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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科70巻8号

2016年07月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・107

Q考えられる疾患は何か?

著者: 渡辺大輔

ページ範囲:P.553 - P.554

症例
患 児:生後14日,男児
主 訴:両手足の皮疹
既往歴・家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:生後13日目より,両手足に囊胞が出現したため,翌日当院を受診した.
現 症:両手足,主に両手背,足背に直径2mm大の境界明瞭な膿疱がみられた(図1a,b).手足以外の部位には皮疹は認められなかった.

マイオピニオン

悪性黒色腫の臨床試験

著者: 宇原久

ページ範囲:P.556 - P.557

 1. はじめに
 2014年7月4日,世界初の抗PD-1抗体としてニボルマブが日本で承認されました.この連絡は,臨床試験を主導してきた国立がん研究センター中央病院の山﨑直也先生が会長を務めた第30回日本皮膚悪性腫瘍学会学術大会中の,まさに癌免疫療法のセッション中に入りました.さらに,2014年12月にはBRAF阻害剤のベムラフェニブ,2015年の4月には術後アジュバント療法としてのPEG修飾型IFNα-2b,7月には抗CTLA-4抗体のイピリムマブ,2016年3月にBRAF阻害剤のダブラフェニブ(dabrafenib)とMEK阻害剤のトラメチニブ(trametinib),と新薬の承認が続いています.また,抗PD-1抗体のpembrolizumabは申請中であり,さらに術後アジュバント療法としてのニボルマブとイピリムマブの比較試験(募集終了)やpembrolizumabの試験,進行期に対するBRAF阻害剤のLGX818とMEK阻害剤のMEK162(募集終了),ニボルマブとイピリムマブの併用療法(募集中)などの試験が進行中です.30年ぶりに新薬が相次いで登場してきたこの2年間はとても華々しく見えます.しかし,これらの出来事は皮膚癌診療の向上と後継者の指導に心血を注いできた医師たちの半世紀にわたる努力の積み重ねの上に起きていることです1,2).先陣を切ったニボルマブを例に,新薬の開発の経緯について紹介します.

今月の症例

ポリガンマグルタミン酸によるアナフィラキシーの1例

著者: 織田好子 ,   一角直行 ,   堀川達弥 ,   猪又直子

ページ範囲:P.558 - P.561

要約 41歳,男性.約10年前から全身の蕁麻疹・血圧低下・呼吸困難感などのアナフィラキシー症状を繰り返し,そのたびにエピペン®の自己注射を行っていた.さまざまな病院で多数の食品のプリックテストやスクラッチテスト,血清特異IgE抗体の検査を受けたが,長い間原因不明であった.今回,納豆摂取の2時間後に呼吸困難感が生じたため,納豆およびポリガンマグルタミン酸(poly gamma-glutamic acid:PGA)のプリックテストを施行したところ,両者で陽性であった.患者はサーファーであり,過去に頻回のクラゲ刺傷歴があった.PGAは冷やし中華のスープや種々の調味料などに含まれており,自験例の過去のアナフィラキシーのエピソードの中にもそれらを摂取して発症していた可能性が疑われた.クラゲ刺傷既往のある原因不明のアナフィラキシー患者の原因抗原としてPGAを考慮する必要があると考える.

症例報告

菊皮膚炎の1例

著者: 工藤万里 ,   石川武子 ,   多田弥生 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.562 - P.566

要約 68歳,男性.20年前に葬儀屋の仕事に従事しはじめた頃から,瘙痒を伴う皮疹が上肢に出現した.10年前には顔面・後頸部に拡大,2年前から皮疹がさらに増悪してきた.他院にて,種々のステロイド外用で加療したが改善乏しく,当科を受診した.受診時,頭皮,顔面,後頸部に紅斑を認めた.手指には苔癬化を伴う紅褐色局面と軽度の角化,粟粒大の小水疱と落屑がみられた.非露出部に皮疹はなかった.前額部より生検した組織は慢性湿疹の所見であった.臨床症状と経過より,菊による接触皮膚炎を疑い,strongestクラスのステロイド外用を行い,菊との接触を避けたところ2週間後には皮疹と瘙痒は著明に改善した.さらに患者が日常接触している菊による貼布試験は陽性であった.露出部に限局する慢性難治性の湿疹病変をみた場合には接触皮膚炎を疑い,職業歴も含めて丁寧な問診を行うことが重要である.

初発症状として舞踏病様不随意運動がみられた抗リン脂質抗体症候群合併全身性エリテマトーデスの1例

著者: 田中義人 ,   小寺雅也 ,   鶴見由季 ,   稲坂優 ,   菅原京子 ,   伊藤有美

ページ範囲:P.567 - P.571

要約 16歳,女性.初診9か月前から手指の有痛性紅斑と微熱,不随意運動が出現した.初診1か月前に脱毛と足趾の紫斑を主訴に近医を受診し当院に紹介された.来院時,蝶形紅斑,爪囲紅斑,足趾先端部の紫斑,両側下腿のlivedo rasemosa,両手指の舞踏病様不随意運動を認めた.抗核抗体,抗ds-DNA抗体,種々の抗リン脂質抗体陽性であり,抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid antibody syndrome:APS)を合併した全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)と診断した.不随意運動は抗リボソームP抗体や髄液中IL-6,IgG Indexが正常であったことから中枢神経ループスではなくAPSによる症状と考え,抗凝固療法を行った結果改善した.APSを合併したSLE患者は,その精神神経症状が中枢神経ループスかAPSによる症状かの鑑別は困難なことが多い.しかし両疾患の治療方針は異なるため鑑別は非常に重要である.

若年性皮膚筋炎の2例

著者: 大方詩子 ,   渡辺絵美子 ,   宮川俊一 ,   三谷麻里絵 ,   本田尭 ,   安藏慎 ,   番場正博 ,   栗原佑一 ,   中村元康 ,   望月明子 ,   濱口儒人

ページ範囲:P.573 - P.578

要約 症例1:2歳,女児.初診3か月前から頰に紅斑がみられ,徐々に手指や膝に角化性紅斑が拡がった.1週間前から抱っこをせがむ回数が増えていた.症例2:5歳,男児.初診2か月前から頰の紅斑と爪囲紅斑が出現し,次第に両足内果や手指関節背側に小潰瘍を伴う角化性紅斑が拡がった.2か月前から運動時に疲れやすかった.両症例とも爪上皮の毛細血管拡張と,MRIにおける筋炎所見を認めた.症例2では血液検査で筋原性酵素が上昇した.若年性皮膚筋炎と診断し,治療はステロイドパルスとステロイド内服にメトトレキセート,大量ガンマグロブリン療法を併用した.両症例とも治療により皮疹は消失し,2か月後のMRIで筋炎所見は改善した.免疫沈降法で症例1は抗TIF1γ/α抗体が陽性,症例2では既知の自己抗体は検出されなかった.本疾患では皮疹が初期症状となりやすく,小児で頰部紅斑やGottron徴候を認めた場合には本疾患を鑑別とする.

MRSA感染により特異な臨床像を呈した落葉状天疱瘡の1例

著者: 福山雅大 ,   早川順 ,   五味方樹 ,   大山学

ページ範囲:P.579 - P.584

要約 83歳,男性.脳出血にて長期臥床中であった.初診の1年前より間擦部に紅斑があり,ステロイド剤を長期間外用していたが,皮疹が拡大し受診した.初診時,境界明瞭で主として辺縁に鱗屑とびらんを伴う紅斑を全身に認めた.皮疹は融合傾向を示し,特に腹部では一部環状を呈していた.診断に苦渋したが,抗デスモグレイン1抗体高値,直接蛍光抗体法で表皮細胞間にIgGの沈着を確認したことから落葉状天疱瘡と診断した.創部と血液培養からMRSAが検出され,まず抗菌薬投与にて加療したところ上皮化傾向を認めたが,紅斑辺縁のびらん面は残存した.ステロイド外用剤の追加で皮疹は軽快した.これまで紅皮症や膿痂疹に類似した臨床像を呈した細菌感染合併落葉状天疱瘡症例が報告されている.自験例を通じて,臨床像が典型的でなくとも,びらん面があれば水疱症の可能性を常に念頭に置くことの必要性を再認識した.

潰瘍性大腸炎に合併した線状IgA水疱性皮膚症の1例

著者: 伊藤恵梨 ,   足立秀禎 ,   鈴木伸吾 ,   石井文人 ,   橋本隆

ページ範囲:P.585 - P.590

要約 21歳,男性.19歳より潰瘍性大腸炎がありメサラジン内服加療中であった.初診1か月前から腹部に紅斑,水疱が出現し,徐々に全身に拡大したため受診した.皮膚生検で病理組織学的に表皮下水疱を認めた.蛍光抗体直接法では表皮基底膜部に線状にIgAが沈着していた.蛍光抗体間接法で1M食塩水剝離皮膚の表皮側にIgAが反応した.濃縮HaCaT細胞培養上清を用いた免疫ブロット法では患者血清IgAが120kDa LAD-1に反応した.以上より,線状IgA水疱性皮膚症,lamina lucida型と診断した.プレドニゾロン50mg/日より内服開始し,皮疹が再燃することなくステロイドは漸減することができた.経過中に潰瘍性大腸炎の悪化もみられなかった.潰瘍性大腸炎患者に広範囲の紅斑,水疱が出現した場合は本症も念頭に置いて精査すべきと考えた.

頸部可動域制限を認めた強直性脊椎炎型の関節症性乾癬の1例

著者: 武岡伸太郎 ,   多田弥生 ,   林耕太郎 ,   冲永昌悟 ,   清水知道 ,   井関紗月 ,   大西誉光 ,   山本麻子 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.591 - P.596

要約 42歳,男性.28年前に頭皮に瘙痒を伴う鱗屑を付着する紅斑が出現した.近医で外用剤を処方されたが改善せず,2年後から全身に皮疹が拡大した.尋常性乾癬と診断され外用,内服,温泉療法で加療したが改善しなかった.3年前より頸部から肩にかけての疼痛が出現し,頸部の運動が制限されるようになった.その数か月後より腰痛も出現した.臨床症状,生検皮膚病理組織像,画像検査所見から関節症性乾癬と診断した.インフリキシマブ投与を開始し,初回投与6週後でPASIは18.9から1.6まで改善した.頸部の前屈可動域は投与前10°から34週間後には14°まで若干改善した.自験例のような体軸関節の骨破壊を伴う関節炎の場合,機能障害に伴うQOL障害が高い.また,骨破壊が進行してからでは生物学的製剤を使用しても回復が難しい.そのため,関節炎が疑われる症状が発現したら,画像検査などによる早期診断に努め,診断確定次第,適切な治療を開始すべきと考える.

陰茎亀頭部に生じた有棘細胞癌の1例

著者: 宇都宮慧 ,   飯野志郎 ,   馬場夏希 ,   知野剛直 ,   高嶋渉 ,   徳力篤 ,   長谷川稔

ページ範囲:P.597 - P.601

要約 63歳,男性.10年前に亀頭部に紅斑が出現し,緩徐に増大してきた.初診時には亀頭部全体にびらんを伴う紅斑がみられ,病変は外尿道口まで及んでいた.皮膚部分生検でQueyrat紅色肥厚症を疑い,拡大切除術を施行した.摘出標本中に腫瘍細胞の海綿体への浸潤がみられ,陰茎亀頭部に生じた有棘細胞癌と診断した.PCR法にてHPV16型が検出され,腫瘍発生への関与が示唆された.NCCNの陰茎癌診療ガイドラインを参考に,追加で陰茎部分切断術およびセンチネルリンパ節生検術を施行した.切除標本の断端は陰性で,センチネルリンパ節に腫瘍細胞の転移はみられなかった.現在まで再発・転移はなく,排尿機能も保たれており,良好な結果を得た.自験例ではセンチネルリンパ節生検を施行し,腫瘍の広がりを適切に評価することで鼠径部郭清を回避でき,治療侵襲を最小限にすることができた.

Hailey-Hailey病の病巣内に生じたBowen病の1例

著者: 小野寺信江 ,   飯澤理 ,   小幡正明

ページ範囲:P.603 - P.606

要約 77歳,男性.1991年に他施設でHailey-Hailey(H-H)病と診断され,陰股部の紅斑は増悪,軽快を繰り返していた.2013年陰茎に浸潤を触れる紅褐色斑を認め,生検,病理組織像でBowen病と診断し,切除術を施行した.病理組織学的にはH-H病に特徴的な棘融解像を認め,連続してBowen病の所見がみられた.H-H病と皮膚悪性腫瘍の合併例の報告は,われわれの調べた限りでは有棘細胞癌9例,基底細胞癌2例,悪性黒色腫2例,Bowen癌2例,Bowen病2例であり稀であった.発癌の誘因として,放射線治療や砒素剤,摩擦や二次感染による慢性炎症が考えられていたが,H-H病と有棘細胞癌に関する最近の報告ではヒト乳頭腫ウイルスやATP2C1遺伝子変異,タクロリムス外用が新たな発症原因の可能性として考えられている.

タキサン系抗癌剤が奏効した進行期乳房外Paget病の1例

著者: 臼居駿也 ,   藤澤章弘 ,   劉祐里 ,   遠藤雄一郎 ,   谷岡未樹 ,   大日輝記 ,   十一英子 ,   宮地良樹 ,   椛島健治

ページ範囲:P.607 - P.611

要約 進行期乳房外Paget病はきわめて予後の悪い疾患であるが,エビデンスのある化学療法レジメンはまだない.進行期乳房外Paget病に対して,タキサン系抗癌剤を用い,長期間寛解を維持している症例を経験した.患者は68歳,女性.外陰部のびらんと下腹部の紅斑・潰瘍を主訴に受診し,病理組織検査で,乳房外Paget病と診断された.右腋窩に遠隔リンパ節転移を認めた.ドセタキセル75mg/m2の4週毎投与を開始し,1か月後に紅斑と潰瘍は消退した.画像検索でリンパ節の縮小・消退を確認し,Response Evaluation Criteria in Solid Tumorsの基準でpartial responseとなった.13コース施行後,有害事象と想定される下腿浮腫のため,パクリタキセル175mg/m2の4週毎投与へ変更したが,その後は重篤な副作用を認めず,現在に至るまで合計27コース(約30か月)の間,寛解状態を維持している.タキサン系抗癌剤は進行期乳房外Paget病に対して,患者のQOLを維持しつつ,生存期間延長に寄与する可能性がある.

ベムラフェニブが短期間奏効した陰茎原発のStage Ⅳ悪性黒色腫の1例

著者: 溝上沙央里 ,   猿田寛 ,   今村太一 ,   井上義彦 ,   古村南夫 ,   大畑千佳 ,   森崎隆 ,   名嘉眞武国

ページ範囲:P.612 - P.616

要約 40歳,男性.原発部位は陰茎,pT3bN3M0病期ⅢCと診断し術後DAV Feron療法を5クール施行した.IFN-β療法を継続していたが,術後10か月の時点で脳,両肺に転移を認めた.DAC療法を2クール施行したが,転移巣は増大し肝臓にも新たに転移を認めた.以上の治療法で有効性が得られず,原発巣のBRAF V600E変異を認めたため,ベムラフェニブ1,920mg/日の連日投与を開始した.投与1か月後に脳・肺・肝の転移巣は縮小した.合併症として投与2か月で著明な関節痛および頰部にケラトアカントーマが生じた.その後,投与4か月で肝転移巣が著明に増加し,投与5か月で永眠した.近年,本邦でも進行期悪性黒色腫に対する新規薬剤の承認が進んでいるが使用報告は少ない.今後症例を蓄積することでより有効で安全な治療法を検討していくことが必要である.

血管拡張性肉芽腫様の臨床所見を呈したatypical fibroxanthomaの1例

著者: 水上裕加里 ,   楠谷尚 ,   大迫順子 ,   大澤政彦 ,   鶴田大輔

ページ範囲:P.617 - P.620

要約 67歳,男性.左上口唇を髭剃り時に受傷後,同部位に境界明瞭なびらんを伴う暗赤色調の結節を認めた.ダーモスコピーでは,atypical vascular patternを認めた.血管拡張性肉芽腫等を念頭に,3mmマージンで腫瘍全切除術を施行した.病理組織所見では,真皮内に組織球様細胞が無秩序に増殖し,泡沫細胞,多核巨細胞,紡錘形細胞が混在した.腫瘍細胞の核は,異型性,多形性を認めた.免疫組織化学では腫瘍細胞でビメンチン,CD68,CD10,CD99,adipophilinが陽性であった.以上より,atypical fibroxanthoma(AFX)と診断した.近年AFXの診断にCD10,CD99が有用と報告されており,自験例においても免疫組織化学の有用性が再認識された.高齢者の露光部に生じた赤色調結節性病変を見た場合は,AFXも鑑別に挙げる必要があると考える.

糖尿病でステロイドの外用を行っていた患者にみられた汎発性皮膚カンジダ症の1例

著者: 澤田宏子 ,   二宮淳也 ,   長瀬早苗 ,   尾立冬樹 ,   石崎純子

ページ範囲:P.621 - P.625

要約 46歳,女性.教師.160cm,85kg.初診1か月前より体幹部に皮疹が出現した.前医にてステロイド外用剤を処方されるも改善乏しく当科を受診した.肩から胸部,肘窩,背部に,瘙痒を伴う膿疱を混じた膜様の鱗屑を伴う小型紅斑が多発しており,検鏡にて仮性菌糸と胞子の集塊を確認した.真菌培養検査にてCandida albicansを同定し,また臨床検査にて血糖とHbA1cの異常高値を認めた.イトラコナゾール1日100mg内服6週間で皮疹は消退した.いままで糖尿病を指摘されたことはなく,今回重篤な糖尿病が放置されていたことで免疫力低下を呈し,過剰な発汗という環境要因が重なって皮膚カンジダ症の汎発化を招いたと考えられた.

斑状強皮症の治療中に発症した好酸球性筋膜炎の1例

著者: 宮嵜敦 ,   宇原久 ,   面高信平

ページ範囲:P.626 - P.631

要約 56歳,女性.右下背部の硬化性紅斑局面を主訴に当科を初診した.病理組織学的に真皮から皮下脂肪織中隔に膨化した膠原線維の増生とリンパ球浸潤を認め斑状強皮症と診断し,ステロイド外用にて加療を行ったが著変なく経過した.初診4か月後から四肢に突っ張り感を自覚,その後急激に浮腫と硬化・関節の可動域制限が出現した.病理組織学的に筋膜を中心とした線維化と好酸球を混じた炎症細胞浸潤を呈し,臨床像・病理組織学的所見より好酸球性筋膜炎と診断した.プレドニゾロン30mg/日の内服にて加療を行ったが四肢に硬化が残存し,ステロイド漸減中に深在性斑状強皮症様の皮疹が再燃した.斑状強皮症と好酸球性筋膜炎の合併例では治療抵抗性を示す可能性があり,早期よりステロイドパルス療法を含めたステロイド大量投与や免疫抑制剤の使用を検討する必要がある.

潰瘍性大腸炎に合併し,皮下膿瘍を呈した壊疽性膿皮症の1例

著者: 中澤慎介 ,   森達吉

ページ範囲:P.632 - P.636

要約 29歳,男性.初診10年前より潰瘍性大腸炎の診断で加療されていた.前胸部と下腿部に壊疽性膿皮症の既往があった.今回初診20日前より,特に誘引なく疼痛を伴う右膝腫脹が出現し,続いて下血と発熱がみられた.右膝腫脹は発赤を伴って増悪し,皮下膿瘍となり自壊した.ステロイドパルス療法により,速やかに解熱と疼痛改善が得られた.ステロイドおよびジアフェニルスルホンの内服を続けたところ,ほぼ瘢痕を残さず治癒した.ステロイド漸減中に右足背に同様の病変が出現しステロイド増量にて治癒した.病理組織像では,真皮中層から皮下組織に好中球が浸潤しており,皮下膿瘍を呈した壊疽性膿皮症と診断した.潰瘍性大腸炎患者の関節部には皮下膿瘍が生じることがあり,ステロイド内服加療が奏効する.

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欧文目次

ページ範囲:P.551 - P.551

文献紹介 ミトコンドリア機能不全は特殊な蛋白分泌現象を伴う細胞老化を誘導する

著者: 藤田春美

ページ範囲:P.590 - P.590

 細胞老化とは,正常細胞において,細胞分裂の繰り返しや酸化ストレス,がん遺伝子の活性化など種々のストレスで誘導される,不可逆的な細胞増殖停止状態である.老化細胞では,老化関連β-ガラクトシダーゼ(senescence-associated β-galactosidase:SA-β-gal)活性の上昇や,老化関連分泌現象(senescence-associated secretory phenotype:SASP)と呼ばれる炎症性蛋白の細胞外分泌が認められる.以前より,ミトコンドリアの機能不全が細胞老化を誘導することが知られていたが,本研究によりその分子基盤の詳細が明らかになった.
 著者らはヒト線維芽細胞を用いて,ミトコンドリアDNAを欠損させたり,電子伝達系阻害剤を添加するなど,様々な方法でミトコンドリア機能を障害したところ,細胞増殖停止やSA-β-gal活性上昇など細胞老化特有の表現型が現れることを確認した.著者らは本現象を「ミトコンドリア機能欠損に伴う細胞老化(mitochondrial dysfunction-associated senescence:MiDAS)」と定義した.これらの細胞はIL-10を発現し,典型的SASP因子であるIL-1,-6を発現しないなど特徴的なSASP(MiDAS-SASP)を示した.また,ミトコンドリアDNAに高頻度に変異が蓄積されるPOLGD257Aマウスの体細胞においても,細胞老化とMiDAS-SASPが確認された.

次号予告

ページ範囲:P.637 - P.637

あとがき

著者: 石河晃

ページ範囲:P.640 - P.640

 思えば皮膚科に入局してから丸30年が経過しました.私の入局当時は初期臨床研修制度がなく,臨床実習も6年生の1年間のみで,臨床現場をほとんど何も知らずに患者さんの前にデビューしたものでした.私は学生時代スキー部の活動に没頭しており,冬のスキーシーズンに行われる試験は後回しにできるものはすべてブッチして,とても「まじめに」競技スキーに取り組んでいました.医学教育の国際認証を受けるため,昨今のカリキュラムは以前より大幅に前倒しされ,72週間以上の臨床実習期間を確保するため1年生から基礎医学を学ぶのが標準的になってきました.早いところでは3年修了時にCBTを受験し,4年生から臨床実習に出ることになります.課外活動を以前のようにできないのは大変寂しいことだと思います.これからの学生は限られた時間を有効に使って何とか学生時代を楽しみ,青春を謳歌してほしいと願っています.卒前実習を充実させるのであれば初期臨床研修の期間はもっと短くて良いと思います.1年短縮すれば9,000人の医師が現場へ早く出ることになり医師不足解消の特効薬にもなります.
 さて,晴れて医学部を卒業し,初期研修も終わり,皮膚科に入局した先生方はそろそろ仕事に慣れ,疲れが出てくることと思います.私のかつてのボスは雑用にもモティベーションを見出す天才でした.臨床写真の整理のような雑用でも臨床像と病名が同時に見られるチャンスです.どんなことにもどこかに役立つことが必ずあり,考え方ひとつで楽しくこなすことが可能です.皮膚病理や手術手技などのトレーニングも今は大変だと感じるかもしれませんが,理解が進み,技能を獲得するにつれ楽しくなってくるものです.ある程度自分をだましてでも仕事を楽しむ習慣はストレスマネージメントとしても重要です.かく言う私も本誌の査読を楽しんでやらせてもらっています.投稿者の皆様も査読コメントにへこたれることなく,楽しく再投稿に取り組んでいただければ幸いです.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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