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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科64巻13号

2010年12月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・40

Q考えられる疾患は何か?

著者: 西嶋攝子

ページ範囲:P.995 - P.996

症例

患 者:51歳,男性

主 訴:右肩部のそら豆大紅色の腫瘤

既往歴・家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:数年前より右肩の紅色色素斑に気づいたが放置していた.約1年前から中心部が除々に隆起してきた.自覚症状および出血は認めていない.

現 症:右肩部に3×2cm大の弾性軟の紅色半球状の腫瘤を認め,周囲には境界不明瞭な紅斑が認められた(図1).腫瘤は有茎性で高さは約1cmであった(図2).自発痛,圧痛などの自覚症状はなく,出血も認めなかった.

今月の症例

非外傷性浅側頭動脈瘤の1例

著者: 加茂真理子 ,   白樫祐介 ,   藤本篤嗣 ,   福積聡 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.998 - P.1001

要約 65歳,男性.左前頭髪際部に径10mm大の弾性やや軟,拍動を有するドーム状の腫瘤を認めた.MR angiography(MRA)にて動脈瘤や動静脈奇形などが疑われたが診断確定に至らなかったためCT angiography(CTA)を施行した.左浅側頭動脈前頭枝途中より囊状に突出する動脈瘤が描出され,浅側頭動脈瘤と診断された.局所麻酔下に摘出術を行い,病理組織学的に真性動脈瘤と診断した.浅側頭動脈瘤は外傷後に生じる仮性動脈瘤が大半で,真性動脈瘤は2割程度である.真性動脈瘤の発症原因はムコ多糖の沈着や動脈硬化性変化などによる壁の脆弱化と考えられてきたが,実際に証明されている症例は少ない.原因の不明な症例の背景に共通性はなく,発症には多因子の関与が予想される.特に誘因なく生じた頭頸部の腫瘤性病変に対して真性動脈瘤も鑑別の1つに挙げ,その診断にはCTAが有用であると考えた.

アルコール多飲者に生じた良性対称性脂肪腫症の1例

著者: 西本和代 ,   大内結 ,   深澤奈都子 ,   落合博子 ,   佐藤友隆

ページ範囲:P.1002 - P.1005

要約 65歳,男性.長年のアルコール多飲歴があり,重度の肝障害があった.20年ほど前より頸部・胸部の皮下腫瘤を自覚し,徐々に増大した.初診時,頸部・鎖骨部周囲と両側上腕に左右対称性に境界不明瞭な自覚症状のない軟らかい皮下腫瘤を多数認めた.MRIで,頸部全周・上背部にT1強調,T2強調画像ともに高信号の領域を認め,特徴的な分布で脂肪腫が多発していることから,良性対称性脂肪腫症と診断した.形成外科と合同で,全身麻酔下に頸部・鎖骨部周囲の腫瘤を切除した.腫瘤は周囲組織と癒着し被膜は明らかではなかった.病理組織学的には成熟脂肪細胞の増生を認め,悪性所見はなかった.本疾患の90%ほどの患者にアルコール依存症の既往があることから,脂肪蓄積とアルコール摂取との関連が強く示唆されている.

症例報告

プレミネント®による光線過敏型薬疹の1例

著者: 岸本英樹 ,   喜多川千恵 ,   山本真有子 ,   佐野栄紀 ,   安田佳世

ページ範囲:P.1007 - P.1011

要約 73歳,女性.高血圧に対し,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)とサイアザイド系利尿薬の合剤であるプレミネント®の内服開始約2か月後から両手背~前腕,頸部に紅斑が出現した.プレミネント®内服中止後はminimal response dose(MRD)の低下はなく,また,プレミネント®のフォトパッチテストで,UVAが作用波長の光線過敏型薬疹と診断した.自験例はサイアザイドが原因である可能性が高いが,発症までの期間が短いのが特徴であった.サイアザイド系を含めた利尿薬の使用頻度が減少していたが,近年ARBと利尿薬の合剤が発売されるようになった.本邦ではプレミネント®以外にさらに3剤が発売されており,すべてサイアザイドが含まれていることから,今後これらによる光線過敏型薬疹が増加するおそれがあり,注意が必要である.

免疫グロブリン大量療法が著効した尋常性天疱瘡の2例

著者: 日野上はるな ,   今井奈穂 ,   赤松佳奈 ,   大畑千佳

ページ範囲:P.1012 - P.1016

要約 症例1は72歳,女性.尋常性天疱瘡の診断でプレドニゾロン30mg/日投与を開始した.水疱の新生はなくなったが,びらんが上皮化せず,プレドニゾロン60mg/日へ増量したが無効であった.免疫グロブリン大量療法(IVIg)を計4回施行したところ,びらんはすべて上皮化し,抗デスモグレイン(Dsg)3抗体は1,020から105まで低下した.症例2は58歳,男性.尋常性天疱瘡の診断でプレドニゾロン30mg/日投与を開始したところ,水疱の新生はなくなったがびらんが上皮化しなかった.IVIgを計5回施行したところ,大部分の口腔内びらんは上皮化し,抗Dsg3抗体も2,300から118まで低下した.いずれの症例も重症の尋常性天疱瘡であったが,中等量ステロイドにIVIgを追加して症状軽快に至った.

Löfgren症候群の1例

著者: 田村梨沙 ,   齋藤京 ,   村岡直人

ページ範囲:P.1017 - P.1020

要約 65歳,女性.2週間前から咳嗽,両膝と足関節の疼痛があり,両膝蓋に線状の紅褐色結節と両下腿に鶏卵大までの圧痛のある淡紅色斑が出現した.後者は深部に浸潤を触れた.病理組織所見で,膝蓋の結節は真皮浅層に非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫,下腿の紅斑は皮下脂肪織の小葉間結合組織炎であった.血清ACEと可溶性IL-2レセプターが高値,画像検査で両側肺門リンパ節腫脹を認め,サルコイドーシスと診断した.その後血清ACEがさらに上昇し,虹彩炎を伴い,ステロイド内服治療をしたところ皮疹は消退した.関節炎,結節性紅斑,両側肺門リンパ節腫脹を3主徴とする急性サルコイドーシスをLöfgren症候群といい,欧米では比較的多い病型で予後良好とされるが,本邦では過去11例と極めて稀で,胸郭外病変にステロイドを使用して良好な結果を得た例が多い.

Z形成術とステロイド内服により治療した剣創状強皮症の1例

著者: 芳賀貴裕 ,   糸魚川彩 ,   相場節也

ページ範囲:P.1021 - P.1024

要約 38歳,女性.3年前に額の髪際部に痒みが生じ,2年前から同部に皮膚硬化と脱毛を生じるようになった.次第に皺に直交する線状の硬化した陥凹が生じて前頭部,額に拡大したため,仙台医療センター皮膚科を受診した.2008年3月上旬,当科を紹介されて受診した.2008年3月末,局所麻酔下で前頭部脱毛斑の切除とZ形成術を施行した.病理組織学的に軽度の炎症所見を認めたため,プレドニゾロンの内服を初期投与量30mg/日から開始して漸減し,2か月間で投与を終了した.術後半年間経過観察し,手術部位の病変の再発がないことを確認してから,2009年9月,額から眉間までの陥凹瘢痕部の切除とZ形成術を施行した.2010年3月現在まで,前頭部から額まで再発徴候はなく経過良好で,患者の満足が得られている.

抗RNA polymerase I/III/II抗体が検出された全身性強皮症の1例

著者: 泉祐子 ,   簗場広一 ,   延山嘉眞 ,   中川秀己 ,   坪井伸夫 ,   小島淳

ページ範囲:P.1025 - P.1029

要約 67歳,女性.2年前に間質性肺炎を指摘された.同時期より手指の腫脹と前腕の色素脱失を自覚したが放置していた.2009年3月,呼吸苦を主訴に来院し,心不全,高血圧,急性腎不全で入院した.手指から急速に進行する全身性の皮膚硬化と広範な色素異常,爪上皮出血点を認めた.また,前腕皮膚に真皮全層における膠原線維の膨化増生がみられ,患者血清を用いた免疫沈降法で抗RNA polymerase I/III/II抗体が検出されたことから全身性強皮症と診断した.腎障害の急速な進行とともに,急激な皮膚硬化と色素沈着を呈し,初診より4か月後,腎クリーゼ,間質性肺炎,および,肺高血圧の増悪により永眠した.抗RNA polymerase I/III/II抗体が検出される全身性強皮症は,腎クリーゼや心筋障害をきたしやすいが,発症早期に治療ができれば,予後は良好とされている.早期に抗体測定を行い,診断することが重要であると考えた.

肺癌を合併し,急速な強皮症様の手の皮膚硬化を認めた1例

著者: 前田梓 ,   石黒直子 ,   近藤亨子 ,   速水千佐子 ,   川島眞 ,   長岡深雪 ,   川口鎮司

ページ範囲:P.1031 - P.1034

要約 59歳,男性.初診の半年前より肩・股関節の運動制限,4か月前より手指の硬化が出現した.当院内科を受診し抗核抗体,特異抗体は陰性であったが,全身性強皮症を疑われプレドニゾロン(PSL)10mg/日を開始したが軽快せず,硬化の急速な進行を認め当科を受診した.手指から手背にかけて著明な皮膚硬化を認め,右手指は屈曲拘縮していた.そのほかの部位には皮膚硬化はなく,Raynaud症状,爪上皮の出血点,舌小帯の短縮は認めなかった.病理組織で真皮下層に強く膠原線維の膨化がみられた.精査で肺腺癌stageⅣ(TXN3M1)を認めた.化学療法開始1か月後も手指の拘縮が進行し,PSL 20mg/日を併用した.3か月後に肺原発巣が著明に縮小し,その後,皮膚硬化の進行は停止し,5か月後より軽快傾向にある.通常の全身性強皮症とは異なり急速な進行を示したことから,肺腺癌のデルマドロームとしての皮膚硬化と考えた.

乳児の前胸部に生じた皮下皮様囊腫の1例

著者: 加畑大輔 ,   丸田直樹 ,   中川雄仁 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.1035 - P.1037

要約 4か月,女児.直径40mmの前胸部皮下膿瘍で皮膚科に紹介された.皮膚超音波像では膿瘍は真皮から皮下脂肪組織内に限局しており,気管や食道,甲状腺,頸部リンパ節との交通は認めなかった.切開排膿し,略治した.1か月後に再度皮下膿瘍を生じたため,再切開し,感染が落ち着いてから囊腫を全身麻酔下に全摘出した.囊腫壁は重層扁平上皮で覆われ,毛根や汗管を伴っていたため皮下皮様囊腫と診断した.皮下皮様囊腫は顔面や頭頸部に好発する腫瘍であるが,前胸部は発生部位として比較的稀である.

足底に生じた色素性Spitz母斑の1例

著者: 五十嵐可奈子 ,   田中英一郎 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.1038 - P.1040

要約 1歳11か月,男児.生後まもなく右足底に黒褐色斑が出現し徐々に増大した.ダーモスコピーでは,全体像はdiffuse patternを呈し,全周性にbranched streaksがみられたが,個々のstreaksは太く,大きさ,長さも不揃いで,一部は皮丘に一致しparallel ridge pattern類似の所見を呈していた.局麻下に全摘し,組織所見より色素性Spitz母斑と診断した.足底に生じる色素性Spitz母斑は非常にまれであるが,そのダーモスコピー所見は悪性黒色腫に類似するため,注意が必要である.

皮膚原発のEwing肉腫/未分化神経外胚葉性腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)の1例

著者: 阿部優子 ,   南雲正人 ,   宮地智洋 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.1041 - P.1044

要約 4歳,女児.当科初診の1年前より右腋窩部に腫瘤が出現し徐々に増大してきた.初診時,右腋窩部に4cm大の皮下腫瘍を認め,全摘術を施行した.病理組織像で腫瘍は異型のある小円形細胞からなり,一部にロゼット様の構造を認めた.免疫組織化学的検査ではMIC2とビメンチンに陽性を示した.細胞遺伝学的検査では腫瘍細胞に染色体相互転座t(11;22)を認め,RT-PCR法ではEWS-FLI1キメラ遺伝子の発現がみられた.以上より皮膚原発のEwing肉腫/未分化神経外胚葉性腫瘍(primitive neuroectodermal tumor:PNET)と診断した.P6プロトコールに従い化学療法(ビンクリスチン,シクロホスファミド,ドキソルビシン,イホスファミド,エトポシド)を3クール施行し,術後約4年経過した現在,再発および転移を認めていない.

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm)の1例

著者: 泉祐子 ,   伊東慶悟 ,   中川秀己 ,   小笠原洋治

ページ範囲:P.1045 - P.1049

要約 66歳,男性.腎細胞癌の既往あり.2009年1月に発熱と胸部に掻痒を伴う紅色扁平隆起病変を認め,急激に全身へ拡大した.末梢血中芽球20%を認めたため精査入院した.末梢血,骨髄液,皮膚病変の細胞はCD56,CD4,TdT陽性であり,芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm:BPDCN),病期Ⅳと診断した.DeVIC療法6コース施行しCRとなったが,同年11月に頭部皮膚に再発した.低用量エトポシド・プレドニン内服療法と放射線照射を行い消失した.しかし,全身の表在リンパ節が腫脹し,末梢血中芽球は68%と急激に上昇したため,現在EPOCH療法施行中である.経過中,肺腺癌が見つかった.2つの固形癌を合併し,急激に経過した点が特異であった.BPDCNは主に皮膚病変を呈する,予後不良な疾患であるため,早期診断が重要である.

頭蓋骨巨大腫瘤を契機に診断された多発性骨髄腫の1例

著者: 園山悦子 ,   坂井浩志 ,   調裕次

ページ範囲:P.1051 - P.1054

要約 69歳,女性.初診8か月前より後頭部に皮下腫瘤を自覚した.徐々に増大し径約5×4cm大の比較的弾性軟,可動性不良な腫瘤となった.近医で頭部囊腫を疑われ切除目的で受診した.術前検査の頭部CTにて皮下腫瘤は後頭骨より生じた溶骨性病変で,精査にて多発性骨髄腫と診断された.皮下腫瘤は多発性骨髄腫に対する化学療法で速やかに縮小し,8年経過した現在も寛解を維持している.稀ではあるが,原発・転移性頭蓋骨腫瘍,髄膜腫,髄膜瘤などの腫瘍が骨破壊を伴い皮下腫瘤を呈することがある.生検・切除時にはこのような疾患を念頭に置き,画像検査を適宜行うことが必要である.

蜂窩織炎様を呈した皮膚結核の1例

著者: 加藤元一 ,   渡邊華奈 ,   渋谷佳直 ,   高木肇 ,   清島真理子 ,   浅野裕子

ページ範囲:P.1055 - P.1059

要約 86歳,女性.重症筋無力症でステロイド内服中に粟粒結核を発症した.入院時,左下肢に紅斑・熱感・腫脹があり,蜂窩織炎を疑い抗生剤を開始した.左下肢の皮下膿瘍を穿刺したところ,黄色透明な軽度粘性を示す排膿があった.膿の塗抹標本で抗酸菌陽性,PCRおよび培養で結核菌陽性であった.皮膚結核と診断した.抗結核薬3剤内服で治療開始し,改善傾向を示したが,治療経過中,肺塞栓で死亡した.免疫低下した患者に粟粒結核が発症し,血行性に皮膚に播種したと考え,metastatic tuberculous abscessにあたると考えた.

Microsporum canisによる小児頭部白癬の1例―小児頭部白癬内服治療の文献的考察

著者: 福田俊平 ,   十亀良介 ,   松田光弘 ,   名嘉眞武国 ,   安元慎一郎 ,   橋本隆 ,   楠原正洋

ページ範囲:P.1060 - P.1064

要約 6歳,男児.祖母宅で脱毛のあるネコとの接触歴あり.4か月前に右側頭部を打撲し,同部位に脱毛を伴う鱗屑性紅斑が出現した.その後,左前頭部にも紅斑を伴う脱毛斑が出現した.KOH直接鏡検で毛外性小胞子性に寄生する真菌要素を認め,培養によりMicrosporum canisを分離同定し,同菌による頭部白癬と診断した.イトラコナゾールの内服治療を10週間行い治癒した.小児頭部白癬における抗真菌薬内服の投与量や投与期間など本邦では明確な指針がなく,判断が難しい場合もある.本邦における小児頭部白癬のイトラコナゾールないしテルビナフィン内服治療報告例をわれわれが検討したところ,海外のガイドラインよりも低用量で効果が得られ,かつ安全に使用できるものと思われた.投与量としてはテルビナフィンが3.5~4.5mg/kg/日,イトラコナゾールが2.5~4.0mg/kg/日で8週間前後の投与が目安になると考えられた.

臀部に生じたMycobacterium fortuitumによる皮下膿瘍の1例

著者: 白樫祐介 ,   吉田哲也 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹 ,   池ヶ谷佳寿子

ページ範囲:P.1065 - P.1068

要約 48歳,男性.初診の2週間前から左臀部に強い圧痛を伴う皮下硬結を生じ,切開排膿して得た検体からMycobacterium fortuitumが培養された.同菌はすべての抗結核薬に耐性を示し,ニューキノロン系薬に高い感受性を有していた.硬結を外科的に切除し,術後,塩酸ミノサイクリン200mg/日を4週間内服し軽快した.Mycobacterium fortuitumは弱毒菌であり皮膚細菌感染症の起炎菌として稀ではあるが,強い炎症症状を伴う例や通常の抗菌薬で改善しない例では本症を念頭に置く必要がある.抗結核薬を含む抗菌薬に他剤耐性を示すことが多く,症例ごとに薬剤感受性試験を施行し,感受性を有する抗菌薬の投与と外科的手術との併用が効果的であると考えた.

タカサゴキララマダニ幼虫の多数刺咬例

著者: 菊池荘太 ,   菊池了子 ,   沖野哲也 ,   中川秀己

ページ範囲:P.1069 - P.1072

要約 81歳,男性.岡山県美作市在住.2009年6月,自宅の松ノ木を伐採後,四肢,体幹にかゆみを自覚した.四肢,体幹,鼠径部を合わせ計85か所の米粒大から大豆大の紅色丘疹と多数の浮腫性紅斑,膿疱を認めた.一部に黒色点が付着しているように見えた.拡大鏡で観察すると,黒色点に見えたものは3対6脚を有する虫体であり,マダニ刺咬症と診断した.咬着部の虫体をピンセットを用いて摘除し,塩酸ミノサイクリン100mg/日を9日間内服した.触肢や背甲板の形態より虫体はタカサゴキララマダニの幼虫と同定した.タカサゴキララマダニ寄生患者は九州地方で多く発生しており,近畿以西の地方では71.3%と多い.タカサゴキララマダニによる刺症は幼虫による多発刺症が多いが,タカサゴキララマダニ幼虫が小型で運動能力に乏しく,成虫に比べ葉に集団で待機するという習性のためと考えられる.

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あとがき

著者: 天谷雅行

ページ範囲:P.1076 - P.1076

 本日は「書く」ことについて述べたい.「ものを書く」という活動は,あらゆる知的作業のなかで最も高度な作業である.『臨床皮膚科』で言えば,症例を通して新しく発見したことを,過去の知識に比べどこが違うのか,何が新しいのか,どのような意義があるのか,頭の中で整理し,自分なりの流れを作り,書き落とす.そして書いたものは,人に何かを伝えるものでなければならない.それも,端的に,わかりやすくである.相手に伝わらなければ意味がない.この「書く」作業は,修練といくつかのコツがいる.以下に,私が感じるコツを列挙する.

 1)『要約』だけでひとつの物語であること.『要約』を読んだだけで症例のポイント,考察のポイントが本文を読まなくてもわかるようにすること.2)『要約』の最後には,その症例報告で最も伝えたいこと,症例報告をする意義を端的に述べること.『要約』は,論文全体の中で書き上げるのに最も時間がかかるはずである.3)『考按』のそれぞれの段落の最初の文章で,その段落で何を論じているかわかるようにすること.読者としては知っている内容であれば,その段落を読み飛ばすことができる.4)図説明を充実させること.図と図説明を見ただけで,メッセージが何かエッセンスがわかるようにしておくこと.5)1つの論文で,メッセージは1つであること.主治医として症例をもつと,いろいろな切り口があり,伝えることはたくさんある.しかし,そのなかで,最も大切なメッセージを1つだけ切り取り,それを相手に伝わるように構成を考えること.6)いい文章がすぐ書けなくても焦らないこと.一朝一夕では無理なので,ひとつひとつ論文を書き上げることによって,あるいはひとつひとつを相手に伝えることを積み上げて行くことによって,着実に進歩しているはず.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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