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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科63巻5号

2009年04月発行

Derm.2009

植物の生体防御機構

著者: 藤村響男12

所属機関: 1北里大学医学部皮膚科学 2北里大学大学院医療系研究科環境皮膚科学

ページ範囲:P.26 - P.26

文献概要

 元来,従属栄養生物であるヒトは,独立栄養生物である植物を食べることで,効率よく栄養素を獲得している.近年,植物の抗菌蛋白をアレルゲンとする食物アレルギーが問題となっている.植物の防御機構を調べていくと,ヒトの皮膚における防御機構との類似点に驚かされる.ヒトの皮膚において生物学的バリアとして重要な役割を果たしている常在菌叢は,種子植物の葉にも存在する.また,皮膚においては,汗とともに恒常的に分泌されるdermcidinや,炎症刺激によって発現するβ-defensin,cathelicidin といった抗菌蛋白が次の防御ステップを担うが,植物においても病原菌の感染に応答して蓄積してくるファイトアレキシンと,病原菌の感染以前から存在するファイトアンティシピンに分類される抗菌蛋白が防御の主役となっている.植物には獲得免疫系が存在しないため,植物の生体防御機構は2次代謝産物としての抗菌蛋白と過敏感細胞死を軸とした自然免疫系のみの対応となっているが,地球上のほぼすべての環境で生存していることから,その防御システムは極めて強力であることが推察される.これら抗菌蛋白の発現は,栽培条件によって大きく異なる可能性があり,無農薬栽培したリンゴでは,ある種の抗菌蛋白が農薬処理したリンゴより多く発現していたとの報告もみられる.植物の生体防御機構からすれば,当然の結果とも考えられる.昔,「赤いリンゴに口びるよせて」と歌われるリンゴの唄があった.今は口びるをよせると口腔内に違和感を感じるアレルギーの時代である.交差反応性が植物性食物アレルギーの病態を複雑にしており,無農薬リンゴで新たなアレルギーが発症するわけではないが,リンゴの気持ちがわからなければ皮膚科は務まらない.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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