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Derm.2012
医師の幸せ
著者: 尾藤利憲1
所属機関: 1神戸大学医学部附属病院皮膚科
ページ範囲:P.180 - P.180
文献購入ページに移動 年齢を重ね,若手を指導する立場になった今,若手医師たちに何を教えたら,どういった指導を行えばよいのか迷うときがある.「最近の若者は変わった,昔は云々」という文言は,どの時代でも言われることだが,それでも言いたい.近頃の若手は変わったのである.良いほうか悪いほうかはプラスマイナスいろいろとあるが,突き詰めれば幸せの価値観が多様化したのだと思う.社会が豊かになり,それを幼い頃から享受して育ってきた世代は当然価値観も変わっている.そういった世代はどのような医師を目指すのか? 彼ら彼女たちにとって医師としての幸せとは何なのかと時々思う.地位や名誉,お金など,単純明快ではなさそうである.むしろ貪欲さはあまりないようにみえる.仕事の面で言えることは,自分がやりたいこと(興味あること)とそうでないことが非常にはっきりしていてこちらの提案にすんなりと乗ってきてくれない.医師という仕事以外に喜びや楽しみを見いだしているのかもしれない.実はそういう自分も職業は食べる術であり,それ以外に楽しみがあると思っていた時期もあった.皮膚科医となり,臨床,研究,留学などひと通り経験し,その間も決して仕事ばかりの人生であったわけではないが,ある頃から気づき確信した.医師の仕事以上に自分を奮い立たせることはなく,医師であることが最も幸せだと.もちろん,今も仕事以外の楽しみはたくさんあるが,仕事があるからこそだ.そういう思いが若手に伝わればよいと漠然と熱意だけを示した頃もあったが,どんなふうに幸せで,どのようにすればそれを感じられるかを具体的に示さないとわかってもらえない.臨床とはいかに奥深く,未知なるものを探求することはいかに素晴らしいかを伝えねばならないのである.そして自分自身がそれを楽しんでいなければ伝わらない.結局は医師である幸せに気づいてもらいたいのである.一人では良い医療や研究はできない.良い医師を育てることも医師の幸せにとって大切な仕事だとつくづく思う.
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