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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科70巻1号

2016年01月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・101

Q考えられる疾患は何か?

著者: 齋藤昌孝

ページ範囲:P.7 - P.8

症例
患 者:36歳,男性
主 訴:両側頰部の皮疹
既往歴・家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:初診の7か月前頃より左頰部に自覚症状を伴わない皮疹が出現し,しばらくして右頰部にも同様の皮疹が出現した.皮疹は日光曝露後に増悪する傾向があった.
初診時現症:両側頰部に軽度扁平に隆起する浮腫性の紅斑を数か所に認めた(図1).皮膚表面は平滑で,鱗屑,萎縮や瘢痕はみられなかった.

マイオピニオン

論文を書くことについて

著者: 角田孝彦

ページ範囲:P.10 - P.11

 1. 何のために論文を書くのだろうか
 以前に東北大学の田上八朗先生から,田上先生が東北大の教授になるとき,当時の石田名香雄学長から「病棟は空にしてもいいから毎年英語の論文を10以上書いてください」と言われ驚いたが,なんとか毎年10以上書くことができたと伺い,さすが田上先生だなと思ったことがある.
 昨年の春の学会で北海道大学の皮膚科では英語の研究論文が年に50出ている,福島医科大学の皮膚科では臨床の英語論文が年に50出ているとお聞きして,時代が変わったなと感じた.

症例報告

潰瘍性大腸炎が発見されたIgA血管炎の1例

著者: 藤井ひかり ,   久保正英

ページ範囲:P.12 - P.16

要約 36歳,男性.中学生の頃から血便を自覚していたが,初診1か月前からその頻度が増していた.初診10日前より両側大腿から下腿に浸潤を触れる紫斑,両膝関節と右足関節の疼痛が出現した.病理組織学的に蛍光抗体直接法で白血球破砕性血管炎を呈し,IgA陽性であり,IgA血管炎(IgA vasculitis:IgAV)と診断した.経過中に腹痛が出現し,腹部CTで空腸に炎症を認め,IgAVに伴う腹部症状と考えた.しかし,下部消化管内視鏡検査にて直腸から連続性に発赤と潰瘍を認め,組織学的に陰窩膿瘍を伴う炎症細胞浸潤を示しており潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の合併と診断した.プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム30mg/日の投与を開始し,著効したため漸減した.その後,メサラジン1,600mg/日を追加しステロイドを中止したが,IgAVとUCいずれも再発はない.IgAVにUCを合併した稀な症例であった.

手指に生じたlichen aureusの1例

著者: 江野澤佳代 ,   石河晃

ページ範囲:P.17 - P.20

要約 30歳,男性.初診の3年前より,手指に自覚症状のない褐色斑が出現した.その後,皮疹に変化はみられず,放置していた.初診時,右第3・4指に,境界明瞭,辺縁不整な赤褐色斑と褐色斑が散在していた.病理組織学的に,表皮下に,組織球を混ずるリンパ球の帯状浸潤と,表皮内へのリンパ球の遊走,赤血球の血管外漏出とヘモジデリンの沈着を認め,臨床所見と合わせて,lichen aureusと診断した.自験例を含め,2014年までに,lichen aureusあるいは,lichen purpuricusとして報告された,本邦報告例78例のうち,手指に限局して生じた症例は3例で,きわめて稀であると考えられた.さらに,男女比,発症年齢,発症部位,発症誘因,治療法に関しまとめ,自験例と比較検討した.自験例は,発症部位以外は,本症に典型的であった.

ゾビラックス®とビタメジン®が内服テスト陽性を示した帯状疱疹罹患時に生じた多剤薬疹の1例

著者: 西岡美南 ,   足立厚子 ,   小猿恒志 ,   一角直行 ,   佐々木祥人 ,   松浦正人

ページ範囲:P.21 - P.26

要約 23歳,男性.軀幹に帯状疱疹が出現し,近医でアシクロビル(ソビラックス®),ビタミンB1,B6,B12誘導体の複合剤(ビタメジン®)などにて内服加療開始7日目に四肢,体幹に紅斑が出現した.いったん軽快するも発疹が再燃したため当科を受診した.皮疹軽快後にすべての薬剤のパッチテスト,内服テストを行った.パッチテストはすべて陰性で,ゾビラックス®,ビタメジン®の内服テストが各々陽性で2剤による播種状紅斑丘疹型薬疹と診断した.この多剤薬疹の発症機序として,先行する帯状疱疹が多剤薬疹を引き起こした可能性を考えた.帯状疱疹罹患時に全身の紅斑を認めた場合,ウイルスそのものによる中毒疹の可能性もあるが,自験例のように薬剤,しかも2剤が原因となることもあり,詳細な検索が必要である.

Steatocystoma multiplexとeruptive vellus hair cystのhybrid cystの1例

著者: 齊藤恵 ,   森志朋 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.27 - P.32

要約 29歳,女性.10歳台後半から軀幹に自覚症状を欠く多数の皮下小結節が出現した.増数傾向あり近医受診し精査目的に当科を紹介された.前胸部,腹部,前腕に粟粒大の紫紅色〜黄白色の弾性軟な皮下小結節を多数散在して認めた.頸部と腹部の計2か所から切除生検施行したところ,両標本ともに同一囊腫内にeruptive vellus hair cyst(EVHC)とsteatocystoma multiplex(SM)の特徴を合わせて認め,両者のhybrid cystと診断した.EVHCとSMは同一範疇の囊腫と考えた.自験例,これまでの報告例をまとめると毛包や脂腺排出管などのケラチンの発現がSM,EVHC,hybrid cystの発症に関与していると考えられた.

眉毛部に脱毛を伴う帯状の腫瘤を呈した多発性丘疹状毛包上皮腫の1例

著者: 岩間英明 ,   菊地克子 ,   近藤慈夫 ,   相場節也

ページ範囲:P.33 - P.36

要約 51歳,女性.5年前,ほぼ同時に鼻唇溝,口囲,眉毛部に自覚症状のない常色の丘疹や小結節が出現した.眉毛部の結節が増大,癒合して帯状の腫瘤になり,受診した.病理組織像では,鼻唇溝と眉毛部の皮疹は同一の所見を示し,基底細胞様細胞からなる腫瘍胞巣,毛乳頭構造,角質囊腫を認めた.典型的な鼻唇溝,口囲の臨床像,病理組織像より多発性丘疹状毛包上皮腫と診断した.臨床的に両側眉毛部の脱毛を伴う帯状の腫瘤は特異であり,稀な症例と思われた.過去に,上口唇両側にドーム状結節,下口唇,額,眉毛部に対称性に多発する小結節を呈した例が“multiple symmetrical giant trichoepithelioma”として報告されており,自験例もこの報告と同型の可能性がある.

大型の腫瘤を形成したsolid-cystic hidradenomaの1例

著者: 浅尾香恵 ,   赤松洋子 ,   瀬戸口美保子 ,   河崎玲子

ページ範囲:P.37 - P.42

要約 64歳,男性.初診の2〜3年前に左耳後部の自覚症状のない腫瘤に気付き,徐々に増大してきた.初診時45×30mmの半球状に隆起した弾性硬の腫瘤で一部は暗紫色を呈していた.MRI検査で皮下に囊腫様構造を認め,囊腫壁の一部が不規則に肥厚していた.病理組織学的検査では大型の囊腫様構造と囊腫壁の一部に充実部分があり,充実部分はporoid cellとcuticular cellで構成され,多数の管腔構造を形成し一部で断頭分泌像がみられた.アポクリン分化を伴うsolid-cystic hidradenomaと診断した.過去の報告例と比べて大型でMRI検査を施行したが画像検査から診断することは困難であった.しかしMRI検査は腫瘍の特徴的な構造を把握することができ,術前の形態評価には有用であった.

臀部の乳頭状汗管囊胞腺腫の1例

著者: 横山希 ,   星野慶 ,   原一夫

ページ範囲:P.43 - P.46

要約 45歳,男性.10年前より左臀部の腫瘤を自覚し,徐々に増大したため当科を受診した.初診時,左臀部に周囲に色素沈着を伴う径4×4cm大の有茎性疣状紅色腫瘤と,腫瘍直下の皮下硬結を認めた.病理組織標本では外方に向かって突出する有茎性腫瘍とその下の囊腫状部分を認め,上方部分では,表皮の乳頭腫状肥厚や真皮乳頭層の毛細血管増生があった.囊腫状部分は表皮に開口しており,乳頭腫状に突出する管腔構造が数層の上皮細胞で被覆されており,一部断頭分泌像を認めた.抗ヒトパピローマウイルス染色では腫瘍部分は陰性であった.以上より自験例を乳頭状汗管囊胞腺腫(syringocystadenoma papilliferum:SCAP)と診断した.臀部に生じたSCAPの報告は少なく,稀な1例と考えた.

Sclerotic fibroma of the skinの2例

著者: 市山進 ,   上野孝 ,   髙山良子 ,   稲葉基之 ,   秋山美知子 ,   藤本和久 ,   安齋眞一 ,   船坂陽子 ,   佐伯秀久

ページ範囲:P.47 - P.50

要約 症例1:38歳,女性.頭頂部に6mm大の皮膚常色ドーム状結節性病変があった.症例2:52歳,女性.上背部に10mm大の淡紅色隆起性結節があった.いずれも色素性母斑の臨床診断で切除した.病理組織所見は2症例ともに境界明瞭な結節で,細胞成分に乏しく,真皮内に硝子化した膠原線維のタマネギ状の増生を認めた.2症例ともにCowden症候群の身体徴候を欠いており,sclerotic fibroma of the skinと診断した.症例1の結節辺縁には膠原線維と線維芽細胞の軽度増加を伴う皮膚線維腫様の病理所見があり,本症が皮膚線維腫からの移行病変である可能性が考えられた.

眉毛部に生じたfollicular squamous cell carcinomaの1例

著者: 本田治樹 ,   江上将平 ,   野村尚志 ,   横山知明 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.51 - P.55

要約 80歳,男性.初診3か月前より左眉毛部に急速に増大する腫瘤を生じ,受診した.腫瘤は不整形に隆起し,皮下には多房性結節を触知した.皮表には一部痂皮を付着していた.エコー所見では辺縁の形状不規則な囊腫状のlow echo areaを皮下に認めた.病理組織所見では開大する毛包において毛包上皮と連続して角化傾向を示す異型細胞が外向性に浸潤増殖しており,被覆表皮では異型細胞は認めなかった.これより自験例をfollicular squamous cell carcinomaと診断し,辺縁から6mmマージンで切除および全層植皮術を施行した.術後6か月の経過で再発や転移を認めていない.本疾患は毛包漏斗部を起源とするきわめて稀な有棘細胞癌の1型であり,有毛部に発生する悪性腫瘍の1つとして念頭に置く必要がある.

陰茎に生じた基底細胞癌の1例

著者: 畠中美帆 ,   石橋正史

ページ範囲:P.57 - P.61

要約 86歳,男性.5年以上前に陰茎の皮疹を自覚した.自覚症状はなかった.初診時,陰茎根部背側に帯状の50×15mm大,辺縁が比較的明瞭な不整形,淡紅色で黒色斑を混じた色調不均一な病変を認め,病変の中央にはびらんおよび浅い潰瘍を伴った.ダーモスコピーでは樹枝状血管と多発灰青色小球を認めた.病理組織像は隆起性の病変で,表皮と連続して真皮に腫瘍細胞が結節状に増殖していた.増殖していた細胞は毛芽細胞様細胞で,腫瘍胞巣の辺縁に核の柵状配列を認め,胞巣周囲にはムチンの沈着と空隙の形成があった.病変は拡大切除した.自験例は辺縁不整で比較的大型だったが,放射線照射歴等のリスク因子はなかった.陰茎癌の中では基底細胞癌は稀であるが,外陰部全体としては顔面に次ぐ好発部位である可能性がある.

放射線療法後にTS-1®内服療法を併用し奏効した乳房外Paget病の1例

著者: 船津栄 ,   宮田聡子 ,   鈴木大輔 ,   松島昭三 ,   小松達司

ページ範囲:P.62 - P.66

要約 76歳,男性.陰囊部に巨大な腫瘤を形成し,左鼠径部リンパ節転移をきたした進行期乳房外Paget病(advanced extramammary Paget's disease:ad EMPD)と診断した.進行期胃癌と早期大腸癌も同時に認めた.認知症があり,いずれの腫瘍に対しても積極的な手術療法の希望がなかった.ad EMPDに対しては放射線療法により腫瘍の縮小化が認められた.胃癌に対してはTS-1®療法を選択したがad EMPDの再発が抑制されたと考えられた.手術後や放射線療法後に残存した微小な転移に対して,完全治癒や生存率向上を目的として行われる化学療法はアジュバント化学療法といわれており,自験例のように,ad EMPDに対し放射線療法を行って腫瘍量を大幅に減少させ,TS-1®をその再発抑制の目的として投与する治療も,残存する腫瘍に対する補完的治療でありアジュバント化学療法と考えた.

肛門粘液癌に伴う肛囲二次性Paget病の1例

著者: 池本千花 ,   奥沢康太郎 ,   浅井純 ,   竹中秀也 ,   加藤則人

ページ範囲:P.67 - P.71

要約 75歳,男性.肛囲に結節を伴う紅斑を認めた.生検にて乳房外Paget病が疑われた.免疫組織化学的に腫瘍細胞はCK7,CK20染色に陽性,GCDFP-15染色に陰性を示した.術前の直腸診および下部消化管内視鏡検査では肛門管での明らかな腫瘤形成を認めず,皮膚原発の肛囲Paget病と考えた.皮膚悪性腫瘍切除術および分層植皮術を施行したが,肛門側が病理組織学的に断端陽性であった.後日,当院消化器外科で直腸切断術を施行したところ,病理組織学的に肛門管原発の腺癌を認めた.最終的に肛囲二次性Paget病を伴った肛門管癌と診断した.自験例のように免疫組織化学的に二次性Paget病が疑われる場合は,肉眼的に肛門管に病変を認めなくても二次性Paget病を伴った肛門管癌の可能性もあり,慎重に検討を行う必要があると考えられた.

肛門周囲にPaget現象を呈し直腸癌が見つかった1例

著者: 明石顕 ,   植木理恵 ,   扇谷咲子 ,   平井周

ページ範囲:P.73 - P.76

要約 87歳,女性.1か月前から肛門周囲に疼痛症状あり,アズレン軟膏外用するが改善しないため当科を受診した.初診時肛門周囲〜臀部に紅斑,びらんが存在.ステロイド剤外用で改善せず,病理組織で表皮内にPaget細胞を認めた.肛門内浸潤があり,下部内視鏡検査で直腸癌と診断された.皮疹の免疫染色はCK20(+),GCDFP-15(−)で,直腸癌からのPaget現象と診断した.Paget現象の本邦報告例は自験例を含め57例あり,早期発見により予後良好な経過となる例も少なくない.肛門周囲病変に対しては早期の病理診断,悪性腫瘍の検索が必要であると考えた.

治療

動脈塞栓術直後に腫瘍減量術を行ったびまん性神経線維腫の1例

著者: 松田真由子 ,   山崎修 ,   梅村啓史 ,   大塚正樹 ,   岩月啓氏 ,   松井裕輔 ,   生口俊浩

ページ範囲:P.77 - P.81

要約 35歳,女性.出生時より全身にカフェオレ斑があり,神経線維腫症1型と診断されていた.34歳時に徐々に増大する臀部から大腿のびまん性神経線維腫について当科を紹介され受診した.臀部から左大腿に巨大な弁状から懸垂性の腫瘤を認め,全身に雀卵斑様色素斑,カフェオレ斑,小型の神経線維腫,高度の側彎症を認めた.腫瘍が巨大であるため分割切除を行う方針とした.全身麻酔下に選択的動脈塞栓術後,同日に腫瘍減量術を1年間に3回施行した.出血量は比較的少なく減量でき,QOLが改善した.選択的動脈塞栓術は,腫瘍切除術の数日前に施行されることが多く,同日に行った自験例と従来の方法と比較・検討した.同日に行った場合,患者の苦痛が少ないなどの利点が多くあり,選択肢の1つと考えた.

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欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

文献紹介 脊髄後角におけるSTAT3依存性のアストロサイトの活性化が慢性的なかゆみに関与する

著者: 小幡祥子

ページ範囲:P.42 - P.42

 慢性的なかゆみはアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎におけるやっかいな症状の1つである.近年,かゆみに特異的な神経伝達経路の存在が明らかになってきたが,かゆみの慢性化の病態メカニズムはよくわかっていない.著者らは,アトピー性皮膚炎および接触皮膚炎モデルマウスを用い,かゆみのある皮膚病変を支配領域とする脊髄後角でのアストロサイトの長期活性化を示し,この活性化はシグナル伝達兼転写活性化因子の1つであるtranscription 3(STAT3)に依存していることを明らかにした.そして,アストロサイトにおいてSTAT3を条件付きで破壊させると慢性的なかゆみが抑制され,薬剤によるSTAT3の阻害によって,慢性化したかゆみが改善した.アトピー性皮膚炎モデルマウスの髄腔内にかゆみを誘導する物質であるガストリン放出ペプチド(gastrin-releasing peptide:GRP)を投与すると掻破行動が増強したが,これはSTAT3によるアストロサイトの活性化を抑制することにより,正常化した.さらに著者らは,アストロサイトにおいてSTAT3依存性に発現が上昇するリポカリン2(lipocalin-2:LCN2)が慢性的なかゆみに大きく関わることを突き止めた.そして,LCN2を正常なマウスの髄腔内に投与したところ,GRP誘発性の掻破行動の増強がみられた.以上よりSTAT3に依存して活性化するアストロサイトが,LCN2の作用増強を介してかゆみの増幅に重要な役割を演じることが示され,慢性的なかゆみに対する新たな治療のターゲットとなる可能性が示唆された.

文献紹介 Annexin A1とFPR1の相互作用が重度の薬疹におけるケラチノサイトの細胞死に寄与している

著者: 江原佳恵

ページ範囲:P.55 - P.55

 細胞死の機序としてはapotosisとnecrosisが知られているが,近年,新たな概念として,形態学的にはnecrosisを示すが制御されたシグナル回路によって生じる細胞死であるnecroptosisが注目されるようになった.本論文はStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)/中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)のケラチノサイトにみられる細胞死にnecroptosisが関与していると考え,その機序を明らかにし,SJS/TENにおけるケラチノサイトの細胞死のメディエーターを探求しようとしている.方法としてはSJS/TENに罹患し,治癒した患者から末梢血単核球細胞を分離して原因薬剤を投与し,反応後のsupernatantを用いてさまざまな実験を組んでいる.その中でもキーとなる実験はSJS/TENのsupernatant中に含まれる蛋白質をマススペクトメーターで解析したものである.その実験ではannexin A1という蛋白質がsupernatant中に大量に発現していることが示され,さらにannexin A1を中和させるとSJS/TENにおけるケラチノサイトの細胞死が抑制されることがわかった.また,annexin A1のミメチックペプチドであるAc2-26を投与するとSJS/TENにおけるケラチノサイトの細胞死が誘導された.このことからsupernatant中のannexin A1がSJS/TENのケラチノサイトの細胞死誘導に重要であることが示唆された.
 また,annexin A1はFPR1と結合することで活性化することが知られている.本論文では,supernatantに曝露したケラチノサイトには大量のFPR1が発現しており,またSJS/TENの病変部にはFPR1とannexin A1が有意に発現していることが示されている.この結果からnecroptosisが生じる回路にannexin A1とFPR1が存在することが示唆された.

書評 —編:東京大学公共政策大学院 医療政策教育・研究ユニット—医療政策集中講義—医療を動かす戦略と実践

著者: 高山義浩

ページ範囲:P.82 - P.82

 2014年6月,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保法)」が成立し,より効率的で質の高い医療提供体制を目指した地域医療を再構築し,地域包括ケアシステムとの連携を深めるための方針が定められた.
 改革が急がれる背景には,日本が縮減社会に入ってきていることがある.これから毎年,日本から小さな県一個分の人口が消滅していく.その一方で,高齢化率は30%を超えようとしており,団塊の世代が75歳以上となる2025年には,国民の3人に1人が65歳以上,5人に1人が75歳以上となる.疾患を有する高齢者が増加することになり,医療と介護の需要が急速に増大する見通しとなっている.

次号予告

ページ範囲:P.83 - P.83

あとがき

著者: 石河晃

ページ範囲:P.86 - P.86

 あけましておめでとうございます.オリンピックイヤーを迎え,その次はいよいよ東京だ,と五輪開催が現実味を帯びてくる年になると思います.1月号のあとがきを書くにあたり,2015年のニュースを振り返ってみたところ,偽装に関わる事件が非常に多かったことに気づきました.五輪ロゴの盗作疑惑,ドイツ自動車会社の排ガス規制すり抜け不正ソフト,大手建築業者の杭打ちデータ改ざんなど,個人の「出来心」ではない,組織として行われる大規模な偽装がまかり通っていた事実に驚愕しました.さて,医学論文においてもSTAP細胞や降圧剤臨床研究におけるデータ捏造・改ざんは記憶に新しく,誰かがどこかで止められなかったのか,いまだに残念でなりません.止めることができる可能性が最も高いのは論文の共著者です.論文に深く関与し,結論に対する責任を共有しているからこそ,共著の名誉が与えられるのです.これは『Nature』のような格調高い雑誌に限ったことではありません.たとえimpact factorがつかない日本語の雑誌であったとしても,論文化して公表することは内容に関して社会に責任を持つことになります.すなわち共著者となったからには論文内容に責任を持たなければなりません.逆に,論文に関与していない人を共著者として勝手に名前を入れてはなりません.多数の査読をしていると高名な先生が共著者になっているにもかかわらず,問題がある論文に遭遇することが,稀ながらもあります.本当にあの先生は論文の内容を知っているのだろうか,さらにはご自分が共著者になっていることを知っているのだろうかと心配してしまいます.『臨床皮膚科』では投稿時に共著者全員の掲載同意署名を求めてはおりませんが,くれぐれも当人の許可なく共著者に加えることがないようにお願いします.たとえ良かれと思っても,あとで大きな迷惑をかけることになりかねません.
 本年も多数の投稿をお待ちしております.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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