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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科69巻11号

2015年10月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・98

Q考えられる疾患は何か?

著者: 山元修

ページ範囲:P.811 - P.812

症例
患 者:69歳,女性
主 訴:右鼻唇溝部の腫瘤
既往歴:61歳時に甲状腺癌の手術
家族歴:特記すべきことはない.
現病歴:約30年前に右鼻唇溝部の小結節に気づいた.徐々に増大してきた.
初診時現症:右鼻唇溝部ほぼ中央に13×17×7mmのわずかに黄白色がかった淡紅色の広基性腫瘤が認められた(図1).表面は光沢,透明感があり,拡張した血管が透見された.中央はわずかに陥凹していた.硬さはプラスティック消しゴム様硬であった.ダーモスコピーでは蛇行状の拡張した血管がみられた(図2).

マイオピニオン

IgA天疱瘡は妥当な病名か?—Then and now

著者: 西川武二 ,   橋本隆

ページ範囲:P.814 - P.815

 はじめに
 最近,Gellerらは,非定型的な「IgA天疱瘡」と考えられる症例を経験し,彼らの渉猟した20例のIgA天疱瘡例を詳細と合わせ検討した結果,表皮細胞膜や基底膜部の種々の自己抗原に対するIgAクラスの自己抗体を有する非定型症例をも包括する病名として「IgA天疱瘡スペクトルム(IgA pemphigus spectrum:IGAP spectrum)」を提唱した1).要はBeutnerらにより命名されたIgA天疱瘡2)をさらに拡大解釈して使いやすくしたらという提案である.
 私たちは,1980年代から,このIgA抗表皮細胞膜部自己抗体を有し,臨床的に角層下膿疱症(subcorneal pustular dermatosis:SPD),落葉状天疱瘡(pemphigus foliaceus:PF)などに似た皮膚症状を示す患者群について,国内外の症例を集積するとともに,自己抗体・自己抗原の検討を続けてきた3〜6).本疾患群の本態を追求する研究者も研究手技も時の流れとともに変わってきている.そこでIgA天疱瘡が「天疱瘡」か否かについて現時点での私たちの考えをもう一度改めて述べてみたい.なお,このトピックについての見解はBr J DermatolにもCorrespondenceとして掲載される7).あわせて読者の参考となればと考える.

症例報告

ステロイドとロキシスロマイシンを併用した好中球性皮膚症の1例

著者: 安見真希 ,   和田誠 ,   金久史尚 ,   貫野賢 ,   浅井純 ,   花田圭司 ,   加藤則人

ページ範囲:P.816 - P.820

要約 64歳,女性.頸部リンパ節炎の精査中であった2009年10月中頃より,左下腿および両手掌から手背にかけて自覚症状を伴わない紅斑が出現した.徐々に同部位に膿疱が出現したため,2009年11月初旬に当科を受診した.病理組織学的に角層下膿疱と表皮の海綿状態を認め,真皮上層から皮下組織にかけて好中球を中心とした炎症細胞浸潤を認めた.蛍光抗体直接法で免疫グロブリンと補体の沈着は認めなかった.ステロイド外用でいったん軽快したが,2010年2月から4月にかけて皮疹の再燃と軽快を繰り返した.末梢血中好中球の増多とともに,皮疹が増悪していたが,ロキシスロマイシンの内服を開始したところ皮疹の再燃はなくなった.ロキシスロマイシンの抗炎症作用は近年注目されているが,好中球性皮膚症に対してはロキシスロマイシンの使用例の報告は少ない.ロキシスロマイシンの併用が好中球性皮膚症に対して有効な治療法の1つと考えられた.

サイトメガロウイルス食道炎を併発した高齢の落葉状天疱瘡の1例

著者: 福島彩乃 ,   森本亜里 ,   山上淳 ,   谷川瑛子 ,   大森泰 ,   林雄一郎 ,   天谷雅行

ページ範囲:P.821 - P.826

要約 79歳,男性.前医で落葉状天疱瘡と診断され,難治のため当科を紹介された.プレドニゾロン50mg/日とアザチオプリン100mg/日の内服,ステロイドパルス療法,血漿交換を行い病勢を制御した.その後,嚥下痛,胸痛,汎血球減少が出現し,経口摂取不能になった.内視鏡所見では食道粘膜全周に白苔を付すびらんが多発し,感染性食道炎や尋常性天疱瘡への移行による粘膜病変が考えられたが,内視鏡肉眼的所見のみでは鑑別が困難であった.血液検査でサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)アンチゲネミアが陽性化し,生検標本の免疫染色でCMV陽性細胞を認め,CMV食道炎と診断した.特に高齢の自己免疫疾患の治療に伴う免疫不全患者で嚥下痛をみた場合,CMV食道炎を疑う必要がある.水疱症と鑑別し,重篤化を防ぐために早期の内視鏡検査,病理組織検査と免疫染色による精査が重要である.

治療に難渋した抗BP180型粘膜類天疱瘡の1例

著者: 小野寺信江 ,   水芦政人 ,   萩原彰子 ,   加賀谷早織 ,   沼田郁子 ,   菊地克子 ,   相場節也 ,   古賀浩嗣 ,   橋本隆

ページ範囲:P.827 - P.830

要約 68歳,男性.2011年4月頃より口腔内にびらんが出現し,顔面や下肢にも時々水疱が出現するようになった.蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgG,IgAの沈着を認め,1M食塩水剝離ヒト皮膚を用いた蛍光抗体間接法ではIgAが表皮側に陽性であった.免疫ブロット法ではBP180C末端部位および120kDa LAD-1にIgG,IgAともに反応を示した.プレドニゾロンなどの内服では症状の改善がみられず,二重膜濾過血漿交換療法やシクロスポリン含嗽,γグロブリン大量療法を施行した.経過中に胸腰椎多発圧迫骨折,サイトメガロウイルス腸炎などを発症したためステロイドを漸減し,ジアフェニルスルホンを併用した.抗BP180型粘膜類天疱瘡のうち,IgG,IgAの両抗体を有するBP180/LAD-1のタイプは重症であるとの報告があることから,自験例は治療抵抗性を示したと考える.

腹痛を契機に発見された骨髄性プロトポルフィリン症の1例

著者: 浅見友梨 ,   清水真 ,   磯野公美 ,   唐沢卓生 ,   長瀬佳代 ,   嘉陽織江 ,   大野稔之 ,   瀧田晴加 ,   中野創

ページ範囲:P.831 - P.835

要約 10歳,男児.幼少期より光線曝露後に紅斑性皮疹を繰り返していた.2013年6月中旬頃,光線曝露後に顔面・手指の発赤・腫脹が出現し,その後腹痛・下痢・嘔吐が現れた.経口摂取不可となり,肝機能障害も出現したため入院した.鼻・頰を中心に紅斑を伴う萎縮性瘢痕と,口唇・耳介に痂皮を伴う紅斑を認め,両手背に色素沈着を伴う萎縮性瘢痕が多数みられた.赤血球中プロトポルフィリン高値,尿中コプロポルフィリン・ウロポルフィリン軽度高値を認め,骨髄性プロトポルフィリン症(erythopoietic protoporphyria:EPP)と診断した.自験例では前医にて慢性湿疹として治療されていた皮膚症状があり,腹痛・肝障害を合併したためにEPPと診断しえた.

ポリープ状(桑の実状)基底細胞癌の1例

著者: 齋藤京

ページ範囲:P.837 - P.840

要約 62歳,男性.右陰囊の桑の実状の有茎性腫瘍があり,ダーモスコピーで臨床的に凸の位置にspoke-wheel areaやleaf-like areaを,また,一部にarborizing vesselsを認めた.病理組織学的に基底細胞癌(basal cell carcinoma:BCC)と診断したが,表面の凸部分に一致して小腫瘍塊,それを多数認めるという特徴があった.有茎性BCCは稀だが,自験例はpolypoid BCCに相当する.腫瘍塊形成の際,収縮する力が時に皮膚から突出する力に転嫁されると仮定すると,多くの有茎性BCCは腫瘍全体が収縮して球状から茸状の臨床をとり,自験例は多発した小腫瘍塊が各々収縮して桑の実状を呈したと考えられた.

中年期の女性外陰部に生じたaggressive angiomyxomaの1例

著者: 西盛信幸 ,   稲冨徹 ,   高橋昌五 ,   天貝純郁 ,   木村久美子 ,   下田勝巳 ,   照井正

ページ範囲:P.841 - P.846

要約 46歳,女性.43歳頃から下腹部に赤色調の結節を自覚した.表面がびらんしてきたため2012年1月当科を受診.右大陰唇に11.1×14.5×12cmの表面にびらんを有する,弾性軟の光沢のある懸垂性腫瘤がみられた.病理組織学的に,真皮深層に血管増生を伴う粘液腫様間質内に,異型性を欠く紡錘形細胞が増生.腫瘍細胞と腫瘍周囲の健常部を含めた表皮でもestrogen receptor(ER),progesterone receptor(PR)が陽性であった.MRI上,腫瘤内部はT1強調で均一な低信号,T2強調で高信号を示した.以上よりaggressive angiomyxoma(AAM)と診断し,腫瘍より3cm外方で切除した.術後1年を経過し,再発はみられていない.大型のAAMは30〜40歳台に多く,特に巨大なものは女性ホルモン感受性を有する可能性が示唆される.また,発症年齢が明らかな13例中6例が40歳以上の発症であり,AAMは中年期以降の発症も稀ではない.局所再発が多いため,切除範囲についてデータの蓄積が必要である.

皮膚原発Ewing肉腫/primitive neuroectodermal tumorの1例

著者: 岩間英明 ,   菊地克子 ,   石原志乃 ,   三井英俊 ,   渡辺みか ,   綿貫宗則 ,   保坂正美 ,   相場節也

ページ範囲:P.847 - P.852

要約 29歳,男性.右腋窩の3か月前から急速に拡大する10cm大紫紅色ドーム状腫瘤を主訴に当科を受診した.病理組織学的にグリコーゲン顆粒を有するCD99陽性の小円形細胞腫瘍であった.EWSの遺伝子転座が確認されたため皮膚原発Ewing肉腫(Ewing sarcoma)/primitive neuroectodermal tumor(ES/PNET)と診断した.他臓器への転移は認めなかった.腫瘍広範切除術に化学療法,放射線療法を併用した集学的治療で加療した.術後半年の時点で,再発や転移は認めていない.皮膚原発ES/PNETは,骨原発ES/PNETや骨外性ES/PNETと性差や予後が違うことがわかってきているが,症例数が少ないため,現在は皮膚原発以外のES/PNETと同様の治療が行われている.皮膚原発ES/PNETに対してより侵襲の少ない固有の治療法の確立が必要と考えた.

同種骨髄移植を施行したSézary症候群の1例

著者: 南志乃 ,   高橋聡文 ,   白井昌江 ,   加藤威 ,   藤本徳毅 ,   中西健史 ,   南口仁志 ,   田中俊宏

ページ範囲:P.853 - P.858

要約 60歳台,男性.湿疹として加療を受けていたが改善を認めず,紅皮症となったため当院を紹介されて受診した.初診時の皮膚生検の病理組織検査では異型性は乏しかったが,末梢血のフローサイトメトリーを施行したところCD4陽性CD7陰性細胞の増加を認めたことから,異常なT細胞の増殖を疑った.末梢血と皮膚組織のサザンブロット法による遺伝子再構成検査を施行したところ,TCRCβ領域とJγ領域の再構成バンドを認めたため,Sézary症候群と診断した.局所療法と化学療法を含めた複数の治療に抵抗性で,本人の希望もあったことから,同種骨髄移植を施行した.しかし,経過中に肺炎を発症して敗血症から多臓器不全に至り,移植24日目に死亡した.移植を行う場合,効果の高い前処置の選択や移植前の治療反応性から適応を判断することが重要であると考えるが,Sézary症候群の移植症例は少なく,今後の症例集積が待たれる.

縦隔炎を併発した右坐骨褥瘡部のガス壊疽の1例

著者: 吉賀哲郎 ,   平島昌生

ページ範囲:P.859 - P.862

要約 66歳,男性.急性大動脈解離術後,脊髄梗塞による両下肢麻痺があり,右坐骨部に褥瘡を生じていたが放置していた.初診3日前より呂律困難,発熱,食欲低下を認め当科を受診した.初診時,右坐骨部に6×4cmの黄色壊死を伴う潰瘍を認め,血液検査で著明なCRPの上昇,CT上右坐骨褥瘡部皮下にガス像,頭部に多発する高吸収領域,前縦隔,椎体前膿瘍を認めた.褥瘡部培養からはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)が検出され,血液培養,縦隔からもMRSAが検出され,椎体前膿瘍からはMRSA,Enterococcus faecalisが検出された.褥瘡部感染に起因するガス壊疽,それに伴う縦隔炎,椎体前膿瘍の併発,炎症を契機とする凝固能異常に伴う二次的な脳出血と診断した.早期デブリードマンと適切な抗生剤投与,縦隔ドレナージによる集学的治療により救命しえた.症状の重症化を防ぐためには早期発見がきわめて重要となる.

皮膚リンパ管型Mycobacterium marinum感染症の1例

著者: 八木夏希 ,   中尾将治 ,   筒井清広 ,   力丸修

ページ範囲:P.863 - P.867

要約 46歳,男性.熱帯魚を飼育し,右手(素手)で水槽の清掃をしていた.初診4か月前,右4指に小結節が出現した.その後,右上肢に皮下硬結が多発した.初診時,右手背に波動触れる紅色結節,右前腕・上腕に多数の皮下硬結を認めた.皮膚病理組織像では,真皮中層から皮下組織にかけて膿瘍形成と,中心部に壊死を伴う類上皮肉芽腫がみられ,Ziehl-Neelsen染色で菌体が認められた.膿瘍および生検組織からの培養,およびDNA-DNA hybridizationによりMycobacterium marinum感染症と診断した.ミノサイクリン200mg/日を開始し,紅色結節は軽快したが,薬疹が出現したため投与31日目で中止し,レボフロキサシン500mg/日へ変更して投与149日で皮下硬結が消失した.治癒までに長期の薬剤投与期間を要したが,レボフロキサシン単剤治療はM. marinum感染症の有効な治療選択肢の1つと考えた.

Mycobacterium haemophilumによる皮膚非結核性抗酸菌症の1例

著者: 大橋理加 ,   谷冴香 ,   辻岡馨 ,   井上真一 ,   中永和枝 ,   石井則久

ページ範囲:P.868 - P.872

要約 73歳,女性.リウマチ性多発筋痛症に対しプレドニゾロン(7.5mg/日),メトトレキサート(12mg/週)などで治療中だった.初診の約3か月前から左手,左前腕の腫脹,疼痛が出現した.初診時左手指から前腕にかけて蜂巣炎様のびまん性暗赤色腫脹を呈し,皮下結節が手指,手背に数か所触知され,肘関節から上腕にも分布していた.関節症状,呼吸器症状は認めなかった.皮膚生検病理組織像では,皮下脂肪織周囲に多核巨細胞を伴う肉芽腫性病変を認め,脂肪組織の変性,線維化を伴っていた.Ziehl-Neelsen染色で組織中に抗酸菌が確認され,ヘミン添加7H11培地(30℃)での培養と遺伝子検索でMycobacterium haemophilumが同定された.リファンピシン450mg/日,クラリスロマイシン800mg/日,レボフロキサシン500mg/日の3剤併用療法を6か月間継続し,略治した.本菌は,免疫抑制状態にある患者に多様な皮膚病変を発症させ,至適培養条件も他の抗酸菌と異なり,診断が難しいので注意を要する.

形質細胞性包皮炎の1例

著者: 西本周平 ,   和田直子

ページ範囲:P.873 - P.876

要約 70歳,男性.陰茎背面に爪甲大の辺縁が堤防状隆起し,浸潤を伴う紅色びらん性病変が出現した.有棘細胞癌を疑い皮膚生検を施行した.病理組織学的には異型細胞を認めず真皮浅層の形質細胞とリンパ球からなる密な細胞浸潤があり,リンパ球優位の部位が多かった.扁平苔癬との鑑別を要したが,炎症細胞は表皮直下には及ばず液状変性がなく,真皮の毛細血管増生,真皮深層の血管周囲性に形質細胞主体の軽度の炎症細胞浸潤を認めることなどから,形質細胞性包皮炎と診断した.治療は外科的に切除した.形質細胞性包皮炎はQueyrat紅色肥厚症に類似した臨床像を呈し,また,組織学的に特に形質細胞浸潤の比較的少ない症例では扁平苔癬との異同が問題となるが,他の組織学的所見により鑑別は可能であると考えた.

臨床統計

当院で経験したマムシ咬傷34例の臨床的検討

著者: 井上久仁子 ,   谷川広紀 ,   井上真紀 ,   工藤恵理奈 ,   田上俊英 ,   牧野雄成

ページ範囲:P.877 - P.881

要約 2007〜2014年の7年間に当院を受診したマムシ咬傷34例(男性16例,女性18例)の臨床症状,検査値,経過について後ろ向き検討を行った.平均年齢は67歳,咬傷部位は手指が24例と最も多かった.腫脹の程度による分類では,Grade Ⅰ:4例,Grade Ⅱ:3例,Grade Ⅲ:3例,Grade Ⅳ:18例,Grade Ⅴ:6例であり,合併症として5例に外眼筋麻痺・複視を認めた.臨床症状による重症度分類と,検査値による重症度分類は相関関係を示した.抗毒素はGrade Ⅲ以上の計13例に使用した.Grade Ⅳ以上の重症例で抗毒素投与群と非投与群を比較すると,投与群ではCPK値が上昇している期間が有意に短く,入院期間は有意差はないものの短縮傾向であった.ステロイド投与は12例に行った.減張切開は15例に施行したが,入院期間,腫脹期間,疼痛期間が延長する傾向がみられた.

フットケア外来を受診した患者における糖尿病性足潰瘍の予防に関わる因子の検討

著者: 飯田秀之 ,   森戸啓統 ,   天内陽子 ,   長田真希 ,   多田英之 ,   浅田秀夫

ページ範囲:P.883 - P.886

要約 県立奈良病院皮膚科のフットケア外来を受診した糖尿病患者を対象にし,糖尿病性足潰瘍発症の危険因子および臨床的特徴について検討した.対象患者106例のうち足潰瘍合併例は14例であったが,フットケア外来を受診する以前に足潰瘍を発症している症例が12例と大半を占めていた.一方,フットケア外来通院中に足潰瘍を発症したのは14例中7例で,対象患者に占める割合は6.6%であった.この7例のうち足潰瘍の既往のある患者が6例を占めた.足潰瘍合併患者の下肢切断率は7.1%(1/14例)であった.また対象患者を足潰瘍合併群と非合併群の2群に分けて比較したところ,鶏眼・胼胝の合併率は足潰瘍合併群で有意に高率であった.以上より,糖尿病患者においては鶏眼・胼胝を伴う症例,足潰瘍既往例が糖尿病性足潰瘍のハイリスク症例と考えられ,これらの症例におけるフットケアの重要性を再認識した.

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欧文目次

ページ範囲:P.809 - P.809

文献紹介 悪性黒色腫に対するニボルマブとイピリムマブ併用療法の有効性

著者: 栗原佑一

ページ範囲:P.858 - P.858

 近年,悪性黒色腫の転移症例に対してニボルマブとイピリムマブの有効性が確認され,臨床の現場で広く用いられるようになってきている.ニボルマブは癌細胞とT細胞間における免疫チェックポイント機構であるPD-1蛋白質を阻害する抗体製剤であり,イピリムマブは抗腫瘍性に働く樹状細胞とT細胞間における免疫チェックポイント機構である抗CTLA-4抗体を阻害する抗体製剤である.これらの抗体製剤はNational Comprehensive Cancer Networkが出している2015年のガイドラインにおいても,切除不能な悪性黒色腫に対する第一選択として挙げられている.いずれの抗体製剤も単独で既存の化学療法と比較し有効な成績を示しているが,作用点が異なる両者を併用した場合の有効性を今回の臨床試験では検討している.
 切除不能で未治療のstage Ⅲ,Ⅳの悪性黒色腫患者142名を対象として,ニボルマブ/イピリムマブ併用群とイピリムマブ単剤群に分けランダム化二重盲検試験を行った.評価項目は客観的奏効率と無進行生存期間,安全性であった.

文献紹介 欧州人の典型的なブロンド髪がゲノム上の1塩基で制御されている1例

著者: 藤田春美

ページ範囲:P.876 - P.876

 ヒトにおいてわかりやすい多様性のある表現型の1つに毛髪色がある.近年,全ゲノム相関解析(genome-wide association studies:GWAS)にて色素制御に関する複数の候補領域が明らかにされたが,塩基変異の同定までには至っていなかった.
 KITLG遺伝子は生物の発生および細胞分化に必須であり,ヒトのみならず,マウスや魚の着色遺伝形質の制御に関わることが知られ,毛包では色素細胞の遊走や増殖を促す.マウスのオルソログ遺伝子であるKitlの発現量が低い系統では体毛の色素欠損,マスト細胞および造血系の異常を起こす.さらにヒトではKITLGの上流にあるSNP(rs12821256)が欧州,特に北欧人において置換頻度が高く,ブロンド髪色形質の決定に有意に関連することが判明していた.

書評 —著:福永 篤志 法律監修:稲葉 一人—トラブルに巻き込まれないための医事法の知識

著者: 古川俊治

ページ範囲:P.882 - P.882

 全国の第一審裁判所に提起される医療過誤訴訟の数をみると,1990年代から2004年にかけて急増し,その後は,同程度の数にとどまっている.しかし,訴訟には至らないかなりの割合の医事紛争が,当事者間の示談や各地の医師会などの機構を通じて,裁判外で解決処理されているため,実際に医事紛争数が減少しているのかどうかは明らかではない.1990年代からの医事紛争増加の理由として,医師数が増加して医療供給が量的に確保されたことによる患者数の増加,新薬・新技術の開発に伴う副作用や合併症の増加なども挙げられるが,第一の理由は医療に関する一般的知識が国民に普及し,患者の人権意識が高揚したことにある.このような患者の権利意識の伸張を背景に,近年の裁判所の考え方には大きな変化がみられ,近年の裁判例では,医療機関に要求される診療上の注意義務は厳しいものとなっている.
 それ以上に,仮に勝訴するにしても,患者からクレームを受けたり訴訟を提起されたりして,その対応に追われることは,病院・医療従事者にとって大きな時間的・精神的負担となる.何よりも,医事紛争を未然に防ぐ対策が,極めて重要である.医療事故や医事紛争は,それぞれの医療機関において,同じような原因で発生することが多い.したがって,過去の事例に学び,その原因を分析し,自院の医療事故や医事紛争の予防に役立てる取り組みが重要である.また,医事紛争は,医療従事者に法的意味での過失があり,その結果,悪しき結果が実際に患者に発生した場合にだけ起こるわけではない.医療従事者が法律知識を欠いているために,対応や説明を誤り,患者側の不信感を強めているという場合も多い.したがって,医療従事者は,広く病院・臨床業務に関する基本的な法律知識を学び,医療事故や医事紛争に対する適切な対応を習熟しておくことが必要である.このことは,医療機関の管理者だけではなく,実際に患者に接することになる,第一線で活躍する医療従事者にこそ望まれる.

次号予告

ページ範囲:P.887 - P.887

あとがき

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.890 - P.890

 昨年の春の第186回通常国会にて「臨床検査技師法等に関する法律」の一部改正案が通り,平成27(2015)年4月1日から臨床検査技師が直接患者からの検体採取が可能になった.このため臨床検査技師は日本臨床衛生検査技師会が行う2日間の指定講習会を受講しさえすれば,患者から直接検体を採取することができる.この講習会での皮膚科関連の講義は3時間であるが,この中には直接鏡検,細菌培養,ツァンクテストなどが含まれている.私は昨年の日本医真菌学会総会のときに,このことを臨床検査技師の先生から初めて聞かされた.日本医真菌学会は日本医学会の基礎医学分野に分類されているため,厚生労働省(厚労省)から日本医真菌学会への通知はなかったが,日本皮膚科学会(日皮会)にはすでに数年前に厚労省から意見を求められていた.しかしこの通知は,日皮会会員には何も伝えられていない.この時点で会員に知らされていれば,意見書などを提出することは可能で,少なくとも皮膚からの検体採取は検査技師には認められなかったのではないだろうか.
 この法律改正により,皮膚科以外の先生が臨床検査技師に患者を送り,そこで直接鏡検をしてもらい,臨床検査技師のお墨付きがつけば,皮膚真菌症の治療が正式に可能になる.直接鏡検で重要なことは,①病変のどこから検体を採取すればよいか,②モザイク菌などを真菌と間違えないための直接鏡検所見の読み方である.皮膚科医でさえ,まともな直接鏡検ができるのに数年のトレーニングを要するのに,たった3時間の講義で事足りることはないのではないか.日皮会の重要な責務の1つは,皮膚疾患を誤診することなく正確な診断を下すことができ,かつ利益相反によらないEBMに基づいた適切な治療ができる専門医を養成することである.この責務は本当に果たされているのであろうか?

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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