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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科68巻10号

2014年09月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・85

Q考えられる疾患は何か?

著者: 吉田和恵

ページ範囲:P.757 - P.758

症例

患 者:48歳,男性

主 訴:頭頂部の腫瘤

家族歴:特記事項はない.

既往歴:高血圧,腎尿路結石

現病歴:初診の3年4か月前より左頭頂部の腫瘤を自覚し,徐々に増大したため,当科を初診した.その後放置していたが,手術を希望し2年4か月後,当科を再診した.

現 症:左頭頂部に4.0×3.7×2.4cm大の比較的硬い常色から紅色調の腫瘤を認めた(図1).被覆表皮は菲薄化し,光沢を有していた.毛細血管の拡張を認め,一部痂皮を付着していた.

マイオピニオン

東日本大震災の教訓から学ぶ,来るべき大災害に対する皮膚科医の備え

著者: 相場節也

ページ範囲:P.760 - P.761

 1. はじめに

 早いもので,三陸沿岸に壊滅的な打撃を与えた東日本大震災から3年以上が過ぎ去った.福島,宮城,岩手三県の内陸主要都市は,もともとそれほどの被害を被らなかったこともあり震災から無事復興し,最近,仙台では以前より夜の街が賑わっているような気がする.一方,三陸沿岸では,津波でほとんどの家屋が流されたうえに地盤が沈下したため,多くの市町村でかさ上げ工事が必要であったり,巨大な防潮堤の建設を巡る行政と住民との意見の相違で復興は遅々として進まない.今回本稿の依頼を受け,震災当時のことを再度振り返る機会を与えられた.今回の反省を踏まえて今後の予想されている震災に対する対応を考えてみたい.

原著

ナッツアレルギーの7例におけるマイクロアレイ法を用いたアレルゲンコンポーネントの検討

著者: 足立厚子 ,   竹森千尋 ,   指宿千恵子 ,   佐々木祥人 ,   干谷奈穂 ,   上田正登

ページ範囲:P.762 - P.769

要約 ナッツ摂取後のアレルギー症状とナッツをすりつぶした液を用いたプリックテスト陽性で診断したナッツアレルギー7例を経験した.原因となったナッツは全例が複数で,クルミが最も多く6例,カシューナッツ4例,アーモンド3例,ピーナッツ2例,ピスタチオ,ヒマワリの種,五味子,ゴマ,クリ各1例であった.口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)から始まるものが5例,蕁麻疹を伴うものが3例,顔面腫脹2例,呼吸困難や下痢など全身症状合併が4例で重症例が多かった.アレルゲンコンポーネントマイクロアレイ法により4例は2Sアルブミン,7Sグロブリン,11Sグロブリンなど貯蔵蛋白の関与が推察され,1例のみハンノキ花粉との交叉による感染特異的蛋白質(PR-10)によるOASが疑われた.残り2例は既知の抗原は陰性で,未知の抗原の関与が疑われた.6例は原因ナッツの摂取禁止のみで,花粉からの交叉の1例は原因ナッツ,果物および豆乳の摂取禁止で再発はない.

症例報告

難治性の多形滲出性紅斑を契機に診断しえた骨髄異形成症候群の1例

著者: 星島啓子 ,   土岐清香 ,   長谷川道子 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.771 - P.774

要約 55歳,男性.2年前より体幹に皮疹が出現し難治であった.初診時,顔面,軀幹,四肢に母指頭大までの浸潤を触れる淡紅色の滲出性紅斑が多発していた.大型のものはtarget lesionを呈し,軽度の疼痛を伴っていた.病理組織学的には軽度の液状変性と,真皮全層の血管付属器周囲にリンパ球主体の細胞浸潤がみられ,多形滲出性紅斑と診断した.大球性貧血,白血球減少,脾腫があり,精査により骨髄異形成症候群の診断に至った.プレドニゾロン投与にて紅斑は体幹,四肢に散在する程度となったが,減量にて増悪を繰り返した.診断から1年後に造血細胞移植が行われたが急性移植片対宿主病にて永眠した.骨髄異形成症候群ではさまざまな皮膚症状を合併することが知られている.皮疹が診断の契機となることもあり,留意するべきと考えた.

肺真菌症患者に生じた急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)の1例

著者: 佐藤洋平 ,   平原和久 ,   狩野葉子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.775 - P.780

要約 57歳,男性.2013年1月まで肺結核の治療歴あり.初診の5日前より発熱,咳嗽を認め,葛根湯を内服した.翌日より間擦部優位に紅斑,小膿疱が多発し葛根湯による急性汎発性発疹性膿疱症(acute generalized exanthematous pustulosis:AGEP)を疑った.高熱の持続,呼吸器症状,肺の画像所見などから細菌性肺炎を否定できず,やむなくセファゾリンナトリウム(CEZ)とメロペネム水和物を投与した.しかし,発熱と皮疹の増悪が続いたため,投与した抗生剤が症状の増悪に関与していると考え薬剤を中止した.その直後より皮疹は軽快傾向を示した.その後も37℃台の微熱が続き,喀痰培養から糸状菌が検出され,抗真菌剤の投与で解熱した.CEZの薬剤リンパ球刺激試験は陽性であった.感染症が基盤にあるAGEP症例では,発症後に使用した薬剤が増悪因子となる可能性があるため,AGEP経過中の投薬は慎重に行う必要がある.

C1インヒビター活性低下による血管性浮腫の1例

著者: 北和代 ,   武下泰三 ,   古江増隆

ページ範囲:P.782 - P.785

要約 45歳,女性.31歳頃より年に数回腹痛や嘔吐,下痢が出現していた.33歳時,近医で腹水を指摘され精査したが原因不明であった.5年程前から数年に1回の頻度で上肢に浮腫が出現していた.当科初診時,右前腕から右手背にかけ発赤を伴わない浮腫を認めた.C3 80.3mg/dl正常,C4 1.5mg/dl,C1インヒビター活性<25%は著明に低下し,C1q 7.7mg/dlは軽度低下し,母親に原因不明の呼吸困難や浮腫のエピソードがあった.また後天性C1インヒビター欠損症で認められるB細胞増殖性疾患や自己免疫疾患は認めなかった.以上の所見から遺伝性血管性浮腫の可能性を考えた.血管性浮腫のうち,遺伝性血管性浮腫は稀な疾患であるが,喉頭浮腫に至ると重篤になりうる.蕁麻疹を伴わない血管性浮腫の症例に遭遇した際は,遺伝性血管性浮腫の可能性を考える必要がある.

抗OJ抗体陽性の抗ARS抗体症候群の1例

著者: 村田紗葵子 ,   石黒直子 ,   近藤光子 ,   濱口儒人 ,   藤本学 ,   川島眞

ページ範囲:P.786 - P.790

要約 68歳,女性.間質性肺炎に対するステロイドパルス療法後,プレドニゾロン60mg/日を内服中に,手指の冷感,暗紫色調変化と潰瘍が出現した.手指関節背に鱗屑を付す淡い紅斑があるも,ヘリオトロープ疹,爪囲紅斑は認めず.筋症状や関節症状もなかった.血液検査ではCKは正常で,アルドラーゼの軽度上昇とKL-6高値を認めた.抗核抗体は20倍未満であったが,免疫沈降法で抗OJ抗体を検出した.手指の紅斑からの生検病理組織像では液状変性はなく,真皮に軽度の浮腫と血管周囲性にリンパ球浸潤を認めた.蛍光抗体直接法にて免疫グロブリンの沈着はなく,病理組織学的には皮膚筋炎に特異的な所見はなかった.抗OJ抗体陽性の抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体症候群の報告は少なく,皮膚症状を伴わない症例が多い傾向がある.自験例では間質性肺炎が先行し,末梢循環障害を疑わせる皮膚症状を認め,シクロホスファミドパルス療法の併用により軽快した.

抗セントロメア抗体陽性であったびまん浸潤型サルコイドーシス(lupus pernio)の1例

著者: 野村尚志 ,   江上将平 ,   笠井弘子 ,   森真理子 ,   横山知明 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.791 - P.795

要約 54歳,女性.初診8年前より手指に凍瘡様皮疹が出現し,近医にて抗核抗体高値を指摘された.皮疹は季節的変化を認めずに徐々に拡大し,当科を受診した.軽度浸潤を触れ,びまん性に分布する紫紅色斑を手指・手背に認めた.抗セントロメア抗体陽性.Raynaud症状なし.手背皮膚の病理組織像は真皮に島状の集塊をなす非乾酪性肉芽腫であった.胸部X線・CTにて両肺門部リンパ節腫脹を認めた.呼吸機能検査にて閉塞性障害があり,気管支鏡検査を施行したところ気管支壁に多数の白色扁平隆起性病変を認めた.同部位の病理組織像は皮膚と同様の非乾酪性肉芽腫であり,抗セントロメア抗体陽性のびまん浸潤型サルコイドーシス(lupus pernio)と診断した.発症から9年経過し強皮症への移行は認めていない.しかしサルコイドーシスは20年以上の長期経過後に強皮症へ移行する可能性があること,びまん浸潤型では呼吸器病変の合併が多いことに留意し,慎重に経過を追う必要がある.

Panton-Valentine leukocidin産生黄色ブドウ球菌による皮膚感染症の5例

著者: 木藤悠子 ,   近藤佐知子 ,   泉祐子 ,   高木奈緒 ,   片山宏賢 ,   河野緑 ,   上出良一

ページ範囲:P.796 - P.800

要約 Panton-Valentine leukocidin(PVL)は黄色ブドウ球菌が産生する菌体外毒素の一種で,白血球破壊毒素である.重症の膿瘍との関係が示唆されている.感染は基礎疾患のない比較的若年者に多く,ほとんどが皮膚軟部組織から検出される.当科では2011年9月~2012年5月に5例のPVL陽性黄色ブドウ球菌による皮膚感染症を経験した.患者は25~47歳で,基礎疾患はなく,膿瘍3例,蜂窩織炎2例から検出され,5例中2例は再発を繰り返していた.また,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌2例,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌3例であった.本邦でもPVL産生黄色ブドウ球菌による感染の報告が増加しつつあり,流行の拡大を防ぐべく,皮下膿瘍や癤・癰などで,症状が強い,もしくは再燃を繰り返す場合は,PVL産生黄色ブドウ球菌を念頭に置き,治療にあたる必要がある.

後頭部に生じた木村病の1例

著者: 江上将平 ,   野村尚志 ,   笠井弘子 ,   横山知明 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.801 - P.806

要約 39歳,男性.1年前より後頭部に腫瘤を自覚,漸次増大した.初診時には小児手拳大の弾性軟の皮下腫瘤を認めた.後頸部リンパ節腫脹と末梢血中の好酸球(671/μl)とIgE(1,159IU/ml)の増多を認めた.病理組織学的には,皮下に胚中心を持つリンパ濾胞構造と著明な好酸球浸潤がみられ,免疫染色で胚中心に一致してIgE陽性細胞を認めた.外科的に摘出し,術後6か月経過したが再発していない.木村病が後頭部に発生することは稀である.自験例のように,周囲に重要な臓器がない後頭部の木村病は整容性を保つため,治療法として外科的切除がよい適応となると考えた.

高齢発症したcoccygeal padの1例

著者: 野村尚志 ,   江上将平 ,   笠井弘子 ,   横山知明 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.807 - P.810

要約 74歳,男性.トラック運転手(35年間).10年程前より仙尾部に結節が生じ徐々に増大した.初診時,臀裂部左側に右方に突出した35×75mm大の弾性硬,周囲との可動性不良な索状の皮膚腫瘤を認めた.仙尾部側面の単純X線/MRIにて尾骨の前方への屈曲偏位がみられた.その後方にMRI T1強調低信号,T2強調高信号を示す不整形の索状影を認めた.全身麻酔下に仙尾部腫瘤の全摘術を施行した.病理組織像は過角化と真皮から皮下組織にかけての膨化した膠原線維が密に増生し交錯していた.以上の所見よりcoccygeal padと診断した.本疾患は10歳台の報告例が多く,高齢発症は稀である.先天的および後天的要因いずれの説も唱えられているが,自験例は後天的要因による発症と考えた.

腹部に生じたdermatomyofibromaの小児例

著者: 平井郁子 ,   崎山とも ,   森本亜里 ,   木花光 ,   髙江雄二郎

ページ範囲:P.811 - P.814

要約 2歳,男児.生後数か月より左下腹部に自覚症状のないしこりが出現した.径15mmの淡褐色皮内結節で,皮膚線維腫を疑い切除した.病理組織学的に真皮から皮下脂肪織にかけて境界不明瞭な紡錘形細胞よりなる腫瘍を認めた.腫瘍細胞は真皮内では表皮に平行して走行し,一部がα-SMA染色に陽性であり,CD 34染色は陰性で,dermatomyofibromaと診断した.本症は稀な良性の線維芽細胞/筋線維芽細胞性腫瘍で,若年女性や思春期前の男児の頸部,腋窩や鼠径などにみられる比較的新しい疾患概念である.予後は良好で切除後の再発はみられない.不必要な拡大切除を避けるためにも,類縁疾患との病理組織学的あるいは免疫組織学的検索が重要である.

仙骨部の褥瘡,褥瘡瘢痕に生じた有棘細胞癌の3例

著者: 眞鳥繁隆 ,   粟澤遼子 ,   林健太郎 ,   粟澤剛 ,   平良清人 ,   高橋健造 ,   上里博

ページ範囲:P.815 - P.819

要約 症例1:66歳,女性.50歳頃から車椅子生活となり仙骨部に褥瘡を繰り返していた.再発した褥瘡潰瘍部が腫瘤化し有棘細胞癌と診断した.腫瘍は仙骨,大臀筋へ浸潤し,患者は1年9か月後に腫瘍死した.症例2:83歳,男性.22歳時のマラリア罹患後,仙骨部に褥瘡を形成し瘢痕治癒していた.2年前より再燃した潰瘍部が次第に結節化し有棘細胞癌と診断した.腫瘍は脊椎へ浸潤し,骨転移を生じて7か月後に死亡した.症例3:84歳,女性.19歳時に産褥熱で仙骨部に褥瘡を形成し瘢痕治癒していた.2年前より潰瘍化,腫瘤が出現し有棘細胞癌と診断され,9か月後に腫瘍死した.3例とも仙骨部褥瘡やその瘢痕に生じた中~高分化型有棘細胞癌であり,早期に死亡した.慢性創傷や瘢痕を母地とする有棘細胞癌は転移,再発率が高い.なかでも褥瘡由来のものは診断が遅れ,予後も悪い.褥瘡部の難治性潰瘍や腫瘤を診た場合,積極的な病理組織検査による早期診断が必要と考えた.

45年前より認める手掌のエクリン汗孔腫に生じたエクリン汗孔癌の1例

著者: 馬場裕子 ,   野村尚志 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.820 - P.823

要約 82歳,女性.45年来,右手掌中央に径3mm大の黒褐色結節を認めた.半年前より誘因なく急速に増大,初診時には径20mm大,疣状で多房性の紅色腫瘍を呈していた.病理組織学的に,腫瘍全体は左右対称で棍棒状に増殖する上皮索を持ち,好塩基性の大小不整な細胞と好酸性の組織球様細胞が増殖していた.個細胞角化,分裂像や多核巨細胞も観察された.腫瘍巣内の好酸性物質の増殖は表皮内汗管を示唆し,辺縁で異型性に乏しい好塩基性細胞の網状増殖と,CEAとCAM 5.2陽性の管腔様構造を認めた.エクリン汗孔腫から生じたエクリン汗孔癌と診断した.エクリン汗孔癌はde novo発症と,前癌病変からの二次的発症がある.前者は比較的緩徐に増大し,後者は前癌病変がある時点より急速に増大して発症する.エクリン汗孔腫と汗孔癌の鑑別には,特に腫瘍巣内に占めるbowenoid changeの部位や割合が重要となる.

胆管癌に合併したBazex症候群の1例

著者: 櫻井英一 ,   影下雄一 ,   井上剛 ,   森志朋 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.824 - P.827

要約 67歳,男性.2003年に胆管癌の診断で加療歴がある.2009年4月に肺に同癌の転移による再発が指摘され,腺癌,Stage Ⅳと診断され,抗癌剤〔テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1®)や塩酸ゲムシタビン(ジェムザール®)〕にて加療されていた.同年11月頃より四肢や両耳に乾癬様角化性紅斑が出現し徐々に増悪した.皮膚生検病理組織像で不全角化を伴った著明な過角化,表皮突起の棍棒様延長や真皮浅層の血管周囲性のリンパ球浸潤を認め,胆管癌に伴ったBazex症候群と診断した.ステロイドやビタミンD3軟膏の外用は無効であったが,エトレチナート(チガソン®)の少量内服(20mg/日)と姑息的な放射線療法にて皮疹は一時的に改善した.胆管癌の合併に伴ったBazex症候群の報告は自験例が本邦初である.

印象記

Drug Hypersensitivity Meeting 2014とRegi-SCAR Meetingに参加して

著者: 森田栄伸

ページ範囲:P.828 - P.831

 2014年4月9日~12日にスイスのベルン市で開催されたDrug Hypersensitivity Meeting 2014とその後4月12日~16日にドイツのフライブルグ市で行われたRegi-SCAR Meetingに参加しました.本誌の頁をお借りして,その様子を紹介させていただきます.私はDrug Hypersensitivity Meetingへの参加は初めて,Regi-SCAR Meetingへは昨年11月に台湾で行われたMeetingに続いて2回目となります.Drug Hypersensitivity Meetingへは,国内からは杏林大学の塩原哲夫先生が代表をお務めになる厚生労働省科学研究「薬疹班」のメンバーを中心に数十名の方が参加されていました.その後「薬疹班」の一部のメンバーがフライブルグ市に移動してRegi-SCAR Meetingへ参加されました.

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欧文目次

ページ範囲:P.755 - P.755

文献紹介 生体内イメージングによって明らかにされた抗CD20抗体を介したB細胞の除去の機序

著者: 角田梨沙

ページ範囲:P.795 - P.795

 現在,抗CD20抗体療法はB細胞性リンパ腫や自己免疫疾患に使用されている.この論文では,抗CD20抗体投与後にB細胞が除去される機序について,生体内イメージングを用いて解析している.

 抗CD20抗体を投与したマウスのB細胞の除去率を肝臓,脾臓,リンパ節で比較すると,肝臓が最も高いことがわかった.また肝臓,脾臓の半切除をしたマウスに同様の実験を行うと,肝切除したマウスで除去率が半減した.さらに百日咳毒素で脾臓やリンパ節への血中B細胞の進入を阻害すると,脾臓でのB細胞の集積が減少するとともに,肝臓で効果的にB細胞が除去されることが確認された.以上より,肝臓がB細胞の除去に中心的役割を果たすと考えられた.

文献紹介 ドパミンはヒトの毛包においてin vitroでは退行期へと直接的に誘導する作用を有している

著者: 本田治樹

ページ範囲:P.814 - P.814

 レボドパやドパミン作動薬に関連して脱毛をきたした症例報告はこれまでに多数なされているが,その機序は不明であった.本研究において,著者らは,毛包と皮膚にドパミン受容体が発現していることを明らかにし,さらにドパミン存在下では毛包のメラニン含有量は低下し,毛母細胞の増殖も抑えられること,つまり,毛周期はドパミンの直接的な作用によって退行期に移行することを示した.

 著者らはまず,手術時に採取した頭皮検体から成長期の毛包のみを分離し,非血清存在下に7日間培養した.その際,ドパミン投与群と非投与群とに分け,7日後の毛周期の変化や各毛包におけるメラニン含有量や毛幹の伸長,毛母細胞の増殖能について比較した.

書評 ―著:大原國章―大原アトラス1 ダーモスコピー

著者: 栗原誠一

ページ範囲:P.833 - P.833

 不思議なアトラスである.筆者が撮りためた精細な写真集かと思いきや,読み進めるうちにいつの間にかダーモスコピー(以下,ダーモ)が自分の診療ツールになり,覗くことが楽しめるようになってくる読み物だったのだ.わたしのような素人には,ダーモとはこういうものだと迫ってこないところが好ましく,もっと早くこの本と出会っていたら,ダーモと上手につきあえたのではないかと思った.

 大学関連施設の勉強会でのこと,近くの病院に頼んだ例が提示された.腹部に角化の強い赤みがかった局面があり,視診でBowen病と診断をつけて手術を頼んだ.ところがその病理組織は表在型基底細胞上皮腫であった.当然ダーモの所見も供覧されたが,組織標本ができてから見直して,この片隅に見える血管が樹枝状血管ということなのでしょうね~という意見で締めくくられた.ダーモとはこういうものだと納得した.ダーモがどのくらい役に立っているか調べたことはないが,わたしの外来では悪性腫瘍を心配して受診した患者さんに「この装置で見れば良性悪性の判断が一発でできる」と安心してもらうために使うことがほとんどである.同世代の友人達も同じようなものらしく,臨床でわからないときはダーモでもわからない,結局は病理組織を見るほかにないという話になる.そう考えると,ありがたいツールであるには間違いない.病院に頼むべきか否かを悩まずに選別できるメリットは計り知れない.

次号予告

ページ範囲:P.835 - P.835

投稿規定

ページ範囲:P.836 - P.837

あとがき

著者: 戸倉新樹

ページ範囲:P.838 - P.838

 今年の5月から6月にかけて,日本では日本皮膚科学会の総会・学術大会があったが,海外では米国研究皮膚科学会(アルバカーキー),Georg Rajkaを冠する国際アトピー性皮膚炎学会(ノッティンガム),そして日独皮膚科学会(ハイデルベルク,ミュンヘン)が催され,鋭意出席した.特に印象に残ったのは日独皮膚科学会であり,日本側から70名を超える参加者があり,盛況に行われた.ドイツ側からは会頭であるA. Enk教授をはじめとして,T. Ruzicka(ミュンヘン),G. Plewig(ミュンヘン),T. Diepgen(ハイデルベルク),M. Röcken(テュービンゲン),P. Elsner(イェーナ),U.F. Haustein(ライプツィヒ),R. Kaufmann(フランクフルト)などの方々が参加されていた.さて,ここで筆者が読者に伝えたいのはProf. Gerd Plewig(プレヴィックと発音)である.この高名な臨床皮膚科学研究者は,ドイツではBraun-Falco教授,米国ではKligman教授の流れを継ぐ.Ludwig-Maximilians Universitätの教授となり,Ruzicka教授が後を継いだ.1939年生まれとドイツ語のWikipediaには書かれている.細身で,蝶ネクタイがよく似合う,笑顔を絶やさない紳士には,2年前,東京での日独皮膚科学会サテライトでお会いした.福島県立医科大学の山本俊幸教授の震災後の大学の状況と復興の講演を聞いたあと,Plewig先生は感じ入って涙しながらコメントをされていた.今回の日独ではHansen病の講演をされ,生きるレジェンド感を与えた.また極め付きは,ハイデルベルクからミュンヘンに向かうバスの添乗員をされ,ユーモアに満ちた名所の説明,はたまたトイレの案内をされた.添乗員衣装は真っ赤なチョッキ,真っ赤なズボンであり,恐ろしく似合っていた.懇親の場でも,参加者をねぎらうことを忘れず,話し掛けるときは,そっと筆者の腕に手を当て,洗練された表現で意を伝える.自然でしかも中味が詰まった内容である.自分はなれないであろうが,このように歳を重ね,押し付けがましいところが皆無で,しかし存在感は十二分にある皮膚科医は目標とすべきであると心底思った.同時に皮膚科学も文化であって,その文化の深みが彼の地には綿々と続いていることを感じた.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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