icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科66巻10号

2012年09月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・61

Q考えられる疾患は何か?

著者: 筒井清広

ページ範囲:P.753 - P.754

症例

患 者:84歳,女性

主 訴:体幹,四肢に多発する強いかゆみのある紅色丘疹

家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診の2年前から体幹,四肢に米粒大までの紅色丘疹が多発し,強いかゆみがあった.前医で2年間ステロイド薬外用と抗アレルギー薬内服するも改善しなかった.

現 症:体幹・四肢に多数の米粒大までの紅色丘疹が孤立性あるいは集簇性にみられた.いくつかの丘疹が環状に配列し,陥凹性局面を形成していた(図1,2).

症例報告

乳癌の放射線治療部位に生じた限局性水疱性類天疱瘡の1例

著者: 松崎ひとみ ,   山上淳 ,   久保亮治 ,   永尾圭介 ,   大山学 ,   海老原全 ,   天谷雅行

ページ範囲:P.757 - P.760

要約 52歳,女性.左乳癌部分切除術および腋窩リンパ節郭清後に,計25回の放射線照射(総量50Gy)を受けた.照射終了1か月後より,左胸部に水疱が出現し,近医で外用にて加療されたが皮疹が拡大したため,当科を受診した.初診時,左前胸部から側腹部の照射部位に一致して,径2cm大までの緊満性水疱とびらんを伴う境界明瞭な紅斑を認めた.病理組織像は好酸球浸潤を伴う表皮基底層直下の水疱形成であり,蛍光抗体直接法で基底膜部にC3の線状沈着,蛍光抗体間接法で基底膜部にIgGの線状沈着を認めた.BP180 ELISA値は43.9と上昇していた.以上の所見より,放射線照射により誘発された水疱性類天疱瘡と診断した.症状が照射部位に限局していたため,ステロイド軟膏外用のみで経過観察したところ,皮疹は消退し,BP180 ELISA値も14.4まで低下した.放射線照射部に水疱が出現した際には,水疱性類天疱瘡を鑑別疾患として考える必要がある.

尋常性痤瘡治療に用いられたフルオシノロンアセトニドによると考えられた酒皶様皮膚炎の1例

著者: 河相美奈子 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.761 - P.764

要約 43歳,女性.顔面の掻痒性紅斑・丘疹の治療のため前医を受診し,尋常性痤瘡の診断で,ロキシスロマイシン,ミノサイクリン,メキタジン,ビタミンB6の内服(用法,用量不明)およびアダパレンゲル・ナジフロキサシンクリーム・フルオシノロンアセトニド軟膏(配合割合不明)の混合剤の外用を顔面全体に1年以上行った.紅斑・丘疹が増悪したため,当科を紹介され受診した.問診と症状から,ステロイド長期外用による酒皶様皮膚炎と診断し,前医での外用剤を中止した.1%クリンダマイシンゲルを外用し,ロキシスロマイシン300mg/日およびプレドニゾロン10mg/日を内服した.プレドニゾロン内服は漸減し,1か月で中止した.ロキシスロマイシンは胃腸障害のためミノサイクリン100mg/日内服に変更した.酒皶様皮膚炎は次第に軽快したため,ミノサイクリンを漸減し,紅斑・丘疹が消失した治療開始3か月後にクリンダマイシンゲルを中止した.以後,時にかゆみを伴う紅斑を顔面に生じるが,ロラタジン10mg/日内服と0.1%タクロリムス軟膏外用にて数日で軽快している.酒皶様皮膚炎などの副作用が生じうるステロイド外用薬は,尋常性痤瘡治療に一般的に推奨されず,使用する際は,医師の管理下で,限定的に行われるべきである.

Nail-patella症候群の乳児例

著者: 安田文世 ,   木花いづみ ,   菅沼淳

ページ範囲:P.765 - P.768

要約 4か月,女児.吸引分娩,正常発達.家族歴はない.出生時よりみられる両拇指の爪甲欠損を主訴に当科を受診した.左右対称性に拇指の爪甲は完全に欠損していた.その他の爪甲も菲薄化ないしは縦裂がみられ,中指では爪半月が三角状だった.足趾爪甲の異常はなかった.拇指の爪甲に最も障害が強く,小指に向かうにつれ軽くなる爪甲形成異常症のうちの,爪膝蓋症候群;nail-patella症候群を疑った.経過観察中の1歳時に膝蓋形成不全を確認,本症と診断した.Nail-patella症候群では爪の異形成と膝蓋骨形成不全は高率に認められるが,乳児期に骨の評価は困難なため,爪の異形成が唯一の症状となりうる.爪の異常の程度はさまざまなため,軽度な爪の変形を見た場合でも,本症のように後に生命予後に関わる他臓器症状を呈する可能性もあることを念頭に置き,注意深く観察する必要がある.爪甲形成異常をきたす疾患の鑑別点についてもまとめた.

尖塔状に突出した下顎部の皮膚混合腫瘍の1例

著者: 浜野真紀 ,   山口祐子 ,   守恵子 ,   石川武子 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.769 - P.771

要約 84歳,男性.約2年前から下顎部に自覚症状のない半米粒大の皮疹が出現し,徐々に増大してきた.現症は6×6×7mm大の淡紅色調を呈する光沢のある隆起性結節で,尖塔状に外方に突出し,弾性硬に触知された.頂部に透明感があり,表面に拡張した血管が透見された.病理学的に,粘液腫様物質の沈着を伴う豊富な間質内に,索状もしくは網目状に分岐吻合する大小の囊胞腺管構造が存在していた.管腔は2層の細胞で構成され,一部に断頭分泌を認めた.角質囊腫も存在していた.自験例は,尖塔状に突出したきわめて特異な臨床像を呈した.その原因は皮下組織の少ない下顎前面に浅在性に発症したためで,結節の頂部の透明感は粘液腫様物質の沈着を反映していたためと考えられた.

軟骨肉腫との鑑別にKi-67染色,p53染色が有用であった骨外軟骨腫の1例

著者: 茶谷彩華 ,   畑康樹 ,   宇月美和 ,   下川伶子

ページ範囲:P.772 - P.776

要約 68歳,女性.3年前より除々に増大する左足底の皮下腫瘤を自覚した.初診時,左足底第2趾MTP関節部に表面の皮膚が肥厚し胼胝様を呈する骨様硬の皮下腫瘍を認めた.組織像では真皮内に骨と連続しない腫瘍塊がみられた.腫瘍は分葉構造を呈する軟骨細胞の増殖により構成され,軟骨細胞間には石灰化,硝子骨化,脂肪髄を伴う成熟骨組織を伴った.一部で細胞成分が豊富で,大型の核を呈し,軟骨肉腫との鑑別を要した.発生部位が四肢末梢であったこと,p53染色,Ki-67染色が陰性であり増殖能が乏しかったことより骨外軟骨腫と診断した.骨外軟骨腫は骨と連続性を持たない軟骨腫瘍であり,比較的まれな腫瘍である.組織学的には核異型を伴うこともあり軟骨肉腫との鑑別を要する場合もある.Ki-67染色,p53染色をともに行ったことで軟骨肉腫との鑑別がより正確に行えたと考えられ,これらは有用な染色法であると思われた.

部分的限局性Recklinghausen病および限局性多発性神経線維腫の各1例

著者: 坪田真紀 ,   石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.777 - P.782

要約 症例1:28歳,男性.出生時より腹・背部に褐色斑が帯状に散在し,5歳頃から左胸に小型の常色結節が出現し,側彎症も伴っていた.症例2:54歳,男性.40歳頃から,項・胸部,上肢に大小の常色結節が出現した.いずれも家族内に同様の症状および神経線維腫症はない.病理組織学的に,2症例の結節は神経線維腫であった.以上より,症例1を部分的限局性Recklinghausen病,症例2を限局性多発性神経線維腫と診断した.症例1は幼少期発症であるのに対して,症例2は中年発症であり,症例1では側彎症を伴ったが,症例2では神経線維腫症の症状は伴わないという相違点がみられた.また,過去の遺伝子学的な検索において限局性多発神経線維腫の症例でNF-1遺伝子に異常を認めなかったとの報告がある.これらのことより,限局性多発神経線維腫は,神経線維腫症からは切り離した独立疾患として扱うべきと考えた.

鼻根部に生じた斑状強皮症型基底細胞癌の1例

著者: 相馬かおり ,   塩澤佳 ,   角大治朗 ,   神崎温子 ,   利根川守 ,   江藤隆史

ページ範囲:P.783 - P.787

要約 77歳,女性.初診10年前より鼻根部に淡紅色局面が出現した.外用剤による加療で改善がなく局面が徐々に拡大してきたため,当科に紹介となった.受診時,鼻根部を中心に30×40mm大の境界明瞭な星芒状の淡紅色局面を認め,一部では痂皮を伴っており,右内眼角への浸潤も確認された.ダーモスコピーではmultiple blue-gray globulesおよびarborizing vesselsを認めた.病理組織学的に表皮基底層より真皮にかけて,増生した膠原線維間に基底細胞様細胞からなる胞巣状の腫瘍塊が散在しており,胞巣辺縁では柵状に配列していた.斑状強皮症型基底細胞癌と診断し,二期的に腫瘍切除術および整容的再建を行った.術後7か月経過した現在も再発なく経過は良好である.

褥瘡と誤認されていた左臀部線維粘液肉腫の1例

著者: 矢嶋萌 ,   上田美帆 ,   佐藤真美 ,   遠藤雄一郎 ,   谷崎英昭 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.788 - P.792

要約 85歳,女性.2010年7月,当院他科入院時に看護師によって左臀部に3cm程度の皮膚病変を指摘された.担当医師に報告のうえ「肉芽良好な褥瘡」として対処された.皮膚科へのコンサルトはなかった.半年後に11cmにまで増大した腫瘤となり,大量出血をきたして当科を受診した.腫瘤は易出血性の辺縁不整な隆起性病変で,表面はびらん,色調は暗赤色であり,悪臭が著明であった.左鼠径部には9cm大のリンパ節転移も認めた.原発巣の組織像は,真皮乳頭層から皮下脂肪織まで異型の強い紡錘形細胞の浸潤性増殖を認め,粘液産生を伴って,奇怪な核を持った細胞と多角の異型細胞が多数出現していた.さらに免疫染色はビメンチンのみ陽性であり,病理診断は線維粘液肉腫であった.自験例では,看護師が肉芽良好な褥瘡と誤認したこと,担当医が皮膚科にコンサルトせず,そのまま経過したこと,経過がフォローされなかったことが重なり,線維粘液肉腫が褥瘡と誤認されていた.院内の褥瘡の管理にはさらなる啓発活動と適切な管理体制が必要である.

急速に死の転帰を辿り生検で分類不能肉腫が疑われた1例

著者: 栗原雄一 ,   江崎仁一 ,   里村暁子 ,   古江増隆 ,   吉岡学 ,   島尻正平 ,   小田義直

ページ範囲:P.793 - P.796

要約 83歳,女性.下顎の打撲受傷を契機に約1か月の経過で腫瘤性病変を自覚した.初診時,下顎に黄色の痂皮を付す巨大な腫瘤を認めた.組織学的に異型細胞の増殖を伴い,未分化大細胞リンパ腫,悪性黒色腫,血管肉腫や転移性腫瘍との鑑別を要したが,免疫染色では上皮系マーカー(サイトケラチン:CAM5.2,AE1/AE3,CK7,CK20,EMA),LCA,CD30,S100,HMB45,メランA,CD34,第VIII因子はすべて陰性でビメンチンのみ陽性を示した.急速な経過で初診約2か月後に死亡した.皮膚病理組織所見を踏まえ,最終的に分類不能肉腫と診断した.本例は遠隔転移や他臓器への浸潤を伴うことなく短期間に強い局所破壊性を伴う腫瘤が急速増大し,致死的な経過を辿った点できわめて特異な病像を呈していた.

リウマチ性多発筋痛症に生じたメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患の1例

著者: 内山泉 ,   伊藤泰介 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.797 - P.799

要約 74歳,女性.初診7年前にリウマチ性多発筋痛症を発症しメトトレキサート(MTX)療法開始,経過は良好であった.3か月前に右下腿に有痛性の皮疹が出現し,潰瘍化したため当院を受診した.右下腿4か所に皮下結節を触知し,直径5~10mm大の潰瘍が3か所みられた.また,右鼠径リンパ節が腫大していた.病理組織像よりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が疑われたが,MTXを内服していること,組織学的にEBER陽性であったことからMTX関連リンパ増殖性疾患を疑い,MTXの内服を中止した.その後は安静のみで潰瘍は縮小,皮下結節は消退し,以降再発は認めない.関節リウマチ患者と同様にMTXを内服しているリウマチ性多発筋痛症患者の皮疹ではMTX-LPDを念頭に置く必要がある.

両下肢に色素斑,紫斑を呈し,慢性色素性紫斑を疑ったCD8陽性皮膚T細胞リンパ腫の1例

著者: 猿田祐輔 ,   宇野裕和 ,   中田土起丈 ,   秋山正基 ,   飯島正文 ,   塩沢英輔 ,   矢持淑子

ページ範囲:P.801 - P.805

要約 63歳,男性.約7年前に両下肢,右前腕に皮疹が出現し,徐々に増数してきた.初診時,両下肢,右前腕に比較的境界明瞭な手拳大程度の紫褐色ないし灰褐色の色素斑が多発散在していた.リンパ節腫脹はなかった.慢性色素性紫斑を疑い生検した.病理組織学的に表皮基底層に明るい胞体を有する異型腫瘍細胞の浸潤がみられた.腫瘍細胞はCD3,CD4,CD8,TIA-1,グランザイムBで,T細胞受容体γ鎖遺伝子再構成を解析しモノクローナルな増殖を認めたため,CD8陽性T細胞リンパ腫と診断した.1年間のNB-UVB療法後,現在,皮疹は色素沈着主体となり,一部では消退傾向も認め,経過観察中である.WHO分類における位置付けを確認し,自験例はCD8陽性T細胞リンパ腫と診断した.

Helicobacter cinaediによる再発性蜂窩織炎の1例

著者: 林郁伶 ,   若林正一郎 ,   中野倫代 ,   末廣敬祐 ,   神戸直智 ,   松江弘之 ,   若林華恵 ,   渡邊正治 ,   依田清江

ページ範囲:P.807 - P.811

要約 59歳,男性.プレドニン20mgを内服中であった.2009年12月下旬,左下肢蜂窩織炎による敗血症にて入院し,血液培養にて螺旋菌陽性であり,後にHelicobacter cinaediと同定された.イミペネム1g/日およびクリンダマインシン1,200mg/日の点滴にて速やかに改善したが,約1か月半後,蜂窩織炎を再発した.入院後はセファゾリン3g/日およびクリンダマイシン1,200mg/日点滴加療にて速やかに改善し退院したが,その2週間後,右下腿蜂窩織炎の診断で再入院した.抗生剤の反応は良好であり,点滴開始後3日ほどで発赤や疼痛は改善し,約1週間後には白血球数,CRPは正常範囲に回復した.しかし,現在まで蜂窩織炎を計5回再発している.皮膚科領域からの報告はいまだ認められないが,H. cinaediは免疫不全状態の患者に再発性の蜂窩織炎を起こす菌として近年注目されており,再発性の蜂窩織炎を起こす症例では本菌も念頭に置く必要がある.

頭蓋内膿瘍を生じた頭部ヒト咬創の1例

著者: 小川愛 ,   田村敦志 ,   長谷川道子 ,   新井正史

ページ範囲:P.812 - P.816

要約 25歳,男性.左頭頂部に弟の歯が突き刺さった.2週後より高熱,頭痛,嘔吐を生じ,当院を受診.抗生剤投与でいったん軽快したが,中止後,高熱,頭痛が再燃.頭部MRI・CTで咬創部直下の左頭頂部に骨髄炎,髄膜炎,硬膜下膿瘍,脳炎の所見を認めた.また,血液および創部からの膿の細菌培養で,歯周病菌の1種であるFusobacterium nucleatumが検出された.約2か月間の抗生剤点滴投与と開放創を維持することで,咬創部は陥凹性の瘢痕を残して治癒し,頭蓋内膿瘍も軽快した.咬創は,小さな創であっても嫌気性菌を含めた重篤な深部感染を生じる可能性があり,十分な治療と経過観察が必要である.

フタトゲチマダニの幼虫および若虫による多発刺咬症の2例

著者: 木村亜矢子 ,   米山啓 ,   岸宏久 ,   小豆畑康児 ,   角坂照貴 ,   高野愛 ,   川端寛樹

ページ範囲:P.817 - P.821

要約 症例1:1歳,男児.千葉県在住.庭で飼い犬と遊んだ後,体に多数の虫が付着していることに母親が気付き,当科を紹介受診した.マダニ幼虫刺咬症と考えた.容易に脱落し,咬着力は強くないように見えたため,摂子にて摘除した.虫体はフタトゲチマダニ幼虫,若虫と同定された.症例2:67歳,男性.千葉県在住.草むらに入った際に,粉が降りかかるように下肢に複数の虫体が付着し次第にかゆみが出現した.かゆみが増強したため約1週間後当科を紹介受診した.虫体はすべて脱落後であったが,持参した虫体よりフタトゲチマダニ幼虫と同定された.これらの症例より,フタトゲチマダニは口下片が短い上に幼虫,若虫では咬着力が弱いため,幼児例や多数刺咬例など,局所麻酔下での皮膚切除が困難であり,かつ刺咬後短時間であれば,刺咬力の弱い幼虫を摂子で摘除してみる価値はあると考えられた.

皮膚症状から急性感染期のHIV感染症が判明した1例

著者: 水谷浩美 ,   末廣晃宏

ページ範囲:P.822 - P.825

要約 41歳,男性.10日間持続する38℃台の発熱,咽頭痛,全身の浸潤性紅斑を主訴に受診した.頸部リンパ節腫脹も伴っていた.入院時の血液検査にて,白血球3,300/μlと減少,異型リンパ球の出現(2.5%),AST 331IU/l,ALT 406IU/lと肝機能障害を認めた.入院後口腔カンジダ症を認め,発熱,全身の紅斑,咽頭痛,頭痛,関節痛の訴えが強かったため,症状緩和のためにプレドニゾロン40mg/日を開始した.発熱,全身の紅斑は2週間以上持続した後軽快し,プレドニゾロンの投与は漸減し,2週間で中止した.病理組織像では,表皮内へのexocytosis,表皮真皮境界部の液状変性,真皮上層の血管周囲,付属器への炎症細胞浸潤を認めた.A型肝炎ウイルス,EBV,CMV,パルボウイルスB19,VZVは既感染パターンであった.B型,C型肝炎ウイルスは陰性であった.経過からhuman immunodeficiency virus(HIV)感染を疑い,HIVウイルス抗体・抗原検査を施行したところ陽性であった.Western blot法でHIV-1陽性,HIV-1RNA量は1.8×104copy/mlであり,急性HIV感染症と診断した.急性HIV感染症の皮膚症状について理解しておくことは皮膚科医として重要と考える.

治療

クリニックにおける下肢壊疽に対するマゴット治療の経験

著者: 佐藤まどか ,   竹内真

ページ範囲:P.826 - P.830

要約 症例1:59歳,男性.右足糖尿病性壊疽.マゴット治療を開始したが,壊疽の範囲は拡大した.本人の強い希望でマゴット治療を継続したところ,4か月後には良好な肉芽形成が認められるようになった.約1年かかったが,創は上皮化し,右下肢を温存でき,歩行が可能となった.症例2:75歳,男性.初診時右下腿下部1/3から足部にかけて完全に黒色ミイラ化していた.マゴット治療にて壊死部分は脱落し,良好な肉芽が出現した.その後,右下腿脛骨腓骨切断術と断端形成縫合術にて創を閉鎖した.虚血による下肢壊疽は切断に至る可能性が高い難治な病態であるが,マゴット治療は簡便な治療であり,切断の前に試してみてもよい治療法であると考えられた.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.751 - P.751

文献紹介 Fcエンジニアリングによりneonatal Fc receptorをブロックすることでマウスモデルの関節炎が改善された

著者: 松本奈央子

ページ範囲:P.805 - P.805

 自己免疫疾患の治療として免疫抑制剤やステロイド,IVIG(intravenous immunoglobulin)治療が行われているが,副作用や費用の問題があり新たな治療戦略が求められている.

 現在注目されているものの1つとして,Fc部位に変異を加え,neonatal Fc receptor(FcRn)に高親和性を持たせた抗体Abdegs(Abs that enhance IgG degradation)がある.自己抗体を介する自己免疫疾患において,IgGの運搬と維持に関与するFcRnが重要な役割を果たしており,IVIGの作用機序の1つとして病原性抗体と競合してFcRnに結合し効果を発揮すると考えられている.FcRnに対する親和性を高め,より低用量で効果が得られるように改変した抗体がAbdegsである.

次号予告

ページ範囲:P.833 - P.833

投稿規定

ページ範囲:P.834 - P.835

あとがき

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.836 - P.836

 保湿剤は肌に潤いを与えるもので,英語ではmoisturizerと呼ばれる.海外のmoisturizerの役割は正常皮膚に保つことで,その用途は乾燥肌と油性肌に対するものである.そして前者はワセリンベースの軟膏が主なもので,後者はローション基剤のものである.基剤に含まれる成分には種々のものがあるが,その働きに明確なエビデンスはなく,保湿剤の用途を大きく左右するものは基剤である.ひるがえってわが国の皮膚科領域で使用する保湿剤は皮膚の水分蒸発を防ぎ,皮膚を保護するものと理解され,乾燥肌をターゲットとするもののようである.その意味ではわが国の保湿剤は英語のemollientに相当するかもしれない.しかし多くの日本の皮膚科医は基剤の役割を十分理解していない.例えばローション基剤の保湿剤と称するものを乾燥肌に使用している医師がいる.処方された患者は余計に皮膚が乾燥する.おそらくは通常の保湿剤を夏に使用すると皮膚がべとつき,患者がいやがるので,ローション基剤の保湿剤と称するものに変更したものと思われる.患者のなかには保湿剤によりアトピー性皮膚炎が治ると洗脳されている人もいるため,ローション基剤の保湿剤と称するものを一生懸命使用する.しかし冬季になるとかえって皮膚が乾燥して,アトピー性皮膚炎は悪化する.実際このような患者は多い.そもそも保湿剤はアトピー性皮膚炎や尋常性痤瘡の治療薬ではなく,皮膚を保護するものである.ステロイドやレチノイド外用薬を使用する前に保湿剤で皮膚を覆っては,肝心の治療薬の浸透が悪くなる.ワセリン基剤の軟膏は,それ自体に保湿効果がある.そのためステロイド軟膏は保湿効果を合わせ持つ治療薬である.かつて脱ステロイド療法を提唱した基礎系アレルギー学者のなかには,高名な皮膚科医がいた.その影響は大きく,今でも脱ステロイド療法を信ずる患者はいるし,不適切治療を行っている医師もいる.皮膚科医がまた同様の過ちを犯すのであれば,皮膚科医の存在意義を失うことになる.日本の皮膚科治療は,欧米はもちろん,東南アジア諸国より遅れていることを認識しなければならない.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?