icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻12号

2013年11月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・75

Q考えられる疾患は何か?

著者: 鬼頭由紀子

ページ範囲:P.937 - P.938

症例

患 者:52歳,男性

主 訴:右頸部の腫瘤

既往歴・家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:当科初診の3か月前,右頸部に紅色の結節性病変が出現した.1か月前に約5cm大の半球状の紅色腫瘤となり近院を受診し(図1),腫瘤の部分摘出が行われた.しかし残存病変が著しく増大したため当科を紹介された.

現 症:当科初診時には右頸部の腫瘤は9.5×8.5×2.0cmとなっており,表面は潰瘍化していた.また右頸部リンパ節腫大を認めた.

マイオピニオン

日本皮膚科学会のガイドラインの問題点

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.940 - P.941

 日本の皮膚科治療は欧米はおろか,東南アジア諸国よりも劣っているが1),このことを日本の皮膚科医は知らない.あるいは知っていても利益相反(conflict of interest:COI)があるため,黙っているのかもしれない.その最たるものが尋常性乾癬治療で,チガソンは1990年代にWHOが使うべき薬でないと勧告が出された薬剤で,日本以外の国では使用していない(海外では半減期が短いacitretinを使用している).またシクロスポリンを乾癬に使用しているのは日本ぐらいで,乾癬に対する内服薬の第一選択はメトトレキサート(MTX)である.実際私はJICAの依頼でバンコクにて皮膚科の先生に講義をしているが,そのときにアラブ首長国連邦(UEA)から来ていた女性医師から「シクロスポリンは乾癬に効果があるが,使用を中止するとすぐに再燃する.さらに副作用も多く,数年するとシクロスポリン腎症になり,透析も受けなければならない患者も出てくる.さらに薬の値段も高い.MTXがあるのに,どうしてそのような薬を使用するのか?」と言われ困ったことがある.そのため,ことあるたびにMTXの保険適用を日本皮膚科学会に提言しているが(日本リウマチ学会はとっくにMTXの保険適用の申請をし,現在MTXは関節リウマチに保険適用がある),学会が行ったのは医療費の高騰を招く生物製剤の保険適用である.米国でもシクロスポリンを乾癬に使用することはないが,使用するにしても副作用の発現を抑えるため,その使用は1年以内とされている.これが世界の常識である.ところがこの常識が日本では通用せず,むしろ最近になって薬物動態に合わせたシクロスポリンの投与法のガイドラインまで作成し,さらなるシクロスポリンの宣伝が行われている.乾癬友の会の患者に世界標準治療を隠しながら間違った治療をしているのであれば,乾癬ビジネスの謗りを免れない.

 このようにわが国の皮膚科治療は問題が多いのにもかかわらず,日本皮膚科学会は治療のガイドラインを公表し,しかも英文化して世界に発信するという.確かに日本皮膚科学会のガイドラインには,優れたところも多いが,それは診断のところであり,本来の目的である治療が絡むとなると,問題があるものが少なくない.それは日本の皮膚科医の多くがEBM(evidence based medicine)を正しく理解していないからである.

原著

角化型疥癬を感染源とした保育園疥癬集団感染例

著者: 牧上久仁子 ,   小野田雅仁 ,   小竹伊津子 ,   石井則久

ページ範囲:P.942 - P.947

要約 ステロイド外用により角化型疥癬を発症した4歳児が感染源となった園児18名,家族7名,職員3名が疥癬を発症した保育園集団感染を経験した.初発患者はアトピー性皮膚炎以外に健康上問題なく,クロタミトン外用では再発を5回繰り返し,イベルメクチンを投与し治癒した.再発は二次感染者(園児8名,保護者2名)でもみられた.全関係者が治癒と判定されるまでに18か月を要した.再発に加えて,乳幼児では成人に比べ疥癬後遺症状の頻度が高く治癒判定が難しいことも終息に時間がかかった要因と考えられた.本事例では通常保育のクラスでの感染以外に,家庭内や,土曜保育での感染が認められ,感染対策にあたって保育状況を把握する必要があった.本事例は,関係者と地域の医療関係者に集団感染の認知直後から疥癬に関する情報提供を行い,パニックは起こらなかった.

症例報告

結節性紅斑様皮疹の病理組織所見より診断に至った神経Behçet病の1例

著者: 本多皓 ,   松﨑ひとみ ,   栗原英美 ,   高橋京子 ,   陳科榮

ページ範囲:P.948 - P.952

要約 52歳,男性.初診3日前より感冒症状あり,発熱と意識障害を生じ当院に搬送された.意識レベルJCSI-3,体温40.4℃,項部硬直あり,両下腿に大豆大の浸潤性紅斑を多数認めた.血液検査にてWBC 9.2×103/μl,CRP 23.7mg/dlと炎症反応高値,髄液検査では髄圧亢進と好中球主体の細胞数増加を呈した.感染性髄膜脳炎の診断でメロペネム水和物6g/日,バンコマイシン塩酸塩2g/日,アシクロビル750mg/日を投与したが,発熱と頭痛は持続した.下腿紅斑の病理組織にて真皮中下層の細静脈にリンパ球性血管炎を認め,Behçet病を疑った.精査にてぶどう膜炎,再発性口腔内アフタ,針反応陽性を認め,不全型Behçet病,神経Behçet病と診断した.プレドニゾロン30mg/日投与にて,発熱・頭痛ともに改善した.Behçet病の結節性紅斑様皮疹・浸潤性紅斑は脂肪織炎に加え,リンパ球・好中球性細静脈炎を主とする血管病変を認めることが多い.初診時の臨床・検査所見では診断に難渋したが,皮膚病理組織所見より診断に至った.全身疾患における皮膚所見の重要性を再認識した.

老年期にみられた汎発性Hailey-Hailey病の1例

著者: 千田聡子 ,   藤本典宏 ,   端本宇志 ,   佐藤貴浩

ページ範囲:P.953 - P.957

要約 78歳,男性.約40年前から夏期に増悪する紅斑やびらんを間擦部に繰り返し,妹や娘にも同様の症状があった.某内科医院で外用ステロイド軟膏により加療されていたが,昨年夏より軀幹・四肢に小水疱,膿疱を伴うびらん,紅斑が拡大し来院した.生検組織では表皮内の裂隙形成と表皮細胞の棘融解像を認め,汎発性Hailey-Hailey病と診断した.膿疱内からはメシチリン感受性黄色ブドウ球菌を検出した.抗生剤内服でいったん汎発化が治まったが,ステロイド外用と抗アレルギー剤内服に変更したところ,短期間で再び汎発化した.エトレチナート20mg/日,塩酸ミノサイクリン200mg/日内服とステロイド外用で著明に改善した.自験例では,夏期の皮疹増悪時に入浴および洗浄を控えたが,一方でステロイド軟膏外用は継続したため,細菌感染を生じ,汎発化した.塩酸ミノサイクリン投与で感染が鎮静化し,炎症性サイトカインが抑制され,症状改善したと考えた.

全身症状を伴うlupus erythematosus tumidusと考えた2例

著者: 大田玲奈 ,   外川八英 ,   中込大樹 ,   鎌田憲明 ,   神戸直智 ,   松江弘之

ページ範囲:P.958 - P.964

要約 症例1:49歳,男性.日光曝露後に露出していた両上腕,さらに背部にも浮腫性紅斑が出現した.症例2:36歳,女性.両上腕伸側に浸潤を触れる網状紫紅色局面が出現した.2例とも組織学的に表皮の変化はみられず,真皮上層から深部まで血管,付属器周囲を中心に単核球の浸潤と膠原線維間にムチンの沈着を認め,蛍光抗体直接法は陰性であった.臨床所見と組織学的所見より,いずれの症例もlupus erythematosus tumidus(LET)と考えた.症例1は経過中,SLEの診断基準の5項目を満たしSLEの診断に至った.症例2は同診断基準の3項目を認めた.LETは従来cutaneous LEの一型とされ全身症状をほとんど伴わないと考えられている.しかし経過中にSLEと診断された報告も散見されるため長期的な経過観察が必要と考えた.

汎発型限局性強皮症の1例

著者: 栗原佑一 ,   田中京子 ,   早川和人 ,   宮川俊一

ページ範囲:P.965 - P.970

要約 69歳,男性.初診3年前より軀幹に紅斑が出現,ほぼ全身へ拡大した.手掌大までの自覚症状を伴わない浸潤を触れる紅色斑が多発・癒合し,硬化局面を形成していた.辺縁では発赤が見られた.Raynaud症状,手指の浮腫性硬化,嚥下困難,呼吸器症状は認めなかった.抗核抗体,抗Scl-70抗体,抗セントロメア抗体,抗ds-DNA抗体,抗ss-DNA抗体,抗RNP抗体,リウマチ因子は陰性であった.病理組織像では真皮に膠原線維の膨化と増生,リンパ球・好酸球を混じた炎症性細胞浸潤を認めた.汎発型限局性強皮症と診断した.プレドニゾロン30mg/日内服にて加療を開始し,紅斑と皮膚硬化症状は改善.5mg/日まで漸減したが再燃なし.早期治療が予後に関連すると考えられ,早期治療が重要である.

四肢・顔面型後天性真皮メラノサイトーシスの1例

著者: 橋本由起 ,   清水篤 ,   石河晃

ページ範囲:P.971 - P.975

要約 25歳,女性.小児期から手背と下腿に色素沈着が出現し,5年前から色調が濃くなり拡大し,鼻翼にも同様の色素沈着が生じた.初診時,左右対称性に両側の手背,足背,前腕と下腿伸側に融合する小豆大までの淡褐色斑が多発し,鼻翼にも小褐色斑を認めた.ダーモスコピー像は不均一で境界不明瞭な粗大網目状パターンを呈した.皮膚病理組織像では表皮基底層に不連続なメラニン沈着と真皮上層にS100蛋白陽性の真皮メラノサイトとCD68陽性のメラノファージを認め,表皮突起とメラニン沈着は一致しなかった.透過型電子顕微鏡にて,真皮メラノサイトとメラノファージを確認したが,後者のほうが多く存在した.これらの臨床組織学的所見より,四肢・顔面型後天性真皮メラノサイトーシスと診断した.本疾患はいまだ報告は少ないが,報告例はいずれもきわめて特徴的な臨床像を呈し,一部に家族内発症を認めることから独立した遺伝性疾患の可能性が考えられた.

ムチン沈着を伴った巨大な表在性皮膚脂肪腫性母斑の1例

著者: 吉田亜希 ,   前田文彦 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.976 - P.980

要約 66歳,男性.30歳台頃に初めて右臀部,右下肢の皮疹に気付いたが放置していた.初診時,右臀部から大腿および下腿後面にかけて常色から一部淡紅色を示す巨大な隆起性局面を断続的に認め,臀部では腫瘤が脳回転状に大型の皺襞を形成していた.局面上には大小,拇指頭大までの有茎性ないしは広基性の弾性軟,常色腫瘤を多数認めた.自覚症状はなかった.治療は臀部の腫瘤部分を切除,縫縮した.組織所見では真皮浅層から深層にかけ成熟した脂肪細胞が異所性に密に増生していた.また臀部の腫瘤部に限局して真皮内に著明なムチン沈着もみられた.自験例は巨大な表在性脂肪腫性母斑であり,調べえた限り本邦報告例では最大である.自験例はきわめて稀な臨床像であり,組織学的にムチン沈着が生じた機序に外的刺激の関与の可能性を考えた.

男性乳癌の1例

著者: 佐藤純子 ,   深澤まみ ,   松浦裕貴子 ,   鴇田真海 ,   吉田寿斗志 ,   福地修 ,   木下智樹 ,   中川秀己

ページ範囲:P.981 - P.985

要約 68歳,男性.右乳頭部の小結節を主訴に受診した.初診時,右乳頭に6mm大の紅色小結節を認めた.皮膚生検病理組織にてadenocarcinoma(乳癌)と診断し,乳腺内分泌外科で全乳房切除術,センチネルリンパ節生検を施行された.病期はstage Ⅰ(pT1bN0M0)であり,浸潤性乳管癌であった.術後補助療法は行わず,現在経過観察中である.男性乳癌は全乳癌の1%未満の頻度と,比較的稀で女性乳癌の平均年齢よりも10歳以上高い.高齢化は進む一方であることから,今後男性乳癌患者数も増加すると考えられる.男性乳癌患者数の初診時皮膚所見は,腫瘤,紅斑,硬結が多く,初期から皮膚表面に症状が現れるため,皮膚科を初めに受診する可能性が高いと考えられる.

鼻背部に生じたリンパ管への分化傾向を示す脈管肉腫の1例

著者: 岡村賢 ,   川口雅一 ,   上原香子 ,   矢口順子 ,   村田壱大 ,   片桐美之 ,   鈴木民夫 ,   加藤智也 ,   山川光徳

ページ範囲:P.986 - P.990

要約 83歳,男性.2012年3月に右鼻背部の紅色腫瘤に気付いた.拡大傾向にあったため,近医皮膚科を経由し,6月に当科を受診した.右鼻背部に径20×20mm,高さ3mmの凹凸のある紅色腫瘤を認め,周囲に径33×24mmの紅斑がみられた.病理組織像では,真皮上層から皮下にかけて核異型を伴う類上皮細胞様細胞が充実性あるいは索状に増殖していた.一部ではHobnail cell(鋲釘様細胞)を含む内皮細胞様の細胞が不規則な管腔様の裂隙を形成していた.免疫染色では,腫瘍細胞はD2-40,抗Factor Ⅷ抗体,抗CD31抗体で染色され,CD34は発現していなかった.PET/CTではリンパ節転移・遠隔転移を認めなかった.10mmマージンで切除し植皮した後,ドセタキセル(25mg/m2)の投与と60Gy/30分割の局所放射線照射を併用した.自験例では予後の異なる血管肉腫とリンパ管肉腫の鑑別が困難であった.病理組織学的に,D2-40の染色パターン,Hobnail cellの有無,管腔内外の赤血球の有無などが鑑別に有用であると考えた.

菌状息肉症の経過中に生じたgranulomatous mycosis fungoidesの1例

著者: 松﨑ひとみ ,   本多皓 ,   綿貫沙織 ,   栗原英美 ,   陳科榮

ページ範囲:P.991 - P.996

要約 76歳,女性.3年前より体幹を中心に紅斑が出現し,全身に拡大した.初診時生検で真皮浅層に表皮向性を伴う異型リンパ球が稠密に浸潤し,菌状息肉症(mycosis fungoides:MF)と診断した.肉芽腫や肉芽腫性炎症の所見はなかった.PUVA療法とインターフェロンγ療法施行中,紅斑上に丘疹・浸潤局面が出現した.病状の進行を疑い紅斑と丘疹を再生検したところ,共に真皮下層までの腫瘍細胞巣内に,多核巨細胞を伴う肉芽腫や肉芽腫性炎症像を多数認め,病理組織学的にgranulomatous MF(GMF)と診断した.治療継続により丘疹は消退し,紅斑も浸潤をほとんど触れない状態となった.GMFはMFの稀な亜型であり,異型リンパ球の浸潤に肉芽腫性炎症を伴う.当初はGMFの肉芽腫性炎症は腫瘍細胞に対する免疫反応であり,通常のMFに比べ予後が良いとされるが,急激に進行する症例もその後報告され,一概に予後良好とは言えない.

胃原発diffuse large B-cell lymphomaの治療後,大細胞転化を伴う菌状息肉症を生じた1例

著者: 内山明彦 ,   田子修 ,   山田和哉 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.997 - P.1001

要約 84歳,女性.1989年胃原発diffuse large B-cell lymphomaと診断された.1990年胃全摘術後,化学療法を行い,その後再発はなかった.2010年5月より体幹,四肢に皮疹が出現し,同年8月当科を受診した.初診時,体幹・四肢に小指頭大までの淡紅褐色斑および結節が散在し,腰部には潰瘍を伴う結節がみられた.皮膚病理組織像では,表皮内の微小膿瘍,真皮浅層に中~大型の異型リンパ球の稠密な浸潤増殖があり,大細胞転化を伴った菌状息肉症と診断した.皮疹は急速に増悪し,初診から1年後に永眠した.皮膚T細胞リンパ腫とB細胞リンパ腫の併発は稀である.原因として遺伝的素因やEBウイルス感染,抗腫瘍薬による2次性発癌などが挙げられているが,詳細は明らかでない.

Scedosporium apiospermumによる深在性真菌症の1例

著者: 木村摩耶 ,   宮本亨 ,   徳田佳之 ,   矢口貴志

ページ範囲:P.1002 - P.1006

要約 83歳,男性.6年前より多発関節炎であるRS3PE症候群(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema:対称性滑膜炎)に対しステロイドの加療が開始され現在ベタメタゾン1mg/日の内服をしていた.明らかな外傷の既往はないが,1週間前に右手背の紅色丘疹に気づいた.当科受診時,右手関節背側に鱗屑と黒色痂皮を伴う米粒大から母指頭大の紅色丘疹と周囲の腫脹を認めた.皮膚病理組織像ではHE染色にて真皮内に膿瘍が形成され,Grocott染色陽性の菌要素を認めた.真菌培養でみられたコロニーは白色綿毛状から淡褐色を呈し,分生子の形状は分生子柄とその先端に卵円形をした分生子が観察された.この形態学的な特徴とrDNAのITS領域の塩基配列からScedosporium apiospermumと同定した.右手背以外の皮膚や他臓器への真菌感染を疑わせる所見は認めなかった.イトラコナゾール100mg/日の内服を開始したが,2週間後より誤嚥性肺炎を繰り返し,呼吸状態の悪化により2か月後永眠された.Scedosporium apiospermumは,自然界に広く分布する土壌菌で,免疫低下患者には時に肺炎,髄膜炎などを起こすことがある.自験例では迅速な菌同定ができ,イトラコナゾールが有効であったと考えられた.

急性B型肝炎に伴う血清病様症候群の1例

著者: 佐伯葉子 ,   安藤菜緒 ,   岡島加代子 ,   佐藤佐由里 ,   堀江義則 ,   佐伯秀久 ,   伊東慶悟 ,   大槻マミ太郎

ページ範囲:P.1007 - P.1011

要約 39歳,女性.初診の2日前より両手掌および両下腿から足背にかけて皮疹が出現し,2011年7月当科を受診した.なお同じ頃から関節痛も生じていた.両下腿から足背にかけて軽度浸潤を触れる紅色丘疹ないし小紅斑が散在し,両手掌基部と手指先にやや浮腫性の紅斑を認めた.血液検査でAST 90U/l,ALT 108U/lと上昇し,HBs抗原2,456COIと高値を示した.皮膚病理組織所見では表皮の一部に強い細胞間浮腫を認め,その周囲にリンパ球が浸潤していた.急性B型肝炎に伴う血清病様症候群と診断した.皮疹は無治療にて1週間後に自然消退した.その後さらに肝機能が悪化したため,エンテカビル1日1回0.5mg内服を開始したところ,1か月後に肝機能は正常化した.1983年以降に本邦の皮膚科領域から報告されたB型肝炎に伴う血清病様症候群の原著報告12例を解析した.皮膚症状の出現後さらに肝機能が悪化した例が10例あり,継続的な肝機能の観察が必要と考えた.

--------------------

掲載論文の抹消について

ページ範囲:P.931 - P.932

欧文目次

ページ範囲:P.935 - P.935

文献紹介 リツキシマブはデスモグレイン特異的B細胞の応答を持続的に抑えることで天疱瘡を長期にわたって寛解させる

著者: 中村善雄

ページ範囲:P.980 - P.980

 これまで天疱瘡の第一選択はステロイド全身投与であったが,再発や長期的な投与に伴う副作用が問題となっていた.最近ではリツキシマブを用いた治療法が提案され,その短期的な有効性については既に報告されているが,長期間の臨床経過については評価できていなかった.今回,著者らはリツキシマブで治療された重症型天疱瘡患者22人において平均79か月の長期経過観察を行った.

 結果,経過中に合併症や他の疾患により3人が亡くなったが,残りの19人中11人が79か月後も完全寛解(CR,PSL 10mg以下の内服で病勢が抑えられている)を得ることができた.残りのPSL 10mg/日以上の内服が必要な不完全寛解であった.

書評 ―著:川名 誠司・陳  科榮―皮膚血管炎

著者: 山元修

ページ範囲:P.1012 - P.1012

 わが国における皮膚血管炎研究の第一人者である,川名誠司,陳科榮両巨頭の著書『皮膚血管炎』(医学書院)が刊行された.総論で疾患概念,病因・病態,病理組織のポイントを理解し,さらに各論で一次性血管炎疾患,二次性血管炎疾患,重要な鑑別疾患へと流れるような内容の展開で,手にした瞬間から一気呵成に読破してしまった.それだけ惹きつけられる魅力的な書である.それにしてもまず感じたのは,皮膚科学の中で皮膚血管炎は決してメジャーな領域ではないにもかかわらず,348頁にも及ぶ大著であり,それだけにかゆい所にまで手が届くように丁寧で,かつ最新の情報まで網羅した,皮膚科医のみならず内科医,病理医必携の書であるという点である.

 私は,書店で医学書,特に臨床写真や病理組織写真が豊富に掲載されている本を選ぶ際に,まずはぱらぱらと頁をめくり,いかに美麗な写真が厳選されているかを吟味する.本書は臨床写真の明瞭さ,的確さはもちろんのこと,病理組織写真の美しさとバックの白抜けの良さに圧倒された.皮膚の血管炎ほど病理組織診断が重要な位置を占める疾患はない.皮膚病理組織学は何といっても「多数の標本を見てなんぼ」の世界であるが,その点で美しくかつ的確に病理組織学的所見が示された皮膚血管炎に関する書物を,私は他に知らない.私事で恐縮であるが,この度日本皮膚病理組織学会理事長を拝命して,あらためて若い医師の皮膚病理学教育について考えてみた.以前から皮膚病理学を志す若い医師が減少の一途をたどっていることに危機感を抱いてきたが,減少の理由の1つに,かつて周囲にたくさん居られた皮膚病理組織学に精通した皮膚科医が激減し,論議の対象になっている所見がどれであるかを若者に指摘できなくなったことが挙げられる.所見を把握できなくなると,全く面白くないわけである.臨床写真もそうであるが,本書の病理組織写真の1つ1つに丁寧な解説が加えてあり,このような若者でも本文を読まなくても十分に学習できる.特に入門者にとってありがたいのは,総論で皮膚の正常血管の解剖・組織学について,一般解剖学・組織学の教科書も足下に及ばないくらい懇切丁寧に解説している点である.さすが日常皮膚を精確に観察してきた皮膚科医の手による書である,と快哉を叫びたい.さらに,ある程度皮膚臨床を経験した者にとってありがたい点は,国際的な血管炎の定義や診断基準ではやや消化不良に陥りがちな“皮膚の”血管炎についての暫定診断の要点を示してくれている点であろう.実際大変役に立つのでぜひ目を通していただきたい.

次号予告

ページ範囲:P.1013 - P.1013

投稿規定

ページ範囲:P.1014 - P.1015

あとがき

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.1016 - P.1016

 今年は,ストラヴィンスキーの名曲「春の祭典」のスキャンダラスな初演から100年目にあたる.不協和音が連続するこの作品に対し自制心を失ったパリの聴衆の激しい拒絶反応に,たまりかねた作曲者は激しい怒りの表情でホールを立ち去ったと伝えられる.これは何もクラシック音楽に限ったことではない.Helicobacter pyloriの存在を報告した論文も最初はrejectの憂き目に会っているし,Th1/Th2 paradigmを最初に提唱したMosmannも如何に学会でバッシングを受けたことか.

 造園の名人が語った忘れられない言葉がある.“庭園造りのアイディアのうち皆が賛成したものは絶対にやらない.逆に皆が反対したものこそやる価値のあるもので,そういうものでなければ何十年,何百年と残るような庭園にはならない”という言葉である.ソニーのウォークマンには,録音機能のあるテープレコーダーを再生専用にしてしまったという盛田氏の大きな発想の転換があるが,当初誰一人として賛成するものはいなかったという.あの東京電力の原発事故の数年前に,このような事故を想定した対応を進言した人の意見は周りに握りつぶされてしまったという事実を,どのように聞くだろうか? 人はすべての出来事が済んでしまった段階で,遡って過去の出来事を裁こうとする.恐らく当時の人々は“そんなことは起こらないだろうし,そんなものに莫大な費用はかけられない”と考えたであろう.それを誰が非難できるだろうか.過去に多くの人々が下した間違った(とされる)決断は,残念ながら多分自分がその場にいても同じような決断しか下せなかったに違いない.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?