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あとがき
著者: 伊藤雅章
所属機関:
ページ範囲:P.184 - P.184
文献購入ページに移動 日本皮膚科学会(日皮会)は,100年以上の歴史があり,日皮会総会もこの4月(大阪)は第109回です.まさに,伝統ある学会です.ただ,この長い歴史を振り返ってみますと,初期の頃は皮膚科の学問を志す先生方の懇話会のようなものであったと想像します.次第に会員数が増え,学会は発展したのですが,学会の性格が大きく変わったのは昭和41年(1966年)の皮膚科専門医制度が開始されたときといえます.すなわち,会員自身が皮膚科学の知見を得て医療の質を向上させ,皮膚科学を深めようとする内的な性格のみならず,「皮膚科専門医」資格という専門家としての知識・技能・態度の最低限のレベルを設定して,学会は社会的責任において確かな皮膚科医(皮膚科専門医)を養成し,国民の健康と福祉に貢献する組織であるという外的な性格が加わり,今やこの外的な性格がきわめて重要な学会の意義になっています.もちろん,専門医制度もいきなり充実した制度ができたわけではなく,初めは委員会の推薦で認定する程度で,私が皮膚科専門医になった昭和50~60年代は,講習会の一定の単位と多少の実績があれば,申請して認められるという状況でした.その後,「皮膚科専門医試験」に基づく認定制度が開始され,平成5年(1993年)に第1回の試験が実施されて発展,充実してきました.このとき,試験を受ける資格としての研修・実績も詳細に規定されました.しかしながら,今の日本の医療を見ますと,種々さまざまな医療分野の専門性がきわめて高まり,70以上の専門医制度が運営されているにもかかわらず,実際の診療では依然として「自由標榜制」で,医師免許さえあれば何科でも標榜できるという「異常な状況」で,患者さんが適切な医療を受けられずに損をしている事例が日常茶飯事です.その意味では皮膚科は最も問題の大きな分野とみられます.解決策として,「皮膚科専門医」でなければ「皮膚科」を標榜できないという医療制度にすれば,皮膚疾患の患者さんの大部分は「皮膚科専門医」にかかり,適切な検査,診断,治療を初めから受けることができ,しいては出来高払いの無駄ないし誤診療を激減させ,医療経済上のメリットも多大なものがあると言えます.しかしながら,日本の専門医制度の側にもいまだ多くの問題や課題があることも確かで,最大の問題は,個々の学会が独自に自らの学問体系に基づいて,言わば「思うがままに」個別の専門医制度を作っていることです.もちろんほとんどの学会は理念を持って厳格に制度を運営していますが,レベルはまちまちで,安易な制度も見受けられます.国民にわかりやすく,信頼される専門医制度とするためには,やはり米国のように一定の基準を設けてすべての分野の専門医制度を評価し,国全体で取り組む必要があるでしょう.現在,専門医制度を持つ学会が集まり,日本専門医制評価・認定機構を作って,専門医制度の整備を模索していますが,まだしばらくは時間を要するでしょう.われわれの皮膚科専門医制度も,改善していっそう充実していかなくてはなりません.
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