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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科71巻8号

2017年07月発行

雑誌目次

連載 Clinical Exercise・119

Q考えられる疾患は何か?

著者: 田中勝

ページ範囲:P.571 - P.572

症例
患 者:75歳,女性
主 訴:口腔粘膜疹
現病歴:半年前から口腔内に水疱,びらんが多発した.2か月前,当院歯科口腔外科を受診し,当科に紹介された.
現 症:硬口蓋に水疱およびびらんが多発し(図1a),疼痛のため食事摂取が困難であった.眼瞼眼球間の結膜癒着が両側性にみられた(図1b).全身皮膚に異常なく,外陰部に粘膜疹はみられなかった.

マイオピニオン

皮膚科研究における若手育成の試み

著者: 高橋勇人

ページ範囲:P.574 - P.575

 1. はじめに
 この度,「臨床皮膚科」編集委員会より,日本研究皮膚科学会(The Japanese Society for Investigative Dermatology:JSID)が主催している“きさらぎ塾”に関して寄稿のご依頼をいただきました.現在,小生がJSIDの若手セミナー委員会を担当しているためと思います.本日は,私見として現在JSIDが行っている活動についてご紹介させていただき,日本の皮膚科研究における若手育成に微力なりとも貢献できればと思います.

原著

本邦の医科系大学皮膚科学講座における皮膚病理組織学教育体制

著者: 山本明美 ,   菅野恭子 ,   岸部麻里 ,   堀仁子

ページ範囲:P.577 - P.581

要約 皮膚病理組織学は皮膚疾患の診断や治療効果の判断にきわめて重要な診断技能であるため,わが国の大学病院皮膚科でどのように教育しているのかを調査した.2016年1月に全国の医科系大学の皮膚科教授宛てに無記名のアンケート調査を行い,80人中79人から回答が得られた.その結果,専門医取得前の教室員の皮膚病理組織学の教育方法としては,症例検討会などの機会に個々の症例の病理所見の見方を教えている施設が多く,系統的に教えている施設がこれに次いだ.教科書としては特定のものを薦めていない施設が多かったが,推薦図書のある施設ではLeverの教本が最多であった.専門医に求めるレベルとしては代表的な疾患の病理診断をつけることができるレベルまでを求めるとする回答が大部分であった.皮膚病理組織診断の担当者を複数回答で尋ねたところ,教授,皮膚科専門医,学内の病理医がほぼ同数であった.

症例報告

重症虚血肢による皮膚潰瘍に対して経皮的血管形成術後に陰圧閉鎖療法を用いて骨癒合が得られた1例

著者: 安水真規子 ,   黒岡定浩 ,   鶴田大輔

ページ範囲:P.583 - P.586

要約 92歳,女性.右下腿と足背に皮膚潰瘍が多発していた.上下肢血流比は右側で0.19と低下しており下肢動脈造影CT画像にて右浅大腿動脈下端から膝下動脈に35mmの完全閉塞がみられ,重症虚血肢による皮膚潰瘍と診断した.経皮的血管形成術を行ったが右足背第I趾中足趾関節と右踵骨が露出した皮膚潰瘍は難治性であった.陰圧閉鎖療法を行い肉芽形成を促した上でデブリードマンと分層植皮を行った.さらに植皮および脱臼していた右足背第I趾中足趾関節の固定に陰圧閉鎖療法を試みたところ,露出していた関節は骨癒合し植皮は生着,下肢の温存が可能であった.関節や骨が露出している潰瘍では切断術が行われることも多いが,今回陰圧閉鎖療法を用いることにより低侵襲で関節固定を行えた.

ピルシカイニドが原因と考えられる多形紅斑型薬疹の1例

著者: 江藤綾桂 ,   中村美沙

ページ範囲:P.587 - P.590

要約 68歳,女性.10日前より発作性心房細動の診断でピルシカイニド(サンリズム®),アピキサバン,ベラパミルを内服中であった.全身にターゲット状の滲出性紅斑と口唇のびらん,発熱を認め多形紅斑と診断した.3剤のリンパ球刺激試験を施行し,ピルシカイニドのみが陽性であったことから被疑薬と判断した.ピルシカイニドはVaughan Williams分類においてIc群に分類される抗不整脈薬である.1991年より本邦で発売となり頻脈性不整脈の治療に使用されている.われわれの調べえた限り本邦においてピルシカイニドによる多形紅斑型薬疹の報告はなかった.ピルシカイニドは薬疹の報告がきわめて少ない薬剤であるが,薬疹の被疑薬として鑑別する必要がある.

高齢者の手術前後に生じたアカツキ病の4例

著者: 塩原順子 ,   中村大輔

ページ範囲:P.591 - P.596

要約 アカツキ病の報告は多くはなく,皮膚科的基礎疾患の上に精神疾患など心的機制が基盤にあることが多い.今回高齢者の頭部・顔面の有棘細胞癌ないしBowen病の手術前後の4症例で本疾患をみた.いずれも手術瘢痕,ないしその近傍に多発灰褐色貝殻様角化結節として認め,Bowen病の臨床所見と類似していた.1例では鱗屑痂皮の下に有棘細胞癌が存在した.うち3例は認知症などがあり入浴介助を受けていた.有棘細胞癌やBowen病のびらん・滲出液・手術痕などと相まって,介助者ないし本人の心的機制で病変部の洗髪・洗顔が不十分になった結果,数か月程度で生じたと思われた.鱗屑痂皮は攝子・指で容易に除去できるものの,頭部では毛髪も抜けるため,丁寧な泡での洗髪・洗顔のスキンケア指導を行った.高齢者の頭部・顔面に貝殻様角化結節を見るときには,診断をかねて角化物を少し除去してみるのもよいと思われた.

Sclerotic fibroma of the skinの2例

著者: 岡本修 ,   澁谷博美 ,   佐藤精一 ,   草津真菜美 ,   進来塁 ,   蒲池綾子 ,   橋本裕之

ページ範囲:P.597 - P.600

要約 症例1:65歳,男性.10年以上前より存在する後頭部の腫瘤.病理組織像では腫瘤は硝子化した膠原線維により構成され,一部花むしろ様の部分を認めた.症例2:54歳,女性.15年前より存在する左第3指背の小腫瘤.腫瘤は高度に硝子化した膠原線維が主要素で細胞成分をほとんど認めなかった.いずれもsclerotic fibroma of the skinと診断した.Cowden病の合併はなかった.Sclerotic fibroma of the skinはCowden病患者に多発した腫瘍として発表された稀な腫瘍であるが,ほとんどは単発である.過去の報告を検討するとCowden病に合併するsclerotic fibromaの症例は少なく,他の過誤腫の多発がCowden病を疑う所見になると考えた.

臍部に生じた異所性子宮内膜症の1例

著者: 東海林怜 ,   嶋岡弥生 ,   鈴木利宏 ,   濱崎洋一郎 ,   藤原岳人 ,   籏持淳

ページ範囲:P.601 - P.604

要約 42歳,女性.2013年11月頃より臍部に圧痛を伴う腫瘤を自覚し,当科を紹介され受診した.初診時臍部に10mm大,弾性軟の隆起性腫瘤を認めた.病理組織学的所見で,真皮内に間質増生を伴う腺腔構造を認め,免疫組織化学染色ではエストロゲンおよびプロゲステロンレセプターが腺管細胞の核に一致して陽性であり,臍部に生じた異所性子宮内膜症と診断した.全摘手術により再発は認めていない.本邦皮膚科領域で過去10年間に報告された臍部異所性子宮内膜症について集計したところ,臍部以外の子宮内膜症の合併と,臍部の異所性子宮内膜症の大きさや,月経関連症状の有無が影響している可能性が考えられた.

ダーモスコピーにて主にconcentric structuresを認めた基底細胞癌の1例

著者: 宇野優 ,   延山嘉眞 ,   中川秀己

ページ範囲:P.605 - P.609

要約 56歳,男性.数年前より左前額部に黒色病変を認めた.初診時,左前額部に褐色丘疹の集簇を伴う蝉様光沢を有する局面がみられた.ダーモスコピーにて,淡褐色の類円形構造の中央に濃褐色から青灰色の円形領域からなるconcentric structuresを複数認めた.基底細胞癌を考え,生検を施行した.病理組織学的に,腫瘍細胞が真皮内に小胞巣を形成しながら増殖し,辺縁には柵状配列,裂隙の形成を認め基底細胞癌と診断した.今回,concentric structuresの中央の円形領域に一致する病理組織学的所見として,真皮浅層の胞巣で中央にメラニンの豊富な好酸性無構造領域が確認された.基底細胞癌の腫瘍胞巣の中央が低酸素状態になるとメラニンが増加することがあり,そのメラニン増加領域がconcentric structuresにおける中央の濃い領域を形成しうると考えられた.

遠隔転移判明後約2年間QOLを維持できたMerkel細胞癌の1例

著者: 刑部全晃 ,   横山智哉 ,   尾本陽一 ,   波部幸司 ,   山中恵一 ,   水谷仁

ページ範囲:P.611 - P.615

要約 81歳,女性.約6年前に右臀部結節を自覚,近医にて切除後,病理組織検査にて悪性腫瘍を疑われ当院を紹介され受診した.Merkel細胞癌と診断し拡大切除および右鼠径リンパ節郭清,術後放射線療法を実施した.約2年前に左腎から膵に浸潤する腫瘍を認め転移と診断,同部位に放射線照射を行い,腎機能を考慮しプラチナ系製剤の使用を控え,タキサン系製剤を化学療法として選択した.新たな転移巣に対し適宜放射線療法を併用しながら,ドセタキセルを約10か月投与,その後パクリタキセルを約11か月投与し緩和治療へ移行した.緩和治療へ移行するまでの間,患者のQOLを大きく損なうことなく治療継続が可能であった.Merkel細胞癌は進行例での治療法は確立されていないが,患者の身体状況に合わせたレジメン,集学的治療が重要と考える.

リウマチ性多発筋痛症を併発したBowen病合併Merkel細胞癌の肝転移例

著者: 森志朋 ,   高橋和宏 ,   天野博雄 ,   赤坂俊英 ,   黒田秀克 ,   加藤健一

ページ範囲:P.617 - P.622

要約 78歳,男性.初診の10年前より下腿に皮疹を自覚した.一部が隆起し出血があり近医を受診した.隆起部の病理像よりMerkel細胞癌が疑われ当科受診した.拡大切除に加え病理像を再検討し自験例をMerkel細胞癌とBowen病の併発例と診断した.画像検査で転移所見はなく術後放射線療法を施行した.その後,半年に1回の血液検査とCT,年1回のPET-CTで転移巣の出現なく経過していた.初診3年3か月時に発熱と全身関節痛や筋肉痛,倦怠感が出現し近医受診しリウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)と診断されステロイド内服治療を開始し症状は軽快した.4年目時にNSE値の上昇とCTで肝腫瘍を指摘され肝生検よりMerkel細胞癌肝転移と診断した.肝動注化学療法の効果なく播種性血管内凝固症候群に陥り初診後4年5か月で永眠した.悪性腫瘍併発のPMRは内科領域では広く知られているが皮膚科領域では稀でMerkel細胞癌に合併したPMRは本邦初症例である.

HTLV-1キャリアに生じた皮膚原発型未分化大細胞リンパ腫と考えられた1例

著者: 熊谷宜子 ,   泉映里 ,   田中千洋 ,   髙江雄二郎

ページ範囲:P.623 - P.629

要約 65歳,女性.当科初診10日前,左頰に虫刺様皮疹を自覚し,ステロイド外用で加療されたが改善がなく,周囲に浸潤を伴った潰瘍になったため,精査加療目的で当科を受診した.左頰部に径14mmで,中央に壊死組織を付着する潰瘍を認め,周囲径29mmの範囲で発赤を伴った.初診時の生検病理組織像で,真皮浅層から深層にかけて,異型の強いリンパ球浸潤を認めた.免疫染色で浸潤するリンパ球はCD4優位に陽性で,CD30も一部陽性,ALK,EBERは陰性だった.血清抗HTLV-1抗体が陽性であったが,皮膚サザンブロット法ではHTLV-1プロウイルスのモノクローナルな組み込みはなく,皮膚型成人型T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma:ATLL)とは確定診断できなかった.PETで左頰部のみに集積を認め,HTLVキャリア患者に生じた皮膚原発型未分化大細胞リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)と考えた.ステロイド投与,局所紫外線療法で瘢痕治癒した.自験例でのATLLとALCLの完全な鑑別は困難で,今後も経過観察を要する.

IgA陽性細胞の浸潤を認めた皮膚形質細胞増多症の1例

著者: 工藤万里 ,   多田弥生 ,   大西誉光 ,   渡辺晋一

ページ範囲:P.631 - P.634

要約 68歳,男性.5年前から自覚症状のない紅褐色斑が背部に出現し,1年前には大腿部,胸部にも拡大し当科を受診した.初診時,背部に自覚症状の無い拇指頭大までの紅褐色斑が散在し,四肢・胸部にも数ヶ所同様の皮疹を認め,一部の皮疹では軽度浸潤を触れた.高γグロブリン血症を認めたが,IL-6は正常範囲内であった.病理組織学的には,表皮に著変なく真皮全層の血管周囲性に巣状に稠密な細胞浸潤を認めた.浸潤細胞は異型性のない形質細胞が主体でリンパ球も混在していた.免疫染色ではIgG,IgA,κ鎖,λ鎖陽性細胞が混在し,ポリクローナルな増殖パターンであった.表在リンパ節腫脹,他臓器病変を認めず,皮膚形質細胞増多症と診断した.自験例ではIgA陽性細胞の浸潤を認めており形質細胞増多症においては,形質細胞への分化の促進とそれに伴うさまざまなグロブリンのクラス,サブクラスの多様な上昇が認められうると考えられたため若干の考察を加えて報告する.

肛囲と陰部の難治性潰瘍を契機に診断された多臓器型成人Langerhans細胞組織球症の1例

著者: 小川智広 ,   前川武雄 ,   小宮根真弓 ,   村田哲 ,   大槻マミ太郎

ページ範囲:P.635 - P.639

要約 36歳,女性.4年前から肛門周囲に潰瘍が出現した.近医皮膚科や肛門科で抗菌薬外用等するも改善せず,生検病理組織像でLCHを疑われ当院を紹介受診した.外陰部から会陰,肛門周囲に多発潰瘍,額に黄色丘疹,点状痂皮,体幹に褐色斑の多発を認めた.再生検でCD1a陽性細胞の表皮内浸潤,真皮の結節状浸潤あり,LCHと確定診断した.ステロイド外用にて陰部潰瘍は縮小傾向を認め,一定の効果を示したが,全身精査で腟壁,尿道,甲状腺浸潤がみられ,多臓器型として今後化学療法を施行予定である.また,LCHではBRAF V600変異がみられる例があり分子標的薬の有効性が指摘されているが,自験例では変異はみられなかった.

小児の毛包性ムチン沈着症の1例

著者: 栗山裕子 ,   大西一德

ページ範囲:P.641 - P.644

要約 12歳,男児.初診3か月前より自覚症状のない脱毛斑が左頰骨部に出現した.初診時,左頰骨髪際部,背部,右肩,左下腿に小指頭大から胡桃大までの脱毛斑上に毛孔一致性丘疹の集簇を認めた.病理組織像で毛包内と周囲にムチン沈着あり,follicular mucinosisと診断した.ステロイド外用加療にて紅斑の褪色傾向,毛の再生,丘疹の平坦化を認め,軽快した.本邦での過去25年の報告で小児の毛包性ムチン沈着症で軀幹まで多発した症例,頭部・顔面以外に皮疹を生じた症例は自験例のみであった.成人においては菌状息肉症との鑑別が必要となるが,小児の毛包性ムチン沈着症では毛包向性菌状息肉症と同等とみなしてはならず,局所治療にて軽快傾向があることがわかってきている.自験例は多発例であり,今後も定期的な経過観察を予定している.

維持透析中の女性患者に発症したFournier壊疽の1例

著者: 安見真希 ,   小森由美 ,   花田圭司 ,   駒井慎次郎 ,   塩見直人

ページ範囲:P.645 - P.649

要約 56歳,女性.抗精神病薬などの大量服薬による意識レベルの低下が疑われ救急搬送された.初診時に右会陰部,右大腿部,右臀部,肛門周囲に熱感を伴う紅斑や腫脹,黒色壊死があり,造影CT検査で皮疹に一致して,軟部組織の腫脹と脂肪織内のガス像を認めたことからFournier壊疽と診断した.速やかに抗菌薬の投与,壊死部のデブリードマン,エンドトキシン吸着療法,持続緩徐式血液濾過透析を行った.Uludag Fournier's gangrene severty indexによる重症度とAcute physiology and chronic health evaluation IIscoreによる予測死亡率は高かったが,他科や多職種との連携により救命することができた.肛門周囲膿瘍が感染源となり,基礎疾患の慢性腎不全,神経性食思不振症による免疫力の低下がFournier壊疽の発症につながったと考えた.

いぼ剝ぎ法にて改善が得られた難治性足底疣贅の2例

著者: 清水香 ,   川瀬正昭 ,   上嶋佑太 ,   江藤隆史

ページ範囲:P.651 - P.654

要約 症例1:26歳,男性.左足底の2か所の疣贅に対し,他院で2週間に1回,2年間液体窒素療法を施行したが改善しないため当院を受診した.症例2:29歳,女性.左足底の2か所の疣贅に対し,他院で6年間液体窒素療法を施行していたが改善しないため当院を受診した.2例とも2か所のうち1か所にいぼ剝ぎ法を施行したところ,もう一方も自然消退した.複数個の疣贅がある場合,まず1か所の疣贅に対していぼ剝ぎ法を施行すると,残りの疣贅は自然消退が起きる場合があり,残りの疣贅に関しては,自然消退するか経過をみてからいぼ剝ぎ法の再施行などを考慮することが望ましいと考える.

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欧文目次

ページ範囲:P.569 - P.569

文献紹介 マクロファージの上皮細胞様リプログラミングが,マイコバクテリア感染に伴う肉芽腫形成の基盤となり,感染を促進する

著者: 藤田春美

ページ範囲:P.622 - P.622

 結核は,結核菌Mycobacterium tuberculosisにより引き起こされる伝染性の肉芽腫性疾患である.結核菌に感染したマクロファージは,肉芽腫を形成する過程で未知のメカニズムにより「類上皮細胞」と呼ばれる扁平上皮様の細胞に変化することが知られている.著者らは結核菌と同属の菌Mycobacterium marinumをゼブラフィッシュに感染させて肉芽腫を誘導する実験系を用いて,マクロファージが類上皮細胞に変化する過程を詳細に観察し,本現象の意義を検討した.
 著者らは,類上皮細胞が外見的に上皮に似るだけでなく,E-cadherin,plakoglobin,ZO-1など上皮に特徴的な接着蛋白や裏打ち蛋白を発現しており,電子顕微鏡観察でも,上皮特徴的な接着構造である密着結合・接着結合・デスモソームに類似した構造を持つことを確認した.また,類上皮細胞における遺伝子発現を,定常状態の組織マクロファージを比較対象としてRNA-seqで網羅的に解析したところ,上皮特徴的な細胞接着や細胞極性に関わる遺伝子群の発現上昇と,白血球マーカー遺伝子群の発現低下が認められた.これより類上皮細胞は,発現遺伝子レベルで上皮様の細胞へとリプログラミングされていることが示唆された.

次号予告

ページ範囲:P.655 - P.655

あとがき

著者: 大山学

ページ範囲:P.658 - P.658

 他科と比べて皮膚科の診療は「予めインプットされている情報量」に左右されることが多いと言ったら言い過ぎであろうか.随分昔の話になるが,短期交換レジデントとして米国ペンシルベニア大学(以下,ペン大)医学部皮膚科学教室に留学させていただいたときに驚愕したのは,かの『Andrew's Diseases of the Skin』の筆頭著者である(その当時は単著であったように記憶している)William D. James教授の卓越した診断力であった.ペン大にはDuhring Conference(そう,ペン大の初代教授はあのDuhring先生です)という,診断困難な症例を集めたカンファレンスがあるのだが,James先生は,他の高名な先生方があまりコメントできないような症例を「これはXXXX年のJAADに掲載されていた○○にそっくりである!」などと涼しげにおっしゃってどんどん結論を出されていたのである.その知識の豊富さ,整理の仕方に驚愕したことを今でもはっきりと覚えている.その当時,「知ること≒診断能力」であると強く感じたことを思い出す.
 先日,通勤途中の車の中で何気なくFMに耳を傾けていると,われわれには治安がきわめて不安定と伝えられている中東の都市の市民の生活の様子を現地レポーターが報告していた.日頃,日本の放送局が流す情報とは全く異なり,市民は平穏に暮らしており,実は若者は米国の文化が大好きであるとのことであった.それは日本で得られる情報に基づいて形成されたわれわれの認識と大きく異なるものであった.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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