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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科73巻12号

2019年11月発行

雑誌目次

症例報告

超音波ゲルに含まれるメチルパラベンによる接触蕁麻疹の1例

著者: 臼居駿也 ,   加畑大輔 ,   横田日高

ページ範囲:P.942 - P.946

要約 20歳台,男性,初診の8か月前に超音波ゲルを塗布した部位に瘙痒を伴う紅斑が出現し,数時間以内に自然消退した.同様の症状を繰り返すため,当科を受診した.実際に使用したゲルのオープンテストで紅斑を伴う膨疹が出現したため,超音波ゲルによる接触蕁麻疹と診断した.ゲル成分のクローズドパッチテストを施行し,膨疹がメチルパラベンにのみ出現したため,原因成分と判断した.また,メチルパラベンの濃度別クローズドパッチテストを施行し,as isのみ膨疹が出現し,希釈したメチルパラベンは陰性であった.このことから接触蕁麻疹の出現には原因成分の含有濃度が関与している可能性が示唆され,パッチテスト時の濃度設定には注意が必要である.使用頻度に比して超音波ゲルによる接触蕁麻疹の報告は少ないが,皮膚科ではダーモスコピーで使用されることがあるので,接触蕁麻疹を惹起する可能性があることは認識しておく必要がある.

透析シャント部位に一致したKöbner現象をきたしイキセキズマブが奏効した膿疱性乾癬の1例

著者: 渡邉千夏 ,   梶原一亨 ,   尹浩信

ページ範囲:P.947 - P.949

要約 53歳,男性.既往歴は狭心症および慢性腎不全にて血液透析導入中.22歳時に皮疹を自覚したが放置していた.48歳時に,39℃台の発熱と略全身に膿疱を伴う紅斑が出現し,皮膚生検で不全角化を伴う表皮肥厚および,Kogoj海綿状膿疱を認め,膿疱性乾癬の診断となった.インフリキシマブによる治療を開始し,63か月間は症状安定していたが,間質性肺炎を併発し,中止となった.外用治療を継続するも,シャント部位にKöbner現象を生じ,透析に支障が生じた.イキセキズマブによる治療を開始し(イキセキズマブ導入前PASI 5.5),2週間後には透析シャント部のKöbner現象の皮疹も消失し,PASI 0.8にまで改善した.シャント部位に生じるKöbner現象についての報告はなく,当院の症例を検討したところ,自験例を含め,後方視的に解析できた同様の症例は3例であった.透析維持が困難なほどの症例はここに供覧した1例のみで,イキセキズマブが有効であった.

胸腺腫再発に伴って発症し良好な経過をたどった胸腺腫関連GVH様疾患の1例

著者: 齊藤亨 ,   川口雅一 ,   二階堂まり子 ,   村田壱大 ,   鈴木修平 ,   鈴木民夫

ページ範囲:P.951 - P.956

要約 44歳,女性.重症筋無力症,胸腺腫の既往あり.胸腺腫切除後の経過観察目的のCT検査で胸腺腫の左胸膜播種を指摘され,腫瘍内科で化学療法を受けたところ,全身に激しい瘙痒を伴う浸潤性紅斑が出現したため当科を紹介受診した.当初は薬疹を疑い化学療法を中止したが皮疹の改善はなく,臨床症状や経過,皮膚生検で胸腺腫関連GVH(graft-versus-host)様疾患と診断した.皮疹は増悪・寛解を繰り返し,ステロイド外用および内服・免疫抑制剤投与や化学療法の継続で皮疹および胸膜病変が改善した.本疾患は皮膚以外にも肝臓・消化管障害などをきたし,また重篤な感染症などで死亡の転帰をたどる例が多い.特に進行期の胸腺腫の症例で皮疹がみられた場合,本疾患の存在を念頭に置いた治療を要すると考えられる.

角化性紅斑と疣状結節を呈する扁平苔癬の経過中に生じたlichen planus pemphigoidesの1例

著者: 宮川秀美 ,   福山雅大 ,   早川順 ,   石田正 ,   大山学

ページ範囲:P.957 - P.963

要約 84歳,女性.10年前より軀幹,四肢に扁平隆起する紫紅色斑が出現し,病理組織学的に扁平苔癬と診断され,ステロイド外用とエトレチナート内服にて軽快した.半年前より全身に角化性紅斑,疣状結節が多発し,下肢に緊満性水疱,頭部では脱毛を生じたため当科を受診した.角化性紅斑部では病理組織学的に表皮および顆粒層の肥厚と,真皮浅層の帯状のリンパ球浸潤がありhypertrophic lichen planusと診断した.一方,水疱部では表皮下の裂隙と,真皮浅層にリンパ球と多数の好酸球を主体とする炎症細胞浸潤がみられた.抗基底膜抗体陽性,蛍光抗体直接法にてC3が基底膜に線状に沈着,抗BP180抗体陽性であったことからlichen planus pemphigoidesと診断した.自験例の水疱形成の機序として先行する扁平苔癬のため表皮真皮境界部に激しい炎症細胞浸潤が長期間存在した結果,基底膜を構成する分子が露出し,抗基底膜抗体が産生されたと推察した.

小児の急性痘瘡状苔癬状粃糠疹に対してナローバンドUVB療法が奏効した1例

著者: 木下ひとみ ,   中村吏江 ,   天野愛純香 ,   仁井谷暁子

ページ範囲:P.965 - P.972

要約 10歳,男児.初診2か月前から腹部にびらんを伴う紅色皮疹が出現し初診10日前に前医を受診した.急性痘瘡状苔癬状粃糠疹(pityriasis lichenoides et varioliformis acuta:PLEVA)を疑われステロイド外用剤などで加療されたが増悪し当科紹介受診となった.皮膚生検病理組織像にてPLEVAと診断し,ナローバンドUVB(NB-UVB)療法を週2回の頻度で開始し,照射開始後2週目に皮疹の新生が止まり潰瘍は上皮化傾向を示した.6週目には色素沈着となり維持療法として週1回の照射を継続した.11週目に色素沈着となった皮疹部に大豆大紅色局面が出現し,生検を行い肥厚性瘢痕と診断した.小児におけるPLEVAの治療としてNB-UVB療法は重篤な副作用の報告がなく試みるべき治療の1つであると考えた.

ヒドロキシクロロキンが症状緩和に有効であった瘢痕性脱毛を伴う慢性皮膚エリテマトーデスの2例

著者: 齋藤真衣 ,   福山雅大 ,   大山学

ページ範囲:P.973 - P.977

要約 症例1:47歳,女性,症例2:68歳,女性.両症例とも初診の数年前から頭頂部に発赤・瘙痒を伴う皮疹が生じた.徐々に皮疹部は脱毛し拡大傾向を示したため当院を初診した.両症例とも脱毛斑のトリコスコピー所見にて,毛孔像の消失やred dotsがみられ,病理組織像では,漏斗部から毛球上部にかけて毛包周囲にリンパ球主体の密な炎症細胞浸潤を認めた.蛍光抗体直接法で,基底膜にIgMが沈着していた.2例とも慢性皮膚エリテマトーデスと診断し,ヒドロキシクロロキンで加療を開始した.病変部の脱毛の改善はわずかであったが,瘙痒や発赤などの炎症所見が著明に改善し,病変の拡大も抑制できた.慢性皮膚エリテマトーデスでは瘢痕性脱毛への進行を抑制するため早期の治療介入が重要とされるが,自験例のような進行期の症例でもヒドロキシクロロキンにて炎症所見の改善および進行の抑制が期待できるため積極的な導入が望まれる.

ダーモスコピーにて橙黄色領域に蛇行状血管がみられた皮膚限局性結節性アミロイドーシスの1例

著者: 八谷美穂 ,   小松広彦 ,   久保亮治 ,   永井俊弘 ,   田中勝 ,   布袋祐子

ページ範囲:P.978 - P.982

要約 68歳,男性.1か月前から左こめかみに約3cm大の境界明瞭で光沢を呈する鮮紅色から橙黄色の腫瘤があった.初診時,ダーモスコピーで橙黄色領域上に蛇行状血管が散見された.付属器系腫瘍,黄色腫,アミロイドーシス,サルコイドーシスなどを疑い生検を施行したところ,病理組織像で真皮全層に弱好酸性の無構造物質のびまん性の沈着がみられ,これらは特殊染色でアミロイドと判明した.合併症はなく,皮膚限局性結節性アミロイドーシスと診断した.ダーモスコピー所見が記載されている本疾患の報告は,国内外で自験例を含めて3例のみであった.いずれもびまん性の橙黄色から淡紅色の領域に蛇行伸長する血管が散見されたが,色調にばらつきがあり,特異的な所見はなかった.自験例のダーモスコピー像は,背景に境界不明瞭な黄色領域があるものの,黄色味は弱く,脂腺系腫瘍や黄色腫よりもアミロイドーシスやサルコイドーシスなどを想定しえた.ダーモスコピーは非侵襲的で簡便な検査であり,臨床像の類似する鑑別疾患を絞るために,非色素性病変においても積極的に使用すべきであり,今後の同様の症例の蓄積が望まれる.

治療抵抗性リンパ増殖性好酸球増多症候群の1例

著者: 加藤あずさ ,   三宅智子 ,   濱田利久 ,   花山宜久 ,   森実真 ,   岩月啓氏

ページ範囲:P.983 - P.989

要約 70歳台,男性.3年前から皮膚瘙痒を自覚し,2年前から四肢に水疱と多形紅斑様皮疹が出現した.水疱症や薬疹として加療されるも改善なく,当科へ紹介され受診した.初診時,四肢体幹に浸潤性紅斑が散在し,末梢血好酸球数は1,534/μlと上昇していた.病理組織学的に,表皮の海綿状態と真皮内の好酸球浸潤を認めた.その後,環状紅斑,水疱,Tripe palmと多彩な皮膚症状が出現し,好酸球値は20,000/μl台まで上昇した.鑑別診断として,薬剤性,水疱症,血管炎,悪性腫瘍随伴,接触皮膚炎,寄生虫感染症は否定した.さらに,FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子などの遺伝子変異がなく,末梢血単核球中に複数の優位のT細胞クローンを認め,リンパ増殖性好酸球増多症候群と診断した.副腎皮質ホルモンの内服や点滴を行ったが,完全には病勢を抑えられず,免疫抑制剤やエトポシドを導入した.今回複雑になりがちな好酸球増多例の診断の流れをまとめるとともに,治療としてエトポシドの可能性を示唆した.

膵頭部腫瘍の診断契機となった皮下結節性脂肪壊死症の1例

著者: 張田修平 ,   猿田祐輔 ,   荻原麻里 ,   小野蘭 ,   大歳晋平 ,   渡辺秀晃 ,   末木博彦

ページ範囲:P.991 - P.995

要約 82歳,男性.S状結腸癌術後3年で多臓器転移を伴っていた.初診の2週間前より全身倦怠感と両下腿の皮下結節が出現した.現症:右下腿に母指頭大のドーム状に隆起する暗紅色皮下結節を2個認めた.弾性硬に触知し,圧痛を伴っていた.転移性皮膚癌,好中球性皮膚症を考え生検した.組織学的に好中球・組織球を中心とした小葉性脂肪織炎を認め,ghost-like cellを混じていた.膵酵素上昇(アミラーゼ1,619U/l,Pアミラーゼ1,611U/l)とCT上で膵頭部の腫瘤,膵管拡張がみられた.以上より膵頭部腫瘍に伴った皮下結節性脂肪壊死症と診断した.根本治療は膵疾患の治療が原則であるが,自験例では対症療法のみで軽快した.本疾患は膵疾患患者の中では稀であるが,他の臨床所見に先行して皮疹が認められる場合があり,デルマドロームとして重要である.

悪性乳腺葉状腫瘍の患者に生じたpostirradiation pseudosclerodermatous panniculitisの1例

著者: 吉田春奈 ,   鈴木茉莉恵 ,   城内和史 ,   渡辺秀晃 ,   小林玲 ,   石田博雄 ,   末木博彦

ページ範囲:P.997 - P.1001

要約 42歳,女性.2年半前に悪性乳腺葉状腫瘍に対し切除術・化学療法を施行されたが再発し,11か月前に放射線療法,8か月前にパゾパニブ塩酸塩投与を開始された.腫瘍内科受診日に左前胸部に硬結・疼痛を認めたため,当科を紹介受診した.左前胸部の放射線照射部に一致した,圧痛を伴う境界明瞭な紅斑・硬結を認めた.紅斑部の皮膚生検にて腫瘍細胞を認めず,小葉性の脂肪織炎であったことからpostirradiation pseudosclerodermatous panniculitisと診断した.プレドニゾロン20mg/日の内服を開始し,1週間後には紅斑は軽減したが,硬結は残存した.本症は症例数が少なく,発症メカニズムや治療法も確立されていない.悪性腫瘍の放射線療法後に紅斑・硬結を認めた場合,postirradiation pseudosclerodermatous panniculitisを疑い,生検を考慮する.

進行性乳癌に対するフルベストラント筋肉注射後に生じた臀部皮膚潰瘍の1例

著者: 磯貝理恵子 ,   吉岡希 ,   山田秀和 ,   湯川真生

ページ範囲:P.1002 - P.1006

要約 74歳,女性.右側閉経後進行性乳癌(T4bN3M1)に対してフルベストラントの投与中であった.4週ごとに左右の臀部に1筒ずつ筋肉内投与をしていた.投与開始から1年後,右臀部の筋肉内注射では痛みはなかったが,左臀部の注射時に今まで経験がない疼痛があった.逆血はなく,抜針後に少量の流血があり,皮下出血を認めた.周囲に軽度の発赤を伴っていた.軽快しないため,1週間後に当科を紹介された.紹介時同部には黒色痂皮が付着しており,潰瘍を形成していた.フルベストラントの筋肉注射による皮膚潰瘍と考えた.上皮化には約4か月を要した.自験例では筋注時に皮下への薬液漏れがあったことと,臨床像で皮下出血を伴っていたことから注射時に血管損傷や血腫形成が生じたため,潰瘍を形成したのではないかと推察した.フルベストラントは潰瘍形成の報告例がほとんどない薬剤であるが,誤って皮下に投与すると潰瘍化する可能性があり,筋注は慎重に行うべきである.

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の加療中に皮下結節として認められた男性乳癌の1例

著者: 笠ゆりな ,   岩橋ゆりこ ,   大草健弘 ,   金澤あずさ ,   宇野裕和 ,   中田土起丈

ページ範囲:P.1007 - P.1011

要約 74歳,男性.完全寛解したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の経過観察中であった.皮膚科初診1年前に左胸部に皮下結節が出現し徐々に増大した.左乳輪下に径30mmの下床との可動性が良好な皮下結節を触知した.CTでは被膜に包まれた低信号域の境界明瞭な結節を認めた.4か月後に擦過時に疼痛を自覚するようになり,6か月後に摘出した.組織学的に皮下脂肪織に線維性の壁を有する囊胞性病変が存在し,囊胞内の一部では腺房様配列を示す腫瘍細胞の乳頭状ないしは結節状増殖が認められた.周囲には乳管様腺管を認めた.腫瘍細胞はp53陰性で,CK5/6,CK14陽性細胞は少数であったが,ER,PgR染色では90%が陽性を呈した.以上の所見より非浸潤性乳管癌の一亜型である囊胞内乳頭癌と診断した.乳癌は男女差が顕著であり,男性患者では積極的に鑑別に挙がりにくい疾患であるが,乳輪下に生じた結節に対しては念頭に置く必要がある.

治療

認知症高齢者グループホーム入所者における疥癬集団発生例—ステロイド外用薬を投与したため再燃した患者が感染源となった事例

著者: 伊藤算昭 ,   谷口裕子 ,   松尾典子 ,   大滝倫子 ,   廣瀬至

ページ範囲:P.1012 - P.1018

要約 認知症高齢者グループホームにおいて角化型疥癬5名(1名は他院で診断・治療後死亡),通常疥癬9名が発症した事例を経験した.感染源と思われる角化型疥癬患者は膜性腎炎のためステロイド5mgを内服中で,1年前に近医で疥癬と診断され,疥癬治療の1か月後より湿疹の診断で全身にステロイドを外用していた.疥癬患者13名の治療としては,角化型疥癬ではイベルメクチン内服あるいはフェノトリン外用を合計4〜6回実施した.通常疥癬では3例は2回で治癒したが,6例は3〜6回の投与が必要であった.通常疥癬で5〜6回投与した患者は,疥癬トンネルの多い症例(通常疥癬の重症型),認知症のため診察・外用を拒否する患者であった.治療期間の短縮のため,症例によっては内服・外用の併用,疥癬トンネル多発部位へのフェノトリンの連日塗布を考慮したほうが良い場合もあると思われた.

マイオピニオン

疥癬と私—イベルメクチンとマゾッティ反応

著者: 和田康夫

ページ範囲:P.940 - P.941

1.はじめに
 疥癬を飼ってみてわかったことがある.疥癬には免疫ができることである.以前,大滝倫子先生から,疥癬には免疫ができることを聞いていた.「私はノルウェー疥癬の人を素手で触ってもうつりませんのよ」と涼しい顔で得意げに言われていた.それを聞いたとき,私は半信半疑だった.というのも,ヒゼンダニは皮膚の角層に寄生している.人体の免疫が,そこまで察知,防衛はしないだろうと思っていたからである.けれども,自分で疥癬の寄生実験をしているうちに,ヒゼンダニが寄生しなくなってしまった.その日にヒゼンダニが皮膚に潜ったとしても,次の日までには脱落してしまうのである.脱落した部位を見ると,点状の紅斑が生じており,免疫反応が起きているのである.今は,角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の患者を,素手で触っても,疥癬がうつることはなくなった.大滝先生と同じ体質になってしまった.
 ここではヒゼンダニの飼育,水疱とヒゼンダニの関係,イベルメクチン内服後のマゾッティ反応について述べたい.

連載 Clinical Exercise・147

Q考えられる疾患は何か?

著者: 玉木毅

ページ範囲:P.937 - P.938

症例
患 者:日齢0日,女児
家族歴:父母,兄2人,そのほか血縁者を含めて特記すべきことはない.
現病歴:近医産科にて在胎40週1日,2,934gで出生.羊水混濁や前期破水はない.Apgar score 9/10で全身状態は良好だったが,四肢を中心に水疱と落屑がみられ,当院新生児集中治療室に搬送.
現 症:頭部,四肢,腋窩を中心に1cmまでの緊満性水疱と落屑性紅斑が散在していた(図1a,b).口腔粘膜,眼球結膜,頭頸心肺に明らかな異常はみられなかった.

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目次

ページ範囲:P.933 - P.933

欧文目次

ページ範囲:P.935 - P.935

文献紹介

ページ範囲:P.963 - P.963

書評

ページ範囲:P.1020 - P.1020

次号予告

ページ範囲:P.1021 - P.1021

あとがき

著者: 戸倉新樹

ページ範囲:P.1024 - P.1024

 みなさんは空港を走ったことがあるだろうか.私は何度かあるが,最近わがフライト人生で1,2を争う体験をした.9月の第3週に欧州研究皮膚科学会(ESDR)がボルドーであり,「ワインワイン」と呟きながらいそいそと出掛けた.第4週にはニューヨークというかハドソン川対岸のニュージャージーで化粧品香料の安全性に関する会議があったため,直接ボルドーからマドリードの空港を経由してジョン・F・ケネディ国際空港(JFK)に行く経路を選んだ.2週間の予期せぬ危機に対応できるように手荷物のみにし,ほぼ毎日ホテルでの洗濯を決め込んだ.さてこの大西洋横断はイベリア航空である.ボルドーの空港で搭乗券をもらう際,マドリードからJFKまでの発券をしてくれなかった.「乗り継ぎ先でもらえ」というのは時々ある.しかしこれがトラブルになることがままあることは経験してきた.乗り継ぎ時間は1時間と少ししかなく,嫌な予感がしたので,マドリード空港での発券所は簡単に見つかるか尋ねた.「イージィ」.この答えは,「自分は知らない」と同義語である.案の定,マドリードに着いたら,発券場所をたらい回しにされた.3つ目のカウンターで,中年女性が何やらゴチャゴチャとキーボードを叩いて操作した挙句,諦めて渡された搭乗券は,何と,手書きであった.搭乗口の番号さえ判別できない下手な字.「何番か?」「48」ええ!ここは7なのでほとんど端から端まで移動しなければならないではないか.時間がない.「急げ!」と言われ,キャリーバッグを転がしながら走った.搭乗口48に着くと,検問された.ハアハア息をする仏頂面の東洋人がフランスからスペインを経由してニューヨークに行くとなると,ますます怪しいと思ったらしい.「お前は米国のビザを持っているはずだ」「いやない」.「米国に住んでいるだろ」「いや,日本に帰る」.「なら米国で泊まるホテルの証拠を見せろ」.パソコンを開いて予約証を見せ,やっと信じてもらえた.と思ったら,別室に案内され.キャリーバッグを開けられ,麻薬のリトマス試験紙で検査された.這々の体で飛行機に乗り込んだが,最後の搭乗者であった.汗はなかなか引かず,シートに体を預け,しばしイベリア航空機内のCAを見つめていた.綺麗な女性でも,たまには般若に見えることを実感した.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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