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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科63巻5号

2009年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス2009 Clinical Dermatology 2009 1. 最近話題の皮膚疾患

Biologicsによる薬疹

著者: 朝比奈昭彦

ページ範囲:P.9 - P.13

要約 抗TNF-α製剤は,効果の優れたbiologicsの1つで,関節リウマチや炎症性腸疾患,乾癬の治療に用いられる.ところが,これらの製剤が,理論とは逆に乾癬を誘発あるいは増悪させる場合があることもわかってきた.このような報告例は数年間で飛躍的に増え,決して稀ではない.製剤の使用後に一定のタイムラグを経て発症し,乾癬様の皮疹のほか,掌蹠膿疱症様に掌蹠に皮疹が出現したり,膿疱を呈するものも多い.原因は不明であるが,皮膚でのⅠ型インターフェロンの作用を亢進するためと考えられている.投薬を中止すれば皮疹が消失ないし改善する例がほとんどであるが,重症でなければ,原疾患に対する抗TNF-α療法の有効性を考慮して,中止せずに継続,あるいは別の抗TNF-α製剤に変更したうえで,外用療法などで様子を見ていて問題ない場合も少なくない.皮膚科医は,この逆説的な副作用に精通し,こうした事例に遭遇した際に,他科との連携のなかで適切な対応をとることが望まれる.

Hand-foot syndrome

著者: 山崎直也

ページ範囲:P.14 - P.17

要約 Hand-foot syndrome(手足症候群)は抗がん剤によって起こる皮膚に対する有害反応の注意すべき代表的なものであり,多くはフッ化ピリミジン系薬剤の投与後に起こることが知られているが,発症機序をはじめ不明な点が多い.好発部位は手,足,爪であり,障害の程度が強い場合,疼痛のためにものがつかめなくなったり,歩行困難に陥ることもあり,日常生活に支障をきたす.また,近年開発の進んでいる新しい分子標的薬剤なかでソラフェニブ(sorafenib)やスニチニブ(sunitinib)といった薬剤の投与によっても,従来知られていたものとはやや異なった特徴をもつhand-foot syndromeの起こることが明らかとなってきた.いずれの場合も治療法として,局所の保護・安静を保ち,保湿作用・抗炎症作用を持つ外用薬の塗布を行うことが勧められている.

DIHS (drug-induced hypersensitivity syndrome)に合併する劇症1型糖尿病

著者: 狩野葉子

ページ範囲:P.18 - P.21

要約 薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome;DIHS)は特定の薬剤に対するアレルギーとhuman herpesvirus 6(HHV-6)の再活性化が生じてもたらされる疾患で,その経過中に肝・腎障害,脳炎,心筋炎などの多彩な臓器障害をもたらす.また,再活性化するウイルスもHHV-6だけでなく,さまざまなヘルペスウイルスが再活性化することが明らかになってきている.近年,DIHSに引き続いて,あるいは回復後に生じる臓器障害の1つとして,劇症1型糖尿病が注目されている.劇症1型糖尿病はインスリン分泌細胞の破壊によりインスリンが枯渇するためケトアシドーシスの症状で発症する疾患で,ウイルス感染を契機に発症することが指摘されている.この1型糖尿病はDIHSにおけるウイルスの再活性化やDIHS後の特異な病態と密接に関連して発症することが推測される.

口内炎を見直す―外用薬の適正な使用のために

著者: 岸本裕充

ページ範囲:P.22 - P.25

要約 日常臨床において比較的遭遇する頻度の高い「口内炎」として,①再発性アフタ,②(義歯などの接触による)褥瘡性潰瘍,③カンジダ性口内炎,④ウイルス性口内炎,を取り上げる.(患者の自己判断も含め)「口内炎」という漠然とした診断の下,安易にステロイド軟膏が処方されることがある.これら4つの疾患のうち,カンジダ性口内炎とウイルス性口内炎に対しては,感染の増悪を招く怖れがあるので,原則としてステロイド軟膏を使用すべきでない.

 白くなる典型的な急性偽膜性カンジダと異なり,白くならない「慢性萎縮性カンジダ」は義歯性口内炎,口角炎,舌炎として生じることが多いが,誤診されてステロイド軟膏が使用され,難治化していることもある.この慢性萎縮性カンジダは中高年者で唾液の分泌低下を伴って見られることが多く,義歯性口内炎,口角炎,舌炎においてはカンジダの関与を念頭に,抗真菌薬の投与も検討すべきである.

2. 皮膚疾患の病態

毛髪奇形の見方と考え方

著者: 橋本剛 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.28 - P.32

要約 毛髪奇形(hair anomaly)とは,毛髪の質,構造の異常による毛髪の形態異常ないし脆弱な状態をいう.易断裂性による脱毛を呈することがあり,毛髪の易断裂性を伴う脱毛を見た場合には毛髪奇形の精査が必要である.脱毛の原因となりうる毛髪奇形として,結節性裂毛症,陥入性裂毛症,連珠毛,白輪毛などがある.結節性裂毛症は種々の先天性および後天性疾患あるいは物理化学的障害による毛幹脆弱性を背景として外力で生じる二次的変化であり,絵筆を向かい合わせたような破壊像を呈する.陥入性裂毛症はNetherton症候群に特異的な毛髪奇形で,SPINK5遺伝子の変異による内毛根鞘と毛小皮の強度低下のため角化帯において毛幹の遠位側が近位側に陥入して形成される.連珠毛はケラチン遺伝子の変異により周期的な毛幹狭小化をきたして数珠状外観を呈する.白輪毛は毛幹に含気性空隙による白色輪を生じるもので,原因遺伝子は未同定である.

Th17とアトピー性皮膚炎

著者: 椛島健治

ページ範囲:P.34 - P.37

要約 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)は,バリア,免疫・アレルギーなどの要因により誘発される難治性アレルギー疾患の1つである.免疫学的側面としては,IL-4を産生するTh2やIgEを介する即時型アレルギーの関与と,慢性時におけるIFN-γを産生するTh1の関与が病態形成に重要とされてきた.ところが近年,Th17というThサブセットが同定され,ADの急性期の皮膚局所や重症ADの末梢血中に多数認められることが明らかになった.Th17が産生するIL-17やIL-22は,好中球を引き寄せるケモカインや血管内皮細胞増殖因子などのADの誘発に重要な因子を表皮角化細胞から産生させることも示された.以上の研究成果は,ADの急性期の病態形成において重要な役割を果たす可能性が示唆され,ADの病態解明における新展開の様相を見せている.

Deep tissue injury

著者: 門野岳史

ページ範囲:P.38 - P.41

要約 Deep tissue injuryとはNational Pressure Ulcer Advisory Panel (NPUAP)の褥瘡分類(2007年)において新たにsuspected deep tissue injuryとして採択された概念で,初期の段階では皮表から判断すると一見軽度の褥瘡に見えるが,時間の経過とともに深い褥瘡へと変化するもののことを指す.皮膚と比較して,皮下組織や筋肉のほうが血行不全に弱く,また外圧を加えた場合に皮膚よりも皮下組織や筋層により大きな圧力がかかることにより,このような褥瘡が発生すると考えられている.このdeep tissue injuryの診断は困難であるが,皮膚エコーやサーモグラフィーを併用することにより,より早期の診断が可能となり,また悪化を最小限に食い止めることが期待されている.

Critical colonizationとは

著者: 立花隆夫

ページ範囲:P.42 - P.46

要約 創部の微生物学的環境についての考え方は,これまでの無菌と有菌からcontamination,colonization,infectionというように有菌状態を連続的にとらえ,その増加した菌の創部への負担と生体側の抵抗力のバランスにより感染が生じるとするbacterial balanceの概念が主流となっている.それに伴い,日々の診療においては消毒より洗浄が重要視されるとともに,critical colonizationの徴候を見極めることが大切となる.そのためには創の注意深い観察が必要であり,そのことがひいては局所治療の適切な選択にもつながる.

GVHDにおけるHHV-6の再活性化

著者: 浅田秀夫

ページ範囲:P.47 - P.52

要約 造血幹細胞移植後には移植片対宿主病(graft versus host disease:GVHD)がしばしばみられるが,一方でヒトヘルペスウイルスが再活性化しやすい状態になっていることも知られている.そこで,両者の関連性を調べる目的で,造血幹細胞移植後,経時的に末梢血中のヒトヘルペスウイルス(HHV-6,HHV-7,EBV,CMV)のDNAの検出・定量を行った.その結果,移植患者15例中,GVHDを発症した10例全例でHHV-6の再活性化を認め,そのうち8例では発疹の出現・消退と血中HHV-6 DNAレベルとの間に相関がみられた.一方,GVHDを発症しなかった患者でHHV-6が検出されたのは5例中1例のみであった.また,発疹の出現に一致して,血清中IL-10と可溶性IL-2受容体の上昇も認められた.以上のことから,造血幹細胞移植後の発疹症/GVHDの発症に,HHV-6の再活性化とIL-10産生T細胞の活性化が密接に関わっているものと考えられた.

3. 新しい検査法と診断法

自己抗体からみた皮膚筋炎の病型分類

著者: 藤本学

ページ範囲:P.54 - P.58

要約 皮膚筋炎(dermatomyositis;DM)は多様な病態を含む疾患であるため,その中のサブセットまで意識した診断・治療が大切であり,自己抗体による分類が有用である.DMに特異的に検出される自己抗体には,抗Jo-1抗体をはじめとする抗アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl tRNA synthetase;ARS)抗体,抗Mi-2抗体,抗CADM140抗体,抗155/140抗体などがあり,これらは互いに排他的に出現するほか,臨床症状と密接に相関している.抗ARS抗体陽性例は,DMとしては非定型的皮疹が多く,筋症状と慢性間質性肺炎が種々の程度で混ざっており,炎症所見が強い場合がある.一方,抗Mi-2抗体,抗CADM140抗体,抗155/140抗体は典型的な皮膚筋炎の臨床像をとるが,抗Mi-2抗体は合併症がなく予後良好な群,抗CADM140抗体は筋症状が軽微で急速進行性間質性肺炎のリスクが高い群,抗155/140抗体は成人例で悪性腫瘍合併群のマーカーとなる.

TARCの読み方

著者: 小宮根真弓

ページ範囲:P.59 - P.63

要約 2008年7月より,血清TARC値の測定がアトピー性皮膚炎に保険適用となった.ケモカインは皮膚の炎症に深く関与し,TARC/CCL17はTh2タイプのケモカインであり,アトピー性皮膚炎の増悪に関与している可能性が示唆されている.血清TARC値はIgE値,好酸球数,LDHなどよりもより鋭敏にアトピー性皮膚炎の皮膚症状を反映し,治療により速やかに減少する.また,数値が大きく変動することから,その動きがよりわかりやすい.アトピー性皮膚炎は良好なコントロールがその治療の目標であり,日常診療においては病勢の把握と治療効果の判定が不可欠である.血清TARC値測定はアトピー性皮膚炎の日常診療にあたり非常に有用と考えられ,今後積極的に利用されることが望まれる.

クオンティフェロン検査と皮膚結核

著者: 澁谷真貴子 ,   寺木祐一

ページ範囲:P.65 - P.68

要約 クオンティフェロン(QuantiFERON ®-TB2G;QFT-2G)は結核菌抗原で末梢血リンパ球を刺激培養し,IFN-γ量を測定することにより,結核感染の有無を診断する新規検査法である.本検査で用いられる結核菌抗原(ESAT-6,CFP-10)はBCG接種や大部分の非結核性抗酸菌症の影響を受けないため,従来のツベルクリン反応(ツ反)に比べ,より正確な結核感染の有無の診断が可能である.皮膚結核や結核疹においても,ツ反に代わる有用な検査手段になりうる.また,今後皮膚科領域でも乾癬などに対する生物学的製剤による治療が普及するにつれて,QFT-2Gの必要性が高まるものと思われる.

ウイルス抗体価の読み方

著者: 佐伯秀久

ページ範囲:P.69 - P.72

要約 ウイルス抗体価の測定法には補体結合反応(CF),赤血球凝集抑制試験(HI),蛍光抗体法(FA),酵素抗体法(ELISA),中和試験(NT)などがある.ウイルス感染症の血清診断では,原則的に急性期(病初期)と回復期(2~3週後)のペア血清における抗体価を測定して診断する(有意な抗体上昇を確認する).FA,ELISAではIgG,IgMなどの免疫グロブリンクラス別の抗体測定が可能である.IgMは感染後7~10日で抗体価のピークを示し,2~3週で陰性化する.IgGはIgMより遅れて立ち上がり,感染4~6週後に抗体価のピークを迎え,多くの場合,抗体は生涯保持される.IgM抗体の存在は最近の感染を意味し,一時点でも陽性が確認できれば診断が可能である.麻疹,風疹,伝染性紅斑,突発性発疹,伝染性単核球症,単純疱疹,水痘・帯状疱疹,手足口病などのウイルス性発疹症を疑った場合,疾患ごとに目的にあったウイルスおよびその検査法を選択することが必要である.

ダーモスコピーで皮丘パターン(parallel ridge pattern)を示すが良性の病変

著者: 谷岡未樹

ページ範囲:P.73 - P.76

要約 ダーモスコピーは近年の皮膚科領域における検査の進歩の中で,患者に最大の福音をもたらしたといっても過言ではない.事実,ダーモスコピーは医療費抑制の叫ばれる社会情勢にあっても保険適用を獲得し,その評価は高まるばかりである.その最も有用な使用方法は掌蹠に生じた色素斑の鑑別であろう.2007年には掌蹠における色素斑の治療指針が論文発表されたが,そのアルゴリズムにはダーモスコピー所見が組み入れてある.今後は掌蹠における色素斑にダーモスコピーは欠かせない装置となっている.ダーモスコピー検査で最も重要な所見は皮丘パターンである.皮丘パターンを示した場合,悪性黒色腫の可能性が非常に高くなる.本稿では,皮丘パターンを呈しながらも例外的に良性の病変である場合を概説する.

4. 皮膚疾患治療のポイント

難治性蕁麻疹とレセルピン治療

著者: 岡本祐之 ,   上津直子

ページ範囲:P.78 - P.81

要約 蕁麻疹の診断は臨床症状と経過から容易であり,多くの症例ではヒスタミンH1受容体拮抗薬が奏効する.しかし,原因・増悪因子が明らかではない症例では対症療法を余儀なくされ,さらにヒスタミンH1受容体拮抗薬が無効なこともある.日本皮膚科学会では,蕁麻疹の病型診断手順と特発性の蕁麻疹に対する治療手順を中心とした治療ガイドラインを発表している.そこで,慢性,難治性の蕁麻疹では,ヒスタミンH1受容体拮抗薬の増量や他の同系薬への変更を行い,補助薬剤としてH2受容体拮抗薬や漢方薬,抗不安薬などを投与し,無効例ではさらにステロイドを内服することが薦められている.レセルピンは古くは慢性蕁麻疹に有効であることが知られていたが,新しくヒスタミンH1受容体拮抗薬が開発・発売された頃から使用されなくなった.しかし,ステロイドの内服でも不十分な治療効果しか見られない難治例に奏効することがある.これまでの経験に基づいた治療から,EBMの観点に立った治療を積み重ね,今後,難治性蕁麻疹治療に欠くことのできない薬剤として広く使用され,その適応となる蕁麻疹の病型も明らかになることが期待される.

天疱瘡のγ-グロブリン療法

著者: 白方裕司 ,   橋本公二

ページ範囲:P.83 - P.86

要約 天疱瘡の治療はステロイド薬の全身投与が原則であるが,ステロイド薬のみでコントロールできる症例は少ない.補助療法として,免疫抑制剤,血漿交換療法,ステロイドパルス療法などが行われるが,血漿交換療法は手技的に慣れていない施設では施行困難である場合が多く,またステロイドパルス療法は合併症などにより施行できない場合も多い.全般的に免疫を抑制しない療法として,γ-グロブリン大量静注療法の有効性が示され,保険適用となった.本稿では実際の治療法,注意すべき点について解説し,臨床試験の結果について紹介する.

尋常性痤瘡治療ガイドラインのポイント

著者: 林伸和

ページ範囲:P.87 - P.91

要約 日本皮膚科学会編尋常性治療ガイドラインがエビデンスに基づいて策定された.すなわち,個々の臨床上の疑問点に関するエビデンスを収集し,そのエビデンスレベルで治療方法の推奨度を決定した.全体を総括するアルゴリズムでは,面皰を主体とした症状ではアダパレン,丘疹・膿疱を主体とした症状では,軽症であれば抗菌薬外用とアダパレン外用,中等症・重症であれば抗菌薬内服・外用とアダパレン,最重症であれば抗菌薬内服・外用が高い推奨度の治療となっている.その他に推奨される治療として,囊腫に対するステロイド局注が推奨度B,ケミカルピーリング,漢方薬の一部,肥厚性瘢痕に対するステロイド局注,イオウ製剤外用,面皰圧出,洗顔,化粧(メイクアップ)などが推奨度C1にランクされている.今後,本ガイドライン策定が契機となり,科学的根拠に基づく治療法が確立されることが望まれる.

アダパレンの使用法

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.92 - P.95

要約 痤瘡治療の世界標準薬であるアダパレンが処方可能となり,その薬効・薬理を理解したうえでの正しい使用法が求められている.アダパレンには主作用ともいうべき皮膚刺激性があるので,あらかじめ使用前に患者に痤瘡の病態も含めて十分説明し,当初は少量を隔日に前額などの限局した部分から外用を開始する,保湿剤を併用するなどの工夫が必要である.この皮膚刺激は約2週間で忍容されるので,微小面皰の抑制を念頭に,その後は顔面全体に塗布することが再発予防にも有用である.また,抗菌薬に対する耐性菌の出現を憂慮して,欧米ではレチノイド外用薬との併用が推奨されており,わが国でも単剤治療から併用治療への転換が図られるべきであろう.アダパレンには抗炎症作用や組織リモデリング制御作用があるので,炎症性痤瘡や瘢痕予防を念頭に置いた使用が検証されるべきである.アダパレンを契機に,わが国の痤瘡治療が大きく変容し,「たかがニキビ」といわれた痤瘡患者にとって大きな福音となることが期待される.

円形脱毛症診療ガイドラインのポイント

著者: 荒瀬誠治

ページ範囲:P.96 - P.99

要約 円形脱毛症(alopecia areata:以下AA)は後天性脱毛症の中で最も頻度が高く,今までにも臨床分類,重症度分類などに基づき数多くの治療法が報告されてきた.しかし現在,EBM評価に立脚した治療法に基づく診療ガイドラインはなく,AAに悩む患者・その治療に悩む医療者の双方からも待ち望まれている.まもなく出来上がるであろうAA診療ガイドラインの基本は,「患者に精神的ダメージやQOL低下をもたらすAAは,あらゆる方法を用いて治療しなくてはならない皮膚疾患である」との考えに立脚している.取り上げたそれぞれの治療法(診療行為)推奨度の決定は,最終的には「AAの脱毛に悩む患者と,その治療に悩む皮膚科医のためになるかどうか」でなされた.本邦で保険上認められていない治療法も取り上げる結果となったが,そのような治療法の選択は皮膚科専門医の裁量のうちでなされるものであろう.

外用剤を薄めて使うとかえって作用が増強することがある

著者: 大谷道輝

ページ範囲:P.101 - P.103

要約 皮膚外用剤の吸収を考える場合,皮膚外用剤からの薬物の放出および皮膚外用剤から角層への移行の2つの過程が重要である.皮膚外用剤からの薬物の放出の過程では,基剤に溶けている薬物濃度が高いほど角層中濃度が高まり高い効果が得られるが,基剤により溶解性が異なるため希釈や混合により変化し,効果が高まる場合がある.加熱融解して希釈した場合では,基剤に溶けている主薬濃度が数倍に高まり,効果に影響する可能性がある.皮膚外用剤から角層への移行でも基剤の特性が効果に影響する.一般にクリームは軟膏に比べて吸収性が高いため,クリームと軟膏を希釈・混合すると軟膏中の主薬は透過性が高まり,クリーム中の主薬は低下する.添加物によっても主薬の溶解性や吸収促進性が高まるため,注意が必要である.

市販されているハイドロキノンはどこまで効くか

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.105 - P.108

要約 ハイドロキノンは皮膚刺激作用があるが,強力な漂白効果があるため,肝斑治療のゴールドスタンダードである.高濃度のものは白斑黒皮症をきたす可能性があるが,低濃度のものは刺激症状も少なく,比較的安全である.わが国では2001年の薬事法改正により化粧品への配合が認可され,現在3社から4%のハイドロキノン含有化粧品が発売されている.ハイドロキノンの外用1~2か月で肝斑の改善が認められるが,外用を中止すると元に戻ることが多い.ただし,肝斑は紫外線を避けるだけでも薄くなるため,冬季にはハイドロキノン外用部と非外用部で差が見られなくなることもある.老人性色素斑は,病変部周囲の皮膚色が多少薄くなるため,有効とはいえないが,ハイドロキノンで皮膚刺激症状を起こした場合は,病変部皮膚が剝がされるため,色調の改善が見られることもある.また,炎症後色素沈着はハイドロキノンの外用により早く軽減させることができる.

銀含有ドレッシング材の効用

著者: 館正弘 ,   武田睦

ページ範囲:P.111 - P.114

要約 銀を含有するさまざまな形のドレッシング材が開発され,欧米,特にヨーロッパで広く臨床に使用されている.わが国でも2008年に1種類の銀含有ドレッシング材が発売された.創を湿潤環境に保つという特性を持ちながら,創部へは約1ppmの低濃度の銀イオンが放出され,銀イオン濃度が減少すると再び銀イオンが遊離されるため,常に被覆材内では1ppmの一定濃度を保つことが確認されている.銀イオンは黄色ブドウ球菌,緑膿菌,嫌気性菌に対し抗菌効果を有している.適応は,感染には至らないcritical colonizationの状態の慢性皮膚潰瘍が主なものである.通常,2~3日連続の貼付が可能であり,患者のコンプライアンスは良好である.

ありふれた皮膚疾患に炭酸ガスレーザーを使いこなす

著者: 葛西健一郎

ページ範囲:P.117 - P.120

要約 炭酸ガスレーザーは,生体組織内の水に吸収されることにより照射された組織を高温で蒸散する.周囲組織は熱凝固するため断面からの出血も少ない.この方法は,皮膚の表在性病変を直視下に確認しながら除去するのに有用である.器機も小型,軽量,比較的安価であるから,日常の皮膚科診療に取り入れると非常に便利である.ただし,治療組織は蒸散されてしまい,病理組織学的検査に出すことができないので,術前の正確な診断が必須である.また,取り残し,瘢痕化,色素沈着などの合併症を予防するためには,治療対象病変の立体的構築を理解して適切に蒸散すると同時に,患者に正しい術後創管理を励行させることが重要である.

進行癌に対するモーズ軟膏療法

著者: 吉野公二

ページ範囲:P.121 - P.124

要約 皮膚原発の悪性腫瘍や他臓器の転移性皮膚腫瘍などから出血し,止血が困難または出血が頻繁な症例や,さまざまな理由により手術が不可能な症例に対して,近年,モーズ軟膏を使用した症例の報告がなされ,当科でも良好な成績を得ており,患者の満足度も高い.軟膏の成分は国内で入手しやすく,軟膏を使用するという皮膚科の基本手技で悪性腫瘍の処置が可能であるため,ぜひ習得したい方法であり,その作用や使用法,効果について述べる.さらにモーズ軟膏が必要となる腫瘍には悪臭を伴うことが多いため,消臭効果のあるメトロニダゾール軟膏についても簡単に記す.

5. 皮膚科医のための臨床トピックス

勤務医の元気が出る環境づくり

著者: 沢田泰之

ページ範囲:P.126 - P.127

要約 皮膚科勤務医不足が問題になっている.常勤医削減→収入減少→常勤医削減,そして燃え尽きて退職という負の連鎖を断ち切るために,各病院の部医長は何をすべきか考えなくてはいけない.東京都立墨東病院では,以下の5つのことを行ってきた.①目標を持つ:リーダーの最も重要な仕事は目標を示すことである.目標がなければ,燃え続けることはできない.②労働環境を整える:医師の元気が有限な資源であることを銘記すべきである.休みを取らせるべきである.そして,休みはスタッフみんなが納得する公正な形でとらせなくてはならない.③教育環境を整える:病院で働く大きな利点はスキルの向上である.無理はいけない.学びたいときに教える「啐啄同時」のタイミングが重要である.④人材確保:特に妊娠,育児中の有能な医師が働きやすい環境を整えなくてはならない.⑤クレーム対応:医師の貴重な医療資源を大量に消費させる.クレーム対応を医師ではなく事務が行うようにしなければならない.

皮膚科診療における電子カルテの功罪

著者: 福本隆也

ページ範囲:P.128 - P.130

要約 奈良県立医科大学附属病院皮膚科における電子カルテシステムの経験を述べる.電子カルテシステムにはデメリットがあるにしても,それを補って余りある数多くのメリットがある.よいシステムを選択し,使い勝手のよいシステムにカスタマイズしていくこと,継続して改善していくことが大切と考える.

職業性皮膚疾患NAVI

著者: 織茂弘志 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.131 - P.134

要約 「職業性皮膚疾患NAVI(http://hifunavi.umin.jp/)」が2007(平成19)年10月,インターネット上に公開された.「職業性皮膚疾患NAVI」は,会員へユーザー名とパスワードを配付し,会員の匿名性を確保したうえで,産業化学物質による職業性皮膚疾患発生時に,事例報告入力フォーマットへ報告するシステムである.気軽に接触皮膚炎などの職業性皮膚疾患の原因と考えられる物質を登録し,情報共有することを意図して立ち上げた.日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会会員,日本臨床皮膚科医会会員を中心に,化学物質による皮膚疾患を診る機会の多い会員が現在5,000名以上登録されており,今後,信頼性の高い情報発信源になっていくと思われる.

クレーマー患者への対応

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.136 - P.138

要約 医療機関のクレーム対応は,一般企業と同列の対応は不要であり,患者のクレームから得るところは乏しい.むしろ過度のクレームや院内暴力・暴言は明らかな犯罪である.悪質なクレーマー患者は医師をはじめとしたすべての医療者の敵であり,同時にすべての患者の敵である.これらを駆逐すること自体が医療を適正に供給するための不可欠要素であり,徹底的に闘うべきである.クレーマーなどに聞く耳をもつな! 拒絶せよ! 告発せよ! 追放せよ! との信念を,すべての医療従事者が持つべきである.直ちに刑事事件,強制退院のための仮処分などを活用して,断固とした態度を示すことが非常に重要である.とりわけ軽微事案で,法的処置を含めた強い態度を繰り返すことで院内秩序が醸成され,明るい医療機関への道が開けることを信じるべきである.

褥瘡診断のトレンド

著者: 古江増隆

ページ範囲:P.139 - P.141

要約 最近の褥瘡管理・治療への取り組みは,保険医療の中で体系化されつつあり,褥瘡の発生頻度は低下するとともに,重症の患者も病院では大幅に低下してきた.在宅でのますますの取り組みが焦点となりつつある.本稿では,褥瘡診断のトレンドとして,褥瘡予防・管理ガイドライン2009年版,DESIGN-R (rating),TIME,DTI,そして陰圧閉鎖療法を取り上げる.

ラップ療法をどう考える

著者: 安部正敏 ,   石川治

ページ範囲:P.142 - P.144

要約 褥瘡治療現場を中心に普及している,いわゆるラップ療法について,皮膚科医としてどうとらえるべきかについて考察する.ラップ療法とは,食品用ポリエチレン薄膜を用いたmoist wound healingととらえることができる.創傷被覆材に比較し安価に施行できるが,その製造販売業者のほとんどは食品包装用以外の用途を禁止している.ラップ療法は過剰な滲出液が創面から排除される工夫がなされており,優れた治療法であるという見解もある反面,食品用ポリエチレン薄膜自体にも複数の種類があり,それらの特性の差異からくる臨床効果の検討などがなされていない点など,科学的根拠に乏しい側面も有する.皮膚科医は経済的理由のみで安易にラップ療法を選択するのではなく,創傷治癒理論およびラップ療法がもたらす功罪を十分熟知することが求められる.

予防接種up-to-date

著者: 日野治子

ページ範囲:P.145 - P.148

要約 わが国の予防接種には定期接種と任意接種がある.定期接種は1類と2類に分けられる.1類はDPTまたはDT,ポリオ,麻疹,風疹,日本脳炎,結核,2類は現時点でインフルエンザのみとなっている.麻疹と風疹については,麻疹・風疹混合ワクチンまたは各々単独で接種される.2006年からようやく麻疹・風疹混合ワクチンの2回接種となった.結核予防法が感染症法に統合され,BCGは定期接種1類になっている.インフルエンザ,ムンプス,水痘,B型肝炎,A型肝炎,肺炎球菌感染症,および定期接種でも対象年齢の枠外に行われる場合が任意接種とされる.外国との往来が激しい昨今,海外で種々の感染症にも曝される怖れがある.コレラ,狂犬病,肺炎球菌,Weil病秋疫混合などのほかに,旅行先によってはあらかじめ接種しておいたほうがよいトラベラーズ・ワクチンには,ポリオ,破傷風,日本脳炎,A・B型肝炎,狂犬病,黄熱病,腸チフスなどがある.

帯状疱疹ワクチン

著者: 本田まりこ

ページ範囲:P.151 - P.154

要約 帯状疱疹ワクチン(ZOSTAVAX ®)は,日本で開発された乾燥弱毒生水痘ワクチンを米国メルク社が自社でさらに3代継代したものをワクチンとしたものである.60歳以上の米国の高齢者4万人を対象に二重盲検法でワクチン接種を行い,中央値3.12年間の観察期間で,プラセボと比較して帯状疱疹の重症度61.1%,帯状疱疹後神経痛66.5%,帯状疱疹発症率51.3%(いずれもp<0.001)に減少させ,有効性と安全性が認められた.2006年,米国で承認され,次いでヨーロッパでも承認された.ZOSTAVAX ®と乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」について述べる.

皮膚科手術の際の抗血小板薬の中止指針

著者: 松村由美

ページ範囲:P.155 - P.157

要約 脳梗塞や虚血性心疾患,あるいは深部静脈血栓症の予防や再発防止のために,アスピリンなどの抗血小板薬やワルファリンなどの抗凝固薬を服用している患者は多い.皮膚科手術の際にこれらの薬剤を中止するか否かについては,中止によるリスクを十分に検討したうえで行うべきである.アスピリンの中止に伴い,脳梗塞または一過性脳虚血発作,急性冠症候群の発症リスクは増加する.ワルファリンの中止に伴い,心原性脳梗塞,深部静脈血栓症のリスクは増加する.一方で,アスピリンやワルファリンの中止をせずに皮膚科手術を施行したとしても,アスピリン投与は出血リスクを増大せず,ワルファリン投与は出血リスクが増大するものの,出血そのものが重篤な転帰に至ることは少ない.以上を勘案すると,皮膚科手術の際には,抗血小板薬や抗凝固薬を中止する必要性は少ないと考える.

サンスクリーン剤とプール水

著者: 佐々木りか子

ページ範囲:P.158 - P.160

要約 2007年7~9月に秋田県の某小学校において,水泳授業に際して30名の児童に耐水性サンスクリーン剤を使用させ,その後の水質調査を実施した.文部科学省のプール水質基準に規定されている測定項目に加えて,今回の試験ではプール水中の亜鉛濃度も測定を行った.亜鉛の水道水への排出基準は2007年12月に強化され,2mg/lと定められているが,それと照らし合わせても,プール授業時においては明らかに基準を下回っていた.そのほかの測定項目は遊離残留塩素の値を除き,プール授業期間中すべてにおいて基準値を逸脱することはなかった.

日本語版Cutaneous Body Image Scale

著者: 檜垣祐子

ページ範囲:P.161 - P.162

要約 自分自身の外見に関する内部からの見方をボディイメージという.本稿では皮膚に関するボディイメージについて概説し,その評価尺度であるCutaneous Body Image Scale (CBIS)を紹介する.CBISは日本語版への翻訳を終え,現在,計量心理学的検討の解析作業中である.ボディイメージはQOLとともに,患者アウトカムの指標の1つとして重要視されることが予想される.一般人のみならず,外見の変化を伴う皮膚疾患や身体醜形障害において,そのボディイメージの評価ツールとして日本語版CBISを用いることができれば,皮膚のボディイメージの研究に活用できるものと考えている.

Derm.2009

植物の生体防御機構

著者: 藤村響男

ページ範囲:P.26 - P.26

 元来,従属栄養生物であるヒトは,独立栄養生物である植物を食べることで,効率よく栄養素を獲得している.近年,植物の抗菌蛋白をアレルゲンとする食物アレルギーが問題となっている.植物の防御機構を調べていくと,ヒトの皮膚における防御機構との類似点に驚かされる.ヒトの皮膚において生物学的バリアとして重要な役割を果たしている常在菌叢は,種子植物の葉にも存在する.また,皮膚においては,汗とともに恒常的に分泌されるdermcidinや,炎症刺激によって発現するβ-defensin,cathelicidin といった抗菌蛋白が次の防御ステップを担うが,植物においても病原菌の感染に応答して蓄積してくるファイトアレキシンと,病原菌の感染以前から存在するファイトアンティシピンに分類される抗菌蛋白が防御の主役となっている.植物には獲得免疫系が存在しないため,植物の生体防御機構は2次代謝産物としての抗菌蛋白と過敏感細胞死を軸とした自然免疫系のみの対応となっているが,地球上のほぼすべての環境で生存していることから,その防御システムは極めて強力であることが推察される.これら抗菌蛋白の発現は,栽培条件によって大きく異なる可能性があり,無農薬栽培したリンゴでは,ある種の抗菌蛋白が農薬処理したリンゴより多く発現していたとの報告もみられる.植物の生体防御機構からすれば,当然の結果とも考えられる.昔,「赤いリンゴに口びるよせて」と歌われるリンゴの唄があった.今は口びるをよせると口腔内に違和感を感じるアレルギーの時代である.交差反応性が植物性食物アレルギーの病態を複雑にしており,無農薬リンゴで新たなアレルギーが発症するわけではないが,リンゴの気持ちがわからなければ皮膚科は務まらない.

「イヌ」の診断

著者: 池田光徳

ページ範囲:P.26 - P.26

 今日のポリクリで学生から質問を受けた.扁平苔癬の患者を診察した直後のことだった.とある教科書の1ページを示しながら,「この写真でどうして『扁平苔癬』の発疹と診断できるのですか?」という.

 写真には環状扁平苔癬が写っていた.

皮膚とこころ

著者: 上田英一郎

ページ範囲:P.33 - P.33

 北の地に「皮膚は愛を伝える臓器だ」と言った偉大な皮膚科医がいたと聞く.ここ数年,皮膚心身医学にかかわる機会に恵まれ,さまざまなことを学んだ.といっても,まだまだわからないことも多い(全部わかると思うことは冒とくだとも思うが).皮膚心身医学を学ばなければ,皮膚を扱うことの奥深さが理解できていなかったかもしれない.皮膚に何かトラブルを抱えて皮膚科を受診する患者のなかには,皮膚以外の問題,例えばそれはいじめであったり,夫からのDVであったり,子どもの発達障害であったり,その患者の人生にかかわる問題と絡んでいることがある.このような場合,いわゆる皮膚心身症と呼ばれるわけだが,皮膚の表面だけを診て,皮膚に焦点を当てた治療を続けても何も解決しない.それどころか,なかには,「治療しているのにちっとも良くならない」とクレームをつけてくる患者も出てくるだろう.

 全人的医療といわれて久しいが,疾患だけを診るのではなく,病に傷ついた人を癒すことができればと思っている.若い皮膚科医たちが,さらに「皮膚とこころ」について興味をもってくれることを望む.

脱毛症は治らないのか?

著者: 齊藤典充

ページ範囲:P.33 - P.33

 近年,男性のみならず女性でも脱毛症に悩んでいる方が増えてきているようです.脱毛症と一言でいってもその中には,円形脱毛症,男性型脱毛,粃糠性脱毛,びまん性脱毛,瘢痕性脱毛などさまざまなタイプがあります.最近の医学は急速に進歩していますが,どうも脱毛症の治療法は進歩がない.脱毛症は治らないのでは?皆さんはそんな印象をもっていませんか?少し前のあるTV番組では,これから10年以内にすべての脱毛症は治療が可能になり,脱毛症はなくなると未来予想をしていましたが,本当でしょうか.

 前に挙げたさまざまな脱毛症のうち,患者数の多いものは男性型脱毛と円形脱毛症です.このうち男性型脱毛は,ジヒドロテストステロンにより毛髪が軟毛化することにより生じます.テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する酵素を抑制する内服薬が本邦でも発売になったことにより,今の状態以上に毛髪が軟毛化することを食い止めることはできるようになったようですが,すでに失われてしまった毛髪を取り戻せるものではありません.次に円形脱毛症では,脱毛斑が単発のものや脱毛範囲が小さいものでは自然治癒もありえますが,脱毛を繰り返す症例や全頭ないし全身にわたって脱毛をきたす症例はなかなか治らないというのが皆さんの印象かと思います.その発症機序には免疫の異常が関与しているらしいということはわかってきましたが,詳細はまだ不明です.したがって,病態を根本から治す方法はなく,今のところ重症例は難治であるわけです.

沖縄の皮膚科―離島医療でのひととき

著者: 平良清人

ページ範囲:P.52 - P.52

 沖縄県は周囲を海に囲まれマリンスポーツの盛んなところですが,離島を多く抱える県でもあります.離島診療をどう行っていくかは大きな課題です.今までに私が離島診療を経験したところは石垣島,宮古島,久米島,与論島,与那国島などです.石垣島には常勤の先生(八重山病院皮膚科:青木武雄先生)がいて充実した皮膚科診療ができるのですが,ほかの島には常勤医師はなく,宮古島,久米島は琉球大学から毎週日帰りで診療を行っています(早朝便の飛行機で島に行き,最終便で戻ってきます).体力的にきついのですが,離島医療の一端を担っているという充実感があります.与論島,与那国島での診療はさらに大変です.月1回の診療しかなく,1か月先を見越した診察・治療が求められています.しかし,離島でしか体験できないことも多く経験させてもらいました.

病院ボランティアから学ぶこと

著者: 松山孝

ページ範囲:P.58 - P.58

 何の行きがかりか,ボランティア室長という役職を拝命して4年になります.当病院のボランティアの団体(一般社会人,学生)の活動報告を聞き,病院の業務を調整することが主な仕事です.当院の一般社会人の方の病院ボランティアの歴史は古く,開院時代から30余年の歴史があります.主な活動場所や内容は,患者さんの受診科案内や車いす搬送の手伝い,病棟への移動図書などです.今までボランティアというものに全く付き合いがありませんでしたので,当初は非常に戸惑いました.

 職員としての立場で役職を拝命した以上,ボランティアの皆様の労力を提供していただくが,病院の予算は使わないという仕事と理解し,ボランティアの運用を議論していました.しかし,実際は経済的なことだけでなく,いろいろな大学病院の問題点を指摘され気づくことがあります.その中のいくつかについて紹介します.

悩みのシフトとタッチ

著者: 小林裕美

ページ範囲:P.63 - P.63

 「これまで,何軒も病院を回ってきましたが,私の頭に触ってくださったのは先生が初めてです.嬉しい!」.多発性円形脱毛症の患者さんの初診時のことでした.「私の頭は,髪が抜けているうえに汗が混じってベタベタで,誰だって,触りたくないほど気持ち悪いのはわかっていたのです.ですから余計に,触りもせずに『脱毛症です.薬を出しておきましょう』と言われるたびに,ああ,またかという気分になっていました.今日,初めて私の頭に触ってくれる先生に会えました.それだけで,治りそうに思えます.」

 恩師の「皮膚科の診察では皮疹を手で触ることが重要である」というお言葉がよみがえり,こんな風に役に立つという意味もあったとは!とその深さに感じ入りました.

皮膚科の中の病理医

著者: 塩見達志

ページ範囲:P.86 - P.86

 病理専門医である私が,皮膚科に在籍して患者さんを診させてもらって1年になろうとしている.

 病理の恩師の影響を受けたためか,皮膚病理診断に魅かれ,この分野を極めてみたいと思うようになった.オーストリア(Department of dermatology, Division of dermatopathology, Medical University of Graz, Austria)に留学し,2007年には国際皮膚病理認定(http://www.icdermpath.org/boardc/index.htm)を取得した.留学中,お世話になったBossから,「皮膚病理は,2種類の目(肉眼像,顕微鏡像),手(触って,自分で生検)そして頭(これらを統合して考える)を使って実践するべきだ.」と教わった.この言葉が私の心に強く響いた.日本に戻ったら皮膚科のなかで皮膚病理を実践してみたいと思った.日本では,通常ではありえないお願いであったと思われるが,快く受け入れていただいた山元修教授のご厚意で現在に至っている.

きっかけ

著者: 田中英一郎

ページ範囲:P.99 - P.99

 臨床実習で回ってくる医学部5年生に志望の科を尋ねると,たいていの学生は「全部回ってからゆっくり考えたいと思っています.」と回答する.なかには「入学前から○○科(だいたい精神科もしくは脳外科)に決めています.」という心意気のある学生もいて感心させられる.「皮膚科も面白いですよね.」と皮膚科に興味をもってくれる学生を担当したらラッキーだ.皮膚科説明会と称して会計係に軍資金をせびり,繁華街に繰り出すことができるからである.しかし,5年生の時点で皮膚科志望などという殊勝な学生がそうそういるはずもなく,飲み会を開催できるのは年1~2回が限界である.数年後,彼らが皮膚科に入局し,地道な活動が実を結ぶことを願っている.

 私も医学部5年生の頃は,当然進路など全く決まっていなかったが,皮膚科の臨床実習で進路を決めた.実習で私は,重症成人型アトピー性皮膚炎の20代後半の女性Aさんを担当した.Aさんは幼少時にアトピーを発症し,成人になっても寛解せず急性増悪するたびに入院を繰り返していた.実は私も同様に幼少時にアトピーを発症した.近所の小児科で処方されたリンデロンVG®軟膏をたまに外用し,薬がなくなると放置.増悪してどうしようもなくなってから薬をとりにいくという,典型的なダメアトピー患者であった.ゆえにコントロールが良いわけもなく,中学校時代には膝窩,肘窩に苔癬病変が常に存在していた.体育の時間,半袖半ズボンになると,そのガビガビした皮膚が周囲にさらされるわけだが,多感な中学生には格好のからかいの的になるわけで,同級生から「田中君,気持ち悪い,汚い」とか言われたこともあった.今考えるといじめに近い状態だったかもしれない(きちんと治療をしない自分が悪いのだが).しかし,高校生になるとそんなことを言う奴もいなくなり,大学進学する頃にはアトピーは自然に軽快してしまった.

著者: 沢田泰之

ページ範囲:P.110 - P.110

 最近,長という立場について考えるようになった.2000年に墨東病院に医長として赴任した.2005年に部長となり,褥瘡予防対策委員長をはじめ,栄養委員会委員長,医療連携推進委員会委員長,医療連携室室長,DPC推進室室長と長がつく役職に就くことが多くなった.皮膚科部長としては常勤医師だけでなく,非常勤の先生や看護師,事務職員など多くの人々が私を助けてくれている.医療連携室室長では医事科職員,メディカルソーシャルワーカー,看護相談室など院内院外を含め,多くの先生方に助けていただいている.DPC推進室室長も同様で,医療連携室,DPC推進室とも室員だけで10名を超えるスタッフの助けを得て職務をどうにかこなしてきた.しかし,私自身はどうだろうか.長としてリーダーシップを発揮できているか,一人一人の職員をちゃんと見ることができているだろうか.

 孫子曰く,将に五危あり.必死は殺され,必生は虜にされ,忿速は侮られ,廉潔は辱められ,愛民は煩さる.部下に十分説明せず,自分だけで必死に頑張ろうとしすぎていないか.燃え尽きないように注意しすぎて,部下のやる気を損なっていないか.部下のことを十分にわかろうとせず,すぐに怒っていないか.規則や決まりに縛られて,部下のモチベーションを下げていないか.部下を大切に思いすぎて,本来の目標を見失っていないか.

“医師不足”の世の中で

著者: 渡辺大輔

ページ範囲:P.110 - P.110

 このところ診療拒否,たらい回し,医師不足などの記事や報道を目にしない日はないといってよいが,皮膚科においては純粋な医師不足の面以外にも,のべ患者数,つまり複数の医療機関を同時期に受診する患者さんが増えているのではないかと感じることが多い.実際,外来をしていると「近くのお医者さんにかかったけど,よくならないので来ました.」「いつ受診したの?」「昨日です.」「……(そりゃ良くならんわな).」といった会話が増えている気がする.「最近の患者さんは我慢が利かない,皮膚科外来はたらい回しじゃなく,患者さんが自分でたらいをかついでやってくる!」と愚痴ることもあるのだが,患者さんの話を聞いていると,「前の病院は薬だけ出されて様子を見ましょうと言われた.いつまで様子を見ればいいのか?だから心配で来ました」と言われることもあり,われわれの側にも問題があることに気づかされる.診断はした,処方もした,でも患者さんの不安を取り除いていないケースがこういう事態を生んでいるのかもしれない.きちんとした診断,治療はいうまでもないが,忙しい外来のなかでも,患者さんの3大質問「うつるのか? うつらないのか?」「内臓が悪いのか?」「風呂に入って石鹸を使ってもいいのか?」に丁寧に答えること(ちなみに患者さんから聞かれる前に答えてあげると,信頼度が上昇します),急性疾患でも慢性疾患でも今後の見通し(かゆみ,痛みはいつとれるのか? 肌はいつきれいになるのか?)を立て,患者さんの不安をとり除くこと,外用の仕方をきちんと指導すること.当たり前のことではあるが,“医師不足”の世の中で,皮膚科専門医としての存在感(科学に裏打ちされた予言者としての役割も含めて)を日々の診療のなかで発揮していこうと改めて思った次第である.

近ごろ漢字を忘れてしまいませんか?

著者: 爲政大幾

ページ範囲:P.120 - P.120

 最近,葉書を書くときや講演を聞きながらメモするときなどに,ごく簡単な漢字を思いつかなくて困ってしまうことが多くなりました.漢字や熟語に関するテレビのクイズ番組を見ていても,読むほうはそこそこできても,書くとなると簡単な漢字でも思い出せないことがしばしばあります.身近な人に訊ねてみても,やはり同じように「最近,漢字が書けなくなった」という声が多いようです.

 学生時代ほどは本を読まなくなったといっても,皮膚科は学生には嫌がられるほど特に難しい漢字の病名が多く,仕事柄,漢字に触れる機会は減ってはいません.じゃあ,何がいけないのかと考えてみると,やはりパソコンを使うようになって自分の手で漢字を書く機会が減ったのが最大の理由のように思えます.ワープロソフトを使うようになってから,手書きする機会はぐんと減りましたし,電子メールを利用するようになってからは,その機会がいっそう減りました.勤務先病院の電子カルテ化によって,カルテのみならず紹介状やその返事,診断書と手書きするものがどんどん減ってしまい,漢字を書く機会が激減してしまったことが,私の漢字能力の減退に拍車をかけているように思えてなりません.

地方大学医局事情

著者: 清原隆宏

ページ範囲:P.135 - P.135

 慢性的な人手不足である.誰のせいなのだろう? 普段から学生を魅了して入局させることができなかった教授や准教授(私)のせいなのか,それとも….いろいろ考えてみるが,もし自分たちのことを棚に上げて責任転嫁するとしたら,やはり数年前に始まった前期臨床研修制度の影響だろう.卒後2年間は入局することがないため,はるか3年先のためにはとてもとても…と学生勧誘を中止してしまった.これが計算違いで,学生とのコミュニケーションも自然と徐々に少なくなり,当然ながら3年後には1人も入局しなかった.2年前にはどんな学生がいたかの記憶もないため,焦っても対応さえできない.これではまずいということで,一昨年くらいからポリクリ学生との懇親会などを再開し,最近やっと学生が親近感をもってくれるようになり,何かというと私の部屋を訪ねてくるようになった.西医体に行って来たと言っては,土産を持参して結果報告に来るというようなことも多い.彼らが医局を選択する数年後に期待して,しばらく勧誘を続けていくつもりである.

 マッチングで当大学に残るのは100名中30人前後である.それでも同クラスの地方大学の中ではかなり健闘しているとのことで,前病院長が何かの会で厚生労働省からノウハウを講演させられたほどである.たった30人を各科で取り合うのだから,皮膚科入局者がゼロでも仕方ない状況である.大都市の医局には何十人もの入局希望者があり,試験まで行われている.ある大都市の大学の先生は,「数年以内に美容で開業したいのばかりで,まともに皮膚科をやろうなんてのは少ないよ」なんて贅沢な悩みをこぼしていた.しかしながら,地方大学の現状は惨憺たるもので,どんなきっかけでも,多少出来が悪くても,とにかく入局して欲しいという状況である.

皮膚科学における芸術性

著者: 山口裕史

ページ範囲:P.141 - P.141

 「State-of-the-art」という言葉がある.「最新の」という意味で,学会などで見受けられる.「art」の訳には「技術」よりは「芸術」が真っ先に思い浮かぶ.このコラム執筆機会を頂戴し,皮膚科学と芸術との意外な共通項が見えてきた.

 芸術には興味がある.幼い頃から絵画教室に通い入選した作品も多く,芸大への進学を考えた時期もある.医学部卒業時は,芸術的手術に憧れ形成外科に入局した.妹夫婦はアトリエグラディスというステンドグラス工房を営んでいる.職人的な伝統手法のなかに芸術性の高い斬新なデザインも取り入れており,見ていて飽きない.芸術に造詣の深い皮膚科医は意外と多い.論理的・客観的・絶対的な科学と感覚的・主観的・相対的な芸術とは共通項がないように思うかもしれないが,皮膚科学は外見,特に色彩・質感に強く訴えかける学問である.論文執筆や学会発表の際も,芸術性が要求されることが見えてくる.残念ながら,私の論文・発表を見聞きして下さった先生方は,その芸術性に全く気付かれなかったかもしれない.パワーポイントを使いこなせず稚拙だが,私なりには最大限努力した納得のいく芸術作品である.拘っている点を紹介する.

自分の中の差別意識

著者: 関東裕美

ページ範囲:P.144 - P.144

 女に生まれて随分長い時間を経験し,女にしかできない出産も経験したが,家庭内で女として過ごす時間はあまりない.残念ながら家には寝に帰るだけという状況は,医師という職業上,男も女もある程度強いられるわけで,家庭生活を円満に続けることは本当に難しいことなのだろうと思う.葛藤の中,20年間家庭生活を続けたが,妻という立場を社会的に捨てて医師として働きやすい条件を自ら作り上げた.爽やかに働いているつもりではあるが,「もう少し肩の力を抜きなさい」という温かい忠告を,素敵な男性医師たちからいただく.医師として働いている時間は自分が女であることを忘れてしまうが,女に見える程度の努力はしているので,初診の患者さんたちからは「女医だ~」という不信感あふれる思いが伝わってくることがある.若いときには自分のもっている限りの知識と情熱でそんな不信感を吹き飛ばし,信頼を勝ち取ることを心掛けていたが,最近は聞き上手になり,患者さんの意思を尊重するようになってきた.

 そもそも男医という言葉はないのに女医といわれるのは,“医師は男”という概念があるからだろうと差別を感じているのは自分だけだろうか.能力のある素敵な女性たちが社会を支えているのを実感してはいるが,実際は多くの分野で,日本だけでなく男性中心社会のようである.肩肘張って生きていこうと思っているわけではないのに,つい肩に力が入ってしまうのは,自分の中の差別意識のせいかもしれない.愛する人は「どうして男と闘うのよ」とやさしく笑うが,毎日の診療に闘いは必要である.一方,子どもたちとは闘えずに白旗ばかりの駄目母で,彼らには母親よりも仕事優先で働かせてもらっている負い目がある.母としての時間を捨てるわけにはいかないのに,学校行事などまず参加不可能だし,後ろ姿ばかりを見せて教育が成功するほど現代社会は甘くない.仕事に魅力を感じると結婚をし損なう気持ちは十分わかるし,結婚したら家庭で夫と子どもの支えになり,ひいては社会の支えになる女としての生き方は,自分にはできなかったけれど大いに魅力的だから,教室員が望めば反対はしない.平和に穏やかに生きていきたいと思うけれど,他人に危害を与えないように,より魅力的に生きていくために自分に鞭打つ闘いならば良いことにしてもらおう.差別感をむしろエネルギーにして毎日必死に生きていると思うけれど,仕事と心と体の良いバランスを保つのは本当に難しい.

膠原病でなく糖原病

著者: 濱崎洋一郎

ページ範囲:P.149 - P.149

 私は外来診察が遅い.特に電子カルテとなってなおさらである.診療記録を入力するときブラインドタッチができないので,画面でなくキーボードばかり見ているため,入力ミスや変換ミスが多く,最後に修正が必要となる.検査のオーダーを1つ出すのにも,マウスで矢印を移動させパソコン画面上の小さなアイコンを探してクリックするが,探している検査オーダーが見つからず,あちこちクリックするので余計に時間がかかる.時に自分が,ボタンを押すとバナナが出てくるよう学習実験されているサルのように思えてくる.

 しかし,それ以外にも原因はある.思ったように症状が改善しない症例や,診断に疑問が残る症例で問診が長くなるのである.職業,出身地は当然であるが,趣味,嗜好,家族構成,居住環境,入浴習慣に始まり,その人の人生の歴史を詳細に聞いてしまう.「Listen. Listen to the patient:He is telling you the diagnosis.」(井上勝平:皮膚病診療ノート,p13).やはり,問診が診断への早道と思うからである.

2008年「今年の漢字」を振り返って

著者: 秋田浩孝

ページ範囲:P.154 - P.154

 2008年の世相を表す漢字として「変」が選ばれた.政治,経済をはじめ生活面や気候面でも変化や変な現象が生じた1年だったと思う.小生にとって今年「変」という漢字が当てはまることは,国内外を含め学会発表が多かった以外にはなかった(と信じている).しかしこの数年間,学会発表が増えている理由には,やはり自分の中での変化や上司からの良き導きがあったからである.

 入局当時,レーザー治療を含め美容皮膚科領域に全く興味がなかった小生であったが(入局当時は職業アレルギーに興味があった),ある学会に参加して以降,変化が訪れた.研修医1年目の秋,当時の医局長が宇都宮市で開催される日本臨床皮膚外科学会で発表するため一緒に来ないかと誘われた.宇都宮といえばおいしい餃子を食べられると思い,喜んで参加することにした.学会場では,緒先生方の後ろをついて回り,皮膚科・形成外科が熱く討論をしている学会に感動していた.予定どおり夜は餃子を食べ,ほろ酔い気分になったことは覚えている.

原因は何ですか

著者: 小林孝志

ページ範囲:P.157 - P.157

 患者さんと向き合っていることで,多くのことを勉強した.発疹の変化の観察は重要で,今でも大変お世話になっている先輩に以前,じっとしていてずうっと見張って観察していても発疹はそう急には変化するものではない,が経過を見ることはとても大事である,と教わった.確かに,例えば外来で定期的に通われる患者さんより,環状肉芽腫で発疹の拡大する様子や,湿疹三角での原発疹と続発疹との関係を含めた時間経過の様子を診ることもできた.四次元皮膚科と名付ける先生もいらっしゃるところである (皮病診療30:351, 2008).

 このような発疹の観察もさることながら,患者さんとのやりとり,いわゆるムンテラも勉強になる.やはりお世話になっている別の先輩からは,ある病院では特に,患者さんからの「原因は何ですか」という質問が多い,とご教示頂いた.その病院に実際に勤務して,これが本当であることを実感した.まるで,患者さん同士が示し合わせたかのように,この質問をされるのである.例えば,アトピー性皮膚炎に関し,比較的時間をかけてアトピー素因と環境因子,掻破が悪化因子であることなどをお互いにコミュニケーションをとりながら説明し,薬の処方や次回の再来予定についても整え,患者さんとの一応の信頼関係が構築され納得されたのではないかという期待をこちらが抱いた瞬間,改めてこの一言,「原因は…」を切り出されるのである.それでは一体,何を説明してきたのかと暗澹たる気分になるのであるが,先ほどの説明ではわかりにくかったのではないかと改めて言い回しを変えたり,より詳しく苔癬化病変の成因に触れたりして対処していた.後に,このような患者さんは大都市の比較的郊外,いわゆるドーナツ化現象といわれるニュータウンに多いように感じ,後輩とともに“ニュータウンシンドローム”などと名付けていた.

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あとがき

著者: 瀧川雅浩

ページ範囲:P.164 - P.164

 かつてポスドクとしてYale大学で研究したのであるが,アメリカを離れて30年以上経った今も,なぜかYale alumuniの一員として様々な情報が大学から送られてくる.そのうちの一つがYale Medicineという同窓会誌である.医学部のいろいろな情報が満載で,しかも一般向けの記事として書かれているので,読んでいても楽しい.昨年の夏号に,2008年のマッチングが“Match Day2008”として掲載されていた.これによれば,全米22,240の一年目レジデントポジションに28,000人の卒業生が応募.すなわち,厳しいコンペティションで,約6,000人があぶれるのである!Yale大学卒業生は97人で,全員がマッチに成功した.Yaleに残ったのは16人.学生部副部長は“I couldn’t be happier.”と,大喜びである.マッチがうまくいったと,学生同士抱き合っている写真がたくさん載っていた.マッチングとは,数々のインタビューをこなして狙った病院で研修できることであり,マッチングの成功はうれしいことであろう.一方わが国では,私の記憶が正しければ,2009年度のマッチングでは12,000のポジションに応募する学生が8,000人足らず.3月に入っても,まだ就職する病院を決めていないという学生がいた.受け入れ病院は腐るほどあるわけで,これではどう考えても本来のマッチングではない.インタビューもなし,学生は好き勝手に病院を選ぶ.来てもらう病院は学生に媚を売る!明治開国,いやそれ以前から,島国の日本は独自の文化を持つがゆえに,外国文化への憧れは強かった.多くの場合その取り入れはうまくいったわけだが,時に大きな失敗をすることもあった.マッチングもその最たるものの一つであろう.今の医療崩壊を見れば歴然である.最近の新聞コラムの記事であるが,筆者である有名な経済人が,若い頃Harvard大学に留学し,帰国後は「なんでもアメリカ一番」で仕事をやってきたが,最近その誤りに気づいたという.私と同じぐらいの年齢であろう.その頃の日本とアメリカを比べれば,そういう気持ちを生涯持ったとしても不思議ではないと思う.医療といえども,文化の中でそのコンテンツは育つ.アメリカの医療をそのまま日本に持ち込んでも,いろいろな場面で摩擦が起きるだけでうまくいかない.日本の文化の中で消化して取り込まねばならない.残念なことは,いまだに「じょうきせん,たった四はいでよるもねむれず」の医療従事者が日本医学会のリーダーの中にいることである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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