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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科69巻10号

2015年09月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・97

Q考えられる疾患は何か?

著者: 橋本喜夫

ページ範囲:P.717 - P.718

症例
患 者:30歳,女性
主 訴:消長を繰り返す膨疹と,両前腕,両下腿の限局性浮腫
既往歴:授乳中
家族歴:特記すべき事項なし.
現病歴:初診の1か月前,特に誘因なく両側前腕,下腿の浮腫が出現し,膨疹の出現も繰り返したため,当院内科を受診したが,内科的異常所見はなく,当科へ紹介された.
現 症:両前腕から,手,両下腿に著明な指圧痕を残さない浮腫を認めた(図1).内科初診後から当科初診までの1週間の間に体重が3kg増加していた.発熱,関節痛は認めなかった.

マイオピニオン

脱毛症外来の今

著者: 伊藤泰介

ページ範囲:P.720 - P.721

はじめに
 脱毛症診療の問題点はいくつかある.1つは脱毛症専門外来が少ないことである.有名どころの脱毛症外来は全国的に限られている.そのため患者さんが全国各地から駆けつけてくる事態となっている.2つ目は,円形脱毛症診療ガイドラインで最も推奨されている局所免疫療法で使用されるsquaric acid dibtylester(SADBE)やdiphenylcyclopropenone(DPCP)が医薬品ではないことである.この治療法は今から30年以上も前に米国で報告された論文に始まり,いまだ最も有効性が高いとされる方法である.3つ目は脱毛症状に対する精神的な苦痛,QOLの低下に対する社会の理解が低いことへの対応である.これら問題点について順を追って解説してみたい.

今月の症例

Mycobacterium mageritenseによる皮膚感染症の1例

著者: 丸山涼子 ,   松山麻子 ,   株本武範 ,   田邊嘉也 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.722 - P.726

要約 52歳,女性.特に外傷等の既往なく,右臀部に25×25mm大の皮下結節と,小瘻孔が出現した.瘻孔からの滲出液の抗酸菌塗抹検査では,ガフキー1号であった.国立結核予防会結核研究所に菌種の同定を依頼し,Mycobacterium mageritenseと判明した.臀部の皮下結節は筋膜直上まで切除し,全層植皮術を施行した.しかし,病理組織学的に切除断端にて抗酸菌を認めたため,クラリスロマイシン800mg分2とレボフロキサシン500mg分2の内服を半年間行った.その後,右臀部に再発はなく,他病変にも新生していない.M. mageritenseは非常に稀な非結核性抗酸菌であるとともに,菌種の同定も難しく,本邦の感染報告例は少ない.調べえた限り皮膚科領域での報告は自験例が1例目とみられる.積極的に菌種の同定を行い,M. mageritenseについての皮膚感染症例を蓄積し,治療法などを確立する必要があると思われた.

症例報告

産後に右1趾爪甲が埋没した陥入爪の1例

著者: 佐藤隆亮 ,   菊池剛彰 ,   前田文彦 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.727 - P.729

要約 34歳,女性,第一子産後2か月.妊娠前から陥入爪,爪囲肉芽を繰り返していた.近医で爪の斜め切り・抜爪を繰り返していたが,施術後の処置指導や定期通院の指示はなかった.妊娠,産前産後のため通院困難な時期に自分で同様の処置を繰り返しているうちに疼痛を伴ったため来院した.初診時第1趾全体が皮膚に覆われ爪甲は目視できず趾尖に潰瘍がみられた.切開すると爪甲が確認され感染を伴っていため全抜爪した.術後は健全な爪甲の伸長を図るため後爪郭の圧迫,趾尖・側爪郭の隆起予防の処置指導を行い良好な爪甲伸長を得た.妊娠出産に伴う過剰肉芽形成が特異な臨床像を呈する原因になったと考えた.また,陥入爪の治療は処置手技のみではなく術後の処置法および患者への指導が重要と考えた.

Piezogenic pedal papulesの3例

著者: 椎谷千尋 ,   夏賀健 ,   泉健太郎 ,   青柳哲 ,   清水宏

ページ範囲:P.731 - P.734

要約 症例1:28歳,女性.主訴は両踵部の有痛性丘疹.初診の2年前から,両踵部の丘疹を自覚した.丘疹の数が増加し,疼痛を伴うようになり,受診した.立位時,両踵部内側に7〜8mm大で正常皮膚色の軟らかい丘疹を10個程度認めた.座位で丘疹は消失した.症例2:19歳,男性.主訴は両踵部の有痛性丘疹.数年前から両踵部に疼痛を自覚していた.足底の圧迫により出現する,両踵部内側に正常皮膚色の丘疹を10個程度認めた.圧迫解除によって皮疹は消失した.症例3:46歳,女性.主訴は両踵部の有痛性丘疹.20歳台から両踵部に皮疹を自覚していた.疼痛を伴うようになり,受診した.両踵部内側に正常皮膚色の丘疹が散在していた.皮疹は立位で誘発され,座位で消失した.いずれの症例もpiezogenic pedal papulesと診断し,経過観察とした.本疾患は日常的に遭遇するものであり,無用な侵襲的検査を避けるためにも,疾患を広く周知することが重要である.

Erdheim-Chester病と考えられた1例

著者: 有波浩 ,   会沢敦子 ,   株本武範 ,   藤原浩 ,   伊藤雅章 ,   生越章 ,   和泉大輔 ,   松永佐澄志

ページ範囲:P.735 - P.741

要約 57歳,男性.1年前より前頭部に小丘疹が多発し,徐々に上眼瞼や頰部に拡大した.近医で外用加療されたが改善なく,当科を紹介された.皮膚生検病理組織像では,サルコイドーシスが疑われ,全身検索を行ったが,他の病変は認められなかった.その後,顔面の皮疹は消褪していったが,胸部や上腕に皮疹が拡大した.約2年後,中枢性尿崩症,長管骨病変が出現した.再度の皮膚生検では,真皮の浅層にスリガラス状で好酸性の細胞質を有する組織球が浸潤し,それらは免疫染色でCD68陽性,S100蛋白陰性,CD1a陰性であった.臨床症状と合わせ,Erdheim-Chester病と考えた.初診時の病理組織では,CD68陽性,CD1a陰性だったが,S100蛋白陽性の細胞も認めた.過去の報告で,Langerhans細胞組織球症の先行例や合併例があるが,自験例でもその可能性を考えた.

経過中に小球性貧血をきたした低亜鉛母乳による亜鉛欠乏症の1例

著者: 長谷川道子 ,   田村敦志 ,   前田昇三

ページ範囲:P.742 - P.745

要約 5か月,男児.正期産,2,988gで出生し,完全母乳哺育であった.生後4か月頃から耳介,口囲に皮疹が出現した.初診時,眼・鼻・口周囲に連圏状の紅斑と,陰囊・会陰・肛囲のびらんがみられた.血清中のアルカリホスファターゼと亜鉛値が低下していた.母親の血清亜鉛値は正常で,母乳中の亜鉛値に低下がみられ,低亜鉛母乳による亜鉛欠乏症と診断した.ポラプレジング内服で皮疹は速やかに改善したが,治療中に小球性貧血が出現した.鉄剤投与により改善した経過から,離乳期貧血や亜鉛投与による鉄欠乏性貧血が複合していた可能性が考えられた.

ナローバンドUVB療法が奏効した小児の苔癬状粃糠疹の1例

著者: 濱井公平 ,   野村尚志 ,   松井美萌

ページ範囲:P.746 - P.750

要約 7歳,女児.1年前から臀部を中心に皮疹を認めていたが,1か月前から増悪し,拡大傾向にあったため当科を受診した.臀部と腹部に暗紅色調の紅斑や丘疹が広がっており,急性痘瘡状苔癬状粃糠疹(pityriasis lichenoides et varioliformis acuta:PLEVA)などを疑って,皮膚生検を施行した.病理組織像では,PLEVAに特異的な所見に乏しかったが,潰瘍,痂皮を伴う皮膚所見や,急性増悪傾向にある臨床経過を総合的に考慮して,PLEVAと考え,ステロイド外用,エリスロマイシンを内服して加療を開始した.しかし皮疹の改善に乏しかったため,1週間に2回の割合でナローバンドUVB療法を併用したところ,皮疹は著明に改善した.本疾患において,ナローバンドUVB療法が有効であると考えた.特に,小児例においては,重篤な副作用の報告がなく,皮膚癌発症のリスクに影響しないという研究報告もあり,積極的に施行されるべきと考えた.

左臀部に生じたnodular-cystic fat necrosisの1例

著者: 井上温子 ,   戎谷昭吾 ,   長島史明 ,   木村知己 ,   赤松誠之 ,   山崎由佳 ,   稲川喜一

ページ範囲:P.751 - P.754

要約 75歳,女性.外傷などの誘因なく10年前から左臀部表面に腫瘤があった.最近になり,腫瘤上に潰瘍を形成したため当科を受診した.当科初診時,直径約50mmの弾性硬で境界不明瞭な腫瘤を認め,下床との癒合は認められなかった.臨床所見,画像所見では診断がつかず,外科的切除を行った.病理組織学的に,厚い硝子化した線維性の被膜に包まれた結節状の病変であり,核のない壊死した脂肪細胞で構成されていた.腫瘍性病変を疑う所見は認めず,nodular-cystic fat necrosisと診断した.臀部に発生した報告は,われわれが検索しえた限りでは本邦4例目であり,最大の病変であった.

両下肢に結節性紅斑様皮疹が多発したSweet病の1例

著者: 花岡佑真 ,   松井佐起 ,   福山國太郎

ページ範囲:P.755 - P.759

要約 58歳,女性.1週間以上持続する発熱と両下肢に多発する紅斑を主訴に受診した.掌蹠膿疱症の既往がある.左下眼瞼に大豆大の膿疱を伴う浮腫性紅斑や下口唇のアフタがあり,両下肢には境界不鮮明な母指頭大までの浸潤触れる暗紅色紅斑が多発し,一部毛孔一致性膿疱を伴っていた.大腿の浸潤性紅斑の病理組織像は好中球主体の毛包周囲炎と隔壁性脂肪織炎であった.臨床経過も踏まえSweet病と診断し,コルヒチン内服を開始したところ,速やかに解熱し紅斑も消退した.自験例は両下肢に結節性紅斑様皮疹が多発し,Behçet病様の皮膚症状を呈したSweet病であった.Sweet病とBehçet病は独立疾患であるが,好中球機能亢進という共通の病態があるため,共通の症状や検査所見を持つが,合併症や治療・経過は異なる.典型疹と結節性紅斑などが混在する場合,いずれかの疾患として一元的に捉えるか,あるいは合併と考えるべきか注意深く診断する必要がある.

Intravascular large B-cell lymphomaの2例—皮膚所見と生検のポイント

著者: 三友貴代 ,   堀江千穂 ,   倉田麻衣子 ,   福田知雄 ,   平田彩 ,   蘇原慧伶 ,   皿谷健 ,   石井晴之 ,   滝澤始

ページ範囲:P.761 - P.766

要約 症例1:82歳,男性.1年半前より下腿に浸潤を触れる紅斑の出没を繰り返していた.今回,プレドニゾロン中止後39℃台の発熱,下半身優位の浮腫が出現し,精査加療目的に当科を紹介受診した.皮膚生検病理組織像からintravascular large B-cell lymphoma(IVL)と診断した.症例2:59歳,男性.4か月前より発熱,呼吸器症状が出現.近医で抗生剤,メチルプレドニゾロンを投与されたが軽快せず,当院呼吸器内科を紹介され受診した.経気管支肺生検,ランダム皮膚生検の結果,IVLと診断した.本症は診断確定には生検が必須である.本邦報告例の多くは骨髄生検で診断確定されてきたが,近年,皮膚生検の有用性が注目されている.今回われわれは過去の報告例をまとめ検討した結果,生検採取部位は皮疹部からが優先されること,皮疹のない症例では皮下脂肪織を十分に含む深さで,3か所以上ランダム皮膚生検することが重要であると考えた.

大量免疫グロブリン静注療法の併用によりステロイドを減量しえた天疱瘡の2例

著者: 遠藤千尋 ,   常深祐一郎 ,   五十嵐麻貴 ,   川島眞

ページ範囲:P.767 - P.772

要約 症例1:19歳,男性.初診の2か月前より口腔内にびらんが多発し,増数した.粘膜型尋常性天疱瘡の診断でプレドニゾロン(PSL)50mg/日投与を開始したが,PSL減量にてびらんが再燃したためステロイド減量困難例と判断し,大量免疫グロブリン静注(intravenous immunoglobulin:IVIG)療法を併用したところPSLを順調に減量できた.症例2:76歳,男性.初診2か月前より顔面,軀幹,四肢にびらんを伴う紅斑が多発し増数した.落葉状天疱瘡の診断でPSL 40mg/日投与を開始したがびらんと紅斑の新生が続いた.高齢であり,心筋梗塞,高血圧の既往があるためステロイド増量はせずにIVIG療法を併用したところ,ステロイドを順調に減量できた.ステロイド減量困難例や,ステロイド長期投与による合併症の危険性が高い天疱瘡の症例にIVIG療法の併用は有用である.

ボルテゾミブによる汎発性帯状疱疹の1例

著者: 西坂尚大 ,   米田明弘 ,   井山諭 ,   山下利春

ページ範囲:P.773 - P.776

要約 59歳,男性.多発性骨髄腫治療のためボルテゾミブを投与された後,体幹に紅色丘疹型薬疹を発症した.ジフルプレドナート軟膏を外用し,速やかに皮疹は消失した.その後,右胸部に集簇する紅暈を伴う水疱と全身に播種性に散在する同様の小水疱が出現した.皮疹と経過より汎発性帯状疱疹と診断した.採血上,VZV-IgMは著変はなかったが,VZV-IgGは4.6から35.2と増加した.皮膚生検病理組織像の結果もVZV感染に矛盾しない所見が得られた.バラシクロビル内服を開始し,速やかに水疱は痂皮化した.ボルテゾミブも多発性骨髄腫も細胞性免疫能を低下させる.それらを念頭に置いて皮疹を観察することによって自験例のように少数の水疱からでも汎発性帯状疱疹と診断することができる.ボルテゾミブと多発性骨髄腫の疾患の性質を理解することは,その治療経過中に細胞性免疫能低下によって引き起こされる合併症を早期かつ的確に診断する上で重要であると考える.

粘膜症状を強く認めたMycoplasma感染によるStevens-Johnson症候群の2例

著者: 倉田麻衣子 ,   平原和久 ,   五味方樹 ,   狩野葉子 ,   塩原哲夫

ページ範囲:P.777 - P.781

要約 症例1:33歳,男性.ボルタレン®を1日間内服し,発熱と粘膜疹が出現した.皮疹は認めないが,角膜びらんや偽膜形成があり,Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)に準ずる状態と考えた.全身ステロイド投与にて,口腔粘膜疹は軽快したが,後遺症としてドライアイを認めた.Mycoplasma抗体価は有意に変動したが,薬剤リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)でもボルタレン®が陽性になった.症例2:59歳,男性.ロキソプロフェン®を4日間内服し,びらんを伴う紅斑と粘膜疹が出現した.口唇の血痂と眼球結膜に偽膜形成がみられ,SJSと診断し,全身ステロイド投与にて,軽快した.Mycoplasma抗体価が有意に変動する一方,DLSTでロキソプロフェン®が陽性になった.Mycoplasma感染によるSJSは,粘膜症状が特に強い傾向があり,粘膜症状主体のSJS症例では,Mycoplasma感染と薬剤の関与を疑い,抗体価の変動に加え使用した薬剤のDLSTを並行して行う必要がある.

BCG接種後に生じた腋窩リンパ節腫大に対して摘出術を施行した2例

著者: 三井田博 ,   相澤悠太 ,   大石智洋

ページ範囲:P.783 - P.788

要約 症例1:10か月,女児.BCG接種後に左腋窩に皮下結節が出現し,自潰,排膿がみられた.症例2:10か月,女児.同様に皮下結節が出現し,自壊,排膿はみられなかったが残存した.症例1は発症後5か月目に,症例2は3か月目に残存した皮下結節を全身麻酔下に全摘した.いずれも病理組織学的にリンパ節内に壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫を確認でき,症例2では検体から抗酸菌培養とPCRでMycobacterium tuberculosis complexと確認された.2例とも抗結核剤の投与は行わずとも再発はなく,術創部の感染や離開などの術後合併症も生じなかった.乳児のBCGの副反応の腋窩リンパ節腫大は,大半の症例では2か月程度で自然消退するとされるが,時に自壊・排膿したり,長期に残存する例もあるため,2〜3か月程度は経過観察を行い,それでもなお消退しない場合,全身麻酔が可能であれば,外科的摘出術も選択肢の1つとしてよいと思われた.

治療

生物学的製剤を用いた乾癬性関節炎治療における関節超音波検査の有用性について

著者: 橋本由起 ,   高木賢治 ,   窪田綾子 ,   石河晃

ページ範囲:P.789 - P.795

要約 41歳,男性と45歳,男性の乾癬性関節炎に対してアダリムマブ80mgを導入した.72歳,女性,当院整形外科で乾癬性関節炎と診断の下,当科に紹介され,ウステキヌマブ45mgを導入した.全症例で皮疹と関節症状は改善した.乾癬性関節炎の画像的評価として,全例生物学的製剤による治療前後で経時的に関節超音波検査(関節US)を行い,乾癬性関節炎に対する関節USの有用性を検討した.全例でMMP-3,DAS28CRP,DAS28ESRの改善とともに関節US所見は著明に改善した.関節USは他の疾患活動性指標よりも,関節炎の臨床症状の変化を鋭敏に反映していた.生物学的製剤の導入により乾癬性関節炎の関節破壊進展抑制が治療目標となった現在,客観的かつ正確な疾患活動性評価をするために関節USは有用と考えられた.

印象記

第114回日本皮膚科学会総会印象記

著者: 梅澤慶紀

ページ範囲:P.798 - P.800

 第114回日本皮膚科学会総会は2015年5月29日(金)〜31日(日)にパシフィコ横浜にて,和歌山県立医科大学皮膚科学教室 古川福実教授が会頭として主催された.学会のテーマは「Derma Dream」すなわち「皮膚科の夢」.このテーマは和歌山県立医科大学皮膚科学教室のテーマでもあり,教育,臨床,地域医療,研究において患者,学生,医師,医療関係者,地域住民などにとって最も大切なdreamを実現に向かって努力する,ということで選んだそうである(図1).
 本総会の特徴として,各教育講演のテーマの名付け方が非常にすばらしく,古川先生らしさを感じた.例えば,光線過敏症に関しては,「目指せ!光線過敏症マイスター」,母斑症では,「解りやすい母斑・母斑症」,真菌症では,「輝け!皮膚真菌症診療」と,普段,興味がわかないような分野や,ちょっとハードルが高いかな…と思うような分野であっても,こういった「目指せ!」「解りやすい」「輝け!」といった言葉が付くと「よーし,参加しよう!」という気になる.

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欧文目次

ページ範囲:P.715 - P.715

文献紹介 胸腺由来の制御性T細胞が腸内細菌に対する免疫寛容に貢献している

著者: 入來景悟

ページ範囲:P.741 - P.741

 制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)は自己免疫性疾患の発症の抑制,過度な炎症の抑制を生体内で行っているとされているT細胞である.Tregには胸腺において前駆細胞からの成熟段階で分化するthymic Tregと,末梢組織においてナイーブT細胞から分化するinduced Tregが存在するとされている.これまで胸腺におけるthymic Tregの分化には自己抗原のみが関与すると考えられていたが,本論文ではこの分化に外来抗原である腸内細菌が関与している可能性を示している.
 はじめに,T細胞受容体(T cell receptor:TCR)のβ鎖を固定したTCRminiマウスを用いて,胸腺,腸管および所属リンパ節のT細胞を比較した.TCRは通常その多様性を得るためにα鎖とβ鎖がどちらも可変的であり,認識抗原を解析することは困難であるが,このマウスではβ鎖が固定されているため,α鎖の配列のみを網羅的に解析することでTCRのレパートリーを統計学的に検討しうる.その結果,腸管のTregはナイーブT細胞を含む腸管のT細胞とではなく,胸腺のTregと類似したレパートリーを持っていた.このことから腸内細菌に対するTregは,腸管においてナイーブT細胞から分化したinduced Tregではなく,thymic Tregが分布したものであることが示唆された.次に,抗生剤投与により腸内細菌を変化させたところ,抗生剤投与後に胸腺と腸管に共通したパターンでTregのレパートリーが変化し,腸内細菌の変化が胸腺のTregに影響を与えることを示した.さらに,大腸のTregからハイブリドーマを作成し,その中から実際に腸内細菌と反応するクローンのTCR配列を解析した.このTCR配列を持つTregが胸腺にも存在することを確認し,胸腺と腸管のTregが腸内細菌に反応するクローンを共有していることを示した.以上より,腸内細菌抗原に対する免疫寛容は胸腺ですでに分化したthymic Tregに担われ,その認識抗原は腸内細菌の変化に影響される可能性が示された.

文献紹介 腫瘍周囲間質に浸潤する炎症細胞浸潤が乏しいメラノーマは,Ⅰ型インターフェロンの分泌を増加させてPD-L1/PD-1による免疫抑制作用を阻害することで予後が改善する

著者: 崎山とも

ページ範囲:P.759 - P.759

 メラノーマは腫瘍周囲間質に浸潤する炎症細胞浸潤が多いほど予後が良い傾向がある.著者らはメラノーマ検体の発現遺伝子解析により,炎症浸潤細胞が多い症例では少ないものに比べてⅠ型インターフェロン(IFN)刺激に応答する遺伝子の発現が高いことを示した.このような炎症細胞浸潤が多い症例ではPD-1を阻害する治療を行うことでさらに延命効果が認められるが,少ない症例は予後が不良である上に抗腫瘍免疫を活性化させる方法もまだ見つかっていない.そこで,著者らはT細胞による免疫監視機構を逃れて炎症細胞浸潤の少ないメラノーマを発生するHgf-Cdk4R24Cマウスに発生したメラノーマを用いて抗腫瘍免疫がⅠ型IFNによって活性化するかを検討した.
 Hgf-Cdk4R24Cに発生したメラノーマの周囲にⅠ型IFNの分泌を促進する合成dsDNAであるpoly(Ⅰ:C)を局注すると,Ⅰ型IFNに関わる遺伝子が発現するのとともに腫瘍細胞周囲の炎症細胞浸潤が増加し,マウスの生存期間も延長した.一方,Ⅰ型IFNを欠損したHgf-Cdk4R24Cにおいては予後の改善が認められなかった.続いて,Hgf-Cdk4R24Cより発生したメラノーマ細胞株HCmel3をRag-2がノックアウトされたC57BL/6マウスに移植するxenograftモデルで同様の検討を行った.通常のC57BL/6においてはpoly(Ⅰ:C)局注にて抗腫瘍効果が得られたが,Ⅰ型IFNを欠損したC57BL/6では予後の改善を認めなかった.さらに,マクロファージ,NK細胞,リンパ球などの各種免疫細胞特異的にⅠ型IFNが欠損したC57BL/6で行った検討でもそれぞれ治療効果が減弱した.以上の結果より,炎症細胞浸潤の乏しいメラノーマでも,免疫賦活性RNAを腫瘍周囲に局注することで樹状細胞,骨髄細胞,NK細胞,T細胞によってⅠ型IFNの分泌が増加し,腫瘍の増殖抑制が得られる可能性が示された.続いて,同様のxenograftモデルでpoly(Ⅰ:C)の局注と同時に抗腫瘍免疫を阻害する抗CD8抗体,抗NK1.1抗体,抗IFNγ抗体を投与した.いずれも治療効果が減弱し,抗IFNγ抗体群では治療効果が完全に消失した.逆に,poly(Ⅰ:C)と抗PD-1抗体をともに投与した際には,poly(Ⅰ:C)単独治療のときよりもより長い延命効果が得られた.

書評 —編:日本皮膚科学会—実践! 皮膚病理道場 バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍—[Web付録付]

著者: 田中勝

ページ範囲:P.782 - P.782

 日本皮膚科学会の編集による,まったく新しいタイプの皮膚病理入門のための貴重な1冊がついに出た!
 各章の執筆者が,現在,皮膚病理診断の中心で活躍している経験豊富な6名,最も頼れる皮膚病理指導医たちである.したがって,全ての章が必要最小限の簡潔で明快な記述で構成されており,病理診断のポイントがとてもわかりやすい.なんと贅沢な本であろうか.

書評 —著:大原 國章—大原アトラス2 皮膚付属器腫瘍

著者: 玉田康彦

ページ範囲:P.797 - P.797

 本書は皮膚付属器腫瘍全般に渉って網羅されており,臨床と組織を対応させてわかりやすく解説されている.さらに他科領域の病変(部位特異的)や内臓癌の皮膚転移まで言及され,筆者の臨症経験の豊富さが窺われる.
 序論のなかで筆者は「臨床情報からどこまで診断に迫れるかその訓練を常に行っていれば,いつか必ず良い報いがあります」と述べられており,問診,視診や触診の重要性が強調されている.そしてそれぞれの項目に特徴的な疾患群が記載され,本書ぺージも併記されているので見やすくて便利である.さらにダーモスコピーや超音波の画像を駆使して臨床診断を導きだす手順を詳しく教示してくれている.

次号予告

ページ範囲:P.801 - P.801

あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.804 - P.804

 私ごとですが,本年3月をもって大学を定年退職いたしました.大学卒業(1975年)後教室に40年間所属し,教授としては23年9か月勤めました.今は,市中病院で皮膚科診療を主にしています.大学を去ると「仕事」の3/4が突然消滅して,宙に浮いているような思いです.教授室を片付けたところ,論文別刷が膨大な量になっていて,わずかを残してその大部分を処分して,大変でした.昔は別刷ができると人に配ったり,別刷請求に応じて送ったりしていたのですが,最近は別刷請求もなく,私もそうしていますがwebで検索すれば簡単にその論文を見れますし,自分でも電子化してキープすれば良いわけです.本誌もかなり以前,論文初頁の欄外の「別刷請求先」の記載をやめて,「論文責任者」を載せるようになりました.今後は,印刷された別刷ではなく,PDFファイルのみで良いと思いますが,著作権などの問題は検討する必要があると思います.しかしながら,自分の論文でも,古い別刷を開いてみると,当時のことが思い出されて懐かしく,また,自分でかなり良い電顕写真を撮っていたなどと感心したりして,良いこともあるものです.今や,自分は,視力も低下して,電顕のコツもかなり忘れてしまい,同じことをできませんが,皮膚科では形態学が不可欠ですので,今後も若い皮膚科医の方々には電顕に挑戦していただきたいと思います.実は,電顕を観ていると光顕レベルの理解も容易に深まるものです.さて,話は変わりますが,「論文責任者」とは何かと言うと,英文誌の“corresponding author”のことですが,投稿論文ではしばしば初めて論文を書いたとみられる若い著者の名前になっています.それを編集委員会で勝手に修正することはできませんが,本誌が意図していますのは,無論,筆頭著者が相当する場合も多いものの,まだ研修途上にある若い筆頭著者の場合,指導医である共著者に論文作成の責任をもっていただき,「論文責任者」になっていただきたいのです.よろしくお願いします.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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