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文献詳細

雑誌文献

臨床皮膚科65巻5号

2011年04月発行

Derm.2011

最大公約数的な医療をめざして

著者: 三井田博1

所属機関: 1新潟県立新発田病院皮膚科

ページ範囲:P.168 - P.168

文献概要

 皮膚科医に限らずすべての医師は,常に患者にとって最小限のリスクで最大限の効果をもたらすような医療を目指して日々診療していると思われる.医師は,可能な限り最大の効果と最少の副作用(最大の副作用のなさ)という,まさに最大公約数的な治療や検査を常に求め,実践したいと思っているはずである.そして難治な疾患,病態に対して新たな治療方法が開発,導入されたり,既存の薬剤に新たな適応疾患が加わったりするのは,それがたとえ副作用の発生頻度を増やす可能性があるにしても,良き効果が得られる頻度よりもはるかに低いからである.アトピー性皮膚炎のシクロスポリンしかり,乾癬の抗TNFα抗体製剤しかりである.まさに難治性疾患の治療の最大公約数が大きくなったといえる.しかし一方で,それらの副作用のなかには皮膚科医だけでは対処が困難なものも存在する.だからといって皮膚科医が常に安全,安心,ということだけを求めてしまっては行える医療行為の公約数はどんどん小さくなってしまう.ただ副作用があるからこれもしない,あれもしない,訴えられなければいいのだ,水疱症といってもプレドニゾロンは多くて0.5mg/日まで,それ以上は副作用が怖い! シクロスポリンなんて腎障害起きたらどうするつもり!? そんな大変な疾患,すべて大学へ送っちゃえ! などなど.これでは皮膚科医として,無難に医師の生涯を終えることができるかもしれないが,はたしてその医師は最終的に,どの程度のレベルで,皮膚科医としてどの程度患者を救ったことになるのか? 昨年春に大学から野戦病院に一人医長として赴任して,ふとそんなふうに感じた.医師一人だから,という理由で,できる,できないは明確にしつつも消極的な医療しか実践しないのであれば,勤務医の存在意義も,やりがいもなくなってしまう.そこで結局のところは,患者としっかり向き合って話し合ってから医療を施すというごく当たり前のことが,たとえ一人でも最大公約数的な医療行為を行える唯一の方法であると思うのである.「Aという治療(検査)にはこのような効果と副作用があります.あなたの今の病気の状態ではAの治療(検査)の必要性が高い.ところが,ある副作用が起きたとき,それは私のような皮膚科医では対処が困難なことがあります.しかし,その際は他科の先生とも協力してきちんと対処します.だからAの治療(検査)を受けてみてはどうですか」と.私は多くの科があって連携もスムーズなこの病院に赴任できたことを幸せに感じつつ,最大公約数を求めて日々奮闘している…とここまで書いて,この内容が賛成者多数,反対者ごく少数の最大公約数的なものになったのか,いささか不安になってきたのでこの辺で筆を置くことにする.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1324

印刷版ISSN:0021-4973

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