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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻5号

2013年04月発行

雑誌目次

特集 最近のトピックス2013 Clinical Dermatology 2013 1.最近話題の皮膚疾患

テラプレビルによる皮膚障害

著者: 末木博彦 ,   鳥居秀嗣 ,   大槻マミ太郎

ページ範囲:P.8 - P.12

要約 テラプレビル(テラビック®)はC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)に直接作用する新しいタイプの抗ウイルス薬で,従来からのペグインターフェロンα-2b,リバビリンの2剤療法に本剤を加えた3剤療法として用いられる.高い有効性を示す反面,重症薬疹の報告がある.本剤の承認にあたっては皮膚科専門医と緊密な連携ができる施設に限定して使用が許可された.わが国では臨床試験と市販後調査を合わせ2012年10月末現在,7,000例以上に投与され,Stevens-Johnson症候群1例,中毒性表皮壊死症2例(うち1例は死亡例),薬剤性過敏症症候群2例が確認されている.治療開始数日後の早期から出現する紅斑・丘疹はグレード1と2が大半を占め,ステロイド外用療法と抗アレルギー薬内服で多くは継続可能である.多形紅斑の大半や重症薬疹は治療開始1~2か月以降に発症している.テラプレビルによる皮膚障害に対しては薬剤の有効性と危険性の双方を睨み,患者の利益を損なわないよう対処する必要がある.皮膚科医の積極的関与,専門性の発揮が求められている.

牛肉アレルギーとセツキシマブアレルギー

著者: 高橋仁 ,   千貫祐子 ,   森田栄伸

ページ範囲:P.14 - P.17

要約 食物アレルギーの原因として牛肉は稀と捉えられている.近年,米国において,セツキシマブに対するアレルギー患者はセツキシマブのgalactose-α-1,3-galactose(α-Gal)糖鎖に対するIgEを有し,牛肉に対してもアレルギーを呈することが報告された.筆者らは,セツキシマブの投与歴はなく牛肉アレルギーと診断された患者血清を用いて,原因抗原の検索を行い,ウシlaminin γ-1およびcollagen α-1(Ⅵ)chainを同定し,両抗原に結合したα-Gal糖鎖が患者血清中IgEによって認識されることを明らかにした.本稿は,牛肉アレルギー患者の症例を提示するとともに,牛肉アレルギーとセツキシマブアレルギーの関連について概説する.

インスリンボール

著者: 大谷稔男

ページ範囲:P.18 - P.22

要約 インスリンを同一部位に繰り返し注射するとアミロイドが沈着して結節を生じることがあり,インスリンボールとも呼ばれる.インスリンがアミロイドを形成する過程では,インスリン分解酵素の機能低下などが関わる可能性がある.インスリンボールは常色~褐色調の結節で,ときにlipohypertrophyとの鑑別を要する.最近われわれは,1型糖尿病患者の上腕に生じたインスリンボールを経験した.臨床像から皮膚悪性腫瘍も疑ったが,病理組織学的所見からアミロイドーシスと診断した.インスリン注射部位(腹部,上腕,臀部,大腿)に結節をみた際は,インスリンボールも念頭に皮膚生検を行い,診断を確定することが肝要である.インスリンボールへの注射は疼痛が少なく好んで行われる傾向があるが,インスリンの効果は顕著に減少する.診断後は内科医とも連携して,注射部位のローテーションを患者に指導する必要がある.

ブルーリ潰瘍

著者: 濱田利久 ,   岩月啓氏

ページ範囲:P.24 - P.28

要約 本邦におけるブルーリ潰瘍について症例を提示し診断から治療までの概略を解説した.また,国立感染症研究所ハンセン病研究センターで集積している本邦のデータをもとに,現状についても概説した.世界的には西アフリカから中央アフリカに多い疾患で,非結核性抗酸菌の一種であるMycobacterium ulceransによる主に皮膚の感染症である.本邦では自験例のように渡航歴のない日本人に発症し,M. ulceransの亜種であるM. ulcerans subsp. shinshuenseが皮膚に感染して結節や潰瘍を形成する.非常にまれな感染症であるが皮膚病変として初発し診断から治療までをわれわれ皮膚科医がかかわってゆく疾患であり,本邦でも発症しうることを十分に認識しておく必要がある.

2.皮膚疾患の病態

接触感作にLangerhans細胞は不要?

著者: 椛島健治

ページ範囲:P.31 - P.34

要約 接触皮膚炎をはじめとする抗原特異的皮膚免疫反応は,皮膚に曝露された抗原を所属リンパ節に移動することにより感作が開始される.その役割を果たす皮膚抗原提示細胞はLangerhans細胞であると従来考えられてきた.近年,遺伝子改変マウス作製技術の進歩により,Langerhans細胞のみを欠失するマウスを作製することが可能となった.このマウスに接触皮膚炎モデルを適用すると,接触皮膚炎反応が影響を受けない,あるいはむしろ増悪したという報告がなされた.この結果はLangerhans細胞が接触感作において必須の細胞ではないことを示す.その後の研究により,Langerhans細胞にはむしろ免疫抑制に関与することが,紫外線照射による接触皮膚炎の免疫抑制モデルを用いた解析により明らかになった.

腸性肢端皮膚炎の発症メカニズム

著者: 川村龍吉

ページ範囲:P.35 - P.39

要約 先天的な亜鉛欠乏症に伴う皮膚炎,すなわち腸性肢端皮膚炎の発症メカニズムは長らく不明であった.亜鉛欠乏は細胞性免疫ならびに液性免疫を著明に低下させるため,これまで亜鉛欠乏に伴う皮膚炎は何らかの感染症により引き起こされると推測されてきた.しかし,最近この皮膚炎の本態が実は一次刺激性接触皮膚炎であることが示唆された.亜鉛が欠乏すると,一次刺激物質との接触により炎症起因物質:アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)が表皮細胞から多量に放出される一方,ATP不活化作用を有するCD39分子を発現する表皮内Langerhans細胞が著明に減少する.このため,亜鉛欠乏症では一次刺激物質によって大量の細胞外ATPが表皮内で誘導され,一次刺激性接触皮膚炎が惹起される.すなわち,亜鉛欠乏患者の口囲や外陰部,四肢末端に生じる皮膚炎は,それぞれ食べ物やし尿,生活環境物質などにより引き起こされた一次刺激性接触皮膚炎であると考えられる.

アレルギー疾患経皮感作の重要性―喘息も経皮感作か

著者: 猪又直子

ページ範囲:P.40 - P.46

要約 フィラグリン遺伝子変異の発見を機に,アレルギー疾患全般の概念は,アレルギー一辺倒から表皮バリア障害へとパラダイムシフトを起こしつつある.フィラグリンは,アトピー性皮膚炎のみならず,小児アレルギーの自然史の象徴である「アレルギーマーチ」を規定する遺伝子としても注目されている.ただし,アレルギー疾患の形成には,表皮(角層)バリア障害だけでなく,経皮感作の関与が必要との見方が強い.すなわち,表皮バリア障害の存在下に,外来抗原の経皮感作が進むことによって初めて,皮膚炎が顕在化し,全身性のアレルギー反応が誘導される.したがって,表皮バリア障害の修復や維持管理によって,経皮感作を予防できれば,アトピー性皮膚炎だけでなく,アレルギー疾患全般の発症を予防できるかもしれない.「アレルギーマーチ」を阻止できるのは,われわれ皮膚科医かもしれない.

好塩基球と皮膚アレルギー

著者: 佐藤貴浩

ページ範囲:P.47 - P.51

要約 好塩基球はその機能においてマスト細胞と類似している点が多く,それゆえ長い間マスト細胞の影に隠れた存在であった.しかし近年になって好塩基球が自然免疫や獲得免疫においてマスト細胞とは異なった独自の役割を果たすことが次々とわかってきている.ヒト皮膚疾患における好塩基球の知見もこれまで乏しかったが,最近になってアトピー性皮膚炎,蕁麻疹,痒疹,虫刺症,寄生虫疾患,類天疱瘡,薬疹などにおいて好塩基球浸潤がみられることがわかってきた.これらの皮膚疾患の病態解析に際しては今後好塩基球を考慮していく必要があるかもしれない.

Merkel細胞癌とMerkel細胞ポリオーマウイルス

著者: 山本真由美 ,   清島真理子

ページ範囲:P.52 - P.56

要約 Merkel細胞ポリオーマウイルス(MCPyV)は2008年に新しく発見されたポリオーマウイルスであり,Merkel細胞癌の80%で検出され,本症発症との関連が示唆されている.今回われわれは,Merkel細胞癌4例の腫瘍検体についてMCPyVの検索を行い,PCRでは全例で,免疫染色では3例でMCPyVのlarge T antigenを検出した.また血清中の抗MCPyV抗体はIgG抗体陽性,IgM抗体陰性であった.これらの症例を中心に文献的にMerkel細胞癌MCPyV陽性例と陰性例を考察した.

変異BRAF阻害薬による悪性黒色腫の治療と上皮系皮膚腫瘍の発生

著者: 宇原久

ページ範囲:P.57 - P.60

要約 変異BRAF阻害薬ベムラフェニブは転移性悪性黒色腫に対してダカルバジンを上回る臨床効果が確認され,2011年に40年ぶりの新薬として米国食品医薬品局(FDA)によって認可された.これにより転移性悪性黒色腫の治療に新しい時代が到来した.日本人患者のBRAF変異の頻度からは,1/4程度の患者が治療対象の候補になると予測される.変異BRAF阻害薬は単剤で用いた場合に数か月程度で耐性が出現するため,複数種の阻害薬や抗体製剤などを併用した臨床試験が行われている.変異BRAF阻害薬によって治療中に有棘細胞癌,ケラトアカントーマ,疣贅,warty dyskeratoma,Darier病,Grover病のような棘融解を伴う角化性病変などが発症し,病因として既存のHRAS変異と変異BRAF阻害薬の共同作用が疑われている.

3.新しい検査法と診断法

皮膚科医のための簡単な顕微鏡入門

著者: 常深祐一郎

ページ範囲:P.62 - P.66

要約 顕微鏡は皮膚科医にとって必須の機器である.しかしその基本や設定方法については系統的に学ぶ機会もほとんどなく,日常臨床でもあまり気にせず使用しているのではないだろうか.本稿では,顕微鏡の基礎知識ならびに簡単な設定方法を解説する.開口しぼりと補正環の使用方法を身につけるだけで飛躍的にきれいな像を得ることができるようになる.実際の臨床の場においては,病理組織をみる設定と真菌鏡検を行う際の設定の違いを常に意識してもらいたい.

次世代ダーモスコピーの選び方・使い方

著者: 小林憲 ,   田中勝

ページ範囲:P.68 - P.73

要約 ダーモスコピーが皮膚科診療に使用されはじめて10年ほど経過している.次世代ダーモスコピーは2007年アップル社より発売されたiPhoneに代表されるスマートフォンや2010年に発売されたiPadに代表されるタブレット端末を使用したダーモスコピーであり,より視覚的,直感的に操作できるようになっている.当科ダーモスコピー外来で実際に使用している,スカラ社のWi-Fiワイヤレスマイクロスコープ「AirMicro® Pro(メディカル)」とiPhone4/4Sを装着する接触型ダーモスコープの米コンフィールド社の「ダームスコープ(DermScopeTM)」について解説する.AirMicro® Proはワイヤレスでライブ画像を表示でき,診療時に患者説明用に役立ち,ダームスコープは高解像度であり,画像を簡便に保存,管理,メール送信できる点で優れている.これらの機器を中心に使用感と実際の外来診療で使用する場合の利点・欠点について述べたい.

皮膚の超音波診断

著者: 浅越健治

ページ範囲:P.74 - P.81

要約 皮膚科領域でも非侵襲的画像検査としての超音波検査の重要性が認識されてきている.特に,真皮から皮下にかけての腫瘤性病変の評価,リンパ節病変の評価,高周波エコーを用いた表在性腫瘍の評価,などで力を発揮する.本稿では,超音波検査の基礎および所見の取り方,市販型の超音波検査機器により評価が可能な病変の特徴的所見を提示する.実際にはエコーレベル,種々のアーチファクト,血流信号,周囲組織との位置関係などを参考にして診断する.表皮囊腫,石灰化上皮腫をはじめとする上皮系腫瘍,種々の間葉系腫瘍,リンパ節病変などの所見について述べる.

水で消えるインクを用いた発汗テスト

著者: 宇原久

ページ範囲:P.82 - P.85

要約 水で消える特性を持つホワイトボードマーカー(商品名:ペンクル)を発汗異常のスクリーニングに使用できるか検討した.正常ボランティアと手掌の局所多汗症患者に用いたところ,発汗によって退色が確認できた.部分的に発汗低下を伴う後天性乏汗症患者についてヨウ素デンプン反応法(Minor法)と比較したところ,Minor法とほぼ同程度に無汗域を確認できた.水で消えるインク法は発汗異常の簡単なスクリーニング法として有用と思われた.

自動化STS検査

著者: 尾上智彦 ,   本田まりこ

ページ範囲:P.86 - P.91

要約 梅毒はTreponema pallidum(TP)の感染による全身性,慢性の性感染症である.TPは一般的な細菌培養ができず,潜伏期も長いため,血清学的検査で診断する場合が多い.梅毒血清反応は使用する抗原の違いからカルジオリピンを抗原とする梅毒脂質抗原法(serologic test for syphilis:いわゆるSTS検査)とTPを抗原とする梅毒TP抗原法に分類できる.このうち脂質抗原法は,病勢を反映することが知られており,診断のみならず治療にとっても重要な指標である.脂質抗原法は,従来,用手目視が判定に必要な倍数希釈法が一般的であったが,近年,自動分析器で自動測定可能な自動化法が本邦で普及しつつある.しかし,自動化法の結果をどのように梅毒の診断および治療に用いるべきか,具体的な指標を示したガイドラインは存在せず,今後の症例の蓄積が待たれるのが現状である.本稿では特に梅毒脂質抗原法と自動化法の運用,および運用にあたって必要な知識について解説した.

4.皮膚疾患治療のポイント

生物学的製剤2013

著者: 大槻マミ太郎

ページ範囲:P.94 - P.102

要約 2010年より,皮膚科領域でも乾癬に対して生物学的製剤の適用が認められ,抗TNF-α抗体のインフリキシマブとアダリムマブ,抗IL-12/23 p40抗体のウステキヌマブの3剤が使用可能になった.これらの生物学的製剤はいずれも,乾癬性関節炎に対しても適用が認められているが,特にウステキヌマブは世界的にも乾癬にのみ適応を有するユニークな抗体薬剤である.これらの製剤の使用指針と安全対策マニュアル(2011年版)が日本皮膚科学会によって作成され,学会が承認した施設限定で市販後全例調査が進められている.本稿では,これら3剤についてのアップデートな安全性情報を中心に,乾癬の病態と治療の歴史がもたらすセレンディピティ,生物学的製剤の導入基準,選択順位,治療のゴールなどに加えて,現在開発治験が進められている他の製剤についても紹介した.

生物学的製剤使用に当たってのスクリーニング検査の注意点―感染症,特にB型肝炎を中心に

著者: 五十嵐敦之

ページ範囲:P.104 - P.107

要約 B型肝炎については既往感染者でde novo肝炎を発症しうることが明らかとなったため,HBs抗原に加えてHBs抗体,HBc抗体を測定する必要があり,保険診療上も算定可能となった.抗原陰性,抗体陽性の既往感染者ではHBV-DNAを定期的にモニタリングするが,検出された場合は生物学的製剤を突然中止してはならず,速やかに肝臓専門医に相談すべきである.結核については他科領域の豊富な使用経験から予防投与も徹底され,その発症頻度は低いものの,マニュアルを遵守しても発症するケースが認められる.イソニアジドの投与については肝機能障害に特に注意すべきである.HIV,HTLV,C型肝炎などそのほかのウイルス感染症についても検査が推奨されているが,投与禁忌とはなっていない.β-D-グルカン,KL-6,抗核抗体などの検査についてもマニュアル上必須ないし推奨されている.他科との連携を密に診療に当たることが重要である.

分子標的薬皮膚障害対策

著者: 松原きみ子 ,   磯田憲一

ページ範囲:P.108 - P.112

要約 従来の抗がん剤は,がん細胞のDNA合成を阻害することによって細胞分裂を抑制し,抗腫瘍効果を得ていたが,分子標的薬と呼ばれる新しい抗がん剤は,細胞がDNA合成を開始するための信号を阻害することで抗腫瘍効果を発揮する.現在,本邦では十数種類の分子標的薬が使用されているが,その標的となる細胞は,上皮系細胞,内皮細胞そして骨髄細胞などがあり,それらに由来する各種の悪性腫瘍に使用され,生存率の延長などの効果を得ている.一方で,その特殊な毒性により,従来の抗がん剤ではみられなかった臓器障害を合併することがわかっており,皮膚科領域においても特徴的な皮膚障害を高率で発症する.この先進医療においては,投薬を中止することなく皮膚障害を治療することが皮膚科医に求められており,投薬中止が前提である「薬疹」とは取り扱いが異なることを知っていただきたい.

膿疱性乾癬に対する顆粒球吸着除去療法

著者: 金蔵拓郎

ページ範囲:P.113 - P.116

要約 膿疱性乾癬をはじめBehçet病,壊疽性膿皮症,隆起性持久性紅斑,Sweet病などいわゆる好中球性皮膚症と称される疾患群は従来の治療に抵抗性で難治性の症例が多い.顆粒球吸着除去療法は酢酸セルロースビーズを吸着材として,炎症組織に集積し病因となっている顆粒球・単球の除去とその細胞機能の制御を目的として開発された体外循環療法である.われわれは好中球性皮膚症に対する顆粒球吸着除去療法の有用性を報告してきた.これらの成果を踏まえ膿疱性乾癬に対する多施設共同試験を実施した.全国11施設が参加した本試験によって,顆粒球吸着除去療法は膿疱性乾癬に対して有効かつ安全な治療で,患者のQOLを改善することが確認された.この結果,本療法は膿疱性乾癬に対する治療として承認され2012年10月1日保険に収載された.

クリニックで使えるナローバンドUVB療法

著者: 森田明理 ,   西田絵美

ページ範囲:P.119 - P.122

要約 近年紫外線治療はナローバンドUVBの普及に加え,エキシマライトの登場により,全身照射や部分照射に加えターゲット照射が可能になった.ターゲット型光線療法は,難治な部分的な皮疹への局所照射が容易であり,正常皮膚への不必要な照射を防ぐことを可能にした.エキシマランプは高輝度であるため,紅斑が生じやすく,照射にはある程度の習熟が必要である.一方,ナローバンドUVBの照射は比較的容易であるが,機器が大型であり,広範囲の病変部には適しているが,部分的な病変部への照射は難しく,近接することも難しい.より使いやすいターゲット型照射器の開発と,全身照射・部分照射・ターゲット照射をどのように使い分けるかを検討する必要がある.新たに開発された平面光源を使用した小型・軽量で高出力のターゲット型ナローバンドUVB照射機器が登場したことで,治療スペースの限られたクリニックや往診などでの紫外線治療のさらなる普及が期待される.

レーザーによるニキビ痕の治療

著者: 川田暁

ページ範囲:P.124 - P.127

要約 ニキビ痕(痤瘡瘢痕)は痤瘡が治癒した後の瘢痕をいい,陥凹した萎縮性瘢痕と隆起した肥厚性瘢痕またはケロイドに分けられる.近年,萎縮性の痤瘡瘢痕に対する赤外線によるレーザー治療の報告が増加している.レーザー治療はダウンタイムのあるアブラティブなものとダウンタイムがないか少ないノンアブラティブなものに分類される.最近の傾向としてはダウンタイムを短く副作用をできる限り少なくしたものが好まれている.作用メカニズムは赤外線のレーザー光が真皮膠原線維の水分に吸収され熱エネルギーを発生し,古い膠原線維が破壊され,新しい膠原線維が産生され(リモデリング),瘢痕が改善する.われわれは近赤外線を用いる1,450nmダイオードレーザーによって24例の痤瘡瘢痕患者に治療を行った.その結果,有効性・安全性・効果の持続性が確認できたのでここに報告するとともに,痤瘡瘢痕のレーザー治療について解説する.

抗ヒスタミン薬増量のポイントと根拠データ

著者: 谷崎英昭

ページ範囲:P.128 - P.131

要約 かゆみを伴う疾患に対する抗ヒスタミン薬の増量は,病変標的部位に十分量の薬剤を到達させるうえで有効な投与法であるといえる.投与薬剤を増量することで効果の増強が期待しうることは以前より経験的に知られており,文献的に報告されている薬剤以外の非鎮静性抗ヒスタミン薬においても同等の効果が得られると予想される.一方で,抗ヒスタミン薬の増量投与にあたっては,各薬剤における有害事象の出現も増大する可能性があることを念頭に置くべきである.有害事象のなかでは,眠気や倦怠感など患者が自覚できる副作用のみならず患者が自覚しにくく医師が評価するのが困難であるインペアード・パフォーマンスなど鎮静作用の増強についても特に注意が必要である.

悪性黒色腫のin-transit転移―予後を考慮した治療戦略

著者: 竹之内辰也

ページ範囲:P.132 - P.136

要約 悪性黒色腫のin-transit転移(in-transit metastasis:ITM)は所属リンパ節までの皮膚・皮下へのリンパ行性転移であり,多くは再発様式として認められる.その取り扱いにはいまだ明確な指針がなく,治療選択に苦慮する場面が多い.当院で再発として経験したITM 18例について,治療経過と予後についての解析を行った.13例において遠隔転移が続発し,11例が原病死した.ITM発現後の生存期間中央値は36か月,5年生存率は34%で,初回再発様式別の比較では所属リンパ節転移,遠隔転移よりも生存期間が長い傾向がみられた.ITMに対する治療は可能であれば外科的切除が第一選択となるが,その目的はあくまで局所制御としての意味合いが強く,広範切除が予後の改善に寄与するというエビデンスはない.現在,進行期悪性黒色腫に対する新規抗癌剤の導入が進められており,ITMの治療戦略も今後は大きく変動していくものと予想される.

皮膚疾患における遺伝カウンセリング

著者: 三橋善比古

ページ範囲:P.137 - P.140

要約 遺伝医学技術の急速な進歩に対して,一般の人々の遺伝についての理解が追いついていない.このような,進んだ技術を提供する側と,それを受ける側とを橋渡しする役割としての遺伝カウンセリングが注目されている.遺伝カウンセリングとは,相談者またはその家族の,遺伝に関する問題に対して正しい情報を提供し,相談者が遺伝的行動を起こすにあたって,自身で判断するための手助けをすることである.遺伝子検査の前には十分な説明が必要である.遺伝子検査は従来の臨床検査とは異なることを理解する必要がある.すなわち,臨床検査の結果は一過性で,疾患が治癒すると正常値に復する.しかし,遺伝子検査の結果は一生変わらず,自分だけでなく家族や親族にも共通する情報になる.そのため,情報管理にも一段の注意が必要である.後半では色素性乾皮症の実際の遺伝カウンセリングの例を示し,告知の問題についても言及した.

皮膚科医主導型褥瘡診療

著者: 磯貝善蔵

ページ範囲:P.142 - P.146

要約 褥瘡は主として圧力などの外力による皮膚・皮下組織の障害であり,しばしば難治になるとともに重篤な感染症を合併するため,その診療に関して皮膚科医への期待は大きい.従来の基本的な皮膚科診療に新たな知識と技術を加えることで,皮膚科医ならではの褥瘡診療を主導できる.そのためのポイントとしては以下のようなことが挙げられる.(1) 単に皮膚潰瘍と記述されていた創のなかを系統的に記述することで病態を把握する.(2) 創傷の物性という概念を導入した診療を行い,看護師との連携で創への外力の効果的な緩和を行う.(3) 薬剤の基剤特性を理解し,創傷の病態を読み取ったうえで,薬剤デリバリーに留意した治療を薬剤師との共働で行う.(4) 皮膚科医の特性を活かして病院,地域でのチーム医療体制を構築する.これら皮膚科医の特性を活かした褥瘡医療を実践することで効果的な褥瘡診療が可能である.

5.皮膚科医のための臨床トピックス

乾癬の予後

著者: 赤坂江美子

ページ範囲:P.148 - P.151

要約 2010年から日本においても乾癬に対し生物学的製剤が使用可能となった.しかし,副作用,値段,施設の問題ですべての症例に使うのは困難であり,また完治療法がないため長期間の治療を余儀なくされる.そこで,5年以上の長期間に東海大学病院を受診した尋常性乾癬患者を対象に,予後を見直した.232例の対象に,①初診時からの重症度の推移,②治療方法別重症度の推移,③治療に抵抗する背景因子について検討した.①重症度の推移は治療を継続することで軽快していく症例が多くなり,②ステロイド単独使用に比べビタミンD3外用剤を併用あるいは単独使用例,エトレチナートに比べシクロスポリン内服症例は軽快していることが判明した.③糖尿病,心血管病変のある症例は治療抵抗性を示した.より詳細な結果を得るには,多施設でより多くの症例を検討できたら最良ではないだろうか.

本邦痤瘡患者のアドヒアランス

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.152 - P.154

要約 慢性炎症性皮膚疾患である痤瘡治療においては,治療へのモチベーションを維持することが成否の鍵である.海外の先行研究では痤瘡患者は治療へのアドヒアランスが不良であることが知られている.そこでわが国痤瘡患者の治療へのアドヒアランスを評価ツールを用いて検証した.その結果,諸外国同様,わが国の痤瘡患者の治療アドヒアランスも不良で,その要因として,治療への不満や副作用,痤瘡の知識不足などが抽出された.痤瘡治療へのアドヒアランスを改善するストラテジーとして,当初から抗菌薬を併用し早期の寛解導入をはかること,保湿薬を併用して皮膚刺激作用を軽減すること,痤瘡の病態を説明することで再発予防のための維持療法や寛解後の全顔塗布の必要性などの啓発が求められよう.

第1世代と第2世代の抗ヒスタミン薬の比較試験(ACROSS trial)

著者: 川島眞

ページ範囲:P.155 - P.158

要約 かゆみを有する皮膚疾患患者を対象に鎮静性抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン,ケトチフェン)と第2世代の非鎮静性抗ヒスタミン薬(べポタスチンベシル酸塩)をクロスオーバーで投与し,かゆみ抑制効果と眠気の副作用の程度について比較検討した.その結果,かゆみ抑制効果においては両者ともに有意な効果を示し,両者間に有意差はみられなかった.一方,眠気の副作用に関しては,第2世代の非鎮静性抗ヒスタミン薬では投与前後で有意差はみられなかったが,鎮静性抗ヒスタミン薬では有意な眠気の悪化が認められた.抗ヒスタミン薬の眠気の副作用と効果の強さは相関しないことが証明され,第2世代の非鎮静性抗ヒスタミン薬の使用が推奨されると結論した.

先天性表皮水疱症治療の新しい展開

著者: 玉井克人

ページ範囲:P.159 - P.161

要約 表皮水疱症は,皮膚基底膜領域の構造遺伝子異常により,生直後から生涯表皮剝離を繰り返す遺伝性水疱性皮膚難病である.組織学的水疱形成部位により,表皮内水疱の単純型,表皮・基底膜間水疱の接合部型,真皮内水疱の栄養障害型に分類される.現時点では有効な治療法はない.近年,骨髄移植が表皮水疱症の有効な治療となる可能性がマウスを用いた研究で示され,米国ミネソタ大学では表皮水疱症に対する骨髄細胞移植治療を実施し,その有効性を明らかにしつつある.一方われわれは,栄養障害型表皮水疱症モデルマウスを用いた検討により,骨髄間葉系幹細胞による皮膚基底膜部への生体内Ⅶ型コラーゲン供給メカニズムの存在を見出した.現在われわれは,骨髄間葉系幹細胞移植臨床研究の実施に向けて準備を進めている.さらに,基礎研究レベルでは,Ⅶ型コラーゲン補充療法やiPS細胞を用いた表皮水疱症治療法開発研究が進められており,表皮水疱症に有効な新しい治療法の確立が期待される.

結節性硬化症皮膚病変に対するラパマイシン外用療法

著者: 金田眞理

ページ範囲:P.162 - P.164

要約 結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)はその原因遺伝子TSC1TSC2の異常のために,蛋白質hamartinとtuberinの異常が起こり,下流のmTORC1の抑制がとれ,脳,腎,肺,皮膚など全身に腫瘍が出現すると同時に白斑,てんかんなどが出現する疾患である.mTORC1の阻害剤であるラパマイシンの全身投与により,腫瘍や白斑が縮小軽快するが,投与中止にて再燃してくる.その結果,長期間の投与の継続が必要となり,副作用が懸念される.そこで安全性の高い,TSCの皮膚病変の治療薬として,ラパマイシの外用療法を検討した.Rocheの診断基準で結節性硬化症と確定診断された9~46歳の男女26人に対して,種々の基剤の0.2%ラパマイシン外用剤を3か月間外用し,その効果を検討した.その結果,顔面血管線維腫,白斑いずれに対しても効果が認められ,全身局所いずれに対する副作用も認められなかった.

ヒドロキシクロロキンによる膠原病皮膚病変の治療

著者: 池田高治 ,   古川福実

ページ範囲:P.165 - P.167

要約 ヒドロキシクロロキン(HCQ)は欧米の治療ガイドライン中で,皮膚エリテマトーデス(cutaneous lupus erythematosus:CLE)では広範囲または重症なもので第一選択とされ,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)では重大な内臓障害のない場合の皮膚症状・関節症状,再燃予防に有用とされているが,本邦では未承認薬である.われわれは,局所治療やステロイド・免疫抑制薬の全身投与に不応性の皮膚症状を伴うSLEおよび不応性のCLE計7例にHCQを投与し,4例に皮膚症状の改善を確認したと報告した.また当科を含めた本邦4施設のHCQを投与したlupus-related skin disease症例の集計報告では,27例中23例で皮膚症状の改善がみられたとされた.本邦でもHCQは従来の治療に難治なCLEやSLEの皮膚症状に有効であることが示され,現在HCQの治験が進行中である.網膜障害に注意しつつも,今後HCQを膠原病,特にその皮膚症状に対する治療方法として選択できるようになることを期待する.

利益相反とは

著者: 相馬良直

ページ範囲:P.168 - P.170

要約 ある個人もしくは団体が複数の利害関係を持ち,一方の利益を守るための行動が他方の不利益となる場合にこれを利益相反という.1999年アメリカで,18歳のGelsingerという青年が,ある遺伝子治療の治験中に死亡した.その背景には,治験担当医師が治験の成功により大きな金銭的利益を得るという利益相反状態があったことが判明し,医学研究における利益相反を適切に管理する必要性について,社会的な要求が高まった.医学研究における利益相反には,臨床試験における利益相反行為と一般の医学研究における利益相反行為がある.これらについて不適切な利益相反行為が行われないように,研究者が所属する施設,研究発表が行われる学会や学術雑誌,研究者と金銭的関係を持つ企業・団体などが,研究者の利益相反状態を適切に管理する必要がある.

苦情・クレームから医療紛争まで―対話による解決を図る医療メディエーションとは?

著者: 永井弥生

ページ範囲:P.172 - P.175

要約 医療紛争の多くが「ボタンの掛け違い」といわれる.対話による解決を目指したいと思うとき,理解しておくと役立つことがある.①怒りの裏にはさまざまな感情が隠れており,まず感情に対する共感がないと,医学的説明が受け入れられない.②そもそも医療者と患者は同じ出来事を異なるフレームを通してみているので,その理解には「ずれ」が生じている.③強く言葉として出されていることは実は真の要求ではなく,その深層には本当の要求が隠れている.医療メディエーター(医療対話推進者)は,感情への共感的理解,ずれや誤解,お互いに見えていない世界を対話で紡ぎ,当事者の問題を変容させる,そして深層の思いを引き出していくといった過程を経て,問題解消の場を提供していく.医療メディエーションの考え方は,紛争解決のみでなく,苦情・クレームや日常診療まで役立つ有用なツールとして広まっている.

入院患者の皮膚科受診の経済的最適化

著者: 遠藤雄一郎 ,   土居主尚 ,   吉川義顕

ページ範囲:P.176 - P.178

要約 診断群別包括支払制度のもとでは,入院中患者の皮膚科診察は特に定めるところのない限り費用を請求できない.そこで,他科入院中の患者の皮膚受診の需要と供給とを最適化するようシミュレーションを用いて実証的に検討した事例を紹介する.まず皮膚科への入院患者の診察依頼の分布を検討した.次に,シミュレーションをもとに1日に診察する入院中患者の上限数を設定して,削減可能かを検証した.診察依頼はポアソン分布に従って発生しており,平均は5.19であった.上限を4人と設定して,定員に達した場合には0.2の確率で翌日の受診へ持ち越すとき,運営上最適であると示唆された.シミュレーションを用いたシステム改善の手法は,他院の皮膚科に対しても示唆を与えうると考える.

皮膚科エキスパートナースの育成

著者: 衛藤光

ページ範囲:P.179 - P.181

要約 皮膚科に特化した専門ナースの育成は皮膚科医にとって重要な課題である.しかし皮膚科専門看護師を育てる教育システムはなく,臨床現場で先輩ナースから実践によって教えられているのが現状である.米国ではThe Dermatology Nurses’ Associationがあり皮膚科の専門ナースの育成が盛んである.本邦でも皮膚科の看護に興味を持つ有志による皮膚科看護研究会が設立されているが,人事異動などにより,皮膚科ナースの立場は不安定である.2009年以降,日本皮膚科学会総会時に皮膚科看護のスペシャリティーを育てる講習会が企画されるようになった.

Derm.2013

血管炎の皮膚生検は2か所とって深切り(deep cut)

著者: 川上民裕

ページ範囲:P.22 - P.22

 「深切り」とは病理の先生たちが使用する言葉で「deep cut」とも呼ばれる.病理検体は通常,パラフィンで固められ(包埋),病理検査技師が薄くスライス(薄切)し,プレパラートにのせ,さまざまな染色(多くはHE染色)を行い,病理組織標本となる.深切り(deep cut)とは,パラフィン包埋された病理標本を通常の切り出し面から数えて,50枚目,100枚目,150枚目,200枚目の切片をプレパラートにのせ標本とすることを意味する.すなわち,提出された病理検体を深く切り込むことで,十分な検討ができる.一方,連続切片とは,順番に薄切すべてを病理標本にしたものであり,深切り(deep cut)とは異なる.

 血管炎は,病理検体から得られた標本内の壊死性血管炎像を病気の中心に据えた概念である.したがって,標本内に血管炎像が認められれば,診断へ大きな一歩となるが,認められなければ,診断から遠のく.今まで,皮膚科では病理組織標本を十分に読み解くことから,血管炎の議論がスタートしていた.その病理検体が,どの時期にどの皮疹をどの程度,採取するかで,大きく所見が変わってしまう点には,あまり関心がなかったように思う.ところが,深切り(deep cut)をしてみると,通常の切り出し面ではみられない病理所見の変化が,ダイナミックに起こっていることに気づいた.さらに,2か所の皮疹を採取することでその精度が格段に増した.2倍以上の血管炎像検出率アップとなっている.そうなると,どの皮疹を皮膚生検すれば,よりきれいな壊死性血管炎像を検出できるかがわかってきた.その候補は,真皮下層から皮下脂肪織の壊死性血管炎であれば,皮内・皮下結節である.紡錘形に皮膚を切開,皮下脂肪織レベルまで接取,いじらずに病理部へ提出する.病理部へは,標本を長軸方向から面出しし,深切り(deep cut)の施行を指示する.さらに可能であれば,マッソン染色とエラスチカ染色も一緒にしてもらう.ぜひ,試してください.

マッサージローラー紫斑

著者: 秋山正基

ページ範囲:P.28 - P.28

 別件で通院されている若い女性の患者さんから,ある時相談を受けました.まだ20代で1歳くらいの赤ちゃんを抱っこしていらっしゃるのですが,いわゆるモデル体型と言いましょうか,痩せていて背が高く,脚がすらりと伸びたスタイルの方です.診ますと,両側の大腿から下腿まで伸側優位に濃淡のある紫斑が多発しております.浸潤は触れず,大きさは不揃いですがせいぜい米粒大までで,散在していたり線状に集簇していたりです.自覚症状はなく,血液検査・尿検査に異常はありません.単純性紫斑と考え経過をみておりましたが,良くなったり悪くなったりの繰り返しでした.不思議に思っておりましたが,わが家の中2の次女のある行動からそのヒントを得ることができました.次女には脚が太いというコンプレックスがあるらしく,「脚痩せマッサージローラー」なるもので大腿から下腿を結構な強さでゴシゴシとこすっておりました.そんなもので本当に「脚痩せ」するのか不明ですが,同部には少数ながら同じような紫斑が出現しておりました.後日その患者さんに尋ねますと,やはりゴシゴシやっているとのこと.やめさせたところすぐに紫斑は消え,今のところ再発もありません.そんなことしなくても十分きれいな脚だと思うのですが,女性の美への欲望は果てしないものですね.皆さんも女性の脚にわけのわからない紫斑をみたらゴシゴシやってないか聞いてみてはいかがでしょうか.

疾患の捉え方―見方を変えると違ったものが見えてくる

著者: 石黒直子

ページ範囲:P.39 - P.39

 皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)は,基本的には同じ皮膚症状を呈しながら,種々のタイプに分かれることがわかっていた.年齢分布では小児と成人の二峰性であり,合併症では間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)を伴う群と悪性腫瘍を伴う群がある.IPでは急速に進行し予後不良の症例と治療に対する反応が良好な症例がある.筋症状がなく皮膚症状が主体の例もみられる.そのなかにも急速進行性IPを伴う症例と合併症のない軽症例がある.これまでわれわれは上記のすべての可能性を考慮し,精査,治療を行ってきたが,急速進行性IPを合併する場合にはその進行の速さになすすべもない状況に追い込まれることがあり,症例によりなぜこれほどまでに異なる経過を辿るのか疑問でもあった.近年,多数の筋炎特異抗体が判明し,DM/多発筋炎の8割でそのどれかの抗体が陽性になるとされ,その臨床的相違点も明らかになってきた.当科2008~2010年のDM患者についても,金沢大学皮膚科で免疫沈降法を行って頂いたところ,20例中11例(55%)で抗体が陽性であり,その内訳は多岐にわたり臨床的相違点もみられた.皮膚症状,検査所見ともに“灰色”と思われる症例で,抗体の検出により診断と治療に一定の指針が与えられたものもある.最近思うに,「皮膚症状は何かを反映して起こる1つの現象に過ぎない」ということである.すなわち,誘因・契機は種々あれど,障害部位が近ければ表現型は類似するということ.臨床的にまとめられた群が必ずしも1つの病因によるとは限らないということは既にあり,多形滲出性紅斑(erythema exudativum multiforme:EEM)はその代表的な疾患である.最近では急速進行性IPを合併するDMでは発症にウイルス感染の関与も推測されている.原因から考えると“○○感染症”ということになり,治療に関する新しい知見も出てくるのかもしれない.各々の筋炎特異抗体の発症機転における役割もしくは裏付けは今後明らかになってくると思うが,DMもEEMと同様に考えることのできる疾患群なのかもしれない.いずれにせよ,筋炎特異抗体の検索が,疾患の病型や予後を予測するうえでいかに重要であるかを認識した数年間であったと思い返している.

記録写真のデジタル化に思う

著者: 小野一郎

ページ範囲:P.46 - P.46

 最近の学会がすべてプロジェクターの映写となり,当然の帰結として皮膚病変の記録はもとよりダーモスコープや病理組織の画像の記録もすべてデジタルカメラで行われるようになってきました.デジタル化の洗礼の前(たった10年ほど前までですが),つまりフィルムでの記録しかなかった時代と比較すれば整理が楽になり,しかも高品位の画像を即時にコンピューターの上で比較できることからその利便性は計り知れないものがあります(毎週のようなスライド整理から解放されたのはほんの昨日のような気がしますが――).ただし,私が日頃感じているいくつかの考えていただくべき点があることを書かせて頂きたいと思います.まずはそのグレードの点です.スマートフォンや携帯電話でもそこそこの写真が撮れるようにはなりましたが以前のフィルムで照明(ストロボ)をきちんと当てて,かつ露出やフォーカスが正確に合った写真のグレードを越えるデジタル写真を記録するためには技術進歩の著しい現在でもそれなりの出費(機材費)と技術の習得が必要であるという点(特にレンズと照明)です.あまりにも安易に撮影できるので,質の低い写真や何を撮りたいのかがわからないような写真がやたら多くなりがちな点などです.日頃から若い先生にお願いしていることはできるだけ良い機材を入手し,常日頃から世界で初めての症例を撮影しているという緊張の気持ちを持って撮影して下さいということです.それとデジタルデータになってもう1点良くなったことは,1枚しかないオリジナルが紛失してしまうと取り返しができなかったものが,限りなくコピーが可能となった点でもあります.これは良い面ですが,逆に個人情報の管理面から大変に神経を使う必要がある点も留意していかなければなりません.今後さらに高品位の写真が安価な機材でも撮れる時代となるとは思いますが,忘れてはいけないのは「その時点で最高の画質の写真記録を疾患の状態を後日正確に把握できるように残す」ということに尽きるように思います.既に各社から最高画質で記録の残せる大変にリーズナブルな価格の機器が多数発売されており,技術的にもほぼ完成されてきていると感じています.これから皮膚科学を志す若い先生たちには改めて良い機材で撮った写真で議論したり,症例の経過を見て,学びスキルアップすることを心がけて頂きたいと思います.当然のことながら学会発表はもとより,投稿論文に掲載するための記録としてもいわゆる「コンデジ」の写真では不十分です.

疾患を集める

著者: 寺木祐一

ページ範囲:P.67 - P.67

 皮膚科医になりたての頃は毎日新しく覚えることの連続で,それで精一杯かもしれないが,4~5年も経過し,ある程度の皮膚科の知識や経験が身につくと,日頃の診療にややマンネリズムを感じることもあるあろう.そんなときは,何か(臨床)研究をするのも一手である.研究というと,構えてしまう人もいるが,まずは何か疾患(最初は,やや稀だが,時々来る疾患くらいが良いか)を集めてみるだけでも良い.思いつかなければ,上の先生に選んでもらっても良い.その疾患に関して何をやるのか,最初に決められれば,それに越したことはないが,集めながら勉強していっても,何かしらの成果(すなわち論文とし発表できる何か)は案外出るものである.このように,目的を持ってある疾患を集めるだけでも,日々の診療にも濃淡がつき,メリハリのある診療に変わっていくものである.途中で興味ある症例があれば,症例報告しても構わないし,ある程度集まったら,早めにデータをまとめ,発表,論文にすることである.論文を完成させれば,より達成感も得られ,充実した診療をした証にもなる.そうしているうちに,その疾患に対してはセミエキスパートくらいにはなるであろうし,そうなると,もうちょっとやろうという気持ちにもなってくる.その後,その疾患に関してさらに発展させるのが理想であろうが,いろいろ楽しみたいなら,他の疾患を集めても良い.私も振り返ってみると,今日までいろいろな疾患を集めてきたが,そのようなことが,幸い興味を絶やすことなく日々の診療に携わってこられた原動力になってきたように思われる.そのようなことをしなければ,日々の診療風景は少し味気のないものになっていたであろう.集めたい疾患はまだたくさんあるが,今後も可能な範囲で続けたい.

視れば診なくてもわかる?

著者: 大西誉光

ページ範囲:P.67 - P.67

 「視れば大体の皮膚疾患はわかる(診断がつく)」.臨床に秀でた大先輩の言葉である.視診で大方の皮膚疾患の見当はつく.確かにそうであり,皮膚科学の他科にはない醍醐味や特徴であろう.視れば見ていなかったこともわかる場合もある.特徴的な分布の下眼瞼の湿疹性病変の女性患者に「アイラッシュカーラーを使っていませんか?」「はい使っています」など.では問診はしなくても良いのだろうか? 大先輩も「問診はしなくて宜しい」と言っていたのではない.問診をきちんと取ることによって視診では想定されない思わぬ疾患が鑑別に挙がり,診断の一助となる場合もある.しかし日常診療できちんと問診ができているのであろうか?

 学生や研修医に患者面接後に症例提示をして貰うと病気や症状の経過(現病歴)ではなく,患者がいかにして当院を受診するに至ったか(病院遍歴など)経緯の物語を聞かされることも多い.不安を抱える患者は症状の経過より自分の推理や診断をまじえて時系列で来院までの経緯を話したがる傾向にある.患者は医学生以上に慣れていないので仕方のないことである.そこで忙しいと,ついおろそかになったり,または患者の話を遮り不興を買うこともある.OSCE(objective structured clinical examination,客観的臨床能力試験)が本邦の医学部にも導入され,医学部の教員はかつての自分は習っていないが医療面接法などの学生指導にあたることになる.この方法論によると(理想論ではあるが),面接の冒頭からは閉ざされた質問は避け,患者の話を遮ってはならず,患者の話を傾聴し,苦しみに共感しなくてはならない.

酒皶様皮膚炎のもと

著者: 山﨑研志

ページ範囲:P.81 - P.81

 北の冬の寒さと乾燥は,老若男女を“リンゴほっペ”にします.雪国のシンボルとして蓑傘を被った雪ん子をよく見かけますが,その多くは頰をほんのりとピンク色に染めています.私の3歳になる娘の頰も例外ではなく,彼女のピンク色の頰は,冬将軍到来の示標でもあります.軽度の肌の乾燥も伴うために保湿剤を欠かさないようにしていますが,最近は彼女自身の小さな指で1 finger tip unitを計りながら塗れるまで成長しました.ちょっと厚塗りではありますが.

 皮膚科の外来での“リンゴほっぺ”はあまり望ましいものではなく,そのなかで酒皶様皮膚炎・ステロイド皮膚炎の方を時々見かけます.酒皶様皮膚炎の診断事由の1つは“ステロイド外用による悪化・誘発”ですが,もともとの疾患は何だったのだろうとよく考えます.患者さん自身になぜ,ステロイドを塗りはじめたのかと聞いてみると「赤かったから,かゆかったから」という答えが多く,前医での診断もはっきりしないことがあります.「前医がステロイド外用剤を使ったことが原因だ」と言ってしまうのは簡単なことですが,そもそもなぜステロイド外用剤を処方される皮膚の状態ができたのかが,説明できていません.酒皶様皮膚炎の治療を進めていくと,その根源が現れてくるときがあります.もともとが酒皶そのものであったりするとステロイド使用そのものに疑問を待たざるを得ませんが,脂漏性湿疹や接触皮膚炎のようにステロイド外用剤の使用が妥当な疾患がベースに隠れていることもあります.前医がステロイド外用剤を使ったことは,必ずしも悪いことではないのです.

電子顕微鏡のご来光

著者: 井上卓也

ページ範囲:P.91 - P.91

 私は医学部を卒業後3年間大学病院で働いた後,病理学教室の大学院で4年間研究を行いました.主に,皮膚癌と線維芽細胞や脂肪細胞との相互作用について細胞培養の手法を用いた研究です.このとき自分が培養した有棘細胞癌を電子顕微鏡で観察したのが,私と電子顕微鏡との出会いになりました.その後,脂腺癌,脂肪肉腫,悪性黒色腫,Merkel細胞癌などの腫瘍の診断に電子顕微鏡を用いてきました.

 とは言うものの,私は電顕試料の作成から電子顕微鏡での観察まで,1つとして一人でできません.すべて病理学教室の技官さん頼りです.硝子ナイフの作成,ウルトラミクロトームを用いた試料の薄切など教えていただきましたが,自分のものにできず,電子顕微鏡写真も横について撮影していただいています.身に付かなかった薄切作業のなかで,薄切された切片の光による干渉色を見ることで切片の厚さがわかるということには感動しました.その銀色や金色の光がまるで初日の出のように思え,眼に焼付いています.電子顕微鏡で観察できるように試料を作成するだけでも大変な作業であり,電子顕微鏡を発明した先人の「光学顕微鏡で見えない世界を見たい」という執念には感服するのみです.私だったら途中であきらめているでしょう.

足育研究会

著者: 高山かおる

ページ範囲:P.103 - P.103

 数年前から行っているフットケア外来に,胼胝・鶏眼の患者さんがたくさん集まってくる.口をそろえたように「どこに行っても治らない」「芯はとれないのか」と嘆いている.フットケア外来と掲げている以上このような嘆きに対応するのは役目と思ってはいるが,難治性の患者さんたちは外反母趾・ハンマートウなどの足趾の変形,偏平足や開張足などの足の変形を伴っており,そのことが難治の原因のため対応は一筋縄ではいかない.さらに靴の選択やはき方に関してまるで無頓着なことが多い.皮膚科の日常診療は患者さんが多くて忙しい.いろんな対策を話すより削って帰ってもらったほうが簡単だと思うが,足の変形にいち早く気が付いて靴・運動・姿勢の指導等足の変形が本格化する前に対応をとることができたらこれからの高齢化社会は元気に闊歩できる人が多くなるかもしれないと夢を膨らまして診療している.そんなことをいつも思っていたら,3Dの足型を30秒で計測できるという機械を開発したある社長さんに会った.足の型を計測して眼鏡を処方するようにインソールや靴が処方できたらどれだけ多くの人が健康にすごせるかと考えている.またその社長さんに「あゆみ」という介護シューズをつくっている社長さんを紹介していただいた.困っている人の役に立つという信念のあるこの会社のつくる介護シューズは左右バラバラに購入ができ,躓きにくく,履き心地が抜群によい.人が人を呼び同じことを思って足の仕事をしている人たちが集まって「足育研究会」というのを結集した.現在は足育を目的とした足型測定会を開き,私たち皮膚科医が足を診察し,3Dの機械で足型を計り,装具師や靴屋が適切な靴の指導を行い,フットケア師が適切なセルフケアの仕方を指導するという活動をしている.今後はどれだけの問題が起こっているかをデータとして蓄積し,具体的かつ有効な対応策をとれるようにしていきたい.

よく泳ぐものは溺れる

著者: 小川文秀

ページ範囲:P.103 - P.103

 膠原病外来を担当していることもあり紹介を受けることも多い.以前,中学生の女児が全身性強皮症疑いで紹介されてきた.幼少時からしもやけが続いており,Raynaud症状も認めているとのことであった.手指腫脹はありそうだけれども若く一見すると栄養状態の良好な健康そうな女児であるため,まあそんなものかなあと判断していた.抗核抗体は320倍であるものの,抗セントロメア抗体や抗トポイソメラーゼI抗体,そのほか膠原病を思わせるような抗体も特に認めていなかった.全身性強皮症でよく認められる爪上皮出血点は確認できず,指尖潰瘍や指尖瘢痕などもなかった.関節痛や筋肉痛はあるというものの,筋原性酵素も一度だけしか上昇しておらず運動などの影響などが考えられ,関節痛もそれほど強くなく移動性であった.しかも,受診時には母親がいつも一緒であったが,診察時には患者さん本人と漫才のような掛け合いを繰り広げていた.胸焼けはすることがたまにあるけど,食べすぎたかなぁなどと親子ではしゃいでいる感じであった.受験前ということもあり,関節痛や筋肉痛も不定愁訴のようなものではないかと判断し,一時終診とし,新たに症状が出現したら再診するようにしようかと考えていた.が,念のため免疫沈降法で確認したところ,抗hUBF(NOR90)抗体が陽性であった.抗hUBF抗体陽性の強皮症は,中年女性が多いが小児例もされ,比較的軽症に多く内臓合併症は少なく関節痛を認めることが多いとされている.

 今回の症例も振り返ると報告例にかなり一致した点が多い.1つ1つの症状を検討すると強皮症に一致するのだが軽症でもあり,患者さんの印象に振り回されてしまった結果であった.今後は慢心せずに丁寧な診察を心がけるようにしたい.

死ぬまで治らない病気

著者: 松﨑康司

ページ範囲:P.112 - P.112

 最近の生物学的製剤の効果には目を見張るものがあります.皮膚科領域では,乾癬に対する3種類の製剤が使用可能で,その効果,切れの良さに驚いた先生も多いのではないでしょうか.投薬前に結核,肝炎,脱髄疾患,悪性腫瘍についての詳細の問診と,パンフレットを使用した説明など多忙な外来業務において足枷となる部分もありますが,実際使用してみると,今までのどの治療よりも効果的なのは一目瞭然です.また,患者さんの喜んだ笑顔がみられるのもうれしいものです.

 「最近,調子はどうですか?」「何も変わんねーじゃ(津軽弁).これ,死ぬまで治んねーんだろ?」と高齢の乾癬患者さんに幾度となく言われた言葉です.そのたびに,「うーん,そーですね…,うーん,でも外用しないともっと悪くなりますよ」と否定も肯定もできず返事に困ること多々でした.身体的および精神的QOLが高血圧,糖尿病よりも悪いという報告をよく聞きます.多くの疾患は一生付き合わなければならないものですが,皮膚特有の目に見える臓器ゆえに,毎日毎日軟膏塗っても,あまり変わらないという無力感が「死ぬまで治らない」というネガティブな言葉を言わせているかもしれません.

うどん県の皮膚がん相談

著者: 森上純子

ページ範囲:P.140 - P.140

 昨年は“うどん県”で話題になった香川県ですが,2013年は第2回瀬戸内国際芸術祭が瀬戸内の島々で開催されます.香川には112の島があり,うち24が有人島だそうです.島に住む高齢者は医療を受けるにも一苦労です.島に診療所があっても,皮膚科医の診察を受けるには対岸の街に行かなくてはならず,気軽に受診はできません.一方,徳島県との県境となる山間部もまた同じで,自動車の運転ができなくなった高齢者は,病院に行くにも家族や友人に頼らねばならず,「気兼ねする」のだそうです.

 当科ではそのような島嶼部・山間部に暮らす高齢者のコミュニティに出向いて行って,皮膚癌とその予防について知ってもらい,気になる皮膚症状の相談を受ける「出張皮膚がん相談」を2009年より年に1~2回開催しています.これまでに168名の参加があり,7例の皮膚癌がみつかりました.2012年は学生のフィールドワーク実習として試行し,学生による皮脂欠乏性湿疹の寸劇がお年寄りに好評でした.

後輩たちとともに

著者: 苅谷直之

ページ範囲:P.141 - P.141

 皮膚科医になってから10年以上が経ちましたが,ほとんどの時間を大学病院で過ごしてきました.私は,現在の臨床研修制度が開始される2年前に大学を卒業しましたので,直接皮膚科医になりました.しかし,私が入局した1年後から,当科は数年間入局者がいないという状態になり,入局後5年間は一番下の学年のままでした.その後,久々の新人が入ってきたとき,長年の下積み生活に慣れてしまっていた私は,どのように後輩に接して,どのように指導したらいいのかということが全くわかりませんでした.ちょっとした雑用でも,自分でやってしまったほうが早いものですから,つい後輩に任せずにさっさと自分で片付けてしまうということがよくありました.大学病院で働いているものとしては,後輩たちを指導し,彼らが一人前の皮膚科医(私自身が一人前なのかはわかりませんが…)になっていくお手伝いをしなければならないというのに,それができない自分に不甲斐なさを感じていました.そんな私が思いがけず,いくつかある病棟診療チームのうちの1つの班長になることになりました.班長になってから,急に,自分のなかでいろいろと後輩に仕事をまかせてみようという思いが強くなりました.責任は自分がとればいいのだから,まず後輩たちに好きにやらせてみようと考えるようになったのです.それからは,後輩たちに診療に関する一定の方向性を示した上で,できるだけ自分は仕事に口をはさまないようにしながら,各々が自分なりに考えて日々の診療にあたってもらうようにしています.自由に仕事をしてもらうことで,班のメンバーたちと気がねなく会話をかわすことができますので,自分とは違う視点からの質問や意見をもらったりすると,それが自分の勉強にもなっていると感じます.これからも後輩たちとともに,皮膚科医として互いに成長していくことができればいいなと思っています.

賢くないと勉強できない?

著者: 加納宏行

ページ範囲:P.141 - P.141

 インターネットの情報量は半端ではなく医学情報も例外ではないが,情報源により内容は玉石混交なので情報の受け手の能力が問われるのは言うまでもない.そして近年,書籍の豊富さも自分が卒業した20年以上前とは較べものにならない.学生の頃に触れる医学書の代表は「教科書」で,おもしろいというものではなかったが書かれていることを疑うこともなかった.卒業後なぜか生化学の大学院に入って,教科書といえどもその内容は1つ1つの原著論文(一種危うさがある)の積み重ねであるということに気付かされた.つまり,いくつかの原著論文(木)からある種の定理のようなものを見出して物語にするのが総説(森)であるとすれば,それをまとめたのが教科書で,そういう重みのある本でさえ決して信じ切ってよいものではないかもしれない,と気付いたことが唯一の(?)収穫だったかもしれない.

 中規模市中病院での勤務が長かったので褥瘡に興味を持つようになり入会した日本褥瘡学会は,設立当初から宮地先生をはじめ皮膚科医も関わっていらっしゃるが,会員構成は看護師が最多で形成外科医の存在感が大きく,薬剤師などもいて,以前は各職種が各業界の意見を主張しあっていた(?)ユニークな学会である.それはさておき,この世界でも多くの書籍が出版されている.褥瘡は原因がはっきりしているので予防・治療がメインとなるが,異なる治療法を正しく比較・評価するということは,個々の症例にさまざまな条件の違いがあり困難を極める.にもかかわらずラップ療法をはじめ,エキスパートオピニオン(?)の本も多い.ラップ療法はネットの力が大きかったと思うが,創傷治療の基礎知識をもたない人(医師を含む)の間で一時期「なんでもラップ」状態になり問題も生じたのは事実で,褥瘡医療の危うさを露呈した.豊富な書籍は大変役立つが,書籍からの情報収集にも受け手の能力が問われる時代かもしれない.

多様性

著者: 本間大

ページ範囲:P.158 - P.158

 皮膚科医として仕事を始めて丸17年が経過した.

 この間,臨床医としてできることは増えたが,経験したことのない疾患や診断に苦慮する症例に出くわすことも日々多い.自らの少ない知識のいずれかに無理に当てはめようとすると,結果として,診断や治療はうまくいかない.百聞は一見に如かずという言葉があるが,1人ですべての疾患を経験することはやはり不可能で,報告例などを参考にして,より疾患に関する知識を向上させる努力を続けることが必要だと痛感している.最近は,後輩から診断や治療について質問を受けることも増えた.これまでに,経験した症例や勉強したことのある疾患については,ある程度の答えを返すこともできるが,過去に自分がわからなかったことがいまだに理解できていないことに気づくことも少なくない.

説明? 説得?

著者: 古田淳一

ページ範囲:P.170 - P.170

 昨年,初診実習でのお話です.私との実習を終えた学生から「先生の外来は説明というよりも説得ですね」と言われました.悪い意味ではなく,私が患者さんの納得を得られるようにいろいろと工夫していることを言ったようです.あれこれ説明している前後の文脈を大幅に省いて抜き出してみます.

 問1) この湿疹は内臓から来ているはず.

脱走兵との攻防戦

著者: 日野亮介

ページ範囲:P.178 - P.178

 われわれの施設だけの恥ずべき問題かもしれないが,学生講義をしていると,出席カードに名前を書いた瞬間に教室を脱走していく学生が必ず数名いる.医局秘書の皆さんも「あれウザイんでなんとかしてくださいよ~」と不満顔.さあ,どうしようか.いくつか対策を考えてみることにした.まず,出席カードを配る時間をランダムにしてみた.効果なし.次,脱走兵が逃げた後,試験のヤマをまじめに出ていた学生に伝えることにした.その情報も,脱走兵たちに結局伝わることになるため効果なし.これも悔しい方法なのだが,「1人でも脱走したら試験をとっても難しくします,過去問も出しません!」という条件を出した.これを講義前に,予め宣言しておく.たいてい,脱走兵は遅刻してくることが多いので,出席カードをもらうと脱走しはじめる.すると,講義室の誰かから送信されたメールを見て慌てて戻ってくるというパターンがみえる.最も重要なアウトカムが「学生が脱走しないこと」であればよいのだが,本来そんな後ろ向きな方法では良くないだろう.何かいい方法はないのだろうか.王道はだれも脱走したくならない魅力的な講義のはずではあるが.皆さんはどうしておられますでしょうか.

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欧文目次

ページ範囲:P.4 - P.5

投稿規定

ページ範囲:P.182 - P.183

あとがき

著者: 川島眞

ページ範囲:P.184 - P.184

 皮膚科領域のいわゆる商業雑誌も,私が医師になった当時の『臨床皮膚科』と『皮膚科の臨床』の2誌の時代から5誌を超える時代になっています.さらには,学会誌,製薬企業の情報誌など,情報過多とは言わないまでも,情報の重複は否めません.紙の無駄(?)とエコロジーを持ち出すまでもなく,情報の集約は必要と思われます.

 本増刊号はまさに「最近のトピックス」を集約したものであり,編集委員会のメンバーは1年間にわたり情報を広く渉猟し,有意義なもののみを選択し,提供することに努力しています.研修医から病院勤務医はもちろんのこと,開業の先生方まで広い読者層を想定し,すべての皮膚科医が学ぶべき内容を取り上げるように意識しています.前号の編集会議が終了した直後から,次号のトピックスの収集のため,さまざまな学会での講演を聴講し,抄録に目を通し,さらには皮膚科領域に限らず,医療全般の話題にも枠を拡大して目を光らせています.すなわち,取材活動は1年中行っていることになります.編集会議では各編集者が候補となるトピックスを持ち寄って検討します.複数の編集者が推薦する話題は順当に選択されることが多いのですが,まだ定説にはなりきっていないものは,話題性は高くとももう1年待ってからの再評価が妥当と判断されることもしばしばあります.本増刊号は,その時点のトピックスの集合ではありますが,編集者の意識としては,将来にわたって不変のエビデンス,主張,思考のみを取り上げることに腐心しています.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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