icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科69巻6号

2015年05月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・93

Q考えられる疾患は何か?

著者: 牧野輝彦

ページ範囲:P.359 - P.360

症例
患 者:65歳,女性
主 訴:口腔内のびらん,体幹の紅斑,水疱,びらん
既往歴:高血圧
家族歴:特記すべき事項なし.
現病歴:10月下旬より感冒様症状のため近医で抗生物質内服などの加療を受けた.感冒様症状は軽快したが全身倦怠感が残存し,口腔内びらんが出現してきた.11月上旬精査加療のため当院和漢診療科に入院した.入院後口腔内のびらんが悪化し体幹に水疱が出現してきたため11月下旬当科を受診した.
現 症:口唇にびらんと痂皮が,口腔内粘膜には広範囲にびらんがみられた(図1a).体幹には紅斑,弛緩性水疱,緊満性水疱を散在性に認めた(図1b).眼球粘膜に充血やびらんはなかった.両側頸部リンパ節の腫脹を認めた.

マイオピニオン

日本皮膚科学会総会はどうあるべきか

著者: 岩月啓氏

ページ範囲:P.362 - P.363

はじめに
 第113回日本皮膚科学会総会(2014年5月30日〜6月1日)の会頭として,自分自身の日本皮膚科学会総会(以下,総会)に対する考えを具現化する機会をいただいた.このたび,編集委員会から表記テーマでの執筆依頼があり,会頭として総会に何を求めたのかを総括してみたい.

今月の症例

C型慢性肝炎に対する3剤併用療法およびフェブキソスタット内服中に薬剤性過敏症症候群を発症した1例

著者: 喜多川千恵 ,   中島喜美子 ,   佐野栄紀

ページ範囲:P.364 - P.368

要約 64歳,男性.C型慢性肝炎に対し,テラプレビルを含む3剤併用療法およびフェブキソスタット内服を開始したところ,2か月半後に体幹,四肢に浸潤性紅斑,口腔粘膜疹,発熱,肝腎機能障害が出現した.頸部リンパ節腫脹を伴い,経過中にヒトヘルペスウイルス-6の再活性化を認めたため,薬剤性過敏症症候群と診断した.プレドニゾロン60mg/日内服で治療し,二峰目の症状発症に一致して出現した両肺の結節影には大量ガンマグロブリン療法が奏効した.パッチテストの結果,テラプレビルではなくフェブキソスタットのみが陽性であった.テラプレビルは皮膚障害を高率に認め,重症薬疹の原因としても報告されている薬剤であるが,皮疹出現時に原因薬剤だと安易に判断することは非常に危険であり,それ以外の薬剤が原因になっている可能性も十分考えておく必要がある.

症例報告

LDLアフェレーシスとステロイドパルス療法が有効であったと思われるコレステロール結晶塞栓症の1例

著者: 宇山美樹 ,   石井一之 ,   相川丞 ,   石河晃 ,   岩渕千雅子

ページ範囲:P.369 - P.373

要約 81歳,女性.狭心症に対し,心臓カテーテル検査を行った後,右下腿から右足趾にかけて網状皮斑が出現した.初診時,右下腿,右足底,右足背部に網状皮斑を認め,右第3,4趾は疼痛を伴い暗紫色調を呈していた.左足背と下腿の一部にも網状皮斑を認めていた.病理組織像では,真皮深層から皮下脂肪織の血管内腔に紡錘形のコレステロール裂隙を認めた.臨床経過と病理組織像よりコレステロール結晶塞栓症と診断した.治療はLDLアフェレーシスとステロイドパルス療法の併用を行った.網状皮斑は徐々に消退し,右第3,4趾のみ壊疽となり自然脱落したが,断端は上皮化した.自験例では早期のLDLアフェレーシスとステロイドパルス療法の併用が著効した.皮膚症状と腎機能障害の改善に有効な治療法であったため,若干の文献的考察も加え報告する.

発汗回復に伴い点状膨疹出現範囲が移動した減汗性コリン性蕁麻疹の1例

著者: 中澤慎介 ,   青島正浩 ,   龍野一樹 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.374 - P.378

要約 27歳,男性.半年前から高温環境作業時に熱発し,ほとんど発汗しないことに気づいた.温熱による全身性発汗試験では,無汗部位と,ある程度の発汗を認める低汗部位とが区別され,点状膨疹は低汗部位に出現していた.アセチルコリン皮内投与により低汗部位に発汗が誘発され,無汗部位では誘発されなかった.免疫組織学的検査では,低汗部位よりも無汗部位においてM3コリン作動性受容体およびアセチルコリンエステラーゼの発現が低下していた.ステロイドパルス療法を行い,発汗量の促進と発汗部位の拡大をみた.その時点の温熱負荷試験において,点状膨疹は発汗完全回復部位には出現しなくなり,その周辺の低汗部位に認められた.回復の過程でコリン性蕁麻疹の出現範囲が,発汗程度に応じて変化することが示された.

GJB6遺伝子c.31G>A変異による掌蹠角化を欠くClouston症候群の1例

著者: 林良太 ,   下村裕 ,   藤本篤 ,   伊藤雅章

ページ範囲:P.379 - P.383

要約 19歳,女性.出生時より全頭にわたり毛髪量が乏しく,細く短い毛髪を認め,爪甲の肥厚を伴っていた.その後も毛髪は伸長せず,爪症状も改善しないため,精査目的に当科を受診した.発汗,歯牙は正常.掌蹠の角化は認めなかった.乏毛症,爪甲の肥厚からClouston症候群を疑い,原因遺伝子であるGJB6遺伝子を解析した.その結果,患者のGJB6遺伝子に,ミスセンス変異c.31G>A(p.Gly11Arg)がヘテロで同定された.Clouston症候群は乏毛症,爪甲の肥厚,掌蹠の角化を3徴候とする常染色体優性遺伝性疾患であり,コネキシン30をコードしているGJB6遺伝子が原因遺伝子であることが知られているが,本邦での報告はきわめて少ない.本症例は,掌蹠角化症を伴わない臨床像を呈する非典型的な症例であると考えられた.

末梢性顔面神経麻痺を併発し,皮疹にタクロリムス外用が奏効したびまん浸潤型皮膚サルコイドの1例

著者: 小幡祥子 ,   伊勢美咲 ,   安田文世 ,   木花いづみ ,   栗原誠一

ページ範囲:P.384 - P.388

要約 65歳,女性.初診の2か月前から顔面に自覚症状のない紅斑が出現し,2日前から右閉眼困難,口角下垂を自覚していた.初診時,前額部,頰部,下顎部に左右対称に分布する浸潤性紅斑があり,病理組織像で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を確認した.他臓器に病変はなく,各種検査に異常を認めず,びまん浸潤型皮膚サルコイドと診断した.顔面神経麻痺に対し,プレドニゾロン最大60mg/日短期投与を行い,麻痺は約2か月で軽快したが,皮疹には無効だった.タクロリムス軟膏外用が奏効した.顔面神経麻痺,ぶどう膜炎,耳下腺腫脹を3徴候とするHeerfordt症候群には当てはまらないが,時期を違えて他の徴候が出現する可能性もあると考えた.サルコイドーシスの皮疹に対しタクロリムス軟膏が奏効した既報告例は,本邦でも散見されており,ステロイド外用や光線療法無効例には治療の選択肢の1つとなりうると考えた.

両口角部に生じた結節性皮膚アミロイドーシスの1例

著者: 森志朋 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.389 - P.392

要約 53歳,男性.8か月前より両口角外側に皮疹が出現した.近医を受診し抗菌剤外用や抗菌剤内服治療を開始したが増大するため当科を受診した.両口角外側に米粒大から小豆大の丘疹が集簇し局面を形成していた.血液検査や胃・肝生検で異常所見はなく,皮疹部生検病理組織像で真皮から皮下組織にかけて淡紅色に染まる無構造物質の沈着を認めた.この物質はDFS染色で橙赤色に染色され沈着物辺縁の血管周囲には形質細胞が散見された.臨床および病理組織所見,血液検査や全身精査結果より結節性皮膚アミロイドーシスと診断した.各種外用治療やステロイド局所注射は無効であり外科的切除を行った.しかしながら多発例では稀に全身性アミロイドーシスへの移行が報告されているため長期にわたる経過観察が必要である.

Birt-Hogg-Dubé症候群の1例

著者: 浅見友梨 ,   清水真 ,   磯野公美 ,   唐沢卓生 ,   長瀬佳代 ,   嘉陽織江 ,   大野稔之 ,   水野秀紀 ,   森谷鈴子 ,   泉美貴 ,   古屋充子

ページ範囲:P.393 - P.396

要約 67歳,男性.繰り返す自然気胸と比較的稀とされる嫌色素性腎細胞癌があり,Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群が疑われ,当科を紹介された.頸部にacrochordon,背部に2mm大の常色丘疹の散発を認め,皮膚生検病理組織像はfibrous papule of the noseに一致するものであり,毛囊と間葉系組織の増殖という点でBHD症候群による皮膚症状であると考えた.遺伝子解析にてFLCN遺伝子に変異を認めBHD症候群と診断した.自験例のように比較的稀な組織型の腎細胞癌をみた場合にはBHD症候群を鑑別に挙げるべきである.また気胸は比較的早期に認められ,生命予後にかかわる腎腫瘍の早期発見のためにも,反復性/家族性気胸の患者の皮膚症状に留意し,BHD症候群を鑑別に挙げるべきである.

有茎性,広基性,半球状を呈した単発型表在性脂肪腫性母斑の3例

著者: 萩原ゆかり ,   新山史朗 ,   鈴木琢 ,   福田英嗣 ,   加藤景一 ,   横内幸 ,   向井秀樹 ,   松岡芳隆

ページ範囲:P.397 - P.401

要約 症例1:28歳,男性,左大腿部に55×35×35mm大,茎部25mm径,淡紅色で分葉状,弾性軟の有茎性結節を認めた.症例2:63歳,男性,右鼠径部に60×35×37mm大,常色と淡紅色が混在する表面平滑,弾性軟の広基性結節を認めた.症例3:50歳,女性,右前腕に10×8mm大,黄色で半球状,弾性軟の結節を認めた.病理組織学所見は3例とも,真皮浅層以下に脂肪組織が増殖し,特に真皮浅層の血管周囲にその増殖像がみられた.脂肪組織間に膠原線維の増生があり,膠原線維の変性,膨化も認めた.単発型表在性脂肪腫性母斑と診断した.表在性脂肪腫性母斑の臨床像は多発型と単発型に区別され,単発型は局面型,ドーム状,半球状,広基性,有茎性などに大別できる.症例2の経過,および自験例3症例から,単発型表在性脂肪腫性母斑は経時的に半球状から広基性,有茎性に移行し,最終型は有茎性になる可能性が考えられた.

脂漏性角化症の病変内に生じた基底細胞癌の1例

著者: 本田由貴 ,   劉祐里 ,   大日輝記 ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   桜井孝規 ,   椛島健治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.402 - P.406

要約 76歳,男性.左頰部の黒褐色結節を主訴に受診した.ダーモスコピーではbrain-like appearance, comedo-like openingsを伴う褐色結節病変の中央に,角化を伴う黒色病変を認め,同部位の皮膚生検,病理組織像より基底細胞癌と診断した.切除標本の病理組織像では脂漏性角化症の病変に連続して基底細胞癌を認めた.組織型はそれぞれ脂漏性角化症が角質増生型と網状型,基底細胞癌が腺様型であり,合併例の組織型としてはこれまで報告のないものであった.脂漏性角化症は良性の皮膚腫瘍であるが,皮膚悪性腫瘍との合併例が報告されており,なかでも基底細胞癌との合併が最も多いとされている.自験例では脂漏性角化症の病変内に連続して基底細胞癌が発生していたが,両腫瘍の鑑別に有用とされるダーモスコピーでは典型的な所見は得られず,皮膚生検実施前には基底細胞癌の診断には至らなかった.脂漏性角化症の病変内に非典型的な所見を認めた際には,皮膚生検による精査が望ましいと考えた.

腹部に生じた微小囊胞性付属器癌の1例

著者: 荒木勇太 ,   川口雅一 ,   矢口順子 ,   門馬文子 ,   伊藤義彦 ,   山川光徳 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.407 - P.410

要約 33歳,男性.初診の約2年前から下腹部に小指頭大の紅色腫瘤が生じ近医を受診した.生検を施行したところ,真皮全層にかけて,管腔構造を伴った島状,索状の腫瘍胞巣が多数増殖しており,微小囊胞性付属器癌(microcystic adnexal carcinoma:MAC)と診断した.腫瘍より1.5cm離して筋膜上で腫瘍を切除し術後8か月経過したが,局所再発や転移は認めていない.MACは中高年の顔面に好発する皮膚付属器悪性腫瘍であり,自験例のように腹部に発生する例は稀である.過去には限局性強皮症から発生した腹部のMACが報告されているが,前駆症状のない腹部の皮膚より生じた報告例は自験例が初めてとみられる.

軟部組織に発症した脈管肉腫の2例

著者: 辻岡馨 ,   大橋理加 ,   谷冴香 ,   奥村慶之 ,   西端和哉 ,   楠葉展大 ,   辻花光次郎

ページ範囲:P.411 - P.416

要約 症例1:41歳,男性.初診2か月前に左こめかみに有痛性皮下腫瘤が出現した.病理組織学的に病変は深部脂肪層から筋層にかけて存在し,核異型を示す紡錘形ないし類上皮様の細胞が増殖し,細胞間に出血がみられた.腫瘍細胞はCD31,FVⅢag陽性であった.原発巣を切除し,タキサン系抗癌剤を投与した.症例2:41歳,男性.両側の気胸と囊胞内出血をくり返し,肺生検所見から脈管肉腫の転移を疑われた.全身検索で左足関節部外側下方に約5年前から気づいていた皮下腫瘤を認めた.病理組織学的に病変は皮下脂肪,筋膜,腱,筋層に及んでいた.紡錘形および類上皮様の細胞が混在増殖し,偽管腔様構造もみられた.腫瘍細胞はCD31,CD34,FVⅢag陽性であった.原発巣を切除し化学療法を試みたが,喀血をきたして永眠した.軟部組織に発生する脈管肉腫は稀であり,皮膚に発生するものと比べて多様な疫学的特徴,形態学的特徴を示すので臨床的に注意を要する.

脾臓破裂によって転移が明らかになった頭部血管肉腫の1例

著者: 山上優奈 ,   嘉山智子 ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   椛島健治 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.417 - P.420

要約 81歳,男性.79歳時,左前頭部に約1.5cm×2cmのドーム状の紫褐色腫瘤および周囲に紫斑を伴う径1cm程の小結節を認めた.病理組織検査で血管肉腫と診断し,腫瘍切除と分層植皮術を施行した.術後より遺伝子組み換えインターロイキン2(IL-2)投与を開始したが,植皮辺縁に再発を認め,パクリタキセル(70mg/m2)と電子線照射(計70Gy)の放射線化学療法を開始し,化学療法は継続した.初診より約3年後,出血性ショックで来院した.CTでは,肝・脾臓に血管肉腫の多発転移と脾臓転移巣からの出血を認めた.緊急で脾動脈に対して経カテーテル動脈コイル塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)を施行し,活動性出血は消失した.しかし,入院7日目に脾臓転移巣からの再出血のため死亡した.皮膚原発の血管肉腫の脾臓転移は非常にまれで,原発性か転移性かにかかわらず,破裂前の脾摘出術が推奨される.自験例では全身状態不良のため,TAEを施行した.血管肉腫の脾臓転移は臨床症状に乏しく発見が遅れることがあり注意を要する.

皮下結節の生検から多臓器症状の診断に至ったIgG4関連疾患の1例

著者: 岡本奈都子 ,   野々村優美 ,   林雄二郎 ,   山本鉄郎 ,   十一英子

ページ範囲:P.421 - P.426

要約 70歳,男性.2004年,胸部X線検診にて異常陰影を指摘され,以後慢性閉塞性肺疾患と喘息の診断で加療されていた.同時期より顎下腺腫脹が,その後左眼瞼の腫脹が出現した.2012年にPET-CTを施行され,肺野の異常陰影,涙腺と顎下腺の腫大とともに,両上腕にFDG集積亢進を伴う皮下結節を認めたため,当科紹介となった.左上腕外側の皮下結節を生検した病理組織像で,リンパ球・形質細胞の浸潤が著明で,IgG4陽性形質細胞50個/HPF,IgG4/IgG陽性細胞比40%以上であった.血清IgG4も4,160mg/dlと著明高値で,IgG4関連疾患との診断に至った.プレドニゾロン30mg/日を投与し,皮下結節などの症状は消失し血清IgG4は低下した.IgG4関連疾患は,2001年に最初に報告された新しい疾患概念で発症機序は不明の多臓器病変である.皮膚病変の報告はまだ少ないが診断の契機となることがあり,鑑別疾患として念頭に置くことが重要である.

マムシ咬傷の1例—重症化の予測について

著者: 浜出洋平 ,   山本修司 ,   佐藤英嗣

ページ範囲:P.427 - P.430

要約 41歳,男性.右母指をマムシに咬まれ,2時間後に受診した.初診時に右前腕の腫脹を認め,翌日には右腕全体に腫脹が進行し,血清中のクレアチンキナーゼ(CK)とミオグロビンの高値も認めた.マムシ抗毒素血清を投与し,症状は第4病日から軽快傾向となり,腎不全などの合併症を起こさず退院した.マムシ咬傷は時に致命的となるため,末梢血白血球数(WBC)やCK値から重症化する可能性が高い症例の予測を含めたマムシ咬傷治療フローチャートを作成した.このフローチャートの重症化予測項目に該当した場合は,重症化に備えて速やかに高度治療へ移行できるような体制を整えておくことが重要である.

動物疥癬の1家族例—タヌキから感染した飼いイヌとの接触により発症

著者: 松尾典子 ,   谷口裕子 ,   大滝倫子

ページ範囲:P.431 - P.434

要約 症例1:67歳,男性.体幹,大腿に掻痒の強い丘疹が多発し,当科を受診した.初診時,体幹,大腿前面に粟粒大の紅斑性丘疹が多数散在していた.症例2:65歳,女性.症例1の妻.体幹,大腿部に掻痒の強い丘疹が多数みられた.飼いイヌに脱毛,痂皮を生じ,初診10日前に動物病院でイヌ疥癬と診断されていた.持参した飼いイヌの痂皮の鏡検でヒゼンダニの虫体・卵を多数認めたが,症例1,2ともに皮疹から虫体,卵は検出されず動物疥癬と診断した.イヌの発症前より自宅周辺に脱毛のあるタヌキが出没し,イヌの飼育場所でタヌキに餌やりをしていた.飼いイヌに他のイヌとの接触はなく,イヌ科であるタヌキの疥癬が飼いイヌに感染し,イヌとの接触で家族が発症したと考えた.イヌは獣医よりイベルメクチンを投与され,家族はステロイド外用,抗アレルギー薬内服を行い治癒した.症例1は難治であったため問診したところ,夜間未治癒のイヌと寝ていたことが判明した.罹患動物の隔離の重要性を再認識した.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.357 - P.357

文献紹介 進行期悪性黒色腫に対するBRAF阻害薬・MEK阻害薬の併用療法

著者: 八代聖

ページ範囲:P.378 - P.378

 悪性黒色腫ではBRAF-MEK-ERK(MAPK)経路が重要な役割をしている.BRAFV600変異陽性悪性黒色腫患者において,BRAF阻害薬(ダブラフェニブ,ベムラフェニブ)が無増悪生存期間を延長させることが知られているが,一方でBRAF阻害薬に対する耐性の獲得や,他経路からのMAPK経路活性化による二次性皮膚癌の発生への対処が課題となっている.今回の2論文はともに第Ⅲ相試験で,BRAF阻害薬にMEK阻害薬(トラメチニブ,コビメチニブ)を併用することで,BRAF阻害薬単剤で認める問題点の改善につながり,予後が改善すると報告されており紹介する.
 切除不能のⅢC期またはⅣ期のBRAFV600EまたはV600K変異陽性悪性黒色腫で未治療の患者423例を対象として,ダブラフェニブ+トラメチニブ投与(併用群)と,ダブラフェニブ+プラセボ投与(対照群)に無作為に割り付けた試験では,主要評価項目である無増悪生存期間中央値は,併用群9.3か月,対照群8.8か月であった.また,切除不能の局所進行または転移性のBRAFV600変異陽性悪性黒色腫で未治療の患者495例を対象として,ベムラフェニブ+コビメチニブ投与(併用群)とベムラフェニブ+プラセボ投与(対照群)に無作為に割り付けた試験では,主要評価項目である無増悪生存期間中央値は,併用群9.9か月,対照群6.2か月であった.両者の試験において,併用療法群では二次性皮膚癌の発生数が少なかった.有害事象の発生率は,対照群と比べると併用群において同程度からやや頻度が高かった.有害事象としては発熱が最も多く,治療を中止するほどの重症なものは多くなかった.

文献紹介 βカテニンはメラノサイトの遊走能を抑制する一方,メラノーマの転移を促進する

著者: 中村善雄

ページ範囲:P.406 - P.406

 Wnt-βカテニンシグナルは,主に組織の発生段階において細胞質内のβカテニンが核内に移行することで活性化する.がんではそのシグナル伝達経路の構成因子に遺伝子異常が起こることで核内にβカテニンが集積し,細胞にがん細胞としての性質をもたらしている.核内βカテニンの集積は,一般的な癌腫では予後不良因子となる一方で,メラノーマでは予後良好因子となることが知られている.この理由を探るべく,著者らはWnt-βカテニンシグナル伝達経路がメラノーマとメラノサイトの遊走・転移能に及ぼす影響を解析している.
 不死化したメラノサイトを用いたin vitroの実験では,シグナルを活性化することと核内にβカテニンを強発現することで遊走能が抑制されることを示した.また,メラノサイト特異的にβカテニンを強発現するトランスジェニックマウスを用いた実験では,核内βカテニンがメラノサイトの遊走を阻害することを証明した.さらに,βカテニンの核内強発現によってMITFとCSKの発現が誘導され,遊走能の抑制が起きることを不死化メラノサイトとメラノーマ細胞株を用いて示している.その一方,メラノサイト特異的に変異型NRASを発現させたメラノーマモデルトランスジェニックマウスにメラノサイト特異的にβカテニンを強発現するマウスを交配させた検討においては,βカテニン強発現群において肺転移がより高率に認められることが確認された.以上の結果より,Wnt-βカテニンシグナルは転移の初期段階の一プロセスである遊走能には抑制的に働くが,それ以後のプロセスにおいては促進的に働く可能性が示唆された.

次号予告

ページ範囲:P.435 - P.435

あとがき

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.438 - P.438

 褒めてあげないと人は育たないといわれる.それを反映するように,昨今の学会や雑誌では表彰流行りである.演奏会などでも,最後に個々の演奏者を立たせて観客の賞賛を浴びさせる光景をよく見かけるようになった.しかし,褒められて育った人は,褒められないと意欲を保てないという弊害に陥る.
 筆者は若いころ,対照的な2つの基礎の研究室で大学院生活を送った.1つは,比較的ゆるい環境で,そこにいる先輩は何をやっても褒めてくれる人だった.お蔭で大して勉強しなくても程々の評価を受け,自惚れ状態になっていった.しかし,次に行った研究室では,手厳しく批判する先輩がいて,当然のことながら筆者の研究は酷評された.しかも年輩の実験補助の人からは研究室での作法を細々と注意された.あろうことか,その手厳しい先輩は筆者に,そんなつまらない研究は止めて,自分の研究を手伝えと宣うたのである.もちろん唯唯諾諾と受け入れるはずもなく,“先輩の仕事もそんなに面白いとは思えません”と反論し,その“つまらない”研究を続けた.しかし後年,その時代に多くの厳しい批判を受けたことが,研究を続けていくうえでどれほど役立ったかわからないと思うようになった.以来,褒められたことは忘れ,酷評されたことをよく覚えるようにした.それは自分の自惚れを戒め,甘さ,至らなさを克服するのに大いに役立つからである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?