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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科69巻3号

2015年03月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・91

Q考えられる疾患は何か?

著者: 延山嘉眞

ページ範囲:P.179 - P.180

症例
患 者:15歳,女児
主 訴:右第1趾爪甲下の隆起性黒色病変
既往歴:特記すべきことなし.
現病歴:10歳頃に右第1趾爪甲下の黒色斑に気づいた.徐々に増大したため,15歳時に悪性黒色腫を疑われ,当院を受診した.
現 症:右第1趾爪甲下に11×6mm,境界明瞭,色むらのない歪んだ長方形の隆起性黒色病変を認めた(図1a,b).出血,潰瘍,Hutchinson sign,および,爪甲の変形はみられなかった.生検目的で抜爪後,辺縁から2mm離して全切除術を行った(図1c).

マイオピニオン

皮膚科とウイルスの付き合い

著者: 川村龍吉

ページ範囲:P.182 - P.183

 —皮膚科ほど原因不明の疾患が多い科はない—とよくいわれるが,逆にその原因を探る作業は実に面白く,皮膚科はその“謎”に挑むチャンスにあふれた科であるともいえる.四肢末端と開口部周囲にのみに紅斑が出現する謎の皮膚病:腸性肢端皮膚炎が実は単なる“かぶれ”だったなんていう話は1),わかってしまえばフムフムなるほどという程度でしかないが,やはりその謎が解ければより適切な治療や予防が可能となってくる.もし仮に,—原因不明の皮膚病の多くが謎のウイルスによって起きている—としたら,ウイルス学を専門とする私としてはちょっとワクワクしてくる.私が医者になった頃にはKaposi肉腫やMerkel細胞癌がウイルス感染によるものだとは露ほども思わなかったが,今ではそれぞれの多くがヒト8型ヘルペスウイルス(human herpesvirus-8:HHV-8)あるいは新種のポリオーマウイルス(Merkel cell polyomavirus:MCPyV)によって引き起こされることは広く知られている.腫瘍以外にも,きっといろんな原因不明の皮膚病が意外なウイルスによって引き起こされているに違いない.
 とは言え,コッホの三原則を持ち出すまでもなく,たとえ“ある患者あるいは病変部皮膚”に“あるウイルス”がたくさん存在しても,そのウイルスがその皮膚病の発症原因であるかどうかは別問題であり,その証明は難しい.留学中に東大の渡辺孝宏先生と一緒に,いかにもウイルス感染症っぽい皮膚病であるジベルばら色粃糠疹(pityriasis rosea Gibert:PR)の原因を調べる研究をしたことがある.患者血清中にHHV-7が特異的に認められることが既にLancet誌に報告されていたが,われわれの研究でHHV-7に加えてHHV-6が患者血清中のみならず皮疹部にも見つかった2).きっとPRはこれらのウイルスの“再活性化”により起こるのだろうと思いながら帰国してみると,これらのウイルスがある特定の薬によって再活性化される病態:薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)が日本で新たに提唱されて話題になっていた.あれから10年以上経つが,日本ではHHV-6,7とDIHSとの関連は広く認められているものの,なぜかPRとの関連については懐疑的な意見が多い.PRではほかに“本物”の原因ウイルスがいて,HHV-6,7は非特異的に再活性化されているだけだと言って無視を決め込む先生もいる.しかし,これまでに報告されたHHV-6,7が原因ウイルスであるとする両者の研究成果を客観的に比べても,私には今のところDIHSとPRとでそのエビデンスレベルに差がないように思える.他の炎症性疾患ではHHV-6,7は増殖していないことが両者で示されているが,この手法ではいくらdisease controlsを増やしても確証には至らないかもしれない.結局,この“ニワトリと卵”のような論議に終止符を打つためには,HHV-6,7の増殖を特異的に抑制する薬が開発されるのを待つしかないのだろう.

今月の症例

丹毒様の臨床像を呈し好酸球性膿疱性毛包炎の組織像を示したクロムによる接触皮膚炎

著者: 小澤麻紀 ,   水芦政人 ,   沼田透効 ,   相場節也

ページ範囲:P.184 - P.187

要約 65歳,男性.初診の3か月前から顔面に発赤と腫脹が繰り返し出現するようになった.習慣性丹毒の臨床診断で抗生剤投与を行ったが悪化したため生検を施行した.病理組織学的には好酸球性膿疱性毛包炎の像であった.インドメタシンを内服したが,症状は改善せず,その後に施行したパッチテストでウルシオールとクロムに陽性を示した.患者は自宅の革製ソファーで寝る習慣があり,その際に顔面皮膚がソファーに直接触れていることに気付いた.ソファーにカバーを掛け,革が皮膚に直接触れないようにしたところ,皮疹は出現しなくなった.以上の経過より革製品に含まれるクロムによる接触皮膚炎と診断した.顔面の接触皮膚炎では,原因物質として塗布するものに目が向きがちであるが,自験例のような接触様式もあることを踏まえておきたい.

症例報告

右臀部から下肢のみに皮疹を認めた色素失調症の男児例

著者: 大竹映香 ,   伊藤恵子 ,   森丘千夏子 ,   箕面崎至宏

ページ範囲:P.188 - P.192

要約 日齢1,男児.在胎41週自然分娩.出生時から認める皮疹を主訴に当科を受診した.右下肢後面に,列序性に配列する紅斑,落屑を認めた.皮疹は徐々に,黄色痂皮,紅色丘疹,小水疱が混在し,Blaschko線に一致した.水疱内容のギムザ染色では,多数の好酸球がみられた.病理組織学的所見では水疱内に著明な好酸球浸潤を伴う表皮内水疱を認めた.以後皮疹の新生はなく,白色ワセリン外用で1か月後に色素沈着となった.Blaschko線に沿った特徴的な皮疹と経過,ギムザ染色の水疱内容所見,病理組織学的所見より,色素失調症と診断した.頭部MRIおよび脳波に異常なく,眼内異常所見も認めなかった.性染色体は46XYであった.色素失調症はX染色体優性遺伝で,通常は女児に発症するが,男児例の報告もある.男児例では自験例のように皮疹が片側性や限局性であり,合併症も少ないことが多いとされている.

抗デスモグレイン3抗体および抗デスモコリン3IgG抗体陽性の尋常性天疱瘡の1例

著者: 船津栄 ,   宮田聡子 ,   石井文人 ,   橋本隆

ページ範囲:P.193 - P.198

要約 49歳,女性.初診の1年前より口内炎が出現した.口内炎の増悪とともに,四肢体幹に紅斑が出現したため受診した.口腔内に多発するびらんは,組織学的に粘膜上皮基底細胞直上での棘融解を認め,蛍光抗体間接法で抗表皮細胞間抗体IgGが160倍で陽性,ELISA法で抗デスモグレイン3抗体陽性であり,尋常性天疱瘡と診断した.一方,体幹四肢には小豆大までの浸潤を軽度触れる不整形,紅色〜淡褐色の掻痒感を伴う紅斑が散在し,紅斑の一部には点状のびらん,痂皮を伴っていた.組織学的に真皮上層にリンパ球および好酸球の浸潤を認め,好酸球は表皮内にも遊走していた.自験例は粘膜優位型尋常性天疱瘡の患者に,特異な紅斑を生じた症例である.抗デスモグレイン3抗体に加えて,抗デスモコリン3抗体も陽性であり,稀な症例と考えられた.好酸球浸潤は抗デスモコリン3抗体陽性天疱瘡の特徴の1つである可能性が示唆された.

IgA天疱瘡(intraepidermal neutrophilic IgA dermatosis-type)の1例

著者: 遠藤嵩大 ,   篠島由一 ,   照井正 ,   石井文人 ,   橋本隆

ページ範囲:P.199 - P.202

要約 34歳,男性.初診の2週間前から右下腿に水疱が出現し,1週間前から胸部,上肢に拡大した.近医皮膚科で外用剤を処方され治療を行ったが改善なく,当科を受診した.初診時,緊満性の小水疱と小膿疱が体幹,四肢に散在し一部で環状に配列していた.病理組織では表皮中下層に好中球の集積像がみられた.蛍光抗体直接法で表皮中下層の細胞間にIgA沈着がみられ,正常ヒト皮膚切片を基質とした蛍光抗体間接法でIgA抗表皮細胞間抗体は10倍まで陽性であった.免疫ブロット法,ELISA法では明らかな抗体は検出されなかった.以上よりIgA天疱瘡(intraepidermal neutrophilic IgA dermatosis-type)と診断した.生検後からドキシサイクリンとニコチン酸の内服で治療を開始した.内服開始1週間で水疱新生は減少し,3週間で水疱の新生はなくなった.2か月後に水疱,膿疱が少数再発したが,同治療を継続した.その後,水疱の新生はみられず,半年後に内服を終了した.これら2剤で水疱新生を抑制できた可能性があった.

抗BP180抗体が著明に高値で一時的に血漿交換療法が奏効した水疱性類天疱瘡の1例

著者: 安達明子 ,   杉浦一充 ,   秋山真志

ページ範囲:P.203 - P.207

要約 76歳,男性.初診3か月前,全身に掻痒と下肢紅斑が生じ,1週間前,全身に紅斑が拡大し,水疱が多発した.臨床所見,病理組織像より,水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)と診断した.プレドニゾロン(PSL)1.2mg/kg/日にても病勢を抑制できず,単純血漿交換療法を計4回施行した.いったん新生水疱と紅斑は著しく消退し,皮疹の改善と連動して抗BP180抗体価と好酸球数,血清IgE値の低下を認めた.しかし,2か月後,皮疹が再燃,各種検査値も再上昇を認めたため,PSLを増量(0.8mg/kg/日)した.その後,皮疹の新生はなかったものの,肺真菌症,肺サイトメガロウイルス感染症,MRSA菌血症による敗血症性ショックをきたし,初診から6か月後,永眠した.抗BP180抗体価が著明に高値な水疱性類天疱瘡に対して,一時的に単純血漿交換療法が有用であった.重症なBPにおいて抗BP180抗体,血清IgE値,好酸球が病勢評価となりうることが考えられた.

偽リンパ腫様外観を呈した右鼻翼部無色素性基底細胞癌の1例

著者: 根岸(小澤)亜津佐 ,   鷲崎久美子 ,   高田裕子 ,   中村元泰 ,   関東裕美 ,   林健 ,   岩渕千雅子 ,   石河晃

ページ範囲:P.208 - P.212

要約 77歳,男性.2000年頃に右鼻翼部に紅色結節が出現し,徐々に増大した.当科受診時右鼻翼部に1cm大の弾性硬で境界明瞭な類円形の紅色結節を認めた.臨床像から偽リンパ腫を考えたが,ダーモスコピーで白色網状斑,樹枝状血管,黒色小点を認め,基底細胞癌を鑑別として考えた.皮膚生検で病理組織像より充実型基底細胞癌と確定診断した.拡大切除後は再発なく,経過観察中である.自験例は病理組織像から無色素性基底細胞癌と確定診断したが,臨床像は偽リンパ腫様を呈し,ダーモスコピー所見も樹枝状血管以外に基底細胞癌に特徴的所見を認めなかった.当院で過去に経験した鼻翼に生じた偽リンパ腫2例と比較した結果,1例で毛細血管拡張と樹枝状血管を認め自験例と酷似した所見を呈していた.無色素性基底細胞癌の診断には,ダーモスコピーで樹枝状血管の確認が有用だが,偽リンパ腫でも認めることがあり注意を要する.診断には病理組織学的検索が必須である.

イミキモドクリーム外用が奏効した外陰部Bowen病の1例

著者: 倉石夏紀 ,   須藤麻梨子 ,   岡田悦子 ,   永井弥生 ,   石川治

ページ範囲:P.213 - P.216

要約 61歳,女性.約9か月前から掻痒を伴う皮疹が外陰部に出現した.初診時,会陰部の後交連から肛門部にかけて,びらんを混じた不整形の紅斑と小結節がみられた.病理組織学的に表皮の不規則な肥厚と全層で異型性・多形性のある表皮細胞が増殖していたことからBowen病と診断した.入院後のCTで発見された腎癌の治療が優先されたこと,Bowen病の外科的切除が困難な部位であったため,イミキモドクリーム外用治療を開始した.週3回,計12回の外用治療後,臨床・病理組織学的に寛解した.外用中に副反応として軽度の紅斑・びらんを生じたが,外用中止とともに速やかに改善した.イミキモドクリームは日光角化症に対し適応が拡大されたが,今後,他の表在型皮膚悪性腫瘍に対する効果についても症例の蓄積が期待される.副反応が比較的軽度であり,手術困難な症例に対しての選択肢になりうる治療法と考えた.

ダーモスコピーでirregular dots/globulesを示した足底の悪性黒色腫の1例

著者: 小澤健太郎 ,   大島衣里子 ,   宮崎明子 ,   藤井麻美 ,   永松麻紀 ,   田所丈嗣 ,   藤井秀孝

ページ範囲:P.217 - P.220

要約 77歳,女性.約5か月前に左足底に黒色斑を自覚し,当科を紹介され受診した.左足底に径10×7mmの不整形の黒色斑を認め,ダーモスコピーではparallel ridge pattern,parallel furrow patternを欠き,irregular dots/globulesを示した.典型的な色素性母斑や悪性黒色腫の所見とは言えず,最大径が10mmであったために全切除を行った.病理組織学的には表皮内に異型メラノサイトの孤立性増殖とさまざまな大きさの不規則な胞巣形成を認め,上皮内悪性黒色腫と診断した.足底の悪性黒色腫の多くは早期からダーモスコピーでparallel ridge patternを示すことが知られているが,自験例のようにirregular dots/globulesを示す症例が存在することも認識しておく必要がある.

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫に合併したクリオグロブリン血症性紫斑の1例

著者: 平井郁子 ,   森本亜里 ,   髙江雄二郎 ,   江原洋介 ,   松浦史郎

ページ範囲:P.221 - P.225

要約 63歳,男性.半年前より下腿に出没を繰り返す皮疹があった.初診時,下肢末梢に軽度の色素沈着を認めたのみであったが,寒冷期に入り増悪し,点状および丘疹状の有痛性紫斑が出現した.また,下腿の浮腫と四肢のしびれを伴い,発熱が持続した.血清クリオグロブリンが陽性であったため,基礎疾患の検索を開始した.C型肝炎や膠原病はなかったが,CTで肝に11cm径の腫瘍があり,腹部傍大動脈領域に腫大したリンパ節を認めた.肝生検よりびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma)と診断した.皮膚生検病理組織像で真皮上層の小血管の増生と好酸性無構造物質による閉塞像を認め,悪性リンパ腫に伴うクリオグロブリン血症による血栓像と考えた.R-CHOP療法を開始後,皮疹は軽快した.一見,うっ滞性皮膚炎などを考える下肢末梢の色素沈着に,しびれや寒冷曝露による増悪を伴う場合,クリオグロブリン血症の可能性を考えることは重要であり,背景にある基礎疾患の早期発見とその治療につながりうると考えた.

臍部子宮内膜症の1例

著者: 二瓶順子 ,   穀内康人 ,   黒川晃夫 ,   辻求 ,   野田洋一 ,   森脇真一

ページ範囲:P.226 - P.229

要約 30歳,女性.初診の9か月前より,臍部に月経時に一致して出現する有痛性の結節が出現し,徐々に増大傾向を示した.初診時,臍部やや右側に径13×8mm大,表面平滑,ほぼ常色の皮下結節を認めた.生検病理組織像により,臍部子宮内膜症と診断した.右卵巣子宮内膜症を合併しており,同病変の摘出術の際に臍部子宮内膜症の摘出術を施行した.臍部子宮内膜症の発生機序としては転移性移植説が有力とされており,自験例でも右卵巣子宮内膜症からの転移性移植により発症した可能性が示唆された.

臍部の感染を契機に発見された尿膜管遺残症の1例

著者: 小谷晋平 ,   大森麻美子 ,   小坂博志 ,   小川真希子 ,   長野徹 ,   松岡崇志 ,   川喜田睦司 ,   今井幸弘 ,   繁益弘志

ページ範囲:P.230 - P.234

要約 32歳,男性.前日から急激に増強した臍部痛のため近医皮膚科を受診した.臍部痛と悪臭ある膿汁を認めたため,同院にてセフカピペンピボキシル,1回100mg,1日3回を約1週間投与されたが,改善傾向なく当科を紹介され受診した.初診時の採血ではWBC 9.4×103/μl,CRP 0.44mg/dlであり,炎症反応の上昇は軽度であったが,臍部痛と同部からの膿汁排出は持続していた.嫌気性菌の可能性を疑い,抗生剤をレボフロキサシン,クリンダマイシンに変更し継続したが,排膿は増加し,安静時・排尿時の疼痛も認めるようになった.腹部造影CTで臍部から膀胱頂部に連続する索状物を認め,臍部の皮膚生検病理組織像でも炎症性肉芽腫性変化を認めたため,尿膜管遺残と診断した.その後,当院泌尿器科にて切除した.尿膜管遺残症は外科や泌尿器科,小児科では決して珍しい疾患ではないが,皮膚科医が遭遇するケースも稀ならずあると考えられる.臍部の炎症性腫瘤を見た場合は,本症も念頭に置いて診察することが重要と思われた.

下大静脈閉塞症を背景として発症した下肢蜂窩織炎の1例

著者: 中里信一 ,   村松憲 ,   北村真也 ,   佐藤英嗣

ページ範囲:P.235 - P.238

要約 86歳,男性.既往歴に左下肢深部静脈血栓症と左下肢蜂窩織炎があり,ワルファリンを内服中である.初診の数時間前から右下肢の発赤,腫脹,疼痛を自覚した.右下肢の広い範囲に境界不明瞭な発赤を呈し,圧痛と熱感を伴っていた.両下肢の腫脹があり,特に右下肢で顕著であった.血液検査上,白血球増多とCRP高値があり,造影CTでは下大静脈の閉塞を呈していた.抗生剤投与などの入院加療を行い,軽快後は弾性ストッキングを着用して再発予防に努めた.下大静脈閉塞症は下肢静脈不全症の特殊例とされ,下肢静脈不全症は下肢蜂窩織炎の危険因子である.下肢蜂窩織炎では自験例のように体幹の静脈の精査が必要となる場合もある.下大静脈閉塞症を含む下肢静脈不全症に合併した下肢蜂窩織炎の再発予防のためには,下肢静脈不全症の治療が必要と考えた.

イヌ咬傷で生じた皮膚Mycobacterium chelonae感染症の1例

著者: 石田修一 ,   山口由衣 ,   野崎由生 ,   岡田里佳 ,   侯建全 ,   相原道子

ページ範囲:P.239 - P.242

要約 42歳,女性.初診の2か月半前に飼いイヌに右手背を咬まれ,その後,同部に出現した紅斑が徐々に拡大し,硬結を認めるようになったため受診した.病理組織像で真皮に肉芽腫性炎症を認めた.組織のZiehl-Neelsen染色,PAS染色は陰性であったが,培養にて抗酸菌が陽性であり,DNA-DNA hybridization法によりMycobacterium chelonaeと同定した.クラリスロマイシンで治療開始したが改善せず,レボフロキサシンとアミカシンを追加投与し温熱療法を併用した.皮疹は徐々に改善傾向を示したが,紅斑が消失しないため外科的切除を施行し,治癒した.動物咬傷後の皮膚M. chelonae感染症の報告は稀であるが,動物咬傷後に遷延する皮膚病変が出現した場合は本症も念頭に置く必要があると考えた.

ネコ咬傷後に発生したPasteurella multocida皮膚感染症の1例

著者: 國行秀一 ,   松村泰宏 ,   平田央 ,   前川直輝

ページ範囲:P.243 - P.247

要約 60歳,男性.2型糖尿病がある.野良ネコに下腿後面を咬まれた.近医を受診し,処方された抗菌薬を服用したが,疼痛が増強したため,抗菌薬服用と受診加療を自己中断した.その後さらに,発赤腫脹と疼痛が増強し,歩行障害も生じたため,当科を紹介され受診した.MRI検査で下腿後面皮下の液貯留像およびヒラメ筋の炎症像がみられた.入院を拒絶されたため,外来通院で局所の切開排膿,洗浄処置,アモキシシリン・アジスロマイシンの内服治療を行った.同部の乳白色膿からPasteurella multocidaが分離され,抗菌剤全般に良好な感受性を示した.抗菌療法および排膿・洗浄処置により,末梢血白血球数やCRPは短期間に低下し,発赤腫脹と歩行障害は軽快した.アキレス腱部皮膚に軽度の突っ張り感が残存したが,咬傷受傷93日後に略治した.アキレス腱周辺部の発症例では歩行障害などの後遺症に注意が必要と考えられた.

治療

広範囲熱傷に自家培養表皮(ジェイス®)を使用した1例—空気曝露について

著者: 岡部倫子 ,   千葉貴人 ,   中尾匡孝 ,   清松真理 ,   古江増隆

ページ範囲:P.249 - P.253

要約 自家培養表皮治療の先進国である米国では,移植部の空気曝露が標準的に行われている.本邦においても自家培養表皮(ジェイス®:J-TEC社)移植後に乾燥管理することで生着率の良好な結果が得られたとの報告がある.今回,広範囲熱傷患者に同意を得て,移植床の自家6倍メッシュ上にジェイス®を重ね,移植後7日目より空気曝露を開始し,移植部への空気曝露の有効性について検討を行った.乾燥管理を施行した移植部と施行しなかった移植部では表皮生着において,明らかな違いは認められなかった.ジェイス®移植部の空気曝露は,表皮の角化に促進的に働くが,ジェイス®の良好な生着を得るには移植後の乾燥管理だけでなく,移植床の状態,年齢,移植部感染の有無,移植部位の違いなどがジェイス®の生着率に寄与していると考えられた.

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欧文目次

ページ範囲:P.177 - P.177

文献紹介 癌精巣抗原MAGE-A3に対するTCR改変T細胞移入療法の神経学的毒性の発現に関する機序の解明

著者: 栗原佑一

ページ範囲:P.234 - P.234

 1991年に癌精巣抗原であるMAGE-1遺伝子が同定されてからT細胞移入療法やワクチン療法など悪性腫瘍に対する免疫細胞治療の研究が進んでいる.今回の論文では,悪性黒色腫をはじめとして上皮系悪性腫瘍の多くに発現しているMAGE-A3を標的としたT細胞受容体遺伝子導入T細胞(TCR-T細胞)の移入療法とそれによって生じた脳神経学的副作用について報告されている.
 著者らは,自己の末梢血中のT細胞にMAGE-A3に高親和性でA9,A12も認識するTCRを導入・増幅し,抗癌剤処置の後に患者に移入する治療を行った.疾患は進行期のメラノーマや食道癌,滑膜肉腫で,9症例に実施し5症例で完全・部分寛解が得られた.しかし3症例では意識変容,痙攣や昏睡といった神経学的毒性を認め,そのうち2症例は死に至った.死亡した2例の病理解剖では脳細胞の壊死を認めていた.

文献紹介 ゲノムワイド関連解析により発見された疾患関与が示唆される蛋白質コード配列の変異は,その変異頻度にかかわらず関節リウマチにおけるリスク因子となりうる

著者: 安田文世

ページ範囲:P.247 - P.247

 ゲノムワイド関連解析(genome-wide association studies:GWAS)による疾患関連変異解析とは,集団内で高頻度な疾患には高頻度な多型が関与するという仮説(common disease common variant hypothesis)に基づき,疾患群と非疾患群で頻度に有意差がある一塩基多型を同定して疾患と相関する領域を推定する解析手法である.しかしこの方法で同定された変異だけでは,他の方法で推定された遺伝性因子を説明できないことが少なくなく,missing heritability(失われた遺伝性)と命名された.本論文ではmissing heritability解明のため,低頻度多型(アレル頻度5%以下)の解析を行った.関節リウマチ患者で生物学的に関連がある候補遺伝子について配列決定し,同定した変異頻度を1000 Genomes Projectで得られた多型頻度情報に基づきcommon(5%以上),low(0.5〜5%),rare(0.5%未満)に分類した.さらにlowおよびrare群では非同義・同義置換に分類し,変異重症度予測プログラム(PolyPhen)の結果を加味した.その結果,患者群とコントロール群に有意差がある変異を含む2種の遺伝子(IL2RAとIL2RB)を同定した.これはlowおよびrare群の変異もcommon diseaseに寄与していることを示している.さらにcommon群とlow群は,過去のimmunochipやGWASデータを加えて解析し,最終的に10変異を疾患との関与が高いと結論づけた.特にCD2遺伝子はrs699738のミスセンス変異とrs798036の非コード領域変異頻度が疾患群で有意に高いことを示した.
 本論文ではGWASで対象外にされた低頻度多型に相関する領域がmissing heritabilityに含まれることを証明する手法を提案しているが,統計学的な証明には多くのサンプル数が必要とされると,今後の課題を述べている.

次号予告

ページ範囲:P.255 - P.255

投稿規定

ページ範囲:P.256 - P.257

あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.258 - P.258

 私ごとですが,この3月末に教授を定年退任いたします.1975年に新潟大学医学部を卒業し,1991年7月に教授に昇任しましたので,皮膚科医としてほぼ40年,また皮膚科教授として23年9か月の経歴になります.振り返りますと,私の書いた初めての論文は『臨床皮膚科』1977年3月号でした.1979年1月に米国留学するまでに日本語の論文を計7編書きましたが,そのうち5編は『臨床皮膚科』でした.当然ですが,まさか今のように編集委員になるなどと思ってもみませんでした.縁があって11年も編集委員を務めています.本誌に投稿される論文は,近年,症例報告が多く,特に皮膚科専門医を目指す若い先生方のものが圧倒的です.それらを拝見していて,若い当時の自分の論文のことを思い出しています.当時は,文献検索は自分で一連の雑誌をめくりまくってコピーをとり,原稿作りは手書きで大変時間がかかりました.電顕は自分で標本作製,撮影,現像,写真焼きをすべてしていましたが,幸運にも臨床写真撮影や組織標本作製,それらのスライド・写真作成は当教室のきわめて優秀な技官がしてくれました.今,自分のそれら論文を見ても,かなり質の高いものといえます.最近は,コンピューターを使い,また,形態学的手法もデジタル化して,論文作成がずいぶんと容易で迅速にできるようになりました.しかしながら,「容易」と「安易」は別で,あまりに安易に作られた図であるため,「修正して再投稿」とさせていただくことが頻繁にあります.皮膚科の若い先生方には,臨床写真や組織写真,できれば電顕写真も,それらの質や所見を自分で評価し判断できるようにトレーニングしていただきたいと願います.それが,取りも直さず,形態学を基本とする皮膚科専門医になるということと思います.本3月号が出るとともに教授を退任しますが,本誌の編集委員はしばらく続けさせていただき,まだまだ皆さんの原稿をたくさん拝見したいと思っています.どしどしと奮って投稿してください.楽しみにしています.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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