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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻7号

2013年06月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・70

Q考えられる疾患は何か?

著者: 池嶋文子 ,   池田志斈

ページ範囲:P.473 - P.474

症例

患 者:83歳,男性,神奈川県出身

主 訴:左下腿,足背,足底の皮疹

家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診の3年前に左足背の皮疹に気付いたが,放置していた.その後皮疹が新生,増数してきた.患者の海外渡航歴は,アメリカ,フィリピン,中国,タイであり,いずれも観光目的での短期滞在であった.

現 症:左下腿から足背,足底にかけて大小不同な紫紅色斑が散在.一部の斑上には径8~20mmまでの腫瘤が散在していた.これらはいずれも自発痛を伴っていた(図1a,b).

症例報告

催涙スプレーによる刺激性接触皮膚炎―血圧・呼吸・脈拍に異常をきたした1例

著者: 山里志穂 ,   中井章淳 ,   加藤則人

ページ範囲:P.476 - P.478

要約

 51歳,男性.帰宅途中の路上で何者かにスプレーを顔面に噴射された.顔面,両上肢,胸部に激しい疼痛が生じ,警察官に付き添われ,当院に来院した.診察時,顔面と上半身の露出部に紅斑とともに橙色の付着物がみられた.患者はせん妄状態であり,血圧上昇,頻呼吸,頻脈も呈していた.ステロイド(コハク酸メチルプレドニゾロン,ソルメドロール®500mg)の点滴と鎮痛薬(ペンタゾシン,ソセゴン®15mg筋注;フルルビプロフェンアキセチル,ロピオン®50mg点滴)の投与を行った後,受傷した皮膚と眼を洗浄した.紅斑部にステロイド(クロベタゾールプロピオン酸エステル,デルモベート®軟膏)を外用し,観察入院とした.付着物を警察の鑑識に提出した結果,主成分はカプサイシンであり催涙スプレーによる刺激性接触皮膚炎と診断した.カプサイシンの薬理学的作用と高度の疼痛のため意識状態や呼吸・循環機能に異常をきたすことがあり,対応には注意が必要である.

骨髄異形成症候群の進行に伴って,壊疽性膿皮症からSweet病へ移行した1例

著者: 橋本倫子 ,   濱田利久 ,   岩月啓氏 ,   新谷大悟 ,   池田和真

ページ範囲:P.479 - P.484

要約

 32歳,女性.1993年に骨髄異形成症候群を発症した.2001年に顔面に結節や紅斑性の局面が出現し,壊疽性膿皮症として加療していた.2011年2月に頭部,顔面,背部,上腕に有痛性結節が多発し,倦怠感と発熱が出現した.末梢血中に芽球が2.5%出現し骨髄検査の結果RAEB(refractory anemia with excess blasts)に進展していた.皮膚生検病理組織像では真皮内に好中球の密な浸潤を認めSweet病と診断した.咳嗽があり胸部CTで多発結節影を認めたが感染症は否定的でありステロイド増量と化学療法により軽快したことからSweet病に伴う肺病変である可能性が高いと考えた.自験例のように,基礎疾患がある壊疽性膿皮症の患者に皮疹の増悪と全身状態の悪化を認めた際には,原疾患が進行している可能性があることに注意する必要がある.

ホスホマイシンナトリウムとプロプラノロール塩酸塩の併用による膿疱型薬疹の1例

著者: 坂井博之 ,   菅野恭子 ,   岸部麻里 ,   飯塚一

ページ範囲:P.485 - P.489

要約

 71歳,男性.初診の28日前から高血圧に対しプロプラノロール塩酸塩の内服を開始した.初診の8日前と7日前および初診前日と当日にホスホマイシンナトリウムを点滴投与された.初診の2日前から体幹を中心に紅色皮疹が出現,薬疹の診断で初診翌日からプレドニゾロン内服を開始したが,皮疹は増悪し紅斑上に多数の表在性小膿疱が出現した.病理組織学的には角層下に好中球性膿瘍,膿瘍周囲に表皮細胞変性像を認めた.プロプラノロール塩酸塩の内服を中止し皮疹は改善したが,ホスホマイシンナトリウムの再投与で膿疱を伴わない紅斑が再燃した.薬剤リンパ球刺激試験はホスホマイシンのみ陽性で,プロプラノロール塩酸塩は陰性であった.自験例では,ホスホマイシンに対する薬剤アレルギーにプロプラノロール塩酸塩の非アレルギー的あるいはアレルギー的機序が加わって膿疱型薬疹が出現したと推測した.

Pemphigus Disease Area Indexによる治療効果の評価が有用であった若年発症落葉状天疱瘡の1例

著者: 中山香織 ,   藤尾由美 ,   舩越建 ,   山上淳 ,   海老原全 ,   天谷雅行

ページ範囲:P.491 - P.496

要約

 17歳,女性.2か月前より前胸部に弛緩性水疱,びらんを認め全身に拡大した.抗Dsg 1抗体価が高値であり,落葉状天疱瘡の疑いにて当科を受診した.皮膚病理組織所見,蛍光抗体法,ELISA法より落葉状天疱瘡と診断した.顔面や胸背部の広範囲にびらんを認め,Pemphigus Disease Area Index(PDAI)45点と重症であった.プレドニゾロン1mg/kg/日の内服を開始したが治療抵抗性であった.計2回のステロイドパルス療法,その後連続して血漿交換療法2回,大量IVIG療法を行い寛解が得られた.経過中,一見同程度に見える皮疹を定期的にPDAIで定量的に評価することが正確な治療効果判定に有用であった.若年発症例においても成人同様に必要十分な治療により寛解導入し,少量のステロイドでの寛解維持を目標とすべきであり,初期治療の選択が重要であると考えた.

線状強皮症を伴った全身性強皮症の1例

著者: 新井美帆 ,   茂木精一郎 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.497 - P.500

要約

 39歳,女性.2006年からRaynaud症状が出現,2009年当院腎臓リウマチ内科を受診した.肘関節を越える近位皮膚硬化があり全身性強皮症と診断,プレドニゾロンおよびベラプロストナトリウム内服を開始した.抗核抗体2,560倍,抗Scl-70抗体266.8 Index値と高値であった.2009年より右側胸腹部,2010年より左側胸腹部に線状の皮膚硬化が出現したため当科を紹介受診した.初診時,両側腋窩から側腹部にかけて,境界明瞭な淡紅褐色から紫紅色調を呈する線状の皮膚硬化がそれぞれ2か所ずつ,ほぼ平行に走るようにみられた.同部の病理組織像では,真皮中層から下層にかけて膠原線維の膨化,均質化がみられ,線状強皮症と診断した.副腎皮質ステロイド外用にて経過観察中である.全身性強皮症と線状強皮症の合併は稀であり,文献的考察を加え報告する.

Rheumatoid neutrophilic dermatosisの1例―関節リウマチの病勢との関連について

著者: 足立剛也 ,   崎山とも ,   大内健嗣 ,   髙江雄二郎 ,   安岡秀剛 ,   谷川瑛子

ページ範囲:P.501 - P.505

要約

 55歳,女性.7年前より抗リウマチ薬およびメトトレキサートで関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)を治療中であった.発熱と関節炎の増悪を認め,同時に四肢伸側に爪甲大までの浸潤性紅斑が出現した.病理組織学的に,真皮全層の好中球を主体とする稠密な炎症細胞浸潤であり,血管炎の所見は認めなかった.Rheumatoid neutrophilic dermatosis(RND)と診断し,エタネルセプト投与でRAの諸症状(発熱,関節炎)の軽快とともに皮疹の消退を認めた.RNDはRAに伴う稀な皮疹である.その発症機序は不明だが,過去の報告例よりコントロール不良のRA患者に多く発症し,その症状軽快に伴って消退する傾向が認められた.RNDはRAの病勢を反映し,その評価に有用である可能性が示唆された.

背部に生じた巨大な増殖性外毛根鞘性囊腫の1例

著者: 赤坂英二郎 ,   神可代 ,   北村英夫 ,   原田研

ページ範囲:P.507 - P.510

要約

 58歳,男性.右上背部に90×85mm大,ドーム状に隆起した腫瘤を認めた.生検の結果,増殖性外毛根鞘性囊腫(proliferating trichilemmal cyst:PTC)と診断し腫瘍切除,全層植皮を行った.切除標本の病理組織像は外毛根鞘性角化を示す大小の囊腫が増殖しており,悪性所見はみられなかった.増殖性外毛根鞘性囊腫は前癌的性格を有する腫瘍と考えられており,悪性腫瘍に準じた治療が必要となることもある.自験例は,背部に生じた増殖性外毛根鞘性囊腫としては,本邦報告例中最大であった.背部に生じたPTCは,頭部に比べ大型になる傾向がある.頭部以外に生じた皮膚腫瘍であっても,画像検索などでPTCが疑われる場合には,悪性化の有無も含め病理組織を入念に検討し,適切な治療を行う必要がある.

Erosive adenomatosis of the nippleの1例

著者: 小原芙美子 ,   鷲崎久美子 ,   中村元泰 ,   関東裕美 ,   若山恵 ,   栗川幸子 ,   石河晃

ページ範囲:P.511 - P.514

要約

 45歳,女性.2年前より右乳頭部に出血を認め,吉草酸ベタメタゾン・ゲンタマイシン軟膏を外用したが改善認めないため,当院に紹介受診した.右乳頭全体は13×13×8mmに腫大し硬結を触れ,中央に10×5mmのびらん局面を認めた.病理組織像は,表皮内に異型細胞を認めず,真皮内に一部断頭分泌像を伴う腺管構造が密に増生していた.腺管の壁細胞は概ね2層の細胞層からなり,異型細胞や分裂像はなかった.さらに免疫染色で腺管外側を構築する筋上皮細胞が染色され,乳管上皮細胞との2層構造を確認しerosive adenomatosis of the nippleと診断した.外科的治療を希望されず,保存的に乳頭びらん部への亜鉛華軟膏外用にて経過観察し,本症は初発から3年程経過しているが硬結・びらんの拡大は認めない.悪性化や治療後の再発について報告例があり,注意深い経過観察が必要だが,保存的治療も1つの選択肢と考える.

頭部に生じた悪性皮膚混合腫瘍の1例

著者: 守田亜希子 ,   河野克之 ,   毛利忍 ,   杉本純一

ページ範囲:P.515 - P.520

要約

 44歳,男性.既往歴に統合失調症.1999年頃より右側頭部に自覚症状のない紅色結節が出現し,徐々に増大したが放置していた.2008年10月,当科初診時,右側頭部に鵞卵大,表面疎毛,弾性軟,瓢箪型の一部青黒色に透見される腫瘤を認めた.下床との可動性は良好であった.早期の手術を度々勧めたが,患者の同意を得られず,徐々に腫瘤は増大した.翌年7月,同意を得て全摘術を施行した.病理組織像では,外方性に腫瘍塊を形成し,粘液腫様~軟骨様の間質に異型性を伴う腫瘍細胞が島状,索状,管腔状,囊腫状構造に増殖していた.間質内に孤立性に存在する腫瘍細胞も認めた.腫瘤の辺縁では部分的に非常に異型性の強いbizarreな腫瘍細胞を認めた.辺縁では炎症による刺激を伴い,悪性皮膚混合腫瘍病変の一部が変性し悪性線維性組織球腫様を呈したと考えた.本疾患はきわめて稀な皮膚悪性腫瘍である.確立した治療法はいまだなく,症例の集積と検討が必要である.

中型の先天性色素性母斑より発症した悪性黒色腫の1例

著者: 茶谷彩華 ,   山本奈緒 ,   橋本網子 ,   畑康樹 ,   土居正和 ,   下川伶子

ページ範囲:P.521 - P.525

要約

 36歳,男性.出生時より左腹部に黒色斑があった.2009年7月より同部位に小結節が出現し徐々に増大し,翌年1月当科を初診した.48×26mm大の黒色斑上に径25mm大の紅色有茎性結節を認めた.悪性黒色腫を疑い全摘生検し,センチネルリンパ節生検も施行した.組織学的に結節部に一致して異型性が強い腫瘍細胞が密に増殖していた.センチネルリンパ節に転移を認めたが,遠隔転移なく,pT4bN2aM0 stage ⅢBの悪性黒色腫と診断した.拡大切除し,左腋窩リンパ節郭清後,DAVフェロン療法を6クール施行した.遠隔転移は認めていないが,左前胸部にin transit lesionが出現した.同病変を切除し,インターフェロン局注を継続している.小型・中型の先天性色素性母斑においても悪性黒色腫の発生母地となりうるため,定期的に診察を受けること,色素斑の変化を観察することが推奨されている.また,切除することも治療の選択肢の1つとして考えられるべきである.

皮膚病変より診断したmyeloid sarcomaの1例

著者: 篠原理恵 ,   荻田あづさ ,   茂木千紗都 ,   安齋眞一 ,   川名誠司

ページ範囲:P.526 - P.530

要約

 45歳,男性.血液疾患の既往はない.初診6か月前より左背部,左上腕,腹部,左臀部に径2cm大の結節を自覚した.近医にて生検の結果,悪性リンパ腫を疑われ,当科で上腕,腹部の結節を生検し,膠原線維の増生と異型性のあるリンパ球様単核球の集簇があった.免疫組織染色にて,異型細胞はCD34,CD43,CD56,CD68,TdT陽性,MPO陰性であった.皮膚病変のフローサイトメトリーにてCD33+ 76%,MPO+ 20%であり,myeloid sarcomaと診断した.CTにて頸部,縦隔に多発腫瘤があった.骨髄中に軽度異型性のある芽球が4%程度あり,骨髄病変に先行して皮膚病変を形成したと考えた.急性骨髄性白血病に準じた治療を行い,結節や頸部,縦隔の多発腫瘤は縮小した.その後骨髄移植を施行し,治療開始から12か月後の現在まで皮膚病変の再発,急性骨髄性白血病の発症はない.自験例は診断に苦慮した症例であり,CD56陽性となる疾患の1つにmyeloid sarcomaの可能性を考慮する必要がある.

開口部形質細胞症の4例

著者: 西條あかり ,   高塚純子 ,   竹之内辰也

ページ範囲:P.531 - P.535

要約

 開口部形質細胞症の4例を経験した.発症部位は下口唇3例,陰茎亀頭1例で,61~76歳のいずれも男性であった.臨床症状は紅斑を伴う難治性のびらん,潰瘍であり,病理組織像は上皮の菲薄化・欠損と粘膜固有層における形質細胞の稠密な浸潤が共通所見として認められた.このうち1例においては過去の口唇癌に対する放射線照射部位に一致して生じており,瘢痕組織に伴う慢性的な局所循環障害が発症に関与した可能性を考えた.治療としては3例に全切除,1例にステロイド外用を行い改善傾向を認めた.本症は臨床的特徴に乏しく,病理組織学的な除外診断として成立する疾患であるが,粘膜のびらん・潰瘍に対する皮膚科医が認識すべき鑑別診断の1つとして重要である.

尿膜管膿瘍の1例

著者: 高橋菜穂美 ,   吉村英子 ,   須永亮 ,   足立真

ページ範囲:P.536 - P.538

要約

 26歳,男性.初診の10日前から臍周囲に疼痛が出現した.近医で抗生剤内服治療にて加療したが改善なく,患部より排膿があり,受診した.初診時,臍部に著明な自発痛があり,軽度の発赤と淡黄色滲出液の排出を認めた.臍炎ないし尿膜管遺残膿瘍を疑い腹部造影CTを施行したところ臍と連続し腹腔内に被包化された液体貯留および膀胱頂部へと連続する索状物を認めた.尿膜管遺残症に起因した尿膜管膿瘍と診断し,洗浄ドレナージおよびセファゾリン4g/日で炎症を沈静化した後,尿膜管摘出術を施行した.尿膜管遺残症では再発性の膿瘍や尿膜管癌の発生の可能性もあり,外科的切除が望ましい.

サブイレウスにて保存的加療されていた旋尾線虫による皮膚幼虫移行症の1例

著者: 水野麻衣 ,   清水裕希 ,   坂井浩志 ,   調裕次 ,   杉山広 ,   山崎浩

ページ範囲:P.539 - P.542

要約

 59歳,男性.飲食店でホタルイカを摂取した2日後から嘔気,腹痛の症状が出現した.4日後,近医を受診しサブイレウスの診断で入院し,保存的治療で改善した.腹部症状は虫垂炎術後の癒着との関連が疑われていた.摂食後12日目,右側腹部に約10cmの移動性の帯状皮疹に気づいた.皮膚幼虫移行症を疑い一塊に切除摘出した.組織内に虫体を認め,旋尾線虫虫体切片を用いた酵素抗体法にて患者血清は陽性反応を示し,旋尾線虫幼虫移行症と診断した.自験例では症状は幸い徐々に改善したものの,一般飲食店にて凍結処理されていない生のホタルイカが提供されており,行政による指導と一般消費者への注意喚起も必要であると考えた.

多発脳神経麻痺を合併した帯状疱疹の1例

著者: 加藤円香 ,   田子修 ,   土岐清香 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.543 - P.546

要約

 77歳,男性.近医にて右三叉神経の帯状疱疹を加療されていた.発症12日目に当科を紹介され受診した.初診時,眼瞼下垂,眼球運動障害,口角下垂がみられ,精査により動眼,滑車,外転神経麻痺による眼球運動障害,顔面神経麻痺の併発と診断した.アシクロビル点滴,プレドニゾロン40mg/日を内服し改善した.眼筋麻痺を伴う帯状疱疹では動眼神経が高率に侵されるが,これらの障害にさらに顔面神経麻痺を併発する例は稀である.顔面三叉神経第1枝領域の帯状疱疹の場合,眼筋麻痺や骨髄炎の可能性を念頭に置く必要がある.

治療

閉塞性動脈硬化症とcalciphylaxis合併例の皮膚潰瘍に血行再建術が奏効した1例

著者: 林雄二郎 ,   櫻井謙次 ,   岡本奈都子 ,   米谷あずみ ,   浅田秀典 ,   十一英子

ページ範囲:P.547 - P.552

要約

 58歳,男性.慢性腎不全で20年前より血液透析中である.続発性副甲状腺機能亢進症で副甲状腺摘出,高血圧,30年の喫煙歴がある.3か月前より左下腿,左足趾に有痛性紫斑を伴う黒色壊死が出現した.動脈造影で左総大腿動脈の内腔狭窄,左浅大腿動脈の完全閉塞があったが,潰瘍部栄養動脈に血流途絶はなかった.病理組織学的所見では小中動脈の血管壁が全周性に石灰化し,内腔が閉塞していた.閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)およびcalciphylaxisの合併と診断し,血行再建術を施行したところ壊死の拡大は止まり,デブリードマン後肉芽が新生し植皮術で潰瘍は閉鎖した.Calciphylaxis診断基準案には記載がないが,calciphylaxisにおけるASO合併例は血行再建術が奏効しうるためASOの検索を行うべきと考えた.

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欧文目次

ページ範囲:P.471 - P.471

文献紹介 男性型脱毛症における新治療の可能性

著者: 岡田絵美子

ページ範囲:P.530 - P.530

 男性型脱毛(androgenetic alopecia:AGA)に悩む男性は多く,コーカシアンの男性は70歳になるまでに10人中8人がAGAを経験するといわれている.AGAは,毛周期が早くなることによる休止期毛の増加や毛包のミニチュア化が特徴である.この病態にテストステロン以外に関与する物質があるかどうかはAGAの治療を考えるうえで大変興味深い.

 著者らは,まずAGAの男性5人の薄毛部位と健常部位を比較し,薄毛部位においてPGD2の合成酵素(prostaglandin D2 synthase:PTGDS)の発現が増加していることを示し,次いでPTGDSの酵素による生成物,つまり,PGD2の量も薄毛部位で増加していることを明らかにした.

次号予告

ページ範囲:P.559 - P.559

投稿規定

ページ範囲:P.560 - P.561

あとがき

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.562 - P.562

 また水虫患者が増える時期になってきたが,治療してもちっとも水虫が治らないと訴える患者がいる.そして一番問題なのは,誤診していた医師は,大学病院などの皮膚科にいる医師も含まれていることである.このことから皮膚科医にとって最も基礎的な手技となる直接鏡検が,日本皮膚科学会認定専門医主研修施設でも必ずしも適切に行われていないという実態が浮かび上がってくる.直接鏡検のやり方やどこから検体を採取すると真菌を発見しやすいかは,皮膚科に入局した際に,先輩から学ぶが,現在多くの大学病院では,皮膚真菌症の手ほどきができる医師が極端に少なくなっている.もし医局内に直接鏡検を教育,指導できる人がいなければ,その教室出身者はだれもまともな直接鏡検をできないことになり,ひいては適切な皮膚真菌症治療ができなくなる.実際には以下のようなことが起こっているのではないかと想像される.つまり真菌症を主訴に来院した患者がいれば,皮膚科医であれば直接鏡検をする.しかし検体を採取する部位を知らないと,真菌がいないところから検体を採取することもある.そして顕微鏡を覗いていると,真菌と紛らわしいものが,真菌に見えてくる.その結果,真菌陽性と患者に説明し,抗真菌薬を処方する.真菌症であれば,よくなるので,やはりあれは真菌要素だったと確信するようになるが,皮膚真菌症でなければ,よくならない.患者さんからクレームが来ると,「水虫はなかなか治らないから」などと説明して納得してもらう.しかし爪白癬の場合は状況が異なる.爪白癬と診断した以上,治療は経口抗真菌薬である.経口抗真菌薬は副作用や相互作用もあるし,薬価も高い.さらに治療効果は患者にもわかるため,治らない場合は患者からクレームが来る.それだったら,経口抗真菌薬の副作用が怖いと説明して,外用抗真菌薬でお茶を濁したほうがよいと考える皮膚科医も出てくる.このようなことを繰り返すうちに,真菌感染症患者を適当にあしらう術が身に付くようになる.研修医時代は直接鏡検所見の見方を人に聞くこともできるが,ある程度の年齢となると,今さら直接鏡検ができないとは言えないのが人情である.いずれにせよ皮膚科医が皮膚真菌症の診断ができなくなったら,皮膚科医としての存在意義を失ってしまう.なぜならば,確定診断もせずに水虫治療をするのであれば,薬局で薬をもらうのと同じであり,また非皮膚科医との差別化ができなくなる.日本皮膚科学会は早急にこの対策を講じなければならない.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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