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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科70巻10号

2016年09月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・109

Q考えられる疾患は何か?

著者: 加藤則人

ページ範囲:P.741 - P.742

症例
患 者:79歳,女性
主 訴:発熱を伴った全身の紅斑,膿疱
家族歴:特記すべきことなし.
既往例:慢性C型肝炎,糖尿病(グリメピリド内服),心房細動(塩酸マニジピン,アスピリン,塩酸ピルジカイニド,塩酸ジルチアゼム内服中),乾癬の既往なし.
現病歴:初診8日前に右大腿に紅斑が出現した.近医で蜂窩織炎と診断され処方されたセフジニルを3日間内服したが,症状が改善せず,アンピシリン・スルバクタムに変更された.同日夜から39℃台の発熱,鼠径部,下腹部に紅斑が出現した.紅斑は急速に体幹,四肢に拡大し膿疱を伴った.
初診時現症:体温39.4℃.顔面,頭部,掌蹠を除く全身にびまん性の紅斑がみられ,その上に帽針頭大の膿疱が多発していた(図1a,b).爪,粘膜に異常なし.右大腿に蜂窩織炎はみられなかった.

マイオピニオン

感謝の気持ちは皮膚科医を育てる—「大学院生と医局長と,時々,オカン(!?)」(臨床皮膚科64巻5号)から早6年

著者: 千貫祐子

ページ範囲:P.744 - P.745

 本誌で大学院生と医局長と子育ての両立,ならぬ並立について執筆させていただいて(臨床皮膚科64巻5号:133, 2010)から,早6年が経過した.35歳で入学した大学院博士課程は,41歳で何とか無事に卒業した.一人息子もいつのまにか高校生となった.この度,このような良い機会を与えていただいたので,自身の皮膚科医人生(半生)を振り返ってみた.本文が,ともすれば忘れがちな,周りへの感謝の気持ちを思い出すきっかけとなってくれれば幸いと思う.

症例報告

日光蕁麻疹と温熱蕁麻疹を合併した1例

著者: 宮澤英彦 ,   嶋津苗胤 ,   松本賢太郎

ページ範囲:P.747 - P.750

要約 18歳,女性.15歳より日光曝露時と入浴時に膨疹が出現するようになった.光線照射試験にてUVAを作用波長とする日光蕁麻疹と診断した.さらに温熱刺激試験でも膨疹が誘発されたため温熱蕁麻疹の合併が確認された.日光蕁麻疹に関しては,ロラタジン内服とサンスクリーン外用を指導した.また入浴などの温熱刺激に関しては,15分以内のぬるめの温度のシャワー浴のみとすることで対応した.その結果,日常生活や比較的長時間の屋外での活動に関して,日光曝露や温熱刺激からの症状の誘発は抑制できた.物理性蕁麻疹は定まった治療法がなく症状のコントロールに難渋することもあるが,薬物治療だけでなく生活習慣における工夫もQOLを上昇させるためには重要である.

味噌醸造を家業とする兄弟に発症した麹菌アレルギーの2例

著者: 福田佳奈子 ,   足立厚子 ,   指宿千恵子 ,   白井成鎬 ,   佐々木祥人

ページ範囲:P.751 - P.755

要約 患者は味噌醸造家に育った兄弟である.症例1:32歳,男性(兄).中学時より麹吸入時呼吸困難を繰り返していた.症例2:22歳,男性(弟).小児期から手足の腫脹,腹痛,下痢,嘔吐を繰り返し,麹吸入時の呼吸困難に加え,成人後,摂食後2時間後に腹痛・嘔吐があった.2症例ともに自家製の麹,麹菌,味噌のプリックテストが強陽性であった.アスペルギルス特異IgE(Immuno-cap)は,症例1クラス1,症例2クラス0であった.症例2は血清補体価CH50およびC4が著明に低値であった.症例1は麹菌に対する即時型機序,症例2は補体が関与する機序を考えた.麹菌に対するアレルギーの報告は,味噌醸造を家業とする職業性が多い.麹菌(Aspergillus oryzae)特異IgEは通常測定できず,交叉性のあるAspergillus fumigatus特異IgEで代用診断される.麹菌が産生するαアミラーゼ特異IgEは自験2例では陰性であったが,病態への関与を否定するものではない.

抗結核薬で発症したと考えられ多剤感作した薬剤性過敏症症候群の1例

著者: 熊谷綾子 ,   遠藤元宏 ,   秋山也寸史 ,   山下利春

ページ範囲:P.756 - P.760

要約 36歳,女性.肺結核で抗結核薬治療開始するも治療開始10週後に発熱と肝機能異常,全身のびまん性紅斑,白血球増多,頸部リンパ節腫脹が出現し,その後のHHV-6再活性化より薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)と診断した.ステロイド全身投与したが,新たな抗結核薬治療の複数の薬剤投与により,肝機能障害,発熱,皮疹の再燃を繰り返した.薬剤リンパ球刺激試験にも陽性を示し,結核治療にも難渋した.結核のように薬剤投与の長期継続が必要な疾患の場合,多剤感作による薬剤過敏のためにDIHSと原疾患の治療が難航することが予想され,治療の工夫が今後の課題である.

ブシラミン投与により発症した乾癬型薬疹と思われる1例

著者: 冲永昌悟 ,   多田弥生 ,   武岡伸太郎 ,   清水知道 ,   井関紗月 ,   林耕太郎 ,   大西誉光 ,   伊賀祥子 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.761 - P.766

要約 48歳,女性.初診の7か月前に関節リウマチの診断で,近医内科でブシラミンを開始され,翌月からメトトレキサート(MTX)が追加投与された.2か月後に肝機能障害と倦怠感が出現し,MTXは中止し,ブシラミンのみ投与継続された.ブシラミン投与開始3か月後から両手掌と足底に瘙痒を伴う角化性紅斑が出現した.その後,皮疹は頭部,下腿にも生じ,ジフロラゾン酢酸エステルを外用するも改善せず,2015年10月に当科を紹介受診した.頭部,足底には角化性の紅斑局面を認め,手掌,下腿には表面に鱗屑が付着する大豆大までの紅斑が散在していた.血液検査で好酸球が21%と上昇し,乾癬様の病理組織像に加え,空胞変性,色素失調,真皮への好酸球浸潤を認めた.乾癬型薬疹を疑い,ブシラミン内服を中止したところ,皮疹は色素沈着となり,好酸球数も1%まで改善した.乾癬型薬疹の報告のある薬剤を投与後に乾癬様の皮疹を認める場合は,乾癬型薬疹を考える必要がある.

アダリムマブが有効であった難治性皮疹を伴うBehçet病の1例

著者: 石倉祐貴 ,   島田俊嗣 ,   牛上敢 ,   藤井俊樹 ,   阿部真也 ,   西部明子 ,   望月隆 ,   野村友映 ,   有沢富康

ページ範囲:P.767 - P.771

要約 34歳,女性.高校生の頃から再発性の口腔内アフタや関節炎を認めていた.初診7か月前に陰部潰瘍が出現し,初診1か月前より下腿に有痛性紅斑が出現したため2011年3月に当科を受診した.眼症状はなく,不全型Behçet病と診断し,プレドニゾロン(PSL)内服で加療を開始した.PSL投与後も約4年間にわたり下腿に生じた潰瘍は寛解増悪を繰り返した.2014年になり腹痛とともに下血をきたし,下部消化管内視鏡検査を施行し,回盲部潰瘍を認めたため腸管型Behçet病と診断した.アダリムマブ投与を開始したところ,腹部症状とともに潰瘍はすみやかに改善し,PSL減量後も潰瘍の再発は認めなかった.アダリムマブは皮疹のみのBehçet病に対して適応はないが,TNF-αを阻害することで好中球の機能亢進が抑制され皮疹も改善したと考えられた.

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の1例

著者: 小原明希 ,   簗場広一 ,   梅澤慶紀 ,   中川秀己 ,   野田健太郎 ,   濱口儒人

ページ範囲:P.773 - P.778

要約 62歳,女性.2か月前より手背,四肢に紅斑が出現した.徐々に呼吸器症状を伴ったため当科を受診した.顔面紅斑,Gottron徴候,逆Gottron徴候,爪囲紅斑,筋力低下より皮膚筋炎と診断した.胸部CTにて間質性肺炎の合併がみられた.プレドニゾロン60mg/日,タクロリムス4mg/日内服,シクロホスファミドパルス療法を施行したところ,皮疹,筋炎,肺病変はいずれも改善した.後日,免疫沈降法にて抗MDA5抗体が陽性と判明した.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の皮疹は,血管障害を示唆する紫紅色斑,逆Gottron徴候,痂皮や皮膚潰瘍の形成が特徴であり,他の皮膚筋炎と比較し有意に合併頻度が高い.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎は高率に急速進行性間質性肺炎を合併し死に至るため,早期に特徴的な皮疹から本症を疑い,治療を開始することで生命予後を改善することができる可能性がある.

皮膚筋炎の治療中に腸管囊腫様気腫症を発症した2例

著者: 木下真直 ,   髙木真知子 ,   中込大樹 ,   原田和俊 ,   猪爪隆史 ,   川村龍吉 ,   島田眞路

ページ範囲:P.779 - P.784

要約 症例1:84歳,男性.1か月前より顔面・上肢の紅斑,四肢筋力低下が出現した.皮膚筋炎の診断で,プレドニゾロン(PSL)30mg内服を開始し,皮疹や筋力は改善した.しかし,治療開始6日後より腹部膨満感を自覚,約2週間後から腹痛が出現した.症例2:75歳,男性.下咽頭癌に伴う皮膚筋炎の診断でPSL 70mg内服を開始し,皮疹と筋力は改善した.しかし,治療開始2週間後より腹部膨満感を自覚,1か月後から腹膜刺激症状が出現した.いずれの症例もCTにて腸管壁の気腫性変化を認め,腸管囊腫様気腫症と診断した.症例1では腸管囊腫様気腫症の診断3日後に多臓器不全により死亡した.症例2では緊急腸管切除術により救命しえた.皮膚筋炎に腸管囊腫様気腫症が合併した報告は稀である.しかし,皮膚筋炎では消化管の蠕動低下,ステロイド投与など種々の腸管囊腫様気腫症のリスク因子が重複すると考えられるため,注意が必要である.

生物学的製剤投与前に脱髄疾患の精査を必要とした尋常性乾癬の1例

著者: 生野由起 ,   武岡伸太郎 ,   多田弥生 ,   林耕太郎 ,   大西誉光 ,   河村保臣 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.786 - P.790

要約 36歳,女性.20年前より被髪頭部に瘙痒を伴う鱗屑が出現した.外用薬(詳細不明)で一時改善した.約6年前から手背に瘙痒を伴う小豆大の角化性紅斑が出現し,徐々に全身に拡大した.近医にて加療したが軽快せず当科を受診した.初診時,頭皮全体,顔面の脂漏部位,四肢・体幹に鱗屑を伴うコイン大から手拳大までの紅斑局面が多発散在していた.手掌足底は角化が顕著で指の屈曲伸展ができないほどであった.爪甲は黄色に混濁し粗糙で,点状陥凹,剝離を伴い高度に変形していた.PASI scoreは34.1であり,病理組織像では錯角化,表皮肥厚,規則的な表皮突起の棍棒状の延長,真皮乳頭部の毛細血管拡張を認め,尋常性乾癬と診断した.両足底に感覚障害を認めたため神経内科にて精査した.神経伝導速度検査では知覚神経の伝導速度が軽度低下し,感覚神経活動電位の低下を認めるが,脱髄や時間的分散を認めないため,アルコール性神経障害と診断された.インフリキシマブを導入しPASI 3.1まで改善した.乾癬患者ではアルコール多飲者が多く自験例のような脱髄疾患類似の神経障害を伴うこともあり,乾癬治療上注意すべきである.

数珠状の臨床像を呈したmultiple eccrine spiradenomaの1例

著者: 齊藤恵 ,   森志朋 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.791 - P.794

要約 66歳,男性.30歳頃より右腋窩のしこりを自覚したが放置していた.増数・増大傾向あるため近医を受診し,当科を紹介受診した.初診時,右腋窩に径16mm大までのドーム状に隆起する紫色調の皮下腫瘍が数珠状に連なる局面を形成していた.病理組織学的にtwo cell patternを示し,さらに管腔構造も伴う境界明瞭な病変を認めmultiple eccrine spiradenomaと診断した.多発し列序性ないし帯状に配列したmultiple eccrine spiradenoma報告例については皮下型やドーム状隆起型があり,片側性の分節状の発症が報告されている.

左側腹部に生じた汗管腫癌の1例

著者: 根岸亜津佐 ,   石河晃 ,   岩渕千雅子

ページ範囲:P.795 - P.799

要約 89歳,男性.6年前より左側腹部に紅色結節が出現した.自覚症状はなく徐々に拡大し,中央の隆起部分より出血し当科を受診した.初診時,左側腹部に15mm大の境界明瞭な弾性硬で広基有茎性の紅色結節を認め,中央にびらんの形成があった.ダーモスコピーでは淡紅色から白色調で,中央のびらんと,樹枝状の毛細血管増生がみられた.皮膚生検病理組織像で真皮浅層から深層にかけて核異型・核分裂像のある腫瘍細胞が索状構造と,1〜2層の立方上皮よりなる管腔様構造を形成し,汗管系悪性腫瘍を考えた.全身検索では腹壁への浸潤はなく転移所見を認めず,腫瘍辺縁から1cm離して筋膜直上で全摘出術を施行した.全摘標本の免疫染色で,CEAは管腔構造内腔が陽性,EMA,S100蛋白,p63はいずれも陽性,Ber-EP4は陰性で汗管腫癌(syringomatous carcinoma:SC)と確定診断した.腹部に生じたSCはきわめて稀で,転移は少ないが局所再発が多く,十分な局所切除が必要である.

LL型Hansen病の2例

著者: 谷口真也 ,   山本敬三 ,   新谷洋一 ,   石井則久 ,   森田明理

ページ範囲:P.801 - P.806

要約 症例1:24歳,フィリピン人男性.3年前から左上肢の知覚異常を自覚していた.1年前から顔に小結節が多発してきたため受診した.左上腕尺骨神経が肥厚していた.症例2:46歳,ブラジル人男性.32歳時,Hansen病と診断され,治療開始されたが3か月で自己中断した.42歳時,腎疾患のため姉より腎移植され,免疫抑制薬を内服中であった.初診2か月前から全身に小丘疹が多発してきたため受診した.いずれの症例も皮膚スメア検査,病理組織像よりWHO分類の多菌型,Ridley-Jopling分類のLL型(らい腫型,lepromatous type)Hansen病と診断し,WHO/MDT(multi-drug therapy)/MB(multibacillary)治療を開始した.LL型Hansen病は菌の消失が遅く長い治療期間が必要であるが,症例2では腎移植のため,免疫抑制薬内服中であり,より長い期間の治療が必要であると考えられた.

Weber-Christian病と診断した脂肪織炎の1例

著者: 中村維文 ,   脇田尚子 ,   西井径子 ,   池田哲哉

ページ範囲:P.807 - P.811

要約 54歳,男性.尋常性乾癬,水疱性類天疱瘡に対してシクロスポリン,プレドニゾロン内服加療中であった.特に誘引なく発熱,全身倦怠感と左下腿に発赤,腫脹を認め,下肢蜂窩織炎として抗菌薬を投与したが改善に乏しかった.第25病日,両大腿に紅色調の板状硬結が出現,その後上腕,背部,胸部にも同様の硬結が多発し,生検にて小葉優位型の脂肪織炎を認めWeber-Christian病と診断した.プレドニゾロン増量にて速やかに解熱し硬結も消退した.近年,Weber-Christian病はその疾患独立性が疑問視されているが,本症例のように他の疾患に分類することが困難でWeber-Christian病と診断せざるを得ない病態は存在すると考える.

治療

手・手指の尋常性疣贅に対する可変式ロングパルスダイレーザーの治療

著者: 赤坂季代美 ,   高橋和宏 ,   吉田亜希 ,   角田加奈子 ,   梁川志保 ,   前田文彦 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.813 - P.819

要約 尋常性疣贅はヒト乳頭腫ウイルスの感染症で,さまざまな治療が行われているが,一般的な治療は液体窒素を用いた凍結療法である.しかし,凍結療法の効果がみられない症例や凍結療法に伴う潰瘍形成,血疱形成など副次的作用を伴う症例もある.近年では,治療に難渋する症例にレーザー治療が施行され有効性が明らかにされつつある.今回われわれは,手・手指の尋常性疣贅患者5例に対し,可変式ロングパルスダイレーザー(long-pulsed dye laser:LPDL)治療を行った.瘢痕形成,びらんなど副作用はなかった.現在,LPDLは尋常性疣贅治療に保険適応はないが,有効な治療法であり他の治療に抵抗性の症例では一考すべき治療法である.

印象記

第115回日本皮膚科学会総会印象記

著者: 相場節也

ページ範囲:P.820 - P.822

 第115回日本皮膚科学会総会が,東京慈恵会医科大学皮膚科講座 中川秀己教授を会頭に2016年6月3日(金)〜5日(日)の3日間,国立京都国際会館とグランドプリンスホテル京都を会場に開催された(図1).おりしも,今年は開設120周年と東京慈恵会医科大学にとっても記念すべき年にあたった.概ね天候に恵まれ,参加者は例年を上まわる6,000人を超えた.

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欧文目次

ページ範囲:P.739 - P.739

文献紹介 食後血糖予測による個別化された食事

著者: 朝倉涼平

ページ範囲:P.760 - P.760

 食後の血糖上昇は2型糖尿病や心血管障害などの主なリスクファクターとなり,世界的にも大きな問題となっている.食後血糖を良好にコントロールするための食事方法はいくつか提案されているが,既存の方法はどれもその効果が十分ではない.その理由の1つに,同じ食事を摂取しても,個々人の背景の違いにより食後血糖の反応性が全く異なるという事実がある.もし,個々人の食後血糖の反応性を正確に予測することができれば,各人に最良の食事を提供できると考えられる.
 本論文では,事前に詳細なプロファイリング(血液検査,身体測定,食習慣や生活習慣のアンケートなど)をされた800人について,1週間の食事内容とCGM(continuous glucose monitoring,持続血糖測定)を用いて得られた血糖推移に関するデータ(計46,898の食事と血糖推移)を大量に収集した.これらのデータを機械学習させることにより,食後血糖の反応性に寄与する因子(本論文ではmicrobiomeにも着目している)を明らかにし,個々の食後血糖を予測する方法および最良の食事内容を提案することが可能となった.次に,この機械学習を用いた予測法に一般性があることを確認するために,上述の800人とは別に集められた100人について,CGMを用いた同様の介入が行われ,この予測が正しく機能することを証明した.

文献紹介 寄生虫感染によるアレルギーの抑制作用は腸内細菌叢の変化に起因する

著者: 安田文世

ページ範囲:P.811 - P.811

 アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患は,寄生虫感染が蔓延していた頃にはほとんど存在しなかったといわれる.これは寄生虫に対するIgE抗体反応が誘導されることにより,他の外来抗原への反応が抑制されるためと説明されてきた.本論文では,寄生虫感染そのものではなく,寄生虫感染により変化した腸内細菌叢が,アレルギー反応を抑制することが示された.
 マウスに寄生虫を感染させた上で,ハウスダストによる気道アレルギー反応を誘発させ,その反応の大きさの変化を,気管支肺胞洗浄液中の好中球数,IL-4値,IL-5値,ハウスダスト特異的IgG1値,肺の組織変化などで評価した.結果は寄生虫感染させたマウスのほうが,感染させてないマウスに比べ有意にアレルギー反応が抑制されていた.一方,寄生虫には直接効果のない抗生剤を予め投与したマウスでは,寄生虫を感染させてもアレルギー反応は抑制されなかった.ところが,予め抗生剤を投与しておいたマウスを,寄生虫感染したマウスと同じケージで飼育すると(寄生虫はマウスからマウスへ感染しないが,腸内細菌はマウスからマウスへと感染する),アレルギー反応が抑制された.すなわち,寄生虫感染自体ではなく,寄生虫感染により変化した腸内細菌がアレルギー反応を抑制することが明らかとなった.アレルギー反応が抑制されたマウスでは,腸内細菌由来の短鎖脂肪酸の濃度が上昇しており,短鎖脂肪酸の免疫機能への作用を媒介するGPR41受容体を欠損させたマウスでは,寄生虫感染によるアレルギー抑制効果が消失した.さらにはブタやボランティアのヒトに寄生虫を感染させると,腸内の短鎖脂肪酸産生が上昇することが示された.膨大な実験をもとに寄生虫感染がアレルギーを抑制する機構を明らかにした,大変興味深い論文である.

書評 —著:安部 正敏—ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚疾患

著者: 切手俊弘

ページ範囲:P.823 - P.823

 「皮膚科はいろいろな皮疹をたくさん経験することが大切です」私が学生のときに,ある皮膚科の先生に言われた言葉です.当時,皮膚科のカラーアトラスを読んで皮疹の特徴を覚えたのですが,カラーアトラスには詳細な記載がないので,また別の教科書で,その疾患の診断や治療法を勉強したものでした.皮疹の種類があまりにも多すぎて,臨床を知らない私にとっては,その疾患の頻度などもわからず,必死に覚えただけで,結局忘れてしまうことがほとんどだったと記憶しています.
 ジェネラリスト,つまり皮膚科の“非専門医”にとっての「これだけ知っておけばよい」99疾患がセレクトされていることが,本書のお薦めポイントの1つです.99疾患あれば,ジェネラリストが遭遇する日常の皮膚疾患は十分網羅されていると思います.逆に本書に掲載がなければ,専門医へコンサルトしてよいでしょう.

書評 —編:田中  勝,安齋 眞一—皮膚がんバリエーションアトラス

著者: 名嘉眞武国

ページ範囲:P.824 - P.824

 このたび医学書院より『皮膚がんバリエーションアトラス』というタイトルの書籍が発行された.編集は田中 勝先生(東京女子医科大学東医療センター教授)と安齋眞一先生(日本医科大学教授)のお二人である.お二人の専門領域はダーモスコピーと皮膚病理組織学であることは周知のとおりである.完成させるまでの想像を絶するような時間と労力がまさに伝わってくる力作である.
 まず全体の構成については,皮膚がんの代表として第Ⅰ章「基底細胞癌」,第Ⅱ章「有棘細胞癌およびその類症」,第Ⅲ章「悪性黒色腫」,第Ⅳ章「その他の皮膚がん」を掲げ,最後に第Ⅴ章「皮膚がんと鑑別を要する良性疾患」と大きく5章に分類している.そして各章の冒頭に「臨床像と病理組織像のポイント」として,すべて安齋先生ご自身が解説している.ここでの病理組織像の写真は鮮明度が素晴らしく,内容も若い先生方でも明確に理解しやすいものとなっている.また近年提唱された疾患名の解説も盛り込まれ,最新の知識も学べるものとなっている.評者も大変勉強になり,今後大いに参考にできるものと確信した.

次号予告

ページ範囲:P.825 - P.825

あとがき

著者: 阿部理一郎

ページ範囲:P.828 - P.828

 今年度から編集員に加えさせていただいた阿部理一郎です.
 質の高い,臨床に有用性の高い,そして執筆者の情熱のこもった論文を雑誌として世に出すことに少しでもお手伝いできればと頑張る所存です.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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