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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科65巻6号

2011年05月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・45

Q考えられる疾患は何か?

著者: 齋藤京

ページ範囲:P.379 - P.380

症例

患 者:70歳,男性

主 訴:両足の趾尖部の有痛性の暗紫紅色斑

既往歴:心筋梗塞,肺扁平上皮癌,高血圧,気管支喘息.足の皮疹と時期を同じくして腹部大動脈瘤の存在が判明していた.

喫煙歴:55歳まで1日40本を35年間.

現病歴:初診の2~3週間前より特に誘因なく趾尖部に凍瘡様有痛性の暗紫紅色斑が両側ほぼ同時に出現した.

現 症:両側ほぼ全趾に自発痛,圧痛の強い凍瘡様,一部網状の暗紫紅色斑を認め,さらに右第1,4,5趾,左第3,5趾には潰瘍を形成し黒色の痂皮を伴っていた(図1).

今月の症例

M蛋白血症を伴ったびまん性扁平黄色腫の1例

著者: 田中隆光 ,   大松華子 ,   大西誉光 ,   神田奈緒子 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.382 - P.385

要約 81歳,女性.10年前に高脂血症を指摘され食事療法で軽快した.2年前から両前腕が黄色となり自覚症状なく徐々に全身へ拡大した.3週間前から両上腕内側から腋窩に自覚症状のない紅斑が出現した.現症は顔面,掌蹠,腋窩,体幹の一部を除くほぼ全身に扁平隆起するびまん性の黄色局面があり,さらに両上腕内側から腋窩周囲に爪甲大までの浸潤性紅斑が散在した.採血で黄疸や高脂血症はなく,IgGが高値でIgGκ型M蛋白を認めたが,尿中Bence-Jones蛋白は陰性であった.多発性骨髄腫の精査はできなかった.病理組織像では,真皮上層に泡沫細胞が一部胞巣を形成し,真皮結合織間にも散見された.泡沫細胞の周囲や血管周囲にリンパ球が結節状に浸潤していた.リンパ球はそれぞれ半数がCD4,CD8陽性.CD10,20,30,56,Ki-67は陰性であった.全身の皮疹をびまん慢性扁平黄色腫と診断した.紅斑は確定診断できなかったが,4週間で消退し再燃はない.

症例報告

右下腿部に生じたclosed degloving injuryの1例

著者: 篠田洋介 ,   井上卓也 ,   三砂範幸

ページ範囲:P.387 - P.390

要約 80歳,女性.後方から来た乗用車と接触し前頭部および右下腿部を受傷した.初診時には前額部に血腫と右下腿部内側に表在性の擦過傷が認められた.頭部CTにて軽度の頭蓋内出血が確認され当院救急部へ入院した.受傷翌日より右下腿部の疼痛,腫脹が増強し,さらに受傷後8日目には局所の紅斑や波動,皮膚壊死も伴うようになった.深部組織の障害や感染症を疑いCT検査を行ったところ皮膚壊死に一致して血腫が確認され,closed degloving injuryと診断した.本疾患はタイヤに轢かれた際に生ずる特殊な局所要因に基づく挫滅創であり,初期治療が遅れると広範な皮膚壊死を生ずる.Closed degloving injuryは皮膚科医にとって馴染みのない疾患ではあるが,交通外傷時においてタイヤ痕の所見を認めた際には本疾患を念頭に置き,画像検査やデブリードマンの必要性を含め慎重に経過観察する必要がある.

Churg-Strauss症候群の1例

著者: 石田修一 ,   日野頼真 ,   千葉由幸 ,   堀内義仁 ,   能登俊 ,   竹迫直樹

ページ範囲:P.391 - P.395

要約 65歳,男性.2008年9月に気管支喘息を発症し,ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)などで治療されていた.2009年3月初旬から発熱,前額部の紅斑,手指の感覚障害,末梢血好酸球増多を認めた.2009年3月下旬に当科受診し,病歴,現症および各種検査結果よりChurg-Strauss症候群(Churg-Strauss syndrome:CSS)と診断した.ステロイド内服により発熱,皮疹,好酸球増多はいずれも軽快した.CSSは気管支喘息の先行や好酸球増多などの特徴を有する症例に血管炎を認める全身性疾患である.診断基準には病理組織所見も含まれており,早期診断と治療によってCSSの重症化や後遺症を予防するためにも,皮膚科医の果たす役割は大きい.CSSの病因は不明であるが,気管支喘息治療に用いられるLTRAの内服やステロイドの減量などが関与している可能性も指摘されており,これらの薬剤使用歴のある症例では特に注意が必要である.

Exercise-induced vasculitisの1例

著者: 岡田絵美子 ,   宮本樹里亜 ,   大内健嗣 ,   大山学 ,   海老原全 ,   石河晃 ,   天谷雅行

ページ範囲:P.396 - P.399

要約 41歳,女性.登山をするたびに,靴下の圧迫部位より中枢側に,鮮紅色の紫斑を認めた.紫斑は主に夏季の運動後に,掻痒や灼熱感を伴って生じ,3~10日間で自然消退した.病理組織学的所見にて軽度のleukocytoclastic vasculitisを示唆する所見を認めた.蛍光抗体直接法では,真皮浅層血管周囲にC3の沈着を認めた.本症例は海外で報告されるexercise-induced vasculitisに合致していると考えられた.本邦では調べえた限り初めての報告であり,今後exercise-induced vasculitisの疾患名が周知されるべきと考えた.運動で誘発される紫斑の鑑別として,本疾患を念頭に置くことが重要である.

炭酸ガスレーザー焼灼を行ったHailey-Hailey病の2例

著者: 新美美希 ,   長谷川敏男 ,   丹羽祐介 ,   大熊慶湖 ,   宿谷涼子 ,   池田志斈

ページ範囲:P.400 - P.402

要約 症例1:42歳,男性.37歳頃より両腋窩に紅斑とびらんが出現した.症例2:41歳,男性.29歳頃より両鼠径,腋窩に紅斑とびらんが出現した.いずれも皮膚生検にてHailey-Hailey病と診断され,ステロイド外用にて軽快と増悪を繰り返していた.症例1は右腋窩に対して,症例2は両鼠径に対して炭酸ガスレーザー焼灼術をした.症例1では1年間,症例2では約6か月間,再燃が抑制された.表皮全層を均一に焼灼することにより,新たに再生された細胞はrejuvenationされ再燃しにくくなるのではないかと考えた.

喀血と気胸を繰り返した血管型Ehlers-Danlos症候群(EDS)の1例

著者: 松尾沙緒里 ,   横田雅史 ,   國井英治 ,   籏持淳

ページ範囲:P.403 - P.406

要約 18歳,男性.右肺の緊張性血気胸で呼吸器科を受診した.その後も喀血や対側の気胸を繰り返した.皮膚の菲薄化や透見される血管を認めたため皮膚科を受診した.Ehlers-Danlos症候群を疑い,身体所見で手指関節に限局した関節の過可動を認めた.皮膚の過伸展は肘と膝関節伸側にわずかであった.線維芽細胞の培養でⅢ型コラーゲンの産生が低下し,COL3A1の遺伝子解析でsplice変異を認めたため,血管型Ehlers-Danlos症候群と診断した.気胸に対する胸膜癒着術を行う予定であったが,術前診断確定により大量出血などの手術による合併症を考え施行しなかった.血管型Ehlers-Danlos症候群の身体所見は軽微であるが,本症が疑われた場合には遺伝子解析を行い早期に診断をすることが必要であると考える.

小児皮膚筋炎の1歳男児例

著者: 石川明香 ,   室慶直 ,   星野慶 ,   熊谷俊幸 ,   蒲池吉朗

ページ範囲:P.407 - P.410

要約 1歳9か月男児.初診の2か月前より指趾背に紅斑が出現した.近医にて接触皮膚炎と診断されステロイド外用したが改善しなかった.初診時,顔面のびまん性紅斑と耳介後部,膝蓋および全指趾背に紅色角化性丘疹が多発していた.特徴的な皮疹から皮膚筋炎と診断した.クレアチンキナーゼ,アルドラーゼはともに正常.経過中,抗TIF-1γ抗体陽性であることが判明した.治療はステロイド外用と抗アレルギー薬内服,また遮光と皮膚への刺激を避けることを指示し,おおむね皮疹のコントロールはできている.筋症状や間質性肺炎の出現なく,現在までに3年が経過している.小児では,筋症状よりも皮疹が先行することが多く,特徴的な皮疹から皮膚筋炎を疑うことが重要と考える.

抗155kDa蛋白抗体陽性のamyopathic dermatomyositisの1例

著者: 松浦英理 ,   石黒直子 ,   川島眞 ,   濱口儒人 ,   藤本学 ,   加治賢三

ページ範囲:P.411 - P.414

要約 27歳,女性.初診の2年前より両手指に紅斑が出現した.初診時,爪囲紅斑とGottron徴候を認めたが,そのほかの皮膚症状はなかった.右3指PIP関節背面の丘疹の生検像では,一部に液状変性と真皮上層の浮腫,血管周囲性の炎症性細胞浸潤を認めた.徒手筋力テストは5/5で筋把握痛もなく,CKは正常範囲内であった.各種腫瘍マーカー,KL-6は正常範囲内で,精査にて内臓悪性腫瘍,間質性肺炎は認めなかった.免疫沈降法で筋炎自己抗体の1つである抗155kDa蛋白抗体が陽性であり,amyopathic dermatomyositisと診断した.抗155kDa蛋白抗体陽性は悪性腫瘍合併の皮膚筋炎のマーカーと考えられる一方で,小児皮膚筋炎でも30%で陽性といわれている.自験例では小児症例ではないが,若年発症であり,悪性腫瘍の合併のない中高年のグループとも異なる可能性が推察された.

水疱様外観を呈した皮膚限局性結節性アミロイドーシスの1例

著者: 柳澤倫子 ,   相馬孝光 ,   松本孝治 ,   米本広明 ,   太田真由美 ,   竹内常道

ページ範囲:P.415 - P.417

要約 80歳,女性.約1年前より出現した,左口角の4mm大の表面平滑な黄褐色の小結節を主訴に受診した.巨舌や単クローン性免疫グロブリン血症は認めず,尿中Bence-Jones蛋白は陰性だった.真皮全層に塊状に沈着する無構造物質はダイレクトファーストスカーレット染色陽性で過マンガン酸カリウム処理に抵抗性で,アミロイドの真皮における沈着様式は皮膚限局性結節性アミロイドーシスに一致した.

エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の発現を認めた乳暈部皮膚平滑筋腫の1例

著者: 小林照子 ,   佐々木哲雄 ,   北村創

ページ範囲:P.419 - P.421

要約 44歳,女性.30歳代に子宮筋腫でホルモン療法と手術歴あり.初診の約1年前に左乳暈部の茶褐色皮疹を自覚したが無症状であった.1か月前から同部に掻痒があり,次第に増大してきた.乳暈部内下方に茶褐色,弾性軟の結節を認めた.病理組織像では,真皮内にHE染色で好酸性に染まりマッソン・トリクローム染色で赤染する腫瘍細胞が束状に錯走して増生し,それらはα-SMA,デスミン,ビメンチン陽性で,皮膚平滑筋腫と診断した.免疫組織化学的に腫瘍細胞はプロゲステロン受容体陽性,エストロゲン受容体弱陽性を示した.乳暈部皮膚平滑筋腫は稀で,女性ホルモン受容体染色を施行した例の報告もまだ少ない.本症は女性ホルモンとの関連の可能性も指摘されており,ホルモン療法の増加に伴い本症の発生も増加がみられるか,今後の検討課題と思われる.

Malignant nodular hidradenomaの1例

著者: 大森俊 ,   日野亮介 ,   春山護人 ,   尾藤利憲 ,   中村元信 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.422 - P.426

要約 72歳,女性.約50年来後頸部に存在した皮下腫瘤が,半年前より急速に増大した.初診時,後頸部に約6cm大の皮下腫瘤を認め,左頸部にリンパ節を複数触知した.病理組織学的に異型上皮細胞が管腔構造,囊腫構造,角化像を示し,PAS陽性のclear cellからなる腫瘍巣も認めた.免疫組織化学的に腫瘍細胞はCK7,CEA,p53陽性であった.摘出したリンパ節においても同様の異型細胞の充実性増殖像がみられ,頸部リンパ節転移を伴ったmalignant nodular hidradenoma(MNH)と診断した.腫瘍摘出術,放射線照射,化学療法など行ったが肺・骨転移をきたし,初診1年後に永眠した.MNHの診断確定に免疫組織化学的検討が有用であると考えられた.

右鼠径部に生じた軟部明細胞肉腫の1例

著者: 西本和代 ,   大内結 ,   工藤昌尚 ,   上野博則 ,   矢野尊啓 ,   熊谷有紗 ,   元井亨 ,   佐藤友隆

ページ範囲:P.427 - P.431

要約 69歳,女性.右鼠径部に疼痛を伴う皮下腫瘤を自覚し近医を受診した.CT画像で,右鼠径部を中心に一部外腸骨動脈周囲にいたる大きな軟部影を認め,縦隔・傍大動脈周囲リンパ節も腫大していた.悪性リンパ腫が疑われて当院血液内科を紹介受診した.右鼠径部皮下腫瘤の生検で,腫瘍は大型の淡明な異型細胞からなり,メラニン含有細胞は認めなかったがS100蛋白とHMB45免疫染色が陽性であったため,悪性黒色腫のリンパ節転移と診断された.当科に紹介され,全身検索を行ったが原発巣と考えられるような病変を認めず,原発不明な悪性黒色腫病期Ⅳと考え,Dac-Tam療法を2クール施行した.診断確定のために生検組織からのRT-PCR法を試行しキメラ遺伝子EWS-ATF1(Ewing's sarcoma oncogene-activating transcription factor 1)を検出したため,本症例をclear cell sarcomaと最終診断した.腫瘍は縮小することなく全身転移し,初診より8か月後に永眠した.clear cell sarcomaと悪性黒色腫は病理像が極めて近く,しばしば両者の鑑別が困難である.キメラ遺伝子EWS-ATF1の検出は,両者の鑑別に有用である.

皮膚原発性MALTリンパ腫の1例

著者: 岸隆行 ,   時田智子 ,   森康記 ,   佐熊勉 ,   佐々木豪

ページ範囲:P.432 - P.436

要約 58歳,女性.2004年頃から右鼻翼部に紅色丘疹が出現し,徐々に増数してきた.数か所の皮膚科で加療されるも改善せず,2010年3月に当科を紹介された.眉間部紅色丘疹の皮膚生検の病理組織学的所見では,表皮直下にGrenz zoneを認め,真皮中~深層に形質細胞様腫瘍細胞が稠密に浸潤し,中型の異型リンパ球も認めた.免疫染色では,CD20強陽性,bcl-2陽性で,CD79a,CD5,CD10は陰性で,ヒト免疫グロブリンL鎖ではκ強陽性,λ陰性であった.PET-CT検査では特に異常集積は認めず,顔面皮膚に限局したMALTリンパ腫stageⅠBと診断した.本症は5年生存率99%と予後良好だが,再発や悪性転換を生じる症例の報告もあるため,今後も厳重な経過観察が必要と考えた.

化学療法後に特異疹を認めた慢性骨髄単球性白血病の1例

著者: 牛込悠紀子 ,   満山陽子 ,   平原和久 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.437 - P.441

要約 59歳,男性.全身の紅斑と38℃台の発熱を認め,血液検査で貧血と単球数の異常高値が明らかになったため,当科を受診した.著明な歯肉腫脹を伴っており,骨髄生検にて慢性骨髄単球性白血病(chronic myelomonocytic leukemia:CMML)と診断した.皮膚生検で異型細胞はみられず,非特異疹と診断した.皮疹は自然消退したが,単球の高値は持続し,経過中に急性転化した.化学療法により完全寛解が得られた後,全身に紅色結節が出現した.結節出現時の末梢血は白血球数,単球数ともに基準値内であった.皮膚生検よりCMMLの特異疹と診断したが,結節は約1週間で自然消退した.CMMLの特異疹の出現時期はさまざまであるが,自験例では非特異疹が先行した点と,化学療法を施行し寛解を得た後に特異疹が出現した点,および両者とも1週間程度で自然消退した点が非常に稀な経過といえる.全身の紅斑,歯肉腫脹,末梢血での単球増加を認めた場合,CMMLを鑑別に挙げる必要がある.

HIV感染者に生じた悪性梅毒の1例

著者: 松尾佳美 ,   原武 ,   波多野裕二 ,   土井正男

ページ範囲:P.442 - P.446

要約 40歳,男性.初診2か月前より発汗,全身倦怠感,下痢,体重減少を自覚していた.その後両下腿に紅色丘疹や膿疱が出現し,徐々に全身へ広がり,膿疱が自潰し潰瘍を生じるようになったため当科を受診した.血液検査では梅毒血清反応およびHIV抗体が陽性で,CD4陽性リンパ球数は30/μlと著明に低下しており,AIDS発症期のHIV感染者に生じた悪性梅毒と診断した.ペニシリン1,500mg/日の投与と抗HIV療法を開始し,8週間後には梅毒の皮疹は略治したが,梅毒血清反応でRPR値が上昇していた.そのため,ペニシリンの投与を継続し,投与20週間後にRPR値が低下傾向であることと抗HIV療法によるCD4陽性リンパ球数の回復を確認しペニシリンの投与を終了した.HIV・梅毒合併感染者の梅毒活動性の評価や治療については確立された指針は現在のところみられず,今後さらに症例を蓄積し検討する必要があると思われた.

エタネルセプトとメトトレキサートにより治癒した関節リウマチに伴う壊疽性膿皮症の1例

著者: 松尾沙緒里 ,   川崎里奈子 ,   黒田潤 ,   榊原章浩 ,   室慶直 ,   富田靖 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.447 - P.451

要約 60歳,男性.38歳時より発症した関節リウマチのため両上下肢の関節拘縮があり,57歳時より下腿の壊疽性膿皮症を繰り返すようになった.関節リウマチの治療に使用される抗TNF-α製剤は壊疽性膿皮症に対し有効性が示唆されている.自験例ではエタネルセプト50mg/週とメトトレキサート6mg/週を投与し,1週後より皮膚潰瘍周囲から上皮化を認め,14週後に治癒した.壊疽性膿皮症に対する抗TNF-α療法は確立されていないが,エタネルセプトとメトトレキサートの併用も有用な方法と考えた.

Silent typeの臍部子宮内膜症の1例

著者: 小泉智恵 ,   輪湖雅彦 ,   遠藤秀治 ,   窪田吉孝 ,   佐藤兼重

ページ範囲:P.452 - P.455

要約 45歳,女性.臍窩を埋めるように無症候性に発育する弾性硬の臍部腫瘤を認めた.術前生検で,異所性子宮内膜症と診断し,全摘出術を行った.臍部子宮内膜症は異所性子宮内膜症全体のなかでは非常に頻度が低いものの,臍部腫瘍に限ると30%前後を占める疾患である.そのなかでも自験例は典型的な症状を欠くsilent typeであり,30~40歳代,女性の腹壁軟部腫瘤の場合,無症候性の本疾患も念頭に入れるべきである.

治療

難治性多発性尋常性疣贅に対するsquaric acid dibutylester(SADBE)による免疫療法

著者: 國井隆英 ,   佐々木喜教 ,   高橋隼也 ,   浅野雅之 ,   山中澄隆 ,   舛貴志

ページ範囲:P.456 - P.459

要約 難治性あるいは多発性の尋常性疣贅で,液体窒素療法やモノクロロ酢酸の外用による治療に抵抗性のものを主な対象として,合計21例に対してsquaric acid dibutylester(SADBE)による免疫療法を行った.1% SADBEアセトン溶液を患者の上腕内側に48時間貼付して感作し,その2~4週間後から0.01~1%のSADBEアセトン溶液を週に1回疣贅に単純塗布した.21例中12例(57%)で疣贅が完全に消失した.治癒例は無効例に比べて有意に年齢が低い傾向があった.治癒例では疣贅にSADBEの塗布を開始してから平均3.6週間で疣贅に縮小傾向がみられた.そのうち2例では感作後4週間の時点で,疣贅にSADBE溶液を外用開始する前に疣贅の縮小傾向が認められた.有効例では外用開始後1か月半までには全例で改善傾向を確認できた.難治性の多発性尋常性疣贅に対して,SADBE療法は有力な選択肢の1つである.

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欧文目次

ページ範囲:P.377 - P.377

文献紹介 転移性メラノーマにおいてイピリムマブは生存率を向上させる

著者: 福田桂太郎

ページ範囲:P.426 - P.426

 StageⅣのメラノーマは,平均生存期間が9か月と極めて予後不良である.今までにダカルバジン(DTIC)と比較して有意に優れた生存率を示した第Ⅲ相臨床試験はなく,約30年間,DTICが第一選択薬として用いられ続けているが,その有効期間中央値は4~6か月にすぎない.現有の化学療法には限界があり,新たな治療戦略を考案する必要がある.

 癌細胞は,増殖の過程で免疫抵抗性や免疫抑制性を獲得する.イピリムマブ(Ipil)はT細胞表面上のCTLA4に結合して細胞傷害性Tリンパ球の活性化の制御を解除し,免疫でがんを排除させる薬剤である.第Ⅱ相臨床試験で,Ipilはメラノーマ関連抗原gp100のワクチンとの併用にて56例中7例(13%)にCR,PRが得られ,7例中5例に効果が24か月以上認められたことから,第Ⅲ相試験へと進んだ.本論文は13か国共同で行われた第Ⅲ相試験の結果である.

文献紹介 PTIPによるクロマチンの構造変化は免疫グロブリンのクラススイッチに重要である

著者: 和田直子

ページ範囲:P.446 - P.446

 ヒストンは長いDNAを巻き付けて核内に収納する蛋白である.近年,ヒストンはメチル化などの修飾を受けてクロマチン凝集やDNAへのアクセスしやすさが変化することによりDNAの転写を調整する機能があることがわかってきた.PTIP(Pax interaction with transcription-activation domain protein-1)はヒストンをメチル化する酵素複合体の構成要素である.著者らはマウスを用いて免疫グロブリンのクラススイッチにおけるPTIPの役割を検討した.クロマチン免疫沈降シーケンシング法による解析の結果,野生型B細胞の免疫グロブリンH鎖遺伝子領域に結合するメチル化ヒストン(H3K4me3)はLPS刺激による活性化で増加するが,PTIP欠損B細胞ではその増加が認められなかった.さらにPTIP欠損B細胞ではIgM転写産物は量的に正常だがIgG3,IgG1は著明に減少,G領域DNAへのRNAポリメラーゼ結合の減少も認めた.またPTIPは転写調節以外にもDNA切断部に集合しゲノムを安定化することによってクラススイッチに寄与することが示された.PTIPの関与するクロマチンの変化はクラススイッチすなわち抗体のエフェクター機能の変換において重要であることが示唆された.

次号予告

ページ範囲:P.460 - P.460

投稿規定

ページ範囲:P.461 - P.461

あとがき

著者: 石河晃

ページ範囲:P.462 - P.462

 いつかは来ると恐れていた大地震が3月11日,東日本を襲い,想定をはるかに越える津波により大変な被害を出しました.被災された皆様には心より哀悼の意を表します.この東日本大震災によって福島第一原発は,今なお,放射性物質を自然界に放出し,沈静化のめどすら立っていない状況です.大型漁船がビルの上に打ち上げられ,線路が飴細工のように曲がっている姿を目の当たりにすると,自然のエネルギーの猛威に比してわれわれの謳歌してきた文化の脆弱性を感じずにはいられません.原発が被災したことによって,被曝の危険にさらされ,また,通勤の足が奪われ,暖房,炊事,風呂焚きまでもがままならなくなります.これはわれわれがエネルギーに関して多様性を失いかけていたことへの警鐘でもあります.物流のグローバル化は小売店の在庫削減に大いに役立ちましたが,震災後の物不足は驚くばかりです.生物多様性の重要性は近年話題となっていましたが,文化の多様性を保つことはあまり重要視されていませんでした.情報のグローバリゼーションが進む世の中では,1つの発見や情報は瞬く間に世界中に広まり,次なる発明を生む原動力となっており,間違いなく人類の進歩に貢献してきました.しかし,有事の携帯電話システムの破綻は情報ツールの多様性が欠如している脆さをさらけ出しました.公衆電話の存在に感謝した人は何十万人もいると思います.多様性を保つことは非効率的ではありますが,危機の際にはむしろ強みにもなりえるものであり,決して蔑ろにしてはいけないものであることを再認識しました.数万個の遺伝子しか持たない人類は何兆種類もの抗体を作る巧みな仕組みを持っています.文化においてもグローバル化を進めつつ多様性を大切にすることも真剣に考えるときかもしれません.

 追伸

 2011年1月から「臨床皮膚科」編集委員に加えていただきました.どうぞ宜しくお願いいたします.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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