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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻6号

2013年05月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・69

Q考えられる疾患は何か?

著者: 中田珠美

ページ範囲:P.385 - P.386

症例

患 者:63歳,男性

主 訴:体幹,四肢の強い掻痒と皮疹

家族歴:特記すべき事項なし.

既往歴:糖尿病(発症時期は不明),慢性腎不全(61歳から血液透析中)

現病歴:50歳頃から体幹,四肢に湿疹があり,62歳より激しいかゆみを伴う角化性紅色丘疹を認めるようになった.初診2か月前には潰瘍化した皮疹も出現した.

現 症:体幹,両下肢に,中央に黒色痂皮が固着した直径0.5~2cmの角化性丘疹,結節を多数認めた(図1a,b).皮疹は褐色で周囲に二次感染による強い発赤があり,毛孔一致性ではなかった.一部の皮疹は線状に配列し,多くの掻破痕があった.

今月の症例

CYLD遺伝子に変異を認めないfamilial cylindromatosisの1例

著者: 廣正佳奈 ,   日野亮介 ,   小林美和 ,   中村元信

ページ範囲:P.387 - P.390

要約 96歳,女性.数年前より頭部に紅色の腫瘤が出現し増大,多発してきたため当科を受診した.初診時頭部,四肢に径3cm大までの淡紅色腫瘤が多発し,腫瘤は弾性硬で表面に毛細血管拡張を伴っていた.生検標本では,類円形から不整形の好塩基性胞巣をジグソーパズル様に認め,円柱腫の病理組織像であった.円柱腫が多発していること,また長男の頭部にも円柱腫が生じていたことから自験例をfamilial cylindromatosisと診断した.Familial cylindromatosisは円柱腫が多発するまれな常染色体優性遺伝性疾患である.CYLD遺伝子が原因遺伝子であると考えられているが,自験例ではCYLD遺伝子の変異は検出できなかった.CYLDの機能調節に関してはまだ不明な点が多く,CYLD遺伝子変異を認めない症例における変異の特定に関しては今後の症例の蓄積,統計学的検討が必要である.

症例報告

グルコン酸カルシウム動注療法が著効したフッ化水素酸による手指の化学熱傷の1例

著者: 菊池剛彰 ,   高橋和宏 ,   洞口由香 ,   大西正純 ,   馬場俊右 ,   森志朋 ,   前田文彦 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.391 - P.394

要約 60歳,男性.25%フッ化水素酸が手指に付着し,発赤とともに疼痛が増強した.WBC 14,070/μl,CK 278IU/l,CRP 0.6mg/dlで軽度上昇し,25%フッ化水素酸による化学熱傷と診断した.グルコン酸カルシウムの投与の適応と判断したが,手指には著明な浮腫があり循環障害のリスクがあるため局注は困難と考え,ワンショット動注療法を選択した.セルジンガー法にて受傷部位全体に薬液が到達するように左右上腕動脈から8.5% CG 5mlを生理食塩水20mlに溶解し,それぞれに12.5mlずつ30分かけて緩徐に注入した.動注直後から劇的に疼痛は軽減し,その後の局所の治療経過は良好であり瘢痕を残さず治癒した.フッ化水素酸による化学熱傷に対するグルコン酸カルシウム動注療法の有用性を確認した.

慢性C型肝炎患者へのペグインターフェロンα-2bとリバビリンによる併用療法中に生じた薬疹に,シクロスポリンが奏効した1例

著者: 丸山涼子 ,   藤川大基 ,   下村尚子 ,   大越章吾 ,   佐藤信之 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.395 - P.398

要約 55歳,男性.慢性C型肝炎に対して,ペグインターフェロン(pegylated interferon:PEG-IFN)α-2bの週1回の皮下注射とリバビリン内服療法を開始した.併用療法開始4週間後にHCV-RNA量は陰性となった.皮下注射初回より,注射部位の左上腕に掻痒を伴う紅斑が出現したが,併用療法は継続された.治療開始6週後より全身に紅斑が拡大した.現病歴,臨床像,および生検病理組織像より,PEG-IFN α-2bの皮下注射とリバビリン内服の併用療法を契機とした薬疹と診断し,併用療法を中止した.また患者は重症糖尿病を合併していたため,ステロイドの全身投与を行わず,シクロスポリンを経口投与した.治療開始後,全身の紅斑は軽快し,シクロスポリン投与による副作用も出現しなかった.患者の抱える合併症により,ステロイドの全身投与が適切でない場合,PEG-IFN α-2bの皮下注射と,リバビリン内服の併用療法による皮膚症状に対して,シクロスポリンの投与は有用であると考えた.

免疫グロブリン大量静注療法が有効であった水疱性類天疱瘡の1例

著者: 宮地千尋 ,   門馬文子 ,   紺野隆之 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.399 - P.404

要約 84歳,女性.体幹,四肢に掻痒を伴う難治性の浸潤性紅斑を認め,当科を受診した.蛍光抗体直接法で基底膜部にIgG,C3の沈着,ELISA法で抗BP180抗体が陽性であり水疱性類天疱瘡と診断した.プレドニゾロン(PSL)0.7mg/kg/日,シクロスポリン4.5mg/kg/日の内服で軽快せず,血漿交換療法を2回施行したところ,症状は改善したが非結核性抗酸菌症を併発したため免疫グロブリン大量静注療法(400mg/kg/日5日間)を行い有効であった.その8か月後再燃し,再度免疫グロブリン大量静注療法を施行した.これまでの報告でもあるように,従来の免疫抑制療法で難治の水疱性類天疱瘡症例や,感染症を合併した場合の症例に対して免疫グロブリン大量静注単独療法またはステロイドとの併用療法を行うことは,ステロイドを増量することなく症状を改善させることができる可能性がある点で有効といえる.

系統的皮膚生検が診断・治療方針決定に有用であった毛孔性扁平苔癬の1例

著者: 福田理紗 ,   横山知明 ,   海老原全 ,   桜岡浩一 ,   大山学

ページ範囲:P.405 - P.409

要約 41歳,女性.既往に抗リン脂質抗体症候群あり.2年前より前頭部と頭頂部に脱毛斑が出現した.臨床像から剣創状強皮症などの膠原病に伴う脱毛症を疑われ当科を紹介され受診した.初診時,ダーモスコピーにて毛孔が明らかではない脱毛斑を前頭部,頭頂部に認め,瘢痕性脱毛を疑った.診断確定のため,縦断面,横断面切片を得る系統的皮膚生検を施行した.炎症は脱毛部に限局しておりステロイド局注(2.5mg/lケナコルト全量1~2mlを約30~50か所に分けて)を治療として選択した.横断面標本でダーモスコピーにて瘢痕化が示唆された部分にも組織学的に毛孔構造が残存していたことから,積極的に脱毛斑全体に局注を施行し,再発毛を得た.縦断面標本で知りえた炎症の深さを考慮し皮膚萎縮などの副作用なくステロイド局注を遂行できた.系統的皮膚生検の瘢痕性脱毛症の診断・治療方針の決定における有用性について考察を加え報告する.

急激な皮疹の増悪後に診断に至った毛孔性紅色粃糠疹の1例

著者: 中村善雄 ,   山本享子 ,   布袋祐子

ページ範囲:P.410 - P.415

要約 61歳,女性.数年前より脂漏性湿疹と診断されステロイド外用などにより加療されていたが,初診約1か月前より皮疹の拡大を認めた.初診時露光部を中心に著明な浮腫,熱感,掻痒を伴う落屑性紅斑を認めたが毛孔性紅色粃糠疹(pityriasis rubra pilaris:PRP)の典型疹を欠いており,乾癬や全身性接触皮膚炎などを考えた.しかし,その後皮疹は急激に拡大し,背部の毛孔一致性の角化,掌蹠の蝋様光沢を伴うオレンジ色のびまん性角化などPRPの典型疹を呈するようになった.病理組織像では毛孔角栓と表皮肥厚,checker board patternを呈しPRPと診断した.エトレチナート内服にて皮疹は著明に改善したが,嘔気,脱毛などの副作用が出現したため,漸減すると皮疹は再燃した.シクロスポリンを投与したが効果は乏しく治療に難渋した.PRPは多彩な臨床経過をたどり,初期の皮疹では診断困難な場合があるため注意すべきと思われた.

Monoclonal gammopathy of undetermined significanceと嚥下障害を伴った粘液水腫性苔癬の1例

著者: 本田理恵 ,   鬼澤沙織 ,   伊藤周作 ,   工藤大輔

ページ範囲:P.416 - P.420

要約 70歳,男性.1年前より顔・頸部に掻痒を伴う皮疹が出現,同時期より嚥下障害を自覚した.初診時,全身の広範囲に米粒大までの常色から淡紅色の小丘疹が多発し集簇していた.病理組織所見では真皮浅層から中層の膠原線維の離開と線維芽細胞の増生を認め,ムチンの沈着を伴った.また,血漿蛋白免疫電気泳動でIgG・κ型の単クローン性γグロブリン血症を認め,骨髄穿刺で骨髄中の形質細胞が1%程度であったことから,monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)を伴った粘液水腫性苔癬と診断した.粘液水腫性苔癬では,皮膚以外の臓器にもムチンが沈着し,嚥下障害などの全身症状を伴うことがある.また単クローン性γグロブリン血症を伴うことが多く,自験例では皮膚症状を契機にMGUSが発見された.MGUSは多発性骨髄腫などに進展することがあるため,慎重な経過観察が必要である.

下腿に生じた軟骨化,骨化を伴った皮膚混合腫瘍の1例

著者: 守田亜希子 ,   河野克之 ,   毛利忍 ,   武川るみ

ページ範囲:P.421 - P.425

要約 39歳,男性.約4年前より左下腿に自覚症状を伴わない腫瘤が出現し,徐々に増大するも放置していた.2007年6月,当科初診時,左下腿外側に24×23×7mm大,表面常色~軽度褐色,いびつな円柱状で,触診上,皮内から皮下にかけて骨様硬の腫瘤を認めた.下床との可動性は良好であった.病理組織像では,真皮下層から皮下脂肪織にかけて,島状~管腔状構造をもつ腫瘍細胞が粘液腫様~軟骨様の間質を伴って存在し,軟骨~骨成分を伴っていた.間質内に孤立性に存在する腫瘍細胞も認めた.以上より軟骨~骨化像を伴った皮膚混合腫瘍と診断した.軟骨と骨成分を伴っているため,軟骨性骨化像と考えた.本症は顔面,頭頸部発生が多く,下腿発生は比較的稀である.病理組織学的には典型だが,軟骨と骨化がみられた点は特異であった.皮膚混合腫瘍における軟骨化,骨化の機序はさらに検討を要する.

血管シーリングシステムが奏効した腫瘍内出血を伴った巨大びまん性神経線維腫の1例

著者: 平井郁子 ,   吉田哲也 ,   伊勢美咲 ,   舩越建 ,   髙江雄二郎 ,   貴志和生 ,   谷川瑛子

ページ範囲:P.426 - P.430

要約 63歳,男性.既往に骨髄異形成症候群,心筋梗塞,洞不全症候群がある.また,慢性腎不全に対し2年前に腎移植を施行された.神経線維腫症1型で腰部に懸垂性の腫瘤があり,同部位が誘因なく急激に増大したため受診した.一般検査で既存する貧血の進行がみられ,CTでは腫瘍内出血像を認めた.心不全,腎不全の増悪が懸念され,全身麻酔下で血腫除去術と,バイポーラを用いた止血を行った.術後19日目に再出血とそれによる創部の離開を生じ,2回目の手術を施行する際,止血操作に血管シーリングシステムを用いた腫瘍内部分切除術を行い,略治した.血管シーリングシステムは出血量を抑え確実な止血を行うことができる手術装置である.術中の止血に難渋することが多いびまん性神経線維腫の腫瘍内出血に対し有用なツールであり,皮膚科領域でも今後,積極的に取り入れることが望ましいと考えた.

間擦部主体の多形皮膚萎縮を呈し,病巣内に有棘細胞癌を合併した菌状息肉症の1例

著者: 濱菜摘 ,   松山麻子 ,   田中英一郎 ,   株本武範 ,   伊藤雅章 ,   後藤一美 ,   河井一浩

ページ範囲:P.431 - P.435

要約 80歳,男性.40年前からほとんど変化のない,両腋窩および下腹部から鼠径部に限局する濃い褐色斑と脱色素斑や毛細血管拡張が混在した境界が不明瞭な多形皮膚萎縮を認めた.約10年前に陰茎腫瘤が出現したが,組織学的に有棘細胞癌(squamous cell carcinoma:SCC)で切除した.切除生検した鼠径リンパ節に転移はなかったが巨細胞を伴う肉芽腫を認めた.多形皮膚萎縮部は病理組織学的に表皮親和性を伴う真皮浅層の帯状リンパ球浸潤を示し弾性線維の減少と断裂を認めた.生検組織のサザンブロット法ではT細胞受容体遺伝子のモノクローナルな再構成が証明された.臨床的には懸垂性の弛緩皮膚を呈さず病理組織で肉芽腫の形成はなかったが,granulomatous slack skinと一部共通点をもつ菌状息肉症(mycosis fungoides:MF)のバリアントと考えた.自験例のように多形皮膚萎縮が主体で長年ほとんど変化がないMFは見過される恐れがある.また自験例は未治療の病巣内にSCCを生じておりMFの二次発癌にも注意を要すると考えた.

丹毒様の皮疹から進展し,急激な転帰をとったanaplastic large cell lymphomaの1例

著者: 梁川志保 ,   森志朋 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.436 - P.440

要約 66歳,男性.2010年7月初旬より左こめかみ部の発赤,腫脹が出現した.丹毒の診断で抗生剤投与を開始したが皮疹の改善なく,夜間の発熱に加えて結節性病変が出現した.当科初診時,左こめかみ部にドーム状に隆起し潰瘍を伴う胡桃大の紅色腫瘤を認め,周囲には小結節が散在していた.病理組織検査では真皮浅層から深層にかけて明瞭な核小体を有する大型異型細胞が増殖し,CD30陽性,ALK陰性であった.造影CTで膵臓の腫瘍性病変が指摘されたがリンパ節病変はなく,ALK陰性systemic anaplastic large cell lymphoma,stageIVBと診断した.THP-COP療法開始後,腫瘤は若干縮小したが,DICを併発し第18病日に永眠された.約1か月半の経過であった.本症例のように腫脹や発赤が初発症状であった症例は探しえた限り本邦で1例であり,きわめて稀な皮膚症状であると考えた.

両頰部に生じたprimary cutaneous lymphoplasmacytic lymphomaの1例

著者: 馬場裕子 ,   橋本玲奈 ,   舩越建 ,   宮川義隆 ,   谷川瑛子 ,   岡本真一郎

ページ範囲:P.441 - P.445

要約 60歳,女性.初診の1年半前より左頰部に爪甲大の灰青色斑を自覚した.同様の皮疹が右頰部にも出現し,疼痛を伴いながら増大した.初診時,右頰部に40mm大,左頰部に13mm大の浸潤を触れる灰青色局面を認めた.以前より原因不明の高IgM血症1,125mg/dl(正常値52~270)を指摘されていた.病理組織学的に,真皮中層から皮下脂肪組織に形質細胞(CD20陰性,CD138陽性)と異型に乏しいリンパ球様細胞(CD20陽性,CD79a陽性)が混在して稠密に増殖,封入体様構造物(Dutcher body)を認めた.PET-CTにて両頰部に集積を認めた以外,骨髄・リンパ節を含め他に病変を認めなかった.組織学的特徴と合わせてprimary cutaenous lymphoplasmacytic lymphomaと診断した.本疾患は低悪性度悪性リンパ腫で,自覚症状にも乏しい.しかしながら,Waldenströmマクログロブリン血症や原因不明の高マクログロブリン血症などに,結節や紫斑,潰瘍などの皮膚症状が合併した際には本疾患も鑑別に挙げることが重要である.

G群溶連菌感染による壊死性筋膜炎の1例

著者: 野中優江 ,   吉田健一 ,   辻英輝 ,   網代直子 ,   上霜剛 ,   吉永孝之

ページ範囲:P.446 - P.450

要約 85歳,女性.糖尿病や肝疾患はない.30年前の子宮癌術後より両下肢のリンパ浮腫があった.今回,前日からの突然の発熱と左下肢痛で救急搬送される.来院時,左下肢に著明な浮腫と疼痛を認め,左足背・足底に紫斑,足背部には水疱形成を認めた.画像検査でガス像はなかった.水疱穿刺液の検鏡で連鎖球菌を検出し壊死性筋膜炎の診断で緊急入院し,広域抗菌薬の投与を開始,外科的デブリードマンを行い,皮下組織~筋膜に炎症の波及を確認した.その後,水疱穿刺液と血液培養から連鎖球菌が同定され抗菌薬をメロペネムからアンピシリン+クリンダマイシンにde-escalationした.以後,待機的に植皮術を施行し退院.起因菌は16SrRNA遺伝子解析に基づきG群溶連菌(Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis)と同定した.G群溶連菌感染症は近年増加傾向にあり,危険因子として糖尿病,悪性腫瘍,高齢,リンパ浮腫などが指摘されている.溶連菌感染症は重症化しやすく重症皮膚軟部組織感染をみた場合には鑑別に挙げ早急に対応することが望まれる.

縫合不全部に生じたカンジダ性肋軟骨炎の1例

著者: 森本亜里 ,   市川尚子 ,   松井はるか ,   河原由恵 ,   関博章 ,   中村雄介

ページ範囲:P.451 - P.454

要約 71歳,男性.特発性食道破裂の手術直後より左開胸創の縫合不全が生じ,当院外科で10か月間局所処置し,抗生剤を投与したが改善せず当科受診した.当科初診時,排膿を伴う不良肉芽に充塡される瘻孔を認めた.画像検査上肋軟骨部への炎症波及はみられず,瘻孔切除術を施行,術中瘻孔先端に腐軟骨を認めたため除去した.肋軟骨部の摘出標本ではGrocott染色にて真菌要素を認め,組織培養よりCandida albicansと同定した.術後イトラコナゾール,ホスフルコナゾールを投与したが縫合不全が再発したため,当院外科にて左第8,第9肋骨・肋軟骨部分切除を伴ったデブリードマンを施行した.術後イトラコナゾール内服を2か月間継続とし,術後20か月の現在再発は認めていない.本症は診断に苦慮することが多く,また保存療法では軽快せず広範囲な肋軟骨・肋骨切除が必要となるため,頻度は稀であるが患者背景によっては念頭に置くべき疾患として注意を要する.

イトラコナゾール内服と温熱療法が著効したスポロトリコーシスの1例

著者: 平井郁子 ,   笠井弘子 ,   崎山とも ,   木花光 ,   佐藤友隆

ページ範囲:P.455 - P.459

要約 78歳,男性.2010年12月に自宅の裏山の木で左上腕を傷つけた.創部が潰瘍化し難治のため,約2か月後に当科に紹介された.左上腕に2~3cm径の潰瘍を2か所認めた.病理組織学的に,真皮浅層から中層にかけての好中球,リンパ球を主とした稠密な炎症細胞の浸潤と,一部にasteroid bodyを認めた.生検皮膚よりSporothrix schenckiiを培養同定し,皮膚固定型スポロトリコーシスと診断した.ヨウ化カリウムを内服し600mg/日まで増量したところでめまいや胃部不快感が出現したため,450mg/日に減量し内服を継続した.5か月後に総投与量約60gで瘢痕治癒したが,1か月後に再燃し,温熱療法とイトラコナゾール200mg/日内服で治癒した.近年,スポロトリコーシスの治療において,ヨウ化カリウムや温熱療法の他に,イトラコナゾール奏効例の報告が増加している.両薬剤の特徴を踏まえ,患者背景やコンプライアンスに併せた治療が必要と思われた.

食道癌を伴ったBazex症候群の1例―本邦および海外報告例の比較検討

著者: 森志朋 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.461 - P.464

要約 41歳,男性.34歳時より両手足と下腿に皮疹が出現し近医で尋常性乾癬の診断で外用治療をしていた.難治であり2009年5月に当科を初診した.初診時,手指腹側と手掌の一部,手指爪囲に掻痒を伴わない落屑性角化性紅斑を認め爪甲は変形していた.他部や足部に皮疹はなかった.Bazex症候群を疑い血液検査を施行したところ,CEA 5.0ng/ml,SCC抗原2.9ng/mlと高値であった.2011年2月,嚥下困難と頸部の腫脹が出現し,当院消化器内科での諸検査で左頸部リンパ節・左鎖骨上窩リンパ節から縦隔・腹部大動脈リンパ節転移を伴う食道癌T4N1M1b Stage IVB(扁平上皮癌)と判明しシスプラチン,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤,ドセタキセル水和物による化学療法を開始した.転移巣の増大増数があり8月永眠した.Bazex症候群に合併する悪性腫瘍につき自験例を含めた本邦報告34例と海外報告145例を比較検討した.合併する悪性腫瘍の組織型は本邦では扁平上皮癌と腺癌が同割合であったのに対し,海外では扁平上皮癌が圧倒的多数を占めていた.

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欧文目次

ページ範囲:P.383 - P.383

文献紹介 優性遺伝性の多発性自然治癒性扁平上皮腫はTGFBR1の変異によって起こる

著者: 福田理紗

ページ範囲:P.430 - P.430

 Multiple self-healing squamous epithelioma(MSSE)は,扁平上皮腫を多発性に生じる常染色体優性遺伝の疾患である.それぞれの腫瘍は数週間で急速に増殖した後,瘢痕を残し自然退縮する.今回,このMSSEの原因遺伝子としてTGFBR1が同定された.

 まず,本症を有する11家系中の有病患者と第1親族を対象にlinkege studyを行ったところ,第9染色体の24.2Mbの範囲に原因遺伝子があることがわかった.次に,有病4家族と正常家族を対象に,24.2Mbの範囲とその周辺領域の全遺伝子のエクソンをすべてシークエンスしたところ,それぞれの家系でTGFBR1に独立した変異を認めた.さらに有病18家系においてTGFBR1に11の独立した単一対立遺伝子の変異を認め,TGFBR1変異がMSSEの原因であると結論づけた.

お知らせ 第16回皮膚病理講座:基礎編

ページ範囲:P.450 - P.450

日  時 1日目 2013年7月20日(土)10:00~17:00

     2日目       21日(日) 9:00~16:00

会  場 (予定)日本医科大学 教育棟2階 講堂

     (〠113-8603 東京都文京区千駄木1-1-5)

次号予告

ページ範囲:P.465 - P.465

投稿規定

ページ範囲:P.466 - P.467

あとがき

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.468 - P.468

 臨終の床で,「おもしろき こともなき世を おもしろく」と上の句を詠んだのは幕末の風雲児高杉晋作である.その場に居合わせて,「すみなすものは 心なりけり」と下の句を続けたのは,野村望東尼と伝えられる.この世を面白くするもしないも,心次第という訳である.

 「面白く」と言えば,筆者には若き日の苦い記憶がある.今となっては正確に思い出せないが,それは多分入局して数年経った頃のことだったと思う.「陰囊に発生した基底細胞癌」を経験し,上の先生から症例報告をするようにという指示を受けたのである.その頃,生意気なだけで,お世辞にも勤勉な皮膚科医とは言い難かった筆者は,思わず「珍しい部位にできたというだけで,そんなに面白いですか」と口走ってしまった.そのとき,先輩の先生方の顔に浮かんだ困惑の表情は,30年以上経った今でもはっきりと思い出すことができる.こんな不埒な発言にもかかわらず,心優しき先輩の先生方の暖かい指導のお蔭で何とか学会発表まではこぎつけたが,論文は永遠に書かれることはなかった.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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