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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科66巻3号

2012年03月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・55

Q考えられる疾患は何か?

著者: 植田郁子

ページ範囲:P.189 - P.190

症例

患 者:13歳,男性

主 訴:右下腿の皮膚硬化

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:10歳時,耳介形成術

現病歴:約1年前に右下腿内側の皮膚硬化が出現し,徐々にその範囲が帯状に拡大した.近医形成外科を受診し,外用のみを行っていたが改善せず,皮膚硬化が右大腿まで及ぶようになったため,1か月前にZ形成術を受けその後紹介された.

現 症:右大腿内側から右膝関節,右下腿内側に比較的境界明瞭な帯状の褐色の硬化局面が認められ,色素沈着と下床の筋萎縮を伴っていた(図1).右大腿内側にはZ形成術のよる手術痕があった.右前胸部には鳩卵大の斑状の光沢を有する硬化局面が認められた(図2).

今月の症例

早期の大量γグロブリン静注療法(IVIG療法)により中等量ステロイド投与併用でコントロールしえた尋常性天疱瘡の2例

著者: 奥野愛香 ,   谷崎英昭 ,   江川形平 ,   谷岡未樹 ,   椛島健治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.192 - P.198

要約 症例1:55歳,女性.初診の約1年前より口腔内潰瘍が出現した.近医にて加療したが,増悪,寛解を繰り返していた.2010年3月当科を紹介され受診した.口腔内症状のさらなる悪化を認め,同年4月当科に入院した.症例2:67歳,女性.初診の約1年前から頭皮に3cm大のびらんがあった.2010年4月頃より外陰部にびらん,嗄声が出現した.食事摂取不良によって体重減少も認めていたため,同年6月当院を紹介され受診し,緊急入院した.両症例とも,中等量のステロイド投与(プレドニゾロン20mg/日)を開始し,早期より大量γグロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIG療法)も併用した.IVIG療法後,速やかに口腔内潰瘍の改善を認め,食事摂取も可能となった.早期のIVIG療法の併用によって,中等量のステロイド内服にてコントロールでき,副作用の軽減,入院期間の短縮につながった.早期からのIVIG併用療法は今後の尋常性天疱瘡治療の助けとなると考えられた.

症例報告

特発性腰ヘルニアの1例

著者: 遠藤幸紀 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.199 - P.202

要約 86歳,男性.初診時,右腰背部に8×6cmの表面常色,弾性軟の疼痛を伴う皮下腫瘤がみられた.皮下腫瘤は容易に徒手還納が可能であった.MRIにて右腎周囲の脂肪組織によるヘルニアであることを確認した.外科的修復を考慮したが,その矢先に腰椎圧迫骨折を発症し,腰椎コルセットを着用したところ,ヘルニア内容の脱出はなくなり,疼痛も消失した.腰ヘルニアの治療は外科的修復が原則で,最近では人工材料を用いたtension-free修復術が好成績をあげている.しかし,自験例は車椅子上かベッド上での生活であり,疼痛の訴えもなく,ヘルニア内容も脂肪組織であり,手術を施行せず保存的に経過を観察した.高齢化が進む現在,同様の特発性腰ヘルニアは増加するものと推測される.

妊娠中に発症した急性痘瘡状苔癬状粃糠疹

著者: 青島正浩 ,   津嶋友央

ページ範囲:P.203 - P.206

要約 24歳,女性.妊娠36週,切迫早産の治療中に体幹,四肢に自覚症状のない紅斑,褐色斑が多発した.妊娠39週で出産し,その後も皮疹の新生が続くため当科を受診した.初診時,体幹の皮疹の多くは色素沈着となっていたが,四肢には紅斑や紫斑が存在した.病理組織学的には表皮個細胞壊死,リンパ球の表皮内浸潤,表皮から真皮浅層にかけて出血などの所見を認め,急性痘瘡状苔癬状粃糠疹と診断した.また,出生時よりB型肝炎ウイルス無症候性キャリアであったが,皮疹出現に伴い,肝機能障害を認めた.2か月間のナローバンドUVBの照射によって,皮疹は消退した.妊娠,特に切迫早産時に,本症発症例が報告されており,自験例も類似例と考えた.妊娠環境下でB型肝炎ウイルスが増殖し,炎症性サイトカインが産生増加したことが,発症を促したと考察した.

ワルファリンカリウムが著効したリベド血管症の1例

著者: 古口華子 ,   有田賢 ,   菊地一博 ,   浜坂明日香 ,   阿部理一郎 ,   清水宏

ページ範囲:P.207 - P.210

要約 74歳,女性.約2年前から下腿に紫斑・血疱・潰瘍の出没を繰り返していた.生検で真皮に血栓像を認めたが明らかな血管炎はなく,クリオグロブリン,抗カルジオリピン抗体,抗好中球細胞質抗体は陰性であった.リベド血管症と診断しアスピリン100mg/日を開始したが奏効せず,ワルファリンカリウム3mg/日内服を追加したところ潰瘍の速やかな上皮化をみた.以後,ワルファリンカリウムはプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)値2.0程度となるように調整し,その後潰瘍の再発をみていない.抗血小板薬等の治療に抵抗を示す症例では,ワルファリンカリウム投与は積極的に検討すべき治療の選択肢の1つと考えられる.

Hermansky-Pudlak症候群の1例

著者: 川崎洋 ,   齋藤昌孝 ,   三宅亜矢子 ,   石橋正史 ,   佐山宏一 ,   近藤泰輔 ,   鈴木民夫 ,   富田靖 ,   石河晃

ページ範囲:P.211 - P.215

要約 48歳,女性.出生時より皮膚は乳白色で,幼少時に視力低下を認め,日光過敏や出血傾向を自覚していた.初診1年前より乾性咳嗽が続き,胸部CTにて肺線維症を指摘された.Hermansky-Pudlak症候群(Hermansky-Pudlak syndrome:HPS)が疑われ,当科で精査した.眼皮膚白皮症,出血傾向,組織へのセロイド様物質の沈着がみられ,HPSの3徴をすべて満たした.遺伝子解析の結果,HPS1遺伝子にイントロン5のスプライス変異(IVS5+5G→A)をhomozygousに認め,HPS1と確定診断した.これまでHPSはきわめて稀な疾患と考えられてきたが,本邦におけるHPS患者の頻度は当初考えられていたよりも高いことが近年報告された.HPSは致死的因子となる肺線維症を合併することがしばしばある.適切な患者指導を行うため,白皮症患者の診断にはHPSも念頭に置き,早期診断に努めるべきであると考えた.

肺胞出血とループス腎炎を合併した全身性エリテマトーデスの1例

著者: 加藤恵子 ,   菅原京子 ,   小寺雅也 ,   豊田徳子 ,   指尾豊和 ,   臼田俊和

ページ範囲:P.217 - P.222

要約 23歳,男性.初診3か月前より,微熱,倦怠感,日光により増強する頰部紅斑などを自覚した.精査にて,全身性エリテマトーデスとSjögren症候群の合併と診断した.この時点で,内臓合併症は認めず,安静により軽快し,投薬は行わず経過観察を続けたが,退院8か月後に,左胸部痛,咳,喀痰,呼吸困難感を自覚し再受診した.胸部CTで左下肺野の限局性浸潤影を認めた.市中肺炎が疑われ抗生剤治療をしたが反応に乏しく,血痰,貧血,補体価の低下,初診時と比較して抗ds-DNA抗体の上昇を認め,全身性エリテマトーデスに合併した肺胞出血と診断した.同時に全身の浮腫,蛋白尿が出現し,腎生検によりループス腎炎Ⅴ型と診断した.ステロイドパルス療法を行い,肺胞出血,ループス腎炎ともに軽快した.全身性エリテマトーデスに合併した肺胞出血は,予後不良であることが知られている.今回,臨床経過より早期に診断し,治療しえたことが救命につながったと考えられる.

皮膚Rosai-Dorfman病の長期観察経験

著者: 平澤祐輔 ,   宿谷涼子 ,   池田志斈

ページ範囲:P.223 - P.227

要約 50歳,女性.鼻尖部と左頰部に自覚症状のない多発性紅色丘疹が出現した.左頰部からの皮膚生検で,表皮から真皮にかけてリンパ球・形質細胞が主体の炎症細胞浸潤があり,組織球が正常リンパ球を取り込んでいるemperipolesisの所見がみられた.組織球は免疫組織学的所見でS100蛋白陽性,CD68陽性,CD1a陰性であり,Rosai-Dorfman病(Rosai-Dorfman disease:RDD)と診断した.病変は顔面の皮膚のみにとどまり,全身症状や表在リンパ節腫脹などはみられず皮膚RDDと診断した.皮疹が急速に拡大したためベタメタゾン2mg/日を内服開始したところ皮疹の拡大は停止した.患者の自己判断で内服を中止した.約半年後より皮疹は消退しはじめ,皮疹出現から約3年5か月後,皮疹はわずかな色素沈着を残してほぼ完全に消失した.皮膚RDDの本邦報告例11例を検討したところ,数か月以内で自然消退することが多く1年以上の経過は少なかった.

Prepubertal unilateral fibrous hyperplasia of the labium majusの1例

著者: 国本佳代 ,   上出康二 ,   古川福実 ,   中村靖司

ページ範囲:P.229 - P.233

要約 9歳,女児.初診の3か月前より自覚症状のない右大陰唇の腫大が出現した.臨床所見からは脂肪腫やリンパ管腫,血管粘液腫などを疑った.MRIでは右大陰唇皮下にT1WIで低信号,T2WIでも低信号の境界不明瞭な領域があり,線維組織の増生を疑った.病理組織学的には,紡錘形の線維芽細胞の比較的粗な増殖と膠原線維束の増生が主体で,当初,線維腫と考えた.これまでに思春期前の女児の大陰唇に好発する線維腫に関しての報告は少ないが,2004年Iwasaら,2005年Vargasら,2007年Altchekらが本症例と同様の症状,病理学的所見をもつ疾患をまとめ,新しい疾患概念としてprepubertal unilateral fibrous hyperplasia of the labium majusの疾患名で報告しており,本症例はこれにあたると診断した.本症例は本邦第1例目の報告である.

左臀部に生じた単発型表在性皮膚脂肪腫性母斑の1例

著者: 平林恵 ,   帆足俊彦

ページ範囲:P.235 - P.238

要約 72歳,男性.約1年前より左臀部に腫瘤があり,徐々に増大してきたため受診した.初診時左臀部に皮膚色で弾性軟な半球状の胡桃大腫瘤があった.切除したところ病理組織学的には真皮に異所性に成熟脂肪細胞の島嶼状の増殖がみられ,単発型の表在性皮膚脂肪腫性母斑と診断した.脂肪細胞は付属器や血管の周囲に増殖しており,真皮膠原線維が膨化していることから,軟性線維腫とは鑑別しえた.本症は間葉成分および付属器成分双方の過誤腫性増殖と推測されている.発症機序に関してはいくつかの議論があるが,好発部位の1つである臀部は圧迫,摩擦やせん断(ずれの作用)を受けやすい部位であり,機械的刺激が関与している可能性がある.

ダーモスコピーが診断に有用であった蛇行状血管腫の1例

著者: 吉方佑美恵 ,   石氏陽三 ,   伊東慶悟 ,   中川秀己

ページ範囲:P.239 - P.242

要約 10歳,女児.3歳ごろより左前胸部,背部と左上肢に自覚症状のない暗赤色小点が集簇し,蛇行状に配列する皮疹が生じた.ダーモスコピーでは,境界明瞭な小型の紅色~赤紫色の円形・粒状構造(lacuna)が多数集簇していた.被角血管腫との鑑別が重要になるが被角血管腫はダーモスコピーで角質層の増加がwhitish yellow keratotic areaとして観察される点が異なる.皮膚生検,病理組織像で,真皮乳頭層に壁の薄い拡張した毛細血管の集簇を認めたため,蛇行状血管腫と診断した.ダーモスコピーは侵襲が少なく鑑別に有用である.

Lymphoepithelioma-like carcinoma of the skinの1例

著者: 田村佳奈 ,   金子友紀 ,   眞鍋泰明 ,   加藤正幸 ,   赤坂江美子 ,   生駒憲広 ,   田宮紫穂 ,   松山孝 ,   小澤明 ,   平林健一 ,   中村直哉

ページ範囲:P.243 - P.248

要約 89歳,女性.3か月前より左鼻唇溝部に皮疹を自覚し,徐々に増大したため当科を受診した.初診時臨床像は10×7mm大の中央が角化し,辺縁がやや堤防状に隆起する紅色結節であった.病理組織所見は真皮全層の異型性を伴わない密なリンパ球浸潤のなかに,島状の腫瘍塊を認めた.腫瘍細胞は核分裂や核小体の目立つ大型な核を有する異型細胞であり,極性の乱れのある表皮と一部に連続性を認めた.免疫染色にてAE1/3,EMA,CK19陽性,in situ hybridizationでEBERは検出されず,lymphoepithelioma-like carcinoma of the skin(LELCS)と診断した.LELCSは起源や定義がはっきりしていないが,自験例を含め本邦で14例報告があり,それらを免疫組織学的に検討した.自験例は表皮との連続性を一部に認める腫瘍変化があり表皮由来を,免疫組織学的にはCK19陽性所見があり汗腺の由来を示唆する可能性もあった.疾患の確立のため今後さらなる症例の集積と検討が必要である.

急激に多臓器浸潤をきたした皮膚原発未分化大細胞性リンパ腫の1例

著者: 藤尾由美 ,   吉田和恵 ,   高江雄二郎 ,   海老原全 ,   松木絵里 ,   山ノ井一裕

ページ範囲:P.249 - P.252

要約 65歳,女性.初診の半年前より右足背に掻痒を伴う紅色丘疹が出現し下腿へ拡大した.初診時,右下腿に小結節を複数個と右大腿に手拳大の紅斑を認めた.画像検査では皮膚病変以外認めず,皮膚組織でCD30陽性の未分化大型腫瘍細胞が増生していたことから皮膚原発未分化大細胞性リンパ腫と診断した.右下肢結節に対し電子線,放射線および紫外線療法を施行し皮疹は軽快した.しかし,4か月後には再燃し側腹部にも結節が出現したためIFN-γ療法を開始した.皮疹は平坦化したが開始5か月後に結節の増大・潰瘍形成を認め,再度放射線療法を行った.治療終了時より急激に肺・腹腔内リンパ節などの多臓器浸潤を認め,CHOP療法を行ったが効果不十分で永眠した.腫瘍細胞の細胞表面抗原は,当初陽性であったCD3,CD5がINF-γ治療後より陰性化していた.表面抗原の変化が臨床像の急性増悪に関連している可能性が考えられた.

Exophiala jeanselmeiによる黒色菌糸症の1例

著者: 木村摩耶 ,   宮本亨 ,   村瀬智子 ,   亀井克彦 ,   矢口貴志 ,   青山裕美

ページ範囲:P.253 - P.257

要約 86歳,男性.23年間関節リウマチにて加療され,8年前よりリウマチ性多発筋痛症の診断にてプレドニゾロン内服治療を開始し10mg/日で内服継続中である.約2か月前より右手背に腫瘤を生じ徐々に多発してきたため当科を受診した.右手背に母指頭大から鳩卵大のやや柔らかい膿瘍が多発しており,一部排膿していた.MRI所見にて骨破壊像を認めた.皮膚病理組織像ではPAS染色にて囊腫壁内にさまざまな形の淡褐色の菌糸と酵母様細胞を認め,硬壁細胞(sclerotic cell)や顆粒はみられなかった.以上より黒色菌糸症(phaeohyphomycosis)と診断した.また培養形態と塩基配列から本菌をExophiala jeanselmeiと同定した.骨破壊像があり外科的治療で根治が難しいと判断し手術を行わず排膿とイトラコナゾール内服を開始した.一時結節の新生を認めたため温熱療法を併用し病変の縮小を認めた.比較的まれな黒色菌糸症を経験したので報告する.

発症から診断確定まで6年間を要したNocardia brasiliensisによる原発性皮膚ノカルジア症の1例

著者: 小嶌綾子 ,   松村由美 ,   荒川明子 ,   加藤真弓 ,   是枝哲 ,   大楠清文 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.258 - P.262

要約 20歳台,女性.基礎疾患はない.初診の6年前にバイクで転倒し右外果に擦過傷を生じた.いったん治癒したが,受傷の半年後より右足関節部に腫脹,右外果に排膿を伴う発赤が出現した.数か所の総合病院にて診断が得られないまま塩酸ミノサイクリンを含む多種の抗菌薬の投与やデブリドマンを施行されたが改善しなかったため当院を受診した.病理組織像では真皮深部にびまん性に好中球が浸潤し,一部に糸状菌の菌塊を認めた.生検組織片を抗生剤無添加Sabouraudブドウ糖寒天斜面培地にて培養したところコロニーの形成を認め,16S rRNA遺伝子の解析に基づきNocardia brasiliensisと同定した.薬剤感受性検査にて感受性のあったST合剤の内服および携帯使い捨てカイロを用いる局所温熱療法にて加療したところ,1年後に瘢痕治癒した.培養にて培地や培養期間に配慮したことから今回診断に至ったと考えた.

幻視を呈したKaposi水痘様発疹症の1例

著者: 小野さち子 ,   能登理央 ,   谷崎英昭 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹 ,   松井美萌

ページ範囲:P.263 - P.267

要約 22歳,男性.アトピー性皮膚炎にKaposi水痘様発疹症を合併した.ビダラビンによる加療を行い,皮疹は改善傾向にあったが,増悪する幻視と妄想を認め単純ヘルペス性脳炎を疑い,ビダラビンを増量し,これらの症状は速やかに改善した.Kaposi水痘様発疹症で単純ヘルペス脳炎を合併することは稀であるが,その重篤な予後より,脳炎が疑われた段階での治療開始を躊躇してはならない.また本症例はアトピー性皮膚炎に対する標準治療を行わず,皮疹コントロールの不良な状態であり,単純ヘルペスウイルスへの易感染性が基礎にあったと思われる.

B細胞リンパ腫に対する化学療法施行後の白血球数の回復に一致して発症した帯状疱疹の1例

著者: 堀江千穂 ,   成田陽子 ,   平原和久 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.269 - P.272

要約 51歳,女性.1991年に発症したB細胞リンパ腫に対し,当院血液内科にて化学療法を施行した.以降寛解状態にあったが,2008年に再燃し12月上旬よりサルベージ療法としてESHAP療法が追加された.12月下旬に白血球数が300/μlまで低下したためG-CSFが投与され,約5週間後には5,500/μlまで回復した.しかし,それに一致して右下肢に疼痛を伴う皮疹が出現し,1月下旬当科を紹介された.初診時,右下肢に疼痛を伴う小水疱が集簇しており,帯状疱疹と診断し,入院のうえ,アシクロビル(ACV)の投与を開始した.しかし膿疱が多発し症状は遷延化した.そのため,ACVの投与期間を10日間に延長した.自験例は白血球の減少時期ではなく,その回復時期に一致して帯状疱疹を発症しており,AIDS患者に生じる免疫再構築症候群に一致した病態の関与が考えられた.免疫再構築症候群としての帯状疱疹は,従来信じられたほど軽症型のみではないと考えられた.

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欧文目次

ページ範囲:P.187 - P.187

文献紹介 カリクレイン5はPAR2を介したTSLPの発現誘導によりNetherton症候群においてアトピー様皮疹を引き起こす

著者: 西本周平

ページ範囲:P.227 - P.227

 Netherton症候群はプロテアーゼインヒビターのLEKTIをコードするSPINK5遺伝子の変異によりアトピー性皮膚炎様の重度の皮膚炎を生じる疾患である.LEKTIの欠損により活性化した表皮プロテアーゼのカリクレイン5,カリクレイン7は顆粒層上部でデスモソームの異常な切断を生じ,角層の脱落や皮膚バリア機能の喪失が生じる.

 従来,Netherton症候群においてアトピー様の皮疹が生じる理由として,この皮膚バリア欠損によってアレルゲンの取り込みが起こりやすくなっていることが考えられてきた.

文献紹介 アトピー性皮膚炎患者におけるシクロスポリン長期内服治療の効能と安全性

著者: 藤尾由美

ページ範囲:P.233 - P.233

 近年,重症のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)に対してシクロスポリン(CyA)の内服治療が行われるようになった.CyAの短期間内服についての報告は散見されるが長期内服についての報告は少ない.今回韓国においてCyAの長期療法の安全性を評価するための追跡調査が行われた.抗ヒスタミン剤,ステロイド剤外用に加え,平均2.7mg/kgのシクロスポリンを6か月以上投与し症状を比較した.全症例における平均SCORADスコアは6か月後には開始前の半分にまで改善,また重症度別の比較では,重症および中等症のいずれの群においても1か月後には半分の値にまで低下した.

 また,内因性ADと外因性ADの比較ではいずれもSCORAD値は半年後に半減し,グループ間に有意差はなかったが,外因性ADの76%でIgEの低下がみられ,全体の平均としては47%の低下がみられた.シクロスポリンとIgE値に関してはさまざまな議論があるが,今回の追跡調査にて内因性ではIgE値に変化がなかったことから,CyAの治療効果がIgE値を低下させる以外のメカニズムにもあることが示唆されたとしている.

お知らせ 公益信託皮膚科国際学術交流基金/2012年度 留学生研究助成募集要項

ページ範囲:P.273 - P.273

1.趣 旨 海外から来日して,大学等で皮膚科学の基礎又は臨床研究に従事している若手外国人研究者に対して研究費の助成を行い,皮膚科医療の振興と福祉の向上に寄付する.

2.研究課題 特に定めないが,上記趣旨に沿う研究課題とする.

次号予告

ページ範囲:P.277 - P.277

投稿規定

ページ範囲:P.278 - P.279

あとがき

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.280 - P.280

 「確かにこの国は貧しいけれど,人々は皆清潔だし明るく良く笑う.この国にわれわれの文化をもたらし教育することで,はたしてこの国の人々は現在の明るさを持ち続けられるだろうか? 彼らは本当に幸せになるだろうか? 私はその点に良心の呵責を感じざるを得ない.」これはわが国を開国させたペリー提督の日記の一部である.ここには,現代の日本から見たら別世界のような人々の日々の営みがある.

 それから150年間,国民の努力は主に物質的に西欧諸国に負けない国を作ることに向けられ,人々の生活は見違えるほど豊かになった.しかし,その結果得られた社会は決して夢見たようなパラダイスではなかった.人々は絶えず不満を言い,これは国がすべきと声高に要求する.人のために何かをしたい,という奉仕の精神を持たない人がいかに増えたことか.現代の自由主義経済における成功は,いかに人々の欲望を喚起させられるか,にかかっている.本来必要でないものを,買わねばならないもののように思い込ませた者が勝者となる.一方でエコの重要性を訴えるが,実はそのような欲望を起こさせないことのほうが,はるかにエコなのに.これでは麻薬を売って儲けたお金を,慈善事業に使うのと同じではあるまいか.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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