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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科67巻9号

2013年08月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・72

Q考えられる疾患は何か?

著者: 坪田晶子

ページ範囲:P.655 - P.656

症例

患 者:81歳,男性

主 訴:ほぼ全身の掻痒を伴う紅色皮疹

家族歴:特記すべき事項なし.

既往歴:肝硬変(HCV陽性),大腸癌(1995年切除術施行),膀胱癌(1986年から6回の経尿道的切除術施行),肺結核(1956年,2000年化学療法施行)

現病歴:初診の9か月前頃より顔面と背部に掻痒を伴う紅色の皮疹が出現した.近医皮膚科で脂漏性皮膚炎が疑われ,抗真菌剤やステロイド外用剤を使用したが,改善せず拡大してきた.

現 症:顔面を含むほぼ全身に大小の赤褐色の地図状紅斑を認め,表面に鱗屑および痂皮を付着していた.紅斑の中央部は褐色調で治癒傾向がみられた.背部の紅斑の周囲には帽針頭大の紅色丘疹と点状紫斑が混在していた(図1).

今月の症例

ドセタキセルが奏効した進行期乳房外Paget病の3例

著者: 舩越建 ,   福田桂太郎 ,   大内健嗣 ,   横山知明 ,   高江雄二郎 ,   天谷雅行

ページ範囲:P.657 - P.662

要約 81歳,70歳,63歳の男性3例のⅣ期乳房外Paget病患者に対し,ドセタキセル療法を行った.1例目は原発巣の手術不能例で,鼠径,骨盤内,傍大動脈リンパ節に転移があり,放射線療法後にドセタキセル療法を6クール施行し奏効した.その6か月後,腋窩に転移がみられたが,ドセタキセル療法を7クール追加し,転移巣は消失した.2例目は局所の残存病変のほかに鼠径,骨盤内,傍大動脈リンパ節に転移があり,放射線化学療法を行ったが改善せず,ドセタキセル療法に変更し,9クール施行した.完全奏効と判定し,以後再発なく2年経過している.3例目は原発巣切除から5年後に肝,脳,骨,皮膚に転移を生じた症例で,全脳照射と併用し,3クールを行い部分奏効が得られた.3例とも骨髄抑制は軽度であったが,1例目は肺炎を発症し入院加療を要した.他のレジメンと薬剤が重複せず,かつ一定の効果が得られることから,進行期乳房外Paget病に有用な薬剤であると考えた.

症例報告

ドセタキセルによる強皮症様皮膚硬化の1例

著者: 崎山とも ,   平井郁子 ,   木花光 ,   深澤潔

ページ範囲:P.663 - P.666

要約 82歳,男性.前立腺癌に対しドセタキセルを投与開始した2か月後より両足背から下腿に鈍痛と浮腫が出現し,4か月後より同部に軽度発赤を伴う硬化を認めるようになった.投与終了後も症状改善なく,当科を受診した.手指や顔面には皮膚硬化を認めない.病理組織学的に真皮に膠原線維の増生を認めた.抗核抗体,抗Scl-70抗体,抗セントロメア抗体は陰性であった.ステロイド外用を行うも改善は認めていない.タキサン系薬剤による強皮症様皮膚硬化の22例の集計で,投与から発症までは1年未満と短く,皮膚硬化は部位が多様だが,ドセタキセルでは下腿のみの例が過半数を占め,Raynaud現象は少なく,抗核抗体陽性はあるが,抗セントロメア抗体や抗Scl-70抗体は陽性例はない.早期に薬剤を中止しステロイド投与を行えば改善をみるが,進行症例では無効なため,早期診断が重要である.

タクロリムス軟膏が奏効した形質細胞性口唇炎の1例

著者: 吉良正浩 ,   丸山彩乃 ,   早石佳奈 ,   水野麻衣

ページ範囲:P.667 - P.670

要約 72歳,男性.初診の3か月前より下口唇にびらんが出現した.複数の皮膚科を受診し,ステロイド外用剤,抗生剤含有軟膏により加療されたが軽快なく,出血,痛みが強いため当科を受診した.下口唇は全体的にやや腫脹し,中央から右側にかけて出血・血痂を伴うびらんを認めた.病理組織学的には,表皮が欠損しており,真皮上層から中層にかけて形質細胞が稠密に浸潤していた.辺縁の表皮が残存している部位では,液状変性や表皮角化細胞の異型性などは認めなかった.免疫染色ではκ鎖およびλ鎖陽性形質細胞が混在しており,多クローン性であった.口唇に生じた開口部形質細胞症と考え,形質細胞性口唇炎と診断した.タクロリムス軟膏を連日外用したところ,3週間後にはびらんの大部分が上皮化し,6週間後には完全に治癒した.外用による刺激感などの副作用は全く認めなかった.タクロリムス軟膏外用終了後6か月経過した時点では再発を認めていない.形質細胞性口唇炎は比較的まれな疾患であり,症例の蓄積がいまだ不十分ではあるが,タクロリムス軟膏外用は治療の第一選択肢として試みられても良いと考えられた.

腸腰筋膿瘍に続発したleukocytoclastic vasculitisの1例

著者: 加藤円香 ,   須藤麻梨子 ,   下田容子 ,   田子修 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.671 - P.674

要約 70歳,男性.脊柱管狭窄症術後より発熱,頭痛があった.前医で不明熱に対しプレドニゾロン(PSL)40mg内服を受けていた.PSL減量中に炎症反応の再上昇あり,血液培養で黄色ブドウ球菌を検出し,CTにて腸腰筋膿瘍を指摘された.その後,下腿に紫斑が出現したため当科を紹介され入院した.両下腿に米粒大までの浸潤を伴う紫斑が多発した.血液検査では好中球増多(5,767/μl),CRP上昇(1.93mg/dl)およびESR亢進(38mm/h)がみられたが,腎機能障害,血尿はなかった.病理組織学的には真皮浅層のleukocytoclastic vasculitis(LCV)がみられた.蛍光抗体直接法ではIgAの沈着はなかった.前医からのアンピシリンナトリウム4g/日約40日間の投与にて腸腰筋膿瘍が改善するとともに皮疹は消失した.LCVはしばしば感染に続発することが知られているが,膿瘍形成を伴うような例は稀である.特に担癌者,糖尿病,PSL内服中の患者では感染病巣の存在を念頭に画像を含めた検査が必要である.

頭蓋骨膜洞との鑑別を要したatretic cephaloceleを合併した頭頂部動静脈奇形の1例

著者: 村井孝弥 ,   石倉一夫 ,   鈴木一郎 ,   石川博康 ,   澤村大輔

ページ範囲:P.675 - P.679

要約 15歳,女児.出生時より頭頂部に皮下腫瘤があり,成長とともに増大し,掻痒を伴うようになった.初診時,頭頂部に20×14mm,弾性軟の皮下腫瘤を認めた.CTでは腫瘤直下の頭蓋骨に5mm程の骨欠損を認め,MR venographyでは骨欠損を介して上矢状静脈洞と頭蓋外血管の交通があり,脳静脈性血管奇形を合併していた.頭蓋骨膜洞を疑い全身麻酔下に腫瘤を摘出した.病理組織像は真皮から皮下組織にかけて膠原線維間にEMA陽性,ビメンチン陽性の円形あるいは紡錘形の核を有する細胞が線状に配列し,静脈様血管と動脈様血管が不規則に増生していた.最終的にatretic cephalocele(AC)を合併した頭頂部動静脈奇形と診断した.頭皮に生じた動静脈奇形が頭蓋内静脈系と交通することはごく稀であり,さらにACとの合併は,調べた限り初めてである.

後天性全身性無汗症を契機に診断された中枢性尿崩症の1例

著者: 内山明彦 ,   田子修 ,   茂木精一郎 ,   服部友保 ,   永井弥生 ,   高橋舞 ,   荒川浩一 ,   石川治

ページ範囲:P.681 - P.684

要約 14歳,男児.2011年1月頃より口渇,多飲,多尿を自覚,次第に運動時のうつ熱感,発汗低下も伴うようになった.無汗症が疑われ同年5月に当科を紹介された.初診時,全身の皮膚は乾燥していた.温熱試験では全身に発汗がなく,塩酸ピロカルピン試験でも発汗は誘発されなかった.皮膚生検で汗腺の形態異常や汗腺周囲の炎症細胞浸潤はなかった.1日3~4Lの多尿があり,血漿浸透圧の上昇,高Na血症がみられ,バゾプレシン負荷試験陽性で尿浸透圧の上昇があり中枢性尿崩症と診断された.デスモプレシン点鼻治療開始後より尿崩症症状は徐々に改善,1か月後の温熱負荷試験では全身に発汗がみられた.後天性無汗症の原因検索において,まれではあるが尿崩症も念頭に置くべきであると考えられた.

無歯顎に生じた外歯瘻の2例

著者: 坂田健一郎 ,   清水史明 ,   加藤愛子 ,   上原幸 ,   松田佳歩 ,   高橋喜浩 ,   藤原作平

ページ範囲:P.685 - P.688

要約 症例1:50歳,男性.左鼻唇溝部の排膿を伴う皮下腫瘤にて切除術を繰り返されたが再発を繰り返していた.患側は無歯顎であり外歯瘻は当初否定的であったが,その後の画像診断にて病変は上顎歯槽部まで連続しており,外歯瘻が考えられた.症例2:81歳,女性.右頰部の皮下腫瘤にて受診した.無歯顎であり外歯瘻は当初否定的であったが,術前画像検査にて上顎歯槽に連続する腫瘤を認め外歯瘻が考えられた.2例とも病理組織学的にも外歯瘻で矛盾しない結果を得た.発症機序としては,一見無歯顎でも,歯牙脱落後も微細な根尖病巣が残り,そこから排膿路を求め皮膚に瘻孔を形成したと考えられた.術前に画像検査を行い,病変が歯槽部まで連続している所見が認められた場合は,無歯顎であっても外歯瘻を鑑別診断に入れる必要があると思われた.

Eccrine angiomatous hamartomaの1例

著者: 吉田益喜 ,   成田智彦 ,   川田暁

ページ範囲:P.689 - P.692

要約 20歳,女性.生下時から左下腿後面に淡紅色斑あり近医で苺状血管腫と診断され経過観察されたが消退せず,5歳頃から隆起したが放置していた.6か月前に近医を受診し血管腫と診断されレーザー治療を受けたが改善しなかったため,当科を受診した.左下腿後面に4×3cm大の厚い痂皮を伴う黒褐色局面あり自覚症状はなかった.病理組織学的には真皮中層~下層に血管とエクリン汗腺の肥大,増殖を認め,加えて被角血管腫様変化を伴っており,eccrine angiomatous hamartomaと診断した.被角血管腫様変化を伴ったeccrine angiomatous hamartomaは比較的稀である.本邦報告例を検討した結果,外的刺激を受けやすい四肢に好発していることから,慢性的な機械的刺激により被角血管腫様変化をきたしたものと考察した.

Proliferating trichilemmal cystic acanthomaの1例―関連疾患におけるMRIと病理組織像の比較

著者: 富田あさひ ,   小林憲 ,   藤林真理子 ,   畑三恵子 ,   田中勝

ページ範囲:P.693 - P.696

要約 70歳,女性.後頭部に10年前に生じ,漸次増大した約10mm大で軽度隆起し,常色弾性硬の皮下結節で下床との可動は良好であった.MRIでは囊腫壁の一部に不整な肥厚を認めた.病理組織像では真皮内に囊腫構造があり,MRI画像と一致して一部に壁が肥厚していた.肥厚部では大小の囊腫構造が融合し索状・網目状に増殖.増殖部分の細胞には軽度の核異型がみられた.囊腫壁は小型の基底様細胞と内腔に向かって大型化し,顆粒層を欠いて角化する細胞で構成されていた.以上より,proliferating trichilemmal cystic acanthoma(PTCA)と診断した.自験例と当科で経験したtrichilemmal cyst(TC),proliferating trichilemmal tumor(PTT),malignant proliferating trichilemmal tumor(mPTT)とともに,MRI像と病理組織像を比較検討した.PTCAの病理組織像とMRI像をTC,PTT,mPTTと比較すると,壁肥厚と造影所見がよく対応した.これらを連続性病変と考えるとMRI像は病理組織構築をよく反映しており,有用な術前検査である.

下腿Merkel細胞癌とBowen病の併発例

著者: 森志朋 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.697 - P.701

要約 78歳,男性.初診の10年前より下腿に皮疹を自覚していた.徐々に一部が隆起し,1か月前より時折,出血するようになり近医を受診した.近医で隆起部を切除生検したところ,病理組織検査で真皮内に小型類円形腫瘍細胞が胞巣を形成し増殖していた.Merkel細胞癌が疑われ,当科を紹介された.拡大切除に加え,隆起部の病理組織検査を再検討したところ,被覆表皮にBowen病の所見を認め,自験例をMerkel細胞癌とBowen病の併発例と診断した.これまでの併発例も合わせて検討したところ,併発例の発生部位は下肢や足に多く,併発患者の既往として女性は内臓悪性腫瘍との重複癌が多かった.

下口唇部慢性円板状エリテマトーデス皮疹上に生じたsquamous cell carcinoma in situの1例

著者: 吉田益喜 ,   樋口久里子 ,   成田智彦 ,   川田暁

ページ範囲:P.703 - P.706

本論文は抹消されました。

血行性転移で死亡した外陰部偽腺性有棘細胞癌の1例

著者: 山本佐織 ,   渡辺さゆり ,   赤澤聡 ,   安藤典子 ,   原田和俊 ,   川村龍吉 ,   柴垣直孝 ,   島田眞路

ページ範囲:P.707 - P.711

要約 69歳,女性.初診から1年前に左大陰唇に腫瘤を自覚した.初診時,左大陰唇を中心に右大陰唇に及ぶ,手拳大の有茎性の紅色腫瘤を1個認めた.原発巣切除,右鼠径センチネルリンパ節生検,左鼠径リンパ節郭清を行ったが,リンパ節転移はなかった.原発巣の組織は,腺腔様構造を呈しており,偽腺性有棘細胞癌と診断した.術後5か月で,肺転移をきたした.術後化学療法にて,ペプレオマイシン5mgを20回投与したが,化学療法後5か月に全身転移をきたし,シスプラチン(80mg/m2,1日間),フルオロウラシス(800mg/m2,5日間)の投与を1クール施行したが,初診から1年5か月後に永眠した.偽腺性有棘細胞癌は,血行性転移をきたしやすい.自験例も病理組織で血管内に癌細胞の浸潤を認め,原発巣と肺の病理組織の免疫染色パターンの一致から肺転移をきたしたと診断した.偽腺性有棘細胞癌は予後不良であるため,定期的な身体所見と画像評価が必要である.

巨大な有茎性腫瘤を呈した隆起性皮膚線維肉腫の1例

著者: 大橋苑子 ,   爲政大幾 ,   大澤学 ,   太田馨 ,   岡本祐之

ページ範囲:P.713 - P.718

要約 53歳,男性.半年前に右大腿を打撲し,血豆様の腫瘤が出現し徐々に増大してきた.約1か月前から急激に増大し出血するようになった.右腸骨部に下床との可動性が良好な12×10×6cmの巨大な有茎性腫瘤を認め,表面は潰瘍化し出血と膿を伴っていた.生検病理組織像では,クロマチンに富んだ長円形の核を有する紡錘形腫瘍細胞がstoriform patternを呈しながら密に増生していた.これらの細胞は免疫組織染色ではCD34陽性であった.未治療の2型糖尿病があったため,術前に血糖コントロールを行いながら,Mohs’ pasteにより腫瘤の感染と出血のコントロールを図った.初診から2か月後,全身麻酔下に腫瘍切除術と分層植皮術を行った.腫瘍の筋膜,筋層への浸潤はみられなかった.隆起性皮膚線維肉腫は半球状の腫瘤を呈することが多く,有茎性となることは稀である.

中型の先天性色素性母斑上に生じた悪性黒色腫の1例

著者: 登谷晶美 ,   谷岡未樹 ,   宮地良樹 ,   中溝聡 ,   丸田直樹 ,   中川雄仁

ページ範囲:P.719 - P.722

要約 48歳,男性.出生時より右膝外側に50×30mmの褐色調を呈する先天性色素性母斑が存在していた.1年前より母斑辺縁に13×11mmの黒色結節が出現した.結節部のダーモスコピー所見では,一部にblue-whitish veilやirregular streaksが認められ悪性黒色腫を疑う所見を認めた.黒色結節部の切除生検を行った結果,異型メラノサイトが増殖しており,先天性色素性母斑上に生じた悪性黒色腫と診断した.Tumor thicknessは1.2mmであった.全身検索を行い遠隔転移なく,1cmマージンで拡大切除を行った.右鼠径部センチネルリンパ節生検の結果は陰性であった.以上より,表在拡大型悪性黒色腫pT2aN0(sn)M0,stage IBと最終診断した.術後補助療法としてフェロン療法(IFN-β 300万単位/日×5日局注)を3クール終了し現在も経過観察中である.自験例は中型の先天性色素性母斑から生じた悪性黒色腫と考えた.先天性母斑のもともと有している遺伝子変異に加えて,何らかの遺伝子変異が加わることで悪性黒色腫に変化する可能性が示唆された.

サルベージ療法を要した難治性Langerhans細胞組織球症の1例

著者: 大川たをり ,   白井洋彦 ,   山村弟一

ページ範囲:P.723 - P.727

要約 1歳4か月,男児.生後6か月頃より頭部に痂皮を伴う皮疹を認め,消退と再発を繰り返していた.1歳から皮疹が増悪し,同時期に左側頭部と右頰部に皮下腫瘤を認めた.初診時,頭部に脂漏性湿疹様皮疹を,背部に痂皮を伴う淡紅色丘疹を認めた.画像精査で頭部と顔面骨に骨破壊を伴う腫瘍像があり,骨シンチでは肋骨にも99mTc-HMDPが集積した.頭部と背部の皮疹の生検で,S100蛋白,CD1a陽性の組織球様細胞が浸潤していた.以上より多臓器多発型Langerhans細胞組織球症と診断した.寛解導入目的でビンクリスチン(0.05mg/kg/日)+シタラビン(100mg/m2/日)+プレドニゾロン(0.5~2mg/kg/日)の多剤併用化学療法を施行したが反応に乏しく,サルベージ療法としてクラドリビン(5mg/m2/日)を単剤投与し,骨破壊病変は縮小した.しかし皮疹や血中s-IL2-R値は改善せず,シタラビン大量療法(500mg/m2×2回/日)を追加して徐々に皮疹の消退とs-IL2-Rの低下が得られた.2歳未満のLCHは悪性度が高く進行の速い例もあり,早期診断が求められる.乳幼児で難治性の脂漏性皮膚炎様皮疹を診た場合には本症を念頭に置く必要がある.

転倒による手の外傷を契機に発症した続発性皮膚クリプトコッカス症の1例

著者: 山本洋輔 ,   外川八英 ,   岩澤真理 ,   鎌田憲明 ,   神戸直智 ,   渡邊正治 ,   渡辺哲 ,   亀井克彦 ,   松江弘之

ページ範囲:P.728 - P.732

要約 76歳,男性.初診日1か月前に屋外で転倒し左母指を受傷した.左母指の基部に辺縁が周堤状に隆起し,中央に潰瘍を伴う結節を認めた.潰瘍部を生検したところ,真皮間質にPAS染色陽性の淡紅色の円形構造物を多数認め,真菌培養によりCryptococcus neoformansを同定し,皮膚クリプトコッカス症と診断した.イトラコナゾール内服にて消長を繰り返しつつ徐々に軽快した.外傷を契機に発症したため,一見原発性を疑うが,胸部X線にて左下肺に陰影を認めたこと,単発性でなく外傷部以外にも紅斑局面を生じ,そこからも同じ菌が検出されたこと,病理組織像にて炎症細胞浸潤に乏しく,肉芽腫形成のないゼラチン状と称される所見であることなどより続発性と考えた.

肺結核患者に合併した肛門部潰瘍を呈する赤痢アメーバ症

著者: 齋藤京 ,   関根克敏 ,   川田真幹

ページ範囲:P.733 - P.736

要約 58歳,ホームレス男性.肺結核で入院したが,肛門部潰瘍や血便も認めていた.肛門部潰瘍は全周性で一部は白色の壊死を伴い深かった.壊死組織の抗酸菌培養は陰性,壊死組織の病理検査や便の塗抹検査で赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)が確認された.CTでは肝膿瘍を認め,下部消化管内視鏡では結腸に潰瘍が多発していたが抗酸菌や原虫は同定されなかった.結腸と肝病変は赤痢アメーバ症疑い,肛門病変は赤痢アメーバ症と診断した.イソニアジド200mg/日,リファンピシン450mg/日,エタンブトール750mg/日,ピラジナミド1g/日に加えメトロニダゾール1000mg/日を内服したが,次第に衰弱が進行し死亡した.本症は本邦で男性同性愛者による感染を中心に流行しつつある.自験例に関しては状況から不衛生な生活の中での経口感染と推察され,結核との合併である点および肛門部潰瘍を呈した点が特徴であった.

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欧文目次

ページ範囲:P.653 - P.653

文献紹介 デスモグレイン3のシス結合部位を標的とした天疱瘡の自己抗体

著者: 福島彩乃

ページ範囲:P.701 - P.701

 尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris:PV)はデスモグレイン3(Dsg3)に対する自己抗体によりケラチノサイト同士の細胞間接着が障害され,表皮や粘膜上皮に水疱を形成する自己免疫疾患である.以前にPV患者で病原性を発揮するモノクローナル抗体として,Dsg3分子のEC1サブドメイン間のtrans結合を障害するAK23が報告されている.今回,Dsg3分子のEC1-EC2サブドメイン間の結合であるcis結合を障害するモノクローナル抗体が病原性を有し,さらにほとんどのPV患者がcis結合部位に結合とする抗体を持つことが示された.

 PV患者から分離したモノクローナル抗体PVA224は,in vitroおよびマウスを使用したin vivo実験で病原性を認め,Dsg3のEC1~5とDsg2のキメラ蛋白を用いたcompetition assayでEC1に特異的に結合することが示された.C-カドヘリンをモデルとしてDsg3の立体モデルを作成し,PEPSCAN systemを用いると,PVA224はEC1上のcis結合に携わる部分に結合し,それはAK23とは異なる部位であることが推定された.PV患者血清とPVA224がエピトープを共有しているかを調べた実験では,10人のPV患者全員の血清がPVA224のDsg3への結合を80%以上阻害した.逆にPVA224は,10人のPV患者血清中4人でDsg3への結合を80%程度阻害した.さらにVH領域とVL領域をgermline化させると,モノクローナル抗体のDsg3との結合が失われることから,VH領域の変異が大きく抗体の抗原特異性および病原性に関わっていることが示唆された.

次号予告

ページ範囲:P.737 - P.737

投稿規定

ページ範囲:P.738 - P.738

あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.740 - P.740

 「原著」とは,広辞苑によると「翻訳や改作のもとになっている著作.原作」とあります.一般社会では,その説明でなるほどと納得できます.さて,本誌の区分で「原著」があり,「症例報告」とはどのように異なるのでしょうか.「原著」は,英語ではoriginal articleで,目的,材料と方法,結果,考按,結語の要素が明確に書かれ,医学の課題の新たな証明や仮説を発表するものと言えます.基礎医学の研究論文であれば,多くは「原著」になるでしょう.一方,臨床医学ではと言うと,やはり目的を持って確かな方法で症例の臨床データや材料を検討して,病態,治療,予後などについての新たな考え方,ときには新たな疾患を報告するなどするものと言えます.では「症例報告」の論文はと言うと,「はじめに」で報告する意義は述べるのですが,研究論文のような「目的」はありません.医学的に価値のある,あるいは珍しい症例を経験したので,その内容を記述して,医学的データとして残すものと言えます.もちろん,「目的」を設定して,多くの症例を報告しつつ解析して,新たな知見や仮設を提案すれば「原著」になります.残念ながら,近年の本誌は,「原著」論文はきわめて少なく,「症例報告」論文が大部分を占めています.ときに「原著」掲載希望という投稿もありますが,著者が区分の違いを理解せず,単に原稿枚数が多いだけであったり,教科書のような記述を長々としていることが多くみられます.ただ,本誌の「症例報告」はいわゆるmini reportとは異なり,報告する意義を明瞭にして,症例について必要十分に記述し,従来の知見や考え方を踏まえて十分に考案して,充実した内容の論文になっています.われわれも,その症例を報告することで,医学に貢献できることを念頭に置いて審査しています.それゆえ,日本皮膚科学会の皮膚科専門医の前実績としても本誌の「症例報告」は「原著」相当としてカウントされています.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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