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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科66巻5号

2012年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス2012 Clinical Dermatology 2012 1.最近話題の皮膚疾患

旧「茶のしずく石鹸」中の加水分解小麦により感作されたFDEIA

著者: 千貫祐子 ,   森田栄伸

ページ範囲:P.8 - P.11

要約 近年,旧「茶のしずく石鹸」中の加水分解小麦(グルパール19S®)で経皮または経粘膜感作されて,小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis:FDEIA)を発症したと思われる患者が急増した.患者の多くが小麦によるFDEIAの主要アレルゲンであるω-5グリアジンに対する特異的IgEを有しておらず,従来のFDEIAとは異なる臨床症状および予後を呈している.

トリクロロエチレンによる過敏症症候群

著者: 深澤奈都子 ,   佐藤友隆 ,   渡辺秀晃 ,   上島通浩 ,   飯島正文

ページ範囲:P.12 - P.15

要約 トリクロロエチレン(trichloroethylene:TCE)は金属加工部品などの脱脂洗浄溶剤等としての用途がある有機溶剤で,発癌性の問題から使用されなくなっていた.しかし代替品であるクロロフルオロカーボンなどによる地球のオゾン層破壊の問題から再度使用頻度が上昇している有機溶剤である.TCEによる肝機能障害を伴う,全身性の皮膚障害は使用頻度の高いアジア諸国で1990年代半ば以降に300例以上報告され,増加傾向にある.日本では1990年以降報告はなかったが,最近東京で2例の報告があった.この皮膚障害は臨床症状および経過,血液検査所見,ウイルスの再活性化を含めて薬剤過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)にきわめて類似しており,同じ病態と考えられつつある.TCEによる皮膚障害の発症に関しては,原因遺伝子としてHLA-B1301およびHLA-B44のアリルを有する人に高率に発症することが判明している.

2011年に大流行した手足口病の病態

著者: 日野治子

ページ範囲:P.16 - P.22

要約 手足口病はエンテロウイルス感染症で,臨床症状が比較的軽度の例が多い.2011年は本症の大きな流行があったが,原因はCVA6,CVA16などで,特に通常はヘルパンギーナの原因のCVA6が目立った.成人にも罹患例があり,皮疹は足底・手掌の通常の手足口病より巨大な水疱が目立った.体幹にも丘疹・水疱が出現し,水痘のような例もあった.さらに治癒後に爪甲の変化を呈した例がみられたことも特記すべきである.爪甲の変化は既に欧米で2000年頃から報告されてきていたが,2009年,大分県さらに愛媛県でまとめて報告され,注目された.手足口病の罹患1~2か月後に横線,爪甲の脱落などが出現した.おそらくCVA6の爪母への直接的障害とみなされるが詳細は不明である.

Fusobacteriaの関与する口囲皮膚炎

著者: 石黒直子

ページ範囲:P.24 - P.27

要約 ステロイド外用歴のない口囲皮膚炎におけるFusobacteriaの関与について言及し,その疾患概念について解説した.臨床像では鼻唇溝,口角外方,頤に比較的大きさの揃った径1mm前後の細かい常色ないしは淡紅色丘疹の集簇を認めた.時に鼻の周囲や下眼瞼下方にも同様の丘疹を認め,淡紅斑を伴うこともあるが,大型の丘疹,膿疱は少ないという臨床像を呈した.これは狭義ないしは本来の口囲皮膚炎の臨床像であった.Tape stripping toluidine blue法により,これらの症例の約8割で,アトピー性皮膚炎,脂漏性湿疹,健常人ではみられなかったFusobacteriaを,毳毛の毛根部やその近傍に検出した.ステロイド外用歴のない狭義の口囲皮膚炎では,Fusobacteriaがその病因として強く関与すると考え,広義の口囲皮膚炎からは独立したclinical entityと考えた.

Blaschkitis

著者: 宇谷厚志

ページ範囲:P.28 - P.31

要約 体細胞変異などにより異なる遺伝子を有する細胞群が1個体に混在する場合をモザイクと呼ぶ.皮膚では発生段階においてBlaschko線に沿って細胞が増殖・移動すると考えられている.そのため,皮膚は他の臓器と異なり,発生の早い時期に変異が生じたモザイクが特有の線条配列を示す皮膚疾患として認識できる場合がある.本稿では,この線に沿って発生するBlaschkitisという後天性炎症疾患を紹介する.

縮毛とLIPH

著者: 下村裕

ページ範囲:P.32 - P.35

要約 縮毛症は,頭髪が過度に縮れることが特徴の先天性毛髪疾患の1つである.本症は,症候群に伴うタイプ(syndromic)と毛髪症状のみを呈するタイプ(non-syndromic)に大別される.近年,non-syndromicなタイプの先天性縮毛症の原因遺伝子が複数報告された.そのなかでも,日本人の本症患者には,lipase H(LIPH)遺伝子に共通の創始者変異が非常に高頻度で同定されることが判明した.LIPH遺伝子がコードする蛋白PA-PLA1αは,ホスファチジン酸から活性型の脂質であるリゾホスファチジン酸を合成する酵素であることから,毛包の分化・毛髪の成長における脂質伝達系の重要性が強く示唆される.

2.皮膚疾患の病態

蜂窩織炎に続発したアナフィラクトイド紫斑―蜂窩織炎とアナフィラクトイド紫斑の合併例の検討

著者: 牛込悠紀子 ,   成田陽子 ,   平原和久 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.38 - P.43

要約 溶血連鎖球菌(溶連菌)は,さまざまな皮膚疾患の原因となることが知られている.われわれは,蜂窩織炎の治療経過中にアナフィラクトイド紫斑(anaphylactoid purpura:AP)を続発し,その間に抗ストレプトリジン(ASO)と抗ストレプトキナーゼ(ASK)の有意な上昇を確認しえた症例を相次いで経験したことより,両疾患の発症に溶連菌の関与を考えた.同様に蜂窩織炎にAPを合併した当教室症例および本邦既報告例を検討したところ,合併例の半数で溶連菌の関与が示唆された.その全例で蜂窩織炎が1週間前後先行しており,皮膚局所に常在する溶連菌が蜂窩織炎の原因となる可能性を考えた.皮膚局所に常在する溶連菌は感染病巣となりうるばかりでなく,しばしば重篤なAPの原因となりうる.

好酸球性膿疱性毛包炎―最近の病態研究

著者: 中東恭子 ,   椛島健治

ページ範囲:P.44 - P.48

要約 好酸球性膿疱性毛包炎(eosinophilic pustular folliculitis:EPF)は,毛囊一致性の掻痒性丘疹,無菌性膿疱が再燃寛解を繰り返す原因不明の慢性炎症疾患であり,病理組織学的に毛包脂腺系に多数の好酸球浸潤を伴う.今回われわれはシクロオキシゲナーゼ阻害薬であるインドメタシンがEPFに奏効することに着目し,アラキドン酸代謝物がEPF発症に関与するという仮説をもとに発症機序の解明を進めた.結果,EPF病変部において造血器型プロスタグランディンD合成酵素陽性の浸潤細胞が増えており,病変部においてプロスタグランディンD2(PGD2)の産生が増加していることが示唆された.また,ヒト不死化皮脂腺細胞株において,PGD2との共培養により好酸球遊走因子であるエオタキシン3の発現が増加することが明らかとなった.さらに,EPF病変部の皮脂腺においてエオタキシン3陽性の細胞が増加していることを確認した.以上の結果より,皮脂腺細胞からのPGD2産生により,エオタキシン3の産生が増加し,毛包脂腺系への好酸球浸潤を亢進することによりEPFの病態に関与していることが推測された.

表皮水疱症の血液学的合併症

著者: 森実真

ページ範囲:P.50 - P.53

要約 長期にわたって反復する皮膚潰瘍を伴う重症の表皮水疱症患者では,しばしば抗生剤不応性の発熱と共通した血液学的異常を認める.難治性の皮膚潰瘍部では,アルブミンの漏出や角化細胞・線維芽細胞におけるToll様受容体シグナルを介してのIL-6とSAAの産生が持続している.皮膚局所で産生されたIL-6とSAAはオートクライン機構で局所の炎症を永続化し,さらに肝細胞からのSAAとIL-6の産生も誘導,血中濃度は持続高値となる.リンパ節においてIL-6は形質細胞への分化・増殖を誘導する.これらに加えてIL-6はアルブミンの産生を抑制,急性期蛋白の産生を促進し,低アルブミン血症と形質細胞の増殖は高γグロブリン血症を誘導する.これらの病態は多中心性Castleman病に類似しており,反応性AAアミロイドーシスや腎不全の発症に関与する可能性がある.

二光子励起顕微鏡で見る皮膚免疫反応

著者: 江川形平

ページ範囲:P.54 - P.57

要約 二光子励起顕微鏡は,「二光子励起」と呼ばれる現象を利用した新しい顕微鏡である.その低侵襲性,深部到達性から生体組織を直接観察することが可能であり,近年,さまざまな研究分野に導入されている.皮膚は,観察のしやすさ,実験モデルの豊富さから本機器と相性のよい研究領域といえる.実際,マウスでは皮下脂肪織のレベルに達する高解像度の3次元像が得られ,さらには動画による4次元的解析を行うことも可能である.本稿では,接触皮膚炎のマウス実験モデルである接触過敏反応を中心に,二光子励起顕微鏡を用いて得られた知見について解説した.これまでに皮膚のなかで活発に活動するT細胞や樹状細胞が動画として捉えられ,リンパ節内のみにとどまらず,皮膚局所においてもT細胞と樹状細胞が結合し抗原提示が行われる様子が観察されている.これにより,抗原で感作が成立している個体で迅速な皮膚炎が誘導されるメカニズムの一端が明らかとなった.

コルネオデスモソームが異常になる疾患―Netherton症候群と炎症型peeling skin症候群

著者: 山本明美 ,   井川哲子 ,   岸部麻里

ページ範囲:P.59 - P.62

要約 表皮角化細胞同士をつなげる構造であるデスモソームは顆粒層の上層で形態と成分を変化させてコルネオデスモソームとなる.この細胞外部分がKLK5,KLK7などの酵素によって秩序だって分解されることにより角層の細胞が落屑する.そのコルネオデスモソーム細胞外部分を構成するものとしてデスモグレイン1,デスモコリン1,コルネオデスモシンが知られている.これらの分解に関与する酵素を阻害するのがLEKTIであり,これが遺伝的に欠損するとNetherton症候群となる.またコルネオデスモシンが遺伝的に欠損していると炎症型peeling skin症候群となる.両者とも常染色体劣性遺伝性疾患でコルネオデスモソームの早期分解のため皮膚バリア機能が低下する.

3.新しい検査法と診断法

ジャパニーズスタンダードアレルゲンの陽性率

著者: 鈴木加余子 ,   矢上晶子 ,   松永佳世子

ページ範囲:P.64 - P.69

要約 パッチテスト施行時に持参された製品とともにスタンダードアレルゲンを同時に貼布することは原因アレルゲンを見落とさないために有用である.日本においては,1994年に日本接触皮膚炎学会でジャパニーズスタンダートアレルゲンシリーズ(1994)が設定され,2008年に日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会で,アレルゲンを見直し,ジャパニーズスタンダードアレルゲン(2008)とした.ジャパニーズスタンダードアレルゲンの1993年以降の陽性率の推移について検討したところ,金属アレルゲンの陽性率が全体に低くなっている結果であったが,試薬の調整方法が異なっていることや一部のアレルゲンは濃度・基剤が異なっていることから真の陽性率の推移については今後の検討を待たなければならない.

糸状菌検出試験紙について

著者: 田邉洋

ページ範囲:P.71 - P.75

要約 白癬の診断に有用な研究用試薬として,糸状菌検出試験紙が開発され,2011年4月からインターネット販売されている.この製品は,白癬菌細胞壁に共通した糖鎖構造に特異的な抗体を用いたイムノクロマトグラフィーを原理とし,感受性は鋭敏であり,使用法は簡便で一般にも容易に使用できる.しかし,あくまで研究用試薬であり白癬の診断用具ではない.また,保険適用はなく1回分1,000円程度の経費が必要となる.本試験紙は,白癬を他疾患と鑑別する診断補助具としては有用であるが,治療の効果判定として使用すべきではなく,また採取検体量や判定時間などの使用方法を標準化しないと,微妙な結果に判定を迷う場合がある.その臨床使用については今後の症例の積み重ねと調整が必要であるが,画期的な白癬診断の補助具として皮膚科医は本試験紙について周知しておく必要があると考える.

色素病変以外のダーモスコピー所見

著者: 田中勝

ページ範囲:P.77 - P.81

要約 ダーモスコープは皮膚科医になくてはならない「聴診器」である.ダーモスコピーは臨床像と病理像をつなぐ役目を果たす.ダーモスコピーは,病理像を想像しながら観察することで診断に寄与する.乾癬,光線角化症,Bowen病では不全角化による白色鱗屑領域が目立つ.乾癬やBowen病などで表皮肥厚を反映する所見は脱色素ネットワーク(白色網目状構造)である.真皮乳頭の血管増生・拡張は点状血管,糸球体状血管として観察される.扁平苔癬のWickham線条は白色網状,霜状,樹氷様構造としてみられる.慢性色素性紫斑のように真皮乳頭で微小出血する疾患では紫紅色の類円形構造が黄色ないし褐色の背景の上に観察される.

皮膚疾患患者のQOL―評価法と研究の現状

著者: 檜垣祐子

ページ範囲:P.82 - P.85

要約 皮膚疾患は慢性・再発性の経過,特有の自覚症状である掻痒,外見の問題などから,患者のquality of life(QOL)に影響する.QOLの測定には,通常自記式のQOL評価尺度を用いるが,これには全般的QOL評価尺度と皮膚疾患特異的QOL評価尺度がある.近年,皮膚疾患患者のQOLについて,横断的・縦断的研究が広く行われるようになり,その結果が集積しつつある.炎症性皮膚疾患では,QOLへ影響がより深刻で,特に感情面のQOLへの影響が大きく,病変の範囲が小さい再発性性器ヘルペスでも同様の傾向を示す.QOLの評価は治療のアウトカムの指標の1つとしても用いられる.掻痒性皮膚疾患に対する非鎮静性の抗ヒスタミン剤や,痤瘡に対する内服の抗生剤などについて,治療後にQOLが改善することが示されている.皮膚疾患患者のQOLについて,その評価法と研究の現状について述べた.

4.皮膚疾患治療のポイント

最近注意すべき院内感染と抗菌薬の使い方―MRSAの変化と新規抗菌薬の登場

著者: 田邊嘉也

ページ範囲:P.88 - P.91

要約 皮膚および軟部組織感染症における主な原因菌はStaphylococcus aureusをはじめとするグラム陽性球菌であるが,院内感染に焦点を当てるとそのなかでもMRSAが大きな問題となる.表層感染であれば適切な消毒,ドレナージ処置により比較的容易にコントロールできることもあるが院内感染ではなんらかの日和見宿主であったり,また手術部位感染など複雑性皮膚・軟部組織感染症として全身的に抗菌薬を使用する場面も多い.起炎菌の同定と感受性のある抗菌薬を使用することに加えて抗MRSA薬は使用量の調節が必要な薬剤があり,それらを合わせた適切な抗菌薬使用が予後の改善につながる.本稿では皮膚疾患における院内感染の主要な起炎菌であるMRSAに焦点を当てて,最近の傾向と新規薬剤を含めた抗菌薬使用法について概説する.

酒皶・酒皶様皮膚炎の薬物治療

著者: 藤本亘

ページ範囲:P.92 - P.96

要約 酒皶は顔面にほてり,潮紅を繰り返すことを特徴とする慢性疾患であり,患者のQOL低下に対し皮膚科医が責任をもって治療すべき疾患である.コクランシステマティックレビューで酒皶に有効と判定されているのはメトニダゾール外用,アゼライン酸外用,および低容量ドキシサイクリン(40mg)内服である.本邦では酒皶の治療に有効な外用薬が保険適用薬として処方できないため,酒皶に対し適切な治療が行いにくい状況にある.酒皶様皮膚炎の発症を減らすためには,皮膚科医が酒皶に対しエビデンスに基づいた治療を行えるようにこの状況を変えることが急務である.

帯状疱疹関連痛の新たな薬物治療

著者: 山口重樹 ,   北島敏光 ,  

ページ範囲:P.98 - P.103

要約 帯状疱疹関連痛(zoster associated pain:ZAP)の治療戦略について,国内外のガイドラインを参考に述べた.ZAPの治療を考えるうえで重要なことは,前駆期から急性期にかけての侵害受容性疼痛,その後の神経障害性疼痛の2つの様相を考えることである.侵害受容性疼痛の様相が強い時期にはアセトアミノフェンを中心に,神経障害性疼痛の様相が出現した際には鎮痛補助薬やオピオイド鎮痛薬を中心に治療戦略を立てることが重要である.一方,従来鎮痛薬の中心であった非ステロイド性抗炎症薬は厳選された患者にのみ選択され,侵害受容性疼痛が存在するときにのみ投与されるべきである.これらの治療戦略によって,以前のように帯状疱疹後神経痛へ移行して著しくquality of lifeが低下する患者が出現することは確実に減ると思われる.

蕁麻疹診療ガイドライン(改訂版)

著者: 三原祥嗣 ,   秀道広

ページ範囲:P.104 - P.109

要約 2011年6月に「蕁麻疹診療ガイドライン」がEBMを盛り込んだ形で全面改定された.蕁麻疹の治療においてはまず,その緊急性・重症度と病型を的確に把握し,これらの視点に基づいて治療する.そして,原因の同定と除去・回避が中心となる場合,薬物療法治療が中心となる場合など病型により治療の力点が異なること,また,治癒に至る過程として治療により当面の症状が抑制された状態を維持した過程を経る必要があることなどを,医療者と患者が共有することが重要である.特発性の蕁麻疹の治療では鎮静性の低い抗ヒスタミン薬が治療の中心であるが,症状によっては適宜,変更や増量,補助的な治療の追加や症例によっては中等量のステロイドやシクロスポリンなど試行的治療を考慮することもある.治療により症状が消失した後も一定期間予防的に抗ヒスタミン薬を内服するほうがその後の症状や再発予防に有効である.

慢性蕁麻疹における抗ヒスタミン薬の予防的内服期間についてのエビデンス

著者: 川島眞

ページ範囲:P.110 - P.113

要約 ほぼ連日のように繰り返し症状がみられる慢性蕁麻疹においては,膨疹とかゆみに対して十分な効果を有する抗ヒスタミン薬を症状出現の有無にかかわらず,連日予防的に継続内服して十分に症状の治まったところで,徐々に減量して休止を目標とする治療法がガイドラインでも推奨されているが,予防的に継続して内服すべき期間については,不明であった.エバスチンを用いた試験により,連日症状がみられるような例では,3か月連続して内服したほうが1か月間の連続内服よりも経過が良いことが示された.

重症薬疹の治療指針

著者: 狩野葉子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.115 - P.118

要約 Stevens-Johnson症候群,中毒性表皮壊死症の治療では,副腎皮質ステロイド薬全身投与を第一選択とし,重症例では発症早期にステロイドパルス療法を含む高用量のステロイド薬の投与を行う.ステロイド薬で効果がみられない場合には免疫グロブリン製剤静注療法や血漿交換療法を併用する.また,治療経過中に発症する感染症には十分に注意する.薬剤性過敏症症候群でもステロイド薬の全身投与が基本となるが,紅皮症状態,心不全,腎不全などの重篤な基礎疾患を有している場合には,早期からの投与が推奨される.経過中にさまざまなヒトヘルペスウイルス再活性化や感染症を引き起こすので,ステロイド薬の減量は急がずに行い,再燃時のステロイド投与は慎重に行う.発症5~7週目に生じるサイトメガロウイルス感染症は致死的な状態をもたらす場合が多いので,その徴候があれば,抗ウイルス薬を投与して対応することが大切である.

日光角化症のイミキモド療法

著者: 斎田俊明 ,   川島眞

ページ範囲:P.119 - P.122

要約 イミキモドはToll様受容体に作用し,強い抗ウイルス作用,抗腫瘍効果を発揮する.今回,日光角化症(solar keratosis/actinic keratosis:AK)患者を対象にイミキモド5%クリームの有用性をランダム化比較試験にて検討した.就寝前に同クリームを週3回,同週2回,基剤を週3回,4週間塗布し,塗布終了から4週後に病変が残存していた場合はさらに4週間,同様のクリーム塗布を行った.本治験での完全消失率は週3回群57.1%,週2回群37.1%,基剤群16.9%であり,週3回群で有意に優れた効果がえられた.有害事象が高率に認められたが,ほとんどは局所皮膚反応であり,重度の副作用による中止例はみられなかった.週3回群の完全消失例で1年間追跡調査した32症例では1例も再発がみられなかった.本邦ではこれまでAKの治療に凍結療法と外科的切除が主として用いられてきた.非侵襲的治療であるうえに,field therapyとしての効果も期待できる本剤は今後,AKの有力な治療選択肢になるものと期待される.

菌状息肉症の薬物治療

著者: 菅谷誠

ページ範囲:P.123 - P.126

要約 菌状息肉症の治療の基本は紫外線療法に代表されるskin-directed therapyである.治療に抵抗性の場合や腫瘤期・紅皮症の場合,紫外線と薬物療法の併用を検討する.Biological response modifierの代表であるインターフェロンは,IFN-α,IFN-γともに,単独あるいは紫外線との併用で効果を示す.またレチノイドも有効で,本邦では主にエトレチナートが使用されている.単剤化学療法としてはメトトレキサート,低用量エトポシド内服療法などが用いられる.最近認可されたヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の1つであるボリノスタットは,腫瘤新生やかゆみの抑制などで一定の効果が期待できるが,本剤を用いた治療後の生命予後や,長期服用や併用療法による副作用については十分なデータが集積されていない.抗体療法の1つとして,抗CCR4抗体の治験が始まっており,有望な結果が得られはじめている.

エキシマライト療法の適応とポイント

著者: 森田明理

ページ範囲:P.128 - P.132

要約 光線療法は,PUVAからナローバンドUVBに移行し,さらに照射方法も全身・部分照射だけではなく,ターゲット型照射が,308nmエキシマライトの登場によって可能となった.安全にしかも有効性が高い照射方法を行うのには,光線療法の基本となるメカニズムを理解し,しかも発癌性を含めたリスクを理解しなければならない.部分的に残る皮疹や局所の再発に対して,ターゲット型光線療法を行い,正常皮膚への過剰な照射を防ぐべきではないかと思われる.しかし,エキシマライトの照射方法は,機器によっても異なり,疾患によっても異なる.今後の課題として,波長ごとの光生物学的な作用から,疾患ごとに有効な波長や照射方法を検討しなければならない.

重症虚血肢に対する皮膚科的アプローチ

著者: 末木博彦 ,   前田敦雄 ,   葛西嘉亮

ページ範囲:P.135 - P.139

要約 重症虚血肢(critical limb ischemia:CLI)とは動脈閉塞性疾患に起因する慢性虚血性安静時疼痛,潰瘍もしくは壊疽を有する状態と定義される.CLIは全身血管の動脈硬化に起因していることから,単なる足部潰瘍・壊疽といった局所的疾患ではなく,生命予後不良の全身血管病である.全身的リスク管理を行う内科をはじめ,血行再建を行う循環器内科や血管外科,デブリドマンや切断を行う形成外科などの関連診療科や生理機能検査技師,看護師などコメディカルスタッフを含む医療チームによる集約的治療を要する.患者を初療する機会の多い皮膚科医の役割は,正しい臨床診断,血流評価などの検査計画,創傷治療である.潰瘍や壊疽がなくとも糖尿病患者,透析患者,喫煙者などハイリスク患者に対しては定期的フットチェックにより潜在する虚血の早期発見,潰瘍や壊疽の引き金になる非潰瘍性皮膚病変の治療に努めるべきである.

5.皮膚科医のための臨床トピックス

新しいパッチテスト試薬

著者: 殿岡永里加 ,   中田土起丈

ページ範囲:P.143 - P.145

要約 長い間,国内で入手できるパッチテスト試薬は鳥居薬品製の40種のみであったが,2010年5月,佐藤製薬からパッチテストテープ6種(硫酸ニッケル160μg,重クロム酸カリウム19μg,塩化コバルト16μg,メルカプトベンゾチアゾール61μg,ホルムアルデヒド150μg,チメロサール6.5μg)が発売された.本製品はTRUE(Thin-layer Rapid Use Epicutaneous)TEST®の本邦導入品で,アレルゲンがユニットに貼付されているready-to-use製品である.それゆえ,①操作性に優れる,②貼付されているアレルゲン量が一定,③使用可能期間が長いといった特徴を有する.実際の使用法としてはポリエチレンフィルムを剥がして貼付するだけでよく,一定数以上の試薬を貼付する場合でも適切な形に切断することで使用できる.TRUE TESTは12種のアレルゲンが貼付されたシート2枚から構成されており,使用できればジャパニーズスタンダードアレルゲン25種中23種が国内で入手可能となる.TRUE TEST®の1日も早い認可が望まれる.

FDEIAにおけるω-5グリアジン検査

著者: 森田栄伸 ,   千貫祐子

ページ範囲:P.147 - P.149

要約 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis:FDEIA)は本邦では小麦が原因となる場合が多い.小麦の原因抗原の解析の結果,ω-5グリアジンおよび高分子量グルテニンが主要抗原であることが明らかにされている.リコンビナントω-5グリアジンを用いたCAP-FEIAは成人の小麦が原因となるFDEIAの血清診断にきわめて有用で,2010年10月から保険適用されている.成人の小麦によるFDEIAの診断において90%以上の感度を持つが,20歳未満の患者では陽性率約50%である.ただし,近年アウトブレイクした加水分解小麦に感作されたFDEIA患者では,その多くが陰性となる(本号8頁参照).

血管炎のChapel Hill分類2011提案から―改変病名について

著者: 岩月啓氏

ページ範囲:P.150 - P.151

要約 2011年のChapel Hillコンセンサス会議において,血管炎の新たな病名が提唱された.Wegener肉芽腫症はgranulomatosis with polyangiitis(GPA),Churg-Strauss症候群はeosinophilic granulomatosis with polyangiitis(EGPA)への変更が提案された.それに対応して,厚生労働省研究班では,GPAの日本語病名を「多発血管炎性肉芽腫症」,EGPAを「好酸球性肉芽腫性多発血管炎」と提案した.2012年の国際学会で再度,討議される予定である.

抗ヒスタミン薬のインバース・アゴニスト作用

著者: 佐藤伸一

ページ範囲:P.152 - P.154

要約 抗ヒスタミン薬には,ヒスタミンH1受容体に対してヒスタミンと競合する拮抗薬(アンタゴニスト)としての作用のほかに,逆作動薬(インバース・アゴニスト)としての作用があることが明らかにされている.インバース・アゴニストの作用機序を理解することは,単に抗ヒスタミン薬の新しい薬理作用を理解することにとどまらず,抗ヒスタミン薬の正しい使い方に繋がることが期待されるため,臨床医としても正しく理解することが求められる.

最近の性感染症の動向

著者: 松尾光馬 ,   尾上智彦 ,   伊東秀記 ,   中川秀己

ページ範囲:P.155 - P.157

要約 本邦における最近の性感染症の動向として顕著かつ大きな問題はhuman immunodeficiency virus(HIV)感染症の増加である.ほかにこのような傾向を示す先進国はなく,その原因の多くは男性の同性間性的接触MSM(men who have sex with men)による.今のところ女性のCSW(commercial sex worker)は感染拡大因子とはなっておらず,女性の感染者の多くは,外国籍,バイセクシャルの男性との性交によるものである.淋菌,クラミジアにおいては,過去10年と比べると男女とも報告数の減少がみられるものの,無症候に咽頭感染を起こし,感染源となっていることがクローズアップされている.また,女性におけるsexually transmitted infections(STI)の低年齢化や,保健所でのSTI検査件数の減少もあり,小・中学校での早期からの性教育,また教育者へのさらなる啓発が必要と思われる.

HIV感染と皮膚科診療

著者: 斎藤万寿吉 ,   坪井良治

ページ範囲:P.158 - P.160

要約 HIV(human immunodeficiency virus-1)/AIDS(acquired immune deficiency syndrome)は細胞性免疫不全を主とする疾患で,本邦ではいまだ増加傾向にある.その経過でさまざまな皮膚症状を呈することが多く,皮膚疾患がHIV感染診断の契機となることもある.またHIV/AIDSの皮膚疾患を診療する機会は今後増えることが予想される.HIV/AISDを疑ったときの検査の進め方や,HIV/AIDS患者の皮膚症状を診療するにあたり必要な知識を概説する.

フィナステリドの男性型脱毛に対する効果に体毛の濃さは関係するか?

著者: 稲冨徹 ,   福地君朗 ,   三上正憲 ,   小松崎早子

ページ範囲:P.161 - P.163

要約 背景:フィナステリド(プロペシア®)はテストステロンがジヒドロテストステロンに変換されるのを阻害することで,男性型脱毛(androgenic alopecia:AGA)に対し有効性を示す.方法:フィナステリド内服歴が6か月以上の成人男性AGA患者34例を対象に,内服による頭毛,体毛の変化についてアンケート調査した.結果:平均年齢は44歳,フィナステリドの平均内服期間は1mg/日×18か月であった.体毛が濃いと感じているのは対象患者群の50%に当たる17例であり,濃い部位は下腿や髭が多かった.AGAへの効果は,やや改善以上が全体で34例中21例,62%だった.やや改善以上の比率を体毛の濃さによって比較すると,濃い群では15/17例(88%)だったのに対し,薄い群では6/17例(35%)と有意差をもって濃い群でフィナステリドの有効性が高かった.フィナステリド内服によって体毛への影響を感じた患者はいなかった.結語:AGA患者の約半数は髭やすね毛が濃く,またそれらの体の濃いほうがフィナステリドのAGAに対する有効性が高い.

爪白癬に対するロングパルスNd:YAGレーザー治療の効果

著者: 木村有太子 ,   須賀康

ページ範囲:P.165 - P.167

要約 1,064nmの近赤外線波長を発振するNd:YAGレーザーを用いて,爪白癬病変の改善を試みた.すなわち,中等症~重症の爪白癬を有している患者,合計11名(計34趾)の爪甲に対して,各々20~200ショット,14J/cm2,0.3msec,5Hzの設定でロングパルスNd:YAGレーザーの中空照射を行い,照射24週後に爪白癬に対する有効性,および本治療法の安全性の検討を行った.その結果,いずれの症例においても抗真菌剤の併用がなかったにもかかわらず,34趾中の27趾で明らかな混濁比の改善がみられ,副作用は特にみられなかった.今後は抗真菌剤の治療効果が不十分な患者や,副作用のため内服薬の使用が困難な患者に対しての有用な治療オプションとなることが期待される.

皮膚3Dイメージング

著者: 椛島健治

ページ範囲:P.168 - P.170

要約 皮膚内部の情報は,ある一時点における生検部位の約5μmの厚みから得られるにとどまってきた.しかしながら,二光子励起顕微鏡の導入により,約300μmの深さまでの情報を得ることが可能になった.そのため,Langerhans細胞などの細胞レベルでの形態や動態のみならず,血管や脂腺などの皮膚内の組織の立体構造の詳細を明らかにできる.

皮膚科診療に役立つiPad

著者: 磯田憲一

ページ範囲:P.171 - P.173

要約 日頃からインターネットを使える環境にある大学や総合病院の勤務医と,インターネットになじみのない開業医の間で情報格差が生まれており,それは診療レベルの差となって現れつつある.アップル社のiPadを活用することで,情報格差を解消し,日常の皮膚科診療を効率化させることができる.「Dermatomes」や「添付文書HD」などのiPadアプリは診療情報をすばやく検索・閲覧することができ,診察室には欠かせない電子ツールとなっている.iPadの導入は直感的な操作で比較的簡単にできる.iPadアプリは皮膚科診療に役立つものも多く,特に厳選したものを紹介する.近年では,クラウドを利用したスケジューラーや情報整理アプリで個人情報を管理する医師も多くなってきた.

第110回日本皮膚科学会総会で企画した「世界に貢献する日本の皮膚科」について

著者: 川島眞

ページ範囲:P.174 - P.177

要約 第110回日本皮膚科学会総会は震災の影響で中止となったが,その学会で「世界に貢献する日本の皮膚科」と題して,過去30年間の日本の皮膚科の臨床,研究,社会活動のなかから27項目を取り上げ,ポスターの形で学会場に掲示するとともに,その記録集を作成することを企画した.学会の中止に伴い,幻の企画,記録集となってしまったが,ほぼ完成していたその内容を紹介した.日本の皮膚科が世界に,社会に大いに貢献してきたことの証しになったのではと思うが,第112回日本皮膚科学会総会で披露できる機会があればと考えている.

東日本大震災と皮膚科医

著者: 相場節也

ページ範囲:P.178 - P.180

要約 未曾有の災害となった東日本大震災に遭遇し,大学病院皮膚科勤務医として自らの無力を痛感しつつも災害時に皮膚科医が何をなすべきかを考え行動する絶好の機会を与えられた.結果として,多くの先生方のご尽力で被災地への日本皮膚科学会ボランティア支援が行えたことは,皮膚科診療,皮膚科医の重要性を一般市民ならびに医療関係者にあらためて認識していただく一助になったと考えている.

Derm.2012

乾癬治療の変化

著者: 伊藤寿啓

ページ範囲:P.11 - P.11

 私が乾癬に関わりはじめ11年が経過した.諸先生方からすると「たった11年?」と思われると思う.しかし近年の乾癬治療を取り巻く環境は大きく変化した.シクロスポリンMEPCや活性型ビタミンD3外用薬の登場,ナローバンドUVB療法の導入だけでも大きな変化を感じたが,2年前に2剤,1年前に1剤の生物学的製剤が乾癬へ適応となった.従来の治療で難治であった皮疹が消失し,そのインパクトはかなりのものだった.早期承認に至るまでは,医師側だけでなく,乾癬患者友の会を中心として行った驚異的な数の署名も功を奏した.

 ネット社会や患者会の発展とともに,患者さんも自身の病気について,情報を得る環境が多くなった.そして外来に「乾癬にすごく効く薬ができたということを聞いたのですが….」ということで来院される患者さんも増えた.それは,これまで十分な治療を行っていない患者さんの掘り起こしでもあった.しかし,すべての患者さんで使える訳でなく,使用に際しては制約も多い.生物学的製剤が適応できない患者さんに,「他の治療を行ってみましょう」と提案すると,やや不本意そうな顔をする人もいるが,従来の治療で十分な効果が得られる症例も多く,その場合,診察時に治療に満足していただいている様子がうかがえると,提案してよかったなと思う瞬間である.そしてまた今日も乾癬の患者さんを診察する日々が続く.

風土病から全国区へ

著者: 天野正宏

ページ範囲:P.15 - P.15

 成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma:ATLL)は,2009年に浅野史郎・前宮城県知事が急性型を発症し,化学療法後に“ミニ移植”(骨髄非破壊的移植)を受け寬解状態となり,その後マスメディアを通してご自身の治療経験を積極的に語られたことで,ご存知の方も多いのではなかろうか.九州南西部に多く,発症するとその約半数に皮膚への浸潤(特異疹)が認められ,当教室では20数年前からATLLの診療および研究にたずさわってきた.

 『母乳や性交渉で感染するATLLなどの原因ウイルス「HTLV-1」について,菅直人首相(当時)は8日,官邸に特命チームを作り,感染拡大防止や治療方針の開発に乗り出す方針を示した.(中略)これまでは感染者が九州・沖縄に多く,厚生省研究班(当時)は1990年の報告書で「感染率の高い地域以外での対策は不要」と報告.同省は「風土病」とみなし,長年対応を自治体任せにしてきたが,最近は人口移動などで感染者は全国に広がった(2010年9月9日付毎日新聞朝刊から引用).』

見えぬ免疫を見えるがごとく説明する

著者: 山中恵一

ページ範囲:P.27 - P.27

 今のところ免疫のバランスとしてはTh1/Th2/ Th17/Tregの4方向バランス説が優勢にある.優位なリンパ球の性格により疾患は分類されるが,自己免疫・腫瘍免疫などはTh1に,アレルギー疾患はTh2に,そして乾癬はTh17疾患として捉えられる.またバランスがどちらかに傾きすぎないように自ら修正し,また治療により改善を図る集団としてTreg(抑制性T細胞)がある.これらは一見,人々の集まりに似ている.懐メロのコンサートでは年配の方々がしんみりと応援するが,若者のコンサートでは熱狂的なファンが声援する.逆にその過剰な盛り上がりを抑制しようと警備員が目を光らせる.どの種の性格のリンパ球が集まるかは疾患により異なり,またその病期によっても変遷する.同じヒトでもアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD,Th2)で悩んでいた頃もあればニキビ(Th1)が主訴になることもある.当然とのことかもしれないが,アンバランスは傾きはじめ(発症初期)の方が修正しやすく,平衡状態(治癒)に戻りやすい.

 副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤はこれらの4方向の勢いを総じて押さえ込む働きがある.ADのTh2や乾癬のTh17細胞のみの活動性を抑制することはできない.われわれはADを含めたTh2疾患をTh1誘導因子であるBCGやニキビ菌などを負荷することにより改善しようと試みている.アレルギー疾患に対する免疫療法はTregを誘導して4方向のアンバランスを修正しようとする.悪性黒色腫を含めた悪性腫瘍も免疫の強化(Th1の増強)により少なくともコントロールできる事実がわかりつつある.実際にはもっと複雑に免疫のネットワークは張り巡らされているのであろうが.診察室で患者さんに,体を右(Th2)に左(Th1)に傾けながら病因や治療の説明をしている.2方向バランスの時代は説明しやすかったが,現在は4方向バランスの解釈のため,体をどちらに傾けようか迷いつつ診察している.

「かゆみ」の体験

著者: 天野博雄

ページ範囲:P.36 - P.36

 「かゆみ」とは広辞苑によると「かゆい感覚」,そして「かゆい」とは「皮膚を掻きたいような感じ」と定義されている.禅問答のようだ.

 自分の「かゆみ」体験を2つ.1つ目は留学中のこと.留学当初しばらくシーツ交換も滅多にないような安価なホテルに宿泊していた.そのうちに全身がかゆくなり,特に夜になるとひどい.もしかしてと思い指の間を見ると皮疹がある.まさか疥癬か? せっかくだから外国の医師の診察を受ける良い機会と思いファミリーメディスン科の予約をしたが,最短で2週間後とのこと.ようやく会えたファミリードクターいわく,湿疹でしょう,と真菌検査も行わなかった(自分で鏡検したが陰性だった).ちなみに市販のワセリンを塗布したところ皮疹は改善した.

皮膚科とメタボリックシンドローム

著者: 山本雄一

ページ範囲:P.36 - P.36

 「ムショのなかではよくなるんだけど,シャバに戻ると悪くなるんだよなあ~.」ある男性の乾癬患者さんが外来中にもらした一言です.また,夜のお仕事をされている女性の乾癬患者さんは,しばらく仕事を休むと乾癬がよくなるんだとのこと.飲酒が乾癬の悪化因子であることは,以前から感じていましたがやはり本当のようです.さてアダリムマブ,インフリキシマブ,そしてウステキヌマブの登場によって乾癬の治療は大きくパラダイムシフトしつつあります.当院でもこの2年間で40名ほどの乾癬の患者さんに生物学的製剤を導入しました.今までなかなかよくならなかった患者さんが,これらの生物学的製剤によって劇的に改善するのを目の当たりにして,皮膚科医として大きな喜びを感じています.「半袖シャツを着るのは何年ぶりだろう.」「あんなに腫れて痛かった関節が嘘みたいに楽になりました.」そう話す患者さん達の笑顔を見るのはとてもうれしいものです.でもふと気付きました.患者さんたち,みんな太ったままなんです.糖尿病,脂質異常症,高血圧,肥満症,インスリン抵抗性を基本とするメタボリックシンドロームと乾癬が深い関係にあるのは明らかです.乾癬は心筋梗塞の独立したリスクファクターであるとの報告もあります.乾癬の患者さんの診療に際しては,乾癬病変の治療のみならず,生活習慣病の予防やコントロールも皮膚科医の役割だと私は思います.「これでは本当に患者さんの予後を改善していることにならない.」そう考え,以来,私は乾癬の患者さんの診療では,今まで以上に時間をかけて栄養指導を行い,体重コントロールの重要性を説明するようにしました.しかしながら,患者さんたちは一向に痩せてくれません.なぜなら,かく言う私もいわゆるメタボでしたので,それで説得力がないのだとやっと気付き,禁酒して2年かけて15kg減量しました.

狼狽

著者: 東裕子

ページ範囲:P.53 - P.53

 告白された.しかも同性の患者に.「先生,実は,まだ話していないことがあって…」初診から既に1か月,なかなか症状が良くならず,もう4度目の受診だった.一瞬うろたえた.解決の糸口になるような大事な内容で,教えてもらえなければ何も変わらないままだったかもしれない.話してもらえたうれしさと,告白されるまで長かったことの寂しさと,告白内容の衝撃とかなり複雑な気持ちだった.

 初対面の人と話すのは苦手で研修医のころは診察のときかなり緊張していた.その当時と大きく違うのは,診察室に患者が入ってきた時点でどんなタイプの患者か想像しているところではないかと時々思うことがある.診察がスムーズに進められるかどうかこちら側の都合による判断だ.懐疑的な人,神経質そうな人ではないかと思うとかなり慎重に言葉を選んで説明して,無事患者が部屋から出て行ったときにはほっとしていたりする.

所変われば皮膚病も変わる

著者: 紺野隆之

ページ範囲:P.62 - P.62

 皮膚科に入局した頃(1998年),山形皮膚科勉強会で「ヒトスジシマカ刺症の1例」という先輩の演題を聞いて,蚊に刺されただけで発表になるの?と不思議に思ったことがあった.後に,その頃は山形ではヒトスジシマカは珍しい存在だったということがわかった.温暖化に伴って,南方のムシたちも山形の地に生活圏を拡大してきていたのだ.その後,2011年9月に,アリに刺されてアナフィラキシー症状を起こした患者が2名受診した.アリによるアナフィラキシー患者の経験はなく,種類を調べたところ「オオハリアリ」で,刺されると時にアナフィラキシーを起こすことがわかった.このアリも南方系のアリのようだ.adult T-cell leukemia/lymphoma(ATLL)に地域性があることは有名だが,県内の日本海側にある病院に勤務していた頃,人口の割には多くのATLL患者を経験した.山形県内でも庄内地区には多いようだ.日本海側で海水浴シーズンによくみられる「バンダイムシ」と呼ばれるキタカギノテクラゲ刺症.重症では全身が痛くなり,モルヒネが必要な場合もある.海沿いの先生方にはありふれた疾患だが,内陸ではめったに診ることはない.専門医試験の山の1つであるVibrio vulnificus感染症による壊死性筋膜炎.これは試験勉強をしたときに初めて知った名前だった.西日本に多い疾患だが,このまま山形で皮膚科医を続けていて診断する機会は来るのだろうか?

 研修医時代,恩師に「皮膚科医は皮膚に出た症状は全部診断をつけられないといけない」と言われたことがある.TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)で関税撤廃が叫ばれる折,皮膚疾患の地域差撤廃の波に負けずに,正確な診療ができるようこれからも精進したいと思う.

都会の皮膚科医になって

著者: 阿部名美子

ページ範囲:P.75 - P.75

 私は川崎医科大学を卒業後,岡山大学皮膚科の医局に入局し,そのまま大学院生となった.大学病院での研修,その後の市中病院での勤務は非常に充実していたが,周辺環境はのどかないわゆる田舎であった.特に市中病院時代は,病院周囲を見回すと病院より高い建築物はなく,夜,アパートの窓からは赤色点滅信号しか見えない,夏になると毎週のようにマムシ咬傷の患者が入院する,といった具合であった.

 それが,結婚を契機に上京することになり,西新宿高層ビル群の中の大学病院で勤務することとなった.病院(18階建て)は,周囲のビルのなかでは最も低い部類であり,夜もネオンが明るく,まさに都心である.ちょっとどきどきしながら働きはじめ,まず衝撃を受けたのが疾患の多彩さ,特にSTDの多さであった.勤務初日,見覚えのない皮膚症状の患者さんに頭を悩ませていたところ,偶然通りかかった同僚に「あ,梅毒疹ね」と一目で診断され,「念のためHIVも検査したほうがいいよ」と言われたのは衝撃であった.恥ずかしながら教科書でしか見たことがなかった梅毒疹(実はそういう先生は多いはず!)を毎週のように見ることになるとは当初は思いもしなかった.男性の肛門内にできる尖圭コンジロームを当然のように肛門鏡を使用しながら処置する驚き(性の多様性を含め)も,医局の症例カンファレンスでKaposi肉腫を見たときに,「これは学会発表になるだろうな」などと考えながら聞いていたら,誰も興味を示さずさらっと流れていった驚きも,勤務4年目の今なら納得の頻度なのである.

薬とアレルギー

著者: 小豆澤宏明

ページ範囲:P.91 - P.91

 皮膚科医は,薬疹について他科の医師から依頼を受けることが多々ありますが,初めて診察する患者さんでは,皮疹から薬疹の臨床型を診断できたとしても,投与されているどの原因薬剤によって起こっているのかを突き止めるのが容易でないことがあります.薬疹には多くの臨床型があり,原因薬剤によって,頻度の多い薬疹の臨床型がありますが,医薬品の添付文書にStevens-Johnson症候群(頻度不明)などと書かれている薬剤は山ほどあるわけで,抗てんかん薬のように比較的重症薬疹の頻度が多い薬剤など,ある程度「あたり」をつけて,中断すべき被疑薬を絞り込むこともあります.しかも,毎年新規の薬剤が発売となって,その薬剤が起こす薬疹の臨床型まで,薬疹患者さんが受診される以前に情報として知っておかなければ,薬疹かどうかもわからず見過ごすことさえ起こりえます.

 話は変わりますが,テレビによく登場されている「さかなクン」は約5,000種(「ギョせんしゅ」と発音されていますが)の魚の知識が頭に入っているらしいです.彼の魚への思い入れにはいつも感心させられますが,それぞれの魚の名前の由来,うろこやひれの数など細部にわたりできるだけ正確に把握し,絵に描いているそうです.教科書を見ると,皮膚科学という豊富な知識を必要とする臨床医学のなかでは,薬疹という疾患にそれほど多くのページ数を割り当てられていませんが,福田英三先生の「薬疹情報」やD. E. R. M.(Drug Eruptions & Reactions Manual, informa healthcare)にまとめられているように「ギョギョ」とするほど膨大な情報量が,論文や学会発表として集積されているわけで,それらの情報のひとつひとつを,魚のうろこを数えるように丁寧に分析していくことは重要に思えます.

医局長のつぶやき

著者: 鎌田憲明

ページ範囲:P.96 - P.96

 医局長になって9年目を迎える.

 知り合いの先生からは「よく続けているね」と同情されるが,別にやりたくて続けているのではない.また,「代われる人はいないの」とも訊かれるが,代わりの人がいないわけでもない.ただ,中堅医師が次々と辞めてしまうため,お互いに現在の仕事を後輩に引き継ぎすることができないだけのことである.

もし医局長が〈もしドラ〉を読んだら

著者: 高原正和

ページ範囲:P.103 - P.103

 一般的な表現かどうかは定かではありませんが,医局長,病棟医長,外来医長は三役と言われることがあるようです.いわゆる中間管理職です.諸事情も相まって,当科では5年前からT先生とN先生と私の3人でこの三役を担当し,2年ずつ順繰りで交替しています.私の場合はまず病棟医長,外来医長に就き,それぞれで診療+αの大変貴重な経験ができました.既定路線で2011年度からは医局長を任命されましたが,雑用の多さもさることながら,人事業務の重み付けが強く,はたして私に勤まるのか不安な春でした.ちょうどその頃,新幹線異動中に読もうと駅の書店で手に取ったのが,当時まだ流行っていた『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』,略称〈もしドラ〉です.一応,経営学の本に分類されているようです.ドラッカーの原書は読んでいませんので,いわゆる孫引きですが,管理やサポート業務という点では,医局長も野球部のマネージャーも似たようなところがあるように思いました.どちらも本当の“manager”ではないところが味噌です.そのなかでスポッと心の中にはまったのが,〈顧客を定義することの重要性〉と〈マネージャーの資質とは〉という2点について書かれてあったことでした.皮膚科医にとって,あるいは大学病院にとっての顧客はどのような患者なのか,また医局長にとっては医局員もある意味顧客なのだと考えるきっかけになりました.その上でマーケティング,イノベーションの重要性を説かれました.また,マネージャーにおける資質の究極は〈真摯さ〉である,という指摘が気に入りました.原点回帰を促されるとともに,むしろ良い意味で開き直ることができたと思っています.

 さて,2012年度も医局長を継続することが先日決定しました.これで三役を2年ずつ一巡りしたことになります.少しでもましな〈マネージャー〉になるべく真摯に取り組む所存です.

病棟医長をやって思うこと

著者: 藤井紀和

ページ範囲:P.109 - P.109

 病棟医長の任を拝命して,早いもので3年になります.私自身,これまで4人の病棟医長のもとで仕事をしてきましたが,「これらの先生方と比べて,自分はきちんと病棟を運営できているのだろうか?」と,不安に思うことがあります.今のところ,大きな問題なく過ごせているのは医局員の皆さん,ならびに看護師さんを含めたすべてのスタッフのおかげであると思っています.

 当科での入院患者受け持ちは,指導医(専門医クラス)と3,4年目の医師の2人体制です.そして,研修医の先生がローテートで皮膚科に来た場合は3人目として患者を受け持っています.この組み合わせを考えるのが私の仕事の1つで,頭を悩ませることが多々あります.どこの医局でも同じとは思うのですが,女性医師,特に小さな子供さんがいる先生の場合は悩みます.自己免疫性水疱症や熱傷など処置や手間がかかる患者,ターミナルの患者は,どうしても独身男性にしわ寄せが来る傾向になります.いつ男性陣から不満が出るか,心配なこともありますが,幸い今のところはそのような状況にはなっていません(感謝しております).

皮膚科病名をコメディカルと共有する難しさ

著者: 石崎純子

ページ範囲:P.114 - P.114

 皮膚科病名は難しい.まず学生時代,皮膚科講義で見たこともない漢字に出会う.入局後,長い病名の多いことに驚く.先輩の先生がそれらをスラスラといい,カルテに記載していることに敬意の念をいだく.自分もそのようになりたいと思い,だんだんと病名のボキャブラリーが増えることに喜びを感じる.多かれ少なかれ同様の経験をお持ちでしょう.

 院内の褥瘡対策に関わっている.褥瘡回診で診ていると肛門仙骨部皮膚アミロイドーシスにしばしば遭遇する.若い頃この病名をかまずに言えるようになり嬉しかったことを思い出しながら,病棟や褥瘡チームのコメディカルに説明する.皆の顔から「?」の表情がみてとれる.そこで今度は,臀部角化性苔癬化皮膚ともいわれる年齢的な変化であると言い添える.この病名は皮膚科医が聞けば,臨床像が脳裏に映し出されるほど明確なネーミングである.しかしながらコメディカルの「?」は増している.

垣間見た米国の医療事情

著者: 下村裕

ページ範囲:P.114 - P.114

 米国コロンビア大学に留学した際,子供たちを帯同したこともあり,外用剤などを少し多めに引っ越し荷物に入れておいた.それはもちろん家族の役に立ったが,私が皮膚科医だと知られると,ちょっとした皮膚疾患を相談されることも珍しくなかった.留学経験のある医師ならどなたでも経験のあることだと思うが,特に皮膚疾患は,特別な診察器具がいらない(と思われている)ことも多いため,「こんなのができてるんだけど」と相談されやすい分野であろう.

 相談されたのが湿疹・皮膚炎であった場合は,持ち込んだ外用剤を渡すととても喜んでもらえた.しかし,さすがにすべての皮膚疾患を治療できるほどの品揃えではなかったため,ラボの中国人技官が帯状疱疹になった際には,とにかく今日中に皮膚科に行かなきゃ駄目と説得して,マンハッタンのチャイナタウンにある皮膚科医院に連れて行ったところ,お礼にこの世のものとは思えないほどおいしい春巻きを作ってもらった.

The Adventure of the Lion's Mane

著者: 神人正寿

ページ範囲:P.127 - P.127

 (軽いネタバレを含んでいますので推理小説好きの人はご注意を)ご存じの通りシャーロック・ホームズの趣味の1つに,その優れた観察眼で初対面の人の些細な仕草から出身地や職業を正確に言い当てる,というものがある.例えば,ワトスン博士と初めて出会って握手した際,そのぎこちなさと顔の日焼けと手首の白さなどからアフガニスタンで軍医をしていたことを見事に推理して彼を驚かせている.一方,口の周りのかぶれを診てマンゴーを食べたことを言い当てたり,皮膚筋炎を診て胃癌を見つけて患者さんを驚かせるのは皮膚科医の醍醐味の1つであり,名皮膚科医は時に名探偵にたとえられる.私もミステリーが好きで(少なくとも英語の論文よりは)熱心に読んでいるが,残念ながら漫然と読んでいても臨床力が上がるわけではないらしい.カンファレンスではワトスンやレストレイド警部のようにまとはずれの診断を繰り返し,同僚の名推理を引き立てるばかりの毎日である.

 ちなみに,皮膚病がストーリーにからむミステリーというと『砂の器』をはじめとして『白面の兵士』・『虚無への供物』・『悪魔の手毬唄』や『アトポス』が思い浮かぶ.しかし,皮疹がトリックや謎解きの重要な鍵となるミステリーとなると寡聞にして標題の作品ぐらいしか聞いたことがない.実を言うと,「皮膚描記症のダイイング・メッセージ的な使い方」とか「毒物を注射する際に,アトピーで掻破したところに刺入したためばれなかった」などのアイデアを数年温めている.著作権を放棄しますので,どなたかに名作に仕立て上げていただきたいものである.

はじめての一人旅

著者: 中島喜美子

ページ範囲:P.139 - P.139

 その年は論文のreviseの実験に大半の時間を費やし過ごしていた.外来診察を終えるとマウスの所へ直行.この生活を続けていたらいつか折れるかもしれないと感じていた.その頃,留学の二文字を耳にすることがあり最初は縁のないことと思ったが,研究歴の浅い私が一度じっくり研究に取り組むのも悪くないかも…,と思い始めた.上司に相談すると答えはいつもと同じ.「自分の人生は自分で決めなさい.好きなラボを探してどこにでも行ってよろしい」とおっしゃっていただいた.広いアメリカ大陸の地図を眺めながら,どこかに私を受け入れてくれるラボがあるだろうか,と思った.

 年が明けて論文がアクセプトされた.ReviewersからやっとOKが出たのかと思うとへなへなと座り込んでしまった.その論文の内容に関与するいくつかのラボに手紙を書いてみると返事が届き,最初は扉が開いたことがただ嬉しかったが,書類を眺めていても何も決められない.アメリカへ行ってみようと思い立ち切符をとった.私の英語力はわかること,話せることもある程度のもので不安だったが,言葉が通じなくてもわかることがあるだろう,と開き直ることにした.

ローテート研修後の先生方へ

著者: 杉浦一充

ページ範囲:P.154 - P.154

 とかく評判のよくない非入局ローテート研修であるが,私の卒業大学では従来よりローテート研修であった.オーベンもウンテンも非入局ローテートが当然と考えている,全国的には稀有な大学病院で働いている.膠原病を専門としているので,研修医時代に少しでも内科をはじめとして他科を回ったことはプラスに働いている.

 研修医時代に印象に残っている言葉がある.卒後6年目の小児科医であった,O先生の言葉である.研修先の病院は小児科も充実しており,素晴らしい先生がたくさんおられた.その中でもO先生は人望も厚く,何でも知っている小児科医だった.小児科にローテート研修したおり,どうして先生はそんなになんでもご存知なのですか? と尋ねたところ,「患者さんに尋ねられてわからないことがあったら,次は絶対に答えられるようにしておく.心がけているのはただそれだけ」と,さらっと答えられた.翻って,その言葉を胸に,自分はいつも実行しているとは言えないのが情けないところではあるが,臨床は日々の積み重ねであることを身近な先輩から教えていただくことができた.

この道を行けばどうなるものか

著者: 夏秋洋平

ページ範囲:P.157 - P.157

 ある人は言いました.

 迷わず行けよ,行けばわかるさ.

医学生のキャリア教育

著者: 蓮沼直子

ページ範囲:P.173 - P.173

 現在,秋田大学では必修カリキュラムの中で1年生から初年次ゼミとしてキャリア教育を行っています.3年生でも丸1日使い男女共同参画講義を行います.多くの院内外のロールモデルの話を聞いたり,実際に起こりうるリアルな問題を取り上げたシナリオを読み,どう解決していくのかグループディスカッションを行い,発表します.

 昔は医師になろうという明確な目的を持たずに医学部に入っても,先輩たちの背中を見ながらそれなりに医師として成長していくことができたかもしれません.しかし,最近は医師になるモチベーションをうまく持つことができずに,高学年になった医学生が実際に臨床実習で患者さんと触れ合った際にうまく将来像を描けずに悩んでしまうという話も聞きます.また,女性医師もたくさんの選択肢があるために,悩みが増えるということもあるかもしれません.医療というのは答え合わせができない問いに一生答え続けるという結構しんどい仕事です.明確な正解のない問いに自分なりの答えを出していく,答えが違っていそうなら修正しながら進んでいくという訓練はさまざまな場面で必要だと思います.

医師の幸せ

著者: 尾藤利憲

ページ範囲:P.180 - P.180

 年齢を重ね,若手を指導する立場になった今,若手医師たちに何を教えたら,どういった指導を行えばよいのか迷うときがある.「最近の若者は変わった,昔は云々」という文言は,どの時代でも言われることだが,それでも言いたい.近頃の若手は変わったのである.良いほうか悪いほうかはプラスマイナスいろいろとあるが,突き詰めれば幸せの価値観が多様化したのだと思う.社会が豊かになり,それを幼い頃から享受して育ってきた世代は当然価値観も変わっている.そういった世代はどのような医師を目指すのか? 彼ら彼女たちにとって医師としての幸せとは何なのかと時々思う.地位や名誉,お金など,単純明快ではなさそうである.むしろ貪欲さはあまりないようにみえる.仕事の面で言えることは,自分がやりたいこと(興味あること)とそうでないことが非常にはっきりしていてこちらの提案にすんなりと乗ってきてくれない.医師という仕事以外に喜びや楽しみを見いだしているのかもしれない.実はそういう自分も職業は食べる術であり,それ以外に楽しみがあると思っていた時期もあった.皮膚科医となり,臨床,研究,留学などひと通り経験し,その間も決して仕事ばかりの人生であったわけではないが,ある頃から気づき確信した.医師の仕事以上に自分を奮い立たせることはなく,医師であることが最も幸せだと.もちろん,今も仕事以外の楽しみはたくさんあるが,仕事があるからこそだ.そういう思いが若手に伝わればよいと漠然と熱意だけを示した頃もあったが,どんなふうに幸せで,どのようにすればそれを感じられるかを具体的に示さないとわかってもらえない.臨床とはいかに奥深く,未知なるものを探求することはいかに素晴らしいかを伝えねばならないのである.そして自分自身がそれを楽しんでいなければ伝わらない.結局は医師である幸せに気づいてもらいたいのである.一人では良い医療や研究はできない.良い医師を育てることも医師の幸せにとって大切な仕事だとつくづく思う.

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欧文目次

ページ範囲:P.4 - P.5

投稿規定

ページ範囲:P.182 - P.183

あとがき

著者: 岩月啓氏

ページ範囲:P.184 - P.184

 臨床皮膚科増刊号編集のコンセプトは,これ一冊にその年の皮膚科学の流れや,トピックスを取り上げ,読者にわかりやすいようにその道の専門家が読み解く企画と考えています.

 最近新たな病原体,遺伝子異常,分子標的薬,生活・環境の変化によって,従来の疾患概念では説明が難しい皮膚症状を体験する機会が増えました.2011年には非定型的な手足口病が流行しました.既知の手足口病とは比較にならないほどに皮膚粘膜症状が重症で,爪剝脱が生じ,成人例も多くみられました.既知の疾患概念では重症型多形紅斑,Stevens-Johnson症候群に類似した病型でした.また,Buruli潰瘍の本邦例が集積され,その病態とともに診断的検査と治療指針が明らかになってきました.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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