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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科63巻13号

2009年12月発行

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あとがき フリーアクセス

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.1058 - P.1058

文献概要

 先日「チョークトーク(chalk talk)」という言葉を初めて聞いた.プレゼンの方法はこの20年でずいぶん変わったものである.20年以上前に皮膚科に入局したとき(1985年)には,ブルースライドの時代であった.スライド原稿を写植に出して活字を組み,ブルーバックのスライドを作成する.スライドの原稿を一部変更すると,すべてやり直しなので,どんなに早くても2,3日かかってしまう.臨床スライド,病理スライドは,スライドに撮った原本を使用する.写真をいくつか組み合わせるのは,手作業であり,高等技術であった.留学しアメリカにわたった1990年代には,コンピュターでスライドを作成できるソフトがあることを知り,感激した.Persuasion,そしてPowerPointと,その後ソフトの進化とともに,よりきれいなスライドが短時間で,誰でもできるようになった.今,PowerPointのプレゼンが世界各国で学会発表の標準となっている.そして,最近では,静止画でなく動画も扱えるようになり,1つのプレゼンが供給する情報量は途方もない量となった.

 そんな状況下で,ある最先端を走る研究室において,ラボミーティングでPowerPointは一切禁止で,「チョークトーク」で行うというのである.黒板にチョーク,あるいは白板に消せるマジックでポイントを書きながらプレゼンをする.電気泳動のバンドも,電顕の写真も,発表者が持っているイメージを手書きで書いていく.たくさんの情報があるなかで,本当に大切な重要なコア(核)となる情報は何なのか.PowerPointを用いてただ結果を機関銃のように並べ立てることにより,人をimpressさせることはできても,人にinformすることはできない.聞き手の側に立ってみると,チョークで大切な点を書いて話す程度のスピードでないと理解を進めながら考えて聞くことはできない.将棋の名人は,自分たちの前に盤がなくても,架空の盤を想像し,将棋を進めることができる.達人同士の会話には,共通の将棋盤さえ仮想できれば,道具は無用である.昔ながらのチョークトークの意味を再発見した思いである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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