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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科64巻12号

2010年11月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・39

Q考えられる疾患は何か?

著者: 杉浦丹

ページ範囲:P.905 - P.906

症例

患 者:83歳,男性

主 訴:両足の皮疹

既往歴:糖尿病,高血圧,脳梗塞.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診の7か月前より間欠跛行と両足趾に疼痛を伴う暗紫色の皮疹が出現し,皮疹の一部は潰瘍を形成した.他院に閉塞性動脈硬化症による皮膚潰瘍として入院加療後,当科に紹介受診した.

現 症:両足趾から足底に一部網状を呈する藍紫色斑と,左第1,4,右第5足趾に黄色壊死組織を伴う潰瘍を認めた(図1,2).潰瘍は処置時に強い疼痛を訴え,両側足背動脈は触知した.

今月の症例

ベスト型浸潤を呈した鎧状癌の1例

著者: 水野冴岐 ,   菊池荘太 ,   尾上智彦 ,   堀田健人 ,   佐々木一 ,   本田まりこ ,   中川秀己

ページ範囲:P.908 - P.911

要約 73歳,女性.1年前より胸部の皮疹,両上肢の浮腫を自覚していたが放置していた.皮疹は徐々に拡大し,悪臭,疼痛に加え,呼吸苦を伴うようになり当院救急外来受診し,乳癌を疑われ外科へ入院した.皮膚科初診時,前頸部から胸腹部にベスト型の板状硬結を伴う紅色局面を認めた.局面は直径30mm大までの紅色結節が集簇し,表面はびらん,潰瘍化し,膿汁が付着していた.病変は臍上5cmほどの位置で明瞭かつ直線状に健常部と境界されていた.顔面に紅斑,両上肢には紅斑および著明な浮腫を認めた.病理組織は腺癌の像を呈し,乳癌特異的マーカーの上昇から乳癌の皮膚転移(鎧状癌)と診断した.進行癌のターミナルステージであると考え,積極的治療は行われず,入院後7日目に呼吸不全のため急死した.自験例は,臨床所見より,逆行性リンパ行性皮膚転移様式が示唆された稀な症例であったので報告し,その成因について考察した.

臍炎を契機に発見された尿膜管遺残膿瘍の1例

著者: 加茂真理子 ,   白樫祐介 ,   藤本篤嗣 ,   鈴木邦士 ,   谷口正美 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.912 - P.915

要約 24歳,男性.臍部の痛みを主訴に来院した.初診時,臍部に軽度の発赤と淡黄色膿性浸出液の排出があり,腹部超音波では皮下膿瘍を伴う臍炎ないし尿膜管遺残膿瘍を疑った.洗浄ドレナージ,抗生剤の点滴投与では症状は改善せず,臍部に著明な自発痛を伴う腫瘤となった.緊急の腹部CTで尿膜管遺残とそれに連続する膿瘍形成と診断し,尿膜管切除術を行った.手術時,臍から連続する膿瘍と膀胱側に伸びる3本の索状物を認め,うち2本を膿瘍とともに摘出した.病理組織像では,皮下に膿瘍形成を認め,索状物は遺残した尿膜管と臍動脈であった.尿膜管遺残には再発性の膿瘍や膿瘍破裂,尿膜管癌の発生の危険性があり,発見したら,早期の摘出が望ましい.

症例報告

スピロノラクトンとトラセミドによるacute generalized exanthematous pustulosisの1例

著者: 齊藤睦美 ,   近森亜紀子 ,   松永晋作 ,   大塩ゆず ,   飯田沙織 ,   佐野陽平 ,   花田圭司 ,   加藤則人

ページ範囲:P.916 - P.920

要約 69歳,女性.2009年5月中旬,歯根管治療を行った翌日に体幹と四肢に浮腫性紅斑が出現し,紅斑上に細かい膿疱を伴っていた.37.8℃の発熱を認め,急性汎発性膿疱性細菌疹を疑って抗生剤を投与したが皮疹は増悪した.Acute generalized exanthematous pustulosis(AGEP)を疑い,僧帽弁閉鎖不全症に対して1か月前から開始されていたスピロノラクトン,フロセミドとワルファリンカリウムを中止した.ステロイドパルス療法と免疫グロブリン静注療法を行い,皮疹は速やかに消退した.5月末にトラセミドを開始した数日後に再び全身に紅斑と膿疱が出現した.トラセミドによるAGEPを疑って,内服を中止したところ皮疹は数日で軽快した.薬剤リンパ球刺激試験でスピロノラクトンとトラセミドが陽性であり,同剤によるAGEPと診断した.

石灰硫黄合剤による化学熱傷の1例

著者: 福田俊平 ,   桃崎直也 ,   小野文武 ,   名嘉眞武国 ,   安元慎一郎 ,   橋本隆

ページ範囲:P.921 - P.925

要約 49歳,男性.自宅の柿の木に石灰硫黄合剤を主成分とする農薬を噴霧していたところ,噴霧器から溶液が漏れ,四肢に付着した.翌日より発熱や頭痛を認め当科受診した.四肢に浮腫性紅斑と壊死組織の付着した潰瘍を生じており,臨床検査所見では白血球の上昇と肝機能障害を認めた.入院後,発熱や頭痛は軽快し,白血球数の正常化や肝機能障害の改善もみられたが,潰瘍部位には外科的デブリードマンを施行した.壊死組織の除去後は,肉芽新生がみられ徐々に上皮化し,受傷後3か月で略治した.本症例は受傷面積が広範ではないにもかかわらず,受傷深度が深く,一過性に全身症状を伴った.石灰硫黄合剤は長時間付着した状態により,深達性潰瘍を生じることがあり,使用者への受傷早期の洗浄指導などの啓発も重要と思われた.

ヘパリンカルシウム皮下注射部に浸潤性紅斑局面を生じた1例

著者: 満真理子 ,   藤本徳毅 ,   四方寛子 ,   田中俊宏

ページ範囲:P.927 - P.930

要約 26歳,妊婦.抗リン脂質抗体症候群を疑い,低用量アスピリンの内服とヘパリンカルシウムの皮下注射による抗血栓療法を開始したところ,1か月後に注射部に掻痒を伴う浸潤性紅斑局面が生じた.病理組織所見は真皮全層に著明なリンパ球,好酸球の浸潤を認め,血栓,壊死は認めなかった.問診上遅延性の反応であったため,ヘパリンカルシウムに対する遅延型アレルギーと考えた.ヘパリンカルシウムをダナパロイドナトリウムに変更したところ,皮疹は改善しその後は問題なく出産に至った.臨床症状,組織所見,検査所見よりヘパリン皮下注射による浸潤性紅斑局面と考えた.ヘパリンの皮下注射による浸潤性紅斑局面の報告例は海外では多数認められるが,本邦では非常に稀である.

足趾側面に生じた部位特異的母斑の1例

著者: 山田英明 ,   竹内常道 ,   伊東慶悟 ,   竹内紋子 ,   石地尚興 ,   中川秀己

ページ範囲:P.931 - P.933

要約 33歳,女性.5年前に気付いた左第4趾内側の黒色斑が,徐々に増大したため受診した.初診時,左第4趾内側に4×5mm大の隆起性黒色病変を認め,ダーモスコピーでは左右対称性で均一な黒色調を示し,辺縁に不規則な線条を伴っていた.色素細胞母斑やスピッツ母斑,悪性黒色腫を疑い,辺縁より3mm離し切除した.病理組織学的に境界明瞭なメラノサイト増殖性病変であり,表皮上層に達する個別性メラノサイトを多数認め,メラノサイトが構成する表皮内胞巣は大型であった.メラノサイトは異型性を示さずmaturationを認めたため,site-specific nevus(部位特異的母斑)と診断した.自験例は壮年者の足趾側面に生じたため,悪性黒色腫やスピッツ母斑の特徴である顕著なpagetoid spreadと大型な表皮内胞巣を呈したものと考えた.

背部弾性線維腫の1例

著者: 吉田益喜 ,   市橋淳子 ,   成田智彦 ,   川原繁 ,   川田暁

ページ範囲:P.935 - P.938

要約 68歳,男性の左肩甲下に生じた背部弾性線維腫の1例を経験した.初診日の3年前から左肩甲下部に腫瘤があり近医を受診し,治療目的で当科を受診した.左肩甲下部に肩関節外転で明瞭になり内転で消退する大きさ8×6cmの弾性硬の腫瘤があった.局麻下で腫瘍を摘出した.CTと病理組織学的所見と特異な臨床的所見から背部弾性線維腫と診断した.背部弾性線維腫は皮膚科の診療でみられることは少なく比較的稀な疾患であるが,一度経験すると次の診療から生検しなくても臨床的特徴と画像検査で比較的容易に診断がつく.今回,背部弾性線維腫の診断について考察したので報告した.

弾性線維腫の1例

著者: 東野俊英 ,   浅野千賀 ,   岩崎純也 ,   阿部浩之 ,   青木繁 ,   藤本典宏 ,   小林孝志 ,   多島新吾

ページ範囲:P.939 - P.941

要約 弾性線維腫は九州・沖縄に多く,重労働歴のある中高年女性の肩甲骨下部に好発する疾患であり,環境的要因と遺伝的要因の両者がその発生に関わっていると推測される.今回,われわれは大阪府出身で重労働経験がない老年女性の左肩甲骨下に生じた弾性線維腫の1症例を経験した.臨床所見は脂肪腫に類似し,本人が違和感を訴えており,全身麻酔下で摘出術を行った.弾性線維腫は無症候性のものが相当数存在すると考えられるが,症状があれば手術適応があると考えられた.MRI所見は特徴的なものが多く,自験例では術前にMRIによる検討を加えることのできなかったことが反省点であった.

関節リウマチ患者に生じたintravascular histiocytosis―リンパ浮腫が先行したと考えられた1例

著者: 神山由佳 ,   菅原伸幸 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.943 - P.946

要約 47歳,女性.2年前より関節リウマチ(RA)にて加療中である.初診の約1年前より右前腕の腫脹,疼痛が出現した.初診時,右前腕中枢側2/3が全体に腫脹し,尺側寄りに手拳大の範囲に境界不明瞭な皮下硬結を触知した.皮下硬結部の病理組織像では真皮下層から脂肪小葉間の線維化があり,真皮下層の脈管内に大型で類円形の核,好酸性の細胞質を持つ細胞がシート状に集積していた.脈管はCD31陽性,あるいはD2-40陽性細胞の両者からなる管腔が混在し,脈管内の細胞はCD68陽性であった.これらの所見より,RAに合併したintravascular histiocytosisと診断した.真皮から皮下の線維化が著明な所見より,RAに伴うリンパ浮腫に続発した可能性を考えた.

Clear cell basal cell carcinomaの2例

著者: 大橋則夫 ,   荻原護久 ,   板倉佐和 ,   関東裕美 ,   伊藤正俊

ページ範囲:P.947 - P.950

要約 症例1:90歳,女性.右鼻翼に潰瘍を伴う7×5mmの結節病変を認めた.症例2:61歳,女性.肛門周囲5時方向に潰瘍を伴う径12mmのドーム状に隆起する結節がみられた.病理組織学的には2例とも通常の充実型基底細胞癌の組織像のほか,明調な腫瘍細胞で構成される胞巣もみられた.2例とも明調細胞はアミラーゼ消化性PAS陽性物質を含んでいた.Clear cell basal cell carcinomaは基底細胞癌の稀な亜型と考えられているが,通常の充実型基底細胞癌との間に,予後の差はないと考えられた.

術後15年後に再発した悪性黒色腫

著者: 川村哲也 ,   山本真由美 ,   藤山俊晴 ,   伊藤泰介 ,   橋爪秀夫 ,   深水秀一

ページ範囲:P.951 - P.955

要約 48歳,女性.1993年に左下腿の悪性黒色腫を切除し,DAV-フェロンを2クール行ったが,以降の経過観察は途絶えた.2008年初旬より,左鼠径部に手拳大の腫脹を自覚した.リンパ節生検,全身CTにて悪性黒色腫の多発性リンパ節転移と診断した.ダカルバジン単剤療法(1,000mg/m2)を4クール施行したが,リンパ節転移の拡大,内臓への転移がみられた.この間,経皮ペプチド免疫療法とIFN-β(300万単位/週)局所注射,放射線療法(左大腿骨遠位端と右上腕骨頭にそれぞれ計28Gy,7日間ずつ)にて加療したが,死亡した.本症例は,術後15年目に悪性黒色腫が,多発リンパ節転移として再発しており,超遅発転移と考えた.本邦での超遅発転移の報告例は,自験例を含め7例と非常に少なかった.

エクリン汗孔癌の1例

著者: 田村梨沙 ,   齋藤京

ページ範囲:P.957 - P.960

要約 65歳,女性.5年前から右大腿に疣状結節を認め,2年前,一部が急速に隆起した.初診時,易出血性の広茎性紅色結節を伴う2.5×3.5cmの暗赤褐色疣状局面を認めた.病理組織像では腫瘍は左右非対称性に増生し,管腔構造を形成する大型の異型細胞が表皮と連続性に増殖し,また,異型性の少ない表皮内の病巣を一部に認めた.腫瘍全体の構築が非対称性で細胞異型があり,複数箇所で真皮への浸潤像を認め,エクリン汗孔癌と診断した.エクリン汗孔腫から二次的に発生したと考えた.エクリン汗孔腫はエクリン汗孔癌の発生母地となる可能性もあり切除が望ましい.

デング熱の1例

著者: 大川たをり ,   白井洋彦 ,   山村弟一

ページ範囲:P.961 - P.964

要約 21歳,男性.フィリピンより帰国して3日後より発熱・筋肉痛を認め,9日後から軀幹に紅斑が出現し全身へ拡大した.流行地域への渡航歴と特徴的な皮疹,デングウイルスIgM抗体と同ウイルス抗原NS1陽性よりデング熱と診断した.デング熱は熱帯・亜熱帯で多発する蚊媒介性の急性熱性疾患で,東南~南アジアで流行を繰り返している.発熱期から解熱期にかけて出現する皮疹は診断的意義が大きく,皮膚科医も知っておくべき感染症の1つと考える.

前額部に生じた疣状型スポロトリコーシスに対するヨウ化カリウムの治療経験

著者: 小野泰伸 ,   岩澤真理 ,   神戸直智 ,   鎌田憲明 ,   松江弘之 ,   西村和子

ページ範囲:P.965 - P.969

要約 63歳,女性.千葉市在住.初診2か月前より前額部に疣状角化性丘疹が出現し,徐々に拡大した.皮膚生検にて過角化と表皮肥厚,真皮全層性に多核巨細胞を混じる炎症性肉芽腫像を認め,PAS染色では真皮内に酵母形,角層内に豊富な菌糸形の菌要素を認めた.生検組織および鱗屑痂皮の真菌培養よりSporothrix schenckiiを分離同定した.特異な臨床像と病理所見から,疣状型スポロトリコーシスと診断し,ヨウ化カリウムにて治療し,治癒した.

ヒロズキンバエによるハエ幼虫症の1例

著者: 安藤実緒 ,   鳥居秀嗣 ,   林伸和

ページ範囲:P.970 - P.973

要約 87歳,女性.認知症あり.一人暮らし.家事は長男夫婦がしていたが,3週間シャワーに入っていなかった.全身状態が悪化し救急車にて受診した.軀幹,四肢に褥瘡があり,その内部および周囲に,蛆虫を多数認めた.褥瘡は二次感染を伴っていた.頭髪,臀部に便が付着しており,異臭を伴っていた.全身の洗浄を行い,摂子にて虫体を1つずつ摘出し3日目には消失した.蛆虫はヒロズキンバエと同定された.皮膚潰瘍に対する処置,補液,抗生物質の投与などにて全身状態,皮膚潰瘍の改善を認めた.ハエ幼虫症は頻繁に遭遇する疾患ではないが,高齢化が進み介護問題が複雑化する現代において,今後,同様の症例を経験しうると考えられた.

関節リウマチに合併した顕微鏡的多発血管炎の1例

著者: 安藤実緒 ,   鳥居秀嗣 ,   吉本宏 ,   二村慎哉

ページ範囲:P.974 - P.978

要約 69歳,女性.初診の1か月前より両下腿に紫斑が多発し増数した.既往歴に間質性肺炎,関節リウマチがあった.下腿の皮膚生検にて真皮上層に免疫複合体の沈着を伴わない壊死性血管炎を認め,MPO-ANCAが著明高値であった.顕微鏡的多発血管炎と診断し,従来内服していたプレドニゾロン(PSL)を50mg/日に増量した.その後,尿蛋白が出現したためブシラミンによる腎障害を疑い内服を中止した.しかし,臨床症状の増悪は認められなかったものの,MPO-ANCAが再上昇した.血管炎による臓器障害を懸念してステロイドパルスとエンドキサン内服の併用療法を行ったところ,MPO-ANCAは低下し,新たな臓器症状の出現もみられなかった.ANCA陽性の関節リウマチ患者は稀ではなく,一部はANCA関連血管炎を合併する.腎不全に至るケースもあるため,関節リウマチ患者が血管炎の症状を呈したときは,MPAを想定すべきであると考えられた.

両臀部に出現した虚血性筋膜炎の1例

著者: 山本真有子 ,   中島英貴 ,   池田光徳 ,   佐野栄紀

ページ範囲:P.979 - P.981

要約 87歳,女性.腰部脊柱管狭窄症のため長期間車椅子生活をしていた.両側臀部に皮下腫瘤が出現した.摘出標本の病理組織像では,真皮深層から皮下脂肪織にかけてフィブリノイド壊死像と,それを取り囲むように小血管の増生と粘液腫状の間質を伴う紡錘形ないし星芒状の細胞の増殖を認め,虚血性筋膜炎と診断した.車椅子生活により臀部が繰り返し虚血に陥ることで本症を発症したと考えた.

書評

―著:常深祐一郎―毎日診ている皮膚真菌症―ちゃんと診断・治療できていますか?

著者: 照井正

ページ範囲:P.982 - P.982

 常深祐一郎先生は基礎研究ばかりでなく,皮膚感染症をはじめ多領域に精通された先生です.学会や研究会での常深先生の発表はとてもわかりやすいのですが,本書も皮膚真菌症診療のコツが明快に理解できるように工夫された画期的な本です.

 本書を手にとって開いていただくと一目瞭然なのですが,多数の鮮明な写真やイラストが掲載されています.説明文はわかりやすく文字数も最小限に絞ってあります.そのうえ,強調すべき点や忘れてはいけない点などは大きな文字で記載されており,短い時間で印象に残るように工夫されています.

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あとがき

著者: 中川秀己

ページ範囲:P.988 - P.988

 医学生の生活全般の管理・相談の責任を任されて4年目に入る.一般にこの係り(学生部長)は基礎系の先生方が行ってきたので,臨床系の私に十分務まるものか不安であったが,学生を飲みにでも連れて行って,あわよくば将来,皮膚科に入るように画策する良い機会かもしれないと気軽に引き受けてしまった.ところが,結構大変なトラブルの処理が多く,ストレス解消にとアルコール量が増え,ついにγ-GTPが400IU/lを突破する事態に至っている.それにしても,ここ数年,学生相談の内容が多様化,複雑化,重度化してきているのは否めない.相談の第一は今までもそうであったと思うが,学生期のアイデンティティを中心とした心理的な不安定状態,精神症状で,試験やサークルイベントなどをきっかけに悪化し,精神神経科や心療内科での医療が必要となるメンタルヘルスの問題である.いずれにしても対人関係の葛藤やトラブルに関するものが増加傾向にあり,早めに解決しないと度重なる留年,休学の要因となり,ついには放校に至ることも少なくない.次に多くなっているのがハラスメント(アルコール,セクシャル,アカデミック)である.このハラスメントの早期解決システムの構築にも頭を悩ますところである.しかしながら,相談に来る自我が脆弱で傷つきやすい学生が増えてくるのを見るにつれ,どうも経済の急激な発展が子供の成長発達にあまり良い結果をもたらさなかったのではないかと経済発展の負の遺産が実感される.さらに,子供はお利口さんで良い子でなければ認めてあげないわれわれ(大人・親)にも重大な責任があるように思えて仕方ないのである.われわれが子供の否定的な行動や感情(泣き喚き,愚図るなど)に真摯に付き合っていくことが,その解決につながるのではないだろうか.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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