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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科69巻4号

2015年04月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・92

Q考えられる疾患は何か?

著者: 松本和彦

ページ範囲:P.265 - P.266

症例
患 者:2か月,女児
初 診:2004年2月
主 訴:全身に多発する結節
既往歴:特記すべきことなし.出産,成長,発達に異常なし.
家族歴:祖母に高コレステロール血症
現病歴:生後10日頃に右膝内側に小豆大の赤色結節があるのに母親が気づいた.生後2か月には上口唇に,その後全身に結節が出現し,増大してきた.
初診時現症:右膝内側に8×8×2mmの赤黄色調,表面平滑で光沢を有する弾性硬の皮内から皮下の結節を認める.そのほかに顔面に4個,左上腕に2個,臀部に1個,右下肢に1個の同様な米粒大から小指頭大の扁平隆起性結節を認める(図1a,b).カフェオレ斑は認めず,表在リンパ節も触知しない.

マイオピニオン

学校保健と保育保健—「保育保健」ってご存知ですか?

著者: 日野治子

ページ範囲:P.268 - P.269

 平成26年(2014年)後半に,数か所の保育所の研修会で話す機会があった.その際,現場の保育士・保護者に,皮膚科に対する理解を深めてほしいと痛烈に感じ,皮膚科からも「保育保健」に踏み込んで行く必要性を感じた.
 1. 皮膚科において学校保健はどのように考えられてきたか
 学校保健への取り組みは,平成5年(1993年)日本臨床皮膚科医会(日臨皮)が学校保健委員会を立ち上げた.遅れて日本小児皮膚科学会(日小皮)は平成19年(2007年)に学校保健委員会を設立し,平成21年(2009年)に日本皮膚科学会(日皮)が学校保健ワーキンググループを設定した.日皮としては日臨皮,日小皮の学校保健活動への共同参加・学会員へ学校保健活動の重要性を啓蒙するという立場で出発している.

今月の症例

肥満女性に生じたelephantiasis nostras verrucosaの1例

著者: 小原芙美子 ,   漆畑真理 ,   関東裕美 ,   鷲崎久美子 ,   石井健 ,   武田朋子 ,   石河晃

ページ範囲:P.270 - P.274

要約 59歳,女性.13年前から両下肢浮腫を認め,2年前より下腿蜂窩織炎を繰り返していた.2012年4月末より両下腿に掻痒を認め,掻破を繰り返した後に発赤・腫脹が出現した.細菌感染を恐れて入浴せず放置し,症状が増悪したため,5月中旬に当院を受診した.BMI 48という肥満体型であり,両下腿に白色調の角化性局面を認め,足関節周囲には悪臭を伴う不良肉芽が疣状隆起して局面を形成していた.病理組織像は,表皮は偽癌性増殖を呈し,真皮浅層に浮腫,乳頭層に脈管増生,真皮浅・中層および脈管周囲に炎症細胞浸潤を認めた.臨床および病理組織像よりelephantiasis nostras verrucosaと診断した.自己処置不能であったことから入院とし,局所洗浄・サリチル酸ワセリン®外用・弾性包帯の圧迫の継続により,症状の軽快・再発を繰り返しながら皮疹は平坦化した.病識のなさや自己管理不足が難治の原因と考えられ,生活指導が課題である.

症例報告

結節性紅斑を伴った溶連菌感染後反応性関節炎の1例

著者: 栗原和生 ,   津嶋友央 ,   粕谷啓 ,   龍野一樹 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.275 - P.279

要約 30歳,女性.扁桃腺炎に引き続いて,発熱,関節炎,発赤を伴う皮下硬結が出現した.関節炎は疼痛と腫脹を伴い,四肢の6関節を侵し,歩行困難であった.発赤・硬結は,関節の周囲を中心に,下腿と上肢にもみられた.血清ASO値が異常高値であり,A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染による溶連菌感染後反応性関節炎(poststoreptococcal reactive arthritis:PSRA)と診断し,結節性紅斑を合併した症例と考えた.鑑別診断として成人発症の急性リウマチ熱が挙げられるが,強い非遊走性関節炎,成人発症,心疾患無合併より,PSRAと確診した.文献的に考察したところ,PSRAは急性リウマチ熱より結節性紅斑を伴う頻度が高いことが示唆された.溶連菌感染に引き続いての関節炎を伴う結節性紅斑の患者では,PSRAの可能性を念頭に置く必要がある.

カルバマゼピンによる多発性固定薬疹の1例

著者: 伊藤彩 ,   大澤研子 ,   池澤優子

ページ範囲:P.281 - P.286

要約 80歳,男性.既往歴に認知症,不眠症,カルバマゼピンによる過去3回の薬疹がある.初診2日前に歯痛のためカルバマゼピン内服後,翌日より体幹,四肢に疼痛を伴う皮疹が出現し,2日後当科を受診した.初診時,体幹を中心に強い浸潤を触れる紅斑が多数認められた.経過より,カルバマゼピンによる薬疹を疑った.同薬剤の薬疹を数度繰り返していることから重症化が懸念されたが,ステロイドパルス療法により速やかに軽快した.病理組織で表皮の好酸性壊死を多数認めたものの,粘膜疹を認めず,全身状態が比較的良好であり,リンパ球刺激試験とパッチテストが陽性であることから,カルバマゼピンによる多発型固定薬疹と診断した.自験例は治療開始前に施行したリンパ球刺激試験は陰性となり,第23病日に陽性となった.急性期に陰性になった理由として,regulatory T cellの増加が関わっている可能性が示唆された.

Warty dyskeratomaの1例

著者: 小林紘子 ,   米原修治 ,   田中麻衣子 ,   森本謙一

ページ範囲:P.287 - P.290

要約 60歳,男性.右頸部に皮下結節があり,徐々に増大した.母指頭大の皮下結節に紅斑を伴っていたため,感染性粉瘤の疑いで抗生剤内服した後,全摘術を施行した.病理組織では,表皮から連続して真皮内に複数の囊腫構造を認め,囊腫壁の一部には顆粒層を伴う正常表皮構造が残存していた.深部では絨毛状に増殖する基底細胞様の細胞が基底層直上で棘融解を生じていた.円形体や顆粒体などの異常角化細胞もみられたことから病理組織学的にwarty dyskeratoma(WD)と診断した.WDは臨床的には中心臍窩を有する丘疹あるいは結節であるが,全体としては特徴のない小腫瘍で,粉瘤,脂漏性角化症などと診断されることが多く,臨床のみで診断をつけるのは難しい疾患である.WDは稀な疾患ではあるが,その特徴的な組織像から診断可能であるため,WDの組織像を知っておくことが必要と考えた.

筋周皮腫の2例

著者: 栗原和生 ,   津嶋友央 ,   青島正弘 ,   遠藤泰彦

ページ範囲:P.291 - P.296

要約 症例1:45歳,男性膝部.症例2:84歳,男性,肘部.いずれも境界明瞭な皮下充実性腫瘍であった.病理組織学的に腫瘍内には多数の血管が存在しており,血管周囲に好酸性細胞質を有する類円形から短紡錘形の血管周皮細胞が同心円状または錯綜状に存在していた.免疫組織化学的所見において腫瘍細胞は一様にα-smooth muscle actin陽性,第Ⅷ因子,デスミン,CD34は陰性であり,筋周皮腫と診断した.本邦報告例37例に自験例を加えた39例について,臨床的,組織学的に検討した結果,疼痛を伴う例が多いこと,組織学的にグロムス腫瘍,筋線維腫,血管平滑筋腫との鑑別が重要で移行例もあると考えられた.

右頰骨に生じた骨腫の1例

著者: 戎谷昭吾 ,   最所裕司 ,   森田未沙子 ,   長島史明 ,   木村知己 ,   井上温子 ,   赤松誠之 ,   山崎由佳 ,   稲川喜一

ページ範囲:P.297 - P.301

要約 52歳,女性.外傷等の誘引なく6年前から右頰部の突出を自覚し,徐々に増大を認めた.当科受診時,右頰部外側に直径約1cmの腫瘤を認めた.腫瘤は境界明瞭で皮膚との癒合はなく,下床との可動性は全くみられなかった.単純顔面CTにて骨腫を疑い,切除を行った.病理組織学的所見にて髄腔の乏しい厚い層状骨を認め,骨腫と診断した.顔面に単発で発生する骨腫は副鼻腔・下顎骨での報告が多い.骨腫の発生原因としては外傷性変化・炎症性刺激・遺伝性因子・内分泌障害などさまざまな要因が指摘されている.頰骨に発生した骨腫の報告は非常に少なく,われわれが検索しえた限りでは本邦4例目であった.

陰茎に生じた色素性有棘細胞癌の1例

著者: 渡邊愛子 ,   園山悦子 ,   猿喰浩子

ページ範囲:P.303 - P.306

要約 46歳,男性,陰茎部中央に潰瘍を伴う黒色斑あり.ダーモスコピーではびまん性の青灰色領域と樹枝状血管を認め,基底細胞癌と疑診した.病理組織像では表皮直下から真皮内に胞巣状に浸潤性増殖が認められ,胞巣辺縁では好塩基性の細胞が配列し,胞巣中心では角化する傾向がみられ,核分裂像,核濃縮像など核異型を伴う細胞の増生を認めた.真皮浅層では間質にメラノファージを認めた.またS100蛋白染色でpigment blockade melanocyteを認めた.これらの所見より自験例を陰茎部に生じた色素性有棘細胞癌と診断した.自験例の臨床像,ダーモスコピー像は基底細胞癌と鑑別が困難であった.

頭部脂腺母斑に有棘細胞癌,基底細胞癌と毛芽腫を併発した1例

著者: 伊東可寛 ,   小林孝志 ,   白樫祐介 ,   五味博子 ,   早川和人

ページ範囲:P.307 - P.312

要約 72歳,男性.幼少期より後頭部に脱毛斑があり掻痒感を自覚して掻破を繰り返していた.半年前より徐々に皮疹が隆起して結節を形成した.初診時,後頭部に径2cmの広基有茎性の角化性紅色結節が,その基部の小結節が癒合し辺縁に黒色斑を伴う径1cmの局面に覆い被さるように隣接して認めた.病理組織像では各々有棘細胞癌と基底細胞癌の所見を認めたが,両腫瘍間に連続性はなかった.また毛芽腫の所見もみられ,脱毛部は脂腺や毛囊が消失し,奇形的な毛囊や真皮の線維化を認め,脂腺母斑と考えた.腫瘍辺縁から1cm離して帽状腱膜上で切除し,分層植皮術を施行した.術後はペプロマイシン硫酸塩筋注を計85mg施行し,術後9か月の時点で再発転移を認めない.脂腺母斑は加齢によって腫瘍の発生母地となり,複数の腫瘍を生じることがある.時に悪性腫瘍の続発もあり,脂腺母斑に対して診断時に早期切除を考慮する必要がある.

ビリンが陽性を示した二次性Paget現象を伴う肛門管癌の1例

著者: 國行秀一 ,   松村泰宏 ,   平田央 ,   前川直輝

ページ範囲:P.313 - P.317

要約 84歳,男性.肛囲皮膚に疼痛を伴うびらんが出現し,当科を受診した.皮膚生検で肛囲皮膚にPaget細胞が表皮内に散在性に分布していた.免疫組織学的検索ではPaget細胞はPAS・alcian-blue染色陽性,免疫組織学的にCEA,CA19-9,EMA,サイトケラチン7,サイトケラチン20,ビリンが陽性,GCDFP-15,S100蛋白,HMB-45,androgen receptor陰性であった.肛門管癌の肛囲pagetoid現象と考え,当院消化器外科に紹介した.肛門管癌の診断で,腹部会陰式直腸切断術が実施された.病理組織学的所見で管状腺癌・粘液細胞癌・低分化腺癌の像が確認された.自験例ではビリン陽性であったことから,腸粘膜由来の癌による皮膚浸潤と診断した.ビリンは乳房外Paget病との鑑別に有用である.

陰茎悪性黒色腫の1例

著者: 森志朋 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.319 - P.322

要約 61歳,男性.2000年頃より陰茎部に皮膚色の皮疹を認めていた.2012年頃より黒色調を呈し,初診前日に皮疹部のびらん・出血に気づき受診した.切除標本の病理組織学的所見や免疫染色所見,画像所見より悪性黒色腫(UICC分類でStage IIc)と診断した.宗教上の理由で更なる手術治療や化学療法・免疫療法は希望されず経過をみていたところ同年12月頃より左鼠径リンパ節が腫大してきた.2013年1月より家族が選択した丸山ワクチン注射治療を開始し経過をみている.本邦では2013年までに自験例を含め55例の陰茎悪性黒色腫が報告されているが,現在のところ陰茎悪性黒色腫のStageごとの治療指針は確立されていない.病期分類と患者のquality of lifeを含めた治療法が選択されるべきではあるが,これまでに報告された55例中,UICC分類が可能であった44症例を分析し有効と思われる治療指針を示す.

顔面と上肢の浮腫から診断に至った肺癌の1例

著者: 工藤裕佳子 ,   太田美和 ,   笹尾ゆき ,   岩原邦夫

ページ範囲:P.323 - P.326

要約 52歳,男性.2011年12月より顔面と上肢の浮腫を自覚した.近医にてステロイドと抗アレルギー剤の内服が開始されたが改善乏しいため,2012年1月当科を紹介された.初診時,顔面と上肢の浮腫がみられた.その後,前胸部に表在静脈の怒張がみられたため,上大静脈症候群と診断した.原因精査のため,内科を紹介した.胸部CT検査では,右上葉縦隔側に壁側胸膜への浸潤と気管傍・気管前リンパ節と癒合する腫瘤があり,精査により肺扁平上皮癌が判明した.上大静脈症候群の原因は悪性腫瘍が多く,顔面,上肢のなかなか消退しない浮腫をみたら上大静脈症候群を考え精査する必要があると考えた.

生検後に自然消退した皮膚原発未分化大細胞性リンパ腫の小児例

著者: 小幡祥子 ,   舩越建 ,   平井郁子 ,   海老原全 ,   天谷雅行 ,   嶋田博之 ,   渡辺絵美子

ページ範囲:P.327 - P.331

要約 11歳,女児.抗菌薬内服,外用治療に反応しない右側頸部の結節を主訴に受診した.右側頸部に,径20mm大,中央が潰瘍化した紅色結節があり.皮膚生検の病理組織像では,真皮全層にシート状に増殖する多形大型異型細胞を認めた.特殊染色でCD3,CD4,CD8およびCD30陽性,ALK陰性だった.全身検索で異常所見はなく,骨髄検査も正常であり,皮膚原発未分化大細胞性リンパ腫と診断した.生検後,皮疹は褪色傾向を示したが,発症から7週目に,残存する紅色結節を全摘した.腫瘍細胞は認められず,リンパ腫は自然消退したものと判断した.本症の小児例はきわめて稀であり,過去に報告された25例について,経過および治療法を成人例と比較した.治療の奏効率,再発率に大きな差はないものの,長期的な予後調査は今後の課題として残ると考えた.

Corynebacterium speciesによると思われる皮下膿瘍の1例

著者: 森本亜里 ,   平井郁子 ,   藤田浩之 ,   高江雄二郎

ページ範囲:P.332 - P.336

要約 68歳,女性.急性骨髄性白血病に対して当院血液内科で地固め療法を施行されていた.化学療法による骨髄抑制中に突然発熱とともに右大腿に圧痛を伴う皮下硬結が出現した.同時期の胸部CTで肺野に多発結節影を認めた.皮膚生検組織像では真皮〜皮下組織にかけて膿瘍の所見を認め,明らかな菌体は認めなかった.血液,皮膚穿刺液培養でCorynebacterium speciesを検出し,同菌に起因する菌血症で皮膚病変と肺病変を生じていると考えた.薬剤感受性試験で多剤耐性を示し,感受性を示したリネゾリド開始後に速やかに解熱し,右大腿の硬結は軟化し排膿した.その後皮膚・肺病変はともに縮小し,残存する皮下硬結を切除した.術後再燃はなく,肺病変はCTで瘢痕を認めるのみとなった.Corynebacterium speciesは常在菌であるが免疫不全患者では多剤耐性を示す重篤な感染症をきたす.

Mycobacterium ulcerans subsp. shinshuenseによるBuruli潰瘍の1例

著者: 結城明彦 ,   浅野幸恵 ,   伊藤薫 ,   中永和枝 ,   石井則久

ページ範囲:P.337 - P.342

要約 67歳,女性.2013年2月,右臀部に潰瘍が出現し,4月に当科を受診した.潰瘍部の病理組織中に抗酸菌を認めた.生検組織片を2%ビット培地,および2%小川培地にて25℃で培養したところ,11週でコロニーを認めた.病変部組織の遺伝子解析によりMycobacterium ulcerans subsp. shinshuense(M. shinshuense)によるBuruli潰瘍と診断した.リファンピシン,クラリスロマイシン,レボフロキサシンの3剤併用療法と,病変部の外科的切除術,分層植皮術,negative pressure wound therapyを施行し,上皮化した.抗菌薬は計7か月間投与し,投与終了後2か月で再燃を認めない.Buruli潰瘍はM. ulcerans,または近縁のM. shinshuense感染により発症する非結核性抗酸菌症で,近年,本邦ではM. shinshuenseによる皮膚潰瘍の報告が増加しており,難治性皮膚潰瘍では本疾患を鑑別に入れた検索が必要である.

Gitelman症候群に合併した乾癬様皮疹に対してマグネシウム補充療法が著効した1例

著者: 福田佳奈子 ,   指宿千恵子 ,   白井成鎬 ,   佐々木祥人 ,   足立厚子

ページ範囲:P.343 - P.347

要約 35歳,女性.手足の難治性の強い掻痒感を伴う皮疹を主訴に当科を受診した.既往歴に,Gitelman症候群があり,初診時,四肢,体幹に落屑を伴う紅褐色丘疹が散在および融合して地図状に分布するとともに,手掌足底には鱗屑を伴った紅斑,腫脹,亀裂を認めた.乾癬様皮疹と診断し,ステロイド,ビタミンD3外用,紫外線治療を行ったが,特に手足の皮疹が難治であった.経過中テタニー発作がみられた際に著明な低マグネシウム血症が明らかとなった.マグネシウムの点滴および内服による補充療法を開始したところ,皮膚症状の著明な改善を認めた.カルシウム欠乏が,乾癬および乾癬様皮疹の増悪因子であることはよく知られているが,自験例ではマグネシウム欠乏が乾癬様発疹の増悪に関与していたと考えた.自験例以外にも,マグネシウム補充が有効であったとの報告もあり,難治例では血清カルシウムとともに血清マグネシウム濃度を測定することは有意義であると考えた.

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欧文目次

ページ範囲:P.263 - P.263

文献紹介 日本人においてアトピー性皮膚炎に関連する8つのゲノム領域の発見

著者: 向井美穂

ページ範囲:P.286 - P.286

 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)は慢性の皮膚炎症性疾患であり,遺伝因子と環境因子の両方が関係すると考えられている.これまでに多くの解析が進められた免疫関連遺伝子に加え,2006年にAD患者でフィラグリン機能喪失変異が有意に多いことが報告され,皮膚バリア機能異常がAD発症に大きく関与していることも明らかになってきた.これまでに多くの治療法が検討・確立されてきたが,既存の治療では難治例も存在し,ADの病態解明とそれに基づく治療法や予防法確立が望まれている.
 著者らはゲノムワイド関連解析(GWAS:genome-wide association study)を用いてAD関連遺伝子領域を調べた.GWASでの解析対象となる一塩基多型(single nucleotide polymorphisms:SNPs)はある一塩基が他の塩基に置き換わっている変異であり,ヒトでは1,000bpに1か所の頻度で存在している.GWASではこのゲノム全体に散在するSNPsのうち,患者と健常者間で頻度差のあるSNPsを同定することにより病気に関わる遺伝子候補を同定する手法である.

文献紹介 胸腺外のAire陽性細胞は骨髄由来であり,CD4陽性T細胞を機能的に不活化させる

著者: 入來景悟

ページ範囲:P.312 - P.312

 T細胞免疫の自己寛容機構として,胸腺内で胸腺上皮にAire(autoimmune regulator)依存性に末梢組織自己抗原が発現し,T細胞教育の中枢寛容,つまりnegative selectionが行われることが知られている.近年,マウスおよびヒトの2次リンパ組織において,胸腺外にもこのAireを発現する細胞,つまりeTACs(extrathymic Aire expressing cells)が存在すると指摘されている.しかし,その特徴や免疫寛容への機序は明らかにされておらず,この論文はeTACsの由来およびその免疫寛容機序の一端を明らかにした論文である.GFP(green fluorescence protein)という蛍光蛋白をAireとともに発現する遺伝子改変マウスを用いた骨髄移植実験を行うことで,eTACsが骨髄由来であり,MHC class Ⅱ強発現,CD80低発現,CD86低発現,EpCAM強発現,CD45低発現という表現型の抗原提示細胞であることを示した.さらに,膵臓組織特異的抗原をAireとともに発現する遺伝子改変マウス,および,同抗原に特異的なCD4T細胞を用いることで,eTACsは制御性T細胞を必要としない機構によってCD4T細胞を不活化することができること,そして,その機構はCFA(complete freund’s adjuvant)による自然炎症刺激を起こしても破綻しないことを示した.近年,中枢免疫寛容を補塡しうる,末梢リンパ組織での自己免疫寛容機構の存在が指摘されており,eTACsの存在は,その重要な因子であるといえる.末梢免疫寛容機構の解明は,自己免疫疾患の発症機序の解明や腫瘍細胞の免疫回避機序の解明などへと展開していく可能性も考えられる.皮膚科疾患領域も含めて臨床的意義も大きく,重要な報告と思われる.

お知らせ 第18回皮膚病理講座 基礎編

ページ範囲:P.348 - P.348

日  時 2015年7月19日(日)10:00〜17:00/1日目
           20日(祝) 9:00〜16:00/2日目
会  場 日本医科大学 教育棟2階 講堂(〠113-8603 東京都文京区千駄木1-1-5)

次号予告

ページ範囲:P.349 - P.349

投稿規定

ページ範囲:P.350 - P.351

あとがき

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.352 - P.352

 最近日本で最初の爪白癬に有効な外用抗真菌薬が発売されたが,それ以前の抗真菌外用薬も爪白癬に有効で,保険の適用があると思っている皮膚科医(皮膚科教授も含む)が非常に多いことがわかった.今までの外用抗真菌薬は爪白癬には無効(プラセボとの比較で有意差がない)であることは,国内ばかりでなく,海外の治験でも十分証明されている.一方でラミシール®は6か月内服させると,それ以上の投与は保険で認めないという.爪白癬に対しイトリゾール®の3パルスでは治癒率は30%にも満たないが,添付書類には3パルスと記載があるので,3パルスで保険が切られても仕方ないかもしれないが,ラミシール®を6か月超えて投与してはならないとは,どこにも記載がないし,根拠もない.最もエビデンスレベルが高いLION studyは,ラミシール®の3,4か月投与群とイトリゾール®のパルス療法を3,4回行った群を1年にわたって観察した結果,ラミシール®が有意に優っているというものである.この治験ではさらに続きがあり,いったん治癒したと思われた患者をフォローアップすると,ラミシール®の3か月投与では治癒率はせいぜい50%である.日本以外の国(韓国や中国を含む)のラミシール®の投与量は250mgが標準であるが,日本では125mgなので,ラミシール®投与250mg3か月は日本ではラミシール®6か月投与に相当すると思われる.実際爪の伸びが若い人は6か月程度でも治癒する患者はいるが,爪白癬患者の多くは1年近く内服しないと治癒しない.それにもかかわらず,途中で内服をやめたら半分の患者は治癒せず,また内服を再開しなければならない.これは医療費の無駄遣いであるし,また耐性菌を誘導する.その一方で,従来の外用抗真菌薬の爪白癬使用を保険で認めている.外用薬は内服薬と比べて安いからというのは,言い訳にならない.なぜならば日本で処方されている外用抗真菌薬の20%が爪白癬に使用されおり,その金額は膨大である.さらに医薬品として認可されている保湿剤の年間の売り上げは300〜500億円といわれている.これらの保湿剤はアトピー性皮膚炎や湿疹の保険適用はないし,今ある湿疹・皮膚炎を改善させるという証拠はない(アトピー性皮膚炎の発症予防には多少役立つかもしれないが).このように保険適用でない薬を保険で通し,保険適用がある薬剤を切るという不正審査が行われている.このことを知らなかった私がいけないのであろうか.

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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