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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科68巻8号

2014年07月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・83

Q考えられる疾患は何か?

著者: 杉浦丹

ページ範囲:P.573 - P.574

症例

患 者:18歳,男性

主 訴:腹部の網目状色素斑

家族歴:母,Ⅰ型糖尿病

既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診の8か月前に運動部(空手)をやめた後,半年間に体重が10kg増加した.初診の4か月前より腹部に褐色の色素斑が出現,1月前より拡大してきた.

現 症:上腹部に線状の皺襞を認め,同部に一致して分布する比較的境界明瞭な自覚症状を欠く網目状褐色斑を認めた.色素斑の表面は乾燥し,ごく軽度の比糠様落屑を伴っており,頸部,腋窩などほかの部位に皮疹は認めなかった.なお,患者は身長165cm,体重80kg,BMI(body mass index)は29.4であった.

マイオピニオン

医療技術,医療情報の後輩への伝達について

著者: 藤原作平

ページ範囲:P.576 - P.577

 現在の職場に身をおいて30年近く経ったためか,私が所属した初期の頃と現在とでは,職場の雰囲気が随分変化したことを実感している.もちろん医療の質も向上し,それにつれて医療にかかわる仕事量も増加した.しかしそれに加えて人の意識も変化し,価値観も変化したように思う.20年前から比べても,携帯電話やインターネットが普及し,情報伝達スピードは格段に速くなった.しかし,その情報の質や咀嚼度はどうであろうか? むしろ情報の大海から不必要な情報をすばやく捨て去り,有益な情報のみを選択する能力が求められてきている.このようなスピード感のためか,まわり道が許されないような雰囲気となり,あわただしく時間が過ぎ去っていく.大学は,以前はむしろ経済や効率などとは異なる価値を求めていたと思うが,日本全体が経済的に萎縮してきたせいか,あるいは市場原理が大学にまで蔓延してきたせいか,最近では大型外部資金を獲得することが最も重要視されるようになってきた.加えて,新臨床研修制度の導入に代表されるような制度の変化もあいまって,さらにその傾向に拍車がかかっている.このような中で,どのような医療情報や技術を,後輩に今後いかに伝えていくべきかということを幅広く考えてみたい.

 1. 情報内容について

 電子カルテが導入され,また臨床写真も容易にそれに取り込めるようになって以来,皮疹の現症のとり方はかなりおろそかになってきているように思える.私自身パソコン入力が大変遅いせいもあり,現症が貧弱になってきたと自覚している.入局1年目の研修医には,私の外来に側診係としてついてもらい,いわゆるon the job trainingで現症の取り方を学んでもらっている.ただし研修医は,どうしても入力に手をとられ,学生より遠い位置から観察したり,学生のあとに触診せざるを得なくなる.が,割り込んででも,患者さんをよく見てほしいと思っている.

原著

水戸済生会総合病院における帯状疱疹の動向および多施設共同による帯状疱疹227例の局所誘因についての検討

著者: 飯島茂子 ,   丸山智恵 ,   佐久間満里子 ,   坪内由里 ,   池上美智子 ,   鈴木律子 ,   西尾祐美

ページ範囲:P.578 - P.583

要約 水戸済生会総合病院での帯状疱疹の最近の動向および多施設での発症に関与する局所誘因について検討した.1998年1月~2010年12月の13年間における1年間の平均入院患者数は32.8±8.3人であった.総入院患者数に占める帯状疱疹患者の割合は,統計期間の初期3年では平均16%であったが,後期3年では平均9.8%と減少した.2004年1月~2010年12月の7年間における帯状疱疹患者総数は徐々に増加傾向を示した.月別罹患患者数は8月が14.1%と最も多かった.多施設での帯状疱疹227例の罹患神経領域では,胸神経領域51.1%,三叉神経領域20.7%,腰神経領域11.9%,頸神経領域11.5%,仙骨神経領域4.0%の順であったが,各神経別では,三叉神経第1枝領域が32名と最も多かった.局所誘因は227例中13.2%に認め,その内訳は,①外傷性13例(5.7%),②手術瘢痕性9例(4.0%),③反射性7例(3.1%),④その他1例(0.4%)であった.今までに帯状疱疹の統計報告は多数みられるが,局所誘因の頻度を明確に示した報告はほとんどない.帯状疱疹の発症誘因を見出すことは,内臓病変や外傷の有無を発見することに繋がるので,詳細な問診は必要であると考えた.

今月の症例

神経線維腫症1型に合併し,獅子様顔貌と脳回転状皮膚を呈したCD8陽性毛包向性菌状息肉症の1例

著者: 石黒真理子 ,   岡本勝行 ,   形部裕昭 ,   岸和史 ,   細井裕樹 ,   古川福実

ページ範囲:P.585 - P.590

要約 62歳,男性,神経線維腫症1型患者.初診の1年前から全身に褐色局面が出現した.血液検査でチミジンキナーゼ活性23.1U/ml,生検で表皮向性のCD8陽性CD4陰性異型リンパ球浸潤を認め,菌状息肉症T2N1aM0B0,stageIIAと診断した.インターフェロンγ(計2,500万単位)と内服PUVA療法(計75J/cm2)を併用したが次第に頭頸部に毛包炎を伴う丘疹,表面が顆粒状の局面,脱毛斑が出現し,獅子様顔貌と脳回転状皮膚を呈した.追加生検では毛包向性にCD4およびCD8陽性の腫瘍細胞が浸潤し,毛包向性菌状息肉症と最終診断した.全身電子線照射(計20Gy,局所追加計20Gy)を行ったが,病期はT2N3M0B0,stageIVA2に進行し,CHOP療法も効果に乏しく,初診から1年5か月で永眠した.自験例は獅子様顔貌と脳回転状皮膚の合併という特異な外観を呈し,異なる部位で表現型変化を伴って表皮向性と毛包向性の腫瘍細胞浸潤をみた貴重な症例である.毛包向性菌状息肉症は予後不良であり,早期診断が重要である.

症例報告

全身性エリテマトーデス患者に生じたnon-bullous neutrophilic dermatosisの1例

著者: 中山ちひろ ,   齋藤奈央 ,   伊東孝政 ,   中里信一 ,   堀江啓太 ,   乃村俊史 ,   藤田靖幸 ,   阿部理一郎 ,   坊垣暁之 ,   小玉和郎 ,   清水宏

ページ範囲:P.591 - P.595

要約 38歳,女性.20歳時よりSLEを発症し,プレドニゾロン(PSL)10mg/日,タクロリムス3mg/日で加療されていた.初診3日前より左上腕内側に小紅斑が出現し,遠心性に拡大して浮腫性紅斑となった.徐々に全身に皮疹が出現し,初診時には全身に3cm大までの浮腫性紅斑を多数認め,部分的に融合傾向を呈した.病理組織像では真皮内の密な好中球浸潤を認め,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)の経過中に生じたnon-bullous neutrophilic dermatosisと診断した.Non-bullous neutrophilic dermatosisは,SLEと関連のある好中球性皮膚症として提唱され,水疱や血管炎を認めないため,bullous lupus erythematosusやSLE-associated vasculitisとは独立した新しい疾患概念とされている.過去に報告例が少なく,解明されていない点も多い病態であるため,さらなる疾患概念の確立のためには,症例数の蓄積が必要であると考えられた.

尋常性白斑に対しナローバンドUVB療法で治療中に限局性強皮症をきたした小児例

著者: 臼田佳世 ,   山本淳子 ,   堺美由紀 ,   野老翔雲 ,   大久保佳子 ,   高河慎介 ,   沢田泰之

ページ範囲:P.596 - P.600

要約 8歳,男児.1歳時より左手背,左前腕に白斑が出現.2歳時に近医で尋常性白斑と診断され,ナローバンドUVB(NB-UVB)療法を5年間継続していた.左手背の白斑には色素再生がみられたが,左前腕の白斑の一部に皮膚硬化が出現し,当科紹介受診した.初診時,左腕に径6cm大の光沢を伴う硬化局面を認めた.病理組織像にて真皮から脂肪織にかけての膠原線維の増生,均質化がみられ,血管周囲および皮下脂肪織に巣状のリンパ球浸潤を認めたことから限局性強皮症と診断した.尋常性白斑に限局性強皮症を合併した可能性はあるものの,白斑部位にNB-UVB照射後に皮膚硬化が発症し,終了後に改善したことから,副事象の可能性が高いと考えた.自験例のような幼児の皮膚の厚さは成人の1/2程度であり,NB-UVB療法による副事象もより強く出現した可能性がある.今後,幼小児の尋常性白斑においてNB-UVB療法は推奨されるべきではないと考える.

四肢の浮腫と末梢血好酸球増多を呈した2例

著者: 佐藤真美 ,   植田郁子 ,   光井千慧 ,   爲政大幾 ,   岡本祐之

ページ範囲:P.601 - P.606

要約 症例1:28歳,女性.下腿~足関節と手関節に淡紅色斑と浮腫を認め,末梢血好酸球数11,040/μl.症例2:37歳,女性.足背,手背に著明な浮腫と足関節に淡紅色斑があり,体重増加も認め,末梢血好酸球数12,180/μl.病理組織にて両症例で間質への好酸球浸潤を認め,症例1では一部に変性した膠原線維もあり,flame figure像と考えた.経過とあわせて症例1はeosinophilic cellulitis,症例2はnon-episodic angioedema associated with eosinophiliaと診断した.両疾患は類似の臨床像および末梢血好酸球増多を示すが,治療および経過は異なるため,鑑別を要する.そのほか類似の症候を示す疾患もあわせて,臓器障害や筋膜炎の有無,また病理組織像や臨床経過などの相違点より今回われわれが考察した鑑別のアルゴリズムを含めて報告する.

デガレリクス投与により生じた皮膚障害の1例

著者: 甲斐文丈 ,   森達吉 ,   海野智之 ,   須床洋

ページ範囲:P.607 - P.610

要約 73歳,男性.主訴は前腹部注射部位発赤,硬結であった.前立腺癌cT3bN1M1cに対し,他院でホルモン療法を施行されていた.当院受診9日前に,他院でデガレリクス皮下注射(初回投与)を受け,注射部位に一致した皮膚障害を認めた.当院皮膚科で患部治療後,泌尿器科でホルモン療法の薬剤をデガレリクスから酢酸リュープロレリンに変更した.その後,皮膚障害の再発を認めない.デガレリクスは前立腺癌に対し有効な薬剤であるが,従来のGnRHアゴニスト製剤と比較して注射部位反応は多いとされ,その成因はいまだ不確定である.本剤投与時には,さらなる慎重さと注意深い観察とが求められる.

頭部に生じた汗孔腫の1例

著者: 大川たをり ,   白井洋彦 ,   山村弟一

ページ範囲:P.611 - P.614

要約 81歳,女性.約30年前より前頭部に軟らかい腫瘍を認めていた.表面がしばしばびらんし,徐々に増大した.初診時,右前頭部に径30×25mm,高さ10mmの暗赤色で弾性軟の有茎性腫瘍を認めた.放置していたところ約2年後に著明に増大し,再診時,腫瘍は約1.5倍の大きさで表面に黒色痂皮を伴い一部は潰瘍化していた.全摘した腫瘍の病理組織学的所見は小型で好塩基性腫瘍細胞が表皮と連続して増殖し胞巣を形成しており,胞巣内に大小多数の管腔様構造とその内腔に出血像と無定形物質認めた.臨床像,病理組織学的所見より汗孔腫と診断した.汗孔腫の典型例は四肢に好発する境界明瞭な紅色調の小結節とされるが,実際の臨床像は多様なため,術前診断に苦慮することも多い.自験例では短期間で腫瘍増大,潰瘍化し,悪性汗腺腫瘍への変化を疑ったが,腫瘍細胞に異型性を認めなかった.腫瘍への機械的刺激が重なって,悪性変化を疑わせるような臨床像を呈したと推察された.

頭頂部脱毛性腫瘤を呈した閉鎖性脳瘤(atretic cephalocele)の1例

著者: 大方詩子 ,   藤尾由美 ,   舩越建 ,   野村尚志 ,   佐藤美聡 ,   横山知明 ,   永尾圭介 ,   天谷雅行

ページ範囲:P.615 - P.620

要約 生後3か月,女児.出生時より頭頂部に脱毛斑があり,徐々に隆起し弾性軟の紫紅色腫瘤を呈した.良性腫瘍を疑い2歳時に切除した.術中,腫瘤下部から索状構造物が頭蓋骨の小欠損孔を通して頭蓋内へ連続していた.病理組織像は膠原線維を分け入るような脈管様構造が主体で,免疫染色のEMA,NSE,D2-40が陽性で髄膜組織由来と考えられた.臨床像と病理組織所見から閉鎖性脳瘤(atretic cephalocele)と診断した.閉鎖性脳瘤は髄膜組織を皮下に認める稀な疾患で,発生過程の異常に起因すると考えられている.皮膚髄膜腫,異所性髄膜腫など複数の名称で報告がある.臨床像は出生時から認める頭頂部や後頭部正中の5~20mm大の脱毛斑・結節で,色調はさまざまである.病理組織像は脈管様構造や膠原線維で構成され,免疫染色のEMA,NSEとD2-40が陽性となる.閉鎖性脳瘤は脳奇形を合併することがあり,頭部MRIでの評価が重要である.

扁平結節が帯状に分布した神経線維腫症Ⅴ型の1例

著者: 山名やよい ,   石黒直子 ,   川島眞

ページ範囲:P.621 - P.625

要約 32歳,女性.28歳より左膝膕の紅色皮疹を自覚し,徐々に左下肢後面と左臀部へ拡大した.初診時,左臀部から下肢後面に,ほとんど隆起がないか,わずかに隆起する爪甲大の軟らかい淡紅色の扁平結節が多発し,帯状の分布を示した.病理組織学的には,真皮に被膜を伴わない腫瘍細胞の集塊があり,脂肪隔壁にも散在性に腫瘍細胞を認めた.これらの細胞は紡錘形の核を有し,免疫染色にてS100蛋白陽性,EMA,CD34,第XIII因子は陰性で,神経線維腫と診断した.自験例では結節が片側に限局しており,神経線維腫症Ⅴ型と診断したが,隆起はあってもわずかであり,特異な臨床像と考えた.

乳頭部色素性Paget病の1例

著者: 須磨朱里 ,   安藤純実 ,   八幡陽子

ページ範囲:P.626 - P.630

要約 65歳,女性.初診1か月前に左乳頭部の色素斑を自覚した.左乳頭部に8mm大の黒褐色斑がありダーモスコピーでは辺縁にatypical pigment network,中央部にblue whitish veilと,白色構造物を認めた.悪性黒色腫との鑑別が困難であったため,生検を施行したところ,表皮内にメラニン顆粒を有する大型で胞体の明るい異型な核をもつ細胞が胞巣を形成しており,pigment blocade melanocyteも散見された.免疫染色でCEA,CK7陽性,HMB45,S100蛋白陰性でPaget病と診断した.黒褐色斑より2cm離して全切除を施行した.全切除標本では真皮乳管内に腫瘍細胞を認めた.通常の乳房Paget病と異なる乳頭部色素性Paget病の特徴,機序,およびダーモスコピー,組織学的所見について検討したところ,melanocyte colonizationといった特異な現象によって腫瘍の黒色化が生じ,悪性黒色腫との鑑別を難しくすると考えた.

組織学的に真皮に母斑細胞を思わせる胞巣を認めた足底悪性黒色腫の1例

著者: 山本洋輔 ,   外川八英 ,   末廣敬祐 ,   鎌田憲明 ,   神戸直智 ,   斎田俊明 ,   松江弘之

ページ範囲:P.631 - P.635

要約 49歳,女性.初診約20年前に左足底の黒色斑を自覚し,初診時には径7×5mmの境界明瞭だが左右非対称,色調不均一でわずかに隆起する黒色斑を認めた.患者の希望により経過観察としていた.初診後5か月の時点で黒色斑は拡大し,一部にregressionがみられたため,悪性黒色腫と考え切除した.病理組織像では,皮丘部の表皮内汗管周囲を中心に核周囲が明るく抜ける類円形~紡錐形の腫瘍細胞が表皮内に分布し,一部真皮乳頭層に浸潤増殖していた.一方,中心部の真皮浅層には母斑様細胞の集塊があり,汗腺に沿うように存在していた.この集塊は免疫染色ではS100蛋白陽性,HMB45陰性であった.病歴とあわせて,真皮のこの細胞集塊は先天性色素性母斑と考えた.以上よりtumor thickness 0.4mm,pT1aN0M0と診断し,術後後療法はせず経過観察とし,術後9か月現在再発はみられていない.ダーモスコピーなどで悪性黒色腫を否定できない場合,小型の先天性色素性母斑が先行する場合であっても経過観察することが重要であると思われた.

ゲムシタビン単剤療法にて部分奏効を一時的にきたした血管肉腫の1例

著者: 森下加奈子 ,   福田桂太郎 ,   入來景悟 ,   江上将平 ,   森真理子 ,   舩越建 ,   高江雄二郎 ,   石河晃

ページ範囲:P.636 - P.640

要約 76歳,男性.左前頭部,右側頭部に浸潤を伴う紅斑がみられ,組織検査にて異型な内皮細胞からなる血管増生所見が認められ,血管肉腫と診断した.単純切除後,全頭部の電子線照射とweeklyドセタキセル療法(25mg/m2,3投1休)を施行した.手術から6か月後に局所再発し,weeklyパクリタキセル療法(80mg/m2,3投1休)に変更したが強いしびれの副作用のため中止した.IL-2の静注局注療法(40万単位)に変更したが腫瘍は増大した.NCCNガイドラインで血管肉腫に対する抗癌剤として推奨されているゲムシタビン単剤療法(1,000mg/m2,3投1休)を施行した結果,腫瘍は部分奏効を一時的に示した.他臓器転移なく,19か月後に原病により死亡した.タキサン系抗癌剤やIL-2に抵抗性の切除不能血管肉腫で,多剤併用療法が使用できない症例では,比較的骨髄抑制が少なく副作用が弱いとされるゲムシタビン単剤療法も選択肢の1つになりうると考えた.

皮膚癌肉腫の1例

著者: 横山希 ,   星野慶 ,   山本将之 ,   氏平伸子 ,   佐竹立成 ,   小川綾 ,   松本高明 ,   原一夫

ページ範囲:P.641 - P.645

要約 33歳,女性.初診2年前より後頭部の結節を自覚した.2か月前より急激に増大し,当院を受診した.初診時,後頭部に径30mm大の淡紅色皮下腫瘍を認め,全摘術を施行した.病理組織学的に,真皮から皮下組織にかけて比較的境界明瞭な腫瘍を認め,腫瘍の大部分は肉腫で一部類骨形成や花むしろ状の増生がみられ,多形肉腫(pleomorphic sarcoma:PS)成分と考えた.また腫瘍の最深部のごく一部に扁平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)の部分を認めた.PS成分ではサイトケラチンが陰性,SCC成分ではサイトケラチン陽性であり,かつ両者の間に移行像を認めなかったことより,癌肉腫と考えた.その後,PET-CTを施行したが皮膚以外に病変は認めず皮膚原発と考えられたため,SCC成分とPS成分からなる皮膚癌肉腫と診断した.癌肉腫はWHO分類には記載されてはいないが海外での報告も散見されている.本邦での報告はわずかであり,貴重な症例と考えた.

Mycobacterium abscessus皮膚感染症の1例

著者: 池田真希 ,   幸田太 ,   国場尚志 ,   菊池智子 ,   福田直純 ,   古江増隆

ページ範囲:P.647 - P.650

要約 39歳,女性.当科初診1か月前より,外傷などの誘因なく右臀部に軽度の疼痛を伴う紅斑,皮下硬結が出現した.波動を触れる部位を穿刺したところ褐色調の膿汁が排出され,塗抹標本で抗酸菌を認めた.小川培地で乳白色のコロニー形成を認め,DNA-DNAハイブリダイゼーション法の結果,Mycobacterium abscessusと同定した.診断確定後,薬剤感受性検査の結果を参考にレボフロキサシン,クラリスロマイシン,塩酸テトラサイクリンの3剤で治療を開始した.紅斑は徐々に消退したが,硬結が持続した.治療経過中に行った硬結部位の病理組織学像では,乾酪壊死はなく,Ziehl-Neelsen染色では抗酸菌陰性で,培養も陰性であった.その後も3剤内服を継続し,治療開始約1年で硬結も消退した.M. abscessusは健常人に明らかな誘因なく発症する症例もある.硬結,膿瘍を形成する疾患として念頭に置く必要がある.

Calciphylaxisの1例

著者: 龍神操 ,   栗原佑一 ,   土井亜希子 ,   高橋京子 ,   竹内常道 ,   宮川俊一

ページ範囲:P.651 - P.656

要約 59歳,女性.慢性腎不全で17年前より血液透析中.約1年前より右下腿に紅斑が出現し徐々に潰瘍化した.プレドニゾロン15mg/日,ワルファリン1mg/日の内服加療に反応せず疼痛が増悪した.当院初診時,両下腿内側に紫斑,壊死を伴う有痛性潰瘍を認めた.血液検査所見はCa 9.1mg/dl,iP 5.4mg/dl,intact-PTH 242pg/mlだった.病理組織所見で真皮深層から皮下脂肪織内の小血管壁の中膜,内弾性板側が石灰化し,エラスチカ・ワンギーソン染色で血管壁弾性板の構造は不明瞭だった.遠位型calciphylaxisと診断し,ワルファリン内服を中止した.スルファジアジン銀外用で潰瘍は上皮化した.臓器石灰化のない遠位型calciphylaxisはcalciphylaxisの中で最も予後良好であり,臓器の石灰化の有無を評価することが重要と考えた.自験例ではワルファリン中止が症状軽快につながった可能性を考えた.

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欧文目次

ページ範囲:P.571 - P.571

文献紹介 腫瘍の遺伝子変異や耐性に左右されない悪性黒色腫治療

著者: 中村善雄

ページ範囲:P.606 - P.606

 BRAF阻害薬であるベムラフェニブが悪性黒色腫治療を劇的に変えたことは記憶に新しい.しかし,数か月後には他の変異が出現し耐性を獲得してしまうという問題点がある.悪性黒色腫を克服するためには遺伝子変異や耐性に左右されない治療が求められている.

 今回著者らは悪性黒色腫で発現が低下している眼球関連転写因子(microphthalmia-associated transcription factor:MITF)の存在に注目した.MITFはメラニン産生に関与する遺伝子の分化を促進させ,逆にMITFが減少すると悪性黒色腫が未分化になり,浸潤性が高まることがわかっている.MITFを活性化することで悪性黒色腫が治療に反応する表現型にスイッチし,その特徴を抗悪性黒色腫療法に応用できるのではないかと考えた.

文献紹介 水疱性類天疱瘡の患者では,熱ショック蛋白質90の発現と分泌に異常がみられる

著者: 熊谷宜子

ページ範囲:P.625 - P.625

 細胞がストレス条件下にさらされた際に発現が高まる熱ショック蛋白質(Hsp)の1つとして知られるHsp90は,生体内での炎症反応に関与し,いくつかの自己免疫疾患のマウスモデルではその抑制による治療効果が示されている.

 この論文では,代表的な自己免疫性水疱症である水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)の患者におけるHsp90の発現量および分泌量について解析が行われた.健常人と比較して,BP患者の皮膚ではHsp90の発現が高いものの,血清中ではHsp90の量は低下しており,抗BP180抗体価との逆相関がみられた.また,BP患者での末梢血単核球内でHsp90が高発現していることに加えて,その分泌は限定的に行われることが示された.さらに,ヒト表皮角化細胞株であるHaCaT細胞にBP患者血清またはBP180蛋白のNC16A領域に対する自己抗体を作用させると,HaCaT細胞内でHsp90の高発現が誘導され,限定的な分泌がみられることが示された.

次号予告

ページ範囲:P.659 - P.659

投稿規定

ページ範囲:P.660 - P.661

あとがき

著者: 石河晃

ページ範囲:P.662 - P.662

 ある人材育成・研修会社の調査で,「管理職になりたい」と答えた新入社員が45%にとどまり,年々減少傾向にあることが今朝の新聞のコラムに載っていました.医師の管理職は一般企業とはずいぶん異なると思いますが,「管理職」を「教職」と読み替えると医療も同じ傾向にあるように思えます.すなわち,専門医にはなりたいが,医学博士にはなりたくない人が増え,大学に残り研究・教育・診療を通じて医療の進歩に貢献し,後輩の指導をしたいと考えている医師が減っているように思えるのは気のせいでしょうか.

 先日の日本皮膚科学会総会で専門医指導医講習会を企画しました.いかにやる気を出させるかがポイントであるということが,「のどの渇いていないロバには水を飲ませることはできない」ということわざになぞらえて披露されました.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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