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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科66巻13号

2012年12月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・64

Q考えられる疾患は何か?

著者: 藤本典宏

ページ範囲:P.1035 - P.1036

症例

患 者:24歳,男性

主 訴:左腰部の腫瘤

家族歴:同様の腫瘤形成や,色素斑,内分泌学的異常などは認めない.

既往歴:1995年4月下垂体腫瘍摘出術

現病歴:初診の約1年前より,左腰部の小腫瘤に気付いていたが,漸次増大してきた.

現 症:左腰部に,45×30mm大,自覚症のない表面平滑で,下床との可動性を有する褐色調の腫瘤を認めた.周囲には,下垂体腫瘍手術後の,急激な体重増加によると考えられる皮膚線条を認めた(図1).そのほか全身に色素斑や腫瘤の形成はなく,末端肥大症の徴候もみられなかった.

症例報告

開口障害を呈した側頭動脈炎の1例

著者: 菅野恭子 ,   坂井博之 ,   飯塚一

ページ範囲:P.1038 - P.1042

要約 70歳,女性.微熱,激しい頭痛,顎関節の疼痛および開口障害が出現し当院を受診した.耳鼻科,脳神経外科,歯科口腔外科を受診したが診断に至らず当科を紹介された.両側頭動脈の腫脹から側頭動脈炎が疑われ,病理組織学的に動脈壁内に肉芽腫性血管炎の像を認めた.アメリカリウマチ学会の診断基準5項目すべてを満たし,側頭動脈炎と診断し,プレドニゾロン40mg/日の内服を開始した.内服後,自覚症状は軽快し,約2週間後に開口障害も改善した.側頭動脈炎の約半数で顎跛行がみられるが,開口障害にまで至ることは稀である.開口障害をきたした症例は,調べえた限り本邦では自験例を含め15例で,そのうち視力障害をきたしたのは3例であった.開口障害や視力障害は血管炎が進行した所見と考えられるため早期診断,早期治療が重要である.

ソラフェニブによるびまん性色素脱失の黒人男性例

著者: 高坂美帆 ,   谷戸克己 ,   太田有史 ,   上出良一

ページ範囲:P.1043 - P.1046

要約 フォトスキンタイプVIの45歳,黒人男性.腎細胞癌の脳転移,肺転移に対して2010年9月よりソラフェニブ(ネクサバール®)1回400mg 1日2回経口投与が開始された.内服開始10日後より全身の皮膚色の淡色化を自覚するようになった.ソラフェニブによるびまん性色素脱失と考えた.手足症候群も出現した.手足症候群はステロイド外用にて軽快した.ソラフェニブは12か月間内服したが腫瘍増大傾向のため中止された.皮膚の色調は内服終了後,徐々に回復した.ソラフェニブが,メラニン合成に関与するc-KITを阻害することで,皮膚の色素脱失が生じたと考えた.現在,海外では他のマルチキナーゼ阻害剤であるイマチニブ,スニチニブでの色素脱失の報告はあるが,ソラフェニブでの報告はまれである.本症例はマルチキナーゼ阻害剤がメラノサイトに与える影響や,c-KITの果たす役割を考えるうえで重要であると思われた.

プレドニゾロン投与中に粟粒結核を発症した水疱性類天疱瘡の1例

著者: 渡邉美佳 ,   猪熊大輔 ,   清水聡子 ,   楠堂晋一 ,   廣﨑邦紀 ,   土屋喜久夫

ページ範囲:P.1047 - P.1050

要約 82歳,女性.全身に緊満性水疱と浮腫性紅斑を認め,精査で水疱性類天疱瘡と診断した.全身検索で,CTで陳旧性肺炎像を認めた.プレドニゾロンの投与を開始し,合計15週間投与したところ,倦怠感・発熱が出現した.白血球・CRP高値で,胸部CTにて,両上葉に小葉中心性の小粒状影を散在性に認めた.喀痰・静脈血で抗酸菌染色陽性・結核菌PCR陽性で,粟粒結核と診断した.本邦高齢者での結核既感染率は高く,皮膚科領域においても生物学的製剤はもちろんのこと,副腎皮質ホルモンなどの免疫抑制をきたす薬剤を投与する場合には潜在性結核感染症を念頭に置いてフォローする必要があると考えた.

Noonan syndrome-like disorder with loose anagen hairの1例

著者: 中川誠太郎 ,   神戸直智 ,   羽田明 ,   青木洋子 ,   松江弘之

ページ範囲:P.1051 - P.1053

要約 1歳3か月,女児.1か月健診時に心雑音と発育不良を指摘され,千葉県こども病院を受診した.心房中隔欠損症の診断で経過観察をされていたが,心房中隔欠損の自然閉鎖後にも発育不良が遷延した.毛髪が疎で縮毛であり,易脱毛性,育毛の不良を認め,皮膚は乾燥が著明で湿疹も認めたため皮膚科を紹介された.巨頭症,眼瞼隔離,眼瞼下垂,耳介の後下方への変位などの特徴的顔貌に加え,先天性心奇形,発育障害を認め,頭部MRI検査で髄鞘低形成を指摘された.特徴的な顔貌,心奇形,発育障害,皮膚症状などを示すNoonan症候群の類縁疾患群をNoonan-like症候群と言う.そのなかでも成長期脱毛を伴うグループをNoonan syndrome-like disorder with loose anagen hairと呼び,その原因遺伝子であるSHOC2遺伝子の変異が自験例でも同定された.

嚥下障害をきたした肺小細胞癌合併皮膚筋炎の1例

著者: 宮地千尋 ,   門馬文子 ,   紺野隆之 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.1054 - P.1058

要約 71歳,男性.5か月前より顔面,両手背に掻痒を伴う紅斑と両上肢の挙上困難が出現し,嚥下障害もみられた.当科初診時,上眼瞼,頰部,鼻背,前胸部に紅斑,両側肘頭に角化性紅斑,手指背側関節面にGottron徴候,爪囲紅斑を認めた.また血液生化学検査でProGRP 204pg/ml,NSE 139.4ng/mlと高値であった.CTで腫大した右鎖骨上窩リンパ節を認め,生検により肺小細胞癌の転移と判明した.皮膚筋炎に悪性腫瘍の合併を示唆する所見として嚥下障害が指摘されており,当科での皮膚筋炎27例における嚥下障害と悪性腫瘍合併の有無を検討した.その結果,7例に嚥下障害を認め,そのうち5例で悪性腫瘍の合併がみられた.

軟部腫瘍が疑われたchronic expanding hematomaの1例

著者: 高井彩也華 ,   青木繁 ,   崎山真幸 ,   阿部浩之 ,   藤本典宏 ,   小林孝志 ,   秋山酉 ,   多島新吾

ページ範囲:P.1059 - P.1063

要約 67歳,男性.甲状腺機能亢進症,心房細動の既往(54歳からバイアスピリン®1T1×内服)があり抗凝固療法中である.約6年前,右膝に有痛性腫瘤が出現し,疼痛は消失したが腫瘤が残存した.初診時,右膝部に径13cm大の腫瘤と右下腿浮腫を認めた.臨床および画像所見から軟部腫瘍を疑い針生検を施行したが診断に至らず,全摘出し病理所見よりchronic expanding hematoma(CEH)と診断した.皮膚科領域ではCEHはなじみが薄く,鑑別診断に挙がらないことも多い.また画像による術前診断は難しく,病理組織像が診断の鍵となる.過去5年間に報告されたCEH 36例の多くは軟部組織に生じているが,抗凝固薬を服用していた例は自験例を含め2例のみであった.抗凝固療法がCEH発症に寄与した可能性は否定できないと考えた.

先天性筋緊張性ジストロフィーに合併した多発石灰化上皮腫の1例

著者: 平井郁子 ,   甲田とも ,   木花光

ページ範囲:P.1065 - P.1068

要約 15歳,男性.母親が筋緊張性ジストロフィーで,頭部の多発石灰化上皮腫に対し摘出術歴がある.患者は2歳時に精神発達障害と母の罹患歴より先天性筋緊張性ジストロフィーと診断された.初診の約2か月前より右肩部に水疱様外観を呈する腫瘍があり,3cm大に拡大した.また,前額部,左上背部にも15mm大までの硬い皮下結節を認めた.精神発達遅滞が著明であり,摘出術の際は全身麻酔を要した.病理組織学的にいずれも好塩基性の細胞と好酸性の陰影細胞より構成される腫瘍巣で,石灰化上皮腫と診断した.近年,筋緊張性ジストロフィーと石灰化上皮腫の合併の報告は増加している.特に,頭部を中心とした多発例や家族内発生が多く,遺伝的背景の存在が示唆されている.筋緊張性ジストロフィーの臨床像は軽症のものから重篤なものまで多岐にわたるため,その臨床特性および周術期に留意するべき点を含め,若干の文献的考察を加え報告した.

うっ滞性皮膚炎より発生した巨大基底細胞癌の1例

著者: 馬場裕子 ,   加茂真理子 ,   白樫祐介 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.1069 - P.1073

要約 92歳,男性.初診の4年前より両下腿にうっ滞性皮膚炎があり,潰瘍化してきたため当科を受診した.外用剤と弾性ストッキングの着用で加療していたが,初診より3年半後に左下腿外側の潰瘍局面内に径20×30mm大の隆起性腫瘤が出現した.生検病理組織像で真皮内に一部表皮と連続して腫瘍細胞の胞巣状増殖を認め,基底細胞癌と診断した.潰瘍の辺縁より10mm離し筋膜を含め拡大切除し,現在まで再発,転移はない.下腿潰瘍上に悪性腫瘍が発生することは比較的稀で,しかも,そのほとんどが有棘細胞癌である.下腿潰瘍上に基底細胞癌が発生した症例は本邦初であり,海外でも100例に満たない.潰瘍上に発生した腫瘍は,発見が遅れやすく,腫瘤形成はなくても,適切な治療にもかかわらず治癒が遅延する,潰瘍が拡大する場合には,悪性腫瘍の発生も念頭に置くべきである.

耳介からの複合組織移植で鼻翼再建したmicrocystic adnexal carcinomaの1例

著者: 吉田益喜 ,   成田智彦 ,   川田暁

ページ範囲:P.1074 - P.1078

本論文は抹消されました。

被膜を有する腫瘤を呈したCOL1A1-PDGFB癒合遺伝子陽性隆起性皮膚線維肉腫の1例

著者: 野村和加奈 ,   本間大 ,   林圭 ,   金田和宏 ,   大石泰史 ,   上原治朗 ,   山本明美 ,   飯塚一 ,   八田尚人

ページ範囲:P.1079 - P.1084

要約 41歳,男性.10年間で徐々に増大した左背部の皮内腫瘤を主訴に当科を紹介され受診した.80×60mmの下床との可動性良好な表面に毛細血管拡張を伴う境界明瞭な腫瘤を認めた.全摘した腫瘍は被膜様構造を有し,周囲組織との境界は肉眼的には明瞭であった.病理組織像では軽度核異型を示すCD34陽性の紡錘形細胞が増殖しており,一部被膜外へも浸潤していた.COL1A1-PDGFB癒合遺伝子も検出され,隆起性皮膚線維肉腫と診断した.追加切除標本では皮下脂肪織へのCD34陽性の腫瘍細胞の浸潤を認めた.被膜様構造を有する隆起性皮膚線維肉腫の本邦報告例は自験例を含めて3例のみであり,被膜外への浸潤を認めたものは本症例のみである.境界明瞭な症例においても切除マージンの設定には十分な注意が必要である.

Solitary congenital self-healing reticulohistiocytosisの1例

著者: 中村善雄 ,   布袋祐子

ページ範囲:P.1085 - P.1089

要約 生後2か月,男児.生後まもなく左側頭部に皮疹が出現し,徐々に増大した.初診時,中心部に壊死,潰瘍を伴い扁平に隆起した径1.5cmの紅色結節を認めた.全身状態は良好で検査所見に異常は認めなかった.病理組織像では,腎臓形,コーヒー豆様の核を持つ大型の腫瘍細胞の浸潤を認め,免疫染色ではS100蛋白,CD1a陽性であり,Langerhans細胞由来の細胞と考えられた.無治療にて初診1か月後より腫瘍は縮小傾向を認め,約2か月で瘢痕を残し完全に消退した.現在までの約2年間で皮疹の再燃や新生もなく,単発型のcongenital self-healing reticulohistiocytosis(CSHR)と診断した.CSHRは他のLangerhans cell histiocytosis(LCH)との鑑別が問題となるが,病理組織像,免疫組織化学的所見の違いは明らかでない.LCHは腫瘍の数や浸潤臓器により予後に一定の傾向があり,なかでも単発型で皮膚に限局したLCHは他臓器に浸潤した例や死亡例もなく,非常に予後の良いLCHの1グループと考えることができる.

皮下腫瘍との鑑別を要した歯原性膿瘍の1例

著者: 高岡佑三子 ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.1091 - P.1093

要約 75歳,男性.左鼻部から頰部にかけて皮下硬結を伴う紅斑が出現した.近医の内科,皮膚科,耳鼻科を受診したが原因不明であり,抗菌薬を2週間内服の後に軽快した.2か月後に同様の症状が再発したが抗菌薬に不応であった.皮下腫瘍の疑いで当院皮膚科を紹介受診した.皮下硬結が下床と癒着していたことから歯原性膿瘍を疑いエコー検査およびX線検査を行い確定診断した.口腔外科で原因歯の抜歯,囊胞摘出および掻爬術を施行して皮膚症状は軽快した.歯原性皮下膿瘍は非常に見逃されやすい疾患である.しかし,顔面の難治性瘻孔や皮下膿瘍を診察する際には,常に歯原性の原因を鑑別に入れることによって,容易に歯原性膿瘍の確定診断ができ,早期治療につながると考える.

Extended spectrum β-lactamase産生大腸菌により生じたFournier壊疽の1例

著者: 奥野奈央 ,   野嶋浩平 ,   椛沢未佳子 ,   金崇豪 ,   武居哲洋 ,   並木剛

ページ範囲:P.1094 - P.1098

要約 61歳,男性.初診5日前より会陰部に疼痛があり,急激に黒色調を呈したため前医を受診した.Fournier壊疽を疑われ当院に救急搬送された.陰囊,会陰部,左臀部に黒色壊死,周囲に広範囲にわたる発赤を認め,ショック症状を呈していた.同日,緊急で皮膚切開およびデブリードマンを施行した.抗生剤にはセファゾリンナトリウム2g/日とクリンダマイシン1,200mg/日を選択した.細菌培養にてESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌を含む感受性の異なる2種の大腸菌が培養されたため,セファゾリンナトリウムをメロペネム1.5g/日に変更した.2回目の皮膚切開・デブリードマン後より発赤腫脹は軽快した.ESBL産生菌は昨今検出率が増加し問題となっている耐性菌である.耐性菌や菌交代現象を考慮した広域抗生剤の初期大量投与や頻回の細菌培養が必要と考えられた.

右大腿部壊死性筋膜炎を発症した劇症型A群溶連菌感染症の1例

著者: 紀平麻帆 ,   石川理穂 ,   吉村真理子 ,   風戸孝夫

ページ範囲:P.1099 - P.1102

要約 67歳,男性.関節リウマチの既往あり,トシリズマブにて治療中.初診2日前より右大腿部腫脹を自覚し改善ないため当院を受診した.受診後数時間で患部が暗紫色に壊死し,壊死性筋膜炎の診断で緊急入院した.デブリードマンを施行した.DICおよび敗血症性ショックを併発し,病変部と血液培養よりA群溶連菌を認めた.ペニシリンG大量投与とクリンダマイシンの2剤併用療法と連日創部処置を施行.全身状態安定後,分層植皮術を二度施行した.術後経過は良好で,患肢を温存できた.患者の救命においては,早期診断と感受性のある抗生剤の投与,迅速なデブリードマンなどの早期治療が非常に重要であると考える.なお,本症例では初診時にトシリズマブ投与中のためCRPが上昇しにくいということへの注意が欠けており,そのために壊死性筋膜炎の発見・診断に遅れが生じた.生物学的製剤使用の患者では症状や検査所見などのわずかな変化にも注意が必要であり,健常人に比べより慎重な判断を要する.

マントルピースの薪に由来したシラミダニ刺咬症の親子例

著者: 久米井晃子 ,   中山秀夫

ページ範囲:P.1103 - P.1108

要約 40歳,女性.初診の1週間前より体幹などに掻痒の激しい紅色丘疹が多数出現し,漸次拡大した.病理組織学的には真皮上層から下層にかけて血管周囲性の好酸球を混じるリンパ球浸潤がみられ,CD4およびCD8が陽性であった.同様の皮疹は娘にも認められ,ステロイド外用剤および抗アレルギー剤の内服による治療を行ったが皮疹が再発し,難治なため,皮膚炎の原因となる害虫の調査を行った.患者宅ダニ相を調べた結果,リビングルーム,寝室,子供部屋の室内塵中からシラミダニが多数検出され,マントルピース用の薪(クヌギ)からシラミダニが多数寄生したチャイロホソヒラタカミキリが採取された.薪の処分および殺虫剤散布を行った結果,親子ともに全治した.このことにより本件の皮膚炎はシラミダニに起因するものと判明した.

治療

真皮脂肪弁を用いた巻き爪の手術法

著者: 鈴木肇 ,   權暁子 ,   宮田昌幸

ページ範囲:P.1109 - P.1113

要約 巻き爪の手術において爪床の平坦化,巻いた爪に挟まれ拘縮し,抜爪しても変形が解除されない状態の爪床尖端部分を拡大,さらに,爪溝部分を浅くすることの3つの点が重要であると考えた.そこで,中央部に三角弁を有するフィッシュマウス状の切開を加え,その部分に対応する爪床皮弁先端に縦切開を加え三角弁を挿入することで,爪床を横方向に拡大し,さらに爪床の展開時に余剰となった部分の真皮部分を脂肪組織側に残すように表皮部分を切除し,真皮脂肪弁を作成する.これを有茎状態で側爪溝下に挿入することにより爪溝部分を浅くし,爪床を平坦化する方法を考案した.2009年2~9月に患者3人,4足趾に対して爪床形成術を施行し,良好な結果を得た.

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欧文目次

ページ範囲:P.1033 - P.1033

文献紹介 免疫グロブリン大量療法による新たなTH2経路を介した抗炎症作用について

著者: 土井亜希子

ページ範囲:P.1078 - P.1078

 免疫グロブリン大量療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)は多くの自己免疫疾患の治療に使用されているが,その作用機序は明らかではなかった.シアリル修飾型のFc領域(sFc)を有するIgGが,SIGN-R1を発現する骨髄由来細胞に作用することで抗炎症作用がもたらされることは報告されてきたが,この論文で著者らはSIGN-R1のヒトオルソログであるDC-SIGNを発現させたトランスジェニックマウスを作成し,SIGN-R1欠損マウスと交配させ,SIGN-R1をDC-SIGNで置換したマウスを作成した.このマウスにK/BxN血清を移入させて,関節炎を発症させたところ,IVIGで病態は改善し,ヒトDC-SIGNがマウスSIGN-R1を機能的に補完できること,ヒトにおいてDC-SIGNがIVIGの効果の発現に必要であることが示された.FcγRIIB欠損マウスではIVIGが無効だったことから,FcγRIIBの重要性が明らかとなり,Th2サイトカインであるIL-4およびその受容体やSTAT6を欠損したマウスにおいて,IVIGで病勢の改善が認められなかったことから,IL-4シグナルも必須であることが示された.さらにIL-4icを介した抗炎症作用が,FcγRIIB欠損マウスで認められなかったことから,FcγRIIBが不可欠であることが確認された.

 また,IL-33刺激を加えた好塩基球をマウスに移植することで,抗炎症作用がもたらされることから,IVIGが直接IL-4の上昇をもたらすのではなく,IL-33を介してIL-4の発現を誘導すること,好塩基球が重要な役割を果たしていることが考えられた.

書評 ―編:日本皮膚科学会 創傷・熱傷ガイドライン策定委員会―創傷・熱傷ガイドライン

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.1115 - P.1115

 皮膚創傷治癒は皮膚欠損の修復であるからまさしく皮膚科医の専門領域である.創傷治癒理論は細胞生物学的にも再生・炎症学的にも十分な検証が行われ,既に学問としては完成の域にある.しかし,臨床現場では,さしたる進歩も変革もなく,先輩から脈々と「消毒して軟膏塗布してガーゼをする」という古典的なドライドレッシング手法が受け継がれてきた.私も研修医のときからさしたる疑問を挟むことなく,しかし系統的な教育を受けることもなく見よう見まねでまるで儀式のように粛々と「包交」と呼ばれる画一的なセレモニーを行ってきた.

 私が「異変」に気づいたのは,ふとしたきっかけで褥瘡領域に足を踏み入れたときであった.当時,褥瘡では米国から専門看護師が創傷治癒の新しい息吹を導入し,「一切消毒はしない」「キズは乾かさない」という新理論を展開しているさなかであった.たまたま私がポビドンヨード製剤を開発上市した頃であったので,「消毒をするとはけしからん」と集中砲火のようなバッシングを受けた.そこで,自分たちが今まで習得してきた創傷治癒理論は間違いであったのか,皮膚科のスキンケアは褥瘡では異端なのか,と自問自答し,精力的に勉強した.その中で,既に1960年代からmoist wound healing理論が提唱され,その理論を背景に各種ドレッシング材が開発されていることを学ぶとともに,創面の評価をもとに感染あるいは最近の用語で言えばcritical colonization(細菌の臨界的定着)があれば消毒をするべきであるという結論に達した.その後は褥瘡学会の設立やガイドライン策定,創傷評価ツール開発などを経て,褥瘡は「チーム医療の優等生」という評価をされるまでに発展した.しかしその過程で皮膚科医の支援は少なかった.

投稿規定

ページ範囲:P.1116 - P.1117

次号予告

ページ範囲:P.1118 - P.1118

あとがき

著者: 石河晃

ページ範囲:P.1120 - P.1120

 今般,欧米の皮膚科関係学術雑誌においては症例報告が掲載されることがどんどん少なくなっています.これは国際雑誌がインパクトファクター(impact factor:IF)という,掲載論文が何回他の論文に引用されたかをもとに算出される定数によって評価されることが最大の要因と思われます.すなわち論文内容に一定以上の新規性がなければ,後に引用される可能性は低く,きわめて珍しい症例,診断に苦慮した教訓的な症例の報告などはIF計算の分母(論文掲載数)を増やす要因にこそなれ,IFの分子(引用回数)を増やすには役に立たないと考えられてしまうからです.IFの高い雑誌には良い論文が集まり,研究者も執筆した論文掲載誌のIFの合計により評価されているのが現状です.この風潮に反対する動きもあり,IF以外の評価尺度も考えられてはいますが,IFはいまだに最も普及した雑誌の「偏差値」です.

 では症例報告にはどんな意義があるのでしょうか.もちろん新しい治療法,新しい診断方法,新しい疾患概念など,新規性があればすばらしい.そこまでの新規性のない症例はどうでしょう.このような症例報告は読者が皮膚科診療の疑似体験をすることにより皮膚科医としての経験値を上げることに意義があると考えています.したがって,典型的ではあるが非常に稀で通常なかなか経験できない症例,稀ではないが非典型的で診断に苦慮した症例,典型的症例で診断は容易であったが想定外の経過をたどった症例,意外なものが原因であった症例などはとてもよい対象です.これらの症例には必ずその症例を通して勉強させられたことがあるはずですので,これをぜひ,臨場感をもって記述していただきたいと思います.一方で,自分の主張を展開することに一生懸命になりすぎると,診断の精度を高めることを忘れがちなのでご注意を.『多発性~の単発例』,『△への分化を伴った~症例』,『○○が奏効した~症例』.キャッチーなタイトルですがその診断(~)は本当でしょうか? 診断根拠を明確にし,考えうる鑑別診断を丁寧に否定していなければそのままでは掲載は困難です.読者の皆様の経験値を上げるような症例の投稿をお待ちしております.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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