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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻11号

2013年10月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・74

Q考えられる疾患は何か?

著者: 廣井彰久

ページ範囲:P.841 - P.842

症例

患 者:70歳,男性

初 診:1998年10月

主 訴:顔面,手掌,項部の紅斑性落屑性皮疹

家族歴:特記すべきことはない.

既往歴:10年前に大腸癌の手術.心筋梗塞.狭心症.飲酒歴なし.

現病歴:10年以上1人暮らし.1か月前に家の中で転倒してから,水分だけで十分な食事ができていなかった.2週間前からは起立歩行不能状態となり下痢も伴い,近医内科に入院後,皮疹を指摘され本科を受診した.

現 症:前額部,眼周囲,頰骨部,鼻部,下顎部にびまん性の掻痒を伴った紅斑がみられ,著しい落屑と痂皮が付着していた(図1).耳介,項部にも同様の皮疹がみられた.さらに,手掌全体,手指には落屑を伴った紅斑がみられた(図2).

マイオピニオン

触る皮膚科医,触らぬ皮膚科医

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.844 - P.845

 皮膚科医が診察の際に器械を使うことは滅多にない.診察風景だけ見たら,20世紀初頭の皮膚科医のそれと変わるところは全くないはずである.器械に頼らぬ皮膚科医が専ら頼るのは“目”であるが,もう1つ頼る重要なものに“手”がある.100年前の皮膚科医が,“手”をどれだけ使ったかは,今となってはわからないが,コンピューターの操作をしなかった分だけ“手”を使っていたのではあるまいか.皮膚は他の臓器と違い,手で直接触ることのできるほとんど唯一の臓器である.医師が行う医療行為は専ら手を使って行われるからこそ“手当て”と呼ばれるが,今,腫瘍など一部の病気以外で,触ることにより得られた情報を診断の助けにしている皮膚科医ははたしてどれほどいるだろうか?

 ある日,筆者の診察室に蕁麻疹が治らないと訴えるナースが受診した.彼女は,これまで筆者の勤務する大学を含め多く(5か所以上)の皮膚科医(ほとんど皮膚科専門医)の診察を受け,さまざまな内服薬を処方されたものの,一向に治らないと訴えた.処方された抗アレルギー薬は,ほとんど現在市場に出ているあらゆる種類のものが網羅されていたといえそうであった.筆者はまず,彼女に蕁麻疹のよく出る部位を見たいから,それを出して見せてほしいと伝えた.驚いたのは,そんなことは言われたこともないという彼女の訝しげな表情であった.その部位の皮膚の状態を見てさらに驚いた筆者は,触ってみて驚きの余り「あなたの職業はナースでしょ?」と思わず口走ってしまったのである.何に驚いたといって,20代の彼女の皮膚はまるで80代の老人のように乾燥していたからである.彼女の話を聞いてみると,蕁麻疹が出るようになってからは,医師の指示もあってお風呂に入らずシャワーだけで過ごしているとのことだった.乾燥した皮膚に生じたかゆみを蕁麻疹と誤解したのではないかとも思ったが,彼女の答はここに赤い「みみず腫れができるんです」とのことだった.そこで早速,ゆっくり湯船に漬かるように指示し保湿剤を大量に処方したのだが,翌週診察室に現れた彼女は晴々した表情で「蕁麻疹は全く出なくなりました」と筆者に伝えたのだった.彼女が診察の終わりにしみじみと言ったのは,「これまで誰も私の皮膚を触ってくれなかった」という言葉だった.

原著

薬剤性皮膚障害の診療における病院皮膚科医の役割―院内コンサルテーション症例より

著者: 内藤洋子 ,   江草雅代 ,   戸井洋一郎

ページ範囲:P.846 - P.852

要約 2010年1月~12月の1年間に,広島市民病院皮膚科では1,535件の院内コンサルテーションを受けた.紹介された疾患を湿疹・皮膚炎群,蕁麻疹・血管浮腫,薬疹・中毒疹,糖尿病性皮膚疾患,感染症,腫瘍性疾患,物理化学的皮膚障害,その他の8つのカテゴリーに分類しその内訳について検討したところ,薬疹・中毒疹が湿疹・皮膚炎群,感染症に次いで3番目に多かった.本検討では,当科へのコンサルテーションの内容を検討することで,薬剤性皮膚障害の診療において他科の医師および病院が病院皮膚科医に求めるものを知り,今後の診療科間の連携の方向性と病院皮膚科医の役割について考察した.

症例報告

カリジノゲナーゼによる線状扁平苔癬型薬疹の1例

著者: 山川千尋 ,   小林憲 ,   二宮淳也 ,   石崎純子 ,   藤林真理子 ,   田中勝

ページ範囲:P.853 - P.857

要約 60歳,男性.既往歴に2型糖尿病と糖尿病性網膜症があり,カリジノゲナーゼ(カルナクリン®)を1年前より内服していた.体幹,下肢の線状の皮疹を主訴に受診した.皮疹は右側腹部・右下肢に線状,帯状に融合して分布する暗褐色斑でありBlaschko線に沿っていた.ダーモスコピー所見でWickham線条を認めた.病理組織像は典型的な扁平苔癬の所見で,好酸球の浸潤を伴っていた.同剤内服中止後,速やかに皮疹は色素沈着を残し消退した.病理組織像と臨床経過よりカリジノゲナーゼによる線状扁平苔癬型薬疹と診断した.カリジノゲナーゼは古くから使用される薬剤だが,近年糖尿病性網膜症に有効で眼科領域での使用頻度が上昇している.長期内服による扁平苔癬型薬疹の存在を認識すべきである.

ステロイド内服とナローバンドUVBの併用療法が有効であった汎発性膿疱性乾癬の妊婦例

著者: 奥沢康太郎 ,   安池理紗 ,   山本祐理子 ,   金久史尚 ,   中井章淳 ,   益田浩司 ,   加藤則人

ページ範囲:P.858 - P.862

要約 24歳,女性,第一子妊娠中.10歳頃に膿疱性乾癬を発症したが,15歳以降は自然寛解していた.妊娠27週目頃から小膿疱と鱗屑を伴う紅斑が,体幹,四肢に出現し徐々にほぼ全身へ拡大した.白血球増加,CRP上昇,血中Ca濃度低下を認めた.妊娠が誘因となり再燃した汎発性膿疱性乾癬と診断した.ステロイド外用治療で効果はなく,ナローバンドUVB(NB-UVB)の単独療法(計1.8J/cm2,9日間施行)に切り替えたが,治療効果に乏しかった.プレドニゾロン(PSL)30mg/日の内服を7日間併用したところ皮疹は改善傾向を示した.その後NB-UVB療法を中止したところ再び皮疹は悪化した.NB-UVB療法を再開すると皮疹は改善し寛解が得られ,健康な男児を出産した.汎発性膿疱性乾癬の治療薬には催奇形性が報告されているものがあり,妊婦に生じた場合は治療の選択肢が制限される.ステロイド内服とNB-UVBの併用療法は催奇形性のリスクが低く,有効な治療法の1つと考えられた.

インフリキシマブが奏効したindeterminate colitisに伴うストマ周囲壊疽性膿皮症の1例

著者: 土井知江 ,   田中文 ,   山岡俊文 ,   横見明典 ,   種村篤 ,   川井翔一朗 ,   飯島英樹 ,   片山一朗

ページ範囲:P.863 - P.868

要約 41歳,男性.2007年に難治性外痔瘻のためストマ造設術を施行され,術後3日目にストマ周囲に皮膚潰瘍が出現した.発熱と関節痛および皮膚潰瘍の急速な増悪を認めた.2011年4月の当科初診時,ストマ周囲に穿掘性潰瘍がみられ,組織学的に血管炎は否定的で好中球主体の炎症細胞浸潤を認めたため,ストマ周囲壊疽性膿皮症と診断した.CRP 28.96mg/dl,血清IL-8 13.7pg/mlと上昇を認めた.合併症として,炎症性腸疾患を指摘された.皮膚潰瘍は外用ステロイドで治癒し,腸炎と関節炎はメサラジン3,000mg/日内服,週2回のメトトレキサート6mg/日内服でコントロールされていた.半年後に下血を伴い関節痛,皮膚潰瘍が再増悪し,プレドニゾロン1mg/kgの点滴を開始したが減量が困難であったため,インフリキシマブ5mg/kgの点滴を開始したところ,腸炎は著明に改善し,並行して皮膚潰瘍は上皮化した.難治性の壊疽性膿皮症においては,炎症性腸疾患の治療もかねて生物学的製剤の投与を考慮する必要があると考えた.

苔癬様型の皮膚症状を呈したサルコイドーシスの1例

著者: 佐伯葉子 ,   岡島加代子 ,   佐藤佐由里 ,   大西智子 ,   佐伯秀久 ,   伊東慶悟 ,   大槻マミ太郎

ページ範囲:P.869 - P.872

要約 67歳,男性.2010年8月頃より両眼の虹彩炎を繰り返し,ステロイド点眼治療で軽快と再発を繰り返していた.2011年4月頃より皮疹が出現し,同年8月当科を紹介された.初診時,掻痒を伴わない半米粒大までの紅色丘疹が体幹,四肢に多発し,一部で局面を形成していた.皮膚病理組織では表皮直下から真皮上層にかけて非乾酪性類上皮肉芽腫を認めた.肺門リンパ節腫脹はなかったが,血清ACEは21.5U/l,リゾチームは15.3mg/μlであった.眼所見で両側に前部ブドウ膜炎,隅角結節を認めた.苔癬様型の皮膚症状を呈したサルコイドーシスと診断し,眼にはステロイドの点眼を継続し,皮膚にはvery strongクラスのステロイド外用を開始し,皮疹は改善した.1983年以降に本邦で報告された苔癬様型の皮膚サルコイドの原著報告23例を解析したところ,血清ACE値よりリゾチーム値で陽性率が高い(18%:50%)ことが判明した.

胃癌を後発し郭清リンパ節にも類上皮細胞肉芽腫がみられたサルコイドーシスの1例

著者: 平井郁子 ,   崎山とも ,   木花光 ,   原田浩 ,   宮沢直幹

ページ範囲:P.873 - P.877

要約 71歳,男性.5年前より頭頂部に掻痒を伴う皮疹があった.3か月前より食欲不振が続き胃生検でtubular adenocarcinomaと診断された.術前のCTでは縦隔リンパ節が腫大し,ガリウムシンチグラムで集積を認めた.また,血清ACE活性,リゾチームは高値であった.頭頂部の不整形紅斑から生検し非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫を認め,サルコイドーシスと診断した.早期胃癌に対し根治術を施行した際,郭清したリンパ節の一部に類上皮細胞肉芽腫が充満しており,悪性腫瘍に伴うサルコイド反応と鑑別を要した.自験例はサルコイドーシスのリンパ節に特徴的な,リンパ節全体に多発充満する境界明瞭な肉芽腫像を呈していたことより,組織学的にもサルコイドーシスのリンパ節浸潤と診断した.両者の鑑別には,サルコイドーシスの基準を満たす全身症状の有無の評価をした上で,典型的な所見であれば組織学的にも鑑別しうると思われた.

皮下結節性脂肪壊死症の2例

著者: 岩崎智子 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.879 - P.882

要約 症例1:81歳,女性.膵癌手術1年後に肝転移が確認され,3か月後に両下腿に疼痛を伴う,発赤の強い皮下硬結が出現した.血液検査にてアミラーゼの上昇はなかった.症例2:53歳,男性.胃癌手術の1か月後に両下腿に疼痛を伴う硬結が出現した.血液検査にてアミラーゼ2,269IU/l,リパーゼ976IU/lと膵酵素の著明な上昇があり,術後膵液漏の診断で外科に入院した.2症例とも病理組織学的に顕著な脂肪細胞の変性,壊死があり,ghost-like cellがみられた.皮下結節性脂肪壊死症は膵炎・膵癌などの膵疾患に伴って生じることが多く,症状の出現が原疾患の診断確定より先行する場合もある.下腿の有痛性の皮下結節をみたときには,本症を鑑別疾患の1つとして念頭に置き,基礎疾患の精査や病理組織学的な検討をする必要がある.

外陰部に巨大な腫瘤を対称性に生じ,特異な臨床像を呈したMadelung病(良性対称性脂肪腫症)の1例

著者: 松澤美幸 ,   赤澤聡 ,   安藤典子 ,   猪爪隆史 ,   原田和俊 ,   川村龍吉 ,   柴垣直孝 ,   島田眞路

ページ範囲:P.883 - P.886

要約 46歳,女性.アルコール性肝障害および6年前と4年前に後頸部の脂肪腫切除歴があった.4年前から外陰部の腫脹を自覚していたが,羞恥心より医療機関を受診しなかった.徐々に腫脹が増悪し,歩行時の疼痛や排尿困難が出現したため当科を受診した.初診時,両側外陰部に左右対称性の巨大な皮下腫瘤を認めた.MRIで両側頸部・後頸部・肩甲部・外陰部にT1強調,T2強調画像ともに高信号,脂肪抑制画像で低信号となる領域を認めたため,Madelung病と診断した.切除した腫瘤に明らかな被膜はなく,病理組織学的に異型性のない成熟脂肪細胞の増生を認めた.本疾患の本邦報告例は医中誌検索上,106例にのぼるが,女性の外陰部に生じた症例は報告されておらず稀な症例と考えられる.

精神神経学的症状を欠き顔面の血管線維腫より診断された結節性硬化症の1例

著者: 高橋暁子 ,   木曽真弘 ,   馬場ひろみ ,   吉田寿斗志 ,   福地修 ,   竹内常道 ,   松浦英一

ページ範囲:P.887 - P.890

要約 9歳,男児.痙攣発作の既往や精神発達遅滞を認めず.家族歴に特記すべきことはない.5歳ごろに頰部や鼻部に小結節が初発し,増数したため受診した.小結節は,病理組織学的に真皮浅層の血管の開大と毛包周囲の膠原線維の増加を伴い,線維芽細胞の一部は星状を示し血管線維腫の所見に一致した.体幹の小豆大の脱色素斑と頭部CTにて脳室上衣下結節を認め,結節性硬化症と診断した.顔面の血管線維腫は,精神発達遅滞や痙攣発作の既往のない結節性硬化症診断の手掛かりとして大切である.

軟部組織炎が多発した劇症型溶血性連鎖球菌感染症の1例

著者: 戸田和美 ,   藤井紀和 ,   寺村和也 ,   加藤威 ,   中西元 ,   田中俊宏 ,   松村一弘

ページ範囲:P.891 - P.896

要約 30歳台,女性,基礎疾患なし.近医で中耳炎の治療を受けた3週間後,左上肢と左下肢に非常に強い痛みが出現したため,救急要請し,受診した.初診時,体温37.8℃,左手掌と左足背に発赤,腫脹,疼痛,熱感を認めた.左上肢,左下肢の蜂窩織炎と診断し,入院の上,抗菌薬の投与を開始した.第3病日に血圧低下,播種性血管内凝固症候群を認め,左足に水疱,紫斑が出現した.また左手掌と右足背に発赤,腫脹を認めた.血液検査でCPKが2,207IU/lに上昇したため,左足の壊死性筋膜炎と診断し,直ちにデブリードマン術を施行した.血液培養と左足の組織からA群溶血性連鎖球菌が検出され,劇症型溶血性連鎖球菌感染症と診断した.左手掌と右足背は皮下膿瘍を形成していたため切開排膿した.救命,患肢温存のためにはデブリードマンの機を逃さないことが重要である.また,過去5年間の症例をまとめた結果,軟部組織炎を多発していることは必ずしも予後不良の徴候ではないことが示唆された.

マイコプラズマ関連粘膜炎の1例

著者: 岡田佳与 ,   遠藤雄一郎 ,   江川形平 ,   浅井啓太 ,   別所和久 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   椛島健治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.897 - P.900

要約 33歳,女性.当科初診10日前に上気道炎様症状が出現した.初診5日前より口腔,鼻腔,陰部に水疱,びらんが出現,食事摂取が困難となった.初診2日前に近医受診し,アシクロビルとプレドニゾロン20mg/日を開始されたが口腔内の症状が改善しないため当科入院となった.口唇・口腔粘膜の病理組織検査では粘膜びらんを認めたが,蛍光抗体直接・間接法はいずれも陰性であった.DLST,水疱症関連の自己抗体はいずれも陰性であった.CTでは中肺野に区域性のスリガラス状陰影を認め,マイコプラズマ抗体640倍と高値より,マイコプラズマ感染と診断した.上気道炎症状が先行したことを考慮すると,マイコプラズマ関連粘膜炎と考えられた.マイコプラズマ感染に伴う多形滲出性紅斑やStevens-Johnson症候群は広く知られているが,マイコプラズマ関連粘膜炎は粘膜を中心に症状を起こすことがあり,鑑別に挙げる必要があると考えた.

13年の経過で2か所に個別に生じた悪性黒色腫の1例

著者: 渋谷倫太郎 ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   椛島健治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.901 - P.904

要約 81歳,女性.13年前に左第3指の悪性黒色腫に対し他院で指切断および左腋窩リンパ節郭清術を施行された.2011年7月に右第1趾の紅色皮膚腫瘍を自覚し,当科受診した.皮膚生検で悪性黒色腫と診断され,趾切断術およびセンチネルリンパ節生検を施行した.切除趾の後爪郭にin situ病変を認め,二次原発と判断した.2個のセンチネルリンパ節はともに陽性であり,右鼠径リンパ節郭清術を施行した.pT4bN3M0,stage ⅢCと考え,インターフェロン単独治療(200万単位,月1回投与)で経過観察中である.自験例では,初発病変が所属リンパ節転移を認めなかったこと,そして二次病変にin situ病変を認めたことから二次原発癌であると判断した.二次原発の悪性黒色腫は,本邦ではこれまで報告されておらず,本邦1例目である.

HER2蛋白の過剰発現を認めた急性進行型乳房外Paget病の1例

著者: 秋本成宏 ,   森川博文 ,   梅田直樹 ,   吉屋直美 ,   木矢絢子 ,   中村吏江 ,   臺丸裕

ページ範囲:P.905 - P.910

要約 74歳,男性.初診3日前から突然右下肢の腫張としびれが出現した.CTで右下肢軟部組織の濃度上昇および浮腫性変化のほか,多発リンパ節転移および多発骨転移を認め,血清CEA値が16.9ng/mlと高値であった.精査中,右陰囊部に小びらんを伴った鶏卵大の乳頭状紅色局面が発見され,皮膚生検および右鼠径リンパ節生検から右陰囊部原発の急性進行型乳房外Paget病(T2N1M1 stage Ⅳ)と診断した.自験例を含め過去17年間の乳房外Paget病11例においてHER2蛋白染色を行ったところ,表皮内癌9例中4例(44%),浸潤癌2例中2例(100%)にHER2蛋白の過剰発現を認め,腫瘍細胞の浸潤を認めるものでは,HER2蛋白の発現スコアが高い傾向がみられた.急性進行型の存在を認識するとともに,HER2蛋白の過剰発現が本症の進展に重要な役割を担っている可能性を考えた.

イミキモドクリームが奏効した古典型Kaposi肉腫の1例

著者: 金井千恵 ,   白山純実 ,   城光寺龍 ,   辻本正彦 ,   八幡陽子

ページ範囲:P.911 - P.916

要約 84歳,男性.3年前より右足底中央に小指頭大の紫紅色斑が出現し,半年前より徐々に増大した.初診時,右足底中央に浸潤をふれる26×17mmの暗紫色斑と,右足の母趾腹,踵部に3mm大,土ふまず部に6×5mmの紫紅色斑を認めた.皮膚病理所見で真皮内に不規則な形の血管と紡錘形細胞が結節状に増殖し,膠原線維間には赤血球を混じる細隙を認めた.増殖している細胞はCD31,CD34,D2-40,MIB-I,HHV-8陽性であった.血中抗HIV抗体は陰性で,古典的Kaposi肉腫と診断した.精査の結果,内臓病変は認めなかった.皮疹が足から前腕にも増数拡大してきたため,イミキモドクリーム外用加療(週3回)を開始したところ,暗紫色斑は消退し新生も認めなくなった.その後4か月間休薬していたところ,足に紫紅色斑の再燃を認めたため外用を再開し軽快している.古典的Kaposi肉腫の治療の1つとしてイミキモドクリームは有用ではないかと考えた.

老人性血管腫の皮下組織の血管に腫瘍性B細胞を認めたintravascular large B-cell lymphomaとHodgkinリンパ腫の複合リンパ腫の1例

著者: 島本紀子 ,   白瀬智之 ,   木原香織 ,   大野辰治 ,   吉川義顕

ページ範囲:P.917 - P.921

要約 65歳,女性.Hodgkinリンパ腫の化学療法後に病勢評価目的で行われた骨髄生検にて大型の腫瘍性B細胞がみられ,intravascular large B-cell lymphoma(IVL)が疑われたため皮膚生検を施行した.腹部における老人性血管腫3か所と無疹部1か所から生検を行い,4か所ともに皮下脂肪織の小血管に大型のCD20陽性リンパ腫細胞を認めた.IVLと確定診断し,リツキシマブ-CHOP療法を行った.近年,老人性血管腫を生検し,血管腫内に腫瘍細胞を認めIVLの診断に至った報告が散見される.自験例では,腫瘍細胞は老人性血管腫内の血管には認められず,皮下脂肪織の小血管内にのみ存在していた.老人性血管腫を生検する場合でも皮下脂肪織を十分に含め採取することが重要であると考えた.

印象記

第9回アジア皮膚科学会議(ADC2013)印象記

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.922 - P.924

 第9回アジア皮膚科学会議(Asian Dermatological Congress:ADC)は,2013年7月10~13日,香港のコンベンションセンターを会場に,Henry Chan教授を会頭として盛大に開催された(図1).Henry Chan教授は,『西日本皮膚科』の「世界の皮膚科学者」にも写真入りで紹介されているが1),蝶ネクタイがよく似合う,きわめておしゃれでリッチな英国仕込みの紳士である(何しろ乗組員4人を雇用するかなり大きな彼の自家用クルーザーで香港湾をクルーズしたことがあり,また彼の洋服はすべて銀座仕立て,築地の高級寿司店の常連というから,ランズエンドを着込み,お寿司といえば回転するものと思っている私とはだいぶかけ離れているのは間違いない).彼は長年アジア皮膚科学会の事務局長を務めており,アジア皮膚科学会は実務的には彼の尽力で運営維持されてきたと言っても過言ではない.私も現在アジア皮膚科学会副理事長であるが,アジア皮膚科学会の実情や細かい経理内容などは彼に聞かないと何もわからないことを吐露しなくてはならない.その彼が,満を持して会頭を務めて開催したのが今回の第9回アジア皮膚科学会議であった.彼も今回を最後にアジア皮膚科学会の実務から身を引くと宣言していることもあり,彼の今回の会議への意気込みは尋常ではなかったことがうかがわれた.実は第8回アジア皮膚科学会議は2008年にソウルで開催されたので,当初の予定では2011年に香港で第9回アジア皮膚科学会議が開催予定であったが,同年にソウルで世界皮膚科学会が開催され,また翌年の2012年には北京で東アジア皮膚科学会が予定されていたこともあり,開催が2013年までずれ込んだ経緯がある.

 多くの日皮会会員はご存じないと思うが,アジア皮膚科学会は久木田東大名誉教授らが中心となって設立された経緯もあり,いまも『J Dermatol』はアジア皮膚科学会の機関誌でもある2).もっとも本会議が日本で開催されたことはなく,東南アジアを中心に持ち回りで開催されてきたが,本学会では東アジア~東南アジアのみでなく,インドなどの南アジアや中東各国もアジアの一員としてメンバーであり(トルコのボスポラス海峡まではアジアである),次回の会議は2016年にインドのムンバイで開催されることになっている.ちなみに,2019年の世界皮膚科学会にはインド,中国,アラブ首長国連邦の3国が立候補を決めており,アジア皮膚科学会としては,その誘致にいずれの国を推すべきか,うれしい悲鳴をあげているところである(2015年はご承知のようにバンクーバー開催が既に決まっている).

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欧文目次

ページ範囲:P.839 - P.839

文献紹介 抗p200類天疱瘡における自己抗体の病原性

著者: 森下加奈子

ページ範囲:P.900 - P.900

 抗p200類天疱瘡は,1996年に最初に報告された自己免疫性の表皮下水疱症で,臨床症状は緊満性水疱を形成し,蛍光抗体直接法で真皮表皮境界部にIgG自己抗体の沈着,患者血清は免疫ブロット法において200kDa蛋白を認識する.近年,ラミニンγ1が抗p200類天疱瘡の標的抗原であること,さらにそのC末端が主要なエピトープであることが解明された.しかし,今まで抗p200類天疱瘡における自己抗体の病原性ははっきりと示されておらず,この研究で著者らは抗ラミニンγ1抗体の病原性について検証した.

 抗体の表皮化水疱形成能をex vivoで評価するcryosection assay法において,抗p200類天疱瘡患者の血清はヒト皮膚に表皮下水疱を誘導したが,抗p200類天疱瘡患者からとられた抗hLAMC1-cterm(ヒトラミニンγ1のC末端の組み換え蛋白)に反応するIgGは,ヒトの皮膚において,水疱を形成しなかった.抗hLAMC1-cterm IgGを除去した血清は免疫ブロット法においてp200抗原と反応し,蛍光抗体間接法では真皮表皮結合部を染色して,水疱を引き起こした.一方で,すべてのIgGを除去した抗p200水疱症血清は表皮下水疱を引き起こさなかった.また,マウスのラミニンγ1C末端を免疫したウサギのIgGはマウスの皮膚において水疱を引き起こさなかった.異なる種類のマウスにおいて,mLAMC1-cterm(マウスラミニンγ1のC末端の組み換え蛋白)を免疫したが,自己抗体を作り出すものの,水疱形成は観察されなかった.

次号予告

ページ範囲:P.925 - P.925

投稿規定

ページ範囲:P.926 - P.927

あとがき

著者: 瀧川雅浩

ページ範囲:P.928 - P.928

 2020年夏季オリンピック・パラリンピックが東京で開催されることになりました.国を挙げての誘致活動のなかで,最も印象的だったのは国際オリンピック委員会(IOC)総会での日本招致チームのプレゼンテーションではなかったかと思います.老い(失礼!)も若きも,英語でのすばらしい招致演説が,IOC委員のこころをつかんだのだと思います.昨今,グローバル人材の育成が声高に叫ばれています.文科省は,「若い世代の内向き志向を克服し,国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として,グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図るため,大学教育のグローバル化のための体制整備を推進する」と,うたっています.グローバル人材の育成は国が推進するものでしょうか? IOC委員会での若い方々の演説を聞いていると,グローバリゼーションはもう既に終わっているのではないかと思います.私の友人にFさんというベトナム人がいます.ベトナム戦争の末期に日本留学中でしたが,1975年4月のサイゴン陥落によりベトナムへの帰国ができなくなり,そのまま日本に滞在しました.おそらく,いわゆる“難民”になったのだと思います.その後,日本女性と結婚して,医療機器会社を日本で起業しました.業績も伸びて,米国にも子会社を設立しました.昨年は,天皇陛下が会社視察に来られたということで,話題にもなりました.Fさん曰く,「日本ではグローバリゼーションはとっくの昔に終わっていますよ.これからは,日本のグローバル人材が何をするかです」.国際的な皮膚科学会でも,日本の多くの若い皮膚科医たちがすばらしい英語で堂々と発表しています.私が若かった頃とは様相が全く異なってきています.英語をしゃべることはグローバリゼーションの基本ですが,すべてではありません.自分が持っている基盤を支える文化を十分に自分自身で理解すること,そして,その文化を含めたプレゼン内容を相手に理解してもらうこと,それがグローバリゼーションではないかと思います.グローバリゼーションは自分自身で作っていくもの,国から与えられるものではないと思います.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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