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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・66

Q考えられる疾患は何か?

著者: 金原拓郎

ページ範囲:P.101 - P.102

症例

患 者:2.5か月,男児.満期産,経腟分娩で出生時は特に異常なし.母親16歳,父親17歳.

主 訴:顔面,体幹,四肢の浮腫性紅斑と水疱

家族歴・既往歴:特記すべき事項なし.

現病歴:初診の7日前より顎下部に小水疱を伴う小豆大の浮腫性紅斑が出現し,徐々に体幹,四肢,掌蹠に拡大してきた.顔面,耳介,手掌足底には緊満性小水疱も出現した.その後,紅斑が環状に拡大し癒合傾向を認めた.

現 症:顔面,体幹,四肢に緊満性の小水疱を伴う環状の浮腫性紅斑を認めた(図1a).掌蹠には緊満性大水疱も認めた(図1b).口腔粘膜に異常は認めなかった.

今月の症例

自然消退した巨大腫瘤を呈した若年性黄色肉芽腫の1例

著者: 薬師寺直喜 ,   森秀樹 ,   白方裕司 ,   村上信司 ,   橋本公二 ,   佐山浩二

ページ範囲:P.103 - P.107

要約 20生日,男児.生下時より右足関節外側に紅色腫瘤を認め,血管腫疑いにて紹介され受診した.右足関節に30mmの内部が紅色調で,周囲が常色~淡青色で多毛を伴う皮膚腫瘤を認めた.病理組織像では,真皮全層にわたって組織球様細胞と泡沫細胞が浸潤し,Touton型巨細胞が混在していた.免疫組織染色にて腫瘍細胞はビメンチン,CD68,α1アンチトリプシン陽性,S100蛋白陰性で,黄色腫細胞と考えられた.生後10か月の時点で著明に増大したが,1歳10か月には淡褐色軟腫瘤となり縮小傾向がみられた.2歳10か月時では浸潤を触れる橙色局面となり,3歳10か月時ではほとんど浸潤を触れなくなった.本邦報告例中最大級の腫瘤像を呈した単発型若年性黄色肉芽腫の1例であるとともに,全切除をすることなく長期間経過観察できた症例である.巨大若年性黄色肉芽腫の場合でも自然消退を期待して経過観察することが大切である.

症例報告

当科で経験した加水分解小麦含有石鹸使用により生じた小麦アレルギーについて

著者: 浜出洋平 ,   佐藤英嗣

ページ範囲:P.108 - P.112

要約 2009年頃より旧茶のしずく石鹸®に含まれる加水分解小麦(グルパール19S)により生じた小麦アレルギー疑い症例が国内で報告され始めた.その後次第に患者数は増加し,2011年5月にメーカーが旧製品の自主回収を全国の報道機関へ発表したため,国民に広く知られるところとなった.当科で経験した加水分解小麦含有石鹸による小麦アレルギー疑い症例32例について検討したところ,本疾患と診断した例は16例であった.除外診断できた1例を除き,15例は受診時には小麦摂取による症状発現がなかったが,問診・臨床症状から本疾患を疑った.以上より,加水分解小麦含有石鹸使用者の半数は,無症状であるか,軽度の接触蕁麻疹までの発症であることが推測された.約6か月を無症状で経過した5例について,小麦摂取を少量許可し症状は発現していないため,小麦除去と抗ヒスタミン薬内服などにより本疾患は軽快していく可能性があると考えられた.

アンピシリン,アモキシシリン・クラブラン酸カリウムによるacute generalized exanthematous pustulosisの1例

著者: 平野宏文 ,   川上洋 ,   峯村徳哉 ,   長谷哲男

ページ範囲:P.113 - P.118

要約 66歳,女性.既往歴に薬疹(30年前アンピシリン点滴静注にて全身に発疹)あり.咽頭炎を発症し,某耳鼻科にてアンピシリン1g点滴静注とアモキシシリン・クラブラン酸カリウム250mg/日の内服を併用した.数時間後より体幹,四肢に浮腫性紅斑が出現した.初診時臀部に非毛包性膿疱が認められた.粘膜疹はなく,頸部および両腋窩リンパ節腫脹を数個触知した.病理組織で海綿状膿疱,臨床検査で好中球優位の白血球数(18,400/μl)増多を認めた.臨床および病理組織からacute generalized exanthematous pustulosisと診断した.プレドニゾロン50mg/日の内服で症状は数日で軽快した.薬剤添加リンパ球刺激試験でアモキシシリン・クラブラン酸カリウムが陽性であり,アンピシリンによる薬疹の既往歴があることから,アンピシリンとアモキシシリン・クラブラン酸カリウムが原因薬剤であると診断した.薬疹の既往のある患者に同系統の薬剤を使用することは危険であり,注意するべきである.

インフリキシマブが奏効した関節リウマチ合併壊疽性膿皮症の1例

著者: 井上千鶴 ,   永井弥生 ,   石川治 ,   野島美久

ページ範囲:P.119 - P.123

要約 53歳,男性.初診の約5年前より虫刺症後の傷が治りにくかった.2007年初診時,下腿の虫刺症の診断で加療したが難治で,暗赤色の紅斑や結節が多発し,一部で潰瘍化した.検査値では,血沈の亢進があり,末梢血好中球増多はなかった.病理組織像は表皮内,真皮への密な好中球浸潤であった.その後,頭痛と関節痛が出現し,当院内科でリウマチ因子陽性(23IU/ml)より肥厚性硬膜炎および関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)と診断された.プレドニゾロン(PSL)60mg/日で治療を開始後,漸減中に関節痛や下腿の皮膚潰瘍が増悪した.臨床経過,病理組織学的所見より皮疹は壊疽性膿皮症(pyoderma gangrenosum:PG)と診断した.内科にてPSL 15mg/日,メトトレキサート8mgで経過観察中にRAが増悪し,インフリキシマブ3mg/kg投与を開始したところ,投与3回目後に下腿の潰瘍もほぼ上皮化した.PGに伴うさまざまな基礎疾患に対して,生物学的製剤の使用機会が増えている.生物学的製剤のPGへの効果を明らかにするためにも,今後の症例の蓄積が必要である.

消化管病変の経過をCTで評価した成人Henoch-Schönlein紫斑病の1例

著者: 安藤佐土美 ,   松村和子 ,   神崎志乃 ,   小野雄司

ページ範囲:P.124 - P.127

要約 53歳,男性.初診の1週間前から微熱と腹痛とともに下肢に浸潤を触れる直径5~10mmの紫斑が出現した.Henoch-Schönlein紫斑病と診断し,腹痛が増強し,入院した.腹部造影computed tomography(CT)にて結腸,空腸に全周性の壁肥厚,腸管血管の充血,壁内出血を認めた.メチルプレドニゾロン500mg/日点滴を3日間行い,消化管病変,皮膚病変は速やかに改善した.成人発症のHenoch-Schönlein紫斑病では30~56.5%の例で消化管病変がみられる.CTでは腸管壁の肥厚,腸間膜血管の充血,腸管腔の開大などがみられるが,各々のCT所見に基づいた治療法は確立されていない.自験例ではCTで消化管病変を評価して治療を選択し,治療効果もCTで評価した.症例の蓄積により,CTによる消化管病変の評価法とCT所見に基づいた治療法が確立されることが期待される.

Palisaded neutrophilic and granulomatous dermatitisにより診断に至ったChurg-Strauss症候群の1例

著者: 青島正浩 ,   津嶋友央

ページ範囲:P.129 - P.132

要約 62歳,女性.20年前より気管支喘息があり,プレドニゾロン5mg/日を内服中であった.初診の2週間前より,右肘に軽度の掻痒を伴う1cm大の結節が出現した.良性の皮膚腫瘍を疑い全摘した.病理組織学的には,変性した膠原線維とそれを取り囲む柵状の肉芽腫様構造が,真皮内に散在していた.好中球の浸潤も伴っており,palisaded neutrophilic and granulomatous dermatitis(PNGD)と診断した.血液検査ではMPO-ANCAが663.0U/mlと高値であった.気管支喘息と好酸球増加(9.9%,750/μl),血管外肉芽腫がみられたことから,Churg-Strauss症候群が基礎に存在すると考えた.皮疹切除後,プレドニゾロンを10mg/日に増量し,再発はみられていない.自験例では皮疹が単発,片側性にみられ,PNGDとしては特異であった.

多彩な皮膚病変を伴うIgG4関連疾患の1例

著者: 本田理恵 ,   高橋愼一 ,   中谷綾

ページ範囲:P.133 - P.138

要約 81歳,男性.3か月前より眼瞼腫脹を自覚した.初診時,眼瞼腫脹と左眼外側に大豆大の硬い皮下結節,両上腕に散在する母指頭大までの紫紅色斑を認めた.CT上,眼瞼皮下組織の肥厚と涙腺腫大,耳下腺腫脹を認めた.血液検査では,IgG 2,380mg/dl,IgG4 936mg/dlと高値で,病理組織像でリンパ球・形質細胞の浸潤と線維化を認めた.免疫染色でIgG4/IgG陽性形質細胞比が90%以上であったことから,IgG4関連疾患と診断した.プレドニゾロン(PSL)20mg/日内服にて,眼瞼腫脹と上腕の紫紅色斑は速やかに軽快したが,PSLを漸減し中止後5か月で眼瞼腫脹の再燃がみられPSL 5mg/日を再開した.皮膚病変を伴うIgG4関連疾患の本邦報告14例を検討した結果,眼瞼腫脹は4例と比較的多く認めたが,これに関してはMikulicz病の部分症状を見ている可能性がある.また,好酸球増多・高IgE血症は本疾患に有意な所見と考えられた.

凍瘡様皮疹に引き続いて発症したneuropsychiatric systemic lupus erythematosusの1例

著者: 新井崇 ,   加藤雪彦 ,   杉井章二 ,   西村隆夫

ページ範囲:P.139 - P.143

要約 16歳,女性.2011年2月中旬より両手指に有痛性の皮疹,両肩関節痛,38℃の発熱が出現した.近医を受診し,汎血球減少,腎機能障害が認められ,当院膠原病内科を受診し全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)と診断された.手指の凍瘡様皮疹の病理組織所見では角質層の肥厚,基底層の液状変性,真皮上層から中層にかけて血管周囲性にリンパ球の浸潤が認められた.加療中に不穏,異常行動,観念奔逸,無言無動などの精神神経症状が認められた.脳MRI画像で左被殻に高信号を呈し,また髄液中IL-6が高値であることからneuropsychiatric SLE(NPSLE)と診断した.NPSLE発症を疑わせる皮疹が存在すれば,皮膚科医もそれを念頭に置くことができるが,過去のNPSLE発症報告例の皮疹を検討したところ特徴的な皮疹はなかった.ただし,Raynaud症状,円盤状皮疹を初発とする症例は認められなかった.また,NPSLE発症例は全SLEに比べ男性の割合が多かった.NPSLEはSLEの予後を左右する因子の1つと考えた.

モルフェアを合併した全身性強皮症の1例

著者: 渡辺彩乃 ,   森志朋 ,   赤坂俊英 ,   佐々木豪

ページ範囲:P.145 - P.149

要約 55歳,女性.初診の1年前より左乳房に表面に光沢を有する茶褐色皮疹と頭部の脱毛局面が出現した.その後,両手指の浮腫,Raynaud症状に加えて手首のこわばりを自覚した.両手指に限局した浮腫と軽度の硬化および爪上皮の延長,点状出血を伴う臨床像と右前腕部の病理組織像より,limited typeの全身性強皮症と診断した.自己抗体も含め,検査値に異常はなかった.左乳房部,頭部の皮膚硬化局面の病理組織像では,真皮全層に膠原線維の増生,膨化を認め,結節状を呈していた.内臓合併症を伴い予後が不良といわれているgeneralized morphea-like systemic sclerosisとの鑑別を要したが,臨床症状および病理組織所見よりモルフェアを合併した全身性強皮症と診断した.モルフェアの患者を診察した際には,全身性強皮症を伴う可能性のあることを念頭に置き経過を見ていく必要があると考えた.

点滴漏れによる皮膚損傷の小児例

著者: 平川彩子 ,   二木賢 ,   上出良一 ,   勝沼俊雄 ,   二ノ宮邦稔 ,   庄田裕紀子

ページ範囲:P.151 - P.154

要約 生後8か月,女児.ウイルス性腸炎にて当院小児科に入院し,輸液ポンプで右前腕から生理食塩水の点滴を受けていた.点滴刺入部からの大量血管外漏出が発生し,右手,前腕の著明な浮腫,水疱,右手指の運動障害を生じた.創は湿潤環境で治療し,壊死組織をデブリードマンし,生じた潰瘍に対して植皮も検討したが,湿潤環境で保存的に治療を継続した.2か月で創は瘢痕治癒し,1年後には肥厚,拘縮のない,わずかの色素沈着を伴う線状の成熟瘢痕にまで改善した.神経障害も残らなかった.大量の生理的食塩水漏出による皮膚障害の発生機序,対処法,皮膚科医としての心構えを述べた.皮膚科医は患者家族,特に母親の自責の念を受けとめつつ真摯に対応し,創の専門医として見通しをもった治療を行うことが大切である.

Tailgut cystの1例

著者: 加茂真理子 ,   白樫祐介 ,   藤本篤嗣 ,   福積聡 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.155 - P.158

要約 44歳,女性.仙骨部の自覚症状のない皮下腫瘤に気付き来院した.径4.5×3cm大,軽度隆起し波動性であった.灰黄色の無菌性膿汁が穿刺,吸引され,MRIでは皮下から連続して直腸と尾骨先端の間に至る多房性の囊胞を示した.病理組織学的に囊胞壁内層上皮は多列円柱線毛上皮,扁平上皮から構成されており,tailgut cystと診断した.Tailgut cystは,胎生期に認められる尾腸(tailgut)の遺残物よりなる囊胞であり,仙骨部の腫瘤または軽度の疼痛や違和感を契機に気付かれることが多い.病理組織学的には良性であることが多いが稀に悪性化の報告もあるため,囊胞の完全切除が必要となる.他の囊胞性疾患と鑑別のためにも稀な疾患ではあるが仙骨部皮下腫瘤の鑑別疾患として知っておきたい.

小児の右手掌に発生した硬化性神経周膜腫の1例

著者: 藤田有理香 ,   前川武雄 ,   塚原理恵子 ,   小宮根真弓 ,   村田哲 ,   大槻マミ太郎

ページ範囲:P.159 - P.162

要約 10歳,男児.3年前より右手掌に結節が出現し,徐々に増大したため,受診した.右手掌中指環指基部に,境界明瞭なドーム状に隆起する15mm大の軟らかい結節があり,下床との可動性は保たれていた.皮膚超音波検査では,プローブによる圧迫で容易に変形する軟らかい結節で,境界は明瞭,内部は不均一な低エコー像を示し,辺縁に血流シグナルがみられた.診断,治療目的で全身麻酔下に切除し,足穹窿部からの分層植皮で再建した.病理組織学的所見では,境界明瞭な楕円形の線維性腫瘍で,辺縁は線維組織が同心円状を呈し,腫瘍は密な膠原線維間質内に類円形から紡錘形の腫瘍細胞が索状に連なっていた.免疫染色でEMAが陽性,CD34,S100蛋白,デスミンは陰性であった.硬化性神経周膜腫と診断した.硬化性神経周膜腫は若年者の手掌や指に好発し,病理組織所見では豊富な膠原線維間質のなかに小型で類円形から紡錘形の腫瘍細胞が一列に連なる索状配列を呈するという特徴があり,知っていれば診断は容易であると思われる.自験例は年齢,発生部位,病理組織像いずれも典型であった.

アポクリン腺癌の2例

著者: 磯田祐士 ,   和田秀文 ,   前田修子 ,   小岩克至 ,   藤田浩之 ,   池澤善郎

ページ範囲:P.163 - P.167

要約 症例1:56歳,男性.初診2年前より左腋窩に腫瘤を自覚し徐々に増大し,当科を受診した.初診時15×8mmの肉芽腫様結節を認めた.症例2:56歳,女性.初診5年前から前胸部に紅斑が出現し,当科を受診した.初診時70×60mmの紅斑の中心に紅色小結節を2個認めた.症例1,2とも病理組織では好酸性の胞体をもつ異型細胞で構成され腺腔構造を形成し,断頭分泌像を認めた.症例1では免疫組織学的にGCDFP-15陽性,HER2陽性であった.2例とも全身検索にて転移源となる原発巣はなく皮膚原発のアポクリン腺癌と診断した.症例1は拡大切除およびリンパ節郭清後にカルボプラチン550mgとエピルビシン90mg,およびシクロホスファミド150mgとドキソルビシン70mgを用いた術後化学療法施行したが術後3年で永眠した.症例2は稀な胸部発生例であり,異所性アポクリン腺が胸部皮膚に存在していた可能性が示唆された.皮膚アポクリン腺癌でリンパ節転移をきたした症例は予後不良であり,術後化学療法の選択については今後の症例の集積を要すると考えられた.

臨床像が結節型悪性黒色腫を思わせた基底細胞癌の1例

著者: 稲津美穂子 ,   納さつき ,   浜野真紀 ,   石川武子 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一 ,   帆足俊彦

ページ範囲:P.169 - P.172

要約 61歳,女性.約4年前に背部に自覚症状のない小指頭大程の黒色結節が出現した.結節は易出血性となり,徐々に増大した.初診時,背部に胡桃大超の有茎性茸状の紅褐色結節を認めた.表面は易出血性で血餅に覆われていた.初診時のダーモスコピーは血餅のため観察困難であった.悪性黒色腫を疑い局所皮弁を用い,切除した.病理組織像では充実性から腺様の基底細胞からなる胞巣で辺縁に柵状配列もみられ基底細胞癌と診断した.術後に画像ソフトでダーモスコピー像を補正してみるとarborizing vesselsなど診断の手がかりとなる所見が得られた.ダーモスコピー検査では,出血などのアーチファクトを実際の観察時に取り除くことが肝要であるが,電子的な画像補正もある程度有用と考えられた.

新生児単純ヘルペス感染症の1例

著者: 坂本慶子 ,   影山葉月 ,   田島巌 ,   谷岡書彦 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.173 - P.176

要約 日齢9の男児.日齢3より38℃の発熱があり,日齢7頃から臍部周辺,鼻部,胸部に発赤,膿疱が出現した.膿疱部皮膚のPCR解析にて単純ヘルペスウイルス1型ゲノムが検出され,単純ヘルペス感染症と診断した.アシクロビル(30mg/kg/日)の静脈投与を14日間行い皮疹は痂皮化し,日齢12から生じた肝機能異常も改善した.母親に口唇,性器ヘルペスの既往はなく,妊娠経過中,口唇,陰部に皮疹は自覚しなかったが,出産前後に無症候性ウイルス排泄があったと推察された.日齢10前後までに新生児が発熱,水疱,肝機能異常などを示した場合,母親に性器ヘルペスの症状がなくてもヘルペスウイルス感染を念頭に置き,迅速に治療を開始する必要があると考えた.

ネフローゼ症候群を合併し,非定型的な臨床像を呈した手足口病の1例

著者: 平井郁子 ,   崎山とも ,   木花光 ,   佐藤睦美 ,   甲斐純夫

ページ範囲:P.177 - P.180

要約 1歳7か月,女児.2011年7月下旬に37℃台の発熱と倦怠感で小児科を受診した.下腿浮腫と蛋白尿を認め,臀部から下肢にかけて多発する小水疱と紅色丘疹に対し,当科を紹介された.口腔内,手掌,足底には発疹は乏しく,手足口病としては非定型的な臨床像を呈したが,隣県で同時期に流行したコクサッキーA群6型(CA6)による非定型的な手足口病に酷似していた.さらに血液検査にてCA6抗体が高値であった.蛋白尿はネフローゼ症候群と診断し,ステロイド,免疫グロブリン投与で加療した.CA6による手足口病でネフローゼ症候群を合併したとの報告は今までにないが,ほぼ同時に発症した皮膚,腎症状よりウイルス感染による腎障害の可能性を考えた.コクサッキーウイルスを含むエンテロウイルス感染症は多彩な臨床像を呈するため,近県の発生情報にも留意する必要があると思われた.

滋賀県で発生したツツガムシ病の1例

著者: 飯田沙織 ,   宮下文 ,   竹中秀也 ,   水原寿夫

ページ範囲:P.181 - P.184

要約 55歳,男性.初診の7日前,2010年11月中旬頃から発熱があり,近医受診後フロモキセフナトリウムの点滴,レボフロキサシンの内服を受けたが改善しなかった.3日前から全身に紅斑が出現したため,当科を紹介され受診した.初診時,39.0℃の発熱と頭痛,体幹・上肢・大腿部に爪甲大程度の淡い紅斑が播種状にみられ,左下腿伸側に刺し口と思われる黒色壊死を伴う潰瘍を認めた.血液検査上,肝機能障害(AST/ALT 92/104IU/l)と炎症反応(CRP 13.44mg/dl)があった.ツツガムシ病を疑い,入院後塩酸ミノサイクリン200mg/日の投与を開始し,翌日には解熱し皮疹は徐々に軽快した.発熱・ばら疹がみられた場合,高発生地ではなくともツツガムシ病を念頭に置き刺し口を積極的に探し早期診断する必要がある.

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欧文目次

ページ範囲:P.99 - P.99

文献紹介 Pyrinのgain-of-function変異はマウスにおいてNLRP3非依存的にIL-1β活性と重篤な自己炎症を引き起こす

著者: 西本周平

ページ範囲:P.149 - P.149

 家族性地中海熱(familial Mediterranean:FMF)の原因遺伝子として知られるMEFVはインフラマソームを制御するpyrinをコードしているが,その遺伝子変異による発症のメカニズムについて明らかではない.Pyrin欠損マウスおよびFMFで報告されている遺伝子変異を有するB30.2ドメインをノックインしたマウスを作成した.欠損マウスでは症状の出現はなく,ホモ変異ノックインマウスにおいてヒトのFMFに類似した,より激しい炎症が骨髄依存的に生じた.ノックインマウスのマクロファージにおいてcaspese-1の常態的な活性化により,LPS単独刺激で活性化IL-1βの分泌がみられ,これはFMF患者と同様であった.ノックインマウスの炎症によるフェノタイプはIL-1R欠損マウスとの交配,およびインフラマソームのアダプター分子であるASC欠損マウスとの交配により完全になくなったが,NLRP3欠損マウスとの交配ではなくならなかった.これらのことから,gain-of-functionによるPyrin変異はASC依存的,NLRP3非依存的に自己炎症性疾患を引き起こすことがわかった.

書評 ―著:長野 展久―医療事故の舞台裏―25のケースから学ぶ日常診療の心得

著者: 大野喜久郎

ページ範囲:P.185 - P.185

 病気を治そうとして,不幸にも医療事故が起こった場合,医師は診療結果に失望し,同時に患者さんや家族との信頼関係が損なわれると,クレームの嵐に晒されることになる.一流の名医といわれる医師でも,人間である限り,医療事故は免れない.そうならないような備えと起こったときにどうするかが重要であり,本書はそのための手がかりを与えてくれる.

 まず,本書の「はじめに」を読むと著者が本書を著した意図がよくわかる.医学や医療の問題に深く切り込み,医師および患者の心理学,救急診断学に必要な医学的知識,そして救急診療のヒントなどが読みやすく書かれており,このような本は今までなかったように思う.著者のこれまでの経験に基づく優れた洞察力による研究書でもある.医師側および患者側の両者にとって不幸な事例に対し,何が問題であったのかを丁寧に解説し,同じことが起きないようにとの温かい配慮がなされている.これは著者自身の医師としての長い経験と多くの医療事故の分析に裏打ちされていることによるものと思う.日常診療において研修医だけでなく,経験を積んだ医師も気をつけなければならないことが書かれている.そして,時間外当直での診療,あるいは救急患者の診療には恐ろしい落とし穴がいくつもあるように感じる方も多いと思う.たしかに,思い込みや忙しさからのミスは起こりうるので,いつも念頭に置く必要がある.

書評 ―著:大原 國章―皮膚疾患のクロノロジー―長期観察で把握する母斑・腫瘍の全体像

著者: 飯塚一

ページ範囲:P.187 - P.187

 これは驚くべき本である.少なくとも筆者が知る限り,皮膚科関係では類書を見ない.このようなクロノロジーのアプローチが可能になるためには,膨大な症例の蓄積を要するが,著者の大原國章先生は,鮮明な臨床写真を,経時的に揃え,かつ強い説得力を持った提示を行っている.

 周知のように,大原先生は,皮膚科における手術のエキスパートとして,虎の門病院で全国の若手皮膚科医の手術トレーニングにあたった方である.技術のみならず手術そのものの考え方も教え込んだ.全国各地に散らばっている弟子は筆者の教室にも存在するが,彼らが一様にいうことは,皮膚科医としての大原先生の恐るべき眼であり,そもそも手術適応についての厳しい評価である.

お知らせ 公益信託皮膚科国際学術交流基金2013年度 留学生研究助成募集要項

ページ範囲:P.188 - P.188

1.趣 旨 海外から来日して,大学等で皮膚科学の基礎又は臨床研究に従事している若手外国人研究者に対して研究費の助成を行い,皮膚科医療の振興と福祉の向上に寄付する.

2.研究課題 特に定めないが,上記趣旨に沿う研究課題とする.

次号予告

ページ範囲:P.189 - P.189

投稿規定

ページ範囲:P.190 - P.191

あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.192 - P.192

 われわれ,医師・医学者は科学者であり,その意味で論文では科学的,論理的な正しい文章表現を用いるべきです.もちろん,国語の先生ではないので,「正しい文章とは」と問われても,回答は難しいのですが,私としては「てにをは」を正しく使って,伝えたいことを読者に正確に理解してもらえるように,あるいは曖昧な表現をしないように心掛けています.本誌も学術雑誌ですので,それがとても重要と考えて投稿原稿を審査しています.よくあるのは,主語のない文章や「体言止め」の文章です.前者は,著者がわかっていても読者は「主語」を類推しなくてはなりません.後者は,例えば「…が出現.」としてしまうと,実は「…が出現した.」「…が出現する.」「…が出現する可能性がある.」など,いろいろな解釈があり,しかも乱暴な言い方です.学会発表の抄録やスライドでは字数制限があり,やむを得ず「体言止め」を使うのですが,そのままの文章で論文にしてくることも多いのです.かといって,主語・述語などがしっかりしていても,同じ言葉の繰り返しも見苦しく,よくあるのは「…を認めた.…を認めた.…を認めた.…」です.間違いではないのですが,表現力不足を自ら暴露するようなものです.例えば「細胞浸潤を認めた.」は,「細胞が浸潤していた.」とすれば,繰り返しは回避できます.それと,とても異様な日本語として「…となった.」という表現が多いのです.これは学会発表でもよく聞かれます.確かに「時刻が正午となった.」「色調が白となった.」など,表現としておかしくない場合もありますが,「患者は入院となった.」「患者が手術となった.」などはきわめて変な文章です.つまり,「時刻=正午」「色調=白」は成立しますが,「患者=入院」「患者=手術」は成立しません.「患者は入院した.」「患者が手術を受けた.」とすれば良いのですが,「…となった.」が何か格調高い表現と思っている人が多いようです.ときにテレビやラジオのアナウンサーも,特に民放では,そのような言い方をしています.これは伝染病です.「となった」病に罹らないようにしましょう.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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