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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科70巻2号

2016年02月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・102

Q考えられる疾患は何か?

著者: 伊藤友章

ページ範囲:P.93 - P.94

症例
患 者:70歳,女性
主 訴:前額部と頭頂部の皮疹
既往歴:緑内障
家族歴:特記すべきことはない.
現病歴:10年前より前額部に自覚症状を欠く皮疹が出現した.その後,皮疹が頭頂部まで拡大した.労作時に息切れを認めた.
現 症:前額部から前頭部にかけて鱗屑,痂疲を伴った連続性のある紅色局面を認め,頭頂部に直径1cm前後の紅色局面が多発していた(図1a,b).

マイオピニオン

皮膚科スペシャリティナースについて—学会認定制度をめざして

著者: 佐藤博子

ページ範囲:P.96 - P.97

 1. はじめに:看護師の資格制度について
 ご存知の先生方も多いと思うが,現在,看護師の資格制度として日本看護協会の認定看護師制度,専門看護師制度がある.ほかにも領域ごとに資格が認定されている.看護師のみではなくコメディカルも含めての資格制度である財団法人認定の日本糖尿病療養指導士などが有名であろうか.そのほかに例を挙げると日本輸血・細胞治療学会では職種や輸血の種類ごとに認定しており,認定輸血検査技師,自己血輸血医師看護師,臨床輸血看護師,アフェレーシスナースなどがある.そして日本リウマチ財団では「生物学的製剤による治療など,リウマチ性疾患と治療環境が大きく変化し,他職種によるチーム医療の重要性がますます大きくなってきたことより…」とホームページで記載し,登録リウマチケア看護師の制度を発足した.また,厚生労働省により「特定看護師の研修制度」も始まっている.皮膚領域としては「創傷管理関連」「皮膚損傷に関わる薬剤投与関連」「ろう孔管理関連」などが関係すると考えられる.
 そしてこのような医療環境の変化のなか,日本皮膚科学会(日皮会)においても嬉しいことに「学会認定スペシャリティナース」の育成を目指してワーキンググループを結成していただいた.
 今回は,私のライフワークである「皮膚科看護師の育成」について,紹介させていただきたい.

症例報告

サリチル酸グリコールによる接触皮膚炎の1例

著者: 小坂博志 ,   小松舞衣子 ,   吉崎仁胤

ページ範囲:P.98 - P.100

要約 64歳,女性.初診2日前に市販のトクホンハップ(冷)®を右下腿に貼布してから約2時間後に瘙痒を伴う紅斑が出現し,当科を受診した.右下腿に貼布部位に一致した長方形の浸潤性紅斑を認め,貼布剤による接触皮膚炎と考え,成分パッチテストを施行した.サリチル酸グリコールのみ陽性で,本剤によるアレルギー性接触皮膚炎と診断した.サリチル酸グリコールは古くから消炎鎮痛剤として広く使用されている.しかし,その使用量の多さの割に接触皮膚炎の報告は少なく,比較的稀な症例と思われた.

びまん性潮紅と毛孔一致性丘疹を特徴としたシアナミド(シアナマイド®)による薬疹の1例

著者: 千田聡子 ,   古屋亜衣子 ,   佐藤貴浩

ページ範囲:P.101 - P.105

要約 68歳,男性.アルコール依存症に対してシアナミドを内服.3か月後より前腕に丘疹が出現し次第に全身に拡大したため受診した.ほぼ全身に粃糠様鱗屑を付す潮紅と半米粒大毛孔一致性丘疹が散在し,眉毛外側と腋毛の脱毛を認めた.下腹部の生検病理組織では真皮上層の好酸球を混じるリンパ球浸潤と表皮内の個細胞壊死,さらに毛包周囲の強いリンパ球浸潤と,毛包壁の破壊像が観察された.シアナミドの貼布試験は陽性,DLSTは陰性であった.シアナミドは中止し,ステロイド外用で全身の皮疹は軽快し,2か月後には脱毛も回復した.過去の報告を含め検討したところ,臨床型は落屑性紅斑,扁平苔癬が多いが様々な臨床像を呈すること,好酸球増多を伴うことが多く,貼布試験は高率に陽性だがDLSTは陰性であることが多く,病理組織は苔癬型が多かった.脱毛をきたすことも稀でなく,毛孔一致性丘疹はシアナミドによる薬疹の特徴的所見の1つと考えられた.

淡い褐色斑のみを呈しミノサイクリン塩酸塩関連血管炎との鑑別を要した皮膚型結節性多発動脈炎の1例

著者: 松本奈央子 ,   畑康樹 ,   菅原万理子 ,   菅原信

ページ範囲:P.107 - P.110

要約 23歳,男性.近医で尋常性痤瘡に対しミノサイクリン塩酸塩の内服加療を受けていた.初診1か月前より両下肢に自覚症状がなく,浸潤を触れない爪甲大までの淡い褐色斑が出現した.病理組織所見では真皮脂肪織境界部の小型血管に閉塞を伴う壊死性血管炎像を認めた.血液検査所見では血沈は亢進していないもののCRPの軽度上昇を認めた.抗核抗体はspeckledタイプで160倍を示した.MPO-ANCA,PR3-ANCAは陰性であった.ミノサイクリン塩酸塩による薬剤性血管炎も疑われたが,中止後も改善しないため皮膚型結節性多発動脈炎と診断した.本症の皮膚症状は皮下結節,網状皮斑,紫斑,潰瘍,壊疽など多彩であるが,自験例は淡い褐色斑のみで網状皮斑などを呈せず,血管炎の皮膚症状としては非典型的であった.

結腸癌末期患者に合併した膿疱を伴う癌関連性血管炎の1例

著者: 江上将平 ,   本田治樹 ,   横山知明 ,   杉浦丹

ページ範囲:P.111 - P.115

要約 57歳,女性.末期S状結腸癌で緩和ケア入院中に下腿に皮疹が出現した.両下腿に小豆大までの内部に無菌性膿疱を有する紫斑が多発し,病理組織学的に角層下および表皮内膿疱と真皮浅層の白血球破砕性血管炎を認めた.臨床検査所見,薬剤歴,培養結果などから他の血管炎の可能性を否定し,腫瘍随伴性血管炎と診断した.原病の治療が不可能であったため,ステロイド内服加療を開始したところ,皮疹は速やかに反応したものの原病の増悪により永眠した.無菌性膿疱を伴う血管炎は膿疱性血管炎と称される稀な病態である.自験例では腫瘍随伴性血管炎として出現したことから,その発症機序に免疫複合体の関与を考えた.

間質性肺炎患者に生じたsymmetrical peripheral gangrene—Late onset warfarin necrosisが疑われた1例

著者: 眞部恵子 ,   野田和代 ,   浅越健治 ,   松尾潔

ページ範囲:P.117 - P.122

要約 64歳,男性.初診3年前に特発性間質性肺炎と診断されステロイド内服を中心に加療中であった.初診1か月前にうっ血性心不全で入院した際,心房細動を指摘されワルファリンが開始された.その3週間後に四肢末梢の色調不良と疼痛が出現,増悪したため当科を受診した.四肢末梢は冷感と疼痛を伴い暗紫色調であり,blue toe syndromeとして精査加療を開始した.病理組織像は血栓塞栓像であったが,血清学的に血栓形成と関連する因子は確認できなかった.ヘパリンを投与したが,初診時に紫斑を呈した部分は黒色の乾性壊死に至り,四肢末端の切断術が施行された.自験例はblue toe syndromeからsymmetrical peripheral gangreneとみられる状態に至ったが,その原因の多くを占めるとされる感染症,あるいは敗血症の徴候は見られなかった.それ以外の原因としてwarfarin necrosisの可能性も否定できず,自験例の四肢壊死は複数の因子が絡み合って発症したと考えた.

小児の手に多発した皮下型環状肉芽腫の1例

著者: 丸田康夫 ,   阿部俊文 ,   大畑千佳 ,   名嘉眞武国

ページ範囲:P.123 - P.127

要約 1歳10か月,女児.初診の2か月前に両手掌に皮下結節が出現し,徐々に増大し,多発性となり,把握時の疼痛も伴ってきたため,受診した.右手掌に2.5cm大,右拇指に2cm大,右中指に2cm大,左手掌に2cm大の弾性硬で可動性良好な皮下結節を触知した.生検皮膚病理組織像では,皮下脂肪組織内にアルシアンブルー染色陽性のムチン沈着を伴う変性物質とそれを取り囲むようにCD68染色陽性の組織球の浸潤を認め,柵状肉芽腫の像を呈していたため,両手に生じた多発性の皮下型環状肉芽腫と診断した.特に治療は行わず,経過観察のみで自然消退した.環状肉芽腫の中で皮下型は比較的稀であるが,その中でも手掌に生じる例は特に稀である.

Palisading cutaneous fibrous histiocytomaの1例

著者: 白井暁子 ,   伊東慶悟 ,   松尾光馬 ,   石地尚興 ,   中川秀己

ページ範囲:P.128 - P.132

要約 42歳,男性.左手掌の8mm大の淡褐色調の皮下腫瘤を主訴に受診した.皮膚線維腫や神経鞘腫を疑い切除したところ,神経に隣接した境界不明瞭な白色の硬い腫瘤であった.病理組織像では,皮内から皮下にかけて紡錘形細胞がstoriform patternに増殖する腫瘍巣を認め,中心部でrippled patternを呈していた.免疫組織染色ではfactor XIIIa,α-SMA,CD68とビメンチンが陽性,S100蛋白とCD34は陰性であり,1986年にSchwobらにより最初に報告された皮膚線維腫の稀な亜型であるpalisading cutaneous fibrous histiocytomaと診断した.Rippled patternを呈する腫瘍はいくつかあるが,指趾の神経に隣接した境界不明瞭な腫瘍で,多量の膠原線維の介在や組織球の混在を認めた際は,本症の可能性があり,免疫組織化学的検索により確定診断が可能である.

片側性に生じた多発性立毛筋性平滑筋腫の1例

著者: 藤原暖 ,   岩田昌史 ,   井形華絵 ,   大谷稔男

ページ範囲:P.133 - P.137

要約 73歳,男性.体幹と下肢の左側のみに淡紅色から褐色調の小結節が多発した.左上背部の皮疹は分節状で集簇傾向が強かった.左胸腹部と左下肢は皮疹が散在し,一部に疼痛を伴った.左下肢の皮疹は体幹の皮疹より早く生じたとのことだが,出現時期の詳細は不明であった.病理組織学的には交錯する紡錘形細胞の腫瘍塊が真皮内にみられ,免疫染色はα平滑筋アクチン陽性,デスミン陽性を示した.多発性立毛筋性平滑筋腫と診断した.CTで悪性腫瘍を疑う所見は認めなかった.最近の本邦における報告は,上半身の一部に両側性に生じた例や1つの部位にのみ片側性に生じた例で占められ,自験例のように比較的広範囲に片側性の皮疹が分布することは稀である.ヘテロ接合性の喪失を反映したモザイク病変の可能性も否定できず,分子遺伝学的な検討が必要であると考えた.

左側頭部に生じ多彩な組織像を示した毛包脂腺系腫瘍の1例

著者: 的屋真美 ,   西尾栄一 ,   堀尾愛 ,   多田豊曠 ,   森田明理

ページ範囲:P.138 - P.142

要約 58歳,男性.30歳台の頃,臨床的に明らかな発生母地のない左側頭部に突然疣状の小結節が多数出現した.50歳頃よりそのうちの1か所が徐々に増大し目立つようになったため受診した.初診時,左側頭部に28×18mm大の表面が潰瘍化した結節とその周囲の3〜4mm大の淡紅色から一部黒色の多数の小結節を認めた.結節部の生検標本で乳頭状汗管囊胞腺腫や脂腺腫など多彩な組織像を認めた.部分的には脂腺癌が疑われたため,同年11月周囲の多発する小結節も一塊として全摘後,左鎖骨部より採皮し全層植皮を行った.全摘した腫瘍は脂腺腫,毛芽腫/毛包上皮腫,乳頭状汗管囊胞腺腫と多彩な毛包脂腺系腫瘍の病理組織像を示し,臨床的には明らかでないものの各種の腫瘍の発生母地としての脂腺母斑の存在を示唆していた.脂腺母斑を発生母地とした付属器系腫瘍の報告は多数みられるが,前述の3種の腫瘍の併発はわれわれの調べえた限りでは自験例のみであった.

黒色調外観とダーモスコピー所見が悪性黒色腫に類似した色素性エクリン汗孔腫の1例

著者: 井川徹也 ,   石川武子 ,   田中隆光 ,   多田弥生 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.143 - P.148

要約 84歳,女性.5年前から腰部に黒色小丘疹が出現し徐々に増大した.1年4か月前に近医での凍結療法により平坦化したが数か月前に再発した.25×20×3mm大の平板状の黒色有茎性結節で,一部に紅色部分を伴った.表面は湿潤性で,黒色部は脳回転状,紅色部は平滑だった.ダーモスコピーでblue-whitish veilがみられた.病理組織像は小型の好塩基性細胞がシート状に増殖し,管腔構造を有したメラニン顆粒を含む腫瘍細胞や,間質にメラノファージがみられ色素性エクリン汗孔腫と診断した.自験例のように有茎性である割合は悪性黒色腫と比し汗孔腫に多い傾向があり,有茎性の色素を持つ結節では色素性エクリン汗孔腫が鑑別に挙げられる.また,ダーモスコピーでは色素を有するため鑑別が困難だが,併存する無色素の部分で通常の汗孔腫に典型的な所見が得られるか観察することが重要である.

頭皮に生じた低色素性基底細胞癌の日本人例

著者: 宇野優 ,   東福有佳里 ,   延山嘉眞 ,   中川秀己

ページ範囲:P.149 - P.152

要約 48歳,女性.3年前より側頭部の結節を自覚していた.初診時,長径10mmの淡紅色ドーム状弾性硬の結節を認めた.ダーモスコピーにて,樹枝状の血管と,一部にわずかな色素沈着を認めた.基底細胞癌や毛芽腫を疑い,腫瘍辺縁より2.5mm離して切除した.病理組織学的所見にて,表皮から一部連続した基底細胞様細胞からなる腫瘍胞巣,その辺縁には柵状配列,裂隙の形成を認め,基底細胞癌と診断した.日本人における無色素性あるいは低色素性基底細胞癌はまれであるが一定の頻度で発生しうるので,ダーモスコピー所見や組織学的検索を行い,診断を確定することが重要である.

眼窩内に転移した頰部有棘細胞癌の1例

著者: 大竹ひかり ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   椛島健治

ページ範囲:P.153 - P.156

要約 84歳,女性.1年以上前からあった右頰部の結節が徐々に増大したため生検を施行した.有棘細胞癌(squamous cell carcinoma:SCC)と診断し,全摘した.断端は陰性で,画像検査でもリンパ節転移,遠隔転移を認めなかった.2年後,右眼の疼痛を自覚し,画像検査で右眼窩内に腫瘍性病変を認めた.組織学的に右頰部と同様の腫瘍細胞が増殖し,SCCの眼窩内転移と診断した.本症例はstage Ⅰであったにもかかわらず遠隔転移をきたした.また,SCCの転移の多くは所属リンパ節に発生するが,本症例は最初から眼窩内に遠隔転移をきたした.その理由として,まず腫瘍細胞の一部が脂肪組織に至るまで深く浸潤しており,根治切除術を施行した際に所属リンパ節へのリンパ管が切断されて残存していた腫瘍が眼窩内へ逆行性に転移した可能性が考えられた.

炭酸ガスレーザー治療が奏効した外陰部の炎症性線状疣状表皮母斑の女児例

著者: 玉嶋恵美 ,   竹内かおり ,   木村有太子 ,   須賀康

ページ範囲:P.157 - P.160

要約 10歳,女児.1歳半頃より外陰部右側に瘙痒を伴う紅斑が出現し,次第に疣状に隆起するようになった.その後,ステロイド外用薬や液体窒素療法で加療されていたが症状は改善しないため,当科を初診した.病理組織所見では,表皮は表皮突起の延長を伴う錯角化や顆粒層の消失を呈し,真皮にはリンパ球を主体とする細胞浸潤を認めた.以上より炎症性線状疣状表皮母斑(inflammatory linear verrucous epidermal nevus:ILVEN)と診断した.罹患部位と年齢を考慮し,炭酸ガスレーザー焼灼による治療を3回行ったところ,皮疹と瘙痒の明らかな改善がみられた.本レーザー治療は,低侵襲であり,整容面でも優れるため,ILVENの治療の選択肢の1つになると考えた.

臨床統計

2005〜2014年の岩手医科大学皮膚科における悪性黒色腫151例の統計学的検討

著者: 大西正純 ,   前田文彦 ,   三浦慎平 ,   角田加奈子 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.161 - P.167

要約 2005〜2014年に岩手医科大学皮膚科で経験したin situ病変を除く悪性黒色腫151例を対象に統計学的検討を行った.男性63例(42%),女性88例(58%)と女性が若干多く,平均年齢は64歳であり,発生部位は足部が31%と最多であった.病型別頻度は末端黒子型43%,表在拡大型18%,結節型15%,悪性黒子型11%,粘膜型7%であり,本邦で最多である末端黒子型と比較すると,粘膜型で有意に生存率の低下がみられた.病期別5年生存率はstage Ⅰ 100%,stage Ⅱ 77.3%,stage Ⅲ 64.5%,stage Ⅳ 16.7%であったが,stage ⅡC群で5年生存率0%と予後不良であった.術後化学療法の有無では全生存率,無病生存率ともに有意差を認めなかったが,フェロン維持療法では施行群が無施行群と比較し,無病生存率が有意に高くなり,フェロン維持療法の有用性が示唆された.

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欧文目次

ページ範囲:P.91 - P.91

文献紹介 WHIM症候群患者に生じたクロモスリプシスによる自然治癒

著者: 伊勢美咲

ページ範囲:P.142 - P.142

 クロモスリプシスとは染色体の大規模な欠失とその後のランダムな再構成のことであり,近年,癌細胞で起こることが示された驚くべき現象である.WHIM(warts, hypogammaglobulinemia, infections, myelokathexis)症候群はケモカインレセプターCXCR4の遺伝子変異による常染色体優性遺伝性の免疫不全症である.著者らはクロモスリプシスによりWIHM症候群が自然治癒した1例を報告し,その発生機序について検討した.
 本人およびその娘2人がWIHM症候群と診断されている58歳女性患者(患者A)において,30代以降に症状の自然治癒が確認された.患者Aの頰粘膜細胞,培養繊維芽細胞,リンパ芽球,末梢単核球では遺伝子変異が確認されたのに対し,白血球では変異を認めなかったことから,患者Aは体細胞モザイクの状態と考えられた.患者Aの骨髄細胞の遺伝子解析を行ったところ,2番染色体が順序および方向がランダムな18個の断片により再構成されており,WIHM症候群の病原性変異を有したCXCR4および他の163の遺伝子が欠失していた.患者Aの血液を用いた血球の種類別のPCR結果より,骨髄球系細胞はクロモスリプシスが起こった細胞,リンパ球系細胞はクロモスリプシスが起こっていない細胞からなっていることがわかった.

文献紹介 皮膚悪性黒色腫の遺伝学的分類

著者: 鳩貝亜希

ページ範囲:P.148 - P.148

 331人の患者に由来する333の原発あるいは転移性の皮膚悪性黒色腫のDNA,RNA,蛋白を解析し,最も多く変異していた遺伝子のパターンによって,BRAF変異,RAS変異,NF1変異,Triple-wild-typeの4つのサブタイプに分類した.最大のサブタイプはBRAF変異で52%を占めた.体細胞のコピー数多型,RNAシークエンスなどの統合的な解析から,hot-spot変異が検出されないTriple-WTサブタイプでは,KIT変異および複合的な遺伝子配列構造の転位により,悪性の表現型が導かれることが判明した.これらの遺伝子による分類では,サブクラスの違いによる予後の有意な差異は認めなかった.
 次に転写因子のmRNAのレベルにより,悪性黒色腫をImmune,Keratin,MITF-Lowの3つのサブクラスに分類した.Immuneサブクラスは,免疫系のシグナル伝達などの蛋白発現が高く,他のサブクラスと比較して予後が良好であった.さらに悪性黒色腫に関連するリンパ球の密度と分布を示すlymphocyte score(LScore)を調べると,局所および遠隔転移したリンパ節では他の組織よりもLScoreが高く,また局所転移ではLScoreが高いほど予後が良好であった.LScoreの高い腫瘍はImmuneサブクラスに分類される傾向にあり,T cellマーカーであるLCK蛋白の発現が強かった.これらの解析により,LCK蛋白の発現とリンパ球浸潤の評価の組み合わせが,悪性黒色腫の予後に寄与する可能性があることが示された.

次号予告

ページ範囲:P.169 - P.169

あとがき

著者: 伊藤雅章

ページ範囲:P.172 - P.172

 『臨床皮膚科』の読者ならびに投稿される著者の皆さん,さようなら.お別れの言葉となりましたが,この3月をもって,編集委員を辞することになりました.平成16年に編集委員になった当時のメンバーは,西川武二先生,新村眞人先生,田上八朗先生,瀧川雅浩先生,川島 眞先生と私の6人でした.月1回の編集会議では投稿原稿を皆で順に読みながら,最後にディスカッションをして,受理や再投稿を判定していました.私は平成3年に教授になっていたものの,雑誌編集は初めてのことで,大先輩を見習い,また,いろいろとご教授いただいて,徐々に要領を会得しました.本誌は商業雑誌ではあるものの,70年の歴史があり,本邦の皮膚科学分野の「権威」ある学術雑誌と言えますが,それだけに医学の発展に貢献するために質の高い学術論文を掲載していかなくてはなりません.今や,編集委員としては私が最も古株になっており,その責任をいつも感じていましたが,これで後の方々に役目を譲って肩の荷が下りるわけです.近年は,皮膚科専門医を目指す若い人の症例報告論文が圧倒的に多く,言わば皮膚科専門医への「登竜門」になっていて,論文の書き方,写真や図の作り方や説明の仕方,表の作り方,文献の付け方などに問題のある未熟な投稿論文がとても多いのです.でも,それを丁寧に指摘して直してあげるのが,編集委員の大切な役割になっています.本誌は『臨床皮膚科』ですので,特に症例報告では臨床写真や組織写真は,鮮明で所見が明瞭にわかることが重要です.患者さんを診察するときから,そのことを考えておく必要があります.私は入局4年目で留学し,JIDなど一流の雑誌に投稿するようになったとき,reviewerから大抵は厳しいコメントや判定が返ってきました.私の恩師,橋本 健先生(現,Wayne州立大学名誉教授)に「論文は著者だけのものではなく,editorやreviewerとの合作だ」と言われ,納得しました.私としては,そのようなつもりで,本誌に投稿してくださる皆さんの論文を十分に見せていただき,編集に取り組んできました.厳しいコメントや「不採用」の結果もありましたが,本誌の質を維持するには重要なことと信じています.しかし,十分な準備をして,論文内容を自ら何度もチェックして,指導医と十分に検討して,恐れることなく自信をもってどんどん投稿してください.それが,自らの実力アップに繋がると思います.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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