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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科70巻6号

2016年05月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・105

Q考えられる疾患は何か?

著者: 藤岡愛

ページ範囲:P.367 - P.368

症例
症 例:79歳,女性
主 訴:左下腿の圧痛を伴う紫斑
既往歴:肝硬変(C型肝炎ウイルスとアルコールによる)で消化器科通院中
家族歴:特記すべき事項なし.
現病歴:アジの刺身を食べ3日後に嘔吐腹痛で近医を受診したが,ショック状態となり当院消化器科へ緊急搬送された.ICUで全身管理を行っていたところ,第3病日に左下腿に圧痛を伴う紫斑が出現し当科を紹介された.
初診時現症:左下腿のみに中心部に血疱を有し,一部周囲に水疱を伴う鶏卵大の環状紅斑と,著明な圧痛を伴う紫斑を認めた(図1).

マイオピニオン

市中病院だからこそできる膠原病診療のリーダーは皮膚科!

著者: 小寺雅也

ページ範囲:P.370 - P.371

 1. はじめに
 「市中病院での膠原病診療における皮膚科の縄張り—皮膚科医がどこまでみるべきか?」というテーマで私見を述べる機会を頂いた.その際,なぜ市中病院なのだろう? という感想を持った.多くの大学病院には膠原病内科やリウマチ内科(欧米ではリウマチ疾患を扱う医師はRheumatologistであり,…内科という標榜はないが)などの講座が存在し,皮膚科が縄張りを主張できる部分がすでに確立しているもしくは限られているからであろうか? またさまざまな内臓合併症を有する膠原病をクリニックでケアしようと考えると他科との連携の面で困難も多いと思われる.とすれば,出番は市中病院である,がんばれ市中病院! ということであろうか.本稿依頼の意味は日々臨床に汗を流している市中病院部長へのエールの機会であると私は考えた.膠原病内科やリウマチ内科はそのほかの内科分野に比較して小規模であることが多く,市中病院に複数の医師を派遣することが難しく,特に地方では,膠原病関連の標榜のある市中病院は多くないと思われる.筆者の所属する中京病院は名古屋市内にあり,名古屋市内の市中病院での膠原病標榜の有無について調査したことがある.平成23年(2011年)の調査ではあるが,名古屋市内の132病院で膠原病・リウマチを標榜する専門外来標榜を有する病院はたった11病院のみであった.このような状況下では患者は医療機関・診療科の選択に迷い,早期に適切な診察を受ける機会を失していることも予想される.また市中病院内で内科や外科などのいわゆるメジャー科に比較して皮膚科はどうしてもマイナーな存在になり,皮膚科勤務医の減少,モチベーションの低下が叫ばれるなかで,膠原病診療における縄張りの主張はチャンスと捉えるべきであると私は考えている.

症例報告

癤腫様皮疹を呈した不全型Behçet病の1例

著者: 武岡伸太郎 ,   多田弥生 ,   林耕太郎 ,   福安厚子 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一 ,   伊藤理恵 ,   新井淑子 ,   菊池弘敏

ページ範囲:P.373 - P.377

要約 66歳,男性.初診1か月前より顔に自覚症状のない膿疱,紅色丘疹が出現した.その後,体幹にまで拡大,増数した.2〜3日前から結膜充血も出現した.近医で毛囊炎を疑われ抗生剤内服するも改善せず当科を受診した.経過中に発熱はなかった.顔面および体幹中央を中心に大豆大までの紅色丘疹が多発散在していた.一部の皮疹では複数の膿疱を混じ,体幹の皮疹は一部融合し紅色局面を形成していた.精査にて虹彩毛様体炎,緑内障と毛囊炎様皮疹,針反応陽性,炎症反応の亢進,HLA-B51陽性,病理組織所見のすべてが合致し,不全型Behçet病と診断した.本症例の皮膚症状は分布が顔面,軀幹に多発するも四肢に認めず,個疹が大きく,さらに一部では表面に複数の膿疱を伴い,癤様の皮膚症状を呈した点が特異であると考えた.こうした皮疹を有した症例は調べえた限りでは自験例が初めてで毛囊炎様皮疹の重症型の臨床症状と考えた.

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の1例

著者: 明石顕 ,   植木理恵 ,   山下史記 ,   梁広石

ページ範囲:P.379 - P.382

要約 27歳,男性.2010年11月,下肢に瘙痒伴う紅褐色斑が多発した.近医にてステロイド内服・外用で加療されたが再発を繰り返し,全身に拡大したため,4月上旬に当院皮膚科受診した.皮膚症状は内服・外用で改善したが,4月中旬に左下肢の腫脹と疼痛が出現し,蜂窩織炎を疑い抗生剤内服を開始した.1週間後に両側足関節腫脹,下肢痛で歩行困難となった.好酸球数増加,下肢感覚低下,胸部X線で両肺野にスリガラス陰影を認め,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)の疑いで入院した.皮膚生検で血管周囲に著明な好酸球浸潤,肉芽腫性変化を認め,下肢の単神経炎所見を伴いEGPAと診断した.入院後3日間ステロイドパルスを施行し,プレドニゾロン(PSL)60mg内服を開始した.下肢感覚,皮膚症状とも改善し,PSL 40mgで退院した.EGPAは治療が遅れると症状が遷延するため,早期発見・治療が必要である.アレルギー性鼻炎の基礎疾患があり,瘙痒を伴う皮疹が初発したEGPAは少ないため報告した.

慢性C型肝炎に対するペグインターフェロン皮下注射部に生じた著しい皮下血腫の1例

著者: 村上克彦 ,   田口麻莉 ,   前川直輝 ,   國行秀一

ページ範囲:P.383 - P.386

要約 55歳,女性.慢性C型ウイルス性肝炎に対してテラプレビル・ペグインターフェロンα-2b(PEG-IFN)・リバビリンによる3剤併用療法を施行したところ,PEG-IFN皮下注射を実施した右上腕部に,注射11日後に著明な皮下血腫を生じた.さらに上下肢の散在性紅色丘疹(グレード2),腎機能低下,発熱,全身倦怠感などを認めた.皮疹拡大と全身状態の増悪が懸念されたので,直ちに3剤すべてを中止し,プレドニゾロン20mg/日を投与したところ,皮疹と皮下血腫の改善がみられた.PEG-IFN注射部位に著明な皮下血腫を生じた同様の報告はみられなかったが,同剤による局所の炎症反応,血栓形成,血管炎などが誘発したものと推測された.

下腿に限局した塩酸ミノサイクリンによる色素沈着型薬疹

著者: 林政雄 ,   清水教子 ,   三澤恵 ,   牧野輝彦 ,   清水忠道

ページ範囲:P.387 - P.390

要約 47歳,男性.27歳時から潰瘍性大腸炎,32歳時から多発筋炎のためプレドニゾロン9mg/日内服しており,いずれもコントロール良好であった.4か月前から両下腿前面に色素沈着が出現し,徐々に拡大してきたため受診した.初診時,両下腿に自覚症状のない不整形で一部網状の青灰色斑を認めた.病理組織学的に真皮から脂肪織の主に血管と付属器周囲に褐色の沈着物を認め,その多くが鉄染色で陽性であった.血液検査では血清鉄,トランスフェリン飽和率,血清フェリチンの上昇はみられなかった.また,輸血歴,鉄剤内服歴もなかった.左アキレス腱断裂の手術後の創感染に対して,皮疹出現の2か月前から塩酸ミノサイクリンを内服していた.同剤の内服中止により下腿の色素沈着は徐々に消退した.塩酸ミノサイクリンを長期使用する際には色素沈着出現に注意する必要がある.

経過中に多彩な自己免疫疾患を併発した薬剤性過敏症症候群の1例

著者: 平川彩子 ,   小林光 ,   高坂美帆 ,   二木賢 ,   簗場広一 ,   谷戸克己 ,   上出良一

ページ範囲:P.391 - P.396

要約 17歳,女性.てんかんに対してゾニサミド内服開始3週間後から,発熱,肝機能障害,全身の紅斑,リンパ節腫脹が出現した.経過中に異型リンパ球の出現,HHV-6 IgG抗体価上昇を認め,薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)と診断した.発症66日目に橋本病,157日目にVogt・小柳・原田病を合併した.DIHSは経過中,あるいは軽快後に多彩な臓器障害が出現することがあり,その1つに自己免疫疾患がある.橋本病とVogt・小柳・原田病の合併は稀でありここに報告する.

Circumscribed palmar hypokeratosisの3例

著者: 天方將人 ,   高村さおり ,   河辺美咲 ,   寺木祐一

ページ範囲:P.397 - P.400

要約 Circumscribed palmar hypokeratosisの3例を報告する.症例は60,66,62歳の女性,それぞれ10年,小児期,12年前から皮疹を認める.前2例は母指球部,3例目は小指球部に1cm大程の境界明瞭な陥凹した紅斑局面を認めた.病理組織学的に表皮角層の顕著な菲薄化がみられた.ダーモスコピーでは淡い無構造な紅斑内に規則的に配列するwhitish spotsや不規則に分布するdotted vesselsが観察された.2例でヒトパピローマウイルスDNAを検索したが,陰性であった.ステロイドやビタミンD3外用はいずれも無効,1例は全摘した.中高年の手掌や足底に陥凹した小紅斑局面を見たら,本症を鑑別すべきであり,ダーモスコピーは診断に有用である.

乳児に発症した再発性環状紅斑様乾癬の1例

著者: 笹田久美子 ,   秦まき ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.401 - P.405

要約 3か月,男児.初診の2週間前より,前頸部に大型の環状紅斑と,体幹に多発する軽度鱗屑性小紅斑が出現した.さらに2週間後には個々の小紅斑は拡大,環状を呈し,多数の小膿疱を伴うようになった.発熱など全身症状はなかった.病理組織学的に,表皮肥厚と表皮突起の軽度延長がみられ,Kogoj海綿状膿疱を認めた.以上より再発性環状紅斑様乾癬と診断した.ステロイドを外用し,皮疹は一度消退したが,その後増悪し再度全身へ拡大した.そのため,シクロスポリン内服を開始し,症状は改善した.乳児の環状紅斑の鑑別として本疾患は重要であり,また治療に難渋する場合はシクロスポリン投与が選択肢の1つとなりうると考えられた.

インフリキシマブによる治療経過中に持続性の強いめまいを生じた関節症性乾癬の1例

著者: 村上克彦 ,   國行秀一 ,   田口麻莉 ,   前川直輝

ページ範囲:P.407 - P.411

要約 33歳,女性.20歳頃から軀幹,四肢に角化性紅斑が出現し,近医皮膚科にて尋常性乾癬の診断のもと,ステロイド,ビタミンD3軟膏外用による治療を受けていた.初診の1か月前から,手足の発赤腫脹,疼痛が出現したため,当科を紹介受診した.関節症性乾癬と診断し,インフリキシマブ(IFX)による治療を開始した.IFX 5回投与後から中等度の持続性めまいが発生し,外出困難となった.IFX 7回投与後にアダリムマブの皮下注射に変更したが,めまい・気分不良は持続したため,投与を中断し,ベタヒスチンメシル酸塩・エチゾラム・パロキセチン塩酸塩の内服により,中止2か月後にめまいなどの症状は寛解した.シクロスポリン内服療法に変更後,現在まで約3年間,めまい症状の再燃はみられない.抗TNF-α製剤の投与中に持続性のめまいが生じた場合,薬剤性の可能性も考慮する必要があると考えられた.

定型疹を伴った皮下型環状肉芽腫の1例

著者: 東山文香 ,   植田郁子 ,   爲政大幾 ,   岡本祐之

ページ範囲:P.413 - P.416

要約 2歳,女児.初診の1年前より右下肢,両手掌に皮疹が出現したため当科を受診した.右大腿,右下腿,右足背,両手掌に辺縁がやや堤防状に隆起した環状の類円形局面があり,右足背ではその局面内に小指頭大の皮下結節を認めた.病理組織学的には,環状局面の辺縁では真皮内に変性した膠原線維とムチンの沈着がみられ,その周囲を取り囲むようにリンパ球と組織球が浸潤していた.皮下結節では真皮深層から皮下組織にかけて同様の肉芽腫像がみられた.病理組織学的所見より環状肉芽腫の定型疹と皮下型の併発例と診断した.定型疹と皮下型の併発報告例はこれまで11例と少ない.

皮膚筋炎におけるFDG-PETによる筋炎の活動性評価—筋症状重症例と軽症例の比較

著者: 影山玲子 ,   糟谷啓 ,   池谷茂樹 ,   藤山俊晴 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.417 - P.421

要約 皮膚筋炎においてFDG-PETが筋炎の活動性評価に有用であるかを,筋症状の異なる自験2例で検討した.症例1:62歳,男性.血液検査ではCK 7,671IU/l,アルドラーゼ33IU/lと高値であり,大腿部からの筋生検ではCD3陽性のT細胞が浸潤していた.筋症状は強く,頸部・肩関節部を中心とする近位筋の脱力,嚥下障害,構音障害があった.徒手筋力検査法では後頸部筋と三角筋が特に低下し,3/5であった.FDG-PETでは後頸筋群,上肢近位筋,咽頭・後頭部の筋群に強い集積があり,体幹・大腿部にも集積があった.FDG-PETで集積亢進の見られた部位と臨床症状での筋力低下部位が一致していた.症例2:68歳,女性.筋症状は軽微であり,血液検査上も顕著な筋由来酵素の上昇はなかった.FDG-PETでの筋への集積はほとんど認められなかった.皮膚筋炎においてPETは悪性腫瘍の検索だけでなく,筋炎の評価にも有効である可能性が示唆された.

陰茎縫線囊腫の1例

著者: 金田一真 ,   穀内康人 ,   牧之段恵里 ,   黒川晃夫 ,   森脇真一 ,   安田恵美 ,   辻求

ページ範囲:P.422 - P.426

要約 23歳,男性.11年前に出現した陰茎の小囊腫を主訴に受診した.初診時,陰茎包皮左側に黄白色調を呈する半球状の囊腫様構造物がみられた.全切除術を施行した.病理組織学的には真皮内に表皮とは連続性がなく,内腔が不規則に延長し,突出する単房性の囊腫が存在していた.囊胞壁は重層円柱上皮で構成され,明らかな断頭分泌の所見はなかった.囊腫壁内腔の細胞の上層部はPAS陽性で,内腔の細胞はCK7陽性,CK20陰性,GCDFP15陰性であった.以上より,陰茎縫線囊腫と診断した.自験例は発症から受診まで約11年間が経過していた.過去の報告例を集計で,本疾患は先天異常が発症要因と言えるものの,発症後年月が経過してから受診する傾向があることがわかった.

粉瘤との鑑別を要した耳垂のMerkel細胞ポリオーマウイルス陽性Merkel細胞癌の1例

著者: 遠藤嵩大 ,   尾崎由美 ,   葉山惟大 ,   天貝純郁 ,   鈴木啓之 ,   照井正 ,   片野晴隆

ページ範囲:P.427 - P.430

要約 81歳,女性.初診の約2か月前から左耳垂のしこりを自覚した.近医で粉瘤を疑われ,皮膚切開,抗菌薬内服でも改善しないため,当院に紹介され受診した.初診時,左耳垂に暗紅色の直径12mm大の球状皮下結節がみられた.病理組織学的所見では,表皮直下から皮下脂肪織にかけて結節状に増殖する腫瘍塊がみられる.腫瘍細胞はN/Cの高い細胞であった.免疫染色でCK20が腫瘍細胞の細胞質にドット状に陽性であった.Merkel細胞癌T1cN0M0 Stage IAと診断し,全切除後に放射線療法を行った.術後約1年半が経過したが,局所再発や転移はない.腫瘍細胞から抽出したDNAのPCR解析でMerkel細胞ポリオーマウイルスが検出された.またMerkel細胞ポリオーマウイルスLarge T抗原に対する抗体を用いた免疫染色で腫瘍細胞は陽性であった.過去の耳垂報告例でも粉瘤様であったものが2例あり,耳垂では粉瘤様の外観を示す可能性があると考えた.

テモゾロミドを用いた放射線化学療法を施行した悪性黒色腫の1例

著者: 加藤陽一 ,   遠藤雄一郎 ,   加来洋 ,   藤澤章弘 ,   椛島健治

ページ範囲:P.431 - P.435

要約 36歳,男性.意識消失発作を主訴に前医を受診した.画像検査では左基底核に36mm大,左側頭葉に5mm大の腫瘤,左腋窩リンパ節腫大を認めた.左基底核と左腋窩から施行された生検病理組織像で悪性黒色腫の脳転移が疑われたため当科を紹介され受診した.初診時左拇指に15mm大の不整な黒色結節を認め,皮膚病理組織検査にて悪性黒色腫と診断した.脳転移巣に対する局所コントロール目的として,全脳照射に加え,経口アルキル化剤であるテモゾロミドを併用した.治療開始後左基底核転移巣は縮小傾向を示し,19mmとなった時点で定位放射線治療を追加した.悪性黒色腫脳転移に対する放射線治療とテモゾロミドの併用療法が生存期間を有意に延長するとの報告はあるが,自験例では全経過を通して治療に伴う明らかな副作用はなく約12か月という悪性黒色腫脳転移例としては比較的長い生存期間を得ることができた.

背部に生じた皮膚平滑筋肉腫の1例

著者: 鈴木瑠美 ,   河﨑真理奈 ,   宮崎安洋 ,   三浦圭子

ページ範囲:P.437 - P.441

要約 75歳,男性.背部に軽度の疼痛を伴う径1.5cmの小結節を認め,粉瘤の臨床診断にて切除した.腫瘤は明らかな被膜を有さず,皮内から皮下脂肪織内にかけて存在し,一部で境界不明瞭であった.病理組織学的には,好酸性の細胞質と両端が鈍な長楕円形の核を持つ紡錘形細胞が増生,腫瘍細胞束を形成して錯綜,交差しており,核の大小不同や異型性も認めた.免疫染色ではα-smooth muscle actin,デスミン陽性で,皮膚平滑筋肉腫と診断し,拡大切除術を施行した.皮膚平滑筋肉腫は皮下に生じるものも含めて論じられ,悪性軟部腫瘍に準じた治療が行われるが,WHO分類では皮内(真皮)に生じるものとされている.皮膚平滑筋肉腫は腫瘍の残存がなければnarrow marginの切除でも予後良好といわれる.今後,治療法の確立が望まれる.

重症虚血肢に生じた壊死性筋膜炎の1治療例

著者: 牧野公治 ,   緒方亜紀 ,   中村香代 ,   久保陽介 ,   田中睦郎 ,   岡本実 ,   大島秀男 ,   山下直子 ,   尹浩信

ページ範囲:P.442 - P.446

要約 76歳,女性.左片麻痺・感覚障害を有するが歩行可能.転倒を契機に左足G群レンサ球菌性壊死性筋膜炎を発症し当院に入院した.足底の切開およびペニシリン系抗菌薬とクリンダマイシンの大量投与で全身状態は改善したが左足底筋膜が露出する潰瘍が残った.左ABIは0.49,膝以下のSPPは19〜23mmHg,造影CTで両側浅大腿動脈の閉塞がみられた.下肢切断を検討したが術後の歩行困難が予想され,本人も患肢温存を希望したので32日間持続陰圧洗浄療法を行った.足底筋膜はほぼ肉芽で覆われ,潰瘍も大幅に縮小した.その後左大腿〜膝窩動脈バイパス術および総腸骨動脈血管形成術とパッチグラフト全層植皮術を行い潰瘍は治癒した.自験例では虚血肢の感染創に持続陰圧洗浄療法を行ったが,血行再建術前でも潰瘍が改善したこと,有痛性の処置を減らせたこと,手術に向けて十分な準備ができたことに意義があった.

臨床統計

岡山大学皮膚科における頭部血管肉腫30例の臨床統計

著者: 加持達弥 ,   大塚正樹 ,   濱田利久 ,   梅村啓史 ,   山崎修 ,   浅越健治 ,   岩月啓氏

ページ範囲:P.447 - P.449

要約 1995年1月〜2014年12月に岡山大学病院皮膚科で確定診断された頭部血管肉腫30名について検討を行った.初診時 平均年齢は75歳(34〜91歳,中央値75.5歳).内訳は男性21人,女性9人であった.2015年5月現在,26人死亡(すべて腫瘍死)し,死亡例の初診時からの平均生存期間は24か月(5〜110か月,中央値16か月)であった.11人が24か月以上生存し,初期治療は放射線療法と,そのうちの10人は化学療法〔パクリタキセル(PTX)orドセタキセル(DTX)〕を継続投与,あるいは追加投与していた.遠隔転移巣は肺が最多で20例,次いで肝8例,骨6例であった.当院では2006年以降は初期治療として放射線治療+化学療法(PTX or DTX)を実施している.頭部血管肉腫の治療においては,早期からタキサン系化学療法を実施し,継続することが予後の改善に有効と考えられた.

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欧文目次

ページ範囲:P.365 - P.365

文献紹介 ミトコンドリア機能異常は年齢依存性に多様な作用を表皮および表皮幹細胞にもたらす

著者: 堀川弘登

ページ範囲:P.411 - P.411

 組織の恒常性は年齢とともに衰えるが,これは一部には組織幹細胞の再生・分化能力が衰えるためである.皮膚において,紫外線によるミトコンドリアのDNA障害は光老化の一因であると報告されているが,表皮再生におけるミトコンドリアの機能はほとんどわかっていなかった.Velardeらは,表皮の再生におけるミトコンドリアの機能を解析するために,表皮特異的にミトコンドリア活性酸素分解酵素:superoxide dismutase 2(Sod2)を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを作成した.このマウスでは表皮細胞におけるミトコンドリアは活性酸素が除去されず,その機能障害を生じる.表皮特異的Sod2欠損マウス(以下,K14Sマウス)の老年マウスでは表皮が菲薄し創傷治癒は遅延したが,驚くことに若年マウスでは創傷治癒は促進された.若年のK14Sマウスの創傷治癒過程では創縁における顆粒層が肥厚し,ロリクリンなどの細胞分化関連遺伝子の発現量が増加し,サイクリンA2などの細胞増殖関連遺伝子の発現量に変化は認めなかった.よって,若年マウスにおいて,ミトコンドリア機能異常は細胞分化を促進し,創傷治癒を促進すると考えられた.一方で老年のK14Sマウスの創傷治癒過程においては,CDC20などの表皮幹細胞関連遺伝子の発現量が低下しており,K14Sマウスでは老年期において表皮幹細胞が枯渇していると考えられた.実際に老年のK14Sマウスにおいて,細胞老化マーカーであるsenescence-associated β-galactosidase(SA-βgal)およびp16INK4aの発現量は増加していた.さらに若年のK14Sマウスに強力な発がんプロモーターである12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)を外用し細胞増殖を強制的に促したところ,表皮は菲薄化し老年K14Sマウスの表皮とほぼ同様の表現系を呈した.このことは,ミトコンドリアの機能異常が表皮幹細胞の枯渇を促進することを支持するデータである.表皮特異的なSod2欠損は,若年マウスにおいては細胞増殖の抑制と細胞分化の促進をもたらし,創傷治癒を促進させる.一方で老年マウスでは,表皮幹細胞の枯渇を介して,創傷治癒遅延をきたすことが示された.

文献紹介 ニッチによって誘導される細胞死と上皮細胞による貪食作用が毛包の幹細胞プールを調節する

著者: 澤田美穂

ページ範囲:P.421 - P.421

 組織の恒常性は,細胞の産生と除去のバランスにより維持される.組織の増殖とは対照的に,退縮に必要となる細胞や分子シグナルに関してはよくわかっていない.今回,著者らはマウスの毛包組織を利用して,組織の生理的な退縮がどのようにして起こるかを調べた.
 一般的に毛包は組織の再生を継続するために,幹細胞プールを維持しながら成長期と退縮期のサイクルを繰り返している.生体顕微鏡を用いた実験で,退縮期における毛包上皮細胞の除去は主に2つの機序,すなわち基底細胞より上層の細胞の分化促進と基底細胞のアポトーシスに空間的な勾配をつけることによって行われることが示された.さらに,基底層の上皮細胞は周囲の死細胞を貪食することが示された.そして,分子生物学的手法を用いた解析によって,上皮細胞の細胞死がTGF-βの活性化と間葉系とのクロストークを介して外因性に誘導されることが示された.退縮を抑制すると再性能を有する基底層の上皮細胞の数が過剰になってしまうことから,退縮によって幹細胞プールを減少させていることが示唆されたことは興味深い.

書評 —著:児玉 知之—戦略としての医療面接術—こうすればコミュニケーション能力は確実に向上する

著者: 新城名保美

ページ範囲:P.450 - P.450

 『戦略としての医療面接術』のタイトル通り,医療面接の著作です.しかしながら,従来の「医療面接」をテーマに扱った書籍とは異なり,著者自身の実際の経験に基づき深く洞察されており,通読してなるほど,そういう切り口もあったか,と深く感心しました.われわれが普段の臨床で応対する「患者・その家族」—その個性や社会環境などの背景要素の多様性に注目しています.
 「うまくいかない医療面接」を経験した際,医師としては,「あの患者・患者家族は変だから…」と自分を含め他の医療スタッフに説明付けようとしがちですが,うまくいかなかった医療面接は,われわれが医療面接上必ず確認しておかなければならなかった手順や態度を怠ったことが原因であったかもしれない.この著作はそれを実臨床で陥りがちな,さまざまなシチュエーションを提示することで,抽象論に終始することなく具体的に提示してくれています.通読後,今まで自分が経験してきた医療面接の失敗例を思い返しても,本書にて指摘されている「やってはいけないこと」がいくつも当てはまり,内省した次第です.

次号予告

ページ範囲:P.451 - P.451

あとがき

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.454 - P.454

 昨年の某学会のことである.座長が,まだ時間は十分あるにもかかわらず,特定の質問を遮断していた.原因は座長の利益相反(conflict of interest:COI)のために,反対する質問を受けなかったのである.同様なことは他の学会でもあり,シンポジウムや教育講演に,COIがある演者を指名して,特定の製品を宣伝していることが少なくない.現在演者は必ずCOIを開示しなければならない(ただし日本皮膚科学会では年間100万円以上の謝礼がない企業はCOIなしでよい)が,座長やオーガナイザーのCOIは開示されていない.COIがある演者だけの教育講演やシンポジウムはまさにスポンサードセミナーと同じで,公正とは言えない.講演の目的は,多くの医師が患者に安価で有効な治療を提供できるようにするためであって,メーカーの収益のためではない.もちろんCOIがある人にオーガナイザーを頼む学会側にも問題がある.同様な問題が雑誌にもある.具体的には投稿された論文の査読者が特定のメーカーに有利な論文を採択し,それに反する論文を掲載させないことである.そのため印刷された論文だけをみると,実際の治療効果と異なることがある.それがN Engl J MedやBMJなどの一流雑誌で取り上げられ,数年前からselective publicationとして問題になっている.そのため今や査読者のCOIの開示が求められ,出版社もその責任を負うことになっている.つまり学会での討論や出版に際しては,自由活発な意見がなくてはならず,それを阻むのは問題である.特に教育講演やガイドライン作成では特定のメーカーとのCOIがない人を1人でも多く加えないと公正なものにならない.現在本誌の査読者の1人である私は,COIにとらわれない査読を常に心がけている.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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