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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻1号

2013年01月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・65

Q考えられる疾患は何か?

著者: 伊崎誠一

ページ範囲:P.5 - P.6

症例

患 者:67歳,女性,徳島県出身

主 訴:軀幹,四肢の皮疹

家族歴:特記すべき事項なし.

既往歴:胆石(46歳時),甲状腺癌(53歳時)

現病歴:初診の2年前,右大腿部の皮疹に気づいたが,放置していた.他の部にも皮疹が新生,増数,拡大してきた.

現 症:軀幹および四肢に大豆大から手拳大までの紅褐色斑ないし紅斑局面が多発し,一部で融合を示した(図1a,b).腹部および上背部では浸潤を伴い,扁平隆起性を示し,一部鱗屑を付着した.左右鼠径部のリンパ節を数個ずつ触知した.

症例報告

LIPH遺伝子変異を同定したautosomal recessive woolly hair/hypotrichosisの1例

著者: 上田智恵子 ,   牧野輝彦 ,   下村裕 ,   竹上與志昌 ,   松井恒太郎 ,   清水忠道

ページ範囲:P.8 - P.11

要約 9歳,男児.出生時より全頭に細く縮れた毛髪で,毛髪は伸長せず,縮毛,乏毛が継続するため受診した.手掌に軽度の多汗を認めるが,爪,歯には異常はない.精神・運動発達は正常である.両親と妹の毛髪は直毛で,弟2人には縮毛はあるが乏毛はない.Lipase H遺伝子(LIPH)の変異解析にて,246番目のシステインがセリンに変わるミスセンス変異をホモ接合子で認めた.また両親は,それぞれ患者と同じ変異をヘテロ接合子で有していた.以上の結果より,自験例をautosomal recessive woolly hair/hypotrichosisと診断した.自験例でみられた変異は,本邦において報告された同症の家系に高頻度で検出されており,本邦における創始者変異と考えられた.

デュロテップ®パッチによる接触皮膚炎症候群の1例

著者: 薬師寺直喜 ,   藤山幹子 ,   渡部裕子 ,   白方裕司 ,   村上信司 ,   橋本公二 ,   佐山浩二

ページ範囲:P.12 - P.16

要約 60歳,男性.中咽頭癌の癌性疼痛に対し2004年4月よりデュロテップ®パッチ貼付を2.5mg量より開始した.4月下旬より同7.5mgパッチに増量して貼付を継続していたところ,貼付開始後45日目に体幹前面のパッチ貼付部に一致して紅斑が出現した.なお同パッチの貼付を継続していたところ,2日後には体幹,四肢に播種状に紅斑が出現した.同日より貼付を中止したが皮疹は消退せず,ベタメタゾン4mgの筋注を3日間,2mgを3日間施行し皮疹は軽快した.基剤パッチによるパッチテストを施行したが陰性だったため,自験例は主成分のフェンタニルによる接触皮膚炎症候群と診断した.デュロテップ®パッチでのアレルギー性接触皮膚炎および接触皮膚炎症候群はきわめて稀であると思われる.

セレコキシブによる薬疹の1例

著者: 赤松佳奈 ,   角村由紀子 ,   日野上はるな ,   大畑千佳

ページ範囲:P.17 - P.20

要約 74歳,男性.関節リウマチに対しメトトレキサートが処方されていたが帯状疱疹の発症に伴いセレコキシブに変更された.8日後より四肢に紅斑が出現し拡大してきたため当科を受診した.初診時顔面は腫脹し,体幹,四肢に浮腫性紅斑を認めた.病理組織像では多形紅斑の像を呈しており,セレコキシブの内服を中止したところ紅斑は消失し治癒した.その5週後にセレコキシブの薬剤パッチテストを行ったところ陽性であった.以上よりセレコキシブによる多形紅斑型薬疹と診断した.セレコキシブは消化管障害,腎機能障害を軽減する消炎鎮痛薬として整形外科領域の患者に使用されることが多く,薬疹報告例も多い.今後も保険適応の拡大に伴い薬疹報告が増えると予想されるため,過去の報告例をまとめて文献的考察を行った.

パニツムマブによる痤瘡様皮疹が多発潰瘍化した1例

著者: 井下哉恵 ,   片山利枝 ,   松本千穂 ,   三宅泰裕

ページ範囲:P.21 - P.25

要約 64歳,女性.直腸癌の肝転移,肺転移に対し,パニツムマブ,塩酸イリノテカンを開始した.投与1週間後から痤瘡様皮疹が出現し,10週目ごろから悪化した.初診時,体幹上肢に黄色壊死組織を伴う点状潰瘍,紅斑が多発散在していた.潰瘍は増大し,疼痛も増強したため,投与開始後14週で両薬剤とも休薬した.休薬後も皮疹は拡大し,潰瘍も増大したが,20週目以降に軽快傾向を示した.塩酸ミノサイクリン内服,ステロイド外用で加療し,1か所残存した潰瘍部は縫縮した.病理組織像では表皮は欠損し,真皮上層に好中球,リンパ球浸潤を認めた.パニツムマブによる痤瘡様皮疹の多発潰瘍化と診断した.今後,分子標的薬の使用はますます増加していくと思われ,このような症例の対応については今後の課題と思われる.

潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘後に発症した結節性紅斑の1例

著者: 矢口順子 ,   川口雅一 ,   門馬文子 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.27 - P.30

要約 33歳,女性.31歳時,妊娠を契機に潰瘍性大腸炎を発症した.内科治療に抵抗性のため大腸全摘術を受けたが,術後より,下腿に疼痛を伴う紅色結節が出現するようになった.受診時,右下腿伸側と屈側に有痛性の皮下硬結を認めた.皮疹部の病理組織像で脂肪隔壁と脂肪細胞間に好中球を主体とする炎症細胞浸潤を認め,潰瘍性大腸炎に伴う結節性紅斑と診断した.病変部である大腸が全摘された後,下痢などの消化器症状とともに皮膚症状を認めたことから,回腸囊炎に伴い結節性紅斑が出現した可能性が考えられた.潰瘍性大腸炎における外科治療の前後では皮膚症状の変化や新たな発症の可能性を念頭に置き,注意して診察していくことが重要と思われた.

巨大な頭部腫瘤を呈した脂腺癌と外陰部の乳房外Paget病に合併したamyopathic dermatomyositisの1例

著者: 平川彩子 ,   上出良一

ページ範囲:P.31 - P.36

要約 65歳,女性.頭部腫瘤と外陰部のびらんを主訴に当科を受診した.生検にて頭部の脂腺癌と乳房外Paget病の皮膚重複癌と診断した.全身診察で体幹の紅斑に気づき,生検などでamyopathic dermatomyositisが合併していると診断した.皮膚筋炎やamyopathic dermatomyositisに内臓悪性腫瘍の合併頻度が高いことはよく知られているが,皮膚癌を合併した報告は少ない.また,多くの場合皮膚筋炎の皮膚症状で受診し,精査により内臓悪性腫瘍が発見されることが多い.自験例は目につきやすい皮膚癌で受診したことで,主訴にはなかった紅斑から早期に皮膚筋炎を疑うことができた.

毛孔一致性丘疹が著明であったreticular erythematous mucinosisの1例

著者: 鍵本香子 ,   水芦政人 ,   相場節也 ,   柿坂伸子

ページ範囲:P.37 - P.40

要約 23歳,女性.1年半前より両乳房部に自覚症状を伴わない毛孔一致性丘疹と一部網状に見えるシート状紅斑が出現した.近医皮膚科を受診しステロイド外用剤で加療されたが,徐々に拡大したため当科を受診した.病理組織学的に真皮内のムチン沈着と血管毛包周囲中心の小円形細胞浸潤を認め,reticular erythematous mucinosis(REM)と診断した.過去の本邦報告例のまとめから若干の考察を追加した.自験例は本邦でまれな女性例というだけでなく,シート状紅斑に加え毛孔一致性丘疹が著明であった点で特異な臨床像を呈した症例と考えた.

ステロイド大量療法が躊躇された水疱性類天疱瘡に対して免疫グロブリン大量静注療法が有効であった1例

著者: 高岡佑三子 ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.41 - P.44

要約 90歳,男性.前立腺癌でホルモン療法中に全身掻痒を主訴に受診した.経過中に浮腫性紅斑と緊満性水疱が出現した.病理組織学的に表皮下水疱と好酸球の浸潤を認め,蛍光抗体直接法で皮膚表皮基底膜部にIgG,C3が沈着していた.抗BP180抗体も740index(ELISA)で陽性であったことから,水疱性類天疱瘡と診断した.プロピオン酸クロベタゾール外用およびニコチン酸アミド1,500mg/日と塩酸ドキシサイクリン300mg/日内服を開始したが,その後も水疱は増加した.経口プレドニゾロン20mg/日内服へ変更したが改善しなかったため,免疫グロブリン大量静注(intravenous immunoglobulin:IVIG)療法として乾燥ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン400mg/kg/日の投与を連日5日間併用した.IVIG療法1回目開始から39日後に,2回目のIVIG療法を1回目と同様に連日5日間施行した.2回目のIVIG療法投与後7日目の抗BP180抗体は980indexまで減少し良好にコントロールできた.副作用を懸念してステロイド大量療法が躊躇された水疱性類天疱瘡に対して,免疫グロブリン大量静注療法が新たな治療法の1つとなる可能性がある.

水疱様外観を呈した石灰化上皮腫の2例

著者: 渡辺彩乃 ,   櫻井英一 ,   佐藤隆亮 ,   馬場俊右 ,   遠藤幸紀 ,   森志朋 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英 ,   上原伸一

ページ範囲:P.45 - P.48

要約 症例1:18歳,男性.右肘に紅色の皮下腫瘤を認め,表面が水疱様外観を呈していた.症例2:18歳,男性.左上腕に紅色の皮下腫瘤を認め,症例1と同様に表面は水疱様外観を呈していた.2症例とも,病理組織学的に腫瘍は好塩基性細胞と陰影細胞より構成されており,石灰化上皮腫と診断した.また,真皮上層では拡張した管腔と間質の浮腫を認めた.これらの脈管腔は,D2-40染色,CD34の発現が部分的に陽性であった.さらに,症例2において,水疱内容液について,その組成を検討した.病理組織学的所見,水疱内容液の組成より,水疱様外観を呈した機序として,リンパ管のみでなく,小静脈のうっ滞と急激な腫瘍の増大が関与していると考えた.

脂腺分化を伴った皮膚混合腫瘍の1例

著者: 稲津美穂子 ,   石川武子 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.49 - P.52

要約 79歳,男性.2年ほど前に左眉毛部外側の自覚症状のない結節に気付いた.結節は徐々に増大した.現症は13×8×5mm大の弾性硬の皮内から皮下の結節で,表面は軽度黄色調を呈し,黄白色に透見できる小円形構造とコメド様の開口部があった.病理組織像では真皮内に上皮性成分と一部粘液腫様の間質よりなる腫瘍巣が存在した.上皮性成分は断頭分泌を伴う管腔構造,充実性細胞塊,大小の角質囊腫から構成され,各所に脂腺細胞が混じていた.これらの所見から脂腺分化を伴った皮膚混合腫瘍と診断した.アポクリン型の皮膚混合腫瘍はアポクリン汗腺,毛包脂腺ユニットを原基とすると考えられる.脂腺分化を伴うことがあるが,その出現頻度は低いことが文献的および当科経験例の集計でも判明した.皮膚混合腫瘍における脂腺分化は低頻度であるものの,病理診断の助けになるものと考えられた.

肺転移をきたした隆起性皮膚線維肉腫の1例

著者: 神山由佳 ,   曽我部陽子 ,   郡隆之

ページ範囲:P.53 - P.57

要約 78歳,男性.1996年頃より右季肋部に腫瘤が出現した.2006年初診時,9×8×5cmの表面平滑で紅色調,ドーム状に隆起する腫瘤がみられた.皮膚生検病理組織像ではCD34陽性の紡錘形細胞が密に増殖し,隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:DFSP)と診断した.他院にてマージンをとらずに腫瘍摘出された.摘出標本の一部では腫瘍細胞がherringbone patternを呈し増殖していたが,同部もCD34陽性であった.拡大切除せずに経過観察中,2009年胸腹部CTで左肺下葉に小結節がみられ,徐々に増大した.2010年転移性肺癌を疑い呼吸器外科で小結節を含め胸腔鏡下左肺部分摘出術を行った.組織学的にDFSPの肺転移と診断した.線維肉腫様構造を伴うDFSPは,通常のDFSPよりも遠隔転移をきたす可能性が高く,原発巣の十分な切除範囲に加え,再発・転移について長期間経過観察を要する.

G-CSF産生皮膚有棘細胞癌の1例

著者: 林郁伶 ,   稲福和宏 ,   小野泰伸 ,   神戸直智 ,   松江弘之

ページ範囲:P.59 - P.62

要約 60歳,男性.2009年11月頃に右鼠径部に大豆大の腫瘍が出現し,増大した.2010年5月上旬より食欲不振があり,居室で倒れているところを発見され救急搬送された.右鼠径部には滲出液および悪臭を放つ16×10cm大の表面カリフラワー様の紅色腫瘤を認めた.検査所見は末梢白血球数46,700/μl(Seg. 91.1%),血清Ca 18.3mg/dlで,高Ca血症は補液およびエルカトニン注40エルカトニン単位を1日2回投与にて改善した.入院後7日目に腫瘍全摘し,有棘細胞癌Stage II(T3N0M0)と診断した.白血球増多は腫瘍切除後速やかに正常範囲内へ回復した.血中のG-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)高値(171pg/ml)を認め,抗G-CSF抗体よる免疫組織学染色の結果,腫瘍細胞の細胞質が陽性となりG-CSF産生腫瘍と判断した.白血球増多を示すG-CSF産生有棘細胞癌について皮膚科領域での報告は稀である.

皮膚悪性黒色腫に乳癌が併発した1例

著者: 河相美奈子 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹 ,   宮川文

ページ範囲:P.63 - P.67

要約 58歳,女性.20年前に出現した右踵部黒色斑が徐々に増大するため当院初診した.皮膚悪性黒色腫(cutaneous melanoma:CM)と考え,5mmマージンを取り,腫瘍を単純切除し,右鼠径部リンパ節生検を行った.病理組織像は表皮内から脂肪組織にわたって異型メラノサイトの増殖を認め,側方断端陽性,深部断端陰性,センチネルリンパ節陰性であった.2週間後に,拡大切除,植皮術,右鼠径部リンパ節郭清術を施行した.pT4aN0M0,臨床病期Stage IIBと診断した.術後DAV-Feron療法を3コース施行した後,定期的に経過観察していたが,術後5年目に,超音波検査にて肝臓に遠隔転移を認めた.また,左下腿および左乳房下に皮下腫瘍が出現した.皮下腫瘍に対し,切除術を施行したところ,左下腿はCMの転移であり,左乳房下は浸潤性乳管癌であった.浸潤性乳管癌に対して,レトロゾール(アロマターゼ阻害剤)を2.5mg/日で開始した.CMに対しては,DAV-Feron療法をさらに2クール施行したが,腫瘍が拡大したため,以後はインターフェロンβを300万単位/週で投与した.転移性腫瘍は進行し,再発の1年後に永眠された.疫学調査ならびに遺伝子検査から,CMと乳癌の重複発症が示唆されているため,CM患者では,乳癌の併発も念頭に置いて経過をフォローアップしていく必要がある.

粒子線照射後に生じた難治性胸壁潰瘍の1例

著者: 中野英司 ,   西川里香 ,   廣本敦子 ,   皿山泰子 ,   脇田昇 ,   寺師浩人

ページ範囲:P.69 - P.74

要約 77歳,男性.肝細胞癌に対し陽子線治療を受け,2年2か月後に右側胸部に有痛性の潰瘍を生じた.保存的加療では改善せず,MRIでは肋骨直上まで炎症を認め,感染を起こしたため,胸壁再建を行った.深部組織の変性が著明であったが,胸壁全層切除と陽子線照射範囲外からの筋皮弁にて再建し治癒が得られた.悪性腫瘍に対する粒子線治療は,従来の放射線治療に比べ有害反応が少なく抗腫瘍効果も高いため,近年注目されてきている.皮膚への有害反応の頻度は低いが,重症化することもあり,粒子線の性質上,深部組織の変性が強く,保存的治療では治癒が困難であると考えられる.原疾患は治癒しており生命予後が期待できる場合,保存的治療に反応の乏しい症例では積極的な外科的治療を考慮すべきであると思われた.

脊髄損傷による感覚障害が悪化因子と考えられ,壊死性筋膜炎を併発した仙骨部褥瘡の1例

著者: 馬場俊右 ,   本多孝之 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.75 - P.78

要約 58歳,男性.3年前に事故で脊髄を損傷し,両下肢麻痺があり,車椅子を使用していた.初診時は仙骨部に5mm大の褥瘡がみられるのみであったが,車椅子用クッションが壊れ,褥瘡が拡大し,壊死を生じた.その後褥瘡周囲の発赤と広範なポケット形成と排膿,発熱があり,壊死性筋膜炎と診断した.膿汁細菌培養ではEnterococcus faecalisが検出された.デブリードマンとセファゾリン2g/日を10日間点滴静注し,感染はコントロールされ,褥瘡潰瘍は大臀筋穿通枝皮弁で被覆した.脊髄損傷による運動障害と感覚障害による長時間の同一部位の圧迫が壊死性筋膜炎を合併するまでに褥瘡を悪化させた大きな要因と考えた.

診断に苦慮したMicrosporum canisによる体部・頭部白癬の1例

著者: 小林博人 ,   望月隆

ページ範囲:P.79 - P.83

要約 63歳,女性.5年前より関節リウマチでプレドニゾロン(5mg/日)を服用中である.初診の2年前から体幹に皮疹が出没しステロイド剤を外用していた.初診1週間前に皮疹の新生があり受診した.腹部,背部に湿疹様病変を認め,また本人は気付かないものの後頭部に落屑性紅斑が認められた.体幹,頭部の鱗屑はKOH直接鏡検法陽性,真菌培養でMicrosporum canisが分離された.8週間抗真菌剤の内服を行い,治癒と判定した.その8か月後に顔面,頸部,頭部に落屑性紅斑が出現した.後頭部のKOH法で毛髪への小胞子菌性寄生を認め,再度M. canisが分離された.14週間抗真菌剤の内服を行い治癒とした.この症例は初診時皮疹の性状が白癬の定型例ではなく,また治癒判定にも疑問が残り,診断に苦慮した例といえる.

治療

尋常性痤瘡患者に対する1%ナジフロキサシンクリーム・ローションと0.1%アダパレンゲルの併用療法

著者: 根本治

ページ範囲:P.85 - P.89

要約 尋常性痤瘡に対する1%ナジフロキサシンクリームもしくは1%ローションと0.1%アダパレンゲルの併用療法を行った.その結果,外用開始12週後にはクリーム併用群では19%,ローション併用群では17%まで炎症性皮疹数が減少した.安全性については,アダパレン単独では塗布開始後1か月目までに78%の症例で刺激感などを訴えることが報告されている.ナジフロキサシンを併用した本試験では,刺激感の訴えは少なかった.以上より,1%ナジフロキサシンクリームまたは1%ローションと0.1%アダパレンゲルの併用療法は,尋常性痤瘡に対して同程度の有効性と安全性を示し,かつ,アダパレンによる刺激感を軽減する可能性が示唆された.

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欧文目次

ページ範囲:P.3 - P.3

文献紹介 インターロイキン-1受容体拮抗物質欠損に伴う自己炎症症候群

著者: 小幡祥子

ページ範囲:P.67 - P.67

 自己炎症症候群は,病原体や自己抗体,自己反応性T細胞とは関連を認めない持続性・反復性の炎症疾患の概念である.インターロイキン-1βは,炎症性サイトカインの中でも重要な役割を担っている.今回,著者らはインターロイキン-1受容体拮抗物質をコードするIL1RNの変異に起因し,主に骨,皮膚病変をきたす疾患を報告した.出生時から無菌性多発性骨髄炎,骨膜炎,膿痂疹様発疹,口腔粘膜病変などを呈したプエルトリコ,カナダ・ニューファンドランド州,オランダ,レバノンの6家系からの9名の小児を対象とし,その内1例に組み換え型インターロイキン-1受容体拮抗物質であるアナキンラを投与し著効したことから,インターロイキン-1経路の遺伝子の変異の有無,蛋白の変化やその機能について検討した.その結果,9例の患児において,IL1RNのホモ接合性変異を同定した.プエルトリコの患児1例は,IL1RNのほかインターロイキン-1ファミリーメンバー5つを含むホモ接合性ゲノム欠失を有していた.ヘテロ接合性変異の保因者は無症候性であり,in vitroでサイトカインの異常はみられなかった.IL1RNの変異により,不完全な蛋白質が産生され,細胞のインターロイキン-1βに対する反応亢進がみられた.アナキンラの投与により,速やかな臨床症状,炎症反応の改善が得られた.結論として,インターロイキン-1受容体拮抗物質の非存在下では,インターロイキン-1は過剰に作用し,皮膚や骨を侵す致死的な全身性炎症をきたすことが示された.著者らはIL1RNの変異に起因するこの常染色体劣性遺伝の自己炎症性疾患に対して,インターロイキン-1受容体拮抗物質欠損症(deficiency of the interleukin-1-receptor antagonist:DIRA)という用語を提案している.

書評 ―著:岩田健太郎―構造と診断 ゼロからの診断学

著者: 春日武彦

ページ範囲:P.90 - P.90

 本書は,診断するという営みについて徹底的に,根源的なところまでさかのぼって考察した本である.それはすなわち医療における直感とかニュアンスとか手応えといった曖昧かつデリケートな(しかし重要極まりない)要素を「あえて」俎上に乗せることでもある.昨日の外来で,ある患者を診た際に感じた「漠然とした気まずさや躊躇」とは何であったのか.やぶ医者,残念な医者,不誠実な医者とならないように留意すべきは何なのか.どうもオレの診療は「ひと味足らない」「詰めが甘い」と不安がよぎる瞬間があったとしたら,どんなことを内省してみるべきか.本書はいたずらに思想や哲学をもてあそぶ本ではない.しっかりと地に足が着いている.きわめて現実的かつ実用的な本である.そして,とても正直な本である.「ぼくら臨床医の多くはマゾヒストである.自分が痛めつけられ,苦痛にあえぎ,体力の限界まで労働することに『快感』を覚えるタイプが多い」といった「あるある」的な記述もあれば,うすうす思っていたが上手く言語化できなかった事象を誠に平易な言葉で描出してみせてくれたり,「ああ,こういうことだったんだ」と納得させてくれたり,実に充実した読書体験を提供してくれる.

 蒙を啓いてくれたことがらをいくつか記しておこう.「患者全体が醸し出す全体の雰囲気,これを前亀田総合病院総合診療・感染症科部長の西野洋先生は『ゲシュタルト』と呼んだ」「パッと見,蜂窩織炎の患者と壊死性筋膜炎の患者は違う.これが『ゲシュタルト』の違いである」.蜂窩織炎と壊死性筋膜炎,両者の局所所見はとても似ているが,予後も対応も大違いである.そこを鑑別するためにはゲシュタルトを把握する能力が求められる.わたしが働いている精神科では,例えばパーソナリティー障害には特有のオーラとか独特の違和感といったものを伴いがちだが,それを単なる印象とかヤマ勘みたいなものとして排除するのではなく,ゲシュタルトという言葉のもとに自覚的になれば,診察内容にはある種の豊かさが生まれてくるに違いない.ただし「ゲシュタルト診断は万能ではない.白血病の診断などには使いにくいだろう.繰り返すが,万能の診断プロセスは存在しない.ゲシュタルトでいけるときは,いける,くらいの謙虚な主張をここではしておきたい」.

次号予告

ページ範囲:P.93 - P.93

投稿規定

ページ範囲:P.94 - P.95

あとがき

著者: 中川秀己

ページ範囲:P.96 - P.96

 明けましておめでとうございます.今年もよろしくお願いします.今年,私は年男で還暦になります.今年は今後老いてますます盛んになるか,老害に陥っていくか決め手の年だと思っています.

 昨年はサッカー,レスリング,柔道と女性アスリートが活躍した年で,人間以外でもジャパンカップでは牡馬クラシック3冠馬で現役最強4歳馬といわれているオルフェーヴルを3歳3冠牝馬のジェンティルドンナが2頭のマッチレースの末,鼻差退けて破りました.見ていて久しぶりに興奮するレースでした.ジェンティルドンナは斤量53kgでオルフェーヴルと4kg差がありましたが,直線でぶつかりながらも競り勝ったのだから精神的にもしっかりしており,勢いがありました.ジェンティルドンナの過去のレースを見ているととても頭が良い馬で勝ち方を自分でマスターしているように思えていましたが,そのとおりのレース結果になったと考えています.ところで,いつも限られた小遣いのなかで馬券代をやりくりしていますが,1年終わってみれば常に赤字になるのが悩みの種であります.ただ,ギャンブルは常に胴元が勝つことになっているので仕方がないとあきらめています.私の家内も大きなレースは好きで見ているのですが決して馬券は買いません.自分で走りやパドックを見ていて予想するのが一番いいとのことです.しかも馬券代がなくなって私が困っているときも,「あなたが悪い」とのことで補助金をくれることは決してありません.すべて,女性が権力を握る時代になったのでしょうか.日本皮膚科学会でも「皮膚科の女性医師を考える会」が活発な活動を続けており,ジェンティルドンナばりの女性医師が出現するのは間違いないでしょうが,草食系が増えた若い「男性医師を考える会」を早期に設立する必要性があるのではないだろうかと思います.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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