icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科69巻1号

2015年01月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・89

Q考えられる疾患は何か?

著者: 梅本尚可

ページ範囲:P.7 - P.8

症例
患 者:49歳,男性
主 訴:右鼻翼部の結節
既往歴:特記すべきことはない.
家族歴:同症はない.
現病歴:約10年前から右鼻翼部に紅色結節があるのに気付いていた.
現 症:右鼻翼部に直径8mm大,高さ5mm,広基性に隆起した淡紅色〜正常皮膚色で弾性硬の単発性結節を認めた(図1).表面には鱗屑がわずかに付着し,毛細血管拡張もみられた.下床との癒着はなかった.

マイオピニオン

電子顕微鏡のすすめ—楽しみは電顕によるDENKEN(思考を意味するドイツ語)の日々偲ぶとき

著者: 熊切正信

ページ範囲:P.10 - P.11

 突然のオヤジギャグですみません.表記タイトルの原稿依頼を受けたので副題のように読み替えてみました.2013年3月をもって福井大学を退任した身を理由に断ろうかと考えたのですが,若い研修医に伝えたいことが私にはある.
 学会こそが勉強の場と考えていた私は,出席の機会を与えられたとき,すべての演題に最低1つは質問するぞと決めて前もって勉強した.某大学教授から「そんなに言うのなら壇上にあがってきてどこが気にいらんのか示してみろ」と言われ,意気揚々と駆け上り,ここは違うと指摘して粋がったことがある.思えば跳ね上がりもいいところであった.その当時に比べ,今日の学会はお通夜の寂しさである.素っ気ない発表の多いこと.口演なりポスターを見ても,大切な経験を皆の共有の財産としていこうという意気込みを感じない.検査結果にしても画像にしても,駆使して論陣を張るにしても若者らしい活力を感じさせない.もちろん,少数ではあるがよくやっている方がいる.私も若かったら同じようなことをしてみたかったと,うらやましくなることもある.しかし,多くは,質疑応答の場で,判断根拠を質しても明快な回答が得られない.今そこに映写されている所見とは異なる教科書の文言を繰り返し,さっさと演壇から降りる.ヒトのために発表しているんじゃないよ,専門医をとるための代価なんだよと言わんばかりである.

原著

褥瘡治療の予後因子の縦断的検討—急性期病院における褥瘡回診データの活用例

著者: 遠藤雄一郎 ,   松本忍 ,   宮地良樹 ,   戸田憲一

ページ範囲:P.12 - P.17

要約 褥瘡はさまざまな要因により引き起こされる慢性の皮膚軟部組織の損傷である.これまでの研究では褥瘡の予後に影響する因子は十分に検討されていなかった.本研究では,当院の院内発生の褥瘡症例について,予後因子を縦断的に検討した.2011年10月〜2012年6月に当院入院中に治療した仙骨部褥瘡患者101人(年齢73.1±13.8歳,男性58%,女性42%)を対象とした.28の予後因子の候補の状態を褥瘡発生時に記録した.また,褥瘡発生時と最終診察時にDESIGN-Rを記録した.まず,DESIGN-R得点改善および治癒を従属変数として予後因子の寄与を単変量の解析で検討した.次に,単変量解析で有意な寄与を示した因子について,多変量モデルで因子の寄与を推定した.その結果,栄養不良,るいそう,下痢,浮腫はそれぞれ独立した褥瘡の改善の予後因子と示唆された.また,DESING-Rの初期値は観察期間内の褥瘡の予後を予測しなかったが,DESIGN-Rの得点が発生時に悪い患者のほうが,下痢による創傷治癒の遅延の影響を受けやすい傾向であることが示された.1施設での入院中のデータからの結果という制約はあるが,入院環境では,栄養と排泄管理が褥瘡の予後因子として重要と考えられた.入院患者の褥瘡の治療と予防では,栄養から排泄までの一貫した管理が特に重要である.

症例報告

小麦粉含有製品内で増殖したダニによるアナフィラキシーの3例

著者: 伊勢美咲 ,   小幡祥子 ,   木花いづみ ,   松村和哉 ,   山田健一朗

ページ範囲:P.19 - P.24

要約 症例1:36歳,男性.自宅で調理したたこ焼きを摂取直後,全身の膨疹,咳嗽が出現した.症例2:9歳,女児.症例1の娘である.父とともに食事し,ほぼ同時に全身の膨疹,呼吸苦が出現した.症例3:37歳,女性.自宅で保管した天ぷら粉で調理した天ぷら摂取直後,軀幹の掻痒と紅斑,喘鳴が出現した.いずれも,アナフィラキシーに対する急性期治療を行った.3例とも気管支喘息とアトピー性皮膚炎の既往があり,ダニの特異IgEが>100〜31.50UA/mlと高値だった.使用した粉は開封後,室温で数か月保管した賞味期限切れのものであった.粉の鏡検で多数のコナヒョウヒダニを確認,プリックテストで,使用した粉とダニ抗原に陽性だった.本症はダニにアレルギーをもつ患者に大量の抗原曝露を誘因として発症すると考えられ,近年の生活様式や食生活の変化に伴い増加している.アレルギー素因を有する患者やその家族には,開封済み小麦粉製品の冷所保存など徹底した指導が必要である.

サクランボによる口腔アレルギー症候群の1例

著者: 結城明彦 ,   大湖健太郎 ,   塚本清香 ,   増井由紀子 ,   伊藤明子 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.25 - P.28

要約 42歳,男性.サクランボ摂取後に咽頭の掻痒,蕁麻疹,呼吸苦を生じ,救急搬送され軽快した.後日入院精査した結果,IgE RASTはリンゴ,ナシ,モモ,ハンノキがclass2,シラカンバはclass3であり,prick test,prick-to-prick testでサクランボ等のバラ科果物が陽性であった.シラカンバやハンノキなどのカバノキ科樹木の花粉で感作され,交差反応性にバラ科果物によるoral allergy syndrome(OAS)を発症したと考えた.バラ科果物と交差反応をきたすシラカンバやハンノキは本邦でも広く見かけるため,バラ科果物によるOASは本邦でも報告が多い.なかでもサクランボは摂食機会も少なくOASをきたすバラ科の果物のなかで報告はまれであるが,バラ科でOASをきたす代表的な食物の1つとして重要と考えた.

紫外線吸収剤(TINUVIN P®)による色素沈着型接触皮膚炎の1例

著者: 岩瀬七重 ,   関東裕美 ,   小原芙美子 ,   鷲崎久美子 ,   栗川幸子 ,   石河晃

ページ範囲:P.29 - P.32

要約 64歳,男性.10年前より就業中粉塵防止用ゴーグルを着用していた.2011年9月より両頰部の自覚症状のない色素沈着に気づき,近医から原因精査目的で当科を紹介された.初診時ゴーグルとの接触部位に一致して両側眉毛部外側,鼻背部,頰部に色素沈着を認めた.製品の化学分析とパッチテストの結果,成分中の2-(2-hydroxy-5-methylphenyl)benzotriazole(TINUVIN P®)に陽性反応を示したためTINUVIN P®による色素沈着型接触皮膚炎と診断した.原因製品の使用を中止し代替品の使用,抗アレルギー剤,ビタミンCの内服,ハイドロキノン,ステロイド外用により色素沈着は軽快している.TINUVIN P®は紫外線吸収剤としてさまざまな有機高分子化合物に添加されており(www.polivinilplastik.com),1997年まで皮膚障害の報告が続いたが,その後は報告が途絶えている.原因不明の色素沈着を生じた症例に対しては,接触皮膚炎の可能性も考慮し原因検索を進める必要がある.

ランサップ® 800に含まれるアモキシシリンとランソプラゾールによる薬疹の1例

著者: 渋谷倫太郎 ,   原本理恵 ,   井形華絵 ,   大谷稔男

ページ範囲:P.33 - P.37

要約 34歳,男性.Helicobacter pylori(H. pylori)の除菌目的でランサップ®800を処方され,内服5日目に39℃の発熱や下痢が出現した.さらに4日後には四肢に掻痒を伴う紅斑が生じ次第に全身に拡大したが,プレドニゾロン(PSL) 30mg/日の内服で治癒した.ランソプラゾール,アモキシシリン,クラリスロマイシンの薬剤リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)はランソプラゾールのみ陽性で,パッチテストはアモキシシリンのみ陽性だった.ランソプラゾールとアモキシシリンの内服試験は2剤とも陽性だった.H. pyloriの除菌治療による薬疹の原因薬剤はアモキシシリンの頻度が高いが,DLSTが陰性でパッチテストによりアモキシシリンと判明する例が少なくない可能性がある.また,アモキシシリンが原因薬剤のときは,ランソプラゾールも同時に原因薬剤となる例が存在することを念頭に置くべきであると思われた.

若年女性の下腿に限局して生じたtransient acantholytic dermatosisの1例

著者: 松本奈央子 ,   茶谷彩華 ,   畑康樹 ,   葛西邦博

ページ範囲:P.38 - P.41

要約 18歳,女性.初診1か月前より両下腿に掻痒を伴う皮疹が生じ,近医でステロイド外用,抗アレルギー薬,抗生剤,プレドニゾロン20mg/日の内服で加療されるも改善なく,当科を受診した.初診時,両下腿伸側に米粒大から小指頭大までの紅斑や丘疹,緊満性の小水疱が散在していた.病理組織像では表皮に著明な棘融解を認め,内部に棘融解細胞を有していた.また真皮浅層から中層の血管周囲に炎症細胞浸潤を認めた.蛍光抗体直接法は陰性であった.以上よりtransient acantholytic dermatosisと診断した.ミノサイクリン塩酸塩を開始し約2か月の経過で軽快し再発を認めていない.Transient acantholytic dermatosisは体幹,四肢に多発散在し中高年に多い疾患とされており,若年者で下腿のみに生じた例は稀である.

摂食不良と飲酒が誘因と考えられたペラグラ

著者: 藤原明子 ,   藤本智子 ,   高山かおる ,   井川健 ,   佐藤貴浩 ,   横関博雄 ,   丸山隆児

ページ範囲:P.42 - P.46

要約 78歳,男性.手術歴なし.2008年7月頃から両側前腕に紅斑が出現,ステロイド外用に反応せず同年8月に当院へ紹介された.初診時,両手背から前腕にかけて掻痒のない境界明瞭な色素沈着を伴う暗紅色斑があり一部に弛緩性水疱,痂皮を形成していた.病理組織では表皮の菲薄化,真皮の血管拡張,赤血球の漏出がみられた.血液検査でニコチン酸は7.2μg/mlと正常範囲であったが,トリプトファンが16nM/dlと低値でありペラグラと診断した.ニコチン酸アミド(100mg/日)内服2週間にて略治した.食生活を再調査したところ歯牙脱落によりほとんど食物摂取せず飲酒中心の生活を数年続けていた.また,過去20年間の症例を解析した結果,ニコチン酸が正常であってもペラグラを発症する割合は非飲酒者の1割に対し飲酒者は約4割と高く,アルコール代謝経路との強い関連が示唆された.飲酒者の難治性皮膚病変をみた場合はペラグラを疑うことも必要と考えた.

腰背部に手拳大の皮膚石灰沈着症を伴った全身性エリテマトーデスの1例

著者: 大野優 ,   山根理恵 ,   白井暁子 ,   鴇田真海 ,   伊藤宗成 ,   中川秀己

ページ範囲:P.47 - P.51

要約 50歳,女性.22歳時に全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)およびループス腎炎と診断され,ステロイド剤および他の免疫抑制剤の併用で治療されていた.約1年前より,腰背部正中に圧痛を伴う弾性硬の皮下腫瘤が出現し,その後徐々に増大し手拳大の大きさになった.血清カルシウムやリンの値は正常であった.MRIで腰背部に4.5×1.5×2.5cm大の腫瘤性病変を認め,CTでは同部位に一致して石灰化病変と,両側臀部の点状石灰沈着を認めた.病理組織所見では,真皮浅層から皮下脂肪織にかけて著明な石灰沈着を認め,一部に骨組織の形成像を伴っていた.以上よりSLEに生じた皮膚石灰沈着症と診断した.両者の合併について文献的考察を加え検討したところ,いくつかの合併機序が提唱されていた.自験例における石灰沈着症には,約30年にわたるSLEの長期罹患に伴う慢性炎症や血管炎の関与,そして長期ステロイド内服の関与が考えられた.

ミゾリビンパルス療法が有効であった若年女性の全身性エリテマトーデスの1例

著者: 野村尚志 ,   江上将平 ,   笠井弘子 ,   森真理子 ,   横山知明 ,   藤本篤嗣 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.52 - P.56

要約 23歳,女性.初診4か月前より腹痛,倦怠感,関節痛,発熱が出現し,その後,両頰部,上腕外側に皮疹が生じ受診した.両頰部と両上腕外側に多発する拇指頭大までの浮腫性紅斑,紅色丘疹を認めた.日光過敏,関節症状に加え,補体低値,抗核抗体陽性(homogenous pattern),抗ds-DNA抗体陽性,抗Sm抗体陽性,蛋白尿1.25g/日を認め,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)と診断した.プレドニゾロン(PSL)30mg/日とミゾリビン(MZR)100〜150mg/日の併用投与後も,補体低値,血沈亢進,尿蛋白が持続したが,MZRパルス療法(500mg/回・朝食前内服・週2回内服)を開始したところ,補体と血沈は速やかに正常化し蛋白尿も消失した.その後も再燃はなくPSL 5mg/日まで漸減可能であった.MZRパルス療法は最大血中濃度を上昇させる大量間欠投与法で,ループス腎炎・関節リウマチにおいて著効例が報告されている.自験例においても血中濃度の上昇と臨床的な改善が得られ,SLEに有効な治療法であることが示唆された.

赤血球増加症患者でマッサージにより生じた下肢伸側の点状紫斑

著者: 角田孝彦 ,   大浪千尋 ,   音山和宣

ページ範囲:P.57 - P.60

要約 24歳,女性,1か月前から下肢を毎日軽くマッサージして同時期から下肢伸側に限局して集簇する点状紫斑が出現した.血液検査で赤血球増加症を認めた.マッサージの中止により点状紫斑はすみやかに消退した.その後は荷物を持ったり肩にかけたりすると圧迫された部位の近くに点状紫斑が出現している.自験例は赤血球増加症により循環血液量が増加し毛細血管内圧が上がり,そこに機械的圧迫が加わり,さらに毛細血管内圧が上昇し赤血球の漏出が起こり紫斑を生じたと考えられた.

陰圧閉鎖療法が分層植皮片の固定に有用であった腋窩部熱傷の1例

著者: 山本紗規子 ,   藤尾由美 ,   田中諒 ,   舩越建 ,   齋藤昌孝 ,   髙江雄二郎

ページ範囲:P.61 - P.64

要約 45歳,女性.料理中に引火した油によって,右上腕内側,腋窩から側胸腹部にかけて体表面積の約5%に及ぶ深達性Ⅱ〜Ⅲ度の熱傷を受傷した.熱傷後に生じた潰瘍に対する治療として,関節可動域を含むことからタイオーバー法による均一な圧迫固定が困難なため,陰圧閉鎖療法を用いて75mmHgの持続陰圧をかけて植皮片を固定した.術後の関節固定は行わず,植皮術後5日目に陰圧を解除した.関節可動域,非可動域いずれにおいても植皮の生着は良好で,二次感染も認めなかった.術後2週間にはメッシュ孔はほぼ上皮化し,術後3か月には関節の拘縮も改善した.陰圧閉鎖療法を用いた固定では,関節部等の複雑な形態の創面に対する植皮においても,均一な圧迫が可能であり,安静度を緩和できることから関節拘縮の緩和の面でも有用であると考えた.

造影MRIにて血行不全による足趾の骨髄炎と考えられた1例

著者: 新田桐子 ,   狩野葉子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.65 - P.68

要約 71歳,男性.顕微鏡的多発血管炎でプレドニゾロン(PSL)12mg/日,メトトレキサートなどを内服中.2013年4月,初診の約10日前より外傷の自覚なく右第Ⅰ趾の腫脹が出現した.初診8日前の内科ではRaynaud症状と診断されたが,その後疼痛と小潰瘍が出現したため当科を受診した.受診時,右第Ⅰ趾伸側が紅色調に腫脹し,健側と比べ皮膚温が約5℃上昇していた.屈側基部の瘻孔を認めたが,その周囲の炎症所見はほとんどなく,排液も透明で滲出液様であった.検査ではCRP陰性で尿酸値上昇があり,痛風,骨折,蜂窩織炎,骨髄炎等を鑑別に考えたが,単純X線では有意な所見がなかった.造影MRIを施行したところ,末節骨の骨髄内に増強効果があり,血管炎に伴う血行不全に続発した骨髄炎と考えられた.足に限局した高度の皮膚温上昇や瘻孔を認めた場合,症状や所見に乏しくても,骨髄炎を疑い,画像検索を行うべきである.

長期の光線療法中に日光角化症・有棘細胞癌が多発した尋常性乾癬の1例

著者: 伏間江貴之 ,   種瀬啓士 ,   綿貫沙織 ,   舩越建 ,   海老原全

ページ範囲:P.69 - P.73

要約 64歳,男性.尋常性乾癬に対し29年前より当科で加療中.21年前よりブロードバンドUVB療法を開始し,4年前よりナローバンドUVB療法に移行した.約2年前より軀幹・四肢に角化性丘疹が多発し,脂漏性角化症として経過観察されていたが,右前腕の褐色の角化性病変が増大したため生検を実施した.表皮突起の棍棒状の延長と基底層側優位に異型ケラチノサイトが増生し,腫瘍細胞は一部真皮内へ浸潤していた.体幹部の角化性丘疹・結節を計14か所切除したところ,いずれも棍棒状に延長した表皮突起内に異型ケラチノサイトを認めた.乾癬の慢性炎症を背景として表皮細胞が癌化した場合,両者の特徴を併せ持った病理組織像を示す皮疹が生じる可能性がある.長期光線療法中の乾癬患者においては,一般的な日光角化症とは異なる皮疹を呈する腫瘍が出現しうると考えられるので注意を要する.

後天性免疫不全症候群に合併したBowen様丘疹症の1例

著者: 白瀬春奈 ,   粟澤遼子 ,   粟澤剛 ,   山本雄一 ,   高橋健造 ,   上里博

ページ範囲:P.74 - P.77

要約 43歳,男性.2008年12月末にAIDSと診断され,2009年2月より抗レトロウイルス療法(anti-retroviral therapy:ART)が開始された.4月に陰茎亀頭部の色素沈着を自覚し当科を受診した.亀頭から包皮にかけて,一部隆起した褐色の色素斑を認めた.病理組織学的所見は表皮の肥厚,極性の乱れ,核の大小不同を認めたが,異型性は乏しかった.生検凍結組織からDNAを抽出しPCR後のダイレクトシークエンスによりHPV-31型を同定しBowen様丘疹症と診断した.ARTを継続し,皮膚病変に対しては局所治療を行わず経過観察した.皮膚病変はやがて色素沈着のみとなり,再発はない.Bowen様丘疹症は時に自然消退もみられる比較的予後の良い疾患とされているが,AIDS合併例では病変の長期化や悪性化も指摘されている.ARTを継続することで病変が改善・消退した本症例の経過は,宿主の免疫力の回復により病変が排除されたと推測され興味深い.

臍部に生じた悪性黒色腫の1例

著者: 小俣渡 ,   堤田新 ,   並川健二郎 ,   大芦孝平 ,   山崎直也

ページ範囲:P.78 - P.82

要約 56歳,男性.2か月前から臍部腫瘤を自覚した.前医で切除され,悪性黒色腫の診断で紹介された.前医受診時の臨床像は臍部に生じた1.5×1.2cmの暗赤色腫瘤であった.病理組織学的に表皮内病変は明らかでなく,真皮内に核異型を伴うN/C比の高い類円形のHMB45陽性細胞の結節状増生を認めた.臍部腫瘤の鑑別としてSister Mary Joseph’s noduleを考え内臓悪性腫瘍の精査を行ったが異常所見はなかった.臍部原発悪性黒色腫と診断し,前医の手術創より2cm離し腹膜上で切除を行った.またRI・色素・蛍光法によるセンチネルリンパ節生検を施行し,両鼠径リンパ節に各1個ずつ転移を認めた.約1か月半後に両側鼠径リンパ節郭清術を行い,右鼠径リンパ節は18個,左鼠径リンパ節は16個摘出したが,いずれも転移を認めなかった.自験例では,臍部という特殊な部位に発生し,リンパ節転移をきたしたことが重要な点である.またリンパシンチグラフィーとSPECT-CT,ICG蛍光法を用いたセンチネルリンパ節生検がリンパ節の同定に有用であった.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

文献紹介 胎生期間葉系細胞凝集塊でのWnt/β-cateninシグナルが毛包形成に必要である

著者: 伊勢美咲

ページ範囲:P.56 - P.56

 毛包形成過程においては,毛盤(hair placode;HP)と呼ばれる表皮の肥厚部と間葉系細胞凝集塊(dermal condensates:DC)と呼ばれる真皮の細胞凝集部との間で起こるWnt/β-cateninシグナルを介した相互作用が重要とされている.マウス背部の毛は形成の時期と形態により3段階に分かれ,それぞれguard hair,awl/auchene hair,zigzag hairと呼ばれているが,Wnt/β-cateninシグナルは通常3段階すべてのHPとDCで活性化している.
 著者らは毛包形成の第一段階に相当する胎生期14.5日のDCでの毛乳頭前駆細胞特異的にβ-cateninの発現を阻害することでWnt/β-cateninシグナルを抑制するコンディショナルノックアウトマウスTbx18Cre/β-cateninfl/flを作成し,毛包形成の変化を検討した.Tbx18Cre/β-cateninfl/flマウスでは,背部の毛においてguard hairの形成が著しく阻害されたが,第2段階で形成されるawl/auchene hairや第3段階で形成されるzigzag hairの数は減少せず,毛の分化や増殖に関与する種々の遺伝子も正常に発現していた.その一方で,生後10日目のTbx18Cre/β-cateninfl/flマウスではすべての段階の毛が短くなっており,第1段階と第2,3段階の毛乳頭前駆細胞では抑制のされ方が異なることがわかった.

文献紹介 デュピルマブの好酸球増多を伴う喘息患者への有効性

著者: 野村尚志

ページ範囲:P.73 - P.73

 アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー性疾患ではTh2細胞が病態に密接に関わっている.Th2細胞はB細胞や好酸球,好塩基球に働きかけさまざまなアレルギー反応を引き起こすが,その際,サイトカインであるIL-4とIL-13が重要な働きを担っている.本論文ではIL-4受容体αサブユニットの阻害剤で,IL-4とIL-13の働きをともにおさえるデュピルマブ(dupilumab)の中等度から重症の喘息患者に対する効果を,ランダム化二重盲検プラセボ対照試験にて評価している.
 対象は,ステロイド吸入薬と持続性β刺激薬にて治療中の中等度〜重症の好酸球増多を伴う喘息患者で,平均年齢は約40歳,血中TARC,IgE高値,プラセボ投与群とデュピルマブ投与群へ各52名ずつ無作為に振り分けられた.薬剤投与のプロトコールはデュピルマブあるいはプラセボを,週に1回,計12週間皮下に投与し,最初の4週間はステロイド吸入薬と持続性β刺激薬を併用し,その後の4週間はβ刺激薬を中止しステロイド吸入薬の漸減,そして最後の4週間ではデュピルマブあるいはプラセボ単独投与で加療するというものであった.結果はプラセボ投与群では試験期間中に44%の症例で喘息の増悪が認められたのに対し,デュピルマブ投与群では6%に抑えられた.気道閉塞の指標(FEV1:1秒率),喘息の重症度スコア(ACQ5)についてもデュピルマブ群で有意に改善を認めた.血中TARC値,IgE値もプラセボ群では不変であったが,デュピルマブ群で低下を認めた.このようにデュピルマブが喘息の臨床症状を改善し,血中のTh2関連バイオマーカーを低下させることが確認された.副作用はプラセボ群,デュピルマブ群とも対象者の約8割でみられたが概して軽微なものであった.投与部の皮膚反応や鼻咽頭炎,嘔気,頭痛がデュピルマブ投与群でより多い傾向にあった.重篤な副作用はプラセボ投与群で3例(気胸,足関節骨折,喘息の増悪)であり,デュピルマブ群で1例(双極性障害の増悪)であったが,薬剤との関連性はいずれもないと判断された.このようにデュピルマブの喘息に対する有効性が示され,プラセボと比較しても安全に使用できる可能性が示唆された.

お知らせ 第8回インターネット皮膚病理診断検討会

ページ範囲:P.82 - P.82

開催期間 2015年1月14日(水)〜2015年3月4日(水)
開催スケジュール 参加者のみなさまから演題を募集し,web上でCPCを開催します.
         1.参加登録
         2.症例供覧と診断名投稿 2015年1月14日(水)〜2月4日(水)
         3.powerpointスライド公開と掲示板でのディスカッション 2015年2月4日(水)〜2月25日(水)
         4.座長によるとりまとめ 2015年2月25日(水)〜3月4日(水)

次号予告

ページ範囲:P.83 - P.83

投稿規定

ページ範囲:P.84 - P.85

あとがき

著者: 戸倉新樹

ページ範囲:P.86 - P.86

 学会での一般演題を聴いていると,しばしば略語を多用する発表に出会う.AD,SCC,BCC,MM,XP,MCTD,LSA(LS),LMDF,DIHS,SJS,AGEP,ALCL,DSAP,CPD,AEGCG,MPNST,DSH,EDS等々である.これらはまだ良いが,erythema elevatum diutinumをEEDと言ったり,erythema dyschromicum perstansをEDPと連呼されると抵抗を覚える.これらの病名は早口でもいいからフルに呼んでほしい.欧米人の発表を聴いていると,長くてもできるだけフルネームで発表する.病名に親しんで覚えるためにいいばかりでなく,耳に心地いい.新人がフルネームを満足に言えない気配を漂わせ,原稿を読みながら略語を発するのは何とも心もとない.フルネームで呼称し,原稿を諳んじての発表は,素晴らしく,また清々しい.
 とは言え,AIDS,SARSなど気の利いた略語はそのまま使われる.最近,HTLV-1感染による苔癬型組織反応を呈する疾患群を提唱するために,略語になる名称を考えた.HTLV-1-associated lichenoid dermatitis,これはHALD(ホールド)と略せる.HAM(HTLV-1-associated myelopathy)との呼応も良い.果たしてコンセプトとともに市民権を獲得できるであろうか.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?