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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科69巻7号

2015年06月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・94

Q考えられる疾患は何か?

著者: 谷岡未樹

ページ範囲:P.445 - P.446

症例
患 者:30歳,男性
主 訴:下腿潰瘍
既往歴:初診の前年に原因不明の腎不全にて人工透析が導入されている.
家族歴:父に高血圧.
現病歴:11月に両下腿の潰瘍と多発する結節性痒疹を主訴に当院皮膚科を受診した.外来で保存的に加療していたが,潰瘍は拡大し疼痛が著しいため,翌年4月当科に入院した.
入院時現症:径5〜10cm大の潰瘍が左右下腿の内外側に4か所みられた.辺縁は発赤し疼痛が著しかった(図1).

マイオピニオン

「小児慢性特定疾病」の新たな制度について

著者: 新関寛徳

ページ範囲:P.448 - P.449

 1. はじめに
 小児慢性特定疾病とは,小児期に発症し,慢性的な経過をとり,長期にわたり治療が必要で,医療費の負担が高額となる疾患のことです.皮膚科医のみなさんにとっては,小児科の先生が担当というイメージが強いかもしれません.本年1月に旧制度が見直され,助成対象の皮膚疾患についても若干の変更がありましたので本稿でご紹介させていただきます.

今月の症例

急激な転帰をとった新生児Langerhans cell histiocytosisの致死例

著者: 塩見真理子 ,   山田琢 ,   井上道夫 ,   内野かおり

ページ範囲:P.450 - P.453

要約 日齢0,女児.在胎33週3日,経腟分娩で出生した.出生時から全身に紫斑,血疱,びらん,血痂を認めた.皮膚症状に対してはびらん面の保護のためアズノール外用などにて治療を開始したが,生後1日目より低血圧,徐脈が進行し,生後2日目に死亡した.病理組織像では真皮浅層に類円形の核を持ち,淡い胞体を有する組織球様細胞が密に浸潤していた.免疫染色でS100蛋白,CD1aが陽性で,電子顕微鏡でBirbeck顆粒を認めた.以上よりLangerhans cell histiocytosis(LCH)と診断した.急速にきわめて不幸な転帰をとった新生児LCHの1例を経験した.これまでの報告では自験例のような重篤な皮膚症状をきたした症例はなかったため報告する.

症例報告

インドネシア(バリ島)から帰国後チクングニア熱を発症した1例

著者: 岩渕千雅子 ,   宇山美樹 ,   根岸亜津佐 ,   川村雄大 ,   石河晃 ,   高崎智彦

ページ範囲:P.454 - P.458

要約 50歳,男性.2014年3月に9日間滞在したバリ島から帰国後,2日目に発熱,腰背部痛,膝関節痛が,5日目に手背に紅斑が出現し,足背,手背の発赤,腫脹を伴い急速に全身に拡大した.バリ島の知人がデング熱を発症していたためデング熱を疑われ入院した.血清中のデングウイルス遺伝子検査および抗体価はともに陰性だったが,チクングニアウイルス遺伝子検査およびIgM抗体が陽性で,チクングニア熱と確定診断した.発症8日目で解熱し,皮疹は3日間でほぼ消退した.皮膚病理組織像では血管周囲性のリンパ球浸潤と表皮基底層の液状変性を認めた.近年.チクングニア熱は再興感染症として世界的な流行の拡大が危惧されている.本邦では輸入症例の報告のみではあるが.ウイルスを媒介するヒトスジシマカは日本にも生息しており,国内での流行の可能性がある.熱帯,亜熱帯地域からの帰国者において,チクングニア熱を鑑別し,迅速に診断することが重要である.

皮疹が診断契機になった新生児ヘルペスの1例

著者: 高橋奈々子 ,   渡辺秀晃 ,   北見由季 ,   秋山正基 ,   末木博彦 ,   清水武

ページ範囲:P.459 - P.462

要約 日齢4日,女児.切迫早産・帝王切開で出生し新生児集中治療室へ入院した.日齢0日に右下眼瞼に1個,臍部に2個の小水疱が出現し,日齢4日に当科に診察を依頼された.水疱部スメアの蛍光抗体直接法で単純ヘルぺス(HSV)-2型を検出し,髄液検査にて細胞数の上昇を認めたことから中枢型新生児ヘルペスと診断した.肝機能障害はなかった.後日,髄液からHSV-DNAを検出し,MRIで脳炎の所見も認めた.治療として初診日よりアシクロビル(ACV)60mg/kg/日の点滴加療を開始した.水疱は痂皮化し3週間でいったん投薬を中止したが,その10日後に左第2指に水疱が新生したため内服を半年間継続した.以降2年間に2回皮膚にのみ再発を認め,約1か月間ACVを内服した.後遺症として左不全麻痺を残した.本症では早期診断,治療開始が予後改善につながることから,新生児に小水疱を見た場合は本症を念頭に置いた検査が必要である.

ナローバンドUVB療法が奏効した急性痘瘡状苔癬状粃糠疹の1例

著者: 西本周平 ,   川崎洋 ,   福田理紗 ,   高江雄二郎 ,   永尾圭介

ページ範囲:P.463 - P.467

要約 61歳,女性.13年前より両下腿に掻痒を伴わない紅色丘疹が出現し,多発・増数した.当院受診の約1か月前より急激に悪化したため近医を受診した.皮膚生検病理組織にて急性痘瘡状苔癬状粃糠疹(pityriasis lichenoides et varioliformis acuta:PLEVA)と診断され,ステロイド外用したが改善しなかった.当院を紹介受診し,ナローバンドUVB療法を開始した.週1回の照射により照射開始から2か月で皮疹は消退した.その後は照射頻度を2週間に1回と減らしたが1年以上にわたり皮疹の再燃を認めていない.PLEVAの治療に確立したものはなく,ステロイドやタクロリムスの外用,ジアフェニルスルホン,ミノサイクリン,クラリスロマイシンの内服などが用いられてきたが,治療に難渋することも多い.近年,自験例を含め,PLEVAに対するナローバンドUVB療法の有効性が示されつつある.他の治療法に比べ副作用が少ないことから,積極的に選択すべき治療法と考えた.

全身性サルコイドーシスに伴い黒色刺青部のみが隆起した刺青サルコイドーシスの1例

著者: 中村謙太 ,   河内繁雄 ,   大橋敦子 ,   古賀弘志 ,   宇原久 ,   江石義信 ,   奥山隆平

ページ範囲:P.469 - P.473

要約 41歳,男性.約20年前に上腕,体幹,大腿に,黒,緑,青,赤色,黄色の刺青を施した.1年前から両眼ぶどう膜炎を発症した.両側の肺門リンパ節腫脹,血清ACE値上昇,気管支肺胞洗浄液でリンパ球増加とCD4/8比上昇を認めた.半年前から黒色刺青部に一致した隆起性浸潤局面を認め,生検病理組織像で黒色色素を取り込んだマクロファージを含む類上皮肉芽腫を認めた.全身性サルコイドーシスに伴った刺青サルコイドーシスと診断した.刺青部位に皮疹がみられた場合は,サルコイドーシスを鑑別疾患の1つとして診断を進めることが重要である.

結節性紅斑を伴ったサルコイドーシスの1例

著者: 竹林英理子 ,   内田敬久 ,   野崎由生 ,   守屋真希 ,   池田信昭 ,   一山伸一

ページ範囲:P.474 - P.478

要約 39歳,女性.初診の2週間前より両膝蓋部に鱗屑を伴う径20mmまでの不整形紅色結節と両下腿に有痛性の皮下硬結を複数認めた.皮膚生検病理組織像では,膝蓋部では真皮に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が多数あり,下腿では真皮下層から皮下組織にかけて中隔性脂肪織炎が確認された.血液検査ではACE・リゾチームは正常であったが,画像検査にて両側肺門部と縦隔リンパ節腫脹を認めた.結節性紅斑を伴ったサルコイドーシスと診断し,ステロイド内服で軽快した.下腿の皮疹はサルコイドーシスの特異疹である結節性紅斑様皮疹と非特異疹である結節性紅斑との鑑別を要した.

バルサルタンによる薬剤誘発性水疱症の2例

著者: 陳怡如 ,   関根万里 ,   中尾由絵 ,   古屋紳子 ,   石河晃

ページ範囲:P.479 - P.483

要約 症例1:74歳,男性.バルサルタンを約7年内服後,手足を中心に下顎,四肢の内側に紅斑,水疱とびらんが出現.抗BP180抗体陽性.バルサルタンで薬剤添加リンパ球幼若化試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)陽性.バルサルタンの内服中止とステロイド外用にて皮疹は消退し,内服誘発テスト開始22日目で皮疹が誘発された.症例2:82歳,女性.バルサルタン内服4か月後より体幹および外陰部にびらんと紅斑,弛緩性水疱が出現.デスモグレイン1抗体陽性.バルサルタンでDLST陽性.バルサルタン内服中止と,プレドニゾロン内服で症状は寛解した.デスモグレイン1およびBP180という性質の全く異なる分子に自己免疫が誘導されたことはバルサルタンがSH基含有薬剤と同様なさまざまな自己免疫性水疱症を誘導しうることが示唆されるため,自己免疫性疾患の診断の際には注意が必要な薬剤であると考えた.

ロドデノール含有化粧品による脱色素斑の1例

著者: 田中諒 ,   齋藤京

ページ範囲:P.485 - P.489

要約 45歳,女性.ロドデノール含有化粧品を使用開始し,数か月後から使用部位に脱色素斑を生じた.その後も脱色素斑は拡大,融合傾向を示したため使用開始23か月後に当院を受診した.初診時,両側頰部,前額部,頸部に紅潮と掻痒感を伴う鶏卵大までの不完全脱色素斑が不整に融合していた.同日より化粧品使用を中止しステロイド軟膏を外用したところ,2週間で紅潮や掻痒感は消失した.その後,治療は行わず経過観察とし,脱色素斑は初診3か月後には不明瞭化し,初診1年後の時点でほぼ消退した.ロドデノールはメラニン産生抑制効果を有する有効成分として2008年に認可されたが,不整な脱色素斑の原因として問題となった.現時点ではロドデノールによる脱色素斑の成因の詳細は不明だが,自験例の経過や調査結果報告書からは使用中止で皮疹の改善が期待できると考えた.

晩発性皮膚ポルフィリン症の1例

著者: 福島彩乃 ,   小幡祥子 ,   市村佳子 ,   藤尾由美 ,   木花いづみ

ページ範囲:P.491 - P.496

要約 66歳,男性.アルコール多飲歴あり.夏に頭や手にびらんが出現し,抗生剤やステロイド剤外用で改善しなかった.露出部皮膚は赤銅色を呈し,頭頂部や顔面,手背に水疱やびらんが多発し,頭頂部では色素脱失や脱毛を伴う瘢痕が目立った.尿は赤色尿を呈しWood灯下で赤色に蛍光を発し,肝機能障害とフェリチン高値,尿中コプロポルフィリンとウロポルフィリンの上昇を認めた.病理組織像で表皮下水疱,真皮血管壁にPAS染色陽性の沈着物を認めた.晩発性皮膚ポルフィリン症と診断し,禁酒,遮光,瀉血療法を行いびらんは上皮化したが,頭頂部では瘢痕が残り再発毛を認めなかった.本症ではポルフィリン体の光毒性反応による局所の炎症,血管障害,膠原線維への直接作用で多彩な皮膚症状を呈する.慢性期の瘢痕,皮膚硬化は不可逆性病変となるため早期の診断が重要である.本症が疑われる際は尿の目視やWood灯によるスクリーニング検査が有用である.

右手部に生じた脂肪芽腫の1例

著者: 戎谷昭吾 ,   最所裕司 ,   稲川喜一 ,   長島史明 ,   木村知己 ,   井上温子 ,   赤松誠之 ,   山崎由佳

ページ範囲:P.497 - P.501

要約 1歳7か月,男児.右手背に直径約3cm大の腫瘤を認めた.腫瘤は触診上境界明瞭であり,弾性硬で手指機能に異常はみられなかった.体表超音波,単純CT,単純MRIでは内部に不均一な隔壁構造を認め,脂肪芽腫を疑う所見であった.病理組織学的所見では脂肪芽細胞が散見され,脂肪芽腫と診断した.脂肪芽腫は画像検査では特有の所見に乏しく,診断には病理組織学的所見を要する.手に発生した脂肪芽腫の症例は稀であり,本邦では3例目であった.非常に再発率の高い腫瘍であるため,完全切除を行った症例でも長期間にわたる術後経過観察が重要である.

局所多発性神経鞘腫の1例

著者: 石川佳代子 ,   寺内雅美 ,   中束和彦 ,   細田利史

ページ範囲:P.502 - P.504

要約 6歳,女児.2年前より徐々に腫大する左臀部皮下腫瘤を認め受診した.左臀部尾側皮下に6.5×4cm大で境界明瞭な弾性硬の腫瘤を触れた.MRI検査で臀部皮下より一部殿筋内に入り込むmassを認め神経系腫瘍が疑われた.頭部MRIでは明らかな異常を認めなかった.摘出術を行い病理組織所見より局所多発性神経鞘腫と診断した.今回の症例では早期に一塊として腫大してきたこと,大臀筋より表在で皮膚表面に近い部位に発生し神経脱落症状を示さなかったことより,摘出した付近を支配する末梢知覚枝から多発性に発生したと考えられた.

Bowen病の若年成人例

著者: 東福有佳里 ,   延山嘉眞 ,   伊藤義彦 ,   中川秀己

ページ範囲:P.505 - P.508

要約 26歳,男性.約3年前より,右大腿に紅色局面を認めていた.初診時,右大腿外側に長径20mmの不整形で痂皮が点状に散在する淡紅色局面を認めた.病理組織学的所見では,表皮全層に極性の欠如する大小不同の核をもつ異型細胞の増殖を認めた.異型細胞は,粗大なクロマチンの凝集を認める核,目立つ核小体,そして,両染性の細胞質を有していた.また,多核巨細胞,異常角化細胞,細胞分裂像も認めた.抗human papilloma virus(HPV)抗体を用いた免疫染色は陰性,PCR法を用いた検索でHPV特異的DNAは検出されなかった.以上よりBowen病と診断した.国内外で臨床像の記載がある40歳未満での報告は16例ある.高齢発症例と比べ,男性に多く,臨床像は黒色調が多く,部位は指が多く,推定される原因はHPVが多い.自験例は,発症年齢のみならず,若年発症例のなかでも,下腿に発症し,HPVの関与がない淡紅褐色局面という稀な臨床像を呈した.

多中心性細網組織球症の1例

著者: 壷井聡史 ,   小林紘子 ,   森本謙一 ,   米原修治 ,   壷井ひとみ

ページ範囲:P.509 - P.514

要約 69歳,男性.初診の数年前より四肢に関節痛があり,整形外科で加療されていた.初診の半年前より体幹,四肢に自覚症状のない中心臍窩を伴う紅色丘疹が生じ,近医皮膚科にてステロイド外用や光線治療などさまざまな治療を受けたが改善しないため,当科を紹介され受診した.皮膚生検にて,真皮内に多数の組織球からなる肉芽腫を認めた.関節痛と病理組織検査結果から多中心性細網組織球症と診断した.ステロイド,メトトレキサート内服により皮疹,関節痛ともに著明に改善した.自験例のように通常皮膚色から茶褐色の硬い丘疹を散在性に認める場合は関節所見などの問診や生検を行い多中心性細網組織球症を疑って診断を進める必要があると考える.

臀部に著明な発赤・腫脹・熱感を伴う巨大腫瘤を形成した節外性辺縁帯リンパ腫の1例

著者: 杉田美樹 ,   川瀬正昭 ,   江藤隆史 ,   水地大輔

ページ範囲:P.515 - P.519

要約 73歳,女性.乾癬診察時に,1年前に右臀部打撲部に生じた熱感,発赤を伴う径14cm大の紅色腫瘤を偶然見つけた.皮下血腫の2次感染や蜂窩織炎,丹毒の所見に類似していたが経過が長期のため好中球性皮膚症や悪性リンパ腫を疑い皮膚生検を施行した.病理組織像で真皮深層までにbottom-heavyな傾向を示すリンパ球,単球様細胞浸潤を認めた.画像上右鼠径リンパ節腫大を認め,同部の生検病理組織像より免疫染色で辺縁帯リンパ腫と診断した.化学療法(R-CVP療法)を6クール施行し腫瘤はほぼ消退した.発赤・腫脹を伴う腫瘤を認めた場合,感染症以外に好中球性皮膚症や悪性リンパ腫の皮膚浸潤を鑑別に考える必要がある.

自然消退後に血管内浸潤し再発したCD5陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の1例

著者: 伊東可寛 ,   五味博子 ,   山崎一人 ,   石田康生 ,   小松恒彦 ,   早川和人

ページ範囲:P.521 - P.526

要約 79歳,女性.初診5か月前に右頸部,右肩部に約2cmの皮下結節を複数認めた.生検病理組織にて真皮から皮下にかけて不整類円形に腫大した核を有する大型の異型細胞が充実性に増生し,免疫組織化学染色でCD79a,CD20,CD5,CD10,MUM1,BCL-2,BCL-6は陽性,CD3およびcyclin D1は陰性でありCD5陽性びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断した.PET-CTで異常集積を認めず,未治療で病変は自然消退したが2年後に両側下肢に板状硬の局面,爪甲大の皮下硬結が出現し疼痛および浮腫を認めた.生検病理組織にて真皮から皮下組織の拡張した血管内に異型細胞が充満し,免疫組織化学染色は前回と同様の所見であり再発と考えた.PET-CTで右鼠径部および両側大腿部の皮膚に集積亢進を認め,R-CHOP療法を施行した.CD5陽性びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫では血管内浸潤をきたす可能性に留意すべきである.

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欧文目次

ページ範囲:P.443 - P.443

文献紹介 皮膚常在細菌と樹状細胞の相互作用は防御皮膚免疫独特の特徴を規定する

著者: 福田桂太郎

ページ範囲:P.508 - P.508

 近年,腸内の常在細菌が免疫系に重要な役割を果たすことが明らかにされてきている.腸管同様,皮膚には表面に多様な常在細菌が共生することから,免疫系に関わる皮膚常在細菌が存在すると著者らは考えた.そこで,皮膚免疫応答を引き起こす菌を同定すべく,マウスの皮膚表面にマウスやヒトの皮膚常在細菌を外用し,免疫応答が生じるか調べた.その結果,調べた8種類中6種類の皮膚常在細菌が,皮膚のIL17AまたはIFNγ産生T細胞を外用しなかったときと比べ,有意に増加させることがわかった.
 6種類の皮膚常在細菌の中で,唯一,表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)は皮膚のIL-17A産生CD4陽性T細胞ではなく,IL-17A産生CD8陽性T細胞(Tc17細胞)を有意に増加させた.著者らは,Tc17細胞が関係するS. epidermidis特有の免疫応答に興味を持ち,そのメカニズム解析を進めた.

文献紹介 食物中の乳化剤はマウスの腸内細菌叢に影響し,大腸炎やメタボリックシンドロームを引き起こす

著者: 川崎洋

ページ範囲:P.514 - P.514

 腸管内には多様な微生物が大量に生息しており,宿主に対して重要な役割を担っている.宿主と微生物相との関係が崩れると,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームなどの慢性炎症性疾患の発症につながる可能性が近年指摘されている.腸管表面は多層構造の粘液で覆われ,腸管上皮と腸内細菌を安全な距離に保っている.本研究では,食品添加物として汎用される乳化剤が粘液と細菌との相互作用に影響し,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームの発症に関わる可能性を示した.
 一般に使用されているカルボキシメチルセルロースとポリソルベート80という2種類の乳化剤をマウスに摂取させたところ,腸内細菌は腸管粘液層内に侵入し,腸管上皮近くに存在するようになった.さらに乳化剤の摂取は,細菌叢の構成を変化させ,腸内での炎症誘発や腸管上皮バリア異常を促進する方向に作用することがわかった.これらの乳化剤の作用は,低用量の使用であっても野生型マウスに軽度の腸内炎症やメタボリックシンドロームを引き起こし,Il10-/-Tlr5-/-などの腸内に慢性炎症を生じやすい素因を持ったマウスにおいては重度の大腸炎の発症につながることがわかった.一方,無菌環境下で飼育したマウスに乳化剤を投与しても,大腸炎やメタボリックシンドロームは生じず,粘液層の障害もみられなかった.乳化剤投与マウスの糞便を,乳化剤を投与していない無菌マウスへ移入する実験を行ったところ,腸管粘液層の障害を認め,腸内炎症やメタボリックシンドロームの発症を導いた.以上より,乳化剤が関与する大腸炎やメタボリックシンドロームの発症に腸内細菌が関与している可能性が示唆された.

次号予告

ページ範囲:P.527 - P.527

あとがき

著者: 中川秀己

ページ範囲:P.530 - P.530

 医療業界に,研究(臨床研究を含む)の捏造,改ざんから始まり,研究費の不正申請・使用,内視鏡手術の死亡例の問題,利益相反,二重投稿など「倫理,倫理」の嵐が吹きまくっています.われわれの大学でも問題が起こるたびに,内部での問題点の再検討,再発防止策についての検討のためのワーキンググループ(WG)が立ち上げられ,規定や指針の再制定が行われています.なぜかWGの委員長をいくつか任せられ,かなりの時間を費やすことになってきています.時間の無駄のような気もしますが,これも人生勉強,忍耐養成と考え,何とか責任を果たすように努めているところです.
 臨床研究推進センターとそれを監視するポリス機能を備えた機構を立ち上げるためのWGの委員長を務めていて感じたことは,いわゆる不正と断定された行為を行った人には全く悪意がない(悪意の意識がない)ことです.精神的に甘い(または弱い),社会人としての常識が醸成されていないことが大きな原因となっていることがよくわかりました.構成員の一部にでもそういう人がいると,大学の先輩後輩,所属クラブ,大学院で世話になっていたなどの構成員の人間関係に依存して組織的な不正に発展する可能性が,常に内在しているのです.しかしながら,伝統的に培われてきたこれらの人間関係をすべて否定した組織を立ち上げることは,かえって組織運営に大きな支障を生じます.落としどころが難しいですが,良好な人間関係を保持しながら,守るべき倫理は守るというシステムを作ることになりましたが,そのため講習会や自筆のサインで確認する書類がかなり増えてしまうことになりました.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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