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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科68巻2号

2014年02月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・78

Q考えられる疾患は何か?

著者: 安藤菜緒

ページ範囲:P.101 - P.102

症例

患 者:54歳,女性

主 訴:両下腿の紅斑,紫斑,潰瘍

家族歴:父に肺癌

既往歴:特記すべきことはない.

現病歴:〈2回目入院までの経過〉20歳台より下腿に紫紅色斑が出現し,夏季に潰瘍化し,秋には軽快するというエピソードを繰り返した.40歳時より秋以降も潰瘍が治りにくくなり,40歳時,54歳時の悪化時に入院加療した.

臨床像:〈1回目入院時〉両下腿,右足背に虫食い状の有痛性潰瘍が多発し,周囲には浸潤を触れる暗紫紅色斑,水疱,点状の紫斑を伴っていた(図1a).〈2回目入院時〉右下腿に不整形の壊死組織を付着する潰瘍が多発し,一部は血疱を形成し,周囲に暗紅色斑と点状紫斑を伴っていた.左下腿には線状ないしは不整形の褐色斑を認めた(図1b).

マイオピニオン

女性医師のキャリアパスにおける皮膚科教育

著者: 清島真理子

ページ範囲:P.104 - P.105

 1. 何が女性医師で問題か?

 全医師のなかで女性医師の割合が16%と増加し,29歳以下の若手医師の30%を女性医師が占めている.特に皮膚科では全体の43%,若手医師の70%は女性である.欧米各国では女性医師の割合は30%以上であり,医学部学生の女性の割合は50%を越しているのでわが国の割合はむしろ低いといえる.しかし,わが国では出産・育児といった女性のライフイベントを契機に女性医師が離職し,そのまま退職に至ったり,長期にわたって非常勤医という不安定な勤務形態をとるケースが少なくない.日本皮膚科学会のアンケートによれば45歳以下の女性皮膚科医の30%以上は非常勤・パートタイム勤務である.一方,男性では7%である.非常勤でも皮膚科を続けていれば,ある程度の報酬を得ることができる.しかし,着実なキャリア形成の観点からは環境が整った時点で常勤への復帰を目指す必要がある.

 女性医師の専門医取得率,各学会の役員や大学での講師以上の比率の低さも指摘されている.医学・医療界の女性医師のキャリア形成に対する意識変革も必要であろう.

原著

蕁麻疹およびその類症の診断におけるアプローチ法

著者: 石黒直子 ,   山名やよい ,   秋津美帆 ,   川島眞

ページ範囲:P.106 - P.112

要約 2009~2011年に当科蕁麻疹外来に登録された92例の蕁麻疹およびその類症患者で,実際にどのように診断を行ったかについてretrospectiveに検討し,診断におけるアプローチ法の検証を試みた.アプローチ法としては,まずは数回の診察を通して調査票への記載を詳細に行わせ,原因を絞り込み,蕁麻疹の原因別の大体の分類を行った.その上で,食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis:FDEIA),口腔アレルギー症候群,食物による通常の蕁麻疹・血管浮腫では,疑われる原因食物についての血清特異的IgE値の測定,皮膚テストを施行し,コリン性蕁麻疹ではアセチルコリン皮内テストを施行することで,確認を行った.また,全症例で除去試験での症状の軽快を確認し,寒冷・日光蕁麻疹や可能であればFDEIAでも負荷試験での誘発を行った.以上の結果を加味して,最終的な診断を行った.診断にあたっては,数回の医療面接での原因の絞り込みが最も有用と考えた.

症例報告

開封後のお好み焼き粉に繁殖したダニの経口摂取によるアナフィラキシーの1例

著者: 古屋亜衣子 ,   福山國太郎 ,   高山かおる ,   佐藤貴浩 ,   横関博雄

ページ範囲:P.113 - P.117

要約 41歳,男性.喘息とアレルギー性鼻炎の既往がある.開封後,数年間常温で保存した粉を使用したお好み焼きを摂取した後,呼吸苦,顔面浮腫,四肢・体幹の膨疹が出現し救急搬送された.小麦または粉中に繁殖したダニによる即時型アレルギーが疑われた.血液検査ではコナヒョウヒダニの特異的IgE抗体価が37.6UA/ml.プリックテストでは,摂取したお好み焼き粉とダニアレルゲンで陽性,未開封のお好み焼き粉では陰性であった.好塩基球活性化試験でも同様の結果が得られた.小麦に関する特異的IgEやプリックテスト,経口負荷試験はいずれも陰性であった.摂取したお好み焼き粉を鏡検したところ,0.1g中に2,211匹のコナヒョウヒダニを確認し,ダニ摂取によるアナフィラキシーと診断した.本疾患では,詳細な問診や皮膚テストなどにより原因抗原を特定した上で,再発を予防するための患者への徹底した指導が重要である.

トリソミー8を伴ったSweet症候群の1例

著者: 堀仁子 ,   菅野恭子 ,   本間大 ,   村上正基 ,   生田克哉 ,   飯塚一

ページ範囲:P.118 - P.121

要約 80歳,男性.38℃台の発熱,多関節痛および圧痛を伴う体幹の浸潤性紅斑を主訴に当科を初診した.血液検査所見で好中球を主体とした白血球11,230/μlおよびCRP 17.29mg/dlと上昇があり,病理組織学的に真皮上層から深層にかけて血管周囲に好中球の浸潤をみたことからSweet症候群と診断した.明らかな悪性腫瘍や血液疾患の合併はみなかったものの,骨髄検査で20細胞中5個のトリソミー8を認めた.内服プレドニゾロン(PSL)を増量すると症状は改善するものの10mg/日以下にすると再燃を繰り返し治療に難渋した.自験例は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)の診断には至らなかったが,MDSの誘因となりうるトリソミー8を認めた.Sweet症候群では好中球の異常活性化が起こるとされているが,トリソミー8が好中球のアポトーシスを抑制することにより本症の病態に関与している可能性がある.

皮膚型結節性多発動脈炎に伴う難治性皮膚潰瘍に免疫グロブリン大量静注療法が奏効した1例

著者: 影本善子 ,   矢嶋萌 ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   椛島健治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.122 - P.126

要約 63歳,女性.1999年9月,両下腿に皮膚潰瘍が出現した.皮膚型結節性動脈炎(cutaneous polyarteritis nodosa:CPAN)の診断でステロイド5mg/日内服開始したが無効であった.ステロイドパルス,シクロスポリン内服,シクロホスファミドパルスも施行したが,皮膚潰瘍は寛解と増悪を繰り返した.2011年8月,皮膚潰瘍が急激に増悪し,神経障害性疼痛も生じた.経口ステロイドを20mg/日に増量したが潰瘍の拡大は止まらず,免疫グロブリン大量療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)を施行した.施行後CRPの低下と皮膚潰瘍・疼痛の改善を認め,ステロイドの減量が可能となり,血管炎の良好なコントロールが得られた.壊死性血管炎の皮膚潰瘍・神経障害性疼痛に対してもIVIGの有用性が示唆された.

外科的切除によって症状の軽快が得られた肉芽腫性眼瞼炎の1例

著者: 佐藤美聡 ,   舩越建 ,   齋藤昌孝 ,   岡部圭介 ,   貴志和生 ,   大山学

ページ範囲:P.127 - P.131

要約 50歳,男性.初診の約20年前より右上眼瞼が腫脹し,その後対側にも同様の腫脹が生じた.初診時,両上眼瞼に眉毛部から眼裂まで半球状に隆起する常色~淡紅色の弾性硬の腫脹を認めた.掻痒や疼痛など自覚症状はなかったが,眼裂の狭小化による視野障害をきたしていた.血液検査および全身精査にて明らかな異常所見は認められなかった.病理組織像では,真皮全層にわたる高度の浮腫性変化と乾酪壊死を伴わない小型の類上皮細胞性肉芽腫を認めた.以上より,肉芽腫性眼瞼炎と診断した.上眼瞼の部分切除術および皮弁による再建術を施行したところ,眼裂の開大が得られ,術後1年半の時点で再発はみられていない.肉芽腫性眼瞼炎の治療にはトラニラスト内服やステロイドの内服・局所注射がしばしば選択されるが,無効・再発例が多い.外科的切除は有効な治療方法の1つと考えられる.

Sutton母斑の切除にて軽快を得た分節型白斑の1例

著者: 本田治樹 ,   河野通良 ,   高橋愼一

ページ範囲:P.132 - P.136

要約 8歳,男児.出生時より右耳後下部に褐色斑を認めた.初診1年前より同部位の周囲および右前額部,右上眼瞼部に片側性の白斑が出現した.右耳後下部の褐色斑の病理組織学的所見では,真皮浅層に周囲に著明なリンパ球の浸潤を伴う母斑細胞の胞巣状増殖を認め,Sutton母斑を伴った顔面の三叉神経第1枝領域の分節型白斑と診断した.Sutton母斑の中心母斑部の切除5か月後に,母斑周囲の白斑のみならず分節型白斑の一部に色素回復を認めた.Sutton母斑を伴う白斑が分節型である場合,Sutton母斑の中心母斑を切除することにより白斑の病勢を抑えうる可能性が示唆された.

Hyperkeratosis of nipple and areolaの1例

著者: 西村(平井)千尋 ,   白樫祐介 ,   五味博子 ,   小林孝志 ,   早川和人

ページ範囲:P.137 - P.140

要約 16歳,女性.幼少時よりアトピー性皮膚炎がある.4年前より右乳輪に湿疹が生じ軽快と増悪を繰り返していた.左乳輪には皮疹を生じたことはない.3年前より両乳輪上の黒色局面を自覚した.初診時,両乳輪に右側優位に掻痒を伴わない疣状の黒色局面を認め,表面は粗糙に触れた.血液検査上,好酸球分画は20%で高値であった.生検病理組織像では角栓を伴う角質肥厚や表皮突起の延長,基底層のメラニン沈着を認めた.以上よりhyperkeratosis of nipple and areola(HNA)と診断した.カルシポトリオール軟膏,ステロイド含有軟膏にて治療したが,明らかな改善はみられていない.自験例は思春期女性に多い特発性のHNAであると考えた.HNAの発症機序は不明な点が多いが,自験例では右側優位であり,慢性に経過する湿疹に基づく二次的な変化も加わったと推測した.

頻回の局所注射によって生じたpanniculitis ossificansの1例

著者: 溝口奈穂 ,   亀井利沙 ,   中井大介 ,   松本考平 ,   池上隆太

ページ範囲:P.141 - P.144

要約 73歳,女性.第2腰椎圧迫骨折による左臀部の疼痛に対し,半年間で計136回のトリガーポイント注射を受けた.注射開始4か月後より左臀部に小指頭大の硬い皮下結節を自覚し,徐々に増大した.病理組織学的に,皮下脂肪織内に線維性結合組織に被包された腫瘤を認めた.内部に変性,壊死した脂肪組織が蜂巣状構造を成し,石灰化を伴っていた.腫瘤内の辺縁部には,線維性結合組織と連続して層板状の骨組織を認めた.以上よりpanniculitis ossificansと診断し,頻回の局所注射が原因と考えた.また,注射に含まれていた臭化カルシウムが石灰化の誘導に関与した可能性があると考えた.Panniculitis ossificansは,外傷により皮下脂肪織に異形成性骨化をきたす疾患だが,注射が原因となった報告は自験例が初めてである.患者が記憶しないほどの軽微な打撲や小外傷でも生じうる.したがって,外傷歴だけでなく,注射の有無,趣味や生活スタイルなどを含めた幅広い問診が必要である.

多発性に大型の皮疹を認めたacquired reactive perforating collagenosisの2例

著者: 秋津美帆 ,   竹中祐子 ,   石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.145 - P.149

要約 症例1:59歳,女性.基礎疾患として糖尿病,腎機能障害があり,初診時,背部,腰臀部に母指頭大前後の暗紅色結節が多発していた.血液検査にてHbA1c 7.7%と高値であった.クロベタゾールプロピオン酸エステル外用,ベポスタチンベシル酸塩内服にて皮疹は軽快した.症例2:54歳,男性.糖尿病,閉塞性動脈硬化症,両足趾壊疽を合併し,糖尿病性腎不全のため血液透析中であった.初診時,腹部,腰臀部,大腿に鳩卵大までの痂皮を付す局面が多発していた.足趾壊疽に二次感染を合併しており,WBC 45,730/μl(Neu 91.1%),CRP 27.95mg/dlと強い炎症反応を認めた.両下腿切断術を施行したが術後に肺炎,呼吸不全を併発し,永眠した.病理組織像では両症例ともに,膠原線維束の経表皮的排出像を認め,acquired reactive perforating collagenosisと診断した.糖尿病のコントロールが不良の症例では,代謝異常や血流障害が高度となり,広範囲に膠原線維の変性をきたし,多量の膠原線維の経表皮的排出をきたすため,大型の皮疹を形成すると推測した.逆に大型の皮疹を形成し難治であることは,糖尿病の予後が不良であることを示唆する症状の1つとして,注意が必要と考えた.

異型線維黄色腫の1例

著者: 横山希 ,   星野慶

ページ範囲:P.150 - P.154

要約 93歳,女性.1年前より左頰部に結節を自覚し2か月前から急速に増大し,出血を繰り返すようになったため当科を受診した.初診時,径12×17mm大の広基性紅色結節を認めた.表面はびらんを呈し,出血していた.生検標本病理組織像にて悪性腫瘍が疑われ,全摘術を施行した.全摘標本では,表皮直下から真皮にかけて比較的境界明瞭な腫瘍細胞を認めた.腫瘍細胞は異型性に富む類円形の核を持つ組織球様細胞が主体で,異常核分裂像や多核巨細胞を認めた.免疫組織染色では,ビメンチン,CD68およびCD10は陽性,サイトケラチンおよびCD99は陰性であった.腫瘍の大きさや深さ,更に免疫組織染色を参考とし,異型線維黄色腫(atypical fibroxanthoma:AFX)と診断した.AFXはしばしば組織学的に他の悪性腫瘍との鑑別が困難であるが,自験例では免疫組織染色が鑑別に有用であった.

皮膚Rosai-Dorfman病の1例

著者: 佐藤真美 ,   植田郁子 ,   南路子 ,   阿南隆 ,   木村鉄宣 ,   岡本祐之

ページ範囲:P.155 - P.159

要約 40歳,男性.初診約1か月前に左肩甲部・上背部中央・右腰部の皮疹を自覚した.皮疹は淡紅色~褐色調の浸潤,結節を伴う局面で,左肩甲部の病変から生検を施行した.真皮全層に組織球様細胞を中心とした細胞浸潤があり,emperipolesisを認めた.組織球様細胞の免疫染色で,S100蛋白およびCD68発現が陽性,CD1a発現は陰性であった.画像検査で異常なく,全身症状やリンパ節を含めた他臓器病変を伴わず,皮膚Rosai-Dorfman病と診断した.本症は自然消退例が多く,予後は良好とされる.病因や治療法は未確立である.稀ではあるが特徴的な病理組織像から診断に結びつきやすい疾患である.非典型的な湿疹様病変を認めた際には本症も念頭に置き,積極的に生検を行うことが有用と考えた.

顔面に多発した皮膚B細胞性偽リンパ腫の1例

著者: 田中敬子 ,   関東裕美 ,   石河晃

ページ範囲:P.160 - P.164

要約 79歳,男性.初診の3年前から鼻部と両耳後部に誘因なく軽度掻痒のある紅色結節が出現し増大した.当科受診時,径7mm大までのドーム状紅色結節を7か所認めた.病理組織像では,表皮直下にgrenz zoneを有し,真皮全層にかけてリンパ球中心に組織球,好酸球を混じるリンパ濾胞様構造を認め,tingible body macrophageも認められた.CD20,CD79α陽性のBリンパ球が胚中心性に優勢を占め,その周辺部にCD3,CD5陽性Tリンパ球が浸潤していた.皮膚生検組織で,TCRCβ1,TCRJγの遺伝子再構成はなく,免疫グロブリンκ鎖,λ鎖ともに散在性に染色されクローナリティーを認めず,皮膚B細胞性偽リンパ腫と診断した.しかし,生検後1か月半以内に3か所の皮疹新生を認め臨床的には難治性であった.組織学的には悪性の所見を認めないものの,局所に多発する偽リンパ腫は慎重な経過観察を要すると考えた.

潰瘍性大腸炎に合併した胸骨周囲膿瘍の1例

著者: 青島正浩 ,   津嶋友央

ページ範囲:P.165 - P.168

要約 49歳,男性.12年前に掌蹠膿疱症の治療歴があり,5年前より潰瘍性大腸炎にてメサラジン1,000mg/日で治療されていた.2年前に,前胸部大胸筋下に膿瘍がみられ,他院外科にてドレナージなどで治療され,4か月の経過で治癒した.初診5日前より前胸部に熱感,圧痛を伴う腫脹,発赤が出現した.WBC 16,900/μl,CRP 23.7mg/dlと上昇しており,MRI検査にて胸骨周囲に巨大な膿瘍を認めた.入院の上,切開排膿し,7日目に切開創から凝血塊を含む700mlの出血がみられた.血管造影検査にて,右内胸動脈に仮性動脈瘤を認め,出血源と考えコイル塞栓術を行った.膿汁の細菌,真菌,抗酸菌培養は陰性であり,血清G-CSFは1,860pg/mlと高値であった.潰瘍性大腸炎に伴う無菌性膿瘍と考え,プレドニゾロン40mg/日の投与を開始し,著効したため漸減し退院した.その後,インフリキシマブ5mg/kgの投与が開始され,10か月間膿瘍の再発はない.潰瘍性大腸炎に胸骨周囲膿瘍を合併したきわめて稀な症例と考えた.

鼻翼基部に結節を生じた上顎外歯瘻の2例

著者: 臼井真理子 ,   田中敬子 ,   難波未央 ,   鷲崎久美子 ,   関東裕美 ,   米山勇哉 ,   福井暁子 ,   関谷秀樹 ,   林健 ,   山口潤 ,   石河晃

ページ範囲:P.169 - P.173

要約 症例1:69歳,女性.2012年2月より排膿を伴う右鼻翼基部の丘疹が出現した.前医で切除術施行するも再発し,同年10月に精査加療目的で当科を紹介された.初診時,右鼻翼基部にびらんを伴う淡紅色丘疹を認めた.症例2:75歳,男性.2012年7月より左鼻翼基部に排膿を伴う紅色結節を自覚した.症例1,2ともに病理組織像は,真皮内に好中球や組織球を主体とした炎症細胞浸潤と毛細血管増生を認め,化膿性肉芽腫の像であった.オルトパントモグラフィにて右上1・3歯(症例1),左上2歯(症例2)に根尖病巣を認め上顎外歯瘻と診断した.原因歯の抜歯にて結節は消退した.上顎外歯瘻は稀ではあるが,高齢者でも歯根が保存されやすい前歯部の根尖病巣は鼻翼基部に外歯瘻を形成しやすい.鼻唇溝基部の鼻翼基部に生じる紅色丘疹は本疾患に特徴的であり,高齢化社会を迎え十分認識しておく必要があると考えた.

健常女性の大腿部に生じたMycobacterium chelonae感染症の1例

著者: 伊勢美咲 ,   安田文世 ,   木花いづみ ,   村松重典

ページ範囲:P.175 - P.179

要約 60歳,女性.特記すべき既往や外傷歴はない.約6週間前より左大腿後面の浸潤性紅斑を自覚し,近医で抗生剤内服・外用を行ったが改善せず,当科を紹介された.紅暈を伴う4cm大の暗赤色局面で,波動を触れ,軽度の圧痛を伴っていた.表面の一部より黄色漿液性の滲出液を認めた.滲出液および生検組織の培養で,1週間以内に白色コロニーを確認し,Mycobacterium chelonaeと同定した.クラリスロマイシン開始後,3週間で色素沈着を残して消退した.本疾患は免疫抑制状態や外傷が誘因となる一方で,健常者に誘因なく生じた例も報告されている.自験例では,就労中に罹患部を露出した状態で木製の椅子に座ることが頻回にあり,軽微な外傷が誘因となった可能性も示唆された.本症の部位,年齢,時期,性別には一定の特徴があり,これらが合致する症例においては,基礎疾患のない患者でも積極的に本症を鑑別に挙げることが重要と考える.

治療

ヒアルロン酸注入により良好な治療効果を得た剣創状強皮症の2例

著者: 大森康高 ,   松尾光馬 ,   高見洋 ,   中川秀己

ページ範囲:P.180 - P.184

要約 症例1:17歳,女性.初診の約5年前より額の髪際部から眉間にかけて線状の皮膚陥凹が出現し当科を受診した.臨床所見より剣創状強皮症と診断した.その後,陥凹部の拡大はみられず,ヒアルロン酸(レスチレン®;Q-med社)を2.5ml注入した.局所の副作用もなく,注入後3年5か月を経過しても効果は持続している.症例2:25歳,女性.初診の約7年前より前頭部に脱毛が生じ,その後同部位から眉間にかけて線状の皮膚陥凹が出現した.2年前に近医を受診し,剣創状強皮症の診断にてステロイド局所注射を施行されたが症状改善せず,当科を受診した.その後,陥凹部の拡大はみられず,ヒアルロン酸(Restylane®)を計3回,7ml注入した.注入後1年3か月を経過しても,効果は持続している.侵襲が少なく,繰り返し行うことも可能であるヒアルロン酸注入は剣創状強皮症に対し有効な治療法の1つであると言える.

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欧文目次

ページ範囲:P.99 - P.99

文献紹介 慢性特発性蕁麻疹に対する抗IgE抗体,オマリズマブの治療効果(第3相試験)

著者: 大井裕美子

ページ範囲:P.179 - P.179

 慢性特発性蕁麻疹は,明らかな誘因なく蕁麻疹が6週間以上持続するもので,血管浮腫を伴う場合もある.多くは1~5年蕁麻疹が続き,患者のQOLに大きく影響する.

 慢性特発性蕁麻疹の治療としてはまず抗ヒスタミン薬の内服を開始,効果不十分な場合には抗ヒスタミン薬の増量や変更,ロイコトリエン拮抗薬の投与が推奨され,それでも効果ない場合には免疫抑制薬の投与やDDSの投与が望まれる(Allergy 64:1427, 2009).

次号予告

ページ範囲:P.185 - P.185

お知らせ 第7回インターネット皮膚病理診断検討会

ページ範囲:P.185 - P.185

開催期間 2014年1月15日(水)~3月18日(火)

開催スケジュール 1.参加登録

         2.powerpointスライド公開と掲示板でのディスカッション 2014年2月5日(水)~3月5日(水)

         3.座長によるとりまとめ 2014年3月5日(水)~3月18日(火)

投稿規定

ページ範囲:P.186 - P.187

あとがき

著者: 中川秀己

ページ範囲:P.188 - P.188

 また,「あとがき」の順番が回ってきました.実は私は「あとがき」を書くのが大嫌いなのです.まず,書く題材を時代背景に会わせて吟味しなければならないこと,次に少しでも蘊蓄を垂れるような文章にしなければならないこと,誰が読むかわからないことなど,会話のなかの瞬間芸で生きている私にとっては頭痛の種です.でも書きます.

 身近な話題ですが,昨年暮れから今年になってもまだくすぶっている降圧剤Dを販売する大手製薬企業N社が絡んだデータ改ざんの件です.国がN社を薬事法違反で東京地裁に訴えており,大問題になっています.私が属する大学が直接関与していたこともあり,直ちに調査委員会が立ち上げられました.どうも血圧のデータが改ざんされたようですが,どの時点で誰が操作したのかがいまだに判明していません.ただ,臨床研究の統計解析にN社の社員が深く関与していたのは間違いなく,研究体制作りの際のわきの甘さと利益相反という日本の医師(研究者)が今まで目を逸らし,先送りにしてきた問題が浮き彫りになりました.以前より,各学会,大学等でも利益相反の指針作りが進められてきましたが,ようやくまとまりつつあり,特に臨床研究を行う際の倫理および供与された研究費の適切性の検証が厳しく行われていくことになるかと思います.われわれの大学でも公正な立場で臨床研究をサポートできるような統計,研究立案の専門家を入れたセンターの体制作りが始まりました.皮膚科は直接の関与はありませんが,大学全体としてN社のMRは原則として出入り禁止,奨学寄付金は受け取らない,講演会・研究会への参加は禁止という状況が続いています.本誌でも薬剤等が関与した臨床研究論文を査読する際に編集委員から利益相反の有無が質問されることがありますが,別段恥じることは何もないので正直に申告していただきたいと思います.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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