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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科63巻7号

2009年06月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・22

Q考えられる疾患は何か?

著者: 大草康弘

ページ範囲:P.449 - P.450

症例

患 者:62歳,女性

初 診:1998年7月27日

主 訴:顔面の多数の小水疱

既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.

現病歴:10年前より夏になると前額,眼瞼,鼻背,頰部,上口唇に多数の小水疱が出現し,秋になると消退するようになった.今年も6月中旬より同様に小水疱が多数出現したため来院した.なお,これら小水疱は暑い日や発汗により増悪するという.

現 症:前額,眼瞼,鼻背,両頰部,上口唇に常色から淡青色,栗粒大から半米粒大までの小水疱が多発散在性に認められる.自覚症状はない.

原著

2007年に当院で経験した成人麻疹49例の検討

著者: 種瀬朋美 ,   大井三恵子

ページ範囲:P.452 - P.457

要約 2007年は成人麻疹が流行し社会的問題となった.当科を3~7月までに受診した49例の臨床所見,検査所見について検討した.入院症例は26例であった.診断は臨床症状により行い,非典型的な症例の診断についてはEIA法による麻疹IgM抗体の上昇を確認した.皮疹は修飾麻疹の7例を除いていずれも典型的であった.Koplik斑を認めたものは49例中35例,入院症例26例において異型リンパ球出現を認めた.入院症例において,有熱期間は平均8.2日,肝機能障害は26例中18例であった.平均26.7歳と発症の中心は20歳台であり,小児期にワクチン接種を施行したものでも発症していた.皮膚科医の果たす役割として,修飾麻疹を麻疹として診断し報告すること,およびワクチン複数回接種を推進することが重要である.

症例報告

マムシ草による口唇口内炎の1例

著者: 石川博康

ページ範囲:P.458 - P.460

要約 69歳,男性.自宅に観賞用のマムシ草を栽培している.赤く熟した実を口にしたところ,直後から激痛とともに舌~口唇が浮腫性に腫脹し,口腔内に小潰瘍が多発した.炎症はきわめて高度で,数日は水分しか摂取できず,受傷6日目に受診したが,舌~口唇の腫脹は著明で,下口唇には小潰瘍が多数認められた.ステロイド薬内服で軽快したが,受傷10日目でもまだ粘膜症状は残存していた.マムシ草のようなシュウ酸塩含有植物の中毒は決して稀ではなく,特に形や色が派手なマムシ草の実は小児が興味をもちやすいため,保護者と医療関係者は十分な注意が必要である.

妊婦に生じたアナフィラクトイド紫斑の1例

著者: 浦部由佳里 ,   藤山幹子 ,   白方裕司 ,   村上信司 ,   橋本公二 ,   越智博

ページ範囲:P.461 - P.465

要約 24歳,女性.2006年9月,妊娠24週時より両下腿に浸潤を伴う紫斑が出現.徐々に水疱,膿疱を伴う結節を形成するようになった.皮膚生検ではleukocytoclastic vasculitisの所見で,アナフィラクトイド紫斑と診断した.入院7日目より心窩部痛,嘔吐があり,上部消化管内視鏡で十二指腸炎を認め,プレドニゾロン®30mg/日の内服を開始した.また,入院中に尿蛋白も出現した.下肢の結節部は中央に潰瘍を形成し,完全に上皮化するまで約3か月を要した.妊娠39週時に経腟分娩で3,937gの女児を出産したが,分娩時の皮疹の増悪は認めず,児にも問題はなかった.胎盤組織では一部に梗塞像を認めたが,血管炎の所見は認めなかった.

広範囲な横紋筋壊死を伴ったcoma blister

著者: 濱野英明 ,   安岡英美 ,   木花光

ページ範囲:P.466 - P.468

要約 33歳,女性.向精神薬の多量内服にて意識を消失し,3日間自宅で倒れていた.顔,前胸部,四肢に壊死を伴う潰瘍を認めたため,coma blisterと診断した.大腿の潰瘍は特に深く,MRI上,広範囲にわたり筋層まで壊死しており,全身麻酔下にて筋層までのデブリードマンを要した.Coma blisterは,意識のある患者に生じた単なる褥瘡とは異なり,皮膚および皮下組織の壊死にとどまらず,横紋筋融解症を併発することが多い.Coma blisterを診たときは,横紋筋壊死および横紋筋融解症の合併を念頭において治療すべきである.

子宮頸癌を合併した外陰部の好酸球性膿疱性毛囊炎の1例

著者: 赤木愛 ,   中島利栄子 ,   松島佐都子 ,   本田えり子 ,   戸田憲一

ページ範囲:P.469 - P.472

要約 42歳,女性.外陰部に強い掻痒を伴った孤立散在性に多発する丘疹なし小結節を主訴に来院した.初診1年前より,ステロイド外用療法を行っていたが,これら皮疹は治療抵抗性だった.初診3か月前より子宮頸癌にて,放射線療法と化学療法が施行され,その頃より皮疹は増悪をきたした.丘疹よりの生検組織像では,毛包とその周囲のびまん性好酸球浸潤を認め,好酸球性膿疱性毛囊炎と診断し,インドメタシン50mg/日の全身投与にて皮疹は2週間後に著明に改善した.

乾燥が増悪因子と考えられた扁平苔癬の1例

著者: 堀江千穂 ,   水川良子 ,   早川順 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.473 - P.476

要約 66歳,女性.2006年8月,下肢を中心に小豆大までの紫紅色斑が出現した.近医皮膚科にてステロイド外用療法を6か月受けたが改善なかった.2007年4月当科初診時,小豆大までの軽度鱗屑を付す紫紅色斑が右下肢を中心に四肢・腰背部に分布していた.触診上,皮疹が密に分布する右下肢は乾燥傾向が強く,反対側の皮疹部と比べ経表皮水分蒸散量(TEWL)の上昇と角質水分量の低下を示した.病理組織学的には,表皮基底層の液状変性を伴う帯状のリンパ球浸潤が主体で,扁平苔癬と診断した.汗腺・汗管の拡張を伴う汗貯留像を特徴的に認めた.以上の所見から,自験例の発症には発汗低下に基づく乾燥が増悪因子となった可能性が考えられた.ステロイド外用を直ちに中止し,保湿剤のみの外用で,3か月後には鱗屑・紅色丘疹ともに著明に消退した.皮膚の乾燥が増悪因子となっている扁平苔癬に対し,漫然とステロイド外用を続けるべきではないと考える.

Collagenous fibromaの1例

著者: 米田真理 ,   矢島智子 ,   菊池麻衣子 ,   大畑千佳

ページ範囲:P.477 - P.480

要約 58歳,女性.3年前から左下腿に境界明瞭な皮下腫瘍が生じ,徐々に増大してきた.初診時,左下腿前面に境界明瞭で大きさ1.5cmの皮下腫瘍を認めた.弾性硬で下床との可動性はなかった.MRIにて,左下腿伸側の皮下に筋膜に接して1.1×0.4cmの境界明瞭な結節を認めた.T1,T2強調像ともに低信号を呈し,T1造影で染まらなかった.病理組織像は,境界明瞭で膠原線維を豊富に認め,血管腔は乏しかった.両染性の細胞質を有する星芒状,あるいは紡錘形の線維芽細胞が低い密度で増殖しており,細胞異型は乏しく,核分裂像は認めなかった.免疫組織学的染色では,腫瘍細胞はビメンチン陽性であり,smooth muscle actin,S100,デスミン,EMA,サイトケラチン,CD34は陰性であった.以上の所見から,collagenous fibromaと診断した.切除後再発はない.

疣状黄色腫の1例―ヒト乳頭腫ウイルス感染の検討

著者: 山本晃三 ,   種瀬啓士 ,   原藤玲 ,   若林亜希子 ,   宮川俊一

ページ範囲:P.481 - P.483

要約 61歳,男性.約3年前より右陰囊部の腫瘍があり,徐々に増大した.病理組織学的に表皮の過角化および乳頭状増殖,真皮乳頭層に泡沫細胞および形質細胞,組織球の浸潤を認めた.特殊染色で真皮乳頭層の泡沫細胞に一致してCD68陽性細胞がみられた.以上より疣状黄色腫(verruciform xanthoma)と診断した.

 本症では,ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)との関与が検討され,証明された報告例もあるが,自験例においてはHPVカプシド蛋白L-1に対する染色は陰性,HPV-PCRも陰性であった.慢性経過をとり,さまざまな病原体が付着する機会が多く,偶発的感染の可能性があっても,直接的な病因に関与することは否定的な報告が多く,自験例もそれを支持するものである.

左前腕に生じた色素性eccrine poroma(Pinkus型)の1例

著者: 伊藤理英 ,   福田英嗣 ,   鈴木琢 ,   宇佐美奈央 ,   向井秀樹

ページ範囲:P.485 - P.488

要約 74歳,女性.7~8年前より左前腕に小結節が出現した.自覚症状がなく放置していたが,徐々に増大してきた.当科受診時,左前腕屈側に6×4mm大,やや青みをおびた灰黒色,周囲は淡い褐色調,表面平滑,弾性やや軟の境界明瞭な小結節を認めた.ダーモスコピー所見は,全体は青黒色でwhitish veilが覆っており,一部茶褐色調を呈した.病理組織像は,表皮から連続し真皮内に境界明瞭なporoma cellを主体とした腫瘍塊があり,一部で管腔構造や囊腫様構造も認めた.Poroma cellの細胞質内に多くのメラニン色素があり,間質部分には多くのメラノファージを認めた.以上より,色素性eccrine poroma(Pinkus型)と診断した.自験例では真皮網状層に多くメラニン色素が存在したため青色母斑と同様の色調を呈したものと考えた.

Giant vascular eccrine spiradenomaの1例

著者: 星野洋良 ,   田中京子 ,   稲積豊子 ,   土方英史

ページ範囲:P.489 - P.492

要約 59歳,男性.30年前より存在していた左前胸部腫瘍が4~5年前より急激に増大した.初診時,5×7×3cm大,暗紅色調の巨大な腫瘤を認めた.病理組織学的には,拡張した囊腫構造と充実性腫瘍胞巣が混在し,間質内には,著明な出血像と血管の増生,拡張した管腔が散見された.腫瘍巣は管腔構造または索状を呈しており,これらは中心部を構成する大型の細胞と,辺縁部の好塩基性の核を有する小型の細胞から構成されていた.免疫組織化学的には,CEA,EMA染色では,管腔を構成する腫瘍巣の内壁に一致して染色され,S100蛋白染色は,腫瘍巣中心部を構成するヘマトキシリン淡染性の大型細胞に陽性であった.以上より,eccrine spiradenomaの1亜型であるgiant vascular eccrine spiradenomaと診断した.

デスミン陽性のdesmoplastic malignant melanomaの1例

著者: 株本武範 ,   田中英一郎 ,   土屋和夫 ,   松山麻子 ,   五十嵐加奈子 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.493 - P.496

要約 65歳,男性.1年前より右踵に青色斑が出現し,半年前から同部位が赤色に隆起した.初診時,右踵に表面潰瘍化を伴う直径1.5cmの赤色腫瘤を認めた.生検の結果から間葉系悪性腫瘍が疑われ,拡大切除およびセンチネルリンパ節生検を行った.病理組織検査では,線維性間質を背景に異型な紡錘形細胞の束状増生と,異型な類円形細胞の結節状増殖を認めた.また,表皮内の一部に異型メラノサイトが増殖していた.免疫染色所見で紡錘形細胞はS100蛋白,ビメンチン,α平滑筋アクチン,デスミンが陽性,類円形細胞はS100蛋白,ビメンチン,HMB-45,メランAが陽性であった.以上の所見から,desmoplastic malignant melanomaと診断した.本症は間葉系腫瘍との鑑別に苦慮することも多い稀な悪性黒色腫の1亜型であり,デスミン陽性例は非常に稀である.

Myopericytomaの1例

著者: 徳住正隆 ,   有本理恵 ,   古橋卓也 ,   高木肇 ,   立山尚 ,   杉浦浩

ページ範囲:P.497 - P.500

要約 50歳,男性.8年前,右膝の有痛性結節に気づいたが放置していた.増悪はみられないが疼痛が持続するため受診した.右膝外側に13×10mmの境界明瞭な紅色の圧痛のある皮下結節を認め,局麻下で全摘した.病理組織所見では,真皮深層に境界明瞭な被膜のない結節を認め,小型の血管が増生し,腫瘍の中心では血管周囲に類円形~紡錘形細胞の密な増殖を伴う同心円状の構造,辺縁では類洞状血管腔の発達と一部圧排像を認めた.免疫染色ではα-SMA陽性,デスミン,CD34,CK20,S100蛋白陰性でmyopericytomaと診断した.

肝酵素値上昇を伴ったマイコプラズマ感染による結節性紅斑

著者: 西薫 ,   中村哲史 ,   橋本喜夫 ,   水元俊裕 ,   飯塚一

ページ範囲:P.501 - P.504

要約 44歳,女性.38.5℃の発熱,安静により解熱後,2008年6月11日頃より両下肢に痛みを伴う紅斑が出現し,徐々に拡大してきた.初診時両膝から足首にかけて,鶏卵大までの鮮紅色から淡紅色の有痛性紅斑がみられ,一部に紫斑を認めた.初診時発熱はなかったが,血液検査で白血球値,CRP,肝酵素値が上昇していた.皮下脂肪織の葉間結合組織へ組織球,リンパ球,好中球が浸潤していた.マイコプラズマ抗体(PA法:IgM+IgG)が6月17日に160倍,6月20日に640倍,マイコプラズマ迅速検査(EIA法:IgM)陽性であった.以上の臨床像,臨床経過,検査結果より,マイコプラズマ感染症による結節性紅斑と診断した.クラリスロマイシン400mg内服により,1週間ほどで皮疹は改善し,肝酵素も正常化した.

G群溶連菌によるstreptococcal toxic shock syndromeの1例

著者: 岡田玲奈 ,   林裕嘉 ,   齊藤玲子 ,   木花いづみ ,   碓井真吾 ,   荻原通 ,   山口健治

ページ範囲:P.505 - P.509

要約 71歳,男性.糖尿病の既往あり.1週間前に打撲した右足関節周囲の発赤・腫脹・疼痛が増強し,呼吸苦も伴い,当院救急外来を紹介され,即日入院し,足背から大腿中央にいたる壊死性筋膜炎で,ショック状態を呈し,急性呼吸窮迫症候群,全身の紅斑を合併していた.同日緊急デブリドマンを施行し,人工呼吸器管理下に,抗菌薬,γ-グロブリンの投与とともに持続血液濾過透析を開始した.2日後に状態は安定し,足関節内に感染が及んでいたため,下肢切断を余儀なくされたが,救命し得た.血液・創部よりG群溶連菌であるStreptococcus dysgalactiaeを検出した.近年,A群同様重症化するG群溶連菌による感染症の報告が増加しており,注意を要するとともに,診断名もA群溶連菌に限らず,ほかの溶連菌によるものも含めてstreptococcal toxic shock syndromeに統一することが望ましい.自験例のような症例の診断名,toxic shock-like syndromeの診断基準も含めて再考の必要がある.

手掌に生じた黒癬の1例

著者: 大山文悟 ,   兵部理恵 ,   大山勝郎 ,   永尾圭介 ,   橋本隆

ページ範囲:P.510 - P.512

要約 17歳,女子高校生.約1年前より左手掌の色素斑に気付いていた.初診時に境界明瞭なピーナッツ型を呈する淡い黒色調の色素斑がみられた.直接鏡検にて特徴的な黒色調の短い菌糸状菌要素が多数みられ,真菌培養では黒褐色調の湿性酵母様集落を生じた.スライドカルチャーでは,密な隔壁をもつ菌糸とその側壁からの分生子産生を認めた.以上より,黒癬と診断した.さらに核ribosomal RNA遺伝子のITS領域をPCRで増幅し,Genebankで検索したところ,塩基配列がHortaea werneckiiと一致し,分子生物学的にも同定が裏付けられた.黒癬患者の報告例は東日本でも増加し,今後も増加するものと思われる.

治療

高圧乳化製法による新規ワセリン製剤DRxADの保湿能評価およびアトピー性皮膚炎患者に対する有効性ならびに安全性評価

著者: 菊地克子 ,   相場節也 ,   石崎千明 ,   沼野香世子 ,   田島麻衣子 ,   川島眞

ページ範囲:P.513 - P.522

要約 新規ワセリン製剤である保湿外用剤DRxADについて臨床試験を実施し,その機能を検証した.まずDRxAD,医薬品,医薬部外品の保湿外用剤5種類を健常人の前腕皮膚の5か所にそれぞれ塗布し,単回塗布した場合の保湿効果について角層水分量を指標として比較検討した.次に乾燥を主体とする軽微な症状を有するアトピー性皮膚炎患者36例を対象として,左右の前腕皮膚にDRxADあるいはワセリンを3週間塗布し,皮膚所見の観察,痒みの程度の問診,角層水分量および経表皮水分喪失量の測定,使用感に関するアンケートを行い,比較検討した.その結果,健常皮膚における保湿能評価試験で,DRxADは塗布直後から医薬品保湿外用剤に劣らない角層水分量の上昇と,塗布8時間後まで持続する高い角層水分量を示した.アトピー性皮膚炎患者を対象とした試験では,DRxADは塗布前と比較し,塗布期間を通して皮膚所見,掻痒,角層水分量において有意な改善を認めた.またワセリンとの比較では,特に角層水分量の上昇において有意な差を認め,その他使用感についても大きく改善されていることを示す結果を得た.安全性においてもワセリンに劣らない結果が得られ,DRxADはアトピー性皮膚炎患者の乾燥皮膚に対して有用であることが示唆された.

圧迫用イヤリングと落下防止テープによる耳垂ケロイドの治療

著者: 小川真希子 ,   磯田憲一 ,   袴田新 ,   水谷仁

ページ範囲:P.524 - P.528

要約 20歳台,女性.初診の約2年前に左耳垂にピアス孔を開け,母指頭大のケロイドとなった.トラニラスト内服やトリアムシノロンアセトニド局所注射による保存的治療を施行したが効果なく,9か月目に切除術を施行した.術後2か月目で受診が途絶え,1年10か月後に豌豆大のケロイド再発にて再受診した.保存的治療を再開したが,さらにくるみ大にまで増大したため,4か月後に再切除術を施行した.再発予防の後療法としてイヤリング型の固定器による圧迫療法も開始した.イヤリングの落下紛失を防ぐために,自ら工夫したイヤリング落下防止テープ(特許取得)を適宜併用した.これにより落下紛失することなく治療が継続でき,術後14か月目において再発はない.

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あとがき

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.532 - P.532

 20年間,毎年欠かさず出席していた米国研究皮膚科学会(The Society for Investigative Dermatology:SID)に今年出席することができなかった.連続参加記録などがあるものではないが,大変残念であった.理由は,新型インフルエンザの発生に伴い大学医学部・病院より出されたメキシコ,アメリカ,カナダへの渡航禁止令のためである.国別でみると,出席を辞退したのは日本,中国が目立っていたようである.アメリカ,ヨーロッパからはほぼ通常通り参加していたと聞く.この異なる対応は,個人による判断が重視され,個人責任が確立している文化と,人と違うことをすることを認めにくい,全体責任が強い文化との違いを反映しているとも感じられる.グローバル化していく社会の中で,国境,境目というのが見えにくくなっていると感じている最中に,境界が明確に存在していることを忽然と再認識させられた.

 モントリオールへの出張を急遽取りやめたために,5月のゴールデンウィークに時間ができてしまった.そこで,黒木登志夫さんの「健康・老化・寿命─人といのちの文化誌」と「落下傘学長奮闘記─大学法人化の現場から」を読んだ.黒木先生は,角化細胞を含めた上皮系のがん研究でご高名なばかりでなく,東大医科研の教授を長い間務めた後に,国立大学法人化(2004年4月)をはさみ,7年間岐阜大学学長を務めた方である.1冊目は,がんを専門とする卓越した研究者が,がんとは直接関係のない健康・老化・寿命をどのようにみていくのか,文化的な造詣の深さも含めて,実におもしろい.ナポレオンの肖像画において右手を懐に入れている理由は,胃癌のためか,体部白癬のためか.田上八朗先生のコメントも登場する.2冊目は,岐阜大学病院を,新棟移転という重要な時期にどのように財政改革をしていったのか,大学全体からみたときに,医学部・病院とはどのような位置づけなのか,これも実におもしろい.北島康雄先生の奮闘も登場する.この2冊に出会えたおかげで,モントリオールに行けなかった無念をはらしてあまりある時間を過ごすことができた.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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