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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科63巻13号

2009年12月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・28

Q考えられる疾患は何か?

著者: 大塚幹夫

ページ範囲:P.977 - P.978

症例

患 者:62歳,女性

既往歴:慢性副鼻腔炎,関節リウマチ

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:当科初診の1年半前頃から体幹,下肢に皮疹を生じ,近医にて外用剤による治療を受けていたが皮疹は出没を繰り返していた.当科初診の1か月前に関節リウマチでブシラミンの内服を開始したところ,その3週間後からほぼ全身に淡紅色斑が生じたため当科を受診した.

現 症:ほぼ全身に粟粒大の紅斑がみられた.そのほか,大豆大までの暗赤色丘疹が腹部,下肢に散在性に認められ,一部は融合傾向を示していた.丘疹は膿疱化や痂皮化したものが混在していた.また,両下腿にはこれらの皮疹のほかに紅斑を伴わない小豆大の皮下硬結を数個触知した.

症例報告

パッチテストで皮疹の再燃がみられた全身性接触皮膚炎の1例

著者: 大谷朋之 ,   相場節也

ページ範囲:P.980 - P.983

要約 60歳,男性.職業:建築塗装業.当科初診の約1年前から体幹,四肢に痒みを伴う皮疹が出現した.1か月間で体重が約5kg減少した.当科初診時,顔を除くほぼ全身に紅斑がみられ,体幹部には,デッキチェアサイン様の紅斑のない部分もあった.末梢血の好酸球増加はなかった.皮膚生検では,表皮に海綿状態,真皮浅層の血管周囲性に好酸球を伴う炎症細胞浸潤を認めた.全身性接触皮膚炎や丘疹紅皮症を鑑別診断として考え,環境隔離のため入院し,プレドニゾロン20mg/日を開始し,皮疹が改善し,また,内臓悪性腫瘍はみつからなかった.皮疹の改善後,パッチテストを行ったところ,ホルマリン,塩化マンガン,塩化第二スズ,塩化第二鉄,塩化亜鉛で陽性であった.パッチテスト施行後,前胸部,腹部に痒みを伴う紅斑,紅色丘疹が出現した.職業が建築塗装業であることより,ホルマリンへの曝露が原因の全身性接触皮膚炎の可能性を考えた.

酢酸リュープロレリンの皮下注射部位に生じた異物肉芽腫の1例

著者: 田村梨沙 ,   舩越建 ,   齋藤昌孝 ,   大山学 ,   海老原全

ページ範囲:P.984 - P.987

要約 68歳,男性.前立腺癌に対しLH-RHアゴニスト製剤である酢酸リュープロレリンの1か月製剤を計8回皮下注射した後,3か月製剤に変更した.投与後注射部位に腫脹を認め,皮下硬結が残存した.初診時には径4cm大でドーム状に隆起していた.病理組織学的に,脂肪織に巨細胞を含む組織球や炎症細胞の浸潤,線維化を伴う結節性の病変を認めた.間質や巨細胞の細胞質に空胞を認め,酢酸リュープロレリンによる異物肉芽腫と診断した.酢酸リュープロレリンを酢酸ゴセレリンに変更し,病変部にはステロイド外用を行ったところ,皮下腫瘤は縮小した.酢酸リュープロレリン3か月製剤による肉芽腫は,本邦では42例報告されており,そのほとんどが1か月製剤から3か月製剤への変更後に生じていた.この原因として,主剤や基剤の含有量が多く,長く体内に留まることで異物反応が生じたと考えた.

IgA腎症を合併した蕁麻疹様血管炎の1例

著者: 飯沼晋 ,   野村和加奈 ,   小松成綱 ,   本間大 ,   高橋英俊 ,   山本明美 ,   飯塚一

ページ範囲:P.988 - P.990

要約 67歳,男性.全身のそう痒を伴う蕁麻疹様紅斑と紫斑が出没し,同時期に健診で尿蛋白,尿潜血を指摘された.皮膚生検でleukocytoclastic vasculitisを認めた.さらに血清IgA高値のほか,腎生検でメサンギウム増殖性変化とIgAの顆粒状沈着を認めたことから,IgA腎症を合併した蕁麻疹様血管炎と診断した.本症例ではステロイドの内服と扁桃摘出術により,尿蛋白,尿潜血の陰性化を認め,皮疹も消退した.

イソソルビドによる多形紅斑型の薬疹の1例

著者: 井上雄介 ,   小野田雅仁 ,   小岩克至 ,   相原道子 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.991 - P.994

要約 85歳,女性.転倒による慢性硬膜下血腫に対し,イソソルビドを18日間投与された.投与中止2日後,前胸部にそう痒を伴う紅斑が出現し,次第に全身に拡大した.6日後には発熱と全身倦怠感とともに円形の浮腫性紅斑が多発融合し,非典型target lesionを認めた.病理組織像では,表皮に海綿状態と基底層の液状変性が,真皮上層には血管周囲性にリンパ球を主体とした炎症細胞浸潤がみられ,一部には好酸球を混じていた.イソソルビドによる多形紅斑型薬疹を考え,ステロイド薬の全身投与を行い,約2週間の経過で治癒した.発症1か月後の同薬によるパッチテストでは,ICDRG基準で48時間後,72時間後ともに+?,DLSTではSI0.94であった.イソソルビドはソルビトールの誘導体で,浸透圧利尿薬として頭部外傷などに起因する脳圧亢進時の降圧効果,Ménière病の治療薬として用いられている.同剤による薬疹は稀であり,多形紅斑型の薬疹は報告されていない.

単クローン性高IgA血症を合併した壊疽性膿皮症の1例

著者: 角田加奈子 ,   小野寺英恵 ,   遠藤幸紀 ,   宮本章弘 ,   村岡聡介 ,   中川倫代 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.995 - P.998

要約 67歳,女性.2007年10月頃より左下腿に皮疹が出現し,前医で切開を加えたところ潰瘍を形成し,徐々に拡大した.初診時,左下腿後面には壊死組織の付着した虫食い状の潰瘍,右下肢には暗紫色の結節がそれぞれ1か所みられた.両者とも病理組織学的には真皮から脂肪織にかけて,好中球の著明な浸潤がみられた.血液検査では血清IgA1,068mg/dlと高値であり,血清免疫電気泳動でIgA型M蛋白を確認し,monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)を合併した壊疽性膿皮症と診断した.MGUSのなかでもIgA型は,ほかのアイソタイプと比較して骨髄腫への移行率が高いと報告されている.副腎皮質ホルモン剤の内服で,皮疹は消退し,現在まで再燃を認めないが,今後,血液内科と連携した厳重な経過観察が必要である.

ストーマ周囲に初発した水疱性類天疱瘡の1例

著者: 井川哲子 ,   橋本任 ,   橋本喜夫 ,   水元俊裕 ,   高橋昌宏 ,   秋田珠実 ,   飯塚一

ページ範囲:P.999 - P.1002

要約 75歳,男性.2003年直腸癌で腹会陰式直腸切断術を施行し,ストーマ管理中である.2006年12月頃ストーマ周囲にびらんが出現し,難治なため2007年2月21日初診した.当初,ストーマ周囲皮膚炎と考えたが改善せず,5月にはびらんの周囲や四肢に緊満性水疱が出現した.病理組織検査で表皮下水疱を認め,蛍光抗体直接法で真皮表皮境界部にIgG,C3の沈着,蛍光抗体間接法1M NaCl split skinでは表皮側にIgGの沈着を確認した.ELISA法によりBP180,BP230に対する抗体が陽性で,水疱性類天疱瘡と診断した.プレドニゾロン内服により四肢の水疱は消退したが,ストーマ周囲は圧迫部位に水疱新生を繰り返し,外用ステロイド薬と装具の変更で軽快した.ストーマ周囲の水疱性類天疱瘡は報告が少なく,難治なストーマ周囲皮膚炎として見過ごされている可能性がある.

一過性水性手掌角化症の1例

著者: 宮本真由美 ,   山﨑正視 ,   坪井良治 ,   三橋善比古

ページ範囲:P.1003 - P.1006

要約 15歳,女性.1か月前より入浴時に手掌が硬くなることを主訴に当科を受診した.そう痒はない.浸水試験8分後,手掌に白色から半透明の小丘疹が多数出現し,皺襞を形成して隆起性局面となった.しかし,浸水試験終了30分後には症状は消失した.皮疹誘発時の手掌の病理組織所見で角質肥厚と角層内汗管の拡張を認めた.過去の報告例を検討したところ多汗の合併が多く,自験例では寒冷地で症状が改善したことより,発症には発汗の異常が関与していると思われた.本症は病態がまだ明らかにされておらず,さまざまな名称で報告されているが,浸水により誘発される手掌の一過性の角質肥厚であることより,一過性水性手掌角化症の名称で報告した.

サルコイドーシスを合併した全身性強皮症の2例

著者: 山岡俊文 ,   小川文秀 ,   清水和宏 ,   佐藤伸一

ページ範囲:P.1007 - P.1011

要約 症例1:70歳,女性.初診の10年前よりRaynaud症状を自覚していた.5年前に顔面を打撲し,同部に自覚症状のない紅斑が出現した.4年前より両手背部に凍瘡様皮疹が出現した.症例2:74歳,女性.初診の2年前より両手背部に凍瘡様皮疹が出現した.1年前より寒冷時にRaynaud症状を自覚するようになった.共通点として手背までの皮膚硬化,Raynaud症状,抗セントロメア抗体陽性であり,全身性強皮症と診断した.皮膚病理組織学的所見,頸胸部CT所見,血清中のリゾチーム上昇などによりサルコイドーシスの合併と診断した.サルコイドーシスを合併した全身性強皮症の場合,抗セントロメア抗体陽性で皮膚硬化の範囲は四肢末端までの場合が多い.また,手背部の凍瘡様皮疹は皮膚サルコイドである可能性があり,診断にあたり注意が必要である.

Generalized morphea-like sclerodermaの1例

著者: 青木真理子 ,   西出武司 ,   池田高治 ,   山本有紀 ,   古川福実

ページ範囲:P.1013 - P.1016

要約 60歳,女性.初診の1か月前より下腹部に皮膚硬化が出現した.乳房周辺にかけて急速に上行性に拡大し,境界明瞭な硬化性局面となったため,generalized morphea(GM)を疑った.有機溶媒の曝露の既往はなかった.しかし,GM様の特徴的な皮膚病変と,経過中に逆流性食道炎やRaynaud症状などの全身性強皮症を思わせる症状を呈したことから,generalized morphea-like sclerodermaと診断した.エトレチナート内服と内服PUVA療法にて皮膚硬化は一部軟化した.初診から17年経過した現在,ブシラミン内服とステロイド外用にて皮膚硬化の新生はなく,内臓病変は逆流性食道炎のみにとどまっている.

Acral persistent papular mucinosisの1例

著者: 谷口友則 ,   天羽康之 ,   勝岡憲生

ページ範囲:P.1017 - P.1020

要約 34歳,女性.初診6か月前から両側前腕伸側から手背にかけて,径1mm大までの自覚症状のない常色小丘疹が多発した.皮膚生検組織像では,丘疹に一致して表皮直下に限局するムチン沈着を認めた.アルシアンブルー染色陽性,ヒアルロニダーゼ消化試験で退色したことから,ヒアルロン酸主体のムチン沈着症と診断した.甲状腺機能異常やM蛋白血症などの基礎疾患はなく,臨床形態から,acral persistent papular mucinosisと診断した.

長期間経過観察しえた先天性血管拡張性大理石様皮斑の1例

著者: 矢田貝剛 ,   三澤淳子 ,   八木宏明

ページ範囲:P.1021 - P.1024

要約 生後18日,女児.無症候のサイトメガロウイルス感染母体より出生した.出生時より右下肢,右腰部を中心に皮膚の陥凹を伴う粗大な網目状または樹枝状の紫紅色斑が存在し,先天性血管拡張性大理石様皮斑と診断した.出生1か月後より皮疹は消退しはじめた.7歳の現在,陥凹は改善したが,右下肢に軽度の色調のlivedo様の皮疹を残す.先天性血管拡張性大理石様皮斑の本邦報告58例では,男女比は1:1.23であり,経過観察された49例中,44例(89.8%)で皮疹の消退の開始が確認されている.また,その44例中,27例(61.4%)が生後6か月以内に消退しはじめることが明らかとなった.完全に消退したのは2例(4.1%)のみである.

自然消退傾向を示した成人発症の血管芽細胞腫(中川)の1例

著者: 萩原宏子 ,   竹中祐子 ,   林伸和 ,   川島眞

ページ範囲:P.1025 - P.1028

要約 28歳,女性.1年前より左乳輪右側に圧痛を伴う結節が出現した.初診時,左乳輪右側に30×22mm大の弾性硬の紫紅色結節を認めた.生検の病理組織像では,真皮浅層から脂肪織に,核が大型で類円形の異型性のない腫瘍細胞と血管の増生からなる巣状の腫瘍塊を認め,間質には膠原線維の膨化と均質化を伴っていた.腫瘍細胞はCD31陽性,第VIII因子陽性を示し,血管内皮細胞由来と考えた.以上より血管芽細胞腫(中川)と診断した.若年女性の胸部に生じていることを考慮して無治療で経過観察したところ,7か月後に縮小し,1年7か月後には20×17mm大になった.成人の血管芽細胞腫でも,自然縮小も期待できることから,2年程度の経過観察も選択肢の1つと考えた.

胸腺腫の皮膚転移の1例

著者: 鎌田恵美子 ,   北川朋子 ,   竹中秀也 ,   岸本三郎

ページ範囲:P.1029 - P.1032

要約 64歳,女性.1997年に胸腺腫に対し拡大胸腺摘出術を施行された.2008年4月頃から腹部に結節が出現し,徐々に増大してきたため,当科を受診した.胸腺腫の皮膚転移を疑い,生検を行った.病理組織像では,真皮浅層面から皮下組織に至り淡明な細胞質をもった異型細胞が密に浸潤し,一部に小型リンパ球の浸潤を認めた.免疫染色では,AE1/3およびMNF116(サイトケラチン5,6,8,17,19)に陽性であった.組織所見は1997年の胸腺腫と同様であり,胸腺腫の皮膚転移と診断した.胸腺腫は成長が緩慢で,局所進展傾向が強く,皮膚などへの全身転移は稀である.

口唇に生じた放線菌症の1例―口腔内膿瘍から分離される放線菌属とその薬剤感受性

著者: 佐藤ミカ ,   荒田次郎

ページ範囲:P.1033 - P.1036

要約 17歳,女性.右下口唇の口角部に,表面平滑でなだらかに隆起し,触診によりはじめて小結節とわかる小豆大の囊腫状病変を認めた.軽度の痛みを伴っていた.局麻下にてパンチで孔を開けたところ,漿液性膿汁とケシ粒大の硬い顆粒を認めた.病理組織のグラム染色で,顆粒内にグラム陽性の放線菌を多数認め,放線菌症と診断した.膿瘍を郭清した後,セフジニルとトシル酸スルタミシリンの抗生剤内服にて,約1か月で治癒した.

Hansen病患者に生じた皮膚潰瘍に対するフェニトイン外用療法の1例

著者: 井上太郎

ページ範囲:P.1037 - P.1040

要約 98歳,女性.20歳時にHansen病を発症し,現在治癒している.右踵骨部に45×42mmの神経障害を伴う皮膚潰瘍が出現した.フェニトイン濃度5mg/mlの液を調整して患部に外用塗布した.治療開始直後より肉芽が増殖し,潰瘍面積の縮小が確認された.治療開始103日で上皮化し,110日で処置を終了した.治療中,血中のフェニトイン濃度は検知以下であった.また,外用による接触皮膚炎などの副作用も生じなかった.本治療はさまざまな疾患に伴う難治性皮膚潰瘍に対する新しい治療法として有効であると考えた.

単純ヘルペスウイルスによる慢性外陰部潰瘍の1例

著者: 瀬川春奈 ,   村岡聡介 ,   赤坂俊英 ,   下瀬川健二 ,   青木有正 ,   二宮由香里

ページ範囲:P.1041 - P.1044

要約 82歳,女性.2008年4月頃より不明熱と一時的な汎血球減少があり,プレドニゾロン(20mg/日)内服中であった.5月中旬より左大陰唇に潰瘍が出現し,2か月ほど改善なく経過したため,精査目的に紹介された.潰瘍部を生検した後,同部の蜂窩織炎を発症し,抗生剤で加療したが改善に乏しく,血液学的に著明な汎血球減少(WBC160/μl,RBC289×104/μl,Hb9.1g/dl,Plt2.3×104/μl)を認めた.骨髄穿刺の結果と合わせて重症の再生不良性貧血と診断された.その後,潰瘍底のウイルス抗原検査でI型ヘルペスウイルス陽性が判明し,潰瘍部の生検で表皮内水疱と水疱内の好酸性核内封入体を認め,ヘルペスウイルス感染症による潰瘍と診断した.

複発性帯状疱疹の1例

著者: 相馬孝光 ,   竹内常道 ,   中川秀己

ページ範囲:P.1045 - P.1048

要約 71歳,男性.多発性骨髄腫に対して化学療法施行中,2クール目day4に体幹に紅斑および小水疱がほぼ同時期に出現した.初診時,右腋窩~背部(Th2~4領域),左側腹部~背部(Th9~12領域)に小水疱の集簇を伴う浮腫性紅斑が認められ,疼痛を伴っていた.水疱蓋より水痘帯状疱疹ウイルス抗原を検出した.臨床所見とあわせ,複発性帯状疱疹(両側性非対称性)と診断し,アシクロビル750mg/日を7日間点滴静注した.水疱は徐々に膿疱化および痂皮化し,紅斑も一部色素沈着を残して軽快した.また,疼痛も皮膚症状改善後,徐々に軽快した.

治療

アトピー性皮膚炎治療におけるシクロスポリンMEPCの使用指針

著者: 五十嵐敦之 ,   中川秀己 ,   瀧川雅浩 ,   古江増隆 ,   大槻マミ太郎 ,   川島眞 ,   佐伯秀久 ,   竹原和彦 ,   秀道広 ,   古川福実 ,   両角國男

ページ範囲:P.1049 - P.1054

要約 シクロスポリンMEPC(シクロスポリンmicroemulsion pre-concentration;ネオーラル®)は,2008年10月にアトピー性皮膚炎の適応を取得した.そこで,シクロスポリンMEPCが安全に,かつ適正に使用されることを目的に,国内臨床試験に参加した医師および日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員らが中心となり,「アトピー性皮膚炎治療におけるネオーラル®の使用指針」を作成した.シクロスポリンMEPCの適応患者は,既存治療で十分な効果が得られない成人の最重症患者である.初期投与量は,3.0mg/kg/日で開始し,症状の改善・有害事象・臨床検査値・血圧およびシクロスポリン血中トラフ値などモニタリングしながら5.0mg/kg/日以下で用量を調整する.投与期間は,連続投与期間を12週間以内とし,休薬期間を設ける間歇投与とした.また,感染症など注意を要する.

書評

―編:IDATENセミナーテキスト編集委員会―市中感染症診療の考え方と進め方―IDATEN感染症セミナー

著者: 後藤元

ページ範囲:P.1012 - P.1012

 79歳の女性.認知症があり,自宅で半ば寝たきりで過ごしていた.2,3日前から元気がなくなり,食欲も低下してきた.37度台前半ではあるが微熱が出現している.胸部X線を撮ると右下肺野の透過性が低下しているようにみえる.血液検査では白血球数は4,800であったが,CRPは3.2と軽度ながら上昇していた.とりあえずキノロン系抗菌薬を経口で開始した.3日間使用したが,微熱は相変わらず続き,全身状態も改善がみられなかった.このため入院とし,抗菌薬をカルバペネムに変更した.しかし1週間経っても状態は同様であった.喀痰検査を行ってみたところ,Stenotrophomonas maltophiliaとMRSAが検出された.薬剤感受性成績をみるといずれもカルバペネム耐性である.そうか,だからカルバペネムは効かないのだ.この菌種を狙って抗菌薬を変更しようと今,考えているあなたにとって,本書は大きな助けとなってくれるであろう.

 感染症は,どの診療科であっても日常臨床の中で否応なしに対応を迫られる頻度の高い疾患である.しかし現在,わが国で感染症を専門としている医師は多くはない.ありていに言えば少ない.実際このような症例に遭遇した時,的確なアドバイスを与えてくれる上級医がそばにいてくれないという状況は少なくない.

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あとがき

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.1058 - P.1058

 先日「チョークトーク(chalk talk)」という言葉を初めて聞いた.プレゼンの方法はこの20年でずいぶん変わったものである.20年以上前に皮膚科に入局したとき(1985年)には,ブルースライドの時代であった.スライド原稿を写植に出して活字を組み,ブルーバックのスライドを作成する.スライドの原稿を一部変更すると,すべてやり直しなので,どんなに早くても2,3日かかってしまう.臨床スライド,病理スライドは,スライドに撮った原本を使用する.写真をいくつか組み合わせるのは,手作業であり,高等技術であった.留学しアメリカにわたった1990年代には,コンピュターでスライドを作成できるソフトがあることを知り,感激した.Persuasion,そしてPowerPointと,その後ソフトの進化とともに,よりきれいなスライドが短時間で,誰でもできるようになった.今,PowerPointのプレゼンが世界各国で学会発表の標準となっている.そして,最近では,静止画でなく動画も扱えるようになり,1つのプレゼンが供給する情報量は途方もない量となった.

 そんな状況下で,ある最先端を走る研究室において,ラボミーティングでPowerPointは一切禁止で,「チョークトーク」で行うというのである.黒板にチョーク,あるいは白板に消せるマジックでポイントを書きながらプレゼンをする.電気泳動のバンドも,電顕の写真も,発表者が持っているイメージを手書きで書いていく.たくさんの情報があるなかで,本当に大切な重要なコア(核)となる情報は何なのか.PowerPointを用いてただ結果を機関銃のように並べ立てることにより,人をimpressさせることはできても,人にinformすることはできない.聞き手の側に立ってみると,チョークで大切な点を書いて話す程度のスピードでないと理解を進めながら考えて聞くことはできない.将棋の名人は,自分たちの前に盤がなくても,架空の盤を想像し,将棋を進めることができる.達人同士の会話には,共通の将棋盤さえ仮想できれば,道具は無用である.昔ながらのチョークトークの意味を再発見した思いである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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