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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科70巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・103

Q考えられる疾患は何か?

著者: 飛田泰斗史

ページ範囲:P.179 - P.180

症例
患 者:49歳,男性,独身
主 訴:中央部が潰瘍化した顎部の暗赤色局面
既往歴・家族歴:特記することはない.
現病歴:初診1か月半前,顎部に虫刺され様の皮疹が出現した.近医でオフロキサシン1日300mgを10日間投与されたが,皮疹は増大し,中央が潰瘍化した.また両側下顎リンパ節の腫脹と軀幹,四肢に自覚症状のない皮疹が多数出現してきた.患者は風俗店にて複数回感染機会があった.
初診時現症:顎部正中に5×4cmの暗赤色の浸潤性局面を認め,その中央は3×2cmの潰瘍を形成していた(図1).下顎,腋下に無痛性リンパ節腫脹を認めた.軀幹,四肢に米粒大までの紅色丘疹,紅斑が多数散在し,一部で鱗屑を付着していた(図2).

マイオピニオン

医療事故調査制度時代に望まれる医療事故対応

著者: 松村由美

ページ範囲:P.182 - P.183

 筆者は,大学病院の専従の医療安全管理者である.2011年4月から現職にあるので,そろそろ5年が経つ.皮膚科医であるが,さまざまな診療科の医療事故の調査に携わってきた.皮膚科での診療に従事している頃には気づかなかった組織の問題点や管理部門の重要性に目を向けるようになった.2015年10月には医療事故調査制度が始まり,調査支援団体である府医師会での組織立ち上げにも関わるようになった.その経験に基づいて,医療事故調査制度をポジティブな視点から解説する.

症例報告

ブロメライン®軟膏により発熱を生じた仙骨部褥瘡の1例

著者: 近藤佐知子 ,   小川智広 ,   鴇田真海 ,   本田ひろみ ,   伊藤宗成 ,   谷戸克己 ,   中川秀己

ページ範囲:P.185 - P.188

要約 79歳,男性.仙骨部褥瘡を近医で治療されていたが,改善を認めず当科を受診した.褥瘡は10×20cm大のポケット形成を伴っており,ポケット切開を行い,局所陰圧閉鎖療法(V.A.C.®療法)を開始した.その直後より仙尾骨骨髄炎によるスパイク状の発熱を認め,抗生剤投与を開始し,V.A.C.®療法は中止した.さらに,不良肉芽を除去するためにブロメライン®軟膏による外用療法を開始したところ,その翌日よりスパイク状の発熱が再び出現した.明らかな創部の感染徴候およびその他の感染源を認めなかったため,ブロメライン®軟膏による発熱を考え使用を中止したところ,速やかに解熱し,再使用により再び発熱をきたした.これらの経過よりブロメライン®軟膏により生じた発熱と考えた.現在までに同様の報告例はないが,ブロメライン®軟膏の使用量が多かったことが誘因の可能性と考えられた.

動的外力を軽減して改善した坐骨部褥瘡の2例

著者: 吉賀哲郎 ,   平島昌生 ,   平田雄三

ページ範囲:P.189 - P.194

要約 症例1:74歳,男性.腰髄L1以下の脊髄損傷の既往がある.2012年4月より左坐骨部に褥瘡を認め,保存的に加療をされるが難治で,骨髄炎を併発し,当院に入院した.症例2:39歳,女性.胸髄Th10以下の脊髄損傷の既往がある.2012年6月より右坐骨部に褥瘡を認め,同部位の感染を繰り返していた.保存的に加療を継続したが難治であり,手術加療を目的に入院した.2症例とも治療に難渋したが,潰瘍を評価し,その性状から動的外力が増悪因子となっていると判断した.座位の動作や身体移動によって生じる動的外力を可能な限り除去することで著明な改善がみられた.褥瘡発生の第一の要因は過大な外力であるが,その外力は必ずしも重力による圧力だけでなく,動的外力も治癒を遷延させる原因として大切である.個々の症例で潰瘍の性状を評価し,動的外力の軽減を検討する必要がある.

原発性胆汁性肝硬変の患者にPasteurella multocidaによる敗血症性ショックをきたしたネコ咬傷の1例

著者: 吉賀哲郎 ,   平島昌生 ,   佐々木貫太郎 ,   西田翼 ,   鳥越勇佑 ,   土師恵子 ,   大屋敏秀

ページ範囲:P.195 - P.199

要約 70歳,女性.基礎疾患に原発性胆汁性肝硬変がある.初診の前日の夕方に飼いネコに右前腕を咬まれたが経過観察していた.翌朝より発熱,意識障害を生じ,咬傷部は腫脹,熱感,疼痛を伴う紫斑になり,当院を受診した.臨床,検査所見よりネコ咬傷部からの感染による敗血症と診断し,洗浄処置とスルバクタムナトリウム9g/日の点滴を開始したが,第2病日早朝にショック状態となり,集学的治療を行った.血液培養検査で,Pasteurella multocidaが同定され,同菌による敗血症性ショックと診断した.肝硬変患者におけるP. multocida感染症は重症化しやすく,早期治療の開始が必要である.

水疱性類天疱瘡に発症した後天性血友病A—皮膚生検後の止血に難渋した1例

著者: 永島和貴 ,   山田朋子 ,   中村哲史 ,   牧伸樹 ,   中村考伸 ,   梅本尚可 ,   石井彰 ,   木村俊一 ,   出光俊郎

ページ範囲:P.201 - P.206

要約 80歳,男性.右頰粘膜の血腫および右膝部の難治性皮膚潰瘍により当科に紹介された.数か月前に皮膚に水疱が多発した病歴があり,水疱性類天疱瘡を疑い皮膚生検を施行し入院した.入院時の採血で活性部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)が75.2秒と延長しており,第Ⅷ因子活性の低下と第Ⅷ因子インヒビターの陽性化から後天性血友病Aと診断した.また,血中抗BP180NC16a抗体陽性,蛍光抗体直接法,間接法で基底膜部にIgGの沈着を認め,水疱形成の既往臨床像から,水疱性類天疱瘡に後天性血友病Aが合併したと診断した.生検数日後から同部位に著明な出血を認めた.血腫除去,再縫合を行ったが創部感染をきたし,出血コントロールに難渋した.自己免疫疾患に後天性血友病Aが合併することがあり,凝固系評価は必須である.自験例のようにAPTTの単独延長を認めた症例では後天性血友病Aを疑い,診断時は,病勢コントロールがつくまでは皮膚生検など外科的侵襲は禁忌である.

歯肉粘膜びらんのみを呈した粘膜類天疱瘡の1例

著者: 藤田真文 ,   遠藤雄一郎 ,   藤澤章弘 ,   谷岡未樹 ,   大日輝記 ,   椛島健治 ,   石井文人 ,   橋本隆 ,   宮地良樹

ページ範囲:P.207 - P.212

要約 80歳,女性.歯肉の難治性びらんを主訴に当科を受診した.全身の皮膚には水疱・紅斑はなかった.歯肉粘膜の生検組織病理像では,表皮下水疱を形成しており,蛍光抗体直接法では基底膜部にIgG,IgM,C3が線状に沈着していた.1M食塩水剝離皮膚を基質とした蛍光抗体間接法ではIgGは表皮側に反応した.患者血清を用いた免疫ブロット法ではBP 180のNC16a部位に対するIgG抗体を検出した.粘膜類天疱瘡と診断し,プレドニゾロン20mg/日とミゾリビン40mg/日内服で粘膜びらんは改善した.難治性の口腔内びらん,潰瘍を認めたときは,積極的に粘膜類天疱瘡を含めた自己免疫性水疱症を鑑別することが勧められる.

Paradoxical reaction(逆説的反応)に対しウステキヌマブとメトトレキサートの併用が有効であった尋常性乾癬の1例

著者: 宇山美樹 ,   橋本由起 ,   高田裕子 ,   関東裕美 ,   石河晃

ページ範囲:P.213 - P.217

要約 60歳,男性.22歳時に尋常性乾癬と診断された.58歳時にアダリムマブ80mgを導入し皮疹は徐々に改善したため40mgへ減量し,投与間隔を4週間へ延長後,PASIスコアクリアを維持していた.しかしアダリムマブ導入78週後(1年9か月後)に,体幹,四肢に鱗屑を伴う紅斑の再燃と同時に手掌と足底に掌蹠膿疱症様の膿疱を伴う紅斑が新たに出現していたため,アダリムマブの逆説的反応(paradoxical reaction:PR)と考えた.アダリムマブをウステキヌマブへ変更したが当初これらの皮疹は治療に反応不良であったため,メトトレキサートを併用したところウステキヌマブ導入63週後に掌蹠の皮疹は消退した.本邦におけるTNF-α阻害薬による乾癬様皮疹と掌蹠膿疱症の報告では,27例中17例で掌蹠膿疱症を発症している.TNF-α阻害薬投与後の掌蹠膿疱症の出現はPRである可能性を常に念頭に置くべきであると考えた.

Lhermitte-Duclos病を伴うCowden病の1例

著者: 龍神操 ,   伊東可寛 ,   五味博子 ,   保谷克巳 ,   片上秀喜 ,   早川和人

ページ範囲:P.219 - P.224

要約 55歳,男性.左側頭部の違和感を主訴に当院脳神経外科を受診した.精査目的で実施された頭部MRI検査で右小脳半球に腫瘤を認め,T1強調像で特徴的な線状構造を示すことからLhermitte-Duclos病と診断された.掌蹠に多発する角化性病変を伴っていたことからCowden病の可能性を疑われて当科を紹介された.初診時,掌蹠の角化性病変の他,頰粘膜に多発性乳頭腫を認めたが,顔面には腫瘍性病変はみられなかった.手掌の角化性丘疹の生検病理組織像では表皮の陥凹を伴う過角化が認められた.Cowden病に特徴的な粘膜皮膚症状とLhermitte-Duclos病を併せて自験例をCowden病と診断し,全身精査で過誤腫性消化管ポリープ,腺腫様甲状腺腫を認めた.Lhermitte-Duclos病については現時点で明らかな神経症状はなく,経過観察中である.成人型Lhermitte-Duclos病はCowden病の診断基準の特徴的基準の1つとして挙げられ,Cowden病患者の診療にあたって念頭に置くことが必要である.

閉経前の女性に生じたfrontal fibrosing alopeciaの1例

著者: 栗原和生 ,   津嶋友央

ページ範囲:P.225 - P.228

要約 34歳,女性.両側対称性に前頭部から側頭部にかけて帯状に分布する脱毛斑と,眉毛の脱毛を主訴に来院した.生検病理組織像で毛包周囲にリンパ球浸潤があり,frontal fibrosing alopecia(FFA)と診断した.FFAは当初postmenopausal frontal fibrosing alopeciaとして報告された原発性瘢痕性脱毛症で,最近では特に海外において多数例が報告されている.しかし,本邦での報告は比較的稀であり,自験例のように閉経前の女性の報告例はほとんどない.FFAは閉経後の女性が全体の約80%以上を占めるが,閉経前の女性や男性にも生じることがある.さらに早期診断・治療を行わない場合,瘢痕化して非可逆性になることが多い.帯状の脱毛病変では,FFAを鑑別診断に入れることが肝要である.

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療後に出現した多発性エクリン汗孔腫の1例

著者: 植田郁子 ,   高橋麻友子 ,   岡本祐之

ページ範囲:P.229 - P.233

要約 49歳,男性.1998年節性濾胞性リンパ腫の診断でCHOP療法を6クール受け寛解後,2008年にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ形質転換し再発した.R-CHOP療法,大量化学療法併用自家末梢血幹細胞移植にて寛解した.2010年頃より右足に結節が出現.右踵内側に径5mm大の紅色小結節あり.右足内側,右拇趾先端,左右足底にも径3mmまでの同様の淡紅色小結節を認めた.右踵内側,右足底の生検では表皮から連続して腫瘍細胞が結節状に増殖.腫瘍細胞は類円形の核を持ち,細胞質が乏しいporoid cellから構成されていた.びまん性大細胞型リンパ腫に対する治療後に発生した多発性エクリン汗孔腫と診断した.多発性エクリン汗孔腫の発症機序はこれまでのところ不明であるが,リンパ増殖性疾患およびその治療との関連が推測される.

下口唇に出現した青色母斑の1例

著者: 荒川伸之 ,   井上剛 ,   菊池剛彰 ,   櫻井英一 ,   森志朋 ,   高橋和宏 ,   赤坂俊英

ページ範囲:P.235 - P.238

要約 31歳,男性.2010年より下口唇に青褐色斑を自覚した.近医皮膚科にて経過観察されていたが,増大傾向があり,2014年7月,当科を受診した.下口唇正中よりやや右側に径2mmの境界明瞭な青褐色斑を認めた.病理組織像から通常型青色母斑と診断した.下口唇の青色母斑の報告例は少なく,本邦においては初報告である.海外においても5例であった.下口唇に比し上口唇の報告例が多く認められた.

急速に増大したgiant cell tumor of soft tissueの1例

著者: 松﨑ひとみ ,   本多皓 ,   高橋京子 ,   陳科榮

ページ範囲:P.239 - P.243

要約 58歳,男性.初診2か月前に左下腹部に皮下結節が出現し,増大したため受診した.左下腹部に柔らかくドーム状に隆起する径5×4cm大の赤褐色腫瘤を認めた.皮膚生検病理組織所見では,破骨細胞様巨細胞と組織球様の単核細胞からなる境界不明瞭な結節病変であり,異型細胞は認めなかった.3か月の経過観察中に腫瘍は急速に増大し,表面が潰瘍化し壊死組織に覆われた径7×6cm大の有茎性腫瘍となった.全摘標本では,線維組織で分葉される充実性腫瘍であり,異型の目立たない組織球様単核細胞を主体に破骨細胞様多核巨細胞が混在していた.腫瘍細胞はCD68陽性,ビメンチン一部陽性,smooth muscle actinとS100蛋白は陰性で,giant cell tumor of soft tissueと診断した.本腫瘍は臨床的・病理組織学的に骨の巨細胞腫と類似する軟部組織腫瘍であり,局所再発することがある.転移はきわめて稀で悪性度は中間群に分類される.局所再発を防ぐために完全切除することが重要である.

慢性に経過した多発滑液包炎の1例

著者: 金子由佳 ,   中井章淳 ,   加藤則人

ページ範囲:P.245 - P.248

要約 37歳,男性.当科初診の約20年前から左膝下の皮膚腫瘤を自覚し,約9年前から右膝下と右外果の皮膚腫瘤も自覚していた.初診時,右膝下に3つ,左膝下に2つ,右外果に1つの弾性軟な皮膚腫瘤がみられた.右膝下と右外果の腫瘤の病理組織学的所見では,真皮内に不整な線維性肉芽組織と腔隙の形成がみられた.滑液包炎と診断した.整形外科を紹介したところ,摩擦を避けるよう指導され経過観察となった.自験例では,スポーツ歴や職業歴から,膝や足関節部に慢性的な刺激を受けていた可能性が高く,滑液包炎の発症に関与したと考えられた.滑液包炎は整形外科領域からの報告が多く,皮膚科の成書に本疾患についての記載はない.滑液包炎は合併症として重篤な関節破壊を引き起こすことがあり,皮膚腫瘤の鑑別として皮膚科医も熟知する必要があると考えた.

転移性結核膿瘍の2例

著者: 寺前彩子 ,   大霜智子 ,   石川世良 ,   大村崇 ,   宮成嘉 ,   鶴田大輔

ページ範囲:P.249 - P.254

要約 症例1:88歳,女性.左下腿の発赤,腫脹に対し,蜂窩織炎の診断にて抗生剤を投与されていたが改善せず,その後,左足背に皮下膿瘍が出現した.膿および喀痰からMycobacterium tuberculosisが培養された.症例2:78歳,女性.左下腿に疼痛を伴う皮下腫瘤が出現したため受診となった.穿刺にて血性液が排出されたが再燃を繰り返すため,抗酸菌培養を提出したところ,皮下腫瘤穿刺液よりM. tuberculosisが培養された.その後,喀痰からもM. tuberculosisが培養された.2例ともに肺結核を認めたため,転移性結核膿瘍と診断した.高齢者および免疫不全の患者において皮膚結核は念頭に置くべき疾患であり,難治性の皮膚疾患を診た場合には抗酸菌検査を積極的に考慮すべきであると考えられた.

新生児中毒性紅斑の1例

著者: 平川彩子 ,   簗場広一 ,   小林光 ,   上出良一 ,   中川秀己

ページ範囲:P.255 - P.258

要約 生後1日の満期産女児.母体の感染徴候はなく,児の全身状態は良好であった.出生20時間後から皮疹が出現し,小児科より当科を紹介され受診した.初診時,背部から大腿部にかけて周囲に紅暈を伴う米粒大から拇指頭大の浸潤を強く触れる黄白色丘疹が散在し,一部は融合していた.皮疹は3日後に色素沈着を残さず自然消退した.病理組織像では,毛包内外に好酸球,好中球が密に浸潤していた.臨床経過と併せて新生児中毒性紅斑と診断した.新生児中毒性紅斑は,出産後の新生児が,胎外の環境に順応する際の一過性反応であり,生後24〜72時間にみられる.新生児の生理的皮膚変化の1つであるため,出産後24時間を経過しないうちに出現することも稀にある.本症を皮膚科医が診察する機会は比較的少ない.よって,新生児の診察を行う際には認識すべき疾患の1つとして重要である.

臨床統計

乾癬に対するインフリキシマブ投与中にみられる抗ss-DNA抗体価の上昇に関する検討

著者: 村上克彦 ,   國行秀一 ,   田口麻莉 ,   前川直輝

ページ範囲:P.259 - P.261

要約 インフリキシマブ(IFX)投与10例(尋常性乾癬7例,関節症性乾癬2例,膿疱性乾癬1例)中7例で抗核抗体が陽性となった.7例において,抗ds-DNA抗体価の上昇はみられなかったが,うち5例で抗ss-DNA抗体価は50AU/ml以上に上昇し,陽性化がみられた.関節リウマチにおいてIFX投与中に抗ss-DNA抗体が陽性化後に抗ds-DNA抗体の陽性化に伴うループス様症候群の発症例が報告されている.乾癬においても,抗ss-DNA抗体の陽性化は,抗ds-DNA抗体の陽性化とループス様症候群の発症につながる可能性があると考えられるため,注意が必要と思われた.

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欧文目次

ページ範囲:P.177 - P.177

文献紹介 進行期血管肉腫に対するパクリタキセル治療においてベバシズマブの併用は有用か

著者: 持丸奈央子

ページ範囲:P.224 - P.224

 血管肉腫は全軟部悪性腫瘍の中で稀な疾患であり,かつ悪性度が高い.近年,血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growthfactor:VGEF)が血管肉腫の増殖に関与することや,血管肉腫の多くにVGEFおよびその細胞表面受容体であるVGEF receptorが発現していることが明らかになった.さらにVEGF経路を阻害することで腫瘍増生が抑制されることが報告されており,VEGF阻害薬による治療効果が注目されるようになった.
 著者らは,進行した血管肉腫におけるパクリタキセル単剤と,パクリタキセルとVEGFモノクローナル抗体であるベバシズマブ併用の効果についての第Ⅱ相試験を行った.試験は2010〜2013年に14施設52人の患者を対象に実施し,ランダム化比較オープンラベル方式で行われた.6か月目でのprogression-free survival(PFS)率を主要評価項目としてデザインし,併用効果を検討した.結果,単剤群で54%,併用群で57%と有意差はなかった.一方,有害事象については併用群で多く認められた.

文献紹介 養子免疫療法において体外で腫瘍微小環境を操作することが腫瘍浸潤リンパ球を拡大させる

著者: 平井郁子

ページ範囲:P.228 - P.228

 進行期悪性黒色腫に対する腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocytes:TIL)を用いた養子免疫療法は,米国などで行われており,40〜50%の奏効率が報告されている.切除した腫瘍組織とともにTILを培養し,1,000倍以上に増殖させたTILを患者に輸注する.培養早期に腫瘍反応性CD8T細胞にIL-2を付加する従来の手法は,抗腫瘍効果を持つT細胞の浸潤を促すために不可欠である一方で,浸潤後に高い抗腫瘍効果を維持するCD8T細胞を増殖させることが,TIL療法の課題とされてきた.
 TNF受容体スーパーファミリーに属する共刺激分子である4-1BBの発現は,CD8T細胞やNK細胞に顕著で,IFN-γ産生を増加させて抗腫瘍免疫応答を増強させる.著者らは以前の研究で,TIL培養の後期に完全ヒト4-1BBアゴニスト抗体(BMS-663513)を投与すると,拡大したCD8T細胞の活性化起因性細胞死が抑制され,細胞生存が延長することを示した.さらに腫瘍断片から早期に4-1BB発現CD8T細胞を検出できたことより,培養早期に4-1BBの共刺激を与えれば,さらなるTILの増殖が期待できると考えた.

書評 —編集代表:福原 俊一—医療レジリエンス—医学アカデミアの社会的責任

著者: 安藤潔

ページ範囲:P.234 - P.234

 われわれが医療現場で経験している過去10年のさまざまな変化が,どのような原因によるものなのか? それは日本における特殊な変化なのか,世界共通のものなのか? これらの変化にわれわれは今後どのように対応してゆけばよいのか? そのために医学アカデミアが果たす役割は何か?
 このような疑問を持つ読者にとって,本書は絶好のオリエンテーションを与えてくれるであろう.「超高齢社会」「健康格差」「福島原発事故」「グローバルヘルス」「ビッグデータ」「医療技術評価」「コンパクトシティ」「ソーシャルキャピタル」「総合診療専門医」などのテーマが本書で扱われている.

書評 —著:児玉 知之—戦略としての医療面接術—こうすればコミュニケーション能力は確実に向上する

著者: 木村哲也

ページ範囲:P.244 - P.244

 「問題患者さんが増えて困った時代だよなあ,こっちは“医学的に”正しく対応しているのに」とぼやかずにはいられない先生方には,ぜひご一読いただきたい本である.さすが児玉知之先生(柏厚生総合病院内科)の著書だけあって,エビデンスや概念がより実践的な形で具現化されている.
 全体の構成は,医療面接に必要なスキルが全12章にまとめられ,各章ごとに症例提示から始まっていてわかりやすい.多くの先生方にとって,「これ普通の対応だよね」「そうそう,こんなのあるある」「何が悪いんだ」と心の中で叫んでしまいそうな症例ばかりであるが,読み進めていくうちに,問題点が明らかとなり,どう対応すべきだったかが述べられていく.

お知らせ 第9回インターネット皮膚病理診断検討会

ページ範囲:P.262 - P.262

開催期間 2016年2月10日(水)〜2016年3月30日(水)
開催スケジュール 1. 参加登録
  2. 症例供覧と診断名投稿 2016年2月10日(水)〜3月1日(火)
  3. 抄録と病理組織像(バーチャルスライド)をweb上で公開します.各症例の診断名やその根拠となる所見,質問などを掲示板へお寄せください.
  4. powerpointスライド公開と掲示板でのディスカッション
2016年3月2日(水)〜3月22日(火)
演題発表者による症例紹介powerpointスライドをweb上で公開します.また,発表者を交えての討論会を掲示板にて行います.
  5. 座長によるとりまとめ 2016年3月23日(水)〜3月30日(水)
検討会のあと,座長が意見をとりまとめます.

次号予告

ページ範囲:P.263 - P.263

あとがき

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.266 - P.266

 かつて高校生だった筆者を魅了したテレビ番組があった.テレビ時代劇の最高傑作と評される『新選組血風録』である.番組終了後数十年を経ても,有志による定期的な鑑賞会が開催されていたが,現在はDVD化され,いまだに新しいファンを獲得し続けている.司馬遼太郎氏の原作のイメージに合った俳優が無名の役者の中から選ばれ,当時すでに斜陽の兆しがみえていた邦画のスタッフや脚本家が格安の予算で制作したのがこの作品であった.珠玉の輝きを放つ各話の中にうかがえる「滅びの美学」は,その後の筆者の人生哲学の基礎ともなって,その生き方に少なからぬ影響を与えた.
 その成功を受け,5年後には同じ題材,制作陣で,『燃えよ剣』が作られたものの,恵まれない環境下でも何とか良い作品を作り出したい,という熱情によって生み出された前作とは何かが違っていた.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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