icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科66巻9号

2012年08月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・60

Q考えられる疾患は何か?

著者: 中西健史

ページ範囲:P.659 - P.660

症例

患 者:75歳,女性

初 診:2000年9月

主 訴:体幹,大腿の無症候性皮疹

既往歴:HCV carrier

家族歴:特記すべきことはない.

現病歴:2000年春頃より体幹,大腿の無症候性皮疹に気付き,近医に通院し黄連解毒湯内服,クロタミトン軟膏を外用していたが,次第に悪化するため内科より紹介された.

現 症:胸腹部,肩,大腿に,直径2~3mm大の無症候性赤褐色扁平丘疹が散在し,一部集簇していた.個疹は若干浸潤を触れ,多くは毛孔に不一致であった(図1).

今月の症例

血疱,紫斑を伴った特異な蜂窩織炎の臨床を呈したShewanella algae菌血症の1例―生魚経口摂取が原因と考えられた1例

著者: 宗次太吉 ,   箭原弘典 ,   大久保佳子 ,   高河慎介 ,   沢田泰之

ページ範囲:P.662 - P.665

要約 76歳,女性.膵癌の手術歴あり.にぎり寿司を食べた2日後に左下腿の腫脹と疼痛が出現し徐々に拡大した.受診時,左下肢全体の強い腫脹と,下腿に紫斑や血疱を混じるびまん性の暗赤色斑を認めた.当初,Vibrio vulnificusによる壊死性筋膜炎も疑ったが,CT所見と全身状態より蜂窩織炎と診断し,抗生剤投与にて略治した.起炎菌は自動分析機によりShewanella putrefaciensと報告されたが,後に16S rRNA解析により起炎菌をShewanella algaeと同定した.経口感染による菌血症をきたし,局所では敗血症疹を合併し血疱,紫斑の形態を呈したため特異な臨床症状を呈したと考えた.S. algaeは海洋環境に分布し,経口および経皮感染を起こす.肝胆道系疾患や悪性腫瘍の合併があると重症化する症例があり,海水への曝露や生の魚介類摂取後に皮膚軟部組織感染症を起こした場合は,Shewanella感染症を鑑別に考える必要がある.

症例報告

色素失調症の1例

著者: 篠原綾 ,   良田陽子 ,   秋山創 ,   香田翼 ,   上田雅章 ,   吉田真策

ページ範囲:P.667 - P.670

要約 日齢12日,女児.出生数時間後より四肢,体幹の紅斑,水疱が出現した.当初皮膚感染症が疑われ,抗生剤を投与されたが,症状は改善しなかった.当科初診時,四肢,体幹のBlaschko線に沿って紅斑を認め,紅斑上には無数の水疱および膿疱が列序性に集簇して存在していた.特徴的な皮膚症状を呈していたことから色素失調症を疑い,病理組織学的検査で,表皮内に多数の好酸球を伴う水疱を認めたため,色素失調症と診断した.全身検索を行ったが,明らかな合併症は認められなかった.その後,外用処置のみで水疱は自然に消退し,現在はわずかに色素沈着を認めるのみである.色素失調症が疑われる患者への皮膚科医の早期介入は,不要な治療を防ぎ,迅速な合併症の検索および治療に繋がることから有益であると考えた.

ラモトリギンによるStevens-Johnson症候群の1例

著者: 東前和奈 ,   道上幹子 ,   伊東詩織 ,   工藤比等志

ページ範囲:P.671 - P.675

要約 58歳,男性.間代性てんかんのためバルプロ酸ナトリウム(デパケン®,以下バルプロ酸)内服中,てんかん発作のためにラモトリギン(ラミクタール®)を追加された.約2週間後に発熱と発疹が出現し,皮膚および口腔内にびらんも生じた.経過からラモトリギンによるStevens-Johnson症候群と考えラモトリギンを中止した.また,バルプロ酸がラモトリギンの血中半減期を延長させることが判明したため,バルプロ酸を中止し,ラモトリギンの血中半減期を短縮させるフェニトイン(アレビアチン®)に変更した.ステロイドパルス,免疫グロブリン投与等により,症状は改善した.ラモトリギンによる薬疹に対処する際には,その代謝における特性を踏まえる必要があると考えた.

シクロホスファミドにより多発性固定薬疹様の表皮障害をきたした1例

著者: 小田富美子 ,   藤山幹子 ,   徳丸晶 ,   村上信司 ,   木谷彰岐 ,   橋本公二 ,   佐山浩二

ページ範囲:P.677 - P.681

要約 53歳,女性.VAC療法(硫酸ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホスファミド)の7日後より口腔内びらん,翌日より40℃以上の高熱と耳介,左肘に表皮剝離が出現した.半年後のVAC療法でも5日目より口腔内びらんが出現し,拡大した.その後,40℃以上の発熱と,前回VAC療法施行時と同部位に表皮剝離が出現した.コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム1,000mg/日の3日間投与,その後プレドニゾロン内服により軽快した.第21病日の薬剤リンパ球刺激試験は,シクロホスファミドのみ陽性であった.臨床像は多発性固定薬疹様であったが,薬剤投与後発症までの期間が長いこと,荷重部を中心に皮疹を認めたこと,病理組織学的に表皮ケラチノサイトの変性壊死を認めない基底細胞の液状変性が主体であったことよりシクロホスファミドによる表皮障害と考えた.

インフリキシマブによる薬剤性肺炎の合併が疑われた関節症性乾癬の1例

著者: 大橋理加 ,   楠葉展大 ,   辻岡馨 ,   中川淳 ,   古田健二郎 ,   百名克文

ページ範囲:P.682 - P.686

要約 56歳,女性.2年来の臀部を中心とする落屑性紅斑,その後出現した手指の関節変形,関節痛より,関節症性乾癬と診断した.スクリーニング諸検査で問題なく,インフリキシマブの投与を開始したところ,皮膚症状,関節症状ともに著明に改善した.しかし,5回目投与後より咳嗽が出現し,胸部CTにて気管支血管束の肥厚を伴う両肺びまん性陰影を認めた.気管支鏡検査を施行したが,細菌学的,病理組織学的に有意な所見が得られず,クオンティフェロンテスト陰性であったことから結核を含めた感染症は否定的と考えた.本剤を中止したところ自覚症状が徐々に消失し,その後,画像所見の改善も認めたことから,本剤による薬剤性肺炎であったと考えた.なお中止後,皮膚症状,関節症状ともに再燃した.インフリキシマブによる肺障害は,乾癬患者においてはまだあまり報告がないが,呼吸器症状の鑑別診断において注目するべき副作用の1つである.

亀頭部に生じた壊疽性膿皮症の1例

著者: 佐藤英 ,   安田聖人 ,   金森祐太 ,   徳力篤 ,   清原隆宏 ,   熊切正信

ページ範囲:P.687 - P.690

要約 64歳,男性.既往歴にはB型肝炎がある.初診の約16か月前に屋外で転倒し,包皮部を裂傷し当院泌尿器科で保存的に加療された.初診の約2か月前に,亀頭部から出血したため,潰瘍部とその周囲の瘢痕組織の環状切除術が施行された.術後,創部から排膿を繰り返し治癒しないため当科へ紹介された.初診時,亀頭部に排膿を伴う穿掘性潰瘍があり,一部に尿道瘻を認めた.生検したところ,真皮内に主に好中球から構成される境界明瞭な膿瘍があった.膿瘍周囲には類上皮細胞肉芽腫がみられた.特殊染色と培養検査は陰性であった.壊疽性膿皮症と診断し,ステロイドの全身投与を行った.ステロイド治療開始10か月後,尿道瘻や瘢痕による変形は残存するものの,潰瘍部は上皮化した.陰茎部の壊疽性膿皮症は著明な浮腫や腫脹を生じるため,診断が難しく注意が必要である.

高齢者の急性型成人T細胞性白血病/リンパ腫の1例

著者: 臼田佳世 ,   神戸有希

ページ範囲:P.691 - P.694

要約 92歳,女性.1か月前より全身に掻痒のある小淡紅色斑が多発し受診.末梢血中に核に切れ込みを持つリンパ球が出現していた.抗HTLV-1抗体陽性で,末梢血のサザンブロット解析にてHTLV-1プロウイルスのモノクローナルな組み込みを認め,超高齢者における成人T細胞性白血病/リンパ腫(adult T cell leukemia/lymphoma:ATL/L)と診断した.ATL/LはHTLV-1の感染が原因であり,その感染経路として母乳感染が最も多いとされているが,自験例においては人工栄養保育で生育しており,その他の感染経路の可能性があった.また,92歳という高齢で発症した原因としても水平感染の可能性が考えられたので文献的考察を加え報告する.

インフリキシマブが奏効した多中心性細網組織球症の1例

著者: 福井眺万 ,   南満芳 ,   水木伸一

ページ範囲:P.695 - P.700

要約 44歳,男性.初診の2か月前より両手指背,右耳介に自覚症状のない紅色小結節が出現し,徐々に増加した.顔面にも同様の小結節が出現し,肩,膝の関節痛や手指のこわばりも自覚するようになったため当科を受診した.初診時両耳介と前額,内眼角,頰にかけて左右対称性に米粒大前後の紅色小結節が多発し,指背でも同様の硬い小結節を認めた.皮膚生検では真皮内にスリガラス様・好酸性の細胞質を持つ組織球様細胞および多核巨細胞が増殖しており,多中心性細網組織球症と診断した.メトトレキサート10mg/週,プレドニゾロン15mg/日,アレンドロネート35mg/週投与で効果がなかったため,インフリキシマブ3mg/kgの投与を開始した.初回投与後2週目,6週目に,以降は8週ごとに投与を行った結果,皮疹,関節炎ともに改善した.既存の治療で効果不十分な症例に対して抗TNF-α製剤が有用である可能性が考えられた.

胃癌と大腸癌を合併した抗155/140kDa蛋白抗体陽性の皮膚筋炎の1例

著者: 佐藤美聡 ,   栗原佑一 ,   西尾有紀子 ,   宮川俊一 ,   濱口儒人 ,   藤本学

ページ範囲:P.701 - P.705

要約 64歳,男性.2008年頃より顔面の紅斑を認め,その2年後,四肢,体幹に掻痒の強い紅斑が急激に出現した.ヘリオトロープ疹,爪囲紅斑,爪上皮出血点,Gottron徴候,背部の掻痒の強い線状紅斑を認めた.筋原性酵素が軽度上昇していたが,筋力低下などの筋症状はなかった.皮膚筋炎と診断し,全身検索を行ったところ,胃癌,大腸癌の重複癌を認め,所属リンパ節郭清を含めた胃全摘術および脾摘術・横行結腸部分切除術を施行した.皮膚症状は,術後1か月にはほぼ色素沈着となった.免疫沈降法で,悪性腫瘍合併皮膚筋炎に高頻度に検出される,抗155/140kDa蛋白抗体が陽性であった.抗155/140kDa蛋白抗体陽性の重複癌合併皮膚筋炎は,調べえた限り本邦で初めてである.

陰囊に発生した基底細胞癌

著者: 土井恵美 ,   伊藤史朗 ,   尾市誠 ,   半田芳浩

ページ範囲:P.707 - P.710

要約 87歳,男性.2~3か月ほど前に近医で陰囊の腫瘍を指摘された.初診時,陰囊左側に中央に常~紅色丘疹および潰瘍を伴う45×40mmの黒褐色結節,さらに下部に黒褐色点状の衛星病変を認めた.臨床型は結節潰瘍型,組織型は充実型の基底細胞癌と診断し,局所麻酔下にて,腫瘍辺縁から5mm離して肉様膜上で切除した.文献的考察から陰囊部基底細胞癌は,基底細胞癌全体の集計と比較して腫瘍径が大きく,全例が高リスク症例であったため,初回の確実な切除が重要である.切除後の再発例は21例中1例にみられ,転移例はなかった.しかし海外では,陰囊部基底細胞癌は転移率が高いとの報告もあるため,転移の検索も必要であると考えた.

ネオアジュバント療法が奏効した多発リンパ節転移を伴った臀部Merkel細胞癌の1例

著者: 森志朋 ,   櫻井英一 ,   前田文彦 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英 ,   川崎雄一郎

ページ範囲:P.711 - P.716

要約 72歳,男性.初診の約2か月前より右鼠径部の腫脹を自覚し近医を受診しCTを施行された.右内腸骨リンパ節腫脹があり外科に紹介された.リンパ節生検でMerkel細胞癌が疑われ当科を紹介受診した.臀部に皮下腫瘤があり,病理組織像は小型の異型な円形細胞からなり,免疫染色所見でサイトケラチン20,NSE,クロモグラニンAが陽性で,電顕所見でdense core granuleを有する分泌顆粒を認めMerkel細胞癌と診断した.PET-CTで両肺門集積,左総腸骨動脈分岐部,右鼠径・外腸骨動静脈周囲にリンパ節腫大があり広範なリンパ節郭清は困難と判断し,腫瘤切除とネオアジュバント療法としてシクロホスファミド・硫酸ビンクリスチン・塩酸ドキソルビシンによる多剤化学療法(CAV療法)を施行したところ,リンパ節はすべて縮小した.その後,鼠径リンパ節郭清術と放射線化学療法を施行した.さらにCAV療法を9クール行い,再発,転移なく経過している.自験例のように初診時既に原発巣の切除やリンパ節郭清術が困難な症例に対しては,ネオアジュバント療法および放射線療法,化学療法がきわめて有効であると思われる.

足背の熱傷後に生じたtoxic shock syndromeの1例

著者: 崎山とも ,   笠井弘子 ,   木花光

ページ範囲:P.717 - P.721

要約 45歳,男性.左足背に熱湯で真皮深層までの手拳大の熱傷を受けた.その後数日で発熱,下痢,嘔吐,全身の多発融合性紅斑,血圧低下が出現した.血液検査でWBC 15,900/μl,CRP 28.63mg/dl.AST 77IU/l,ALT 35IU/l,BUN 81mg/dl,Cr 4.82mg/dlと肝腎機能障害,CK 4,549IU/lと上昇,Plt 4.2×104/μlとDICも認めた.Toxic shock syndrome(TSS)を疑いピペラシリンナトリウム4g/日,補液を開始.免疫グロブリン5g/日,ガベキサートメシル酸塩2g/日も3日間投与した.抗生剤は第6病日より塩酸バンコマイシン1g/日とメロペネム三水和物1g/日へ変更した.治癒期には掌蹠に膜様落屑を認め,熱傷部培養からはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出された.感染徴候も軽度の比較的小範囲の熱傷が原因であった.多臓器不全を伴うびまん性の潮紅を見たときには,軽微な感染巣の場合でも鑑別としてTSSを疑う必要がある.熱傷患者に対する予防的な抗生剤投与がTSSの発症リスクを下げる可能性はある.一方で耐性菌を不必要に増やす危険もあり,TSSの発症頻度が低い中高年については,予防投与について十分に検討する必要がある.

吸収不良症候群による低栄養状態においてみられた皮膚症状

著者: 吉成康 ,   小林亮 ,   井村満男

ページ範囲:P.723 - P.727

要約 50歳,女性.初診の約5年前,胃癌に対し膵頭十二指腸切除術を施行された.その後の定期検査にて脂肪肝および膵臓の石灰化を指摘されていた.約3か月前から体重減少と下肢の浮腫が出現し,さらに両下肢に境界明瞭な疼痛を伴う紅斑がみられたため,当科を受診した.ステロイド外用剤では改善せず,皮疹はさらに悪化して,背部,臀部に環状~地図状の落屑を有する紅斑が出現し,壊死性遊走性紅斑様の皮疹となった.摂食状況は良好で栄養状態は良いと考えていたが,血液検査では血清亜鉛値34μg/dl(正常値:59~135),プレアルブミン5mg/dl(22~40)と低下していた.またPFD試験37.4%(73.4~90.4),1日尿中CPR 1.7μg/日(23~155)であったことから,非代償期の慢性膵炎による吸収不良症候群と糖尿病と診断した.胃や十二指腸の手術後では,慢性膵炎から吸収不良症候群を合併し,栄養障害に起因した多彩な皮膚症状を呈することがある.

Streptococcus dysgalactiaeによるtoxic shock-like syndromeの1例

著者: 金林純子 ,   雨宮隆介 ,   代永和秀 ,   神田明浩 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.729 - P.732

要約 92歳,女性.左下腿蜂窩織炎,敗血症性ショックの診断で入院した.昇圧剤,抗生剤,γグロブリン製剤による治療に反応せず,皮疹は両下肢に及んだ.静脈血より検出されたG群連鎖球菌であるStreptococcus dysgalactiae ssp. equisimilisに対して感受性の高い抗生剤を投与したが,壊死性筋膜炎と呼吸不全のため第11病日に死亡した.病原性に関連するM蛋白の遺伝子emmは,stG 652であった.近年,toxic shock-like syndromeはA群連鎖球菌だけでなく,従来病原性が低いとされてきたG群連鎖球菌による報告も散見され,われわれの患者もそうした症例に含まれる.突発的な敗血症状態を伴う軟部組織炎に遭遇した場合,本疾患を念頭に置いた迅速な診断・治療とともに,菌株同定のための各種検体採取が求められる.

病理学的にspindle cell tumorとの鑑別を要した皮膚Mycobacterium intracellulare感染症の1例

著者: 瀧玲子 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.733 - P.736

要約 症例,50歳台,女性.左前腕部の皮下腫瘍を主訴に当科を受診した.全身性エリテマトーデスに対しステロイド内服治療中であった.病理組織像はspindle cell tumor様の像であり,腫瘍性病変の鑑別を要したが,一部に巨細胞を認め,Ziehl-Neelsen染色で陽性の菌体を認め,PCRでMycobacterium intratellulareと同定され,抗酸菌感染症と診断した.外科的に皮下病変を全摘出したのち,リファンピシン450mg,エサンブトール塩酸塩750mg,クラリスロマイシン600mgの3剤併用療法を開始した.3か月後に新たな病変を認め再度切除をしたがその後再発なく1年後に抗菌剤内服を終了した.再切除後3年間は再発を認めていない.Spindle cell tumor様の病理組織を呈した場合,特に免疫抑制状態の症例では抗酸菌感染症も考慮する必要があると考えられた.

著明な血小板減少を伴ったマムシ咬傷の1例

著者: 奥沢康太郎 ,   中井章淳 ,   加藤則人 ,   末廣晃宏

ページ範囲:P.737 - P.740

要約 75歳,女性.右第3指を蛇に咬まれた.咬まれた部位の出血が持続し,さらに嘔気・嘔吐が現れたため,受傷から6時間後に当科を受診した.腫脹は右手にとどまっていた.嘔吐物は血性成分に富み,血液検査では血小板数が1.2×104/μlと減少していたが,DICスコアは3点でありDICの診断基準は満たさなかった.受傷から8時間後にマムシ抗毒素血清6,000単位を投与した.投与から2時間後の血液検査において,血小板数は13.2×104/μlまで回復していた.その後,血小板数の減少はみられず,右手の腫脹は軽快し,入院8日目に退院した.近年,マムシ咬傷による局所の腫脹は軽度だが,急速な血小板減少をきたす症例が「血小板減少型」として提唱された.臨床症状からは思いもよらない血小板減少により重症化しやすいため,早期のマムシ抗毒素血清の投与が必要である.血小板数はマムシ抗毒素血清の投与により速やかに回復することが多く自験例でも血小板輸血を要しなかった.

印象記

第111回日本皮膚科学会総会 印象記

著者: 石黒直子

ページ範囲:P.741 - P.744

 第111回日本皮膚科学会総会は,2012年(平成24年)6月1日(金)から3日(日)まで国立京都国際会館で開催された.2年ぶりの開催となった皮膚科学会総会の初日は過ごしやすい穏やかな天候のなかで始まった.折りしも京都では鴨川の納涼床が始まり,これから本格的な暑い夏に向かっていくことを感じさせた.実はこの学会印象記を書くのは今回で二度目となる.例年,次回担当校の事務局長か実行委員長がこれを担当するのが恒例のようだが,第110回総会が中止となり,あらためて第112回を開催させて頂くにあたり,今回二度目の“登板”となった.

 第1日目の午前中,大塚藤男先生(筑波大学教授)による会頭講演で幕が開けた.まず,本総会のテーマである「進化する皮膚科:知と技を磨く」をお示しになり,筑波大学および皮膚科の歴史を話され,ここで大変残念なことであるが上野賢一先生のご逝去(本年4月4日)について触れられた.そして,大塚会頭が着任されてから現在に至るまでの約20年間に教室でなされた多くの研究のなかでも①腫瘍学,②神経皮膚症候群,③角化制御,④光医学の4つの内容について短い時間にコンパクトにご講演された.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.657 - P.657

文献紹介 DRESS患者60例に関する後ろ向き研究

著者: 伊勢美咲

ページ範囲:P.705 - P.705

 DRESS(drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms)は全身症状を伴い重症な経過をたどる薬疹を包括する概念であり,本邦でのDIHS(drug-induced hypersensitivity syndrome)に相当する.原因薬剤開始後,3~8週で起こり,発熱,皮疹,著明な好酸球上昇,リンパ球活性化,多臓器障害を伴う.抗てんかん薬,高尿酸血症治療薬をはじめとした数々の薬剤が原因となる.本研究は台湾のDRESS患者を対象とした後ろ向き研究であり,その臨床的,組織学的特徴と予後を調査し,原因薬剤による差に着目した.1998~2008年にNational Taiwan University Hospitalに入院した患者のうち,特定の診断基準によってDRESSと診断された60例(男性26例,女性34例)を対象とした.原因薬剤はアロプリノール,フェニトイン,ダプソンの順に多かった.平均潜伏期間は20.7日で,皮疹として剥脱性皮膚炎のほか,紫斑や水疱がみられた.肝,腎,肺の合併症が多かった.血液検査でリンパ球の増多や減少,好酸球増多,血小板減少を認めた.組織検査では多形滲出性紅斑に一致する錯角化,空胞変性,リンパ球の表皮内浸潤,真皮内のリンパ球を中心とした炎症細胞浸潤を認めた.治療としてはステロイドの全身投与が主体であった.死亡率は10%で敗血症性ショックが死因の大半を占めていた.汎血球減少が予後不良因子だった.アロプリノールが原因薬剤として最も多かったことの理由として,特定の遺伝子型との関連が疑われた.また,アロプリノールが原因の症例では,慢性腎不全の先行や腎合併症が多いなど,原因薬剤による特徴の差異も明らかとなった.本研究から,DRESSは多種類の薬剤に対する特定の反応を包括した概念であることが示唆され,その疾患概念の曖昧さの解消が今後の課題と考えられた.原因薬剤による特徴や重症度の差に着目することで,さらなる疾患概念の明瞭化が望まれる.

書評 ―編:日本フットケア学会―フットケア 基礎的知識から専門的技術まで 第2版

著者: 館正弘

ページ範囲:P.706 - P.706

 フットケアはスキンケアやネイルケアのみに限定するのではなく,生活習慣病の増加に伴って発生するさまざまな足病変の予防から治療までを網羅する,広範囲かつ多彩な取り組みを包含する.足・下腿に難治性の潰瘍や壊疽を持つために,健康な社会生活を送ることができない患者は増加の一途をたどっているものの,専門施設の数が足りないことも問題点として表面化してきている.早期診断と適切な加療によって大切断を回避できる道筋はできつつあるものの,実態は手遅れの足が医療の谷間でさまよっているのが実情に近い.筆者の科(形成外科)でも,入院患者数の30~40%に上ることがある.

 国内外の学会でlimb salvage(患肢温存)のためのセッションは多く行われているが,課題として浮かび上がってきている事項は,専門施設と地域の医療機関との連携の重要性,および患者教育を含めた医療従事者への教育の必要性である.今現在,日本において医学部の学生・看護学生に救肢についてのテーマで多職種による講義を実施している教育機関はまずないであろう.そうした中,教育に着目して精力的に啓蒙活動を行ってきたのが日本フットケア学会であり,学会が総力を挙げて編集した『フットケア(第2版)』がこのたび上梓された.

お知らせ 第29回日本臨床皮膚科医会総会・臨床学術大会

ページ範囲:P.722 - P.722

テ ー マ 「明日の臨床皮膚科医のために」

会  頭 田中 隆義(タナカ皮膚科)

事務局長 臼田 俊和(社会保険中京病院)

実行委員長 前田 直徳(まえだ皮フ科クリニック)

会  期 2013年4月6日(土)~7日(日)

会  場 ウェスティンナゴヤキャッスル(名古屋市)

     〠451-8551 愛知県名古屋市西区樋の口町3-19

     TEL:052-521-2121/FAX:052-531-3313

お知らせ 第4回日本レックリングハウゼン病学会学術大会

ページ範囲:P.728 - P.728

テ ー マ ―扉をあける―

会  期 2012年11月4日(日) 午前9時50分より

会  頭 倉持 朗(埼玉医科大学皮膚科学教室 教授)

会  場 慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール(〠108-8345 東京都港区三田2-15-45)

次号予告

ページ範囲:P.745 - P.745

投稿規定

ページ範囲:P.746 - P.747

あとがき

著者: 中川秀己

ページ範囲:P.748 - P.748

 医学教育にもグロバリゼーションの波が押し寄せ,見学型・参加型の臨床実習,研究者育成プログラムのさらなる充実・期間延長,卒前・卒後医学教育の一体化,それに伴う医学教育カリキュラムの見直しが迫られており,5年以内には大きな変革がなされるはずである.いずれにしても,豊かな人間性と社会性,倫理観を持った良医を育成していくことが大学に課された義務となっている.

 私は今の大学(慈恵)を入れて教育システムに若干の違いがある3大学で医学教育に携わってきたが,医学生と教官の顔がお互いに見えることの大切さを実感している.その上で特に医学生には早いうちから医師としてのモラルと中立性,努力継続性を理解し,実践できるように育成していかなければならないし,慈恵でもカリキュラムのなかにもモラル教育を充実させている.こうした環境下でも守るべき規則を守る,やってはいけないことはやらないという当たり前のモラルが守れない医学生が少しずつ増えてきているのが現実である.私の学生時代を振り返ってみるとモラルを守らないことがあっても,周りの人たちが学生さんだから大目に見てあげようという温かい気持ちにあふれていた.しかし,現在ではそのような雰囲気もなくなってきているので医学生にとっては受難の時代と言えるかもしれない.学生部長として毎年必ず,違反を犯した学生を呼び出しているが,自分自身の経験から,モラル不遵守がどれほど他人に迷惑を掛け,その結果,悪い反動が自分に必ず跳ね返ってくることを実感できるように注意している.モラルの内容を教えるよりも守らない事例を挙げ,その結果がどのように跳ね返ってくるかを教えることのほうが効率的ではないかと考えている.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?