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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科65巻3号

2011年03月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・43

Q考えられる疾患は何か?

著者: 齋藤京

ページ範囲:P.197 - P.198

症例

患 者:82歳,男性.農業従事者

主 訴:右手背の紅色局面

家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診の約1か月前に右手背に鎌で小外傷を負った後,同部に紅色丘疹が出現し,次第に拡大した.

現 症:右手背に45×55mmの易出血性の肉芽腫性紅色局面を形成し,容易に除去される膿痂皮の下に潰瘍を形成していた(図1a,b)

原著

コレステロール塞栓症20例の検討

著者: 和田林幹央 ,   加藤陽一 ,   小沢広明

ページ範囲:P.200 - P.204

要約 2年間に当院で発生したコレステロール塞栓症20例について検討した.年代別では70歳代が最多で平均年齢は73歳で,男性が18例を占めた.発症は10~12月に多かった.基礎疾患として糖尿病を17例に認めた.血管内操作や抗凝固薬,大動脈瘤などが誘因と考えられるもののほか特発性の例もあった.皮膚症状は19例,腎機能障害は19例,中枢神経症状は2例,好酸球増多は11例に認めた.治療はプレドニゾロンの投与などを行った.1年生存率は70%であった.皮膚症状,皮膚生検は本症の診断においてきわめて重要で,皮膚科医の果たす役割は大きい.

症例報告

後天性結節性裂毛症の2例

著者: 白山純実 ,   辻真紀 ,   今中愛子 ,   八幡陽子

ページ範囲:P.205 - P.208

要約 症例1は22歳,男性.症例2は23歳,男性.両症例とも,頭頂部の髪が途中で切れ,短毛,粗毛が目立つようになり当科を受診した.頭髪には光沢がなく,頭頂部では長さの不揃いな短毛および粗毛を認めた.1本の毛髪に1~10個の白点があり,白点部分で毛髪は容易に断裂した.白点部位の光学顕微鏡所見では,2つの絵筆の先を組み合わせたように線維束が交差している様子が確認された.指,爪,歯に外表奇形はなく,血液検査でも貧血,甲状腺機能異常はみられなかった.問診からヘルメット着用や過度のヘアケアを行っていることが明らかとなり,物理的刺激による後天性結節性裂毛症と診断した.生活指導のみで改善した.

急性腹症をきたした遺伝性血管性浮腫の1例

著者: 金田和宏 ,   木ノ内基史 ,   岡山大志 ,   岡村幹郎 ,   新居利英 ,   飯塚一

ページ範囲:P.209 - P.212

要約 16歳,女性.初診の2日前から手の浮腫と紅斑を生じた.父親に誘因がなく手が腫れるという既往歴があった.C1エステラーゼインヒビター活性が25%以下と著明に低下していたことから,遺伝性血管性浮腫(HAE)と診断した.トラネキサム酸1,500mg/日の内服で軽快していたが,約3か月間の内服後に自己判断で中止していた.中止の約8か月後に急激な腹痛・嘔吐をきたし,急性腹症の診断で外科に入院した.腹部造影CT検査で小腸壁の著明な肥厚と腹水の貯留を認めた.臨床症状と併せて,HAEに伴う腸管障害と診断し,絶食・補液で臨床症状は改善した.HAEは皮膚症状以外にも,喉頭浮腫・腸管障害などの他臓器症状を伴うことがあり,不要な外科的侵襲を避けるなど適切な対処が必要である.

インフリキシマブ投与中に生じた乾癬様皮疹の1例

著者: 北口耕輔 ,   大谷稔男

ページ範囲:P.213 - P.216

要約 32歳,男性.乾癬や掌蹠膿疱症の既往はない.近医外科でCrohn病に対しインフリキシマブの投与を開始され,経過は良好だった.投与7か月後,足底に掻痒を伴う紅斑が生じ,次第に全身に拡大した.病理組織学的に,不全角化を伴う角質増生と表皮肥厚があり,真皮上層の血管や毛包周囲にリンパ球の浸潤がみられた.インフリキシマブにより誘発された乾癬様皮疹と考え投与を中止した.ステロイドや角質溶解剤の外用で皮疹の治療を行ったが,頭部や手掌,足底の皮疹は難治だった.インフリキシマブによる乾癬様皮疹のほとんどは投与中止により消失するとの報告があるが,症状が遷延する例が存在することも念頭に置くべきだと思われた.また,インフリキシマブの薬剤リンパ球刺激試験でS.I.値は624%と高値を示した.従来の乾癬型薬疹の原因薬と異なり,インフリキシマブの薬剤リンパ球刺激試験は薬疹の判定に有用であるのか,今後の検討を要すると思われた.

ボルテゾミブによる毛包炎様および壊疽性膿皮症様皮疹の2例

著者: 眞部恵子 ,   山崎修 ,   浅越健治 ,   下野玄英 ,   角南一貴

ページ範囲:P.218 - P.222

要約 症例1:59歳,女性.再発性多発性骨髄腫に対しボルテゾミブを投与した.9クール施行中に体幹に毛包炎様の発赤が出現した.1週間で速やかに消退し,以後ボルテゾミブを継続したが皮疹は再燃していない.症例2:82歳,男性.再発性多発性骨髄腫に対しボルテゾミブ投与開始後,1クールの19日目に頸部に癤様の結節が出現し自壊した.翌日には右鼠径,左腋窩に壊疽性膿皮症様の局面,潰瘍が出現した.その後,ボルテゾミブを継続したが皮疹は増悪せず,約2か月で潰瘍は略治した.ボルテゾミブによる毛包炎様やSweet症候群様の皮疹を呈した報告例が増加しており,サイトカインの関与も示唆されている.自験例の皮膚症状もボルテゾミブ投与に関連して出現した可能性があると考えた.

ラモトリギンによる播種状紅斑丘疹型薬疹―DLSTの有用性と末梢血Th17細胞の増加

著者: 春山護人 ,   杉田和成 ,   椛島利江子 ,   中村元信 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.223 - P.226

要約 28歳,男性.てんかんに対してラモトリギン内服開始2週間後より,発熱および全身に紅色丘疹が出現し,肝機能障害も伴った.HHV-6の再活性化はみられなかった.ラモトリギンの薬剤誘発性リンパ球刺激試験が陽性であり,同薬剤による播種状紅斑丘疹型薬疹と診断した.患者末梢血リンパ球の細胞内サイトカイン解析において,IFN-γとIL-17陽性細胞の上昇を認め,Th1細胞やTh17細胞がその病態形成に関与している可能性が示唆された.ラモトリギンによる薬疹は海外ではStevens-Johnson症候群,中毒性表皮壊死症,薬剤性過敏症症候群といった重症型薬疹の報告もみられる.本邦では比較的新しい薬剤のためラモトリギンによる薬疹の報告はいまだ少ないが,今後薬剤の汎用に伴い増加することが予想される.

足蹠の膿疱で初発した好酸球性膿疱性毛包炎の小児例

著者: 今井慎 ,   加藤佐代子 ,   坂元花景 ,   小西啓介

ページ範囲:P.227 - P.230

要約 4歳,女児.2か月前から足底に鱗屑,膿疱が出現.当初,掌蹠膿疱症の診断にて外用治療されていたが,軽快と増悪を繰り返していた.扁桃摘出後,一時,寛解がみられたが,その後,皮疹の再発とともに両頰部にも紅斑が出現した.好酸球性膿疱性毛包炎の診断にてインドメタシンクリーム外用後,皮疹は軽快した.好酸球性膿疱性毛包炎の小児例は報告が少なく,また,皮疹が掌蹠に限局した場合,掌蹠膿疱症との臨床的鑑別は困難であり本症も念頭に置く必要がある.

結節性紅斑を合併した原発性Sjögren症候群の1例

著者: 笠井弘子 ,   濱野英明 ,   木花光

ページ範囲:P.231 - P.234

要約 25歳,女性.5日前からの39℃の発熱,頸部リンパ節腫脹,下肢の爪甲大までの多発する結節性紅斑,関節痛を主訴に受診した.血液検査にて,抗核抗体,リウマトイド因子,血沈,IgG,抗SS-A,B抗体高値を,唾液腺生検にてリンパ球浸潤を認めた.同時点で,全身性エリテマトーデス(SLE),強皮症,橋本病など,他の自己免疫疾患の合併はなく,原発性Sjögren症候群と診断した.症状はNSAIDs内服,抗生剤投与,安静で軽快した.Sjögren症候群は,多彩な皮疹を認めるとされるが,結節性紅斑を伴ったという報告も過去に数例ある.特徴として,原発性Sjögren症候群であること,若年女性に発症すること,上気道感染の合併例が多いことが挙げられる.結節性紅斑の原因精査によりSjögren症候群の診断に至った症例である.

タクロリムス外用が著効した苔癬様型皮膚サルコイドの1例

著者: 加茂真理子 ,   白樫祐介 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.235 - P.239

要約 72歳,男性.両眼ブドウ膜炎の既往がある.初診時,前胸部,背部の広範囲に自覚症状を欠く米粒大の常色~淡紅色の浸潤を伴う扁平隆起した丘疹が多発し,一部では癒合し,敷石状外観を呈していた.皮膚病理組織像では,真皮浅層~中層に多数の非乾酪性肉芽腫を認めた.胸部X線,胸腹部CT,ガリウムシンチグラフィでは,肺門リンパ節を含む内臓諸器官に異常所見はなかった.以上よりサルコイドーシスと診断し,皮膚病変を苔癬様型サルコイドと考えた.ステロイド外用,光線療法,ミノサイクリンの内服などの治療は無効であったが,0.1%タクロリムス軟膏の外用を開始したところ,約2か月で皮疹はほぼ消退した.

Blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasmの1例

著者: 中川倫代 ,   藤野裕美 ,   赤坂俊英 ,   黒瀬顕 ,   澤井高志 ,   山下美穂子 ,   古和田周吾 ,   石田陽治

ページ範囲:P.240 - P.244

要約 79歳,男性.右眉毛上部に浸潤性紫紅褐色局面が出現した.病理組織像では,真皮全層に異型リンパ球の浸潤を認めた.異型リンパ球は,CD4,CD56,CD123,T cell leukemia/lymphoma-1(TCL-1)陽性であり,blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasmと診断した.全身検索の結果,骨髄と右鼠径リンパ節に腫瘍細胞の浸潤を認めた.治療としてHyper-CVAD(シクロホスファミド,塩酸ドキソルビシン,硫酸ビンクリスチン,デキサメタゾン)/MTX Ara-c(メトトレキサート,シタラビン)交替療法を2回行い,現在寛解状態にある.

節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の治療後に発症した全身性強皮症

著者: 喜多川千恵 ,   矢田部愛 ,   志賀建夫 ,   中島喜美子 ,   池田光徳 ,   佐野栄紀

ページ範囲:P.245 - P.248

要約 66歳,女性.右頰部の腫脹と右鼻腔閉塞感を自覚し,当院耳鼻科を受診した.中鼻甲介に易出血性腫瘤を認め,生検および画像精査の結果,右鼻腔原発の節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(extranodal natural killer/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL)と診断された.放射線治療および化学療法を併用し,寛解維持していた6か月後に両手指のこわばりと浮腫性硬化,Raynaud現象が出現した.抗核抗体80倍陽性.前腕,手指の病理組織像では,真皮内の膠原線維の膨化と増生を認めた.内臓病変を認めず,皮膚硬化が手指に限局していたことより,limited cutaneous systemic sclerosisと診断した.放射線治療後に全身性強皮症を発症した報告は稀ながらあり,放射線治療と全身性強皮症発症の間に何らかの因果関係が推測された.

鼻瘤ならびに口囲の丘疹としてみられた皮膚白血病の1例

著者: 福岡美友紀 ,   松村由美 ,   宇谷厚志 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.249 - P.252

要約 84歳,女性.2000年より汎血球減少がみられ,2005年より慢性骨髄単球性白血病と診断されていたが,輸血のみの対症療法で経過していた.2009年10月頃より鼻や口周囲にかゆみを伴う丘疹が出現,次第に増悪してきたため本院を受診した.病理組織像では,真皮浅層から網状層深層にかけて密な異型細胞の浸潤を認めた.腫瘍細胞はミエロペルオキシダーゼ陽性,リゾチーム陽性,CD68陽性,CD3陰性,CD20陰性であり,慢性骨髄単球性白血病の皮膚浸潤である皮膚白血病と診断した.患者は,皮疹出現後7か月で死亡した.自験例は,鼻や下顎,口囲を中心とした顔面に限局して皮疹が出現した稀な臨床像を示した.

乳癌術後に左腋窩近傍に生じた乳房外Paget病の1例

著者: 京谷樹子 ,   木村聡子 ,   松永るり ,   齋藤千尋 ,   山口奈央 ,   川上民裕 ,   相馬良直

ページ範囲:P.253 - P.256

要約 41歳,女性.2004年10月,左乳癌にて左乳腺全摘術および乳頭乳輪合併切除術を施行した.病理診断は乳頭腺管癌で,乳管内伸展を認め尾側断端が陽性,腋窩リンパ節に転移はなく,Stage ⅡBであった.術後,放射線療法と化学療法が施行された.術後4か月に,左腋窩近傍に自覚症状のない皮疹が出現し,徐々に拡大した.乳癌術後約4年が経過した当科初診時,腋窩近傍の左胸部に42×24mmの境界明瞭な角化性紅斑を認めた.病理組織で,表皮全層にわたり胞体の明るい細胞が胞巣を形成して増殖し,一部真皮上層に浸潤していた.腫瘍細胞は,PAS染色,CEA染色にて一部陽性であった.以上より乳房外Paget病と診断し,腫瘍切除および分層植皮術を行った.外陰部,腋窩,肛囲以外の乳房外Paget病は稀であるが,過去の報告例とあわせるとアポクリン腺の存在部位と重複してみられており,アポクリン由来説を支持する結果であった.

足趾断端形成術後に鼠径リンパ節転移を生じた爪部有棘細胞癌の1例

著者: 椛沢未佳子 ,   宮﨑安洋 ,   西岡清

ページ範囲:P.257 - P.260

要約 49歳,男性.初診の約2年前より左第5趾に小さな腫瘍が出現し,徐々に拡大した.腫瘍周囲に発赤・腫脹も出現したため,近医皮膚科受診し,抗生剤内服治療を受けたが症状は改善せず,当科を紹介された.初診時,左第5趾は暗紅色調に腫脹し,爪甲は表面角化性に隆起していた.生検で爪部有棘細胞癌stage Ⅲと診断し,足趾切断術を実施した.初診時CTにて鼠径リンパ節腫脹を認めなかったが,術後7か月目に触診で左鼠径部皮下に圧痛を伴う胡桃大の腫瘤を確認した.CTと腫瘤の生検を行い,左鼠径リンパ節転移を認めたため,リンパ節郭清術と放射線治療を実施した.術後5か月の現在,転移・再発はない.爪部の難治性皮膚病変は本症を念頭に置き,積極的に生検を行い,少なくともstage Ⅲの場合はセンチネルリンパ節生検を実施すべきと考えた.

右根治的頸部郭清術および右耳下腺浅葉切除術後に生じたFrey症候群の1例

著者: 野老翔雲 ,   田中智子 ,   佐藤貴浩 ,   横関博雄

ページ範囲:P.261 - P.264

要約 71歳,女性.咀嚼時の片側頰が濡れるような違和感を主訴に来院した.発汗試験にて同部位の発汗を確認し,原発不明の頸部リンパ節癌転移に対し施行された右根治的頸部郭清術および右耳下腺浅葉切除術後に生じたFrey症候群と診断した.Frey症候群は味覚性発汗として知られているが,本例のように咀嚼自体が誘発因子となる場合もある.味覚によらない咀嚼が誘因になる機序を考察するとともに治療法についても解説した.

再発性肝細胞癌に対し,内胸動脈にて経カテーテル動脈塞栓術を行った後に生じた皮膚壊死の1例

著者: 中村善雄 ,   田村舞 ,   高江雄二郎 ,   石井健 ,   大山学 ,   谷川瑛子 ,   海老原全

ページ範囲:P.265 - P.268

要約 74歳,男性.肝細胞癌に対する5回目の肝動脈および内胸動脈へ経カテーテル動脈塞栓術(TAE)施行後の翌日より右季肋部に紅斑が出現し,次第に境界明瞭な壊死局面を形成した.再発性の肝細胞癌であり,肝動脈へのTAEが繰り返されたため,固有肝動脈からの栄養血管がほぼ途絶し,内胸動脈からの側副血行路が発達していた.そのため5回目のTAEでは内胸動脈からも塞栓物質を注入したことにより,内胸動脈分枝である筋横隔動脈や上腹壁動脈の支配する表在血管が途絶し,皮膚壊死をきたしたものと考えた.通常の肝動脈を用いたTAEによる皮膚壊死の報告は極めて稀であるが,肝細胞癌の治療においてTAEの役割は大きくなっており,今後同様の症例の増加が考えられ,特に注入方法によっては注意すべき合併症と思われた.

キチマダニ刺咬症の1例

著者: 木村有太子 ,   須賀康 ,   水野優起 ,   松葉祥一 ,   山﨑浩 ,   高宮信三郎 ,   青木孝

ページ範囲:P.269 - P.273

要約 9歳,男児.鹿児島市内の山林でダニに後頭部を刺され,翌日,自分で引き抜いた虫体を持参して受診した.後頭部には圧痛を伴う痂皮性丘疹を認めた.虫体をダーモスコピー付デジタルカメラで撮影し,画像を順天堂大学医学部熱帯医学・寄生虫病学講座に転送してコンサルテーションをしたところ,チマダニ属であることが疑われた.その後,専門機関に同定を依頼したところ,虫体は日本紅斑熱を媒介する可能性のあるキチマダニと同定された.皮疹は全切除し,塩酸ミノサイクリンの内服投与を行った.ダーモスコピーは早期のダニ鑑別検査に有用であり,リケッチア症の早期治療に役立つ手段の1つであると考えられた.

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欧文目次

ページ範囲:P.195 - P.195

文献紹介 種痘が成功した意外な理由?

著者: 横内麻里子

ページ範囲:P.234 - P.234

 天然痘は3000年余にわたり世界中で不治の病と恐れられ,強い感染力,高い死亡率のため,時に国や民族が滅ぶ遠因ともなった.この天然痘の根絶が達成されたのは,天然痘ワクチンの接種,すなわち種痘の普及に因るところが大きい.ジェンナーが1796年に開発した種痘法は,皮膚に傷をつけ,天然痘ウイルスの近縁型であるワクチニアウイルス(vaccinia virus:VACV)(当時は牛痘ウイルス)を経皮接種するというものである.この方法が著しい成功をおさめたのは,VACVの生体内抗原性によるものとされてきたが,筆者らは,皮膚に傷をつけるという(皮膚乱切法)独特な経路に着目した.まず,VACVを皮膚乱切法,皮下注射,筋肉注射の異なる経路でマウスに接種したところ,皮膚乱切を介して接種した群では脾臓のCD8陽性T細胞数,血清中の抗VACV抗体量が他の経路に比べて有意に増加していた.また,呼吸器におけるウイルス感染防御ではエフェクター記憶T(effector memory T:Tem)細胞とセントラル記憶T(central memory T:Tcm)細胞の双方が必要とされるが,Tem細胞は皮膚乱切法による接種によってのみ誘導されることを示した.さらに,悪性黒色腫の腫瘍抗原を発現する組み換えVACVを用いたワクチン接種は,皮膚乱切を介して接種した場合にのみ腫瘍細胞に対する防御効果が発揮され,皮下注射による接種では効果がみられなかった.筆者らは,皮膚乱切法でVACVが表皮ケラチノサイトへ感染することにより,より多量の抗原が供給されること,そして感染ケラチノサイトが産生する炎症促進因子とが相俟って,この優れた免疫応答の誘導に寄与しているのではないかと述べている.以上の知見は,皮膚の免疫臓器としての新たな役割を深めたものとして注目される.

文献紹介 ラマン分光を用いてフィラグリン遺伝子変異を予測する

著者: 馬場裕子

ページ範囲:P.244 - P.244

 アトピー性皮膚炎発症に関与するフィラグリン遺伝子変異の有無の予測に,ラマン分光装置を用いた天然保湿因子測定が有効か否かを検討した.

 アトピー性皮膚炎の発症因子として,角層バリア機能に重要なフィラグリンの異常が示唆されているが,その機序は明らかにされていない.中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者の多くにフィラグリン遺伝子変異が報告されていることを鑑みると,外来の場で簡便に遺伝子変異の有無が予測できることは,診断に有用であると考えられた.

次号予告

ページ範囲:P.278 - P.278

投稿規定

ページ範囲:P.279 - P.279

あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.280 - P.280

 近年の本誌を見ますと,皮膚科専門医制度の前実績のためでしょうが,研修中の若い皮膚科医の方々の投稿が非常に多く,しかも「原著」は少なく,「症例報告」が大多数を占めています.もちろん,若い先生が奮って論文を書くことは研修としても重要で,疾患の勉強になり,論文の書き方の訓練にもなります.また,「症例報告」も報告すべき学術的価値があるからこそ,本誌に採択しています.そこで,それら論文の「要約」についてお話ししたいと思います.投稿原稿を編集委員会で査読するとき,まずは「要約」を読みますが,まさに「症例」を「報告」するのみで,その症例の医学的価値が明確でない原稿がしばしばあります.すなわち「症例」について考案した内容が書かれておらず,論文の大切なセールスポイントが「要約」から抜け落ちているのです.もちろん考案の内容をだらだらと書いては困りますが,簡潔にその論文としてのメッセージを「要約」の最後に書くべきです.一方,「要約」が,本文の「はじめに」とほとんど同じになっている原稿も見受けられます.「要約」(Summary)は,その論文全体の内容を簡潔に表すものですので,いずれもいけません.医学中央雑誌で論文検索をしますと,タイトルだけでなく,「要約」(抄録)も得られますので,検索者に全文を見てもらい,引用してもらうためにも,充実した「要約」は大切です.この点,本号のなかにも,私としては少し不満な「要約」の論文があるのですが,既に印刷段階ですので,やむを得ません.しかし,編集委員会を満足させるためや,雑誌のためではなく,論文を発表することでその著者が公に評価され,また,論文は後世まで残るものですので,「要約」のみならず,しっかりとした論文を自らのために書いていただきたいと思います.最後に編集委員会からのお願いですが,「症例報告」の「要約」では,最初に「症例」の「年齢,性別」から書き始めるスタイルになっていますので,そのようにお願いします.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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