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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科68巻7号

2014年06月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・82

Q考えられる疾患は何か?

著者: 福屋泰子

ページ範囲:P.479 - P.480

症例

患 者:63歳,男性

主 訴:顔面,左手掌の紅斑と後頸部の紅色丘疹

家族歴:特記すべきことはない.

既往歴:23歳,気胸.59歳,尿管結石.63歳,口腔カンジダ症.

現病歴:初診の20日前から筋肉痛,倦怠感と食欲低下を自覚し,10日前から下痢を認めた.5日前から眉間に紅斑が出現し,拡大したため,当科を初診した.

現 症:前額部,眉間,両頰部,鼻尖部に径5mm前後の浸潤を強く触れる紅斑が散在し,一部で癒合していた(図1).右後頸部には少数の紅色丘疹を認め,左手掌にはやや硬く触れる紅斑を1か所にのみ認めた.

マイオピニオン

脱色素斑が教えてくれた常識の罠

著者: 青山裕美

ページ範囲:P.482 - P.483

 2013年夏,美白化粧品を使用した相当数の消費者に白斑が生じたという事例が報道された.私たちがこの事例に出くわしたのは,幸運とも不幸とも言える.あの頃からもうすぐ1年が経とうとしている.一連の出来事を振り返ることができるようになった今,自分の意見を書き残してみようと思う.

 岡山大学皮膚科がロドデノール白斑の存在に気づいたのは,当時,姫路赤十字病院皮膚科に勤務中であった塩見真理子医師が2013年1月19日,第254回日本皮膚科学会岡山地方会に「美白化粧水で尋常性白斑様の色素脱失を来したと思われる2例」(図)1)を発表されたのがきっかけである.その発表はロドデノールというメラニン産生阻害剤を含む化粧品を使用した2人の患者さんに化粧品による白斑が生じた,という内容であった.その発表を聞き終えた後に,「直接的な因果関係が証明しきれていないので,このまま認めてしまうのはまずいのでは」と感じたが,しかし否定する理由もない.すっと川崎医科大学皮膚科 藤本亘教授が手を上げて,「非常に貴重な症例であると思うが,このような結論を出すためには症例の蓄積が必要なのではないか?」とおっしゃった.私は「有効成分の特異的な効果で白斑になっていることを証明する必要があり,薬剤によるメラニン新生阻害を形態的に証明できる方法を模索してはどうか?」とコメントをした.まだ,このときには確信は持てないままであったが,その白斑の人工的な配列から塗布した化粧品との関係はありそうだと思った.しかし,確実な証拠がない.

症例報告

アルブチンによる接触皮膚炎の1例

著者: 仲宗根尚子 ,   仲村郁心 ,   山田智史 ,   平良清人 ,   高橋健造 ,   上里博

ページ範囲:P.484 - P.488

要約 61歳,女性.初診2日前に新しく購入した化粧水を使用し,翌日より顔面に掻痒を伴う紅斑と両眼瞼の腫脹を自覚した.接触皮膚炎を疑いパッチテストを施行したところ,顔面に使用していた化粧水および含有美白成分のアルブチンが陽性であった.本症例をアルブチンによる接触皮膚炎と診断し,原因化粧水の中止とベタメタゾン吉草酸エステル軟膏の外用で症状は軽快した.アルブチンは患者が8年前に使用した化粧品にも含有されていた.近年,美白目的で使用される化粧品にはアルブチンを含有した商品が多数上市されている.これまでアルブチンによる接触皮膚炎の報告は少ないが,今後さらなる美白ブームが予想され,アルブチン含有化粧品が広く使用されることにより同剤による接触皮膚炎が増加すると思われる.

サリドマイド誘導体レナリドミドによる薬疹の1例

著者: 小島清登 ,   坂田祐一 ,   藤井俊樹 ,   望月隆

ページ範囲:P.489 - P.492

要約 63歳,男性.2012年多発性骨髄腫に対しRd療法が開始された.2サイクル目より軀幹・下肢に皮疹が出現した.初診時,軀幹から下肢にかけて孤立性の浮腫性紅斑がみられ,一部は環状を呈した.皮膚生検で真皮上層の血管周囲性にリンパ球と少数の好酸球の浸潤を認めた.塩酸エピナスチン内服とジフルプレドナート軟膏外用で皮疹は数週で消失した.レナリドミドを用いたパッチテスト,リンパ球刺激試験は陰性であった.皮疹消失後,プレドニン10mg/日の投与下にレナリドミド5mgから再投与した.レナリドミドを15mgに増量時から環状の紅斑が両大腿伸側に再燃した.皮疹は治療サイクル間の休薬中に速やかに消失した.これらの臨床経過からレナリドミドによる薬疹と診断した.現在レナリドミドを20mgに増量しているが,皮疹の再燃は軽度であり投与継続が可能である.難治性骨髄腫では投与可能な薬剤が限られるため,皮疹の重症化に注意し再投与を試みる価値があると考えた.

ダカルバジンによる光線過敏型薬疹の1例

著者: 小林紘子 ,   大原直樹 ,   秀道広

ページ範囲:P.493 - P.497

要約 72歳,男性.左踵部の悪性黒色腫術後DAV-Feron療法第3クール施行中に,静脈の走行に沿った樹枝状の紅斑がみられた.ダカルバジン点滴終了直後の光照射試験では,UVA照射1時間後より紅斑が出現し,UVAのMEDは28mJ/cm2と著明に低下していた.しかし,ダカルバジン点滴終了15時間後にはUVAを照射しても紅斑は出現せず,ダカルバジンの血中濃度は0.1μg/ml未満に低下していた.出現した皮疹はvery strongのステロイドを外用し,数日後に色素沈着を残して消退した.光線過敏型薬疹を確認後からは,DAV-Feron療法を遮光下でダカルバジンを投与したところ紅斑は出現しなかった.ダカルバジンによる光線過敏型薬疹は,紫外線曝露から症状発現までの時間が短いこと,ダカルバジンの血中濃度に依存して光線過敏性が出現することなどからは,光毒性による機序が示唆される.しかし,皮疹を発現させるのに必要な紫外線量が極端に少ないこと,出現する皮疹の強さが光線量に依存しないことなどからは光アレルギー性の関与も考えられた.

アロプリノールによる非典型薬剤性過敏症症候群の2例

著者: 大澤研子 ,   池澤優子 ,   松浦みどり ,   相原道子

ページ範囲:P.499 - P.504

要約 症例1:77歳,女性.アロプリノール内服開始27日後に,症例2:80歳,男性.同薬剤内服開始26日後に微熱と紅斑・丘疹が出現した.2例とも皮疹は一時軽快するも,高熱と肝腎機能障害を伴い再燃したため,ステロイド大量投与を行い症状は改善した.症例1では,陽性率の低いアロプリノールではなくその代謝産物であるオキシプリノールによる薬剤添加リンパ球刺激試験に陽性を示した.重症薬疹の発症には特定のHLAの関与が明らかになっており,アロプリノールではHLA-B58:01が検出されている.同遺伝子マーカーは,これまでの報告では人種を越えた遺伝子マーカーであることが知られており,紅斑丘疹型の比較的軽症の薬疹においても高い検出率を示すとされている.自験例でも症例1で陽性を示した.両症例とも経過,臨床は特徴的であり,診断基準を満たしたが,HHV-6の再活性化を認めず,アロプリノールによる非典型薬剤性過敏症症候群と診断した.

Crohn病患者に投与されたインフリキシマブによって誘発された膿疱性乾癬様皮疹

著者: 山口隼人 ,   森木睦 ,   市川仁美 ,   池谷茂樹 ,   藤山俊晴 ,   島内隆寿 ,   伊藤泰介 ,   平川聡史 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.505 - P.510

要約 18歳,男性.Crohn病に対してインフリキシマブにより加療中であった.3回目投与7日後,発熱とともに,頭部,顔面と体幹四肢に膿疱と紅斑が出現した.Crohn病の増悪は認めなかった.皮膚生検組織像は膿疱性乾癬様であり,インフリキシマブによる逆説的副反応と考えた.インフリキシマブ投与を中止し,シクロスポリン内服とステロイド外用により皮疹は改善し,Crohn病も良好に経過した.末梢血の形質細胞様樹状細胞は,初診時に増加しており,症状の改善後,低下した.生物学的製剤の使用が増加するにつれて,今後,逆説的副反応に遭遇する頻度も増すと考えられる.

マキサカルシトール軟膏密封療法が奏効した限局型汗孔角化症の1例

著者: 村岡聡介 ,   佐藤隆亮 ,   赤坂俊英 ,   林正康

ページ範囲:P.511 - P.514

要約 66歳,男性.初診5年前から右5指に無症状の紅色皮疹が出現した.初診時,右5指に2.5cm大の境界明瞭な鱗屑を伴う紅色局面を認め,辺縁は隆起していた.病理組織学的にcornoid lamellaを認め,限局型汗孔角化症と診断した.外科的切除を希望しなかったため,マキサカルシトール外用にて加療するも不変であり,同剤の密封療法を行ったところ1年ほどで略治した.限局型汗孔角化症の活性型ビタミンD3外用剤による治療報告は少なく,さらなる症例の蓄積が待たれる.

サルコイドーシスとSjögren症候群の合併例

著者: 森志朋 ,   影下雄一 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英 ,   後藤康文 ,   小林仁

ページ範囲:P.515 - P.519

要約 59歳,女性.52歳時に顔面と頸部に皮疹が出現し近医受診.生検でサルコイドーシスと診断され,眼科的検索を含む全身精査で異常はなく皮膚サルコイドーシスとして加療していた.2012年5月頃より皮疹が拡大し疲労感の出現もあり当科に入院した.胸部X-Pで縦隔リンパ節は軽度腫脹していた.抗SS-A抗体,抗SS-B抗体とも高値で,Sjögren症候群の精査のため唾液腺生検を施行したところ導管周囲に著明なリンパ球浸潤を確認した.また,心電図で高度房室ブロックを認めた.サルコイドーシスの病変が眼や唾液腺に及んだ場合,Sjögren症候群様症状を呈すことがあるとされるが,今回,われわれは皮膚サルコイドーシスの経過中にSS-A抗体,SS-B抗体が陽性となり,房室ブロック発症によりサルコイドーシスの診断に至ったと考え報告する.サルコイドーシスによる死因の半数は心病変によるといわれており,皮膚サルコイドーシス患者を診た場合には,長期にわたり経過をみるとともに,定期的な全身精査がきわめて重要である.

ダーモスコピー所見では診断困難であった円形脱毛症の1例

著者: 福島彩乃 ,   渡辺絵美子 ,   石田雅美 ,   大山学

ページ範囲:P.520 - P.524

要約 46歳,女性.半年前から頭頂部に脱毛斑が出現した.円形脱毛症の診断で塩化カルプロニウム,ステロイド剤を外用したが脱毛斑は拡大し,当科を紹介受診した.初診時,頭頂部に25×30mmの浮腫状で発赤を伴う脱毛斑を認めた.ダーモスコピー上,毛孔は確認できず毛包ムチン沈着症や瘢痕性脱毛症などを考えた.脱毛斑中央部の水平断病理組織標本では総毛包数の減少はなく,毛球部周囲の炎症性細胞浸潤,休止期毛の増加と毛包のミニチュア化を認めた.また,縦断標本で表皮の海綿状変化と真皮浅層の炎症性細胞浸潤をみたことから,慢性期の円形脱毛症に外用剤などの外的刺激で皮膚炎を生じ,表皮の浮腫性変化や鱗屑のため毛孔の観察が困難であったと考えた.ステロイド局所注射で加療し良好な再発毛を得た.脱毛症の鑑別にはダーモスコピーが有用とされるが,診断が困難な場合は病理組織学的評価が重要である.

必須アミノ酸欠乏によると考えられる腸性肢端皮膚炎様皮疹を生じたメチルマロン酸血症の1例

著者: 鉄谷真由 ,   石上剛史 ,   村尾和俊 ,   久保宜明 ,   小谷裕美子 ,   高野浩章

ページ範囲:P.525 - P.529

要約 11歳,女児.生後まもなくメチルマロン酸血症と診断され,アミノ酸制限食(S-22®)を主とした食事療法を受けていた.2009年9月,発熱,食欲低下,筋力低下,嘔吐下痢を生じ当院小児科に入院した.重度の代謝性アシドーシスを認めたためメチルマロン酸血症の悪化と考え,絶食のうえ点滴とアシドーシスの補正を行ったが,1週間後に口囲,眼囲,外陰部,前腕,下腿に鱗屑痂皮を伴う紅斑,びらんを生じた.当科紹介時の血液検査で亜鉛,ビオチン濃度は正常であったが,イソロイシン6.6nmol/ml(基準値:37.0~100.4)を含む必須アミノ酸値が低下しており,必須アミノ酸欠乏によって生じた腸性肢端皮膚炎様皮疹と診断した.S-22®を中心とした食事療法を再開後,皮疹は急速に改善した.メチルマロン酸血症などの先天性有機酸代謝異常症ではアミノ酸の摂取を制限する必要がある.しかし,過度の制限により必須アミノ酸が欠乏し,腸性肢端皮膚炎様皮疹を生じることがあり注意を要する.

CD163陽性atypical fibroxanthomaの1例

著者: 村岡聡介 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.531 - P.534

要約 58歳,女性.下口唇下方右側に6mm大の境界明瞭な黄色ドーム状結節が1個生じた.組織は真皮から皮下組織に至る腫瘍で,核に多形性を有する線維芽細胞様細胞が不規則な錯綜配列を呈し,組織球様細胞や多核巨細胞,泡沫状の胞体を有する細胞が散見された.ビメンチン,CD10,CD68,CD163がほとんどすべての腫瘍細胞の細胞質で陽性であった.S100,抗サイトケラチン抗体(AE1/3),デスミン,カルデスモン,α-SMA,CD34は陰性であった.MIB-1は約1/3の腫瘍細胞の核で陽性を示した.これら所見よりatypical fibroxanthoma(AFX)と診断した.全摘術後約2年半が経過したが,局所再発はない.単球および組織球に発現する膜蛋白質であるCD163がAFXと他の紡錘形腫瘍との鑑別に有用であると考えた.

血管免疫芽球性T細胞リンパ腫の1例

著者: 猪熊大輔 ,   古口華子 ,   渡邉美佳 ,   菊地一博 ,   土屋喜久夫 ,   坂井俊哉 ,   柳内充 ,   辻隆裕 ,   深澤雄一郎 ,   清水聡子

ページ範囲:P.535 - P.539

要約 62歳,男性.初診の10日前から,39℃の熱発と皮疹が出現した.顔面はびまん性の紅斑および腫脹を伴い,軀幹・四肢には点状の紅斑が多数散在し一部癒合していた.アロプリノールを含む複数の薬剤を内服中であったことから当初は薬疹が疑われた.しかし血液検査にて異型リンパ球の出現(WBCの23%),Hgb 8.6g/dl,Plt 2.1×104/μl,ALP 1,177IU/l,sIL-2R 8,900U/mlなどの異常値を伴い,胸腹部CTでは著明な脾腫,全身のリンパ節腫大を認めた.皮膚病理組織では真皮内に細胞が島嶼状に浸潤していた.鼠径リンパ節生検ではリンパ濾胞構造が消失し,高内皮細静脈は増生,CD21陽性細胞の濾胞樹状細胞は増加していた.T細胞受容体の遺伝子再構成を認め,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫と診断した.自験例では当初は薬疹を考えた.しかし皮疹が遷延し,異型リンパ球出現など採血データでの異常値が続く場合には,リンパ腫による皮疹の可能性を鑑別に挙げる必要があると考えた.

大腸癌皮膚転移の1例

著者: 森志朋 ,   影下雄一 ,   前田文彦 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.540 - P.544

要約 54歳,男性.2008年頃より肛門周囲の発赤・腫脹・排膿を繰り返していた.2011年,近医で肛門周囲膿瘍の診断で切除術を施行された.その後も腫脹・排膿を繰り返し,疼痛が増強したため翌年,当科を紹介された.肛門周囲に弾性硬で手拳大の腫瘤があり,表面には大小の潰瘍を形成し排膿を伴い右鼠径リンパ節を触知した.直腸鏡,肛門鏡,下部消化管内視鏡検査では異常所見はなかった.局所麻酔下に腫瘍を切除したところ病理組織像は腺癌であった.術後に施行したCTとPET-CTで両鼠径リンパ節・骨盤内リンパ節の腫脹や異常集積を認めたため右鼠径リンパ節生検を施行した.リンパ節の病理組織像は充実性胞巣状の腫瘍細胞の増殖で,CK20,cdx-2,ビリン,CEAが陽性でCK7は陰性であり大腸癌の皮膚転移と診断した.その後の問診で患者は2010年に近医で結腸ポリープに対する内視鏡的粘膜切除術を受けており,病理組織像が大腸癌であったことが判明した.内臓悪性腫瘍の皮膚転移後の平均予後は5か月程度と報告されているが,自験例は初診から23か月経った現在も生存中である.各種内臓悪性腫瘍に対する集学的治療により皮膚転移をきたした場合でも予後の改善が期待できる.

下腿に生じた皮膚ムコール症の1例

著者: 田尻真貴子 ,   永田貴久 ,   三宅大我 ,   中村権一 ,   小林美和 ,   中村元信

ページ範囲:P.545 - P.549

要約 65歳,男性.1年半前より,左下腿に紅色丘疹が出現し,拡大し,難治であった.初診時,左下腿に,辺縁の一部に結節を有する硬い浸潤を伴う紅斑を認めた.病理組織ではHE染色でmixed cell granulomaを認め,PAS染色で幅が広く細胞壁の薄い,隔壁のない菌糸を確認した.また,2回行った組織培養では綿毛状のコロニーを生じ,スライドカルチャーの所見を合わせてムコール症と診断した.局所切除およびアンホテリシンの投与を行い,現在まで再発は認めていない.また脳・肺・消化管病変もない.rRNA遺伝子検査にてRhizomucor variabilisと同定された.本菌はムコール症の起炎菌として稀である.遺伝子診断学的にはMucor属に類似しており,熱に弱いという特徴があることから病巣の浸潤・播種を起こしにくく,局所感染にとどまったと考えた.

臨床統計

テラプレビル(テラビック®)を併せた3剤併用療法によるC型肝炎治療での皮膚症状の発現について

著者: 吉方佑美恵 ,   石氏陽三 ,   松尾光馬 ,   穂苅厚史 ,   高木一郎 ,   銭谷幹男 ,   田尻久雄 ,   中川秀己

ページ範囲:P.550 - P.554

要約 テラプレビルはC型肝炎ウイルスセリンプロテアーゼの特異的阻害薬であり,ペグインターフェロンとリバビリンを併せた3剤併用療法が2011年9月に承認されている.同法では皮膚症状が8割以上に出現し,皮膚粘膜眼症候群などの重篤な皮膚障害を生じることもある.今回,当院で2011年1~8月に3剤併用療法を開始した20症例の皮膚症状の臨床,発現時期について検討した.皮膚症状は80%の症例でみられ,多くは治療開始後4週間以内に出現していた.皮疹は,湿疹型,播種状紅斑,ちくちくした痛痒さ,紅色丘疹,掻痒,手足の落屑,蕁麻疹型,環状紅斑と多彩であった.皮膚科医はこのような副作用に精通し早期に診断・治療を開始することが求められる.

2012年に当院で経験した風疹25例の検討

著者: 渡部梨沙 ,   大井三恵子

ページ範囲:P.555 - P.559

要約 2012年夏頃より風疹が成人男性を中心に大流行し,社会的問題となった.今回われわれは2012年~2013年1月に当院皮膚科を受診した風疹患者25例について臨床的検討を行った.平均は35.2歳であり,発症の中心は20~40歳台で,男性が25例中23例であった.全例で37~39℃台の発熱,著明なリンパ節腫脹,体幹,四肢に粟粒大から半米粒大までの紅色丘疹,紅斑を認め,半数以上の症例で眼球結膜充血,Forschheimer斑も認めた.風疹ウィルス抗体価で確定診断した.臨床診断には感染症の発生動向情報が有用であった.また風疹は2007年に流行した麻疹と比較し,全身状態が良好で社会生活を継続しうること,また抗体を持たない者の多いことが感染の拡大をもたらし,流行が長期化している一因と考えられた.皮膚科医として早期に風疹と診断し,感染拡大の機会を与えないこと,ワクチン接種の啓発を行うことが重要である.

これすぽんでんす

梅毒自動化検査の偽陽性について

著者: 角田孝彦 ,   国井アツ子

ページ範囲:P.560 - P.560

 本誌67巻5号(2013年増刊号)に,近年本邦で普及してきた自動化STS(serologic test for syphilis)検査に関する論文1)が掲載されている.この論文では触れられていない梅毒自動化検査の偽陽性を最近2例経験したので報告する.

偽陽性と偽陰性を念頭に置く

著者: 尾上智彦 ,   本田まりこ

ページ範囲:P.561 - P.561

 検査には基本的には偽陽性と偽陰性がつきものであり,臨床検査に対して医師は常に懐疑的な見地から結果を分析することが求められる.

 角田らの報告のうち症例1はTreponema pallidum(TP)を抗原とする化学発光法陽性であったが,再検でTP抗原,カルジオリピン抗原のいずれも自動化法陰性,倍数希釈法陰性であったとの報告である.化学発光法と自動化法との乖離に関する検討は渡邉ら1)の報告が詳しい.同報告では346例の血清検体に対してTPを抗原とする化学発光法2種類に対する自動化法1種類の一致率をそれぞれ検討している.このうちいずれかの化学発光法陽性で自動化法陰性の症例は11例あり,結果の乖離した症例の合計は17検体(3%)ほどであった.渡邉らは乖離例に関してはTPを抗原とするイムノクロマト法,イムノブロッティング法ならびにカルジオリピンを抗原とする自動化法および倍数希釈法にて梅毒患者なのかどうかを検討しており.化学発光法陽性で自動化法陰性の症例は11例のうち,3例はその他の検査が陰性で非梅毒,残りの8例に関しては陳旧性梅毒と推測している.非梅毒患者血清の偽陽性に関しては自動化法および化学発光法で各々偽陽性を示した検体が異なっており検体由来ではなく試薬由来の特異性が原因と推測している.また化学発光法2法の結果の乖離に関しては,組み換え抗原の混合比や試薬化条件の違いに起因するものと推測している.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.477 - P.477

文献紹介 汗に分泌される真菌由来の蛋白MGL_1304はアトピー性皮膚炎患者のアレルゲンとなる フリーアクセス

著者: 福山雅大

ページ範囲:P.514 - P.514

 アトピー性皮膚炎患者には数々の増悪因子が存在するが,汗のたまりやすい部位に湿疹を起こしやすいことなどから,汗は特に重要な増悪因子として認識されてきた.著者らは以前,汗によって好塩基球からのヒスタミン遊離が促進することを証明したが,具体的にどの物質がアレルゲンとなってアトピー性皮膚炎が増悪するかは不明だった.今回の研究で,ヒスタミン遊離活性を指標にヒトの汗から精製された成分が,Malassezia属真菌の一種であるM. globosaが産生する蛋白質MGL_1304の一部と同一のアミノ酸配列を持つことが示された.

 まず著者らは精製したヒトの汗を使用し,質量分光分析でアトピー性皮膚炎患者の好塩基球のヒスタミン遊離活性を持つアミノ酸配列の決定を行い,M. globosaが産生するMGL_1304に含まれる配列と同一であることを確認した.精製した組み換えMGL_1304は,アトピー性皮膚炎患者の血清IgEと結合し,好塩基球のヒスタミン遊離を促進することから,これまで汗アレルゲンとして想定されていた物質であることが示された.またMGL_1304は,ヒト肥満細胞株から脱顆粒を起こすとともに,アトピー性皮膚炎患者の好塩基球からIL-4の産生を引き起こすことも明らかとなった.最後に,M. globosaが分泌するMGL_1304は,翻訳後修飾された29kDaの蛋白となり,さらに小さなフラグメントとなって汗の中に分泌されることが,ヒスタミン遊離活性試験で示された.

文献紹介 デスモグレイン1欠損が重症皮膚炎,多数の抗原に対するアレルギー,消耗性代謝異常を引き起こす フリーアクセス

著者: 古市祐樹

ページ範囲:P.519 - P.519

 アレルギー性疾患において,免疫学的異常と上皮のバリア機能不全がどのようにして発症に関与するかについては,現在でも議論が交わされている.この論文では,重症皮膚炎,多数の抗原に対するアレルギー,消耗性代謝異常を3主徴とするSAM(severe dermatitis, multiple allergies and metabolic wasting)症候群について述べられている.SAM症候群は,デスモゾームを構成する接着分子の1つであるデスモグレイン1をコードする遺伝子(DSG1)の変異によって生じる遺伝子疾患である.DSG1の変異によって,細胞膜上にデスモグレイン1が発現されないことで,表皮細胞間接着が障害されるとともに表皮バリア機能の異常が引き起こされることが示された.さらに,デスモグレイン1蛋白の欠乏は,アレルギーに関連するさまざまなサイトカインをコードする遺伝子の発現を促進することが示された.このように,著者らが考えるSAM症候群の発症機序は,アレルギーの獲得が表皮構造の破綻の結果として生じる可能性を実証するものとして非常に興味深い.

お知らせ 日本臨床体温研究会 第29回学術集会/第9回 ハンセン病の医療充実に向けた講習会 フリーアクセス

ページ範囲:P.562 - P.562

日  時 2014年8月30日(土)

会  場 札幌医科大学記念ホール


会  期 2014年11月23日(日)10:00~16:00

会  場 株式会社エクサム札幌本社3階会議室

     〠060-0001 札幌市中央区北1条西5丁目2番地

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.563 - P.563

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.564 - P.565

あとがき フリーアクセス

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.566 - P.566

 携帯電話で4時間も話し,pseudocyst of the auricleになった患者がいた.人は何でこうも携帯に依存症になるのだろうか? その昔,人に携帯を借り,その切り方がわからず物笑いのタネになった筆者も,今や携帯を身につけている.病院からの命令に逆らえないからである.人と話していても,絶えず携帯が鳴る人とは落ち着いて話すことができない.

 長年仕事をしていると,集中力こそが仕事の質を決めていることがわかる.そのため筆者はどんな状況にあっても乱れない集中力を養うことこそ大切であると(不遜にも聖徳太子を気取って)考えてきたので,まわりの人には仕事中でも遠慮せず話しかけて良いと言ってきた.しかし,最近年のせいかその集中力にも陰りが見えはじめ,パソコンに向かっているときに話しかけられると上の空の返事をしてしまい,以前言ったことを後悔しはじめている.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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