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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科65巻4号

2011年04月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・44

Q考えられる疾患は何か?

著者: 清水晶 ,   龍崎圭一郎 ,   石川治

ページ範囲:P.287 - P.288

症例

患 者:69歳,男性.

主 訴:顔面の紫紅色皮疹.

家族歴,既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:2年前より両上眼瞼に紫紅色の皮疹が出現し,出没を繰り返していた.10か月前より両下腿にも同様の皮疹が出現し,手指にしびれを感じるようになった.以後,皮疹は軀幹にも出現し,全身の掻痒感を覚えたため近医を受診し,精査加療目的にて当科に入院した.

現 症:眼瞼および前額,口囲,頸部から前胸部にかけて大小の紫斑および淡褐色の色素沈着が多数みられた(図1).入院後,両側下腿に水疱が出現した(図2).舌はいわゆる巨大舌を呈していた.

原著

路上生活者の両下腿に生じたelephantiasis nostras verrucosaの1例

著者: 綿貫(工藤)沙織 ,   石橋正史 ,   山本享子 ,   陳科榮

ページ範囲:P.290 - P.295

要約 57歳,男性.初診の約半年前より路上にて1日中坐位で生活した.3か月前より両下腿に浮腫と皮疹が出現し,その後,増悪し右足痛のため歩行困難となり受診した.初診時,両下腿は厚い痂皮を付して腫大し,一部は乳頭状小結節が多発集簇し紅褐色局面を呈した.皮膚生検病理組織像では,過角化と偽癌性増殖,真皮の肥厚と線維化,真皮浅層の血管の増生,真皮中層のリンパ管の拡張を認め,elephantiasis nostras verrucosaと診断した.右足潰瘍はガス壊疽と慢性骨髄炎を伴い下肢切断術を要した.左下腿の病変は洗浄と尿素クリーム外用,圧迫で改善した.自験例は路上生活に伴う坐位睡眠や不潔,低栄養などにより発症したと考えた.象皮症は稀な疾患だが加療が遅れると難治となる.本邦でのこれまでの報告例を含めて検討し,症例ごとに発症の原因を十分に検討して加療することや,自験例のように潜在する深部感染症などを見逃さないことが重要であると考えた.

今月の症例

びまん性大細胞B細胞リンパ腫を合併した皮膚筋炎の1例

著者: 宮地千尋 ,   川口雅一 ,   村田壱大 ,   門馬文子 ,   二階堂(豊野)まり子 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.296 - P.300

要約 74歳,男性.初診の約2か月前から露光部に掻痒性紅斑が出現した.臨床症状,筋酵素の上昇,皮膚および筋生検より皮膚筋炎と診断した.全身スクリーニングで悪性腫瘍の合併を認めず,プレドニゾロン60mg/日で治療開始した.治療開始2か月後CEA,CYFRA,CA19-9が上昇したため,再度全身スクリーニングを行ったところ,右腋窩リンパ節腫脹を認め,病理組織学的に悪性リンパ腫(びまん性大細胞B細胞リンパ腫)と診断した.放射線治療とリツキシマブにより加療した.悪性リンパ腫で消化器系腫瘍マーカーの上昇がみられることがあり,皮膚筋炎症例では経時的に腫瘍マーカー値を測定し,悪性腫瘍の合併を検索することが重要である.

症例報告

急性扁桃炎を契機に,掌蹠膿疱症性骨関節炎の悪化を伴って発症した急性汎発性膿疱性細菌疹の1例

著者: 松浦英理 ,   速水千佐子 ,   土屋佳奈 ,   石黒直子 ,   小林里実 ,   川島眞

ページ範囲:P.301 - P.305

要約 62歳,女性.45歳より潰瘍性大腸炎がある.初診の数年前より扁桃炎を繰り返し,4か月前より足底の膿疱と胸鎖関節痛,2か月前に膝に硬結を触れる紅斑を認めた.6日前より発熱,咽頭痛が先行し,胸鎖関節痛の増強と全身に膿疱,左下腿には結節性紅斑を疑わせる皮疹を認めた.生検で腹部の膿疱は角層下膿疱と真皮血管壁のフィブリンの析出と,周囲に好中球浸潤を,下腿の紅斑は脂肪織炎を呈した.アンピシリン点滴8日目には皮疹,関節痛ともに軽快した.抗生剤内服に変更し,3か月継続後中止したが再燃は認めていない.病巣感染としての慢性扁桃炎により掌蹠膿疱症と掌蹠膿疱症性骨関節炎を発症し,扁桃炎の急性増悪に伴い,結節性紅斑の新生と掌蹠膿疱症性骨関節炎の悪化とともに,急性汎発性膿疱性細菌疹を発症したと考えた.

Monoclonal gammopathy of undetermined significanceに伴ったⅠ型クリオグロブリン血症の1例

著者: 前田梓 ,   石黒直子 ,   速水千佐子 ,   福屋泰子 ,   寺村正尚 ,   川島眞

ページ範囲:P.306 - P.310

要約 80歳,女性.2008年1月より下腿,足趾に紫斑が出現した.いったん軽快したが翌年1月,同部位に潰瘍が出現し,左環指尖に紫黒色調の変化,疼痛を認めたため初診した.右下腿潰瘍および辺縁からの生検で真皮深層の血管に血栓像があった.血清M蛋白,血清クリオグロブリン(両者ともに単クローン性IgG-κ型)が陽性であった.尿中Bence Jones蛋白は陰性で骨髄生検では異型細胞はなかった.Monoclonal gammopathy of undetermined significanceに伴ったⅠ型クリオグロブリン血症と診断した.血管拡張薬およびMP療法(メルファラン6mg/日,プレドニゾロン20mg/日)で症状は著明に改善した.

全身性エリテマトーデス,Sjögren症候群に合併した多発性皮膚線維腫の1例

著者: 太田美和 ,   笹尾ゆき ,   岩原邦夫

ページ範囲:P.311 - P.313

要約 56歳,女性.36歳時に大腸癌,51歳時に子宮癌の既往あり.34歳時全身性エリテマトーデス(systemic lupus erytlematosus:SLE),Sjögren症候群と診断され,現在プレドニゾロン32.5mg/日内服するも,症状は安定せず入退院を繰り返していた.約10年前より四肢,体幹に自覚症状を欠く褐色の結節が多発した.消失することなく,増加傾向にあり当科を受診した.初診時,径3~7mm大の褐色の弾性硬の結節が体幹,四肢を中心に計32個存在した.掻痒,圧痛などの自覚症状はなかった.皮膚病理組織像では真皮浅層から中層にかけて腫瘍塊が存在し,腫瘍を構成する細胞は紡錘形の核を持ち,異型性のない線維芽細胞で膠原線維の増生があった.典型的な皮膚線維腫の組織像であった.以上よりSLE,Sjögren症候群に合併した多発性皮膚線維腫と診断した.SLEとSjögren症候群の合併症例に多発性皮膚線維腫を伴った症例は稀であり,本邦2例目である.

臀部に生じた皮膚線毛囊腫の1例

著者: 高塚由佳 ,   増田智一 ,   佐藤篤子 ,   山田朋子 ,   小宮根真弓 ,   村田哲 ,   大槻マミ太郎

ページ範囲:P.315 - P.317

要約 20歳,女性.3か月前から右臀部に自覚症状のない皮下結節に気づいた.全摘出した結節は皮下に存在し,薄い被膜に覆われ内部に淡褐色調の液体を含んだ囊腫だった.病理組織像では,線維結合織で形成された壁の内腔側を単層の円柱上皮が覆い,線毛を有する細胞が混在した.免疫組織染色では細胞核にエストロゲンレセプター,プロゲステロンレセプターがともに陽性であり,自験例を皮膚線毛囊腫(cutaneous ciliated cyst)と診断した.自験例の組織学的所見は卵管上皮に類似しており,この疾患の発生機序としてMüller管迷入説を支持する.

乳頭部腺腫の1例

著者: 大澤学 ,   爲政大幾 ,   岡本祐之 ,   山本大悟

ページ範囲:P.319 - P.322

要約 31歳,女性.当科初診の3年前から右乳頭に滲出液が生じ,外用治療を受けたが改善しなかった.当科受診時,右乳頭に紅色局面とその中心にびらんがみられ,ダーマスコピーではびらん部に不規則な毛細血管拡張がみられた.病理組織像では上皮細胞とその周囲を取り囲む筋上皮細胞の2層構造からなり,分裂像は少数で,細胞異型もなかった.病理組織所見と発生部位から乳頭部腺腫(adenoma of the nipple)と診断した.本症は病理組織学的に偽浸潤像がみられることから,しばしば悪性と誤診され,乳房切断術などの過剰な治療が行われることがある.そのため,乳頭の病変では本疾患を念頭に置き,病理組織所見を慎重に検討したうえで,治療に当たることが必要と考えた.

単発性reticulohistiocytomaの1例

著者: 山際秋沙 ,   近藤誠 ,   森如 ,   波部幸司 ,   磯田憲一 ,   黒川一郎 ,   水谷仁

ページ範囲:P.323 - P.326

要約 1歳,男児.1か月前より左大腿に「虫刺され様」の皮疹が出現し,次第に増大したため受診した.直径1cm大の赤紫色紅斑を伴う弾性軟の皮下結節を触れ,皮膚と固着し,下床と癒着しない.全身麻酔下に一括切除.病理組織像では,核小体の目立つ腫大核と淡好酸性の豊富な胞体を有する細胞がびまん性結節状に増生し,少数の泡沫細胞や多核巨細胞を混じ,reticulohistiocytomaと診断した.関節症状などの全身症状は伴わず.虫刺症に対する肉芽腫性反応を考えた.術後は経過観察のみ行い,2年経過した現時点では再発はない.ReticulohistiocytomaはGoetteらによって3型に分類されており,その中でmulticentric reticulohistiocytosisの報告は多数みられるが,単発性のreticulohistiocytomaは医学中央雑誌での報告が6例と比較的珍しい予後良好の疾患である.

悪性黒色腫との鑑別を要した消退現象を伴う先天性色素性母斑

著者: 安井陽子 ,   浅越健治 ,   岩月啓氏

ページ範囲:P.327 - P.330

要約 23歳,男性.初診の約3か月前から,生来右大腿に存在した色素斑上に水疱を形成した.一度同部の色調が淡くなった後,再び濃くなるというエピソードがあり,悪性黒色腫の疑いで当科を受診した.右大腿外側に,周囲に淡い褐色斑を伴う,16×12mmの扁平隆起性,濃淡不整な黒褐色局面を認め,ダーモスコピー所見では,非定型色素ネットワークと青白色構造が主体であった.辺縁の一部に不規則線条もみられた.悪性黒色腫,先天性色素性母斑の自然消退などを鑑別に考えexcision biopsyを施行した.病理組織学的には,表皮基底層中心に異型性のないメラノサイトを認め,真皮では母斑細胞の胞巣を認める部と,母斑細胞を認めずメラノファージとリンパ球中心の単核球浸潤がみられる部が混在していた.メラノサイトに明らかな異型性はなく,消退傾向を示した先天性色素性母斑と診断した.切除後約3年半経過するが再発・転移の徴候はない.

肛囲Paget病の1例

著者: 安藤実緒 ,   鳥居秀嗣 ,   岡本欣也 ,   佐原力三郎

ページ範囲:P.331 - P.334

要約 68歳,男性.3年前より肛囲に搔痒を伴う紅斑が出現した.肛門周囲に9×4cm大の脱色素斑を伴う紅斑を認め,皮膚生検にて肛囲Paget病または隣接臓器癌のPaget現象と診断した.下部消化管内視鏡検査などにて直腸肛門癌は明らかでなく,免疫組織化学的所見にて腫瘍細胞はcytokeratin(CK)20陰性,CK7陰性,gross cystic disease fluid protein(GCDFP)15陰性であった.肛囲Paget病と診断し,皮膚側は病変より3cm,粘膜側は1cm離して切除し,V-Y皮弁および分層植皮にて再建を行った.肛囲Paget病と直腸肛門癌のPaget現象は,それぞれ治療法も予後も異なるため両者を鑑別することが重要である.これらの鑑別にはCK20,CK7,GCDFP15による免疫組織化学染色が有益である.しかし,自験例では,これらすべてが陰性を示した.最終的に隣接臓器癌を証明しえなかったことより,肛囲Paget病と診断した.

拍動が触れ血管性病変が疑われた腎細胞癌の皮膚転移の1例

著者: 村本睦子 ,   森安麻美 ,   市橋かおり ,   竹中秀也 ,   加藤則人 ,   伊藤博敏

ページ範囲:P.335 - P.337

要約 73歳,女性.24年前に右腎細胞癌のため右腎摘出術を受けた.その後膵転移,肺転移を認めインターフェロン(IFN)-α療法を施行されていたが,自覚症状はなく日常生活動作は良好であった.受診の5か月前に前額部に紅色結節が出現し,徐々に増大してきた.受診時,前額部に周囲に毛細血管の拡張を伴う拍動性の小指頭大,暗赤色の結節を認めた.臨床的に強い拍動を触れることから,血管性病変が疑われたが,超音波,MRIの所見より腎細胞癌の皮膚転移と考え,皮膚腫瘍切除術を施行した.病理組織像で腎細胞癌の転移であることを確認した.

Langerhans細胞組織球症の皮膚症状を伴ったErdheim-Chester病の1例

著者: 平井千尋 ,   星野洋良 ,   中村善雄 ,   石河晃 ,   天谷雅行 ,   谷川瑛子 ,   古屋善章

ページ範囲:P.338 - P.342

要約 53歳,男性.膝関節痛と発熱,視力低下を認めた.精査にて骨病変,眼窩内腫瘤,および腎周囲脂肪織の炎症を認めた.脛骨生検ではCD1a陰性・S100蛋白陰性・CD68陽性の泡沫状細胞の増生を認め,Erdheim-Chester病(Erdheim-Chester disease:ECD)と診断された.プレドニゾロン投与および化学療法にて加療開始2年後に,前胸部に米粒大までの多発する褐色斑が出現.皮膚生検にて真皮上層にCD1a陽性・S100蛋白陽性・CD68陰性の組織球様細胞の浸潤を認め,Langerhans細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)の所見であった.同一患者にECDとLCHの組織学的所見を有する病変を呈した報告は本症例を含め5例のみである.過去4例はいずれもLCHがECDに先行していたが,自験例のみECDがLCHに先行しており,両疾患は同一スペクトラム上にあるものと考えられた.

自然消退した原発性皮膚CD4陽性小・中細胞型T細胞リンパ腫の1例

著者: 山田玉静 ,   松村由美 ,   大森勝之 ,   羽賀博典 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.343 - P.347

要約 27歳,女性.右こめかみの単発性紅色結節を主訴に来院した.全身検索では他部位に腫瘍性病変を認めなかった.病理組織学的には中型の異型リンパ球が真皮浅層から中層にかけて稠密に浸潤し,CD4陽性細胞,CD8陽性細胞,B細胞,組織球,好酸球が混在していた.中型の細胞の一部はprogrammed cell death-1陽性であった.フローサイトメトリーではG2期の細胞を7.6%に認め,これらはCD4陽性,CD8陰性であった.T細胞受容体β鎖遺伝子再構成が陰性,γ鎖遺伝子再構成が陽性であり,原発性皮膚CD4陽性小・中細胞型T細胞リンパ腫と考えた.初診の11か月後には結節は自然消退した.

ワクチン接種により発症した成人麻疹の1例

著者: 白樫祐介 ,   吉田哲也 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.349 - P.352

要約 29歳,男性.麻疹風疹混合ワクチン接種7日後から二峰性の発熱があり,解熱とともに全身に淡い浮腫性紅斑と口腔内にKoplik斑が出現した.ワクチン接種14日後の患者血清からワクチン株の麻疹ウイルス遺伝子を検出し,ワクチン株により発症した成人麻疹と考えた.全身状態は良好で,1週間の安静により症状は自然軽快した.麻疹ワクチン接種による副反応として発熱,発疹を認めることはしばしば経験されるが,Koplik斑を生じた例は自験例が初の報告となる.

気管支粘膜病変を認めた成人水痘肺炎の1例

著者: 何川宇啓 ,   狩野葉子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.353 - P.357

要約 47歳,男性.水痘の既往はない.17歳より喫煙歴あり.数日前より発熱,小水疱が出現し,水痘の診断で緊急入院した.軽度の咳嗽および呼吸困難症状があり,胸部X線,CTにて両側肺野にびまん性粒状小結節影を認め,水痘肺炎と診断した.気管支鏡にて,気管支粘膜に白色隆起性病変を確認した.入院時,検査所見で水痘帯状疱疹ウイルス抗体価IgM:7.69,IgG:2.6,CD4/8比は1.02であり,その後の呼吸器症状の増悪や全身状態の悪化を懸念して,アシクロビルと免疫グロブリン製剤を投与し軽快した.免疫能の低下に加え喫煙は,水痘肺炎合併のリスクを上昇させる重要な因子である.その点で自験例は免疫能低下を示唆する基礎疾患はないが,ヘビースモーカーであった.最初に水痘患者を診察するのはわれわれ皮膚科医であり,危険因子を有する症例では水痘肺炎の併発に留意して経過をみる必要がある.

週1回イミキモドクリーム外用が著効した小児の肛囲尖圭コンジローマの1例

著者: 朝倉麻紀子 ,   﨑元和子 ,   三浦宏之

ページ範囲:P.358 - P.360

要約 3歳,女児.肛囲尖圭コンジローマに対し,イミキモドクリーム外用が有効であった1例を報告した.生後6か月頃から肛門周囲に丘疹を認め,近医皮膚科で尖圭コンジローマと診断された.自然消退を待って放置していたが,徐々に増大したため当科を受診した.冷凍凝固療法は疼痛が強く施行不可能であったため,5%イミキモドクリーム週1回外用で治療開始した.3週間で副作用の出現なく丘疹の消退を認め,外用終了後6か月間経過するが再発は認めていない.

MRSAによる背部広範囲の皮下膿瘍の1例

著者: 田村梨沙 ,   齋藤京 ,   北村類

ページ範囲:P.361 - P.365

要約 54歳,男性.1か月ほど前から背部皮膚が腫脹し,1週間ほど前から排膿して発熱を伴った.当院受診時,左肩甲骨を中心に背部広範囲を暗紫色局面が占めており,深部に波動を触れ,表面に鱗屑と小膿疱がみられた.CT検査で,背部皮下脂肪織内に広範囲に拡がる低吸収域領域を認めた.コントロール不良の糖尿病に伴った重度の皮下膿瘍を考え,強化インスリン療法による血糖コントロールと抗生剤の投与を行った.また,局所の皮膚切開を行ったが十分な排膿がなかったため,全身麻酔下で大きく皮膚切開しデブリードマンを施行した.術後は洗浄を中心とした処置を連日行い,最終的には治癒しえた.起因菌は多剤感受性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)だったが,これまで医療機関を受診することはなかった患者から入院48時間以内に検出されたことと合わせて,市中感染型と考えた.

前縦隔膿瘍から波及した皮膚腺病

著者: 小南賢吉郎 ,   芦澤かがり ,   塩田雄太郎

ページ範囲:P.367 - P.370

要約 92歳,女性.4か月前より前胸壁に皮下腫瘤が出現,軽度熱感を伴った.MRIで前縦隔膿瘍から波及した膿瘍であり,皮膚組織のPCRで結核菌が検出され,クオンティフェロンは陽性であった.前縦隔膿瘍から波及した皮膚腺病と診断し,抗結核剤多剤併用療法を開始した.保存的治療での軽快を期待して前縦隔膿瘍のドレナージは行わなかった.皮膚腺病は前胸壁ではまれだが,高齢化とともに増加する可能性があり,定型的な部位でなくても炎症反応の乏しい皮下膿瘍を疑わせる皮下腫瘤が出現したときには皮膚腺病を念頭に精査を進めるべきである.

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欧文目次

ページ範囲:P.285 - P.285

書評 ―編:国立がん研究センター内科レジデント―がん診療レジデントマニュアル 第5版

著者: 佐藤温

ページ範囲:P.318 - P.318

 『がん診療レジデントマニュアル』も第5版となった.初版から既に13年を数え,とても息の長い本である.いかにがん診療医に必要とされつづけている本であるかがうかがえる.私の仕事部屋の本棚にも初版から全版が揃えられている.各版の表紙の色が異なることもあり(徐々に厚くもなっている),並べると案外きれいなものである.マニア心をくすぐるのでプレミアでも付かないかなぁなどと不謹慎なことまで考えてしまう.実は大変お世話になっているので捨てられないのである.がん薬物療法を診療の主とする医師にとっては,複雑で解釈しにくいこの領域における実臨床的な内容が,非常にわかりやすく整理されているため,初めに目を通す本としては最適である.

 第3版までは,常に白衣のポケットに入れて,日常診療にあたっていた.治療方針がわからない症例に出会うとすぐ調べた.治療計画を立てて再び内容を確認した.症例を検討するときにも本マニュアルを開きながら議論した.第4版は,地方での学会会期中が発売日であったため,発表に来ていた医局員とわざわざ医学専門書を取り扱う書店を探して,発売日当日に購入した.まるで,人気ゲームソフトの販売みたいである.さらに,第4版は2冊所有している.別にほかからプレゼントされたわけではない.自分のポケットから支払って購入している.実は,このとき私は,臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医の試験を受けるため,このマニュアルを試験合格に向けて覚えるべき知識を整理するために使用していたのである.まるで学生時代のように赤線をたくさん引いているうちに,真っ赤になってしまい,日頃の臨床時に調べにくくなってしまったので追加1冊購入した次第である.結論から言えば,がん薬物療法専門医を受けようとしている医師にも,ぜひお薦めしたい.膨大な知識をこれだけコンパクトにまとめている本はない.本書を読んでから,臨床腫瘍学会の教育セミナーを聴くと,理解しにくい自身の専門外の領域のがんの知識がよく頭に入る.また,携帯可能であることも大きい.この件については後述でその意味を追加する.自分勝手な話ばかりでなく,書評として本来の意義である内容について触れる.

文献紹介 融合サイトカインによる樹状細胞誘導と抗腫瘍効果

著者: 大内健嗣

ページ範囲:P.334 - P.334

 CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte:CTL)は特異的腫瘍抗原を認識する重要なエフェクター細胞である.一方で,種々のサイトカインの併用が腫瘍の免疫原性を高め,腫瘍の退縮を引き起こすことが証明されている.免疫応答における,サイトカインの組み合わせの重要性が示され,かつ各サイトカインの相対レベルが重要であることも判明した.異なる薬理学的効果を示す複数の成分を一定に維持することが必要である場合,2つのサイトカインをin vivoで併用するのは難しい.この併用における困難を減らす戦略が,サイトカインの融合である.

 Galipeauらのグループでは顆粒球単球コロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony-stimulating factor:GM-CSF)とIL-21を融合し,GIFT-21を作成した.GIFT-21はin vivoで抗腫瘍効果を発揮することが同グループによって確認されているが,詳細なメカニズムは不明であった.今回,GalipeauらはGIFT-21によって単球を樹状細胞〔GIFT-21 DC(dendritic cell)〕に誘導した結果,CTLによる細胞傷害性応答を引き起こすことを証明した.

書評 ―著:影山 幸雄―解剖を実践に生かす 図解 泌尿器科手術

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.348 - P.348

 手術は記録を通して客観性をもつのではないだろうか.手術記事では個々の症例でどのような手技がどのような時間軸で施行されたかが記録され,第三者が読んで手術の過程がわかるように記載されている.これとは別に,手術を行う医師は,自分自身の手術の習熟のために,手術記事に記載するにはあまりに主観的な「手術ノート」を作り,先輩の医師に習ったこと,今後改善すべき点などを詳細に記載し,後生大事に持っていることが多いのではなかろうか.手術前にノートの記載とスケッチを眺めながらイメージを描き,手術に臨む.手術の終了後は加筆を行い,ノートの「改訂」は繰り返されていく.この地道な過程こそが上達への定石であり,この記録を通して,先輩の医師は後輩に技量を伝授してきたのではないだろうか.個々の症例では手術は1回きりである.なんとしてでも全力を尽くさなければならない.より良い手術を継続的に実践するためには,手術自体の客観性を担保しなければならない.そのためには,学会で勉強し,意見を交換するだけでなく,手術書あるいは文献を紐解き,常に自らの手技に批判的な視点をもつ必要がある.

 おそらく著者はより良い手術を求める過程で,自らが集積してきた詳細な術中のスケッチを通して技術を磨いてきたのだと思う.著者は東京医科歯科大学の木原和徳教授とともにミニマム創手術の確立に多大なる貢献をしてきた.本書では膜の解剖を徹底的に理解し,これ以上の解析は無理であろう,あるいは手術にはそれ以上必要はないであろうというレベルまで考察して泌尿器科手術に応用している.この考察はミニマム創手術の確立に必要な過程であったのかもしれない.

文献紹介 転移性メラノーマに対するBRAF阻害剤の効果

著者: 松﨑ひとみ

ページ範囲:P.365 - P.365

 転移性メラノーマに対する有効な治療法はいまだに確立していない.メラノーマにおいてさまざまな遺伝子変異が報告されており,これらを治療標的とした研究が進められている.なかでもセリン・スレオニン蛋白キナーゼのBRAFをエンコードする遺伝子に40~60%で変異が認められ,その90%が600番目のアミノ酸がバリンからグルタミン酸に変化するV600E変異である.今回,筆者らはV600E変異を有するBRAFに対する強力な経口阻害剤であるPLX4032を転移性メラノーマ患者に投与し,その効果を調べた.

 Dose-escalation phaseでは,200mg/日から内服量を増量し,ここで安全性の認められた960mg/日を投与量としたextension phaseを行った.Dose-escalation phaseに参加した55人の患者のうち49人(89%)は転移性メラノーマ,3人(5%)はV600E BRAF変異をもつ甲状腺乳頭癌患者であった.またExtension phaseでは,32人のV600E BRAF変異をもつ転移性メラノーマの患者が参加した.

お知らせ 公益信託皮膚科国際学術交流基金/2011年度 留学生研究助成募集要項

ページ範囲:P.366 - P.366

1.趣 旨 海外から来日して,大学等で皮膚科学の基礎又は臨床研究に従事している若手外国人研究者に対して研究費の助成を行ない,皮膚科医療の振興と福祉の向上に寄与する.

2.研究課題 特に定めないが,上記趣旨に沿う研究課題とする.

お知らせ 日本臨床体温研究会 第26回学術集会

ページ範囲:P.370 - P.370

日  時 2011年8月27日(土)

会  場 札幌医科大学記念ホール

お知らせ 第13回皮膚病理講座:基礎編/東京/第14回皮膚病理講座:基礎編/神戸

ページ範囲:P.371 - P.371

【第13回皮膚病理講座:基礎編/東京】

日 時 1日目 2011年6月25日(土)10:00~17:00

    2日目       26日(日) 9:00~16:00

会 場 日本医科大学教育棟2階 大講堂

    (東京都文京区千駄木1-1-5)

【第14回皮膚病理講座:基礎編/神戸】

日 時 1日目 2011年7月17日(日)10:00~17:00

    2日目       18日(祝) 9:00~16:00

会 場 神戸大学付属病院臨床研究棟6階 大講義室

    (兵庫県神戸市中央区楠町7-5-2)

次号予告

ページ範囲:P.372 - P.372

投稿規定

ページ範囲:P.373 - P.373

あとがき

著者: 中川秀己

ページ範囲:P.374 - P.374

 新しい年度が始まり,新しく皮膚科を目指す医師を迎えて,皆様心機一転,診療,教育,研究に邁進されていると思います.この「あとがき」を書いている3月11日はわれわれの大学の卒業式にあたっており,夕方には謝恩会で祝辞を述べなければなりません.私の一番嫌いなあとがき,祝辞と今日は私にとっては厄日かもしれません(実際に卒業式出席中に東日本大地震があり日本にとって未曾有の危機をもたらす日になってしまいました).

 とりあえず,最近の診療で私が感じていることを書いてお茶を濁したいと思います.ご存じのように昨年1月に生物学的製剤が乾癬治療に導入されてから既に全国で2,000名程度の方がこの治療を開始されています.患者会も次々と立ち上がり,東京の会はついにNPO法人になっており,患者さん同士の密な情報の共有だけでなく,ネットを通じてさまざまな情報が得られるためか,われわれの外来にもひっきりなしに乾癬患者さんが新しい治療を求めて受診されています.なかには乾癬と誤って診断され,シクロスポリンを内服していた菌状息肉症の患者,ステロイドの内服に加え,最強のステロイド外用薬とビタミンD3外用薬で皮膚が全体に萎縮した難治性の結節性痒疹,貨幣状湿疹の患者さんなど乾癬以外の方も多数みられます(その半数以上が皮膚科で診療されていたという嘆かわしい事実があるのが大変,残念です).本当の乾癬患者さんでも,その重症度は必ずしも重症な方だけでなく軽症の方もたくさんおられます.皮膚科だけではなく,内科,外科の医師から紹介状を貰って受診される方がほとんどで,その理由を聞くと乾癬を専門としている施設できちんと病気と治療法の説明をしてほしいとのことです(話を聞くとほとんどの方が丁寧な説明を受けておらず,これも問題と感じました).この傾向は今までにはあまりなかったことで,生物学的製剤の導入によって患者さんの意識にも新しい変革がもたらされ,積極的に治療に取り組む意欲が高まってきているようでわれわれ皮膚科医にとっては順風状態になってきているといえるかと思います.4月からは抗Il12/23P40抗体も使用が開始可能になる(ちなみに1本の薬価は426,552円)ので,ますます,この傾向が続くことを期待しています.とはいえ,初診で乾癬の患者さんが続くと何度も同じことを説明するのは疲れてくることも確かです.昨日,深酒しすぎたことを反省し,罪滅ぼしに,患者さんには1~2時間も待たせたことをお詫びするとともにせめて罪滅ぼしに,今日病院に来て本当に良かったと思ってもらえるような診療を行えるよう一日一善の志を持って,日々努力しているつもりです.東日本大地震で亡くなられた方々の御冥福を祈りつつ筆を置かせていただきます.

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基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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