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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻10号

2013年09月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・73

Q考えられる疾患は何か?

著者: 矢口直

ページ範囲:P.745 - P.746

症例

患 者:78歳,女性

主 訴:上胸部と右側頸部に多発する赤色結節および皮下結節

現病歴:初診の2か月ほど前から上胸部に自覚症状のない赤色の硬結が出現し,徐々に増大.初診時には同様の皮疹が右側頸部に多発していた.

現 症:上胸部,右側頸部や右鎖骨上部に小指頭大からクルミ大の赤色結節および皮下結節が多発していた(図1).一部黄色を呈した赤色結節もみられ,自潰・排膿していて,圧排でやや悪臭のある白色粥様物質を認めた.

原著

色素性エクリン汗孔腫5例のダーモスコピー所見と病理組織所見の検討

著者: 山川千尋 ,   眞海芳史 ,   小林憲 ,   石崎純子 ,   二宮淳也 ,   藤林真理子 ,   田中勝

ページ範囲:P.747 - P.752

要約 色素性エクリン汗孔腫と診断した5例を対象に,そのダーモスコピー所見と病理組織所見を比較検討した.色素の濃い部分ではエクリン汗孔腫に特徴的なglomerular vesselsやwhitish pink networkが色素に隠され,blue-gray globulesやwhitish blue networkを呈することがある.Whitish networkは病理組織所見では腫瘍胞巣の索状網目状構造に対応しており,色素が少なく血管拡張が目立つとpinkを呈し,色素が多い部分ではblueを呈する.ダーモスコピーでのblue-grayの色素沈着は病理組織所見では腫瘍細胞内と真皮層のメラニン沈着に対応している.色素性エクリン汗孔腫のダーモスコピー診断のポイントは,色素が少ない部分で通常のエクリン汗孔腫の所見が観察されるか,色素の濃い部分全体が青白色調になる点である.

症例報告

両側の著明な眼瞼腫脹を契機に診断したIgG4関連Mikulicz病の1例

著者: 松本優香 ,   正畠千夏 ,   福本隆也 ,   小林信彦 ,   浅田秀夫

ページ範囲:P.753 - P.757

要約 66歳,女性.2003年より両上眼瞼の腫脹が出現した.ベタメタゾン1mg/日内服で眼瞼腫脹はいったん軽快したが,糖尿病のためベタメタゾン内服を中止した.2011年より両上眼瞼の腫脹が再燃した.MRIで両側涙腺の腫脹がみられ,血液検査で抗核抗体・抗SS-A/Ro抗体陰性で,血清IgG値が1,878.6mg/dl,IgG4値が649.0mg/dlと上昇を認めた.涙腺,唾液腺生検でIgG4陽性形質細胞浸潤を認め,IgG4関連Mikulicz病と診断した.プレドニゾロン30mg/日の内服を開始し,両上眼瞼の腫脹は消失した.上眼瞼に対称性の持続性腫脹がある場合は,IgG4関連Mikulicz病を鑑別する必要がある.

ダビガトランが奏効したリベド血管症の1例

著者: 松立吉弘 ,   仁木真理子 ,   村尾和俊 ,   久保宜明

ページ範囲:P.759 - P.763

要約 51歳,男性.5年前から左下腿の痺れを自覚し,2年前からは両下腿の潰瘍を繰り返していた.初診時,両下肢に網状皮斑があり,左下腿内側には紫斑や不整形潰瘍,白色萎縮性瘢痕を認めた.凝固能の延長はなく,ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体は陰性であった.病理組織学的にはフィブリン血栓の像で,壊死性血管炎は認めなかった.リベド血管症と診断し,ワルファリンカリウム,アスピリンを開始,一時症状は改善したが,再燃・軽快を繰り返した.経過中に脳出血を起こしたため治療は中止し,再燃時にはプレドニゾロン20mg/日,シロスタゾールを投与したが改善しなかった.そこでダビガトランを併用したところ速やかに改善した.リベド血管症の難治例に対するワルファリンカリウムの有効性は近年注目されているが,出血リスクの高い症例やワルファリンカリウムで効果不十分な症例ではダビガトランによる抗凝固療法が新たな治療法になりうると考える.

亀頭部に生じたnon-venereal sclerosing lymphangitis of the penisの1例

著者: 櫻井英一 ,   森志朋 ,   前田文彦 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.764 - P.767

要約 27歳,男性.初診の半年前ほどから陰茎亀頭部に自覚症状を伴わない常色皮疹が出現し漸次増数していた.初診時,亀頭部に小水疱様丘疹が亀頭縁に沿って散在してみられた.病理組織では真皮に拡張,蛇行する脈管増生を認め,一部で弁構造を有していた.脈管の内皮は免疫組織学的にCD31,CD34陰性,大半がD2-40陽性であり病変脈管はリンパ管と考えられた.Non-venereal sclerosing lymphangitis of the penisに対して,上記3種類の脈管系マーカーを用いて検討した報告は少なかったが,罹患脈管の同定には大変有用であったと思われた.

De novo優性栄養障害型表皮水疱症の1例

著者: 吉田憲司 ,   小原芙美子 ,   石井真由美 ,   渋谷和俊 ,   石河晃

ページ範囲:P.768 - P.772

要約 3か月,女児.生後4日から両手足に水疱とびらん形成を繰り返すため来院した.両親・同胞に表皮水疱症の既往はない.初診時,両手背,足背に限局した稗粒腫の多発とびらんを認めた.電顕では基底板下の裂隙形成と係留線維に軽度の形成不全があり,蛍光抗体法ではⅦ型コラーゲンに欠損はみられなかったものの発現が弱いことから,栄養障害型表皮水疱症(dystrophic epidermolysis bullosa:DEB)と診断した.遺伝子検査を施行したところ,患児の片方のalleleにc. 6209G>A(p. Gly2070Glu)のグリシン置換変異を認め,両親には変異がなかったことからde novo変異による優性DEBと診断した.この変異は過去に優性DEBとして報告例があった.家系内孤発例で軽症なDEBは,non-Hallopeau-Siemens劣性DEBだけでなく,de novo変異による優性DEBの可能性が考えられ,2つの病型は電顕,蛍光抗体法では区別できず,正確な遺伝カウンセリングには遺伝子検査が必要である.

皮膚線維腫様外観を呈したpapillary tubular adenomaの1例

著者: 富田あさひ ,   石崎純子 ,   小林憲 ,   藤林真理子 ,   安齋眞一 ,   田中勝

ページ範囲:P.773 - P.776

要約 62歳,女性.10年前より右手関節部に皮疹を自覚,最近になり徐々に増大した.初診時,右手関節に7mm大で弾性硬の褐色ドーム状小結節が存在し,ダーモスコピー所見では,中央に境界不明瞭な大小の白色類円形構造,辺縁部には放射状に配列する淡褐色で微細な色素ネットワークを認めた.病理組織学的には真皮内に大小の囊腫構造,管腔構造があり,一部に断頭分泌様の所見がみられた.管腔壁は2層性で内側上皮は内腔に向かい一部は乳頭状に増生していた.汗腺腫瘍の由来をエクリン腺かアポクリン腺か決定することは難しく,自験例をpapillary tubular adenomaと診断した.ダーモスコピー所見では,大小の類円形管腔構造を反映する多房性白色構造が特徴的であり,皮膚線維腫との鑑別になりうると考えた.

Cellular angiolipomaの1例

著者: 岡本武 ,   福本瞳 ,   小原一葉 ,   藤本典宏 ,   佐藤貴浩

ページ範囲:P.777 - P.781

要約 22歳,男性.2年前より腹部に圧痛を伴う多発性のしこりを自覚し,増数してきたため受診した.超音波検査では脂肪腫に矛盾しない所見であった.そのうちの1個を切除生検した.病理組織学的に,境界明瞭な腫瘤性病変で,血管成分が95%以上を占め,成熟脂肪組織も一部みられた.血管成分は毛細血管,紡錘形細胞が巣状,分葉状に増加し,毛細血管内にフィブリン血栓を認めた.以上よりcellular angiolipomaと診断したが,Kaposi肉腫,spindle cell angiolipoma,他の血管腫と組織学的な鑑別を要した.また,この腫瘍は疾患概念としてangiolipomaの一型か,血管腫の範疇とするのか,いまだに定説はない.

爪甲下に発症した血管拡張性肉芽腫の1例

著者: 堺美由紀 ,   今井亜希子 ,   渡邊京子

ページ範囲:P.783 - P.786

要約 74歳,男性.右中指を芝で刺した後,同指の爪甲下に易出血性の13×10mm大の鮮紅色結節が出現した.血管拡張性肉芽腫のほかに,有棘細胞癌も考えた.生検の病理組織像では,大小不同の毛細血管の増生と炎症細胞浸潤であり,血管拡張性肉芽腫と診断した.CO2レーザーによる焼灼術を選択し,手指や爪甲の変形はきたさず治癒した.爪甲下の血管拡張性肉芽腫の本邦での報告は少ない.しかし,血管拡張性肉芽腫は日常診療でよく遭遇する疾患であり,爪甲下に発症する例もまれではないと考えた.腫瘍の発生部位,大きさ,整容性などを考慮し,治療方法の選択をすることが望ましいと考えた.

膝蓋部のmalignant proliferating trichilemmal tumorと考えられた1例

著者: 伊勢美咲 ,   安田文世 ,   木花いづみ ,   綿貫沙織

ページ範囲:P.787 - P.791

要約 81歳,女性.数十年前に右膝蓋部の囊腫性病変の手術歴がある.数年前より同部位の皮膚の隆起を自覚,徐々に増大し,出血を認めるようになったため受診した.初診時,同部位に32×28mm大の表面平滑な広基有茎性紅色腫瘤があり,一部が下方に舌状に突出し,びらん,出血を伴っていた.摘出組織では,外毛根鞘性角化を示し異型性のある細胞の分葉状の増生と胞巣中央の好酸性物質を認め,一部で囊腫様構造もみられた.Proliferating trichilemmal tumor(PTT)の囊腫様構造を逸脱して悪性化したmalignant proliferating trichilemmal tumor(MPTT)と考えられた.本症は高齢者の頭頸部に好発し,下肢での発症は稀であるが,報告上,リンパ節転移の頻度が高い.自験例は臨床経過や病理組織所見からtrichilemmal cystからPTTを経てMPTTへ進展した可能性を考えた.

老人性血管腫の皮膚生検が診断に有用であった血管内大細胞型B細胞リンパ腫の1例

著者: 池田彩 ,   大島衣里子 ,   宮本麻美 ,   永松麻紀 ,   宮崎明子 ,   小澤健太郎 ,   田所丈嗣 ,   詫間智英子 ,   玄富翰

ページ範囲:P.792 - P.796

要約 80歳,女性.2011年6月下旬からふらつきを自覚し急速に進行した.頭部MRIにて両側大脳に多発性の高信号域を認め,血液検査にて可溶性IL-2レセプター3,220U/mlとLDH 1,024IU/lの高値を示したことから血管内リンパ腫を疑われ,同年8月にランダム皮膚生検目的に当科を紹介された.両腹部,前腕,大腿の4か所の無疹部の生検では腫瘍細胞は認めず,両腹部,前腕の3か所の老人性血管腫からの生検で,2か所において血管内に異型リンパ球を認めた.異型リンパ球はCD20陽性で,血管内大細胞型B細胞リンパ腫と診断した.これまでにランダム皮膚生検の有用性は報告されているが,老人性血管腫の生検は採取すべき部位が明確で,陽性率が比較的高く,確定診断につながる可能性がある.本疾患の診断には老人性血管腫の生検も有用であると考えられる.

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の1例

著者: 栗原佑一 ,   田中京子 ,   福岡聖大 ,   入江理恵 ,   竹内常道 ,   宮川俊一

ページ範囲:P.797 - P.802

本論文は抹消されました。

Langerhans細胞肉腫の1例

著者: 森達吉 ,   伊藤泰介 ,   目黒史織 ,   馬場聡 ,   犬塚学 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.803 - P.807

要約 79歳,男性.2009年3月右大腿に皮膚潰瘍が出現した.潰瘍は徐々に拡大し,2009年5月下旬当科を受診した.右大腿に壊死組織の付着した皮膚潰瘍があり,周囲に皮下硬結を触知した.病理組織学的に,核に切れ込みが目立つ比較的大型の類円形異型細胞が真皮から皮下組織に浸潤し,核分裂像もみられた.浸潤する異型細胞は免疫組織化学的にS100蛋白,CD1a,CD207/Langerin陽性であり,電子顕微鏡にてBirbeck顆粒を認め,Langerhans細胞の形質に合致していた.胸腹部CTでは右鼠径部から腎動脈レベル以下の傍大動脈領域にかけてリンパ節が多数腫大していた.以上よりLangerhans細胞肉腫(Langerhans cell sarcoma:LCS)と診断した.放射線治療として50Gy照射したところ部分消退したが,その後潰瘍を伴う腫瘍は悪化し,半年後永眠した.LCSは予後不良で非常に稀な疾患であり,今後さらなる症例の蓄積により治療法の確立が望まれる.

未治療の重症糖尿病に合併した巨大癰の1例

著者: 川田裕味子 ,   西岡美南 ,   瀬戸英伸 ,   坂東弘教 ,   陳慶祥 ,   岩井泰博

ページ範囲:P.809 - P.812

要約 62歳,女性.背部に径3cmほどの有痛性皮疹が出現した.増大し38℃台の発熱も出現したため当科を受診した.背部中央に,膿栓を多数伴う15×16cm大のドーム状に隆起した暗紅色の隆起性局面を認め,癰と診断した.当科受診まで糖尿病治療歴はなかったが,血糖495mg/dl,HbA1c 13.8%と重症の糖尿病を発症していることが判明した.切開排膿,抗生剤投与,厳重な血糖コントロールを行い,約2週間で炎症は消退した.炎症消退後は広範囲に皮下組織の壊死が残存し,デブリードマン後に巨大な皮下のポケットが出現した.1か月間VAC療法を行い,ポケットは閉鎖した.保存的治療のみで最終的な創の閉鎖状態は整容面で患者の満足度が高いものであった.巨大癰では,早期に広範囲の皮膚を切除して植皮を行うことがある.しかし,整容面を考慮すると,皮膚の切除は最小限にし,皮下の壊死組織を除去した後にVAC療法などを併用する保存的治療も選択肢であると考えた.

Nocardia otitidiscaviarumによる続発性皮膚ノカルジア症の1例

著者: 内山泉 ,   伊藤泰介 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.813 - P.816

要約 49歳,男性.初診1か月前より,誘因なく右臀部に疼痛を伴う直径約10cmの皮下腫瘤が出現したが,放置していた.その後血液検査にて急性骨髄性白血病と診断され,当院血液内科に入院し,臀部の皮下腫瘤について当科を紹介された.皮膚切開で淡黄色の混濁した粘稠な排膿があり,塗抹標本でグラム陽性の繊細な枝分かれした菌糸を認め,Ziehl-Neelsen染色で抗酸性を確認し,ノカルジア症と診断した.抗菌薬感受性試験,有機物分解能検査にてNocardia otitidiscaviarumと推定され,PCRとシークエンスによる遺伝子解析からも同菌種と同定された.肺の所見から肺ノカルジア症が疑われた.本人に外傷の既往はなく,続発性皮膚ノカルジア症と診断した.ST合剤10g/日の内服を行い,2か月後には皮下膿瘍,肺炎像も改善した.免疫不全患者に皮下膿瘍が生じた場合,ノカルジア症を念頭に置いて診断・治療すべきと考えられた.

環状丘疹性梅毒の1例

著者: 高木奈緒 ,   福地修 ,   松尾光馬 ,   伊藤寿啓 ,   中川秀己

ページ範囲:P.817 - P.821

要約 27歳,女性.初診の約4か月前から,体幹,頭部に鱗屑を伴う紅斑が多発し,前医を受診した.受診時極端なるい痩を呈し,微量元素欠乏による皮膚炎,乾癬などの炎症性角化症を疑われ,ステロイド外用剤で治療されていた.しかし,徐々に皮疹が拡大してきたため,当科を紹介受診した.辺縁に鱗屑を伴う環状紅色局面が体幹に多発し,中心部は褐色調を呈していた.生検時の検査上,梅毒血清反応が陽性であり,定量ではTPHA 10,240倍,ガラス板法512倍であった.HIV抗体は陰性であった.病理組織学的所見では,不全角化,表皮突起の延長,角層下膿疱,真皮の血管周囲に形質細胞を含む細胞浸潤を認めた.皮疹の性状および病理組織学的所見より第2期梅毒である環状丘疹性梅毒疹と診断し,アモキシシリン1,500mg/日の内服を開始し皮疹は4週後に色素沈着を残して消退した.非特異的な環状皮疹をみた場合,梅毒を念頭に置く必要があり,梅毒血清反応検査を積極的に行う必要がある.

Chronic expanding hematomaを疑った外傷性横紋筋融解症の1例

著者: 一宮誠 ,   柏木圭介 ,   若松研弥 ,   武藤正彦

ページ範囲:P.822 - P.824

要約 72歳,男性.初診約3か月前,交通事故にて背部を強打した.その後,同部が徐々に腫大したため,当科を受診した.背部に手拳大の波動を触れる軟らかい皮下腫瘤を認めた.血中クレアチニンキナーゼ値は正常で,MRI T1強調画像で,内部は高信号で,一部には低信号領域が混在していたことから,chronic expanding hematomaを疑った.しかし切除術を施行したところ,茶褐色を呈する融解した筋組織を認めた.病理組織検査においても,線維化を伴った,壊死した筋組織を認めた.以上から,外傷性横紋筋融解症と診断した.自験例は,交通事故直後には,受傷部位の急激な腫脹や重篤な腎障害は生じなかったが,3か月後に,囊腫様病変を呈するという,非常に稀な経過をとった.

印象記

第112回日本皮膚科学会総会 印象記

著者: 青山裕美

ページ範囲:P.825 - P.827

 大観覧車を遠くに見ると,また戻ってきた,と思う,横浜総会のおなじみの風景である.ランドマークタワーが建設されて20年になるとのこと,この20年間に日本経済は,大きな浮き沈みを経て今に至っているが,駅が整備され,新しいショッピングモールが次々と開業するなど,発展し続けるこの場所で,2年に一回総会が開催されるようになり,2年に一回はパシフィコ横浜に来ていることになる.しかし3年前3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の直後に開催が予定されていた第110回日本皮膚科学会総会は開催中止となり,総会のために横浜を訪れるのは,実に4年ぶりであった.

 総会は,教育講演が主体である.よく知っていると思っている分野でも,座って聞いてみると「こんな新しいことがわかったのか」「へー知らなかった」そんな小さな気づきがたくさんあり幸せな気分になる.そんなわけで総会が大好きである.

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欧文目次

ページ範囲:P.743 - P.743

文献紹介 皮膚細菌叢の一過性変化は,小児アトピー性皮膚炎の増悪や治療と関連する

著者: 川崎洋

ページ範囲:P.802 - P.802

 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)ではStaphylococcus aureusの皮膚への定着,感染がしばしば認められ,抗菌治療を含む治療法が選択されることが多い.しかし,細菌群のADの病態への関与はいまだ明らかになっていない.本研究では,小児AD患者の皮膚から病勢に応じてサンプリングを行い,16SリボソームRNA遺伝子配列解析の手法を用いて,皮膚細菌叢とADの病勢との関係について解析した.

 AD患者では健常人に比べ,特に疾患増悪時に皮膚細菌叢の構成が大きく変化していることがわかった.AD増悪時は,直近に何らかのAD治療の既往があれば細菌叢の多様性が維持されるが,治療をしていないと細菌叢の多様性が減少していた.本結果は,AD治療が皮疹の改善を認める前の時点で,細菌叢の構成に影響したことを示唆する.さらに,AD患者では疾患の増悪,重症度に相関して皮膚のStaphylococcus aureusの割合が増加することがわかった.また,皮膚常在菌の一種であるStaphylococcus epidermidisはADの増悪時に割合の増加を認めたが,Streptococcus, Propionibacterium, Corynebacteriumなどの種は,AD増悪時に割合が減少し,AD治療により回復した.これらの結果は,皮膚細菌叢内で個々の菌種間に複雑な相互作用が存在していることを示唆し,これがADの病態に影響すると考えられる.

書評 ―総編集:古江増隆,専門編集:岡本祐之―皮膚科臨床アセット14 肉芽腫性皮膚疾患 サルコイドーシス・他の肉芽腫

著者: 鶴田大輔

ページ範囲:P.829 - P.829

 皮膚科臨床アセットシリーズは,私のお気に入りのシリーズである.総編集の古江増隆氏の序文にもあるが,「専門書でありながら肩の凝らない読み物」というポリシーが私の琴線に触れるのである.これまで発刊された書籍はすべて目を通しており,一部は私も分担執筆させていただいた.今回新たに,「肉芽腫性皮膚疾患」についての書籍が関西医科大学教授の岡本祐之氏の編集により刊行された.

 私は以前,皮膚疾患の病態生理に関する教科書を執筆したことがある.担当は水疱症と膿疱症であった.水疱症の病態生理は本邦の皮膚科医も含めた先人の多大な努力によりかなり解明されてきたことは言うまでもなく,比較的容易に書くことができた.問題は膿疱症であった.当時,不勉強のせいではあろうが,全くお手上げの状態であった.幸運にも(不運にも??)肉芽腫症についての病態生理の項目の執筆の機会は現在までない.私の講義担当はしかしながら,「水疱症・膿疱症・肉芽腫症」である.どうしてもこれらのなかでは比較的良くわかっている水疱症のパートに,多くの時間を割いてきた.肉芽腫症についてはサルコイドと環状肉芽腫を紹介するだけであった.今回,本邦におけるサルコイドーシス学の権威である岡本祐之氏が編集された,過去に類を見ない書籍を目の当たりにした.目からうろこが落ちるとはまさにこのことで,時間がすぎるのを忘れて,わずか数日で読破してしまった.私は肉芽腫の講義を担当しておりながら,全くもって不勉強であることを痛感した.肉芽腫の病態解明がかなり進んでいることがわかった.

書評 ―編:William Bynum・Helen Bynum 訳:鈴木 晃仁・鈴木 実佳―Medicine―医学を変えた70の発見

著者: 山本和利

ページ範囲:P.830 - P.830

 10年以上前から医学部1年生と一緒に医学史を学んでいる.24のテーマを私が設定してそれを学生が調べ,1回2テーマずつをパワーポイントにまとめて,1テーマにつき質疑応答を含めて45分間で発表する授業形式をとっている.学生たちは医学に関することに初めて触れる機会なので,皆,目を輝かせて発表を聴いている.開講当初は,数少ない医学史の本を探したり,関連書籍を図書館で借りたりしながら学生たちは課題をこなしていたが,最近ではもっぱらインターネットで探しているようだ.確かにカビ臭く小さな活字の漢字だらけの参考書籍は敬遠しがちになろう.そのため豊富な画像をカラーで掲載している書籍を待ち望んでいたところであるが,最近そのような要望に応えてくれる書籍が出版された.それが,『Medicine――医学を変えた70の発見』である.

 これまでの医学史の本は,時系列にそった記述に終始しがちであったが,本書は,古代の医学(エジプト,中国,インドなど)における身体のとらえ方から,現代の最新医術までを医療機器,疫病,薬,外科技術,予防など7つの章(70項目)に分けてわかりやすく解説している.特徴は切り口が斬新なことである.その理由は,医学の長い歴史を,単に時系列によるのではなく,その多様なテーマを上手に7つに分けて,テーマごとに一連の流れを作って描き出しているからである.それゆえ読者は,本書を読むことで7つの視点で7回医学の歴史を振り返ることができる.そして,何よりも幅広い時代・地域から集められた豊富な図版が382点もオールカラーで掲載されているのがうれしい.原書は美術書のように分厚くて重かったが,翻訳版の本書は薄い紙を使って表紙もソフトカバーになり,携帯しやすくなっている.

次号予告

ページ範囲:P.831 - P.831

投稿規定

ページ範囲:P.832 - P.833

あとがき

著者: 石河晃

ページ範囲:P.834 - P.834

 この5月,ザルツブルグで日欧の皮膚電顕学会の合同会議に参加する機会を得た.ヨーロッパ側はsociety for cutaneous ultrastructural research,日本側は皮膚かたち研究学会(旧日本電顕皮膚生物学会)のjoint meetingである.電子顕微鏡を用いた研究は1970年ごろから1990年ごろがピークで,通常の病理組織所見がどのような微細構造からなっているか,盛んに研究された.その後は免疫電顕法の登場により細胞の微細構築と構成蛋白の対応が解明されるようになり,今日を迎えている.通常の電顕を用いた形態学のみでは研究が進まない時代となり,電顕ができる若手が激減したという悩みは万国共通である.学会終了後,皮膚科主任教授のHinter教授にお願いしてザルツブルグ大学医学部内に設置されているEBハウスを見学させていただいた.表皮水疱症(epidermolysis bullosa:EB)の患者のための施設である.EB患者を専門に診療するEB専門外来,EB治療開発のためのEB研究所,患者さん・医師・看護師などの教育ネットワーク構築のためのEBアカデミーの3部門から構成され,年間予算は1億円である.専任の医師が3名おり,表皮水疱症の脆弱皮膚のケアを指導するEBナースも2名常駐している.1つの希少皮膚疾患にこれだけの投資がされていることに驚嘆したが,これらはDebRAという患者団体(患者支援団体)が出資している.団体の運営資金は国の補助金と企業の寄付金である.日本の医療制度は国民皆保険であり,全員が一定水準の医療を公平に受けられる世界に誇る制度であるが,EBのような生涯にわたりびらん処置,指の癒合解除術などを受ける必要がある患者さんに対して,医療費軽減の施策はあるものの,積極的な診療,看護支援の体制はない.ニュージーランドでは毎日自宅で訪問看護師による全身びらんに対する処置を無料で受けられる.バリアフリーなどのインフラ整備もそうであるが,社会的弱者に対する扶助は日本より進んでいるのは宗教や文化の違いも関係しているのであろう.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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