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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科72巻10号

2018年09月発行

雑誌目次

今月の症例

1型糖尿病患者に生じたインスリンボールの1例

著者: 宇都宮亮 ,   宮脇さおり ,   藤山幹子 ,   大林光念 ,   佐山浩二

ページ範囲:P.753 - P.758

要約 33歳,男性.10歳発症の1型糖尿病があり,インスリン療法を受けていた.16歳頃より両上肢,両大腿の腫瘤を自覚した.31歳時に腹部への注射を指示され,9か月後に腹部の注射部に硬結を生じた.硬結は急速に増大して腫瘤となり,インスリンボールが疑われ2013年7月に当院を紹介され受診した.インスリン注射は毎回つまみやすい腫瘤部に行っていた.生検組織の病理像では,真皮深層で膠原線維の増生があり,DFS染色,コンゴーレッド染色陽性となるアミロイドの沈着を認めた.免疫染色でアミロイド沈着部に一致して抗インスリン抗体が陽性で,インスリンアミロイド沈着症であるインスリンボールと診断した.患者はインスリンを車中に保管しており,長時間の高温曝露がアミロイド前駆体の形成を促進したと考えた.インスリン投与患者には注射部位の指導とともに,インスリン製剤の保存方法を指導することが必要であると考える.

症例報告

イマチニブにより緊満性水疱を生じた1例

著者: 青山久美 ,   山中正義 ,   磯田淳

ページ範囲:P.759 - P.762

要約 72歳,男性.慢性骨髄性白血病に対しイマチニブを開始した半年後より手背,指背に緊満性水疱を生じるようになった.抗BP180抗体陰性で,病理組織学的所見よりイマチニブにより生じた緊満性水疱と診断した.イマチニブは多標的キナーゼ阻害剤に分類される分子標的薬で,慢性骨髄性白血病の第一選択薬である.イマチニブは多彩な皮膚障害を生じることで知られているが,自験例のように緊満性水疱を生じた報告は稀である.皮疹が出現した機序として,KITチロシンキナーゼによる基底細胞の障害と考えた.

尋常性乾癬に対するブロダルマブ治験中に肺化膿症を生じた1例

著者: 川口亜美 ,   国本佳代 ,   三木田直哉 ,   神人正寿 ,   金澤伸雄

ページ範囲:P.763 - P.769

要約 64歳,男性.35歳頃に尋常性乾癬を発症し,広範な皮疹に対するGoeckerman療法やUVA1療法,メトトレキサート内服により症状は中等症でほぼ固定していた.60歳時,ブロダルマブの治験に参加するためメトトレキサート内服を中止したところ1か月後にPASIの上昇を認めたが,治験開始後ブロダルマブ210mg・2週間毎の投与で,6週間後にPASIクリアを達成し,寛解を維持できた.治験開始41か月後,特に誘因なく咳嗽と左胸痛が出現.炎症所見の上昇と左中肺野の空洞病変を認め,肺化膿症と診断した.ブロダルマブを中止し,スルタミシリントシル酸塩水和物内服を2週間行ったところ肺化膿症は改善したが皮疹が急激に再燃してきたため,18日後にブロダルマブを再開した.皮疹は速やかに消失し,肺野の空洞病変も縮小を続けた.ブロダルマブと肺化膿症の直接の関係性を完全に証明することは難しいものの今後の自己注射の導入などを考えると管理のうえで注意する必要がある.

バルプロ酸ナトリウム3年7か月内服後に生じた薬剤性過敏症症候群の1例

著者: 山口卓 ,   岡田悦子 ,   中村元信

ページ範囲:P.771 - P.776

要約 68歳,女性.3年7か月前よりバルプロ酸ナトリウム(以下,バルプロ酸),フェニトイン,フェノバルビタールを内服していた.初診9日前より発熱を伴い体幹に紅斑が出現し,肝機能障害も認めた.パッチテストでバルプロ酸に陽性を示し,全血からHHV6-DNAを検出し,バルプロ酸を原因とする薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)と診断した.ステロイドパルス療法を行い皮疹は改善していたが,発症から約25週後にサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)再活性化による皮膚潰瘍を生じた.バルプロ酸によるDIHSの報告は本邦と海外合わせて9例ときわめて少ない.また自験例ではバルプロ酸の内服期間が3年7か月と過去の報告例に比して長かった.バルプロ酸は他の抗てんかん薬で薬疹を生じた際に代替薬として用いられることも多いが,交差反応も含めバルプロ酸による二次的な薬疹を起こす危険性があり,注意を要する.

サンバーンを生じた部位に発症したacute generalized exanthematous pustulosisの1例

著者: 齋藤京

ページ範囲:P.777 - P.781

要約 34歳,女性.8月に生理痛にイブA®を服用したところ39℃の発熱と頸部リンパ節痛,背側面〜上腕外側や上胸部に小膿疱を伴う紅斑が出現した.病理組織像では,角層下に海綿状膿疱,真皮浅層の血管周囲性に好中球を主とする炎症細胞が浸潤していた.自験例を,発症前にサンバーンを生じた部位に皮疹を発症したacute generalized exanthematous pustulosis(AGEP)と診断した.一方で限局性AGEPとしてacute localized exanthematous pustulosis(ALEP)が提唱され,最近,その発症部位より日光曝露との関与が示唆されつつある.自験例は皮疹の分布などの特徴からはAGEPとするのがより妥当であるがALEPとしての一面を有していた.日光曝露の皮疹発症への関与に関しては,サンバーン後の皮膚でエイコサノイドの変化やリンパ球の上昇が示されており,それらが好中球遊走を引き起こし皮疹を形成しやすい可能性を考えた.

ジアミノジフェニルスルホンが奏効した顔面肉芽腫の1例

著者: 西岡美南 ,   岩平紘佳 ,   中村彩 ,   八尋知里 ,   山本哲久 ,   見目和崇

ページ範囲:P.783 - P.787

要約 42歳,女性.左頰部に暗紫色局面を認めた.生検病理組織像にてgrenz zoneを認め,真皮内および一部の皮下脂肪織に,好中球の目立つ,形質細胞,組織球,好酸球を混じる種々の細胞からなるびまん性の炎症細胞浸潤を認めた.臨床像と合わせ顔面肉芽腫と診断した.顔面肉芽腫は血管炎所見をしばしば伴うとされているが,自験例では内皮細胞の膨化,血管周囲に核塵を認めるものの,赤血球の血管外漏出やフィブリノイド変性は認めなかった.ステロイドの外用,タクロリムス軟膏の外用後に残存する皮疹に対してジアミノジフェニルスルホン(DDS)75mgの内服を開始したところ,皮疹は著明に軽快した.顔面肉芽腫の治療法は確立されておらず,慢性に経過し,治療抵抗性なことが多いとされているが,顔面肉芽腫の治療の際に,DDSは選択肢の1つになると考えられた.

右耳輪の毛囊母斑の1例

著者: 赤芝知己 ,   盛田千登世 ,   石河晃 ,   関根万里

ページ範囲:P.789 - P.792

要約 13歳,女児.出生時より右耳輪に皮疹があったが放置していた.徐々に拡大し8歳頃から目立ちはじめ,気になって掻破するようになった.掻破時に出血するため切除を希望し,2017年3月下旬に当院を紹介され受診した.初診時,右耳輪に4mm大で境界明瞭な小結節があり,結節中央は角化し点状に痂皮がみられた.ダーモスコピーでは結節に点状出血がみられ,結節周囲に白色領域を認めた.病理組織像では真皮内にvellus hairを伴う毛包が増殖し,好中球,リンパ球の炎症細胞浸潤がみられた.深部には拡大した毛包や軟骨などがみられなかったことから,自験例を毛囊母斑と診断した.毛囊母斑はきわめて稀な疾患であり,過去にはcongenital vellus hamartomaの名称で報告され,現在も明確な定義と診断基準が確立していない.診断には毛包腫と副耳の鑑別が必要で,臨床所見および病理組織学的所見の理解が重要である.

Spindle cell lipomaの3例

著者: 沢辺優木子 ,   田中隆光 ,   生野由起 ,   深谷早希 ,   林耕太郎 ,   大西誉光 ,   直海明里 ,   尾松淳 ,   三井浩 ,   渡辺晋一 ,   多田弥生

ページ範囲:P.793 - P.798

要約 症例1:56歳,男性.4年来の右鼠径部の3×4cm大の皮下結節.症例2:67歳,男性.約4年来の左後頸部の4×4cm大の腫瘤.症例3:50歳,男性.約2年来の前胸部の母指頭大の皮下結節.いずれも自覚症状なく徐々に増大した.それぞれ境界明瞭で弾性軟に触知し,下床との可動性は良好で,すべて全摘した.病理組織学的には皮下の線維性被膜に囲まれた腫瘤で,成熟脂肪細胞と紡錘形細胞の増生からなり,間質には膠原線維が混在していた.全例とも紡錘形細胞はCD34陽性であり,症例3では粘液基質が多かった.MRIでは,脂肪抑制のある内部が不圴一な腫瘍であるが,脂肪抑制は腫瘍内部の脂肪成分の多寡により左右される.また紡錘形細胞の部分はT1・T2で低信号を呈するが,症例によって粘液基質など構成成分の偏りがあるため内部の信号強度は一定しない.また病理組織像の多彩さから,pleomorphic lipoma,myxolipomaなど他の脂肪腫や悪性のliposarcomaなどと鑑別が必要である.

皮膚原発腺様囊胞癌の2例

著者: 増田泰之 ,   中村文香 ,   鷲見真由子 ,   小坂博志 ,   長野徹

ページ範囲:P.799 - P.804

要約 症例1:63歳,女性.1年前に後頭部に小豆大の結節を自覚した.症例2:59歳,女性.2年前より左胸部の小指頭大の皮下結節を自覚した.ともに前医により切除され,腺様囊胞癌を疑われ当科に紹介された.病理組織学的には症例1,2とも真皮内に類円形の細胞質に乏しい異型細胞が大小の偽腺腔を伴う腫瘍胞巣を形成し,いわゆる篩状構造を呈していた.症例1では腫瘍細胞の神経浸潤を,症例2では内部に広い腺腔を伴う腫瘍胞巣を認め,基底細胞癌と鑑別を要した.いずれも皮膚原発腺様囊胞癌と診断した.本疾患は稀な腫瘍であるが他臓器原発の腺様囊胞癌との鑑別を要するため詳細な全身検索が必要である.特に自験例のごとく神経浸潤を示す例や基底細胞癌との鑑別を要する例では慎重な組織学的検討が必須である.また局所再発率の高さを念頭に置いた長期間の経過観察が必須と考えたため報告した.

穿刺吸引細胞診による甲状腺乳頭癌の皮膚播種と考えられた1例

著者: 北口紘子 ,   白瀬智之 ,   奥野知子 ,   木原実 ,   吉川義顕

ページ範囲:P.805 - P.809

要約 21歳,女性.甲状腺腫瘍を指摘され,当科初診の4年前と3年前に穿刺吸引細胞診を2回受け,その結果甲状腺乳頭癌の診断で甲状腺全摘術が施行された.当科受診の4か月前に頸部腫瘤を自覚し,当科初診時には頸部に約4mm大の淡い紅色を呈した腫瘤を認めた.腫瘤を全摘し,病理組織学的所見および発生部位から穿刺吸引細胞診による甲状腺乳頭癌の皮膚播種と診断した.穿刺吸引細胞診は安全で非侵襲的な検査方法であり,甲状腺乳頭癌が穿刺経路播種を起こす頻度は比較的稀とされている.しかしながら,穿刺吸引細胞診の合併症として穿刺経路播種が起こりうることは皮膚科医も知っておくべきであり,皮疹部位に穿刺の既往がある場合には穿刺経路播種も鑑別に挙げ診察する必要があると考えた.

皮下硬結として出現した肺癌の筋転移の1例

著者: 椎山理恵 ,   綿貫沙織 ,   宮尾直樹 ,   長村義之 ,   石橋正史

ページ範囲:P.810 - P.814

要約 72歳,男性.初診2か月前に左鎖骨付近に有痛性の皮下硬結が出現し,MRIにて大胸筋内に32×23mm大の腫瘤を認めた.1か月後,痛みは増強し腫瘤もさらに増大,診断目的に皮膚〜皮下組織にかけての生検を実施した.皮下組織に好酸性の細胞質を持つ異型細胞が充実性胞巣を形成し,粘液を有する異型腺細胞と異型扁平上皮細胞の2成分から構成されていた.また,同時期に右上肺野に異常陰影あり,同部位の経気管支生検を行った.病理組織所見では扁平上皮癌の一部に腺性分化をした腺扁平上皮癌の所見を呈していたことから,左鎖骨付近の硬結は肺癌の筋転移と診断した.悪性腫瘍の骨格筋への転移は比較的稀といわれており,また転移性筋腫瘍の原発巣としては肺癌の頻度が高い.皮下硬結をみた場合は悪性腫瘍や転移性病変の可能性も考える必要がある.

左上肢に生じたNocardia brasiliensisによるリンパ管型原発性皮膚ノカルジア症の1例

著者: 安藤はるか ,   山内輝夫 ,   北見由季 ,   末木博彦 ,   五ノ井透

ページ範囲:P.815 - P.820

要約 82歳,男性.左肘頭に擦過傷を負った1か月後,受傷部に紅色結節が出現,その後左上腕に紅斑が拡大し当科を受診した.左肘頭に25×15mmの排膿を伴う隆起性紅色結節,左上腕に軽度圧痛を伴う鶏卵大の硬結性紅斑を認めた.病理組織学的に非特異的化膿性肉芽腫像を認めたが,組織内に菌成分はなかった.生検組織の細菌および真菌培養で乾燥性白色集落が得られ,遺伝子検査でNocardia brasiliensisと同定した.呼吸器症状はなく,リンパ管型の原発性皮膚ノカルジア症と診断した.ミノサイクリン200mg/日を37日間内服し治癒した.本邦報告例61例を検討したところ,本症は65歳以上の高齢者の男性に多く,基礎疾患や免疫抑制剤の使用がない例が半数以上を占めた.起因菌はN. brasiliensis,臨床型はリンパ管型が圧倒的に多かった.本症は菌種により薬剤感受性も異なるため,確実に同定を行うことが重要である.

右鼻翼部に生じた皮膚限局性結節性アミロイドーシスの1例

著者: 小林佑佳 ,   小澤健太郎 ,   森清 ,   爲政大幾

ページ範囲:P.821 - P.825

要約 50歳,男性.1年前から右鼻翼部に徐々に増大する結節を自覚し,紹介受診した.初診時,右鼻翼部に径1cm大で表面に凹凸を伴う紅褐色の結節を認めた.皮膚生検HE染色では,真皮から皮下組織にかけて淡紅色の無構造物質を認め,direct fast scarlet(DFS)染色および抗AL(κ)抗体による免疫染色で陽性であり,無構造物質の周囲にリンパ球,形質細胞,組織球が散見された.全身検索により全身性アミロイドーシスは否定され,皮膚限局性結節性アミロイドーシスと診断した.本症は皮疹と病理組織像のみでは全身性アミロイドーシスと鑑別できないため,全身検索が必要である.また稀な疾患であり,確立された治療法はない.一般的に予後良好であることから,整容面を考えて最小限の外科的切除を行うことを推奨する.また切除後も異常増殖する形質細胞を完全に切除できていない可能性もあることから,再発については経過観察が必要と思われる.

マイオピニオン

人工知能(AI)と皮膚科

著者: 藤本学 ,   山﨑研志

ページ範囲:P.750 - P.751

 1. はじめに
 しばらく前まではSFの中の話であった人工知能(artificial intelligence:AI)が,過去数年で急速な進歩を遂げ,実社会において大きな役割を果たすかもしれないところまで来ている.この空前のAIブームを作るブレイクスルーとなったのは,2006年に発表された「ディープラーニング」という機械学習の手法であり,これによって画像認識をはじめとするさまざまな領域において従来の方法を大幅に上回る画期的な進歩が産み出された.当初はクイズ番組や囲碁で人間のチャンピオンに勝利するといった話題が先行したが,近年医療においてもAIが着々と利活用されるようになってきている.一例を挙げると,2018年4月には糖尿病性網膜症を検出するAIを用いたデバイスが米国食品医薬品局により承認された.今後このような流れが加速の一途を辿ることは想像に難くない.
 AIの進歩が人間との比較・競争という軸を中心に取り上げられてきたことから,AI活用の議論にはどこか感情的な要素が混じりがちである.AIが医療に画期的な進歩をもたらすだろうという大きな期待があるのと同時に,「AIによって,皮膚科医は失業してしまうだろう」という悲観的な意見や「すべての皮膚疾患が写真だけから診断できるわけがないからAIなんて無駄だ」あるいは「AIで誤診が起きても責任がとれないから使用すべきでない」というように全否定する考え方も耳にする.しかしながら,AIが皮膚科領域にも進出してくることは不可避であり,われわれは感情的な議論に流されることなくAIをどのように活用していくべきか,そのために今何をすべきかを冷静に見極めて行動していく必要があるだろう.日本皮膚科学会(日皮会)では,皮膚科領域におけるAIの進歩に迅速に対応できるように,島田眞路前理事長のリーダーシップの下にAIワーキンググループが2016年末に設立された.

印象記

第117回日本皮膚科学会総会印象記

著者: 室慶直

ページ範囲:P.826 - P.829

 第117回日本皮膚科学会総会が広島大学大学院医歯薬保健学研究科皮膚科学講座 秀 道広教授(図1)を会頭に2018年5月31日(木)から4日間,リーガロイヤルホテル広島・広島県立総合体育館(広島グリーンアリーナ)・NTTクレドホールにて開催された.日本皮膚科学会総会(以下,総会)は第111回総会より京都と横浜の相互開催の形式で行われてきたが,第116回総会が東北地方復興をスローガンに仙台で開催され,第117回総会は秀会頭のご意向により再びの地方開催となった.開催期間は第118回総会から4日間プログラムで開催されることが日本皮膚科学会の総会プログラム委員検討会から発案され理事会で先に決定していたが,第117回総会も秀会頭の肝入りにより4日間で行われることになった.会場は広島市の中心部に位置し,徒歩圏内に平和公園や広島城,ひろしま美術館などが存在し,世界的な観光都市,広島で開催された本学会への参加者は6,000名に達する勢いだった.

連載 Clinical Exercise・133

Q考えられる疾患は何か?

著者: 石川治

ページ範囲:P.747 - P.748

症例
患 者:4歳11か月,男児
主 訴:顔面,頸部,外陰部の皮疹
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:生下時に左心低形成症候群と合指症を含む指趾奇形があり,成長とともに低身長,難聴,言語・精神発達遅滞が明らかとなった.小児科において多発奇形症候群と診断されている.
現病歴:4歳6か月時頃から眼周囲に皮疹が出現し,38℃台の発熱と下痢を繰り返すようになった.小児科で精査したが診断に至らず,4歳11か月時に当科を紹介され受診した.
初診時現症:前額部から眼周囲,頰部にかけて痂皮,びらんを伴うコウモリが羽を広げた形の境界明瞭な紅褐色斑があり,眉毛は減少していた(図1a).頸部,手指,外陰部から肛囲にかけても湿潤した紅褐色斑があり(図1b),手指では水疱を伴っていた.

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目次

ページ範囲:P.743 - P.743

欧文目次

ページ範囲:P.745 - P.745

文献紹介 神経線維腫症1型に関連する叢状神経線維腫におけるセルメチニブの効果

著者: 増田容子

ページ範囲:P.781 - P.781

 叢状神経線維腫(plexiform neurofibroma:PNs)は,神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1:NF-1)の20〜50%に発症し,神経束に沿って増殖する.MAPK(RAS-マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)シグナル伝達の活性化を特徴とする疾患であるが,現在有効な薬物療法はないといわれている.
 本論文では,NF-1および手術不能なPNsを有する小児を対象に,MAPKK(MEK)1/2の選択的経口阻害薬であるセルメチニブの最大耐用量を決定し,血漿中薬物動態を評価する目的で,第Ⅰ相試験を行っている.セルメチニブの投与方法は,継続投薬スケジュール(28日サイクル)で,20〜30mg/m2を1日2回とした.治療効果は,MRI解析により叢状神経線維腫の容積の変化を測定することで評価された.

文献紹介 Spitz母斑のダーモスコピー所見とその管理

著者: 太田志野

ページ範囲:P.798 - P.798

 良性腫瘍であるSpitz母斑と悪性黒色腫はいずれもSpitz様の臨床像やダーモスコピー所見を呈すため,臨床的な鑑別や管理に関して臨床医の中でいまだに議論が分かれている.加えて,組織学的にSpitz母斑か悪性黒色腫か診断できない腫瘍(atypical Spitz tumour:AST)も存在する.本研究はSpitz母斑のダーモスコピー所見の分類を最新化し,Spitz様病変の管理方法を提案することを目的とした.
 Spitz母斑のダーモスコピー所見について述べられた15の文献を分析した結果,Spitz母斑のパターンは色,構造が左右対称であり,主なダーモスコピー所見はstarburst pattern(51%),規則的なdotted vessels(19%),網状脱色素を伴うglobular pattern(17%)であった.Spitz様病変の中で年齢が高い場合や,結節性病変の場合に悪性黒色腫である確率が上がることも示された.すなわち,左右対称性のSpitz様病変が悪性黒色腫である確率は12歳未満ではきわめて稀なのに対し12歳以上30歳未満では7%,50歳以上では50%と上昇した.さらに,平坦病変では12%であるのに対し結節性病変では32%であった.

書評 —編:日本皮膚科学会—実践!皮膚病理道場2—バーチャルスライドでみる炎症性/非新生物性皮膚疾患[Web付録付]

著者: 山本明美

ページ範囲:P.830 - P.830

 この本は「皮膚科専門医認定試験をこれから受験するために皮膚病理組織学の基本を短時間で身につけたい」と考えている皮膚病理ビギナーにうってつけの一冊です.編集が日本皮膚科学会ということは,個人的な意見ですが,この本の画像が専門医認定試験問題に使われる可能性があると考えます.もちろん用いられている画像はどれも病理所見がわかりやすい典型的なものばかりですから試験用としても最適なものです.
 この本の最大の特徴は難易度順に疾患を分類し,容易なものから順にA,B,Cの3つのレベルで疾患がまとめられている点です.そしてそのレベルごとに中身は組織のパターン別,あるいは病因別に疾患が並んでいます.このことが初心者の学習を大いに助けると思います.なぜかというと,皮膚病理を勉強する上で障害となるのは次のような事実があるからです.すなわち多くの教本に掲載されているのは目がくらむように膨大な数の皮膚病で,しかもおのおのが疾患の形成時期,すなわち早期,最盛期,治癒期なのかによって所見が異なるときては勉強する意欲が損なわれます.その点,この本ではまずレベルAにある厳選された少数の疾患をマスターすることでいったん達成感が得られます.そして心に余裕ができたところで,次のレベルに進むことができるのです.いきなりヒマラヤの頂上をめざすのではなく,近くの小山でハイキングから始めるような感じでしょうか.

次号予告

ページ範囲:P.831 - P.831

あとがき

著者: 朝比奈昭彦

ページ範囲:P.834 - P.834

 この4月から,歴史ある『臨床皮膚科』の編集委員を新たに務めさせていただくことになった.誠に光栄であり,それと同時に大変な責務に身が引き締まる思いであるが,精一杯頑張ろうと気持ちを新たにしている.投稿論文の査読の作業がこれだけ真剣勝負で,しかも公明正大に前向きに行われていることを,編集の現場に入って初めて知ることができた.諸先生方の貴重な臨床経験に基づく投稿論文は,日本の皮膚科医がその経験を共有して,臨床のスキルを高めるのに大いに役立っている.
 ところで投稿論文を拝見して感じるのは,以前には少なかったようなケアレスミスの数々である.私が医師になりたての頃は,仕事に使える個人持ちのPCがまだ出始めたばかりで,日本語ワープロすらようやく普及し始めたという環境であった.自分が皮膚科雑誌に初めて論文を投稿したときは,マス目のある原稿用紙に手書きをしたのを思い出す.もちろんコピペなどできるわけがなく,手元は下書きの用紙で溢れて推敲の作業にも多大な時間がかかり,緊張感を持ちつつ一文一文を作り上げていった.文献の検索も,図書館で百科事典のようなデータベース本を年ごとに調べるという,時間と手間がかかる作業であった.今では,インターネットで何でも調べられる上に,論文を簡単に作成して推敲することができる.若い先生方は,今の当たり前の仕事環境が相当に恵まれていることを,是非とも知っていただき,あるいは,同じように苦労をしたかもしれない学生時代を思い出していただければと思う.せっかくの投稿論文に漢字の変換ミスや不完全なコピペ,脱字などがあれば,投稿者の真剣な気持ちまでもが伝わりにくくなってしまう.文献リストも論文の一部であるのだが,その体裁が整っていない論文も散見される.現代は過去より情報量が飛躍的に多くなり,PCやインターネットを駆使して作業を進めていくのは必然であるが,投稿する際にはケアレスミスに対する最終チェックをしていただければ幸いだ.時代の進歩についていけずにいまだにスマホの契約すらしていない私からのお願いである.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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