これらの所見と,両側頸部リンパ節腫脹などの全身症状がないことから,皮膚Rosai-Dorfman病と診断した.

ペグインターフェロン,リバビリン併用療法による固定薬疹の1例

著者: 時田智子 ,   塚原智典 ,   笹生俊一 ,   小野寺英恵 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.808 - P.811

要約 57歳,女性.2008年2月よりC型慢性肝炎に対し,ペグインターフェロンα-2b(PEG-IFNα-2b)(ペグイントロン®)とリバビリン(レベトール®)の併用皮下注射を開始した.注射数時間後に,顔面に類円形の境界不明瞭な紅斑の出現を繰り返していた.同様の紅斑は注射部位にも認めた.PEG-IFNα-2b(ペグイントロン®),リバビリン(レベトール®)のパッチテストを行うにあたり,皮疹部位である顔面では同意が得られず,背部で施行したが陰性であった.しかし,注射部位に繰り返し皮疹を生じ,また,組織学的に表皮の海綿状態,液状変性と真皮のリンパ球浸潤,毛包周囲のリンパ球および好中球浸潤を認めた.これらの所見から,PEG-IFNα-2bあるいはリバビリンのいずれかによる固定薬疹が発症したと考えた.

帯状疱疹後に発症した薬剤性過敏症症候群の1例

著者: 堀江千穂 ,   稲岡峰幸 ,   井上桐子 ,   平原和久 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.812 - P.816

要約 55歳,女性.2007年9月14日近医にて左大腿の帯状疱疹と診断され,9月18日より同部の疼痛に対し,カルバマゼピンが投与された.約1か月後,肝障害が出現したため投与中止し,その4日後から発熱とともに,ほぼ全身に紅色丘疹・紅斑を生じた.病理組織所見では,真皮浅層の血管周囲性に,リンパ球に加え著明な好酸球と好中球の浸潤を認めた.肝・腎機能障害,好酸球増多,異型リンパ球があり,発症約2週間後に全血中からHHV6・HHV7-DNAが検出された.カルバマゼピンの薬剤リンパ球刺激試験は,発症約1か月後には429%と高値を示した.上記よりカルバマゼピンによるDIHSと診断し,保存的治療のみを行ったが,皮疹は3峰性の経過をとり,治癒までに約1か月を要した.DIHS発症前にもヘルペスウイルスの再活性化を生じている症例が散見されるが,水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化がDIHS発症の誘因となっている可能性について考察した.

帯状疱疹罹患部位より発症し肉芽腫反応を認めた薬剤性過敏症症候群の1例

著者: 稲岡峰幸 ,   堀江千穂 ,   井上桐子 ,   平原和久 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.817 - P.820

要約 69歳,女性.左上肢の帯状疱疹後神経痛に対して開始されたカルバマゼピン内服約3か月後に,左上肢に紅斑と発熱が出現した.受診時,ほぼ全身に貨幣大までの紫紅色斑が多発し,帯状疱疹部位の左上肢では紅斑は増強し,腋窩リンパ節は腫脹していた.腹部の紅斑では,真皮上層から下層に組織球の密な浸潤からなる肉芽腫様の変化を認めた.軽度の肝機能障害と末梢血好酸球およびHHV6 IgGの増加を認め,薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)と診断した.カルバマゼピンの中止と補液のみで皮疹は軽快した.帯状疱疹後に肉芽腫を形成した例は国内外で報告されているが,自験例は帯状疱疹部以外のDIHSの病変部に肉芽腫を生じていた点が特異であった.DIHSの際に,水痘-帯状疱疹ウイルス(VZV)に対する一過性の肉芽腫反応が生じたと考えられた.

ブルーライトによるphotodynamic therapyが奏効した集簇性痤瘡の1例

著者: 洞口由香 ,   荻野倫子 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.821 - P.824

要約 20歳,男性.ほかの治療が無効で,疼痛を有するなど,炎症が著しい顔面の難治性痤瘡に対し,ブルーライトの照射によるPDT療法を行った.その結果,照射率90mW/cm2,1回計30分照射,週1~2回の治療を行い,照射15回後には皮疹の炎症が治まるとともに,すべての皮疹が色素沈着,瘢痕のみとなった.さらに,測定した皮膚表面ポルフィリンスポット数も著明に減少した.ブルーライトによるPDT療法は,重症痤瘡に適切な治療法であると考えられた.

メサラジン注腸が著効した妊婦の壊疽性膿皮症の1例

著者: 日比野美智子 ,   森田有紀子 ,   清水真 ,   富田靖

ページ範囲:P.825 - P.828

要約 32歳,女性.29歳時に直腸炎型潰瘍性大腸炎を発症し,サラゾスルファピリジン3,000mg/日内服にて緩解していた.しかし,妊娠8週時に潰瘍性大腸炎の再燃とともに,顔面,四肢に壊疽性膿皮症を発症した.ステロイド内服を勧めたが,本人が内服を拒否した.ステロイド外用のみで治療したが,壊疽性膿皮症が悪化し,ステロイド内服の代替療法としてメサラジン注腸を施行した.注腸開始10日目から皮疹は改善しはじめ,7週後にはすべて上皮化した.ステロイド忌避のために代替療法として行ったメサラジン注腸が著効したと考えられた.

Eruptive collagenomaの1例

著者: 稲束有希子 ,   永田敬二 ,   波多野裕二

ページ範囲:P.829 - P.833

要約 42歳,男性.数年前より腹部に,米粒大から小豆大までの,常色で軽度隆起する弾性軟の丘疹,結節が多発してきた.自覚症状はなく放置していたが,同様の皮疹が背部や顔面から頸部にかけて徐々に出現したため,受診した.病理組織学的検査では,真皮全体に粗糙な膠原線維の増殖があり,elastica van Gieson染色,Masson trichrome染色では,膠原線維に対して弾性線維が相対的に減少していた.家族に同様の症状はみられず後天性に発症していることから,Uittoらの結合織母斑分類に基づき,eruptive collagenomaと診断した.Eruptive collagenomaの本邦報告例は12例と非常に稀な疾患である.

圧迫にて顎下腺導管開口部より自然排泄した唾石症の1例

著者: 岩阪浩志 ,   水野可魚 ,   岡本祐之

ページ範囲:P.834 - P.836

要約 75歳,女性.数か月前から舌下部に硬い結節を自覚していたが,放置していた.初診の3日前から同部に疼痛が出現したため,近医を受診し,フロモックス®とロキソニン®を処方されたが,腫脹と疼痛が増悪してきた.当科受診時,舌下部右側に約5×15mm大の表面が平滑で弾性やや硬の疼痛を伴う粘膜下結節を認めた.摘出術を予定したが,当科受診の3日後に患者が指で結節部を圧迫したところ,最大径5×3mm大の硬固物が19個排出された.自然排出した物質を赤外線分光分析により成分分析を行ったところ,主成分はリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトと蛋白質であり,これまでに報告されている唾石の成分に矛盾しないものであった.

Steatocystoma simplexの1例

著者: 平井伸幸 ,   菅原伸幸 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.837 - P.839

要約 80歳,男性.10年前より頭頂部に皮下結節が出現し,徐々に増大した.初診時,頭頂部中央よりやや右寄りに25×15mm大,被覆皮膚がわずかに淡褐色調を帯びた,弾性軟の皮下結節がみられた.粉瘤の臨床診断にて切除したところ,組織学的には皮脂腺を伴う重層扁平上皮からなる囊腫で,hyalinized cuticleがみられ,steatocystoma simplex(SCS)と診断した.本症はsteatocystoma multiplex(SCM)の単発型とされる比較的稀な腫瘍である.SCSとSCMの比較においては,単に単発型と多発型とする以上の差異を有する可能性が考えられた.

左乳房に生じた皮膚筋線維腫の1例

著者: 土屋佳奈 ,   明石玲 ,   林伸和 ,   川島眞

ページ範囲:P.841 - P.843

要約 46歳,女性.2002年に左乳房の2個の紅色結節に気づいた.色調,大きさに変化はないが,2006年10月頃よりそう痒感が出現した.同部に外傷の既往はない.初診時,左乳房内側に35×18mm大,その上方に径3mm大の弾性硬の下床と可動性のある紅色結節を認めた.下方の結節の生検病理組織像では,腫瘍は真皮内に存在し,被膜を有さず,束状に錯綜した線維芽細胞様細胞より構成されていた.免疫組織化学的にα平滑筋アクチン,ビメンチンが陽性,CD34,S100蛋白,デスミン,XIII因子が陰性であった.核の異型や大小不同は認めなかった.以上より,本例を皮膚筋線維腫と診断した.本腫瘍とケロイドや肥厚性瘢痕との異同について考察した.

有茎性,色素性有棘細胞癌の1例

著者: 浜重純平 ,   檜垣裕美 ,   吉田雄一 ,   山元修

ページ範囲:P.845 - P.847

要約 87歳,女性.右腰部に30×25mm大のポリープ状の暗紅色結節があり,辺縁は一部黒褐色調で易出血性であった.ダーモスコピーでは,腫瘍辺縁部には青灰色小球,中央部は不規則多形血管を思わせる所見であった.生検病理組織像で表皮に角化傾向を示すN/C比の大きな異型細胞が増殖し,真皮への浸潤もみられ有棘細胞癌と診断した.棘融解やpigment blockade melanocyteといった特徴的な所見もみられた.腫瘍そのものが黒色調を示す色素性有棘細胞癌はきわめて稀であり,文献的には皮膚科領域からの報告は少ない.しかしながら,本症例のように有棘細胞癌は黒色調を示すことがあり,色素性皮膚腫瘍の鑑別診断の1つとして考える必要があると思われる.

多発した表在型基底細胞癌の1例

著者: 佐野陽平 ,   鎌田恵美子 ,   早川あずさ ,   池田佳弘 ,   奥田良三 ,   永田昭博 ,   桂奏

ページ範囲:P.849 - P.852

要約 60歳,男性.1988年に右上背部に褐色局面を指摘され,当科紹介となった.汗孔角化症を疑い,生検したところ,表在型基底細胞癌であった.そのほかにも同様の褐色局面がいくつもあるために,その後も3か月に1回程度の外来フォローをしていた.徐々に背部の褐色調の局面が増加,増大するために切除をしていたが,いずれも表在型基底細胞癌であった.現在まで約17年間で背部に限局する11か所の表在型基底細胞癌を多発した.また,経過中に左鼻翼に毛芽腫も併発した.約17年間かけて背部のみに限局し多発した基底細胞癌の症例は稀であるため,報告する.

サイトケラチン7染色陽性であったmucinous carcinoma of the skinの1例

著者: 吉田益喜 ,   川原繁 ,   川田暁

ページ範囲:P.853 - P.855

要約 55歳,男性.2年前から左頰部に硬結が触れるのに気づいていたが放置していた.3か月前から急に増大したため,当科を受診した.生検の結果,mucinous carcinomaであった.皮膚原発か転移性か鑑別するためにCT,腹部エコー,上部消化管・大腸内視鏡を行うも内臓悪性腫瘍は認められなかった.また,免疫組織化学的にCK20陰性,CK7陽性であった.以上から,mucinous carcinoma of the skinと診断した.Mucinous carcinoma of the skinは消化管由来のmucinous carcinomaと鑑別が困難である.今回,CK20とCK7を用いて免疫組織学的に検討した1例を報告した.

部分消退を認めたMerkel細胞癌の1例―本邦報告例の集積および検討

著者: 福田桂太郎 ,   定平知江子 ,   舩越建 ,   高江雄二郎 ,   谷川瑛子 ,   石河晃 ,   深澤奈都子 ,   出来尾格

ページ範囲:P.857 - P.861

要約 86歳,男性.2007年9月より左頰部に紅色小結節が出現し,徐々に増大した.近医での皮膚生検にて,Merkel細胞癌を疑われたため,当科を紹介された.初診時,左頰部に28×24mmの弾性硬の常色結節があり,その中央に径11mmの紅色小結節を認めた.病理組織像では,真皮浅層から皮下組織にかけてN/C比の高い小円形細胞がシート状に増殖していた.腫瘍細胞はサイトケラチン20陽性で,電顕にて細胞質に有芯顆粒を認め,Merkel細胞癌と診断した.中央の小結節は生検2週後より縮小し,3週後の腫瘍切除時には消退していた.Merkel細胞癌の本邦報告例474例を検討したところ,部分消退および完全消退した症例は31例(6.5%)で,1例を除き,顔面の病変であった.なかでも頰部の病変では消退傾向を示す比率(148例中22例,14.9%)がほかの部位と比較して有意に高く(p<0.05),消退しやすいことが示唆された.

後頭部の結節から診断に至った胆管細胞癌の皮膚転移の1例

著者: 守屋真希 ,   竹中祐子 ,   石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.863 - P.866

要約 68歳,女性.半年前より後頭部に結節が出現した.初診時,後頭部に15×13×3mm大の弾性軟に触れる紅色結節とその下床に径20mm大の弾性硬の結節を認めた.病理組織像では真皮から脂肪織に,クロマチンに富む,類円形の核を有する異型細胞が索状に増殖し,一部で管腔様構造を形成していた.増殖する細胞は,CEA,ケラチンAE1+AE3,7染色で陽性を示した.胆管細胞癌,乳癌などを原発巣とする皮膚転移を疑い,全身検索を施行したところ,比較的速やかに胆管細胞癌,肝・肺転移を確認できた.頭部の結節は全摘出を行い,現在化学療法中である.胆管細胞癌の皮膚転移の報告例では半数が頭部に認め,頭部に皮膚転移を生じやすい内臓悪性腫瘍として,胆管細胞癌を念頭に置く必要があると考えた.

血小板減少を伴ったマムシ咬傷の1例

著者: 山田和哉 ,   松島陽一郎

ページ範囲:P.867 - P.869

要約 81歳,男性.農作業をしていたところ,左第2指に咬傷を受けた.その後,左手から上腕まで急速に腫脹が拡大した.臨床所見および受傷時の経緯よりマムシ咬傷を疑い,入院のうえ,セファランチン投与と補液にて治療を開始した.抗毒素血清は,受診までに時間が経過していたことより投与を見合わせた.受傷4日後の検査で,血小板 5.9×104/μlと減少していた.凝固系検査ではDICの診断基準は満たさず,明らかな出血症状や塞栓症状もなかったため,経過観察とした.その後,血小板数は正常化し,腫脹も徐々に軽快した.

Hansen病による神経障害を有する高齢患者に生じた皮膚潰瘍と皮下膿瘍

著者: 湊はる香 ,   谷岡未樹 ,   是枝哲 ,   宮地良樹 ,   尾崎元昭

ページ範囲:P.871 - P.874

要約 94歳,男性.L型Hansen病の治療歴がある.Hansen病による末梢神経障害のため,痛覚や触覚が麻痺しており,足趾切断された断端に皮膚潰瘍を生じていた.四つ這いで生活しており,両手掌と両膝には著明な角質肥厚を認めた.潰瘍の悪化を主訴に当科を受診した.潰瘍治療のため,入院後,右膝の皮下膿瘍が発見された.原因として,這うことによってできた外傷から肥厚した皮膚に細菌感染を起こしたと考えた.Hansen病の新規患者は近年稀である.しかし,過去の治療によりHansen病は治癒したものの,神経障害を後遺症として有している患者が高齢化し,皮膚病変を主訴に皮膚科を受診することがある.

臨床統計

溶連菌性膿痂疹とアトピー性皮膚炎の関連―教室例の解析

著者: 倉田麻衣子 ,   早川和人 ,   井上桐子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.876 - P.880

要約 2002~2006年の5年間に,当科で施行した皮膚培養からA群溶連菌(group A streptococcus:GAS)が検出された95例について検討した.疾患は溶連菌性膿痂疹が30例と最も多く,全体の32%を占めていた.溶連菌性膿痂疹のうち,77%の症例が基礎疾患としてアトピー性皮膚炎(AD)を有しており,他疾患に比べ著しく高率であった.基礎にADを有する膿痂疹症例は,23例中10例(43%)がRajka & Langelandの重症度分類で重症に分類された.これらの症例では,ADを有さない症例と比べ顔面の罹患率は明らかに高値であった(65%vs29%).重症10例では,不明を除く8例中4例で発症前3か月間ステロイド外用薬,タクロリムス軟膏は全く使用されておらず,その4例中3例で広範囲に膿痂疹を認めた.A群溶連菌による膿痂疹はADの重症度と密接な関連があり,特に治療の中止は溶連菌性膿痂疹発症の重要なリスクファクターと考えられる.

書評

―著:名郷直樹―「人は死ぬ」それでも医師にできることへき地医療,EBM,医学教育を通して考える

著者: 飯島克巳

ページ範囲:P.844 - P.844

 何だ.どういう意味だ.書名を見て,そう思った.本を読んでいくうちに,その疑問が解けた.著者が責任者を務める地域医療研修センターでは,地域医療の特徴の第一として,「万物は流転する」を挙げている.つまり,人は死すべき存在であるという事実をまず踏まえるのである.したがって,この事実を踏まえて医療を行うということは,患者を見捨てない態度を取り続けることになる.患者に対して,「医学的にこれ以上できることはありません」とは決して言わない.その代わりに,「何か言うべきこと,やるべきことがある」と考えるのである.

 地域医療の次の特徴として,「あらゆる問題に対応する」ことが挙げられている.つまり,患者のあらゆる必要に応えるということである.決して,専門外であるという理由をもって患者を拒絶することはしない.そのために,「多様な視点を」を持ち,「患者のナラティブ―物語り」を聴き,「専門科や専門職の種類」を超えて対応するのである.このように地域医療とは,人々に寄り添う医療であるということがわかる.

―著:齋藤中哉,編集協力:Alan T. Lefor―臨床医のための症例プレゼンテーションA to Z[英語CD付]

著者: 岸田明博

ページ範囲:P.862 - P.862

 新医師臨床研修制度が発足して5年目を迎えています.マッチングをはじめその制度は定着し,また,その研修指導者を養成する講座や研修会が各地で盛んに開催されています.そのような講習会でよく出てくる質問のひとつに,「1か月や2か月ごとに回ってくる研修医に何を教えたらいいのか」というものがあります.医師の研修に無頓着であった日本医学界の実情からすれば,それは至極当然な質問だと思います.正直なところ,大学などでの卒後研修の実情を知らなかった私自身も,当初は明確な答えを持ち合わせていませんでした.しかしながら日本の医療現場の実情を知るにつけ,その答えは次第に明らかなものとなってきました.

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あとがき

著者: 中川秀己

ページ範囲:P.884 - P.884

 いよいよ秋シーズンの到来です.「天高く馬肥ゆる秋」おいしいものが目白押しで出てくるので酒飲みの私にとってはたまらない季節です.しかしながら不安な点もいくつかあります.

 まずは政権交代により医療経済,医療行政はどう変わるのかです.ともかく医学部定員増は昨年,地域医療支援の名目の下で厚生労働省のお達しで各大学増員に踏み切りましたが,増員するのみで地域医療支援が現実化するか甚だ疑問ですし,増員のための経済的支援も十分でないことが指摘されています(経済的支援は私学には手薄いので増員は赤字となり,私学に属するわれわれはさらに病院収入を上げるよう努力が促されています).おそらく,昨年以上の増員を行う予定の大学はほとんどないと思われますが,増員拒否のため安易なメディカルスクールの立ち上げの声が起こってくるのも問題で,先行きが見えません.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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